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検索対象: SFマガジン 1981年12月号
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1. SFマガジン 1981年12月号

「少しつづけていれば、しんそこひととわかりあいたいと望んだ アウラはほほえんだ。 その笑いは、何となく、さびしそうで、風のように、透きとおつり、何ひとっかくさずに心をみせあったりするのが、どんなに傷つ く、イヤなことだか、わかるでしようよ、イヴ」 ていた。 とだけこたえて、また話をもとにひきもどした。 「なぜなら・ーーわたしは、レダがセクシャリスト・タワーにゆくた びに、嫉妬にさいなまれーーーしんそこよ。しんそこ嫉妬するわ、わ「そうですともーーわたしは、レダを殺したいわ。わたしが、レダ : レダに憎悪がビンク・タワーのユニットで、何をしているのか知らないとでも たしはーーーそして、レダを殺してやりたいとおもい : レダを思う ? わたしが、何も感じないだろうとでも思うの ? わたしほ を抱くから。そしてわたしはレダを愛しているからよ。 愛することは、レダをにくむこと。レダをにくむことは、レダを愛ど、レダを愛しているものはいないのよ。そして、わたしは実に嫉 すること。それが、わかって ? かわいそうな、ヴァ 1 ゴのイヴ」妬ぶかい、といわなかったかしらね ? わたしは、いろいろな意味 で先祖返りなの。たしかにそうだと思うわーーだから、わたしは、 セクシャリストや、他のだれとでも、レダを共有することなんてで 「ーーーぼくは考えてみたけど、やつばり、わかりそうもないよ」 きない。したくない。ほんとは、レダを殺すことで、レダがわたし それは、契茶室でするたぐいの話ではなかった。 ひとりのものになる、というのだったら、いつでもすぐにためらわ そこで、・ほくたちは、公共ビルの、談話ュニットをひとっとり、 そっちへ移動することにした。どちらかというと、ばくよりも、アずわたしはそうするでしようよ・ーーほんとに、そう思うわ」 「じゃあーーーこんなことまで、いってもよければーーなぜ、レダを ウラが話したがっていた。 セクシャリスト・タワーにつれてきて、レダの、そのーーーレダの用 「むりもないわ。そう、かんたんに、ましてヴァーゴで、わかるこ がすむのを、待っていたりするの ? あなたがひとりで、家にいる とじゃないもの」 ことだってよくあるじゃないの ? 」 トナーのあなた 「レダをーーー殺したいとおもうって ? レダのパ 「そうねーーーときどき、わたしも、じぶんにそうきいてみることが が ? 」 これは、ありとあらゆる、シティの会話の礼儀作法を、こつばみあるのよ、イヴ」 ・ほくは、アウラの率直さにおどろかされた。アウラは、何ひと じんにふみにじる会話だったかもしれない。 しかし、ぼくは、それがふしぎなほど、ここちよく、何かスーツ つ、かくすとか、ためらうということを、知らないのかとさえ思わ と胸がすいてゆくのを発見しておどろいた。 れた。 な。せ、かれらは、こんなふうにざっくばらんにしゃべりあうこと「ただーーわたしにわかるのは、わたしがレダをほんとうに愛して て、レダなしでは、生きてゆけない、と思っているということだ を、やめてしまったのだろう、と思う。・ほくが、そういってみるい け。ーー・そんなイヤなことでさえ、レダなしで生きるのにくらべた と、アウラはわらい

