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検索対象: SFマガジン 1981年4月号
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1. SFマガジン 1981年4月号

宇宙船は 1 G の加速をつづけたまま , 操縦 不能におちいる。速度が増すにつれ , 船内の 時間の経過はゆるやかになっていく。やが て , 宇宙の一時代の経過が , 船内では一瞬 のことに感じられるようになる。宇宙はモ ノブロックにまで収縮する。そしてビッグ ・バン。宇宙船はしだいに減速する。乗員 たちにも , 新しい宇宙の新しい惑星に落ち つける希望が湧く。読者が感じる壮大な空 間の広がりは , 物語の全体を通じて , 迫真 的に維持されている。ただし , 登場人物が ソープ・オペラにおちいる嫌いはある。 アンダースンは , 五つの短篇および中篇 でヒューゴー賞を受けており , これにはす 1964 年度の最 でに記したもののほかに 優秀短篇賞「王に対して休戦なし」 "No Truce with Kings ” ( 1963 ) と , 1 3 年度 の最優秀中篇賞「トラジェディ」 "Goat Song ” ( 1 2 ) が含まれる。長篇が候補作 にノミネートされたことは五度ある。ま た , ネビュラ賞は , やはり「トラジェディ」 ( 1972 年度最優秀中篇賞 ) を含めて二度受 賞し , 長篇は三度候補にのぼっている。ア ンダースンがまだ一度も長篇賞をとれずに いる裏には , 彼の長篇の多くが結末に近づ くにつれて先細りになる傾向があること と , 彼の言語の駆使力に比べて , その言語 を形象化する登場人物の平凡さのあいだ , なんとなく落差が感じられることが作 用しているのかもしれない。しかし , アン ダースンはいまなおきわめて実り多いキャ リアの盛りにある。この才能ゆたかな作家 が , つねにアメリカ S F 界の万年二位に甘 んじつづけるだろうと決めこむ理由は , ど こにもない。 アンダースンは , 1971 ー 2 の 1 年間 , ア メリカ S F 作家協会の会長をつとめた。 〔 J C 〕 その他の既訳作品 『折れた魔剣』 The お ro れ S “ , 0 ( 1954 ; 國 1971 ) , 259 『敵の星』 The Enemy & 0 ハ ( 1959 ) , 『た そがれの地球』 T 観方 g んⅣ (F ・ N ・ウォルドロッフ。との合作「明日の子供た ち」を含む 1947A S F 誌掲載の二中篇 ; 繦 1961 ) , 『地球人よ , 警戒せよ ! 』 & れ g 催 s ノ ro 襯ん ( 集 1961 ) , 『審判の日』 A. / だ Do 。襯記 ( 1962 ) , 『最後の障壁』 S ん ( 1963 ) , 『時の歩廊』 The C' 。の下可 T 切尾 ( 1965 ) 。『アーヴァタール』 The スて , 4 だ ( 1978 ) 。 アンドルヴォン , シャン = ピエール ANDREVON, JEAN - PIERRE ( 1937 ー フランスの作家 , アンソロジスト , イラ もと美術教師のアンドルヴ ストレーター オンは , フランスでは数少ない専業 SF 作 家の一人で , パルプ風の冒険 S F ( 現在ま でに 7 冊の長篇がある ) を書くときには , ューシュの筆名を使う。 アルフォンス・フ・リ アンドルヴォンの最初の短篇は 1986 年。そ れ以来 , 本名で発表した作品には , 70 を越 す短篇 , 三冊の短篇集ーー A 可硼 ' ん石 , 襯 4 r ( 集 1970 ) , C 4 覊 pro- イ″ / ra ん・ e 加の ( 1971 ) , 孕 da ツ五ル・ ( 集 1975 ) , ェコロジー・テーマの 04 だå r 尾 二冊のアンソロジー 1 , 2 巻 (t-] 1975 と 1977 ) , 二冊のむ らの多い長篇 - ーー / ゞん 0 襯襯お 4 訪お “厩 Ga れイ 4 ん 4 ぉ ( 1969 ) , んぞ襯カ 5 みゞ gra れイお訪の記 s ( 1973 ) , そして第三の長 篇 , ル覊れ du 川 0 れ ( 1 7 ) がある。 この第三作は , 地球最後の人間に関する暗 鬱で印象的な物語で , この使い古された主 題に新風を吹きこんでいる。熱烈な社会 的関心をもつ左翼作家であるアンドルヴォ ンは , 怒りに突き動かされたときが最高 であり , これまでのところ , ショ ノベルの長さで本領を発揮している。 〔 M J 〕 XIII

