れを覚えた。これほどの空間と時間を隔てながら、マイダスは彼らカを注がなきゃならないんだぞ。みんな、早く体息を取ってくれ。 を支配しているのだ。死んでしまった教官のワイドルが、キリイたやることは山ほどあるんだ」 ち自身がマイダスによって造り上げられたものだと言っていた言葉若者たちは、アシュロンの顔を見、うなずいた。キリイでさえ の意味を、初めて本当に理解したように思った。マイダスの意志も、それ以上、何も言わずに、自分たちの飛行艇へ戻った。 アシュロンが、座席に横になり、眠ろうとしたとき、ゲイルが枕 は、直接的に伝えられるのではなく、キリイたちの肉体や精神に刻 み込まれているのだとさえ、思えた。 元にすわってきた。 その考えは、すでに一週間ほども前に、アシュロンが思いっき、 「アシュロン、あなたの言うとおりね。私は、少々、神経質になり 寒気を覚えたものだった。だが、アシ = ロンもキリイも、それが自すぎていたみたいだわ」 分だけの考えだと思っていた。それについて、互いに語りあうこと ゲイルが、唇を寄せながら、ささやいた。アシュロンは、軽く微 は、ありえなかった。そして、アシュロンとキリイの違いは、その笑んだだけだった。ゲイルの唇が、アシュロンの唇に触れ、離れ 考えに対する反応の仕方にあった。つまりアシュロンは、それを一た。 、ゲイル」 つの疑惑として心の中に止めておいた。キリイは、もしもそれが事「君も眠った方がいい 実であるならば、それに反抗してやろうと考えていた。 「メリンとモーネの様子を、もう少し見てからね」 そしてその差が、その場における態度の差となって、現われた。 「メリンは、どんな調子だ ? 」 キリイは言った。 「たぶん、今日の夜には、意識を取り戻すわ。持ち場に戻るには、 「そいつが、偶然だとしても、どうしてモーネがうわ言をしゃべれ時間がかかりそうだけれども」 るんだ。あれほどの量の薬を注入されて」 アシュロンは、それに対して何と答えたのか、憶えていなかっ それは誰もが感じ続けていた疑問だった。マイダスの若者たちた。そのまま眠りの中に引きずり込まれてしまったのだ。 は、安らかな寝息をたてて眠っているモーネを見つめた。このやせ アシュロンが目覚めたのは、すでにタ闇が迫りはしめた頃たっ た。ゲイルもロールも、起きて、働いていた。 た身体の少女が、一種のモンスターのように思えてくるのだった。 再び、沈黙が、キャビンの中を支配しそうだった。その雰囲気を断「ロール ! アシロンを起こして ! 」 ゲイルの声がした。 ち切ったのは、アシュロンだった。彼も、キリイの疑問は当然のこ 「もう起きてる」 とだと思った。だが、今は、それについて考えている場合ではな アシュロンは、飛び起きると、ゲイルのところに歩み寄った。 何よりも、仲間の士気が衰えるという事態だけは、避けねばな 「メリンが、意識を取り戻すわ」 らないと考えた。 「その話は、あと回しだ。今は、ヴィトグを見つけ出すことに、全ゲイルが、アシュロンを見上げながら言う。ロールが、キリイた 3 6
暗闇だった。アシ = ロンが奥に向かって声をかける。まず、声が答 え、奥で明りが点いた。その明りがゆっくりと近付いてくる。 光の中に中年の小柄な男の上半身が浮かび上がる。どうやら、床 に入っていたらしい。アシュロンが、泊めて欲しいと頼む。男は、 うなずいて、中へ案内する。彼らの部屋は、二階だった。簡素なべ ッドが、六つほども並んでいる。男は、どこへでも寝てかまわない と言った。部屋の中央の燭台に火をともすと、そのまま出て行こう とする。 アシュロンは、男を呼びとめ、気になっていたことを尋ねる。 「私たちは、金を持っていないのだが、これで泊めてもらえるだろ ローダの付けていた銀の腕輪を示す。男は、意味がわからないら しい。何度、繰り返しても、結果は同じことだった。キリイが、そ の会話に割り込む。 「じゃあ、おれたちは、ここに泊まって、そのまま出て行っちまう ぜ」 男は、うなずいた。 「当り前だ」 あくびをすると、外へ出て行く。モ 1 ネを除く三人は、互いに顔 を見合わせた。 「どうなってるんだ ? 