2. SFマガジン 1981年12月号

「だからーー・そんなひとを、シティで見つけるなんて、ほんとう がき出て、となりへいってしまうと・・ーー・困ったことに、レダは心の に、め 0 たにないことだ 0 たから、だからレダはあなたに心をひか底から傷ついてしまうのよ。しつぼをひつばったり、抱きしめたり 5 れたのでしようねーーでもイヴ、あなたは磁カ線やイヌや草花じゃしたので、ファンがう 0 とうしがったのを、あいてに自分の愛情を ない。だから、レダには、ものをうけいれるやりかたは、たったひ拒まれたとおもってしまうのねーーそれよりさきに、どうしてファ とっしかないんだ、ということを、あなたの方がわかってくれなくンがよそのへやヘゆきたがるのか、イヌにはイヌの都合というもの てはどうにもならないわ。 があるんだということが、どうしてもレダには理解できないのよ。 それは、肌でたしかめること。 そうね、市民たちが、いちば これは、悲しいことだわーーわたしのすべての愛をもってして んきらいで、おそれていること、考えただけでもふるえあが 0 てしも、レダにたったそれだけを・ : ・ : わたしが出かけるのは、レダをう まうようなことね。肌と肌をすりあわせることーーーふれあい。レダとましいからじゃなくて、コミッティーにロフトをかりる期間延長 はそれに、飢えてるのよ いくら、みたしてやっても、肌のふれの手つづきをしにゆくためだ、というだけのことさえ教えることが あっているあいだだけ、それがなくなれば、またレダはひとりになできないなんて。 る。 そして、そのレ でもそれがレダなのだ、とわたしたちは思い おお、イヴーーーレダには、ほんとうになにかとかかわりをもったダをうけいれ、愛してきたの。守り、抱きしめ : めには、じぶんから、はたらきかけるほかはないんだ、というこん だからこそ、イヴ、あなたにはびつくりさせられたわ。わたしは な単純なことがどうしてもわからないのよ。だから、レダは、、 しつ一度だって、レダが、誰かにすすんで興味をもっとは、考えたこと でもふるえている。いつでもおちつかない いつでも、もっと、 もなかったもの。 もっと、もっと、と全身でさけんでいる。そうして、他のものと比おお、だから、わたしは心配なのよー・ー心配なのよ。あなたは、 べものにならないくらい、つよい同情をもっているファンにさえ、 あんまり、若すぎるわ : : : あなたは未経験で、セックスの意味も知 ほほをすりよせ、毛皮をさすっているあいだはーーーそう、ふれあい らなくて、ひととふれあおうとのそんだことも、まだその必要を痛 何ひとっ問題はないけれども、ファンがかれじしんの都合で立感したことさえ、これまではまだなかったはずよーーーあなたは何も ってとなりのへやヘゅこうとすると、怒ってぎゅっとファンのしつ知らない。 レダを、まだ、うけとめることも、支えることも、包む 。ほをひつばるでしようよ : : : それでもゆこうとすれば、上からぎゅこともできない たぶん、レダを、正しいやりかたで愛すること うっと抱きしめる。ファンが迷惑そうにうなるのなど、おかまいなさえもね。 しょーーあなたは、レダがそうしているのを、何回もみたことがあ おお、これが嫉妬だけだとはとても思えないわーーレダはもろい るでしよう。 のよ。信じられぬほどもろく、そしてわたしには二つとなく大切な そして、それでもなお、ファンがいやがって、レダの抱擁からものよ。そのレダが、あなたに恋をしてーーーあなたもレダに恋をして