2. SFマガジン 1981年4月号

堕ちる天使さもなくば喪服を ウィリアム・ヒョーツ・ハーグ / 佐和誠訳 ラピエール & コリンス / 志摩隆訳 ′ / 、、。一哀れな浮浪児から、 往年の名歌手の行方を追 若くしてスペイン有 庫 な〕 ~ う私立探偵が踏み込んだ 数の富豪となった世 悪夢の世界とは ? 本格 コ 紀の闘牛十エル ードボイルドとオカル ルドベス。その半生 ワ を揺動くスペインの 一・ ~ ←《賞候補作。本邦初訳 カ ①定価四四〇円 歴史を背景に描くー 子定価五六〇円 ャ 当・ラピエール & コリンズ好平旡リ 近刊案内一 。、リは燃えているか ? パリ解放の真の姿を時間を 追って再現する。志摩隆訳 定価①①各四〇〇円 庫一 00 おおエルサレムー アラブ日イスラエル紛争の 源流をさぐる。村松剛訳 文 定価①①各五〇〇円 ワ カ ポケット戦艦 来 クランケ & プレネケ定価四〇〇円 出 ャ 版ラブラタ冲海戦 ・ポープ定価四四〇円 ジョーズ ビーター・ペンチリー / 平尾圭吾訳 平和な避暑地を襲う巨大な人喰い鮫ー 史上空前のベストセラー、愈々文庫化 地獄の綱渡り アリステア・マクリーン / 矢野徹訳 機密書類を奪取すべく、サーカスの綱 渡り芸人が難攻不落の研究所に挑むー ムッシュ・。、。、 。、トリック・コーヴァン / 飛鳥今日子訳 ばくのパパはサイコーさー ロマンス』に続くニュー感覚ノヴェル 7 リー・コリン災 精 S B い IÆG?

3. SFマガジン 1981年4月号

ようやく、話の通じる相手が現われたらしい さらに、その先には、公園らしいものがある。 美しい緑の芝生が、俺の混乱しきった心をわずかばかり、静めて 見ると、そこには、制服、制帽姿の警官が立っている。 いや、腰に拳銃を吊っているので、そうに違いないと思ったのくれた。 ( そうだ。ともかく、あそこでひと休みしよう。そして、対策を立 「あっ、すみません。実は、ちょっと、時間を教えてもらいたいんて直すんだ ) 俺は、そう自分に言いきかせ、痛む足を引きすりながら、通りを ですが」 渡った。 俺は自分から彼に近付きつつ、また、同じ質問を発した。 はしめから「ここは、どこですか ? 」とくのよ、、、 ーし力にも不自見回すと、地名標示のサインポードもある。 それをまず手掛りにしようと、俺はポードに近付き、刻まれてい 然な気がしたからだ。 る文字を読んだ。 ともかく今は、対話のぎつかけを捌むことが先決だった。 「わたしは、神を食べたんだよ ! 」 俺に向かって、警官は言った。 「一枚のハンカチが、はしごから落ちたんだってな。まったく、太 った楽器作りだ」 「あ、ああ : : : 」 : ワシントン・スクエア ( ワシントン ? 俺は、思わず知らず、悲鳴を洩らしそうになった。 「北極孔雀の幾何学が踊ってる ! 悲哀時計の雨やどりだ ! 」 いくら火星生まれの俺でも、その公園の名前くらいは知ってい 俺は、ためらわず、くるりと警官に背を向けた。 そして、できるかぎりの早足で、その場から離れはじめた。 そして、それは、俺の無意識が、俺にしつこく暗示し続けていた 途中で、素早く振り向いてみると、警官は不審そうに眉をしか真実と、びったり合致するものだった。 め、腰に手をあてて、俺をまだ見つめている。 この重力 : : : そして、この大気・ : ・ : ワシントン・スクエア : すべてが、たったひとつの答を要求している。 俺は慌てて、狭い路地を横に折れた。 そして、よろめきながら、走り出す。 俺は思わす目を閉じ、つばをごくりと呑み込んだ。 : ・なんて、世界なんだ : : : ) ( ここは、どこだ : そして、その答を、ロの中でつぶやいた。 俺は走り続けた。 「ここは : : ここは、地球だ・ : ・ : 」 と、また広い通りに突き当る。 ・ナカ : : ならば、どうして言葉が通じないのか。 「 ashington Square ? : : ・・まさカ

