「いや、こんなことをしてはいられない。″光世紀世界をはやくが建てられた。 その銅像が神格化されて神社ができ、お賽銭が山のように集まっ 開拓しないことには、 0 にやられてしまう」 こうしてシオダは太陽系の付近の星々を開拓し、むらがりくる宇た。 ャタケル しかし、祀られたシオダはな・せか落ち着かなかった。まだまだや 宙人たちと宇宙戦艦で宇宙戦を演じた。 あるときは透明人間になり、あるときは怪カ無双の巨人になつりのこしたことがあるような気がするのだ。 シオダはそっと神殿をぬけだし、ミニミニのお茶漬けを食 シオダの支配する宙域はぐんぐん拡がり、またたくまに銀河系宇した。 幻覚の初期症状がはじまり、いままでのことがくりかえされた。 宙はわがものとなった。 しかしそのシオダも、いささか疲れてきた。 「いや、こんなことをしてはいられない」 「わたしはもうこの宇宙の栄華をきわめつくした。そろそろ引退し シオダは / ーベル賞をもらいながら、はたまた宇宙人と戦いなが たいものだ : : : 」 らあせりの気持ちを覚えはじめた。 局囲は泣いてとめたが、シオダの決意はかたく、アンドロメダ域「わたしは何か目的をもっていたはずだ。それを達するには、宙を に引退し、そこの八〇〇畳の豪室八〇〇室を書庫に改造して集めに駆け、時を走りぬけねばならぬ。そうだ、それにはミニミニ 集めたの古本を並べ、インデックスを編集したり宇宙百科だ ! 」 事典を執筆したりして時をすごした。 シオダはまたもミニミニを食べた。大量に食べた。 それがまた宇宙中の人びとにほめられ、数かぎりない星雲賞を贈シオダの身体は時を超え、空間を超えた。 耳もとで、かすかに錆々声がした。 られ、それらの賞をしまうためにもうひとつお城を建てたりしてい るうちにとうとう最後のときがきた。 「わたしを称賛する声だな。しかし、どこか聞き覚えのある声だ。 「わしはもうやりたいことはやりつくした。わたしのこの的人昔の友人がわたしの功績をほめてくれているのだろう。ありがとう 生は満足以外のなにものでもなかった。ただ、死ぬまぎわにひとつよ、アール。あ、アール シオダはほっぺたをつねった。 だけ頼みがある。それは、わたしの死を悲しむあまり発狂したり、 わたしを尊敬するあまり銅像を建てたりはしないでほしいというこ 4 とだ。わたしは売名行為はきらいじやからのう」 2 シオダのこの遺言を聞いた人々は、感激のあまり多くが発狂して 狂いとなった。 お話をそのすこしあとにして さらにまた、この謙虚な遣言を記念して野田大元帥の隣りに銅像白黒マントの怪人との戦いに死力をつくし、そのあげくに黒い雨
うすぐらい霧の中で、シオダの全身が薄くなった。透明度があら 「おまえ、やつばり ! 」 「相手と同じことをやってみるーーーこれは未知惑星調査の要諦のひわれ、しだいに半透明となった。 とつだ。今回の場合、最初からミニミニが″べテルギウス半透明になりながら、シオダはしやがんだ姿勢から立ちあがっ た。 人″を踊らせており、それがわれわれの調査の障害となっている。 この障害を打破するためには、どうしてもミニミニをみずか宙に浮かんだくちびるからかすかに声がもれた。 らためしてみるほかはないように思えてきたのだ」 耳をすますと、それはスターウォーズのマーチだった。 半透明のシオダの身体が前後左右に動いた。 「シオダ、それだけは : : : 」 どうやら宇宙船を操縦しているらしい 「いや、方程式で計算してみても、答はそれだけしかなさそうなん ビュッビュッ マーチはビーム砲の擬音となり、シオダの姿勢は宇宙戦を演ずる 「しかし、呑んだあとどうなる ? どこでおれたちは再会できるん パイロットのそれとなった。 