3. SFマガジン 1981年12月号

・ほくは、レダをつきとばしたまではよかったが、そのままそれで ・ほくが自由になったとき、女のからだは、ぶんとうしろの、室の 中にしきつめたクッションの上へふっとんで、たおれこんだ。そし力がっきてしまってそこにしっと立ちすくんでいた。あえてそのま て、甲高い、狂ったような、耳ざわりなわらい声をほとばしらせまかけ出すほどの力がわいて来なかったのだ。 プライのその、たくましくて繩のように筋肉のよじれている、黒 光りするからだっきをみていると、何となく、ふっと自分のからた 「なああによ : ・ : こ から、カがぬけていってしまうような気がする。 甲高い声が叫んだ。 レダの目が、荒々しい悪意と嘲弄をこめてきらめいた。 「餓鬼ーーーせつかく抱いてやろうってのに、そんなにおしのけたり 「そうよ、こんな小僧、かまったって少しも , ーー・おもしろくも何と ・ : あんたなんか、なんにも知らないくせに すること、ないでしょ : あれ 0 てそりゃあいいんだからーーあたしは、すごくいいんだも、ありやしないわ」 彼女は云った。 から : : : ねえ、そうでしょーーーそうよねえ、・フライ・ダーリン 「どうせからかったって、泣き声をあげて指導員のところへ逃げこ そうだって云ってよ。この小僧に、教えてやって」 んでゆくだけ。自分が何をしてるかも、わからなけりや、生きてる 「レダ。お前さんは、酔ってるよ」 なんてどんなことかさえ、知っちゃいないのよ。ーー・大体、生まれ 「なあに云ってんのよ」 てこのかた、生きてたことなんて、ありもしないのよ ! みんなそ レダは反抗的に叫んだ。 、、ツ、市民 ! がまんがならない うよ、あいつらはみんなそうよ / 「楽しくやってるとこじゃないーー大体この子ったら、いつだって そりやしかつめらしいんだから、おもしろくない 0 ちゃありやしなわ。あの羊どものおとなしけな面つき ! よくもまあ、こんなふう にうそでぬりかためて、ロポットみたいに生きてゆけるものね。ハ : ほうら、見て、こ 。少しは、あそびを教えてやるといいのよ : のくそまじめな顔 ! 模範市民だわ。フラスコの中から、出て来も したたるような毒と悪意をこめて彼女は叫んだ。 しないのよ」 「ばかな何も知らない小僧め。なんで、こんなところをうろちょろ 「さあ、さあ、レダ。子どもをからかうのはやめな。せつかく、こ するの ? あんたのくるところじゃないよーー・あんたなんか、フラ うして、会うことができたんだから」 さあ、とっとと、おかえ スペースマンというのは、みんな、こんなふうに、ひとことひとスコの中が似合いだよー いっちまえ、何もできない役立たず、人にほれるなんて、どう こと、身うごきのひとつひとつまで、ずっしりとこちらを圧しつけり、 いうことかさえ知らないくせに。あんたってこのシティとそっくり てくる精気のあるものだろうか ? プライ船長が立ちあがり、近づいてくると、むうッと何かしらつだわよ。白くて、ご清潔なんだ。あたしのアウラの方が、どれだけ協 かあたしを満足させてくれるーーーさあ、シッ ! お行きよ。行っち よい動物的な匂いが鼻をさした。

4. SFマガジン 1981年12月号

だったからナア。まさかこんなに妻えもんだとは思わなかったヨおれのほうちゃ何もかもぶつ壊れたうえに気閘ぐちが潰れちゃって るヨ。鉱山の落盤みたいに生埋めだ ! 』 『命のほうは無事らしいが、船はこっちも同様だ』 『鎔けたんだョ』 とスクレニ。 私もそこらちゅうで燻ぶったり歪んだりしている船内を取片付け 『こっちも同じだ " おめえだけじゃねえーーー互いに ながら答えました。『地球じや船はこんな所をどうやって出人りし違うがわにあった出入り口が鼻つき合しているところをやられたか ら一トたまりもねえ。地球の大気ときた日にや隕石だって燃え滓に てるんだ。「凄え」って、一たい何がだ』 なっちまうんだ。中で生きてるだけ船体が保ってたのがまだしも 『大気だョ。うつかりしてたのは俺のへまだ』 スクレニが自嘲するふうに言いました。『おめえが早く来たのが ごしらへ 『ちっとも「まだしも」ちゃねえそ ! 』 悪いんだゼ。おれだって予定どおり月へ下工作に立寄ってたら、こ の事ぐらい頭へはいってたんだ。外惑仕立のまんまで飛込んだこっ話しているうちに私は大へんな事に気がついて大声をはりあげま した。『スクレニ ! 何とか方法考えろ ! おれのほうちやプラズ ちが間抜なのさ』 という訳なのです。我と外惑星界の船は、大気のない、あってもマが沸出したうえに空気が逃げてる ! 」 『それもおめえが悪いんだ』 地球に較べりや無いにひとしい世界で活動しているので、それとの と奴さんはたんだん諦らめだしたらしい様子で、私とはんたいに 摩擦熱にたいする手配は構じてありません。、隕石や宇宙塵にたいし ては部分的に、多く前面に被覆がありますが、それも目ぼしい物は落付いて答えました。『まるでニヤミスみてえにスッ飛ばしてきて レーザーで排除しますから、船体は熱をうければ無抵抗に熱並びやがったろう。同じ方向へ飛んでたって衝突は衝突だ。外惑船 やは くなり、燃えれば火はどんどん隙間から入ってきますーーースクレニの外側なんざア柔なもんだからナ、方々割れたんだーーーそれが溶け 先生、宇宙兵のくせにそれを忘れていたのを人のせいにしているのてくっ付いても空気さまにや大出口の隙ま瑕になってるんだ。二隻 ところ です。 がひとっ玉に塊まった訳じゃねえからナーーーマアくっ付いた個所を 『見ろやい、クッ付いちまったそ ! 』 なんとか穿孔してこっちから送ってやれるようにしてみるがナ、そ と奴さんはそれまでの権幕はどこへやら、まるで素人の私を頼りれまで罅割れを一つ一つさがして。フラスト吹付けてろ。まづ元気閘 にするような口調で溢しました。『これやケルベルスの雪嵐より始ロのへんを叩け " とにかくどこでクッ付いてるかを知らなきや。へ 末に負えねえぜ。切離すったってこの宙間ちやどうにもならねえしたに外へ穿孔しちゃったら一コロだもんナ』 ナア』 『原子炉が壊れちゃってるのはどうなんだ ? 毒ちゃねえのか ? このガスは』 『もっとひでえ事になってらア』 『猛毒だとも ! おまけに放射能のかたまりと来てる。状態はこち 私も情ない声を出して。、『切離すにや外へ出なきやだめだろう。 かす クラウス 6