4. SFマガジン 1981年4月号

( この沼地に、キャンプしている部隊でもいたのだろうか : : : そのだ。 典型的な窒息症状で、目もまるで見えない。 テントの合わせ目が開いて光が洩れているのだろうか : : : ) 息を吸い込めば、瞬時に死が訪れる。 俺の頭は、合理的な説明を求めてあがいている。 かといって、このまま息をとめていても、結果は同じだ。 しかし、もはや、そんなことを考えていられる状態ではなかっ 俺は観念した。そして、静かに、長い時間かけて、肺にたまった 苦痛は、すでに頂点に達した。 空気を吐き出し、そして、吸った。 ここを過ぎれば、あとは避けようのない死だけが、俺の身体を満全身が、驚きの余り、激しく痙攣した。 俺は慌てて、息を吐くのも忘れ、さらに空気を吸い込んだ。 たすはすだ。そのことを、俺の本能は、 . はっきりと教えていた。 たちまち、全身に生気がもどってくる。と同時に、視力が少しず 俺は、酸素のほとんど残っていない、濁りきったヘルメット内の っ回復してきた。 空気を、思いきり吸い込んだ。 そして、目の前が暗くなる最後の一瞬、ヘルメットの着脱ノ・フを俺はなおも空気をむさぼり、それから思い出したように、それを 左にひねり、いつでもそれを脱ぎすてられるように両手で支えて、吐き出した。 ( 酸素がある : : : しかし : : : そんな : : : ) 光の中に倒れ込んだ。 もし、そこにいるのが味方であれば、なんらかの処置を施しても俺は、地面に横たわったまま、深呼吸を繰り返す。 らえる。 そうする内に、最も根源的な疑問が、ようやく俺の中で頭をもた あるいは、敵のキャンプであったなら、いさぎよくへルメットをげはじめた。 ・し子ーも・ : ここは、どこだ : : : ) 脱ぎすてて、この傭兵生活にケリをつけるだけだ。 俺は、その気持ちを反芻しながら、闇と光の閾を越えていった。 俺は涙とも汗ともっかぬものでにじむ目を幾度もしばたいた。 と、ようやく、目の前にあるものの様子がはっきりしてきた。 俺はうつぶせに倒れたきりだ。だから、俺の目が最初に見たの は、地面だった。 そして、それは、どう見ても、石だたみのように、俺には思え そこで、カつきた。 俺は泳ぐような格好で、一「三歩進み、そのまま、棒のように地た。 面に叩きつけられた。 頭から、ごろりとヘルメットがはずれる。 俺は狂ったように跳ね起きた。 しかし、な・せか俺の足は自分の体重に負けて、無様によろめく。 ともかく分ったことは、そこが沼地ではない、 ということだけ 9 4