「はやくも幻覚症状があらわれたんだな : : : 」 「はじめ到着した場所には″ヒ / シオ号″が置いてある。いずれに せよあの場所にもどることになるんだ。大丈夫だ。ぼくはこれを呑ヒ / は心配げにつぶやいた。 その状態は長くはつづかなかった。 んで″実験″してみる。きみはアールと万能ジープで西へ向かって シオダの身体はじきに、完全な透明体になった。 くれたまえ」 銀色の調査スーツや下着がそこに人間の形をしたまま残された。 「ま、まってくれツ」 プラックホワイト 「肉体だけがジャンプするのかな ? 」 『シオダさん、そんなおそろしいことだけは : : : 』 ヒノは首をひねった。 しかしシオダは、ヒ / やアールの制止を無視して、が・フラックホ しかし、そのつぎの段階で、スーツや下着も半透明になった。 一 1 ル人″からもらったミニミニの包みをとりだした。 プラックホールバウダー 研究者精神が昻揚してしまって、もうとまらなくなってしまった「なるほど、肉体に入ったミニミニが皮膚を通過して衣 のだ。 服にまで浸透するわけだな : : : 」 ヒノは安心した声をだした。 「さらば、しばしの別れ : : : 」 シオダはとめに入るヒノの腕をふりはらうと、ミニミ = を『女の子に飲ませて裸にしてしまおうなんてけしからん考えはむだ なわけですねえ』 携帯食糧のお茶漬けにふりかけ、さらさらっと口に流しこんだ。 アールも安心したように言った。 「とうとう : : : 」 ところが、衣服が消えたあとの空間を見て、ヒ / はびつくりした ヒノは呆然としてシオダの身体からはなれた。 3 9
ー・可いてれほと 特撮大会委員会一緒にすごしてみませんか ? 日時五月三日夕方 ~ 四日の正午 主催中部日本同好会・ O 九州初の快挙 ! 中国アニメ「ナーザの大暴れ」上映会 日時一九八一年三月十六日 ( 日 ) 併映短篇未場所名古屋米川旅館、一泊一一食 定、午後六時四十分 ~ 八時十分、八時三十分会費五千円 定員百名 ~ 十時、一一回上映 ( 総入替制 ) ゲスト柴野拓美、深見弾、大和真也、他 場所熊本テアトルデンキ 入場料五百円 ( 前売のみ ) 前売券は熊本市ま案内書ご希望の方は、返信用切手同封の上左 るぶん書店、プレイガイドにて発売。遠方の記へ。 方は〒熊本市渡鹿一ー一七ー二五片岡雅〒繝多治見市神楽町二ー三七 若尾典正方ミュー コン・ 7 事務局 美方へ御申込み下さい 連絡 TEL0963 ( 53 ) 0612 熊本 アニメ事務局村上まで。 連絡下さい 主催熊本クラブ 連絡先〒大阪府高槻市緑町一七ー五 御希望の方は、無記名の定額小為替八百円 中川真孝協力アニドウ熊本事務局、テアトルデンキ 本作品は日本では失われつつある、ア = メ本 ( 送料共 ) を左記まで御送り下さい 来の「動く驚き」を呼び醒ますものとして好評おかげさまで、この宇宙軍スベオペ事典 アマチュア特撮連合特撮大会開催リ 特撮連合委員会では、全国の特撮関係及び、を博したものです。共に感動のタベを過しましは大好評をいただき、一時は御注文に印刷がお いっかず、一部の方への発送が大幅におくれて 関係のサークル同士の交流をはかるため、 しまいました。誠に申し訳ありませんでした。 年に一度の特撮祭として「東京特撮祭」を開催 スペース・ブオース 尚、宇宙軍では第三期会員も引き続き募集 する予定です。 星群祭開催のお知らせ しております。案内御希望の方は左記まで五十 日時一九八一年八月十四、十五の両日 第八回星群祭を左記のごとく開催します。 