5. SFマガジン 1981年12月号

クの出しつこをしようじゃないか。そちらからお先にどうそ」 りかえると、ないしよめかしていいました。「これにはおなかがよ 「わしやジョークなんか知らん」掃除機がいいました。 じれるわよ、ほんと」 「ジョークならまかせてくれ」ラジオが助け舟を出しました。「き ハロルドが雪と三びきのリスの話をはじめると、電気器具たちは みたちはひょっとしてポーランド系じゃないだろうね ? 」 どうも感心できないというように、おたがいに顔を見合わせまし リスの夫婦はかぶりを振りました。 た。ェッチなジョークが気に入らない ( 特に掃除機がそうです ) だ 「よかった。じゃ、聞くがねーー・な。せ。ホーランド人は、三人がかりけでなくて、そういうジョークにはさつばり笑えないからです。男 で電球をはめるのか ? 」 女の性別と、そこからくる複雑ないろいろの問題というのは、電気 ョリーはオチを期待してクックッと笑いました。「わかん器具たちの生活には関係のないことですから。 ないわーーどうして ? 」 ハロルドはジョークを話しおわり、マージョリーは忠実に笑い声 「ひとりが電球を押えて、あとのふたりが下で脚立をぐるぐる回すを上げましたが、電気器具のほうは、たれもニコリともしません。 からさ」 「そうかい」 ハロルドはむかっ腹でいいました。「じゃ、まあ、う リスの夫婦はポカンとして、おたがいに顔を見合わせました。 ちのオークの下で、ゆっくりおやすみよ」 「説明してくれよ」 . ノトカいいました。「どっちが男で、どっ そういうと、大きなふさふさした尻尾をさっと一振りして、リス ちが女なんたい ? 」 の夫婦はオークの幹を駆けのぼり、姿を消してしまいました。 「それは関係なし。三人ともすごくまぬけだっていうことさ。ポー ランド・ジョークの趣向はそれにつきるんだよ。ポーランド人はお真夜中に、トースターは恐ろしい悪夢から目がさめました。夢の そろしくまぬけなので、なにをやってもうまくいかない 、という仮中では、もうすこしで水を張った浴槽にはまりかけたのですが、目 定に立っている。もちろん、ポーランド人にとっては迷惑な話さ。 がさめてみると、それにおとらす恐ろしい立場に自分が置かれてい ほかのみんなとおなじように頭がいいのにね。でも、おもしろいジることがわかりました。雷がゴロゴロ鳴り、稲妻が。ヒカ。ヒカ光り、 ヨークだろう ? まだほかにもたくさん知ってるよ」 雨がようしゃなく打ちつけてきます。最初トースターは、ここがど 「へえ、いまのが傑作の見本ということなら、せつかくだけど、あこなのか、なせ自分がそんなところにいるのか、しばらく思い出せ とのはごえんりよ申し上げますわ」マージョリー・ 力いいました。 ませんでした。やっと思い出して、たいへんなことに気がっきまし 「ハロルド、話してあげなさいよ、このひとに た。ほんとうなら頭の上で大きくひろがって、みんなの屋根代りに 「ものだよ」ラジオが訂正しました。「われわれはみんなものなんだ」なってくれているはずの電気毛布が、どこにもいません ! では、 ・「このひとたちに」とマージョリーは委細かまわずつづけました。 ほかのみんなは ? ありがたいことに、ほかのみんなはまだそこに 「雪と三びきのリスの話をしてあげてよ」彼女は卓上スタンドをふいましたが、たれもが見るからに不安そうでした。 234