5. SFマガジン 1981年4月号

卓賍 餮尹都十 い村参 アールは泣きながらひとりごとを言った。 それから数秒・ーーっいに骨も歯も消えた。 3 2 ア 1 ルはしばし呆然としていたが、やがてと・ほと・ほとジープにも どった。 お話をもとにもどして 散乱していたヒノの七ッ道具などをジープにしまった。 惑星調査員の使命感にもえ、研究者としての実験精神に殉じて、 まだそのあたりに残っていた毒蛇の類を金属の脚でけちらした。 ヒノの制止もきかばこそ、ミニミニのお茶漬けをたべたシオ それからアールは万能ジープの調子をみた。 ダのあとを追ってみることにしよう。 ジープは怪人のはなったミニミニやミニミニで痛め あとを追うといっても、時間の関係がプラックホールによってひ つけられ車もまわらなくなっており、さらにはむりな核融合の火炎じようにややこしいことになっているので、順序だてて記述するこ 噴射でエンジンも動かなくなっていた。 とがむずかしいのだが、その点は、、 ノードになれた読者の柔軟 アールは錆声で泣きながら、重いジープを押してとぼとぼと歩きな頭脳で、てきとうに解釈してつじつまを合わせておいていただき はじめた。 黒い雨はすでにゃんでいたが、 - 雲は厚く、霧はふたたび濃かっ いずれにせよ最後になれば、すべてにわたってニュートンの理論 どおりになっていることがわかるのである。 さて、 アールを包むここ《タイムマシン惑星》の夜はいよいよ暗かっ ミニミニを体内に入れたシオダがまず体験したの 司政官シリーズ最新作 / 司政制度の黎明期。海洋惑星ミ ローゼンの調査団の前に、因習 的な異星人社会の壁が立ちふさ がる : : : 表題作「長い暁」のほ g か、同じく司政制度初期に光を あてる「照り返しの丘」「扉の 定ひらくとき」の二短篇を収録。 眉村卓 こ 0 第早川書房■ 9

6. SFマガジン 1981年4月号

するなりしなければ、実験精神でかたまっているシオダが何をはじ霧が出はしめた。 めるかわかったものではない と考えたからである。 山岳地帯にはいったためでもあったし、またさしもに長い《タイ 9 ムマシン惑星》の一日もすでにたそがれ時にさしかかり、日没によ って一層冷気が地を這いはじめたからでもあった。 しかし、調査の成果は容易なことではあらわれなかった。 ジープはもと来た経路を逆にたどるような形になったので、草原「今夜はこのあたりで一泊するかな。もう二〇時間ぶづとおしの調 は林となり、林はジャングルとなり、そのジャングルはしだいに濃査行をつづけたわけだしな : : : 」 密さをました。 ヒノはこう言って万能ジープのスピードをゆるめ、ツォダの顔を やがてあのシンジケートのパラドやックスが襲い、イイイ、ヤャうかがった。 ヤ、 - ョョョの三人の″べテルギウス人″を逃がしてしまった地点に そのとき まで来た。 またもや現れた ! 「ここで″ペテルギウス人〃どもがミニミニを呑んで姿を消「ヒノ、とめろッ ! 」 したんだなあ : : : 」 シオダが叫んだ。 シオダはつぶやいた。いかにもミニミニを呑みたそうな顔「ちいッ ! 」 である。 ヒノもすぐに気づき、急・フレーキをかけた。 「西の方角とはいってももっともっと先だろうな」 白い半透明の影がほの暗い霧の中にうかんでいたのだ。 影からかすかな声がした。 地球語だった。 ヒ / は聞こえないふりをしてさらにジー。フのス。ヒードをあげた。 〈太陽系におもどりなさい、お若いの : : : 〉 樹々が密集している場合は戦車のごとくなぎたおしてすすんだ。 地の底からひびくような、しやがれた、きみのわるい声だった。 岩のあるときはとびこえた。 ジャングルはさらに深まった。 と同時に、土地の高さも高くなってきた。 山岳地帯が近づいたのだろう。 「な、なにものだツ」 水あびできるほど温暖だった気温が下がりはしめ、ジャングルの 樹々は逆に減少しはじめた。 ヒノが勇をふるって誰何した。 白い影はゆれ、なにかの形をとりかけたが、すぐにそれはくず 地面の凸凹がひどくなり、ジー。フの走行がむずかしくなってき れ、