場所中野公会堂 日時七月一一十六日 ( 日 ) 午前十時 ~ 午後五時円切手同封の上、御送り下さい 〒躓横浜市港北区日吉本町六八七長沼伸行 企画・内容自主製作特撮映画上映 / アマチュ、場所京大会館 ア・コスチュームショウ / ファンジン即売会テーマ「 (J) 作法パート 2 」 ネオ松山 ( 仮 ) メンバー募集 ゲスト荒巻義雄、柴野拓美、堀晃、風見潤、 / 大怪獣ショウ / レンタルフィルム上映 ネオ松山 ( 仮 ) を設立したく、設立メ 尚、自主企画大歓迎 ! 合宿もあり。当日参新井素子 ( 敬称略 ) 他数氏と交渉中 ン・ハーを募ります。 加は不可。 委員長藤田敏幸 準備メン・ハーとして、積極的に活動してくれ 実行委員長永島治 尚、参加御希望の方は六十円切手同封の上、 る地元の仲間を求めています。詳細は左記へ。 実行団体特撮連合委員会 事務局まで案内状を御請求ください。 又、実行委員として他サークル及び団体を募事務局〒観京都市上京区相国寺北門前中の町〒网松山市桑原一ー一ー一〇山本郁 0 8 9 9 ( 4 6 ) 19 8 3 六七ー一〇大倉マンション一〇八号室 集。更に、 8 皿及びの特撮・作品、コ 上田美智 スチュームショウ、展示作品の参加も募集しま 社の都仙台のクラブから す。連絡、お問合せは往復ハガキもしくは切手 会員募集のお知らせ ミューコン・ 7 同封の上左記まで。 ゴ 1 ルデン・ウィークの一夜を、仲間と八一年もの年。仙台にもファン同士 〒川小平市上水南町五四一一有隣荘一 0 万 「綺譚」三号発売中 栗本薫「魔剣」伊藤典夫インタビュウ他鏡 明、伊藤昭、橋本治、竹本健治、ささやなな えらのエッセイ、評論など。表紙 a 大友克 洋。他、高野文子、さべあのま、南伸坊らの イラスト。 定価四百円 ( 送料百円 ) 申込先〒新宿区下宮比町一五番地飯田橋 ハイタウン二一八号振替番号《示 3 ー 7 , 人 8 》 カオル 2
「ゆっくりしていらして : : : 」 に道をあけた。 そしてイサドラは彼らを見た , ー・ー三人のアディアプトロン人が店イサドラはロごもりながらも、女の子に目で合図した。女の子た に入ってくるのを。 ちは、この見慣れないお客の到来に半分おびえ、半分好奇心を刺激 されながら、席にやって来た。 「まあ ! 」 女の子たちはふだんの客と同じようにお愛想を言い、冗談口をと イサドラは言い、厳しい表情でタッミを振り返った。 ばしたが、すぐにその無益さを悟った。 「タノミー・ 向こうへ行ってね ! 」 今まで酒と話に打ち興じていたホステスも客も、すっかり沈黙し アディア。フトロン人は決して笑わない。 て、その三人のアディア。フトロン人の姿に目が釘づけになってい 彼らには感情がないのだ。 る。 なぜなら、連中は機械だからだ。 タッミは不機嫌そうに、しばらくイサドラの姿を目で追っていた アディア。フトロン帝国は調停者と競合する大帝国である。 が、やがて、ふんと鼻を鳴らすと、店を出た。 その版図は銀河系の五分の一をしめる。 帝国の内部構成や政治体制は、ほとんど明らかにされていない 三人のアディアプトロン人が、いっせいに少年の後ろ姿を無表情 が、ただ、彼らの姿形がいくつかの型に分かれていることは確かに見送った。 この三人のアディア。フトロン人は、接客用の型だ。つまり大使 3 館員である。 彼らは美しい タッミが十七年前に、″秋風大通り″の片隅に捨てられているの ク戸ーンツー 人間型生物の基準からいうと格別に美しい を見つけたのは、調停者種族のジナリス cj である。 プラチナ・フロンドの髪、ぬけるように白い肌、大きな目の中の色 タッミは雪に半分うずまり、窒息しかかっていた。 