6. SFマガジン 1981年12月号

「どうもご親切に」毛布はいいました。「もちろん、助けてもらつるマージョリー・、 力いいました。「いま、よく見てみたけど、このひ たご恩は忘れませんよ。でも、やつばりもうでかけなくちゃいけなとのひげはまちがいなく女性のひげだし、前歯だってそうだわ」 いんです。ほんとうに」 「こんなにはっきりしている問題で、きみと議論する気はないね、 マージ、ヨリ マ 1 ジョリーはあきらめのため息をつきました。 ー。男は男さ。彼が男だってことは一目でわかる ! 」 「じゃ、とにかく、あなたの毛皮がうんとあったまるように、あの とっぜんトースターは気がっきました。なぜこのリスの夫婦がー 黒いものの中へ尻尾をつつこんでいてちょうたい。でかける時間が ーそして、きのうのヒナギクもですがーーそれそれ妙な思いちがい くるまで。ほかほかして、とても気持がいいわ。ねえ、あなた ? 」をするようになったのか ? それは、トースターの横に映るめいめ 「うん」ハロルドはどんぐりの殻を割るのに夢中でした。「とても いの姿を見たからなのです ! この森の中には、浴室の鏡などどこ しい気持たよ」 を探してもないので、だれもが反射像のことを知らないのですー トースターは彼らの思いちがいを訂正しようかとも思いましたが、 掃除機は思い切って、穏やかに抗議をしてみました。トースター と毛布がこんなふうにせっせと働いては、バッテリーの電力がむたそんなことをしてなんになるでしよう ? むこうは気を悪くして帰 っていくにきまっています。人間やリスがいつも理性的だと期待す になってしまうのではないかと、心配だったからです。しかし、こ こはやつばりリスたちの注文に応じるよりしかたがないじゃありまるほうが、そもそもむりなのです。電気器具はちがいますーー、電気 せんか ! それに、恩返しということを離れても、自分たちがだれ器具は理性的でなければなりません。そんなふうに作られているの ですから。 かの役に立てるとわかって、とてもいい気分なのです。トースター トースターはハロルドに、これは秘密だからだれにもいわないで は、もしそうできるなら、一日じゅうでも喜んでどんぐりを焼きっ くれと前おきして、実は彼の思ったとおり、自分は男なのだと打ち づけたでしようし、リスの夫婦もそうしてもらいたがっているよう 明けました。そしてマージョリーには、おなじように口止めをした でした。 「ふしぎだねえ」とハロルドが、 トースターの側面を ( いまでは窓あとで、女であることを打ち明けました。この夫婦がめいめいの約 ガラスの外側のように、雨だれの跡がみすぼらしい縞を作っていま束を守ってくれることが、トースターの願いでした。でないと、ま したが ) さすりながら、満足そうにいいました。「きみがセックスた議論が持ちあがって、長い長いあいだつづくことになるでしょ がないなんて言いはるのは、ふしぎでしようがないよ。どう見たつう。 て、きみは男性なのになあ」ハロルドは、まだらになったクロムめ ダイアルを〈高温〉にまわしたので、まもなく毛布はすっかり乾 つきのプレ 1 トに映る自分の顔を、しげしげと眺めました。「ぎみき、最後のどんぐりが焼きあがったところで、電気器具たちはハロ には男のひげと男の前歯が、ちゃんとあるじゃないか」 ルドとマージョリーにお別れをいって、ふたたび旅をつづけまし 「なにいってんのよ、あなた」トースターの反対側に寝そべってい こ 0 238