7. SFマガジン 1981年4月号

えるだろう。ただ、彼らには、彼ら自身ではどうすることもできな そしてまた、知ることもできないタイム・リミットがあった。 5 セカンド・ムーヴ アレクサンドロス人の宇宙船が、飛び立つ前に、それを発見し、で きれば乗取らねばならなかったのだ。 「こいつは予想以上にきついぜ」 操縦席についているロールが、下の地形を写し出しているスキャ「畜生、時間ばかり食いやがる」 ナーをにらみながら、言った。草一つ生えていない荒野の中から、 道なりに、飛行艇の進路を修正しながら、ロールがつぶやいた。 「アレクサンドロスの奴らが、飛び立つ前に、我々が間に合うのを 細い道を見分けるのは、至難の業だった。隣りにすわってスキャナ ーとレーダーを見ているアシュロンも、しだいにいらっきはじめて祈るよりないな」 いる自分に気がついていた。 アシュロンが答えた。 「間に合うさ。少なくとも、そう信じているより、あるまい」 「もう少し、速度を落とすか ? 」 ロールに一一一一口ってみる。 ノカうなすく。 「これ以上、落としたら、歩く方が早くなっちまう」 「それにしても、奴らがまだいるか、どうか、せめてそれだけでも ロールが答えた。 知る方法はないのかね ? 」 理想的な状況であれば、マイダスの飛行艇は、時速四百キロ以上「ないな、今のところは」 「そいっさえ、わかれば、こんな宙ぶらりんな気分とは、おさらば の速度で飛べることになっていた。だが、この惑星のように制限だ らけの状況では、その半分、時には四分の一程度の速度で進むのできるんだがな」 が、やっとだった。そして、ヴィトグ、「七つの通りの街」を探し ールが、言った途端、後部座席から、つぶやくような声がし 出す旅は、より一層遅い速度を、アシュロンたちに強いていた。 いる」 ヴィトグの正確な所在地がわからぬままに出発せざるを得なかっ たしかに、そう聞こえた。アシュロンとロールは、同時に、振り たアシュロンたちは、「四つの塔の都市」からの逃亡者たちがたど ったと思える道を、追っていかざるを得なかったからだ。そして対返った。ほの暗い室内灯の光の中で、青白い顔のゲイルが、こちら 地用のスキャナーの性能からして、数百メートルの高度を保たざるを見つめている。 を得なかった。しかも、飛行は夜間に限定されている。アシュロン 「ゲイルーーーまたか ? 」 が、いらっくのも無理はなかった。 「そうよ、モーネよ」 だが、それでもアシュロンたちは、二日目には、ヴィトグにたど ゲイルの声は、ひどくかすれていた。アシュロンは立ち上がる りつけるだろうと予想していた。考えようによっては、早いとも言と、ゲイルの横に行く。毛布にくるまって、モーネという少女は深 6