は見たこともないような銀色である。 彼を救ったのは、雪からはみ出したその黄色いとうもろこしのよ 長身なうえ、身のこなしはすべるようになめらかで、ほのかな気うな髪の色だった。 品さえ感じられた。 彼女は赤ん坊に気づき、凍え死ぬ直前、タッミを裸の胸に抱い 三人は三様に、それそれのイスに腰を掛けたが、そのばらばらのた。 動作にも、どこか妙に整合性があった。身体は三つありながら、まその時ーー彼女はずいぶんあとになってから笑って彼に告げたの だがーーー赤ん坊の黄色い髪は、まるで古い羊毛の毛糸玉のような、 るで一人の意志によって動く自動人形のように。 なっかしいにおいがしたのだそうだ。 彼らは無愛想にすわっている。 マ / ′ー・ト スタイル スダイル ちっ ー 43
( 写真を見せる ) 。ああ、この娘ね。叔父がいるのは知 0 てました父という男を殺して、そいで逃げ出したんだよ、き 0 と」 ええ、まあ。 ( 知らないという者もいた ) 失踪したようなん「それならもど 0 てくるわけがない」おれは写真を出して見せた。 「フリーダって、この娘かい」 ですが。さあな、おれは見張り役じゃないぜ。 「小さな男でしたか」六番目の人間におれは訊いた。「カートライ「そうだよ。もういいだろう。管理人に訊きなよ。あたしよりよく 知っているだろうさ」 トさんは」 「おれが殺してしまったからな」チ = ーンのかかったドアからはな 「カートライトさん ? フリーダのことかい。フリーダは女だよ」 れる。「ありがとう」 と中年女。「たぶんね、女だ、見かけは。男だったのかい」 女はおれのレイガンに目を止めた。「海賊 ? 」 「いや、叔父ですよ、マイクカートライト」 ドアがびしやりと閉まる。失敬な ~ 海賊じゃない、海賊課だ。ま 「叔父さんね、そうね、たくさんいたみたいだよ」いやらしい笑 . たち あ、似たようなものだが。 「あの娘、ほれつ。ほい性質でねーーあんたもそのお相手 ? 」 おれは 222 号室にもどった。ヒミコは、自分が「ほれつぼい 「彼女、娼婦だったのか ? 」 「あたしはね、ほれ 0 ぽい娘だ、とい 0 たんだよ。フン、部屋につ娘」であることを否定はしなか 0 た。黙 0 てうつむいた。 「きみがここでなにをしていようと、おれには関係ない。きみが海 れてくる男はみんな『叔父のマイク』って名まえだ 0 たんじゃない 賊でないかぎりは」 の」 ・ : なにかわかりましたか」 「叔父のこと : ・ 「フム。で、フリーダはいつ出ていった」 「きのう帰ってきたよ。四、五日見なか 0 たけど。そうそう、叔父「いや、ぜんぜん」 を知らないか 0 て訊かれたわ。どの叔父さんかと訊き返したら、怒「くわしく知 0 てるやつは全員消されたんだろう」長椅子に丸くな っていたア。フロが顔をあげた。「粛清システムでさ。ケイマ・セル っていっちまった」 と同様、なんの痕跡もなく」 「では、本物の叔父はいなかったというのか」 「なかには一人くらい、本物がいたかも。だけどさ、それならひど「もう、聞きたくないわ」ヒミ = は訴えるようにいう、「早く出ま い叔父じゃないか、まるで紐だ。フリーダが出てい 0 たのもそのせしよう、ここから」 ″よく考えろよ、ア。フロ。セルにどれだけの友人がいたか知らん いじゃないの」 が、その友人の、そのまた知人がいるだろう、さらにその知人とい 「彼は出ていかなか 0 たわけだろう、顔を合わせたことはなかった うように、セルひとりの存在を消すには結局ここの市民全員を、さ のか」 「知らないね。ここでは他人の生活には首を突「込まないのさ。みらに全世界を、消さなければならなくなるかもしれないんだそ。 んな、脛にかすり傷くらいは負 0 てるからね。そうだ、あの娘、叔 " 「ン。ヒータならやりかねん。彼らの考え方はおれたちとは違 2