7. SFマガジン 1981年12月号

ーティは、どんなひとでも、男だろうと、女だろうと、決 ぼくは、怯えてあとずさりした。それをみて、スペースマンが、 して拒んだりいたしませえん : : : 来るものは拒まずよ。《おじい》 おかま 大きな声でわらいだした。まるで、おもしろがってるみたいに、い だってデージイだって、誰でもいい思いをさせてあげる。だああっ や、たしかに、彼はおもしろがっていたのだ。 てーー・あたしはデイソーダーなああんだものオ : オージイ 「私たちの乱交パーテイへようこそ」 ・ほくは、何だか、ほんとうにおそろしくなりはじめていた。 わざとらしく、裸のまま、両手を昔ふうにのばす礼をして、レダ ここにいる、この、あやしげなまわらぬ舌で、シティではついそ が云い、甲高くわらい出して、スペースマンによりそった。なんてきいたこともないようなことばを吐きちらす、赤い目をした怪物 ことをー は、・ほくの見知らぬ生物だった。むろん、・ほくの知っているレダで もなかった。 ・ほくは吃った。 これは、何か、そっとするような、わけのわからぬ、ぬめぬめと 「ぼくは、かえるよ」 した怪物だ。 「ああら、どうしてよ、イヴ ! 」 ・ほくはもう、何ひとついう気にさえなれずに、あとずさり、その レダは、どうしてしまったのたろう ? あの、とろんとした目つままそこをとび出そうとした。 き、あの、妙に、ろれつのまわらないしゃべりかた、そして、おそ とたんに、銀色の蛇がすごい勢いでうごいた。 ろしくやせているくせに、妙になまなましく肉めいた、妙なーー何「行っちゃ駄目 ! 」 といっていいかなど、この・ほくにわかるものかーーー感じ、レダはー ; 、・ほくの手と首 やわらかくて、冷たい、 ーレダはきっと、ドラッグに来てしまってるのだ。 に、まとわりついた。 ぼくはそっと身ぶるいした。 ・ほくはあっと叫んだ。ーーー大のファンは別として、フラスコから 「あら、どうしてよーーあたしたちは、ヴァーゴを仲間はずれにす出てきて以来、ひとにこんなふうにびったりと抱きっかれたことな るほど、そんなに心のせまい人間じゃないわよ : : : あたしたちは、 ど、一度もなかった。 市民しゃないんだからーーハツー ご立派な市民、いつも優等生の 思わず身をひこうとしたが女ははなさなかった。つよい力が、・ほ インポどもとはちがうんだから。この、あたしの彼氏をみてごらんくを縛りつけてでもいるようにからみつき、そのロが・ほくのロをさ よ。これが、ねえあんた、これがほんとの男ってものよーー彼は生がして這いの・ほってきた。 まれてこのかた、いちどだって、ホルモン・ビルなんて、必要とし恐しかった。 たことがないのよ いつだって、彼は、できるんだから : ・ほ反射的に、・ほくは、あいてを力いつばいっきとばしていた。 ら、なんてすごいじゃない そしてあたしたちは、レダ姫のオー 意外にすんなりと、あいてのからだがはなれ ぐにやりとしたものカ オールマン

8. SFマガジン 1981年12月号

ねばならないのよ。それを知ったときーーーはじめてわたしは、何も覚えているのは、昏く熱つばかったアウラの眼、その快い、ひく かもがこれでよかったのだ、とシティの理念のように云えるでしょ うよ ) ぼくは、どうすればいいんです、アウラ ? ) ( では ( 何もーー何にも、イヴ ! ) 2 ( だって : : : ) ( あなたは、あなたである以外のことはできないし、それよりもよ ヴィジフォーンの、呼び出しプザーが鳴っていた。 いことはできない と、わたしは思うわ ) あわてて、ねころがって物思いにふけっていたべッドからとびお ( でも ) りながら、ばくは、奇妙な気分だった。 ( 何がいちばんよいか、どうすべきかなんて、ことレダにからむか ( ぼくは、レダをーー《好き》なのだろうか ) ぎり、まるつきりないのと同じよ。レダには、ものごとの、あるべ ( そしてレダい、ばくを ) き姿などというものはないんだからー いつだって、レダは、きょ これが好きという感情なのだろうか だとしたらそれはたぶう着るトーガを、青と赤、二つ並べてビンでさして決めているわ : ん、・ほくにはまだよくわからないのだ。 : ・彼女はほんとうは、何ひとっ決めたくもなければ、決められたく レダのほうは レダの方のことについては、これはもう、・ほくもないのよ。もし、他の人びとさえいなければ、わたしはいつだっ が考えたところでしかたがない。 て、ぞんぶんにレダのいいようにしてあげられるのだけれどね ) 別れぎわに、アウラは・ほくの目をじっと見つめた。その目には、 アウラのいったことについても大半はそうだ。・ほくが考えたとこ ろで、どうしようもない、わかるすべもないことばかりで、・ほく何かひどく、ふしぎな光が宿っていた。 は、アウラのいっていることが、半分もわかりはしなかった。 「はやく、大人になって、イヴ」 むろん、とてもよくわかるように思えたときもあったが、次の瞬彼女は低い声でいった。 間、またさつばり、わけがわからなくなってゆき、何か、ネオ・モ 「成人に ? 」 ダニズム派の詠唱をきいているような、・ほんやりした心地よさ、そ 「そうじゃないのよ。 : やはり、スペ わたし、、心配なの。・ してうっとりとした気分にひきこまれてゆき スマンはスペースマンだわ。かれらはまるつきり異質な人びとよ。 全体として、セクシャリスト・タワーにいってからあとのことご レダには、それさえもわからないのだけれど。そして、かれらがそ とが、みな、まるでふかい夢の中のように、・ほうっとして、ぐるぐ うでなかったとしたところでさえ : るとまわっているように、脈絡もなく切れぎれに頭の中を漂ってい 要するに、エーリアンと交わるのは、わたしたちのようなまった くの、最悪の、ス。へシャルマークのデイソーダーにとってさえ、 こ 0 アダルト 0