」 キリイが口を開く。 「もしかしたら , ー・ー」 ゲイルが言い淀む。 「もしかしたら、どうなんだ」 キリイが言った。ゲイルは、キリイを無視して、アシロンに向 SF7 マガジン インデックス 創刊号 ~ 100 号総目録 編集 = 石原藤夫 ☆長く品切れの本誌インデックスの増補改訂版 ができました ! ☆内容の一部一一イ乍者名インデックス / 作 品名インデックス / 翻訳者インデックス / イラストレーター・インデックス / ノ ンフィクション・インデックス / 各号表 紙写真 / 詳細な原典調査・付図・付表、他 ☆体裁 B5 判・ 400 ページ ☆頒価 3300 円 ( 送料包装費共 ) ☆申し込み先 s F 資料研究会 ( 鎌倉市七 里が浜東 1 ー 3 ー 1 ) ☆大盛堂書店では実物を御覧になれます。 ( 渋谷区神南ーー 22 ー TEL .463 ー 05 Ⅱ ~ 5 ) ☆現金書留か郵便振替でお申し込みください。振替 ( 横浜 16059 ) 7
び越えてきた荒野とは、このあたりの地形は明らかに異なってい キリイのしを 、こ、モーネはうなずいた。 た。一本の川が、荒野を緑に変えているのた。 「あの都市は、何て言うの ? 」 人間の生きる土地は、こうでなければならない。アシ、 0 ンは考ゲイルが尋ねる。モーネは、彼女にやられたことを思い出したら えた。キリイが、集めた枝に火を移す。その熱と光が、アシ = 0 ンしい。顔をしかめた。だが、それに関しては何も言わずに、答え の頬を赤く染めた。 る。 「もう目覚めるわ」 「レンケだと思う」 ゲイルが低い声で言った。 そのとき、モーネは、自分の服が、きれいに洗濯してあることに それとほとんど同時に、モーネが呻き声をあげる。キリイが、モ気付いた。顔つきが変る。おびえが全身を支配した。追いつめられ ーネの横に膝まづく。モーネが、突然、目を開けた。半身を起こした者のような目で、キリイたちを見回す。 てあたりを見回す。まだ目の焦点は、合っていない。 「君が、女の子であることは、もうわかってるよ」 「大丈夫かい ? 」 キリイがなだめるように言う。 キリイが尋ねる。初めて、モーネは、自分の周囲の人間に気付い 「だが、男の子のふりをしていた方がいいんなら、そうしてもかま たような表情を浮かべる。頭を軽く振る。 わないんだよ」 「ここは、・ とこ ? 」 モーネは、二人の若者と一人の娘を見つめ続けた。やがて、小さ つぶやくように尋ねてきた。 くうなすいた。アシロンは思わずため息をもらした。それほど、 「丘の中の都市の近くだよ」 緊迫したものを感じていたのだ。それが何かわからなかったが、こ キリイが答えてやる。 の少女が、少年をよそおうことには、アシロンたちの理解を越え 「丘の中 ? 」 た理由があるように思えた。 「そうだ。君たちの都市から、西へ向かった先にある丘陵地帯だ」 「男の子でなければならないんです、今のところは」 アシュロンが、ロを挾む。 モーネが、訴えるように言った。 「じゃあ、パッサだ」 「わかった。そういうことにしよう。さて、モーネ、我々は、あの モーネが、少年のような口調で言 0 た。まだ自分の正体がばれてレンケという都市に入れてもらえるだろうかね、こんな時間に」 いないと思っているのだ。アシ = ロンは、まだ充分に目覚めきって キリイが尋ねる。モーネは、わからないと答えた。 いないのに、もうすでに自分の正体を守ろうとするモ 1 ネの態度「とにかく、当 0 てみるとしよう。ここで野宿するよりは、あの外 に、半ば感心し、半ば不安を覚えた。 壁の下で寝る方がましのようだからな」 「この辺は、パッサっていうのか ? 」 アシ = ロンが立ち上がりながら言った。キリイとアシ = ロンは、 6 6