ア。 , 。、上・ O は調・〈たか ? 。 うん。二寝室の間にトイレットがある。浴室だよ。ドアに孔をあ けてのそいたが、なにもなかった″ ″浴槽は″ ″見なかった ″見るべきだったな″おれはヒミコを追った。「ちょっと待て。そ んな顔するなよ、わかってる、ただね、浴室で殺された人間は多い ってことを思い出したんだ」 階段をあがるとロビー、両側に部屋がある。一方のドアをあけ る。寝室だった。妖しい魅力のある室内装飾だ。眠るための室では なさそう。入口から少しはなれて、目立たないドアがある。開くと 洗面所。対面にドア、となりの寝室に通じるのだろう。左手に浴室 があった。そのドアはスライド型式だ。ドアハンドルに手をかけ トアの下部に小さな孔があいていた。ア。フロがレー る。開かない。。 ザーであけたものだ。そういえば、寝室のドアにもあいている。ア 。フロは猫よりは大きいから、身をうんと伸ばせばノブに手はとどく だろうが、彼のことだ、すべて自己流にやったのだろう。寝室のド アには鍵はかかっていなかったが、それにはかまわず孔をあけて通 ったんだ。 おれはレイガンを構えてドアハンドルを狙い、そしてふと気づい た。そのドアのこちら側には鍵を受けるものがないのだ。鍵穴も、 電子キーをあてる位置を示すマーカーも。玄関ドアならマーカーを だいたい浴室のドアにはそん わざとつけないのもうなずけるが なに高級な錠システムはつけないだろう。 「おかしいわね」ヒミコは首をかしげた。「鍵がかかっているの ? 中にだれかいるのかしら」 おれはそっとした。このドアの錠は内側からしか掛け外しができ ないのだ。レイガンをおさめてドアを調べる。やはりあかない。 「まさか、叔父が中に ? 」 「な・せ鍵をかける必要がある ? 」アプロがトコトコとやってきた。 ″錠をおろしたのは、アプロ、おまえか″ ″おれは中には入らなかった。開かないのか ? ″ 「叔父はぐうたらだったけど、ドアはちゃんとしめたわ。 う、閉しれば自動ロックされるの」 「簡易ロックか」 内側のハンドルを持って閉じると錠がおり、ドアを開くために ( ンドルを動かすと解除される。簡単な機構だ。しかしこの錠をおろ カカみ合うまで内側のハンドルを すにはドアがしまり、ラチェット : 、 持っていなければならない。なんらかの細工をしないかぎり外から はおりないのだ。だれがそんな細工をする ? 内側から簡単に開く のだからだれかを閉じ込めるためにそんなことをするやつはいな 。中になにかを隠すためか ? それならもっと頑丈な錠とつけか えるべきだろう。おれはハンドルをドアの開く方向にけとばした。 ハシンという音とともに錠が壊れる。ドアはスライドし、はねかえ ってきて、また閉じようとした。手で止める。 開く前に照明はついていた。ドアの前に立っと点灯するのだろ う。冷ややかな光だ。窓はない。だれもいない。簡素で飾り気がな い。さほど広くない。別の家にきたのではないかと思わせるほど、 他の部屋とつり合いのとれない、異質なかんじだ。安つ。ほいとか、 粗雑だとかいうのではなく、いうなれば規格品のユニットの印象 ミ」 0 ・ハスロー・フがむそうさにスツールにかけてあるのが目にとまっ 242