8. SFマガジン 1981年4月号

それはしかたのないことだった。 ニミニあげてよかったのね。とれるところも教えるのね。花なの 平和目的であることが唯一の救いである。 ね。めずらしいのね。ホールホ 1 ルさまたくさんあるのね : : : 〉 「じつは、まったく純粋に学問的な研究がしたいのです。それで、 「うれしい、プスプスッ ! 」 お持ちになっておられるミニミニ・・フラックホールをおすそ分けい ヒノは顔を真っ赤にして。フスプスを抱いた。 ただけないでしようか ? あるいは、ミニミニ・プラックホールの そしてついにキスをしてしまった。 産地を教えていただけないでしようか ? 」 ヒノのくちびると喉のあたりとで時間がくいちがってしまい、ヒ 長老コラコラの表情が固くなった。声もふるえているようだっ ノは満足に口をきくことができなくなってしまった。 こ 0 「ふがふがふが : : : 」 〈おすそを分けるのはいいのね〉 そこでシオダが言葉をつないだ。 長老コラコラは衣服のすそを数本の腕でさっと分けた。 「感謝感激です。かならず学問のためにつかいます」 美女も同じようにした。 長老コラコラはしばし茫然として、娘プスプスとヒ / のラ・フシー 〈でも、・フラックホールだめね。あなたたちシンジケートと同じこ ンを眺めていたが、やがてあきらめたように、衣服のポケットから とする、わるいのね〉 ひとつの包みをとりだした。 ヒ / は頭をかかえた。 「ありがとうございます。このご親切は忘れません」 「やつばり、だめですか : : : 」 シオダは最敬礼し、お礼に″・フラックホール防御盾みを長老に献 上した。 7 「愛は永遠宇宙は平和 : : : 」 ヒノはようやくの思いでプスプスの抱擁から逃がれ、苦しい息の ヒノは絶望的な表情となり、勘違いして衣服のすそを分けている下からお礼の言葉を述べた。 この二人の″プラックホール人″を見つめた。 いよいよお別れというとき、シオダがふと思いだしたように、質 ところが、そのヒノの表情を見て、美女プスプスが長老にむかっ問した。 て何か叫び、それからヒノに抱きついて叫んだ。 「あの、長老さま、ひとつだけおきしたいのですが、やはり長老 ヒノは倒れそうになる身体を必死にこらえた。プスプスの顔面のさまたちも、先祖のお身体が頭部におさまるのでしようか ? 」 ・フラックホーをが近づくたびに、ヒノの持っている時計の数字がシ 《プラックホール惑星》においては、″プラックホール人″たちは オダのそれとちがったものになった。 齢をとるほど身体ーーとくに頭部ーーのプラックホールが多くな 〈この人、好きなのね。英雄あるのね。わたしプラックホールのミ り、さいごは身体全体が・フラックホールになってしまう。

9. SFマガジン 1981年4月号

ー特別企画・連載②ー THE ENCYCLOPEDIA OF SCIENCE FICTION SF 工ンサイクロへティア ピーター・ニコルズ編 浅倉久志・伊藤典夫監修 浅倉久志訳 Copyright 0 Roxby Press Limited 1979 凡例 1 . 邦訳のある作品には邦題を添え , 未訳作 品は原題 ( または英訳題名 ) のみ記した。 2 . 原題のうちイタリック体で表わされてい るのは単行本 , 引用符 ( “ " ) でかこんで あるものは短篇。 3 . 邦題も 2 にならい , 単行本は『』で , 短篇は「」でかこんだ。 4 . シリーズ名は , 未訳のものも含めて日本 語で表記し , 《》でかこんだ。 5 . 作家名の中には , あえて慣例に従わず , 原音に近い表記をとったものがある。 ( 例 : ヴァン・ヴォート ) 6 . 本文中のポールド書体は , 本事典中に項 目の立てられている見出し語。またポール ド書体の年号は , 初版発行年。 7 . 映画および TV ドラマについては , 日本 で公開された作品には邦題を『』でかこ んで添え , 原題をイタリック体で示した。 未公開作品は原題のみを示した。ポールド B S : フ・ライアン・スティブルフォード J B : ジョン・フ・ロズナン 筆者 書体の年号は , 本国での製作年。 2 刀 前号より続く 8 . 略語および記号 A S F : アスタウンディング・サイエン ス・フィクション誌 , および ( 後 年の ) アナログ社 ルじ、 0 F& S F : ファンタジイ・アンド・サイ 工ンス・フィクション TWS : スリリング・ワンダー・ストー リーズ誌 NW . ・ワーノレスはと ーガ : アンソロジー 圜 : 版による題名の異同 : 加筆 國 : 改訂版 : 短篇集 , またはひとりの作家による 長篇のオムニ / くス版 : 複数の短篇を加筆改訂し , 長篇のか たちに統合したもの 前 : 戦前にしか邦訳のない書名 * : 訳註 : 参照 M J : マクシム・ジャクボウスキー J C : ジョン・クルート ーコノレス・ P N : ビーター 本演出製作を手がけるようになった。 1944 ないうちに , 毎週一時間のラジオ番組の脚 後 , 22 歳でハリウッドへ行き , 一年とたた 学でジャーナリズムと広告技術を学んだ いるアメリカの映画製作者。コロンビア大 長年にわたって SF 的題材と取り組んで ALLEN, IRWIN ( 1916 ー アレン , アーウイン