えるだろう。ただ、彼らには、彼ら自身ではどうすることもできな そしてまた、知ることもできないタイム・リミットがあった。 5 セカンド・ムーヴ アレクサンドロス人の宇宙船が、飛び立つ前に、それを発見し、で きれば乗取らねばならなかったのだ。 「こいつは予想以上にきついぜ」 操縦席についているロールが、下の地形を写し出しているスキャ「畜生、時間ばかり食いやがる」 ナーをにらみながら、言った。草一つ生えていない荒野の中から、 道なりに、飛行艇の進路を修正しながら、ロールがつぶやいた。 「アレクサンドロスの奴らが、飛び立つ前に、我々が間に合うのを 細い道を見分けるのは、至難の業だった。隣りにすわってスキャナ ーとレーダーを見ているアシュロンも、しだいにいらっきはじめて祈るよりないな」 いる自分に気がついていた。 アシュロンが答えた。 「間に合うさ。少なくとも、そう信じているより、あるまい」 「もう少し、速度を落とすか ? 」 ロールに一一一一口ってみる。 ノカうなすく。 「これ以上、落としたら、歩く方が早くなっちまう」 「それにしても、奴らがまだいるか、どうか、せめてそれだけでも ロールが答えた。 知る方法はないのかね ? 」 理想的な状況であれば、マイダスの飛行艇は、時速四百キロ以上「ないな、今のところは」 「そいっさえ、わかれば、こんな宙ぶらりんな気分とは、おさらば の速度で飛べることになっていた。だが、この惑星のように制限だ らけの状況では、その半分、時には四分の一程度の速度で進むのできるんだがな」 が、やっとだった。そして、ヴィトグ、「七つの通りの街」を探し ールが、言った途端、後部座席から、つぶやくような声がし 出す旅は、より一層遅い速度を、アシュロンたちに強いていた。 いる」 ヴィトグの正確な所在地がわからぬままに出発せざるを得なかっ たしかに、そう聞こえた。アシュロンとロールは、同時に、振り たアシュロンたちは、「四つの塔の都市」からの逃亡者たちがたど ったと思える道を、追っていかざるを得なかったからだ。そして対返った。ほの暗い室内灯の光の中で、青白い顔のゲイルが、こちら 地用のスキャナーの性能からして、数百メートルの高度を保たざるを見つめている。 を得なかった。しかも、飛行は夜間に限定されている。アシュロン 「ゲイルーーーまたか ? 」 が、いらっくのも無理はなかった。 「そうよ、モーネよ」 だが、それでもアシュロンたちは、二日目には、ヴィトグにたど ゲイルの声は、ひどくかすれていた。アシュロンは立ち上がる りつけるだろうと予想していた。考えようによっては、早いとも言と、ゲイルの横に行く。毛布にくるまって、モーネという少女は深 6
ちを呼び寄せる。 。それでも、何の目標もなく進むのとは、大変なちがいだ。若者 最初は、メリンは、自分がどこにいるかわからぬような顔で、あたちは、再び元気を取り戻した。笑い声が戻ってきた。 たりを見回した。そして自分を取り囲む仲間たちの顔に気付き、よ アシュロンも、自分の心が軽くなるのを感じていた。だが、その うやく、薄い笑みを浮かべた。 気分も、メリンが突然顔色を変えたのに気付き、急速にしぼみはじ めた。メリンの視線を追ったアシュロンは、その先に、モーネの寝 「もう大丈夫よ」 ゲイルが、メリンの肩を抱くようにして、言った。ロールを除い顔があるのを見た。 た若者たちは、口々に、メリンに声をかけた。ロールは、。 とうすべ 「どうしたんだ ? 」 きかわからないらしかった。彼女の事故の原因は、ロールにあるの メリンに尋ねる。 だ。態度を決めかねていたが、おずおずと手を伸ばし、メリンの肩「あの子は ? 」 に触れた。 「ゲイルが言っただろう。「四つの塔の都市」から連れてきた娘 「ごめんよ、あんなことになるとはーーー」 メリンが、ロールに徴笑み返した。 「あの子が、モーネ」 「いいのよ、私も不注意たったんたから」 メリンは、モーネから目を離さずに言った。 ロールの顔が、突然、明るさを取り戻した。アシュロンも、かす「彼女が、どうかしたのか ? 」 「いや、何でもないわ。少し、横になっていた方が、良さそうね」 かなため息をもらした。何よりも、二人の間にしこりが残らないこ 目を閉じて、身体を倒した。アシュロンが、外に出ようとする とを望んでいたのだ。そして、メリンの知識が、これから再び役に と、呼びとめてきた。 立てられると思うと、一層、気分が楽になるのだった。 