これから百五十二単位きっかり、俺は自由意志のない戦場の歯車 されてくる。 として働かなくてはならないのだ。 「 : : : 単位数が増えれば、それにつれて、手当は増額され : : : 」 「では、ポーン継フィッチ : : : すぐに、募兵所右奥のゲートへ行 「分ってる ! 説明はけっこうだ」 なおも条項を並べ立てようとする = ンビ = ーターの言葉をさえぎきたまえ。そこに待 0 ている連絡車が、君をアルギ = ーレの出撃セ り、俺は、眼前の「ンソールで点減する確認ボタンを次々に押してンター〈連れてゆく。あとは、君がご存知の通りだ」 人間を真似たユーモアのつもりなのだろう、そう言って、スクリ ーンの募兵官はにやりと笑った。 「 : : : 期間は百五十二単位 : : : 任地指定なし : : : 配属指定なし : 俺はシートから重い腰を上げ、その十二番登録ポックスのドアを 俺は許される範囲で、最も手「とり早く稼げる無指定の契約組み開く。 「ポーン継フィッチ : ・ : ・君の任地は、銀河第四十一区だ。君の戦績 合わせを選択した。 と技能から、わたしは君を上陸支援機。 ( イロットに適任と判定し、 コンビーターは、黙って、それを受け入れる。 その旨を報告しておいた。ただし、四十一区は激戦地なので、現 「契約は完了した」 またスクリーンにもど「てきた募兵官が、おごそかな口調で宣言在、どのような欠員状況なのか、全く不明である。配属決定は、前 線到着後になるから、そのつもりで : : : 」 した。 ポックスを出る俺を、募兵官の声が追ってきた。 「変更したい条項があれば、今すぐに申し出ること。タッグにこれ ( 上陸支援機か : : : ) らが記録されてしまえば、修正は不能になる」 俺の心に、微かな希望の火がともる。 「そのままで、いい : これは、かなり損耗率の高い機種ではあるが、こちらが優勢であ 俺は投げやりに答える。 「最後にもうひとっ : ・ : ・、契約期間中、君は所属部隊、ならびにホる場合には、案外と楽のできる任務だった。 ( ともかく、地上部隊に回されなければ、なんとかなる : : : ) ワイト・キング全システムに対して、絶対の忠誠を誓うか ? 」 俺はパイロットしての自信と経験から、その希望にひたすらすが 「ああ、誓う : : : 」 「よろしい、では、タッグを受け取りたまえ、ポーン継フィッチった。 俺は、壁の両側にすらりと並ぶ登録ポックスの間を抜けて、募兵 所の奥へ進んだ。 スリットから、登録票が勢いよく滑り出してきた。 こあり そこには、新米、古参、さまざまな傭兵たちが、うまい話ー 俺はそれを、また胸に吊った。 っこうとたむろしているロビーがある。 もう、後もどりは許されない。 っこ 0 9 3
一、二回ブレーキ・ロケットが咆哮すると、船体はいったん停り、 「知らない。降りたことがないからな。《城塞》の周囲は砂漠たっ それからゆっくりともどりはじめた。そのまま、わずかに右舷に変 たが」 針しつつ後退を続けた。 「ここは砂漠ではないようだ」 「ヒシカリ。おれは《城塞》の周囲しか知らない。そこは太古、海さまざまな震動が一度にわき上り、ふいに行脚を失うと、音もな だったという。海が干上って砂漠になったのだ。海を砂漠に変えてく水平に降下しはじめた。 スクリーンの中で、骨のような白い異形のものが、船体に押しつ しまったのは《城塞》を守る為の戦いの結果だったという」 「地球の他の地域がどうなっているのか、おまえは見なかったのかぶされて砕け散った。 スクリーンが消え、船体は停止した。 『着地 OE : : : 大気異常なし : : : 生物反応なし : : : 気温・ : ・ : 』 「出発する時は、そのことだけで、他のことは何も考えなかった。 コンソールのス。ヒーカーが報告をはじめた。