10. SFマガジン 1981年4月号

にこやかに言う。さりげない中年の色気が感じられる、ちょっと鼻をうごかしたが、僕の上にあげた足を見、ぽかんとした顔をした。 「ほら、おじさん。言った通りだろう」 した美人だ。 角田が横からロを出す。 僕と角田は靴を脱いで待ち合い室の長椅子に座る。 「保科、ちょっとここで待ってろよな。俺おじさんに話してくつか「そんな馬鹿な」 そう言いながら手をのばして、見えない足をさわり、そこに存在 ら」 僕をおいて、角田は診察室に入っていった。教科書やノートは長しているのをしって、びつくりして手を引っこめた。 「や、ほ、ほんとだ。信夫の言う通りだ ! 」 椅子の上に置いてある。 僕の消えた足と顔を交互に見つめたのち、ううむと唸って腕組み 診察室の中からドアを通して、角田と彼のおじさんらしい野太い をした。 声が聞こえてくる。 「長年医者をやっとるが、こんな妙な患者は始めてだ」 「なにを馬鹿な。はつはつは」 さすがに医者だけあって、驚きはしたものの、とりみだしたりは おじさんのものらしい、ひときわ大きな笑い声がする。 しない。 「でも、ほんとなんだ : : : 」 ごちやごちゃと、さかんに言いあっている声が、しばらく続いた「膝まで消えてるって ? 」 ジーンズの裾をまくりあげようとすると、 あと、ドアから角田が顔を出した。手まねきする。 「めんどうだから、ジー ハンを脱いでしまいなさい」 「来いよ。言っても信じてくれないんた。早いとこ見せちまおう」 そして僕と角田はまた悲鳴をあげた。 僕は中に入っていった。中も小ぎれいな診察室である。頭の薄脱いだ。 だんだん下から消えてきているんだ ! 」 でっぷりと腹の出た医者がいた。ワイシャツ姿た。にやにや笑「腿まで消えちまった ! パンツのすぐ下からなにもなかった。全く透明になってしまって っている。 「ふうん、君か : : : 」 僕はとりみだして診察室の中をパンツのまま、ドタドタと走りま 「あの保科敬と申します」 医者は、うんうん頷きながら座れとしめす。僕の隣に角田が立つわった。 ている。 なにかが倒れる、ドスンという音がしたので我にかえって、そち 「足がどうかしたって ? 」 らを見ると、角田のおばさんが、開けつばなしの奧のドアの所で気 絶していた。 「はい。診てくたさい」 どうせ説明しても無駄にきまってる。すぐにスリツ。ハから足を出 それから一時間近く、角田のおじさんに診てもらったのだが幻 し、靴下を脱いで、両足をあげて見せた。靴下を脱ぐとき、医者は埒があかない。だいたい、内科の医者でいいのか。いや、なに科の たかし