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、異境の地で暮すとな 不便は感じるはず。 ましてや、 妖精の子が人間界で すという状兄を相 5 、し ”てみると : 権ーに関 ハンガリー人の両親から生まれた介な問 」蠍代妖精譚『妖精たちの王国』 ( 月宏 、英 物「刹ペン社 ) に収められた、『一人口天のだが、赤んぼうのうちに「取りした法なで ) ともう一人』だろうと思う。妖精替えられ」てしま 0 たという。ロ国の法偉大口 の国に連れてこられた人間の子 ンドンにお目みえしたのは九歳の「外見・に、ない供 は、その愛らしさのおかげで、高・ ・ . ・ , ~ ときのことで、背の高さはわずかは、父 冖産相継、権、一ま , 決めてたの 】五十センチ。脚も腕もとても小さ利をも - い .. 第、貴な妖第の貴婦人のなぐさみもの・ おやゅび . 、となるけれど、いやになるほど長・ 【くて、成人の拇指と同じぐらいのは、有名ら、こに生 ム児 , 頭の 命な妖精族にくらべて、悲しいか . ・・ 大きさしかなく、その顔も成人のまれてく な人間の子は、あまりに早く老け ・てのひら程度の大きさだった。人間の場今 一と現る か二人とる . 、律上の大題、イ を ス . 教国 命に限界があるのは赤い血のせい 美女と野獣』より は、洗礼 だ。妖精の緑色の血は、それゆえ . の頭で に尊い。人間界に置き去りにされ・ 1 般に た本物の妖精の子は、だから、故・ 頭は二 えれ置な ていた。世どリで、 郷に戻るために緑色の血を追いも 頭の人間人殺・し、それ ″チェンジリングといえば、 とめる。そんなある夜、かれは、 を裁くとい、前代未聞 わゆる取り替え子のことで、ふつ妖精界に近い安旅籠で、「妖精界、 行なわれたとが・あらたけ から来た」とつぶやく死にぞこな】 うはみにくいすがたをした赤ん・ほ うのことを指す。別名を″妖精の いの男を解剖しようとする。それ そのときの、決は次のなであ 9 子というのは、母親がすきを見が、自分の身代わりに妖精界へ連 せているあいだに寝間まではいつれていかれた人間だとも知らず し、被告 0 体に。もう一人 0 し血がべッドを染 . ・′ てきた妖精や鬼たちが、人間のオに。 人物はあきらかに鉢件と無関係 であるから、法によるといえども ん・ほうをさらっていく代・に 、、れはつぶやく 精じゃない ! 」 を残して 自分たちのみにくい 「太陽に透かせば、体の中身が見この人物に苦痛を及・ほすことはで える。何もしゃべらないが、気がきない。よって、被告は無期限に で、厄介なのは、こうい おくところから来している。っ まり、″チエジリン 〃チェンジリングが現実に存・ ・向くとネコみたいに鳴く。歯はな刑の執行を延期される」 日本の現行刑法や民法をザッと いが、こんなに飢えた子は世界中 在するという事実である。たとえ けんたんか ざっ年された にいない。英国随一の健啖家も青見わたしたところ、取り替え子に ば、一六八〇年にロンドンにやっ たぢなのであ必 、・翕叭ング。を描い その″ てきた「妖精の子」は、ウエスト・ くなるほど大食らいだ」と、宣伝っいての規定はなにもないよう ビラには書いてある。 だ。十七世紀のパリのような事件 た物のかで、おそらく抜群に ・スミスフィールドにある見世物・回 10 ところで、これら妖精界から連が起きたら、どう判決を出すつも できているのは、シルヴィア 小屋の人気者となった。当時の宣 第れてこられた子供たちにとって厄りだろう ? ・タウンゼンド・ウォーナーの現伝ビラによれば、この妖精の子は FölRY Anatomy , ・こっこ。