メリンは、ゲイルから、自分が眠っていた間のことの説明を聞「アシュロン、ロールの手が空いているようなら、ここに来てもら き、何度か、うなずいた。 えないかしら」 「でも、そのヴィトグという街のことは、知らないわ。可能性とし アシュロンは、そうさせる、と答えた。 ては、この先の丘陵地帯の中を河が流れているから、そのそばか、 再び闇が落ちはじめ、アシュロンが、飛行艇の中に戻ってきたと その先の山脈の向こうの平原ね。どちらかといえば、山の向こうのきにも、ロールとメリンは何事か、語り続けていた。出発の時間に 方が可能性が、強いと思う。その老婆は、西へ一日と言ったんでしなって、操縦席についたロールに向かって、アシ = ロンは尋ねた。 よ。あの山脈を越えるには、、 力なり時間が必要だから、たぶん、そ「メリンと、何を話してたんだ ? 」 の山越えの時間が含まれていると考えるべきだわ」 ロールは、アシュロンを見つめた。一瞬、ためらっていたが、声 メリンの言葉は、あくまでも、可能性について語ったに過ぎなをひそめて言った。
たき火から、長めの枯枝の東に火を移し、たいまつのかわりにす「東のコ四つの塔の都市」から」 「マ 1 シュからだと ? あそこには、もはや男はおらぬ筈だが、 る。 アシュロンとゲイルが先に立ち、キリイとモーネが、あとに続いな」 それが冗談であるかのように、兵士たちは、笑い声をあげた。 た。モーネ以外の三人は、小さくまとめられたパックを背負ってい アシュロンは、すぐに言いなおす。 た。旅人をよそおうためには、少々、荷物が少なすぎたが、ないよ りはましだろう。あるいは、近くで荷物を失ったことにしてもい「しばらく滞在しただけです。その前は、南からやってきました」 「何人だ ? 」 都市に近付くにつれて、道はしだいに広くなり、途中から、数知「ごらんのとおり、四人です」 れぬ車がつけた轍がはっきりと見てとれるようになった。モーネ兵士たちは、何事か互いに話し合っていたが、再び声をかけてき こ 0 は、前方をまっすぐ見すえて歩いていた。おそらくは、どのように してここまで運ばれてきたのか、自分といっしょに歩いている者た「門の前まで進め」 ちが何者なのか、尋ねたいことは幾つもある筈なのに、黙りこくっ アシュロンたちは、言われたとおりに、歩いた。 たまま、足を運んでいる。自分が少年のふりをしなければならない 門の割れ目に明りが近付いてきた。重いかんぬきをはずす音がす その理由を尋ねなかった者たちに対する礼のつもりなのかもしれなる。ゆっくりと門が押し開けられた。その途端、アシュロンは、自 キリイは思い、微笑んだ。 分たちが無暴な真似をしているのではないかという思いに襲われ レンケの外壁に到るまでに、三本のたいまつが必要だった。西側た。この土地の風習も何も知らずに、一種の好奇心とあせりだけ の外壁のすぐ外を、川が流れているのが、わかった。薄暗いたいまで、やってきてしまったように思え、あれもこれも、準備しておく つの光が、ぼんやりとレンケの門を照らし出したとき、何かがアシ べきだったことが、次々と頭の中に思い浮かんできた。 ュロンの目の前に突き立った。思わず足を止める。投げ槍だった。 身体を横にしてようやく入れそうな幅だけ、開くと、門の動きは 柄の先がまだ震えている。見上げた四人は、十メートル近い外壁の止まった。その隙間から、黄色を帯びた光が、外の闇にはみ出して 上に、数人の兵士が立っているのを見た。 「一人ずつ、入ってこい」 「止まれ ! 何者だ ? 」 門の中から声がした。先程の兵士の声とは、ちがう声だった。 兵士の一人が、呶鳴った。 アシュロンが、足を踏み出すと、キリイが制止した。 「旅の者です ! 中に入れてもらえますまいか ? 」 「おれから入る。アシュロン、あんたは最後がいいだろう。何かあ 7 アシュロンが言う。 ったら、あんたが、みんなを呼ぶんだ。指揮者は、全員に対する責 「こんな時間に、か ? どこから来た ? 」