老ドラムはスイッチ 第三衛星軌道に乗った時、はじめて地球の全貌が目に入ったほどだ を切った。 った」 二人は船橋から出た。 「老ドラムよ。今、見えている地表は、あきらかに砂漠ではない。 ハッチを開いた。 おれもこのような陸地は見たことがない。何だろう ? 」 最初、それが目に入った時、老ドラムはそれが人間かと思った。 「何だろうとは ? 」 目の前に、果しもなく続く林があった。 老ドラムははじめて、コンソールから船窓に視線を移した。 だが、その林を形作っている樹木は、幹と枝だけで、葉は一枚も 「老ドラム。見ろ」 ついていなかった。 老ドラムはコンソールを離れ、船窓に近づいた。直径二メートル ほどの円形の窓は、魚眼レンズの中に、視野三百六十度の風景を盛その幹も枝も、天白色で、半ば透き通っていた。 りこんでいた。 老ドラムは林の中へ足を踏み入れた。 ふいに高く澄んだ音がひびき、一本の枝が落下してきた。それ スクリーンに映し出されていた、視野を埋めた点刻は、今はその は、触れた枝を打ち砕き、もぎ取りながら老ドラムの足もとに転落 ひとつひとつが、はっきりとそのものの形をあきらかにしていた。 それは、すき間もなく地表を埋め、地平線のはるかかなたまでむらしてきた。 がり、ひろがっていた。 繊細なガラス細工を踏みつぶしたように、けたたましい響きが空 「老ドラム。船を降せ。あれを調べてみよう」 気を震わせた。 老ドラムは、自動操縦装置に着陸を命じた。 落下してきた枝は砕け、百千の破片を飛散させた。 老ドラムは破片のひとつをつまみ上げた。それはガラスと全く変 航法装置に新しい灯がともり、船体にわずかな慣性がかかった。 9
半分、分解しかかったルービック・キュー・フが、毛足の長いダー 「どうしたのよ ? 右の頬が赤いじゃないの、ニキビ ? 」 クグリ 1 ンの絨毯の上に、まるで熱帯の花のように散らば 0 ている。 タッミは恥ずかしそうに肩をくねらせ、 「ちがうよ、蚊がいたの」 書物机の上には書きかけの詩か小説のアイデアがごまんとある と言って照れた。 が、あれは決して実を結ぶことはないだろう。 彼が読んできかせてくれる自作の物語は、いつも最高におもしろ 「まあ、秋だっていうのに ? 殺虫剤もまかなかったの ? 」 なぜなら、最後に必ず″つづく″と言って、作者がかわいい 少年はようやく母親から離れると、複雑怪奇な電気ストしフの線 に気をつけながら居間を横切り、お茶を入れにいった。 顔でにつこり微笑むからだ。 ジナリス はソフアに腰を掛けると、疲労した手足を思う存″つづく″とは、また、なんとすてきな言葉なのだろう ! 分のばした。目の前にキングがいるのはちょっと不愉快だったが、 タッミが紅茶を三つ、運んできた。 まあ仕方があるまい、イサドラとて自分と同じくらいあの少年を愛「あら、蚊よ ! 」 クロー / ツー しているのだから。 は、足元にころがっていたスプレー式殺虫剤をひ ジナリス 「イオン嵐がひどかったようですね」 ろい上げた。 男が言った。 「だめ ! 」 少年が金切り声をあげた。 「ええ、 c.5 シートの中にいても、手足がもげそうなくらい。カヴァ タッミはお盆を乱暴に置くと、びつくりしている母親の手から、 レール・ステーションで四日も足止めをくいましたのよ」 それをもぎ取った。 「そうですか」 クーンツー そのとたん、ジナリス oN の顔に理解の表情が浮かんだ。 男は満面に笑みを浮かべながら、相槌をうつ。声の暗い調子と、 「わかっちゃった、秋の虫ね ? 家ん中に住みついてるのね ? 時 顔の表情の動きがまるでそぐわない。 ク戸ー / ツー 時は鳴くのね ? 