10. SFマガジン 1981年12月号

だのに、あなたは・ーーおおイヴ、わたし、何もかも、あなたに教べき存在だといえるわーーーむろん、それそれちがった意味でだけれ えてあげたいくらいだわ。あなたは、一体、この世の中を、どんなども。あなたたちは、自分自身と世界とがどこで区切られているの 5 ふうに見てるの ? あなたのそのクイアの眼には、世の中やレダやかを知るためだけにさいしょの十年を、それから他人は他人なのだ このわたしは、 いったいどんなふうにうつっているの ? どうしということを知るためにつぎの十年を、それだけでついやしてしま て、誰も、あなたに、目をひらいてものをみることを、教えてやらうのね。そして、自分が自分であることについて考えるのは、たぶ ん死んでしまったあとかもしれない。 ないのかしらね ? それだから、わたしはレダがわたしをうらぎっているのがどんな ねえ、イヴ : : : こんなふうにいわれて、怒ったかしら ? ) レダの というのは、・ほくは、どうしてだか、あなたには何に苦痛でも、レダをせめる気にはなれないのかもしれない。 をいわれても怒る気にならないし、おまけに、・ほくはいま、ほんとような人間にとって、セックスがあんなに重要だというのは、それ が、《自分》のワクをはっきり知らせてくれることだからなのだ、 うにじぶんがどこにいて、何をみて、何を考えているのか、わけが わからなくなりかけているんですーーーほとんど、何もかも、夢の中とわたしは考えるようになったわ。 それもむろん、ドラッグのたすけをかりてはいけないわ : : : 性ホ みたいで、何をどう思ったらいいのかさえわからなくなって : : : む ルモンをうってするセックスは、レダには、たんに眠りぐすりをの しろ、・ほくは、なぜこれまで、じぶんがこんなに何も見ていなかっ めば眠くなり、精神昻揚剤をうてば心がたかぶる、それと同様の、 たのかと、ふしぎで : ・ : ・ ) ( そうーーーでは、さなぎは、目ざめるときをむかえているというわ薬物的な作用にしかおもえないでしようよ。それと、ほんとうのセ けね。なら、外側から、こっこっとつついて、手助けをしてやってックス、それはレダにとっては、まったくちがうものなの も、わるいことはないというわけなのだわ。 とはいえレダは、精神的には、母親がことばを話さぬので、おし ねえ、わたしはね、イヴ。もとから、ひとよりもずいぶん大人っのまま大きくなってしまった幼児のようなものなのでね。レダは、 をいほうだといわれつづけたし、指導員もはじめからわたしにはー あいてが、たとえばわたしが性ホルモンを服用することについては ープライマリ・クラスのころから、一目おいていたわ。わたしは、何ともおもわないの。 他の子たちのように下らないふるまいをしなかったの。なぜ、とか ほんとうならば、レダのパーソナリテ これは、不幸なことよ どうして、ときかなかったし、きくかわりに、自分で考え、調べてイが正しく発達していれば、レダは彼女のあいてが彼女じしんと同 解決をつけようとしたわ。そこで、かわいげのない子、だといわれじように自然の欲望によってでなく、ドラッグによって彼女を欲す もしたけれど、でもわたしはいつも、自分ひとりで、いろいろなこるということに、不安をお・ほえたり、苛立ったり、居心地をわるく とに決着をつけたかったの。 感じたりするはずだと思うわ。ところがレダはそうでない、極端な そういうわたしにとっては、あなたもレダも、とにかくおどろく ことをいえば、あいてが、誰でもかまわない。わたしでも、・フライ