「やつばり、言っておいた方がいいな。メリンが、寝ている間に夢手に入れることができるかもしれないし、何よりも、この惑星で実 を見たらしい」 際に機能している都市にぶつかる最初の機会であることに、アシュ それは薬によって眠らされている間には、珍しいことたったが、 ロンは好奇心をそそられた。 目が覚めかける寸前に、夢を見ることがないでもない。 すぐにステンに、計画の変更を伝える。ステンたちの意見も同じ だった。二機の飛行艇は、彼方の都市に機首を向けた。 「あのモーネが、その夢の中に出てきたというんだ」 ロールの話は、それで途切れた。発進の準備で、話をするどころ誰が、実際に、都市に出向くかという点で、彼らの意見は割れ ではなくなったからだ。アシュロンは、何度か、モーネを振り返った。誰もが、メリンでさえも、自分で都市を訪問してみたいと願っ た。ロールには、他の人間には黙っているようにと、言ってお いていたのだ。そのメン・ハーを最終的に決定したのはモーネの存在だ た。これ以上、余計なことに、仲間たちが気を取られてはならない った。キリイが、モーネを連れていくことを強く主張したのだ。わ のだ。アシ、ロンは、スキャナーとレーダーに、全神経を集中しよけもわからぬ人間たちだけで行くよりも、少しは、土地に馴染みの うとした。 ある者が入っていた方がいい 。そしてまた、彼女を連れていること 最初に都市を発見したのは、後ろの飛行艇に乗っているステンだで、都市の住民たちも、警戒心を柔らげるのではないか、それがキ った。飛び立ってから最初の一時間が過ぎ、丘陵地帯の半ばにさしリイの主張の根拠だった。 かかった時だった。 そしてアシュロンが、その意見を入れた。その結果、モーネが頭 「アシュロン、スキャナーに反応がある。右手前方だ。まだ、十キを知っているアシュロン、キリイ、それにゲイルの三人が、モーネ とともに、都市に向かうことになったのだ。 ロは離れているな。だが、都市らしいそ」 アシュロンは、素早く、スキャナーを遠距離用に切り換える。画都市から一キロほどのところで、飛行艇は四人を降ろし、また飛 び去っていった。都市の外壁の上には、幾つか明りが動いていた。 面に、小さな光点が現われた。 見張りだろう。アシュロンは思った。だが、彼らが飛行艇に気付く 「そうらしいな。メリンに尋ねてみる」 わけはない。どんなに目の良い人間たちであろうとも、この闇の中 後ろを振り返って、メリンに声をかける。 で、完全に光を消している飛行艇を見分けることなど、できるわけ 「メリン ! 都市らしい反応が出た。どうする ? 」 もないのだ。 答えてきたのは、ゲイルだった。 キリイが非常用のトーチに火を点けた。あたりが、ぼんやりと明 「メリンは、ヴィトグにしては、早すぎるって言ってるわ。でも、 るくなる。その光の中で、ゲイルが、モーネの覚醒にとりかかる。 都市たとしたら、近付いてみる価値があるんじゃないかしら ? 」 それは、アシュロンにしても同様だった。ヴィトグではないかもキリイは、近くに何本かの木が生えているのに気付き、枯枝を集め 5 しれないが、一応は、立ち寄ってみるべきだろう。へダスの情報をはじめた。足の下の地面にも、草が生えている。それまで彼らが飛
い眠りの中に沈んでいた。 ・前回までのあらすじ・ 「どういうわけだ ? 」 対立する惑星マイダスとアレグサンドロス。そして二つの勢力圏 「私にも、わからない。こんな筈はないのだけれど、この惑星の人 の間にある惑星は、一段階低い文明レベルにあり、高度の文明を持 っ種族の接触は禁じられていた。だが、この惑星に宇宙船が侵入し 間には、あの薬の働き方が異なっているのかもしれない」 たという情報がもたらされた。互いに相手方の仕業と考える一一つの 「だが、完全に眠っているように見える」 世界は、それそれ工作員を乗せた宇宙船を派遣する。しかし、どち 「そうよ、だから、わからないんだわ。二日は、完全に意識がない らも着陸寸前に謎の敵からの攻撃を受け、アレクサンドロスの宇宙 筈なのに。不思議としかいいようが、ない」 船は記憶を失った男ひとりを残して全員死亡、マイダス側も、ワイ ドル、アシュロン、キリイほかの工作員が生き残っただけだった。 そのとおりだった。