」 会話はそれきりとぎれ、ジナリス (5 はあたりを見回した。 ク戸ーンツ ジナリスは深い満足感と共に微笑んた。 部屋は整頓されてはいなかった。 むしろ雑然としているといったほうがあたっている。しかし、そ「あんた、やさしい子だから : : : でも不潔な子じゃないもの」 クローンツー は、キッチンの床にころがっているきゅうりの輪 こには、それなりの秩序がやはり存在しているのであり、それは他ジナリス ならぬタッミという人間の臭みを感じさせるのに充分なのだった。切りに目をやり、タッミの無邪気な幼ない顔と見比べた。 ク戸ーンツー そしてジナリス 0 は痛みを覚えるほどのなっかしさに胸がしめ「タッミは生野菜が大嫌いなのにね。虫のためにわざわざ買ってき たの ? 」 つけられた。 「うん、キングさんに頼んだの。こおろぎだよ」 タッミはなんでもやりつばなしの子なのだ。
にちぐはぐな感じで、巡逡するように、動かしている。もちろん、 近寄りすぎると危険だが、こののろさでは、子供たちにだって殺ら れてしまうに違いない。だが、よくしたもので、この季節、子供た 惑星アムビヴァレンスは、調停者の口癖をまねれば、ちゃんと四ちはたいてい家でじっとしているのだーー大人たちの不穏な雰囲気 つの季節をもっている。愛情の夏、憎しみの冬、忘却の春、そしてにおびえながら。 かな 哀しみの秋。 大人たちは大人たちで、別離の涙にむせかえり、独特の哀しみで それらが、アムビヴァレンスの生理にいったいどんな影響を及ぼ胸がしめつけられる。ほろほろこ・ほれて止まぬ涙、静かだが力強い すのか、また、どうして季節がかくも彼らを変えてしまうかと、外抱擁、接吻、ほおずり、そういったことがいく度となくくり返され るのだ。 来の性差心理学者たちは首をかしげる。 今は秋だ。 アムビヴァレンスの夫婦は春から夏の間、三人一組なのである。 かな 哀しみの秋だ。 二人組主義者以外は。 しかし秋を迎えると、自然に一人が別れを告げる。 アダージョ・ツリーの太い幹から、人手のような黄色い枯れ葉が ひらひら舞い落ちてゆく。だが、このゆっくりツリーにしても、夏彼らは″第三″と呼ばれ、生殖には一切関係しない無性人間たち の盛りにはアレクロの速度で街を駆けまわっていたのだ。その巨大だ。彼らは生殖に関与しないが、もっと根本的な、夫婦の絆に必要 な人手で子供や犬を引き裂き、血まみれの肉や骨を喰らっていたのな、精神的な触媒となるらしい。 サード 一説によると、″第三″を夫婦から追い出す原因は、妻の身体に アダージョ・ツリーは、冬の間、ほんとうの樹になっているよう宿った胎児のせいだという。 どうやら、アムビヴァレンスでは″ 3 ″という数字は特別の意味 に見える。肌はごっごっと硬化し、やがてまったく動かなくなる。 サード だが、彼らは死んだわけではない。その九本の足の間からたくさをもっているらしいのだ。″第三がそのままとどまると、家族は んの吸器を伸ばし、ラフレシア・カクトプラスティス樹の茎の組織四人になってしまう。三という数を保っために、″第三″は追い払 内に侵入し、維管東に達して、栄養を掠奪しながら冬を越す。 われるのだという。 つまり、アダージョ・ツリーは冬の間だけ、街路樹に全寄生して この星に根強くある大きな宗教は、たいてい″ 3 ″を信奉するも しまうのだ。 ′ 3 ″と のである。だが、最近はその宗教のもっ統制力も弱まり、 もうじき秋も去る。 いう数字の神秘性もうすれた。 そして秋だ。 どうだろう、この怪物のアダージョ・テンボの歩みは。 かな 黒々と老人のようにふしくれだった九本の足を、のろのろと、妙哀しみの秋、別れ アージ目 サード かな や