そしてそれ以上に、モーネが強制された眠り 原住民の攻撃によってワイドルを失ったマイダス側は、彼の言葉に の中でつぶやいた言葉が、自分たちの心に与えた衝撃の強さが、奇 従い「四つの塔の都市」のヘダスという人物を捜す。だが、たどり 妙だと、アシュロンは思った。それが強いと感じられるのは、彼ら ついたそこはすでに廃墟と化していた。そこに住む老婆の話から、 自身の思っていることに深く関る言葉であったからだ。その日の昼 住民の大部分はヴィトグ「七つの通りの街」へ行ったことを知り、 そこへ向うがその際にモーネという少女を同道するよう頼まれる。 間には「こわい」と言った。そして今は、「いるーと言ったのだ。 一方、アレクサンドロスの男は、エルワースと呼ばれる原住民と知 偶然の一致かもしれないが、アシュロンたちが自分たちのこれから り会うが、部族抗争に巻き込まれ、そのさ中に川へと逃れた。だ のことを考えているときに発されていた。 が、その川の行手には滝が待ちかまえるのだった。 ゲイルとアシュロンは、互いに顔を見合わせた。 夜が明けはじめると、マイダスの若者たちは、飛行艇を道からは とした時、あとからやってきたステンが、先に声をかけた。 ずし、荒野の中に、着陸場所を求めた。休息を取り、食事をするた「どうしたんだ ? 顔色が悪い」 めだ。見渡すかぎり、土と石が広がっていたが、大地は彼らの進行 ゲイルが、モーネの発した言葉について、手短かに説明した。 方向に向かって、徐々に盛り上がりはじめていた。その先には、幾「偶然よ、それに決まってるわ」 つもの丘が持ち上がり、その向こうには山が連なっていた。 ローダが、落ち着いた口調で言った。その途端に、飛行艇のキャ 着地したアシ = ロンたちの飛行艇のドアを最初に叩いたのは、キビンの淀んだ雰囲気が和やかなものに変った。キリイは、どうう リイだった。中に入ってくると、まずモーネの寝顔をのそき込む。 理由で自分たちの構成が決められたのか、知らなかったが、うまい 「よく眠ってるみたいだな」 組み合わせになっていると思った。全員の気分や意見が、極端に一 ほっとしたように言った。それから、ゲイルの冴えない顔色に気方向に行かないように、キリイ自身も含めて、必ず誰かが、その状 付を濃い茶色の髪が、面長の顔をふんわりと縁取っているのは、 態を緩和する働きをすることになっているようだ。 いつもどおりだが、どこか生気に欠けている。キリイが何か言おう唐突に、キリイは、そうした組み合わせを作ったマイダスに、恐 2 6
じる都市同士の人間は、密接な関係を持っていることになるのだ。 らく、この惑星全体が、女をそのようにしか見ていないのではない かと思え、そのような考えに、仲間のキリイが、見事に対応してしこの件については、専門家のメリンに知らせておいた方がよさそう 7 だ。キリイは、考える。 まったことが、許せないと思えたのだ。 アシュロンも、似たようなことを思い、同時に、自分だったらど マイダスにも、幾つかの宗教はあった。だが、それはあくまでも こしてしまえなかった精神的な面について関わるだけだったし、キリイのように基本的に う対処したかを考え、キリイほどうまく冗談冫 のではないかと考えていた。それは奇妙なことに、キリイに対するは何も信じていない人間も存在していた。この惑星が、おそらくは 警戒心を強めた。自分がキリイの能力をうらやんでいるとは、思わそうであるような、宗教が現実の生活や人々の行動そのものを規定 してしまうような世界は、考えにく、 なかったし、思いたくもなかった。 この都市のどこかに、そうした宗教の拠点がある筈だ。唐突に、 四人は、黙ったまま、ティニットに言われた宿に向かって歩い た。キリイは、ティニットの言った言葉の中で、一つ気になったこキリイはそこを訪れてみたいという好奇心に駆られた。 とを考えていた。なぜ彼は、マーシュの人間たちが、このレンケに通りの両側には、材料や大きさこそちがえ、一つのイメージに統 一されたデザインの建物が並んでいた。それは均一化されたという とどまることを嫌うと言ったのか ? キリイは、モーネに尋ねた。 ことではない。 一つ一つの個性が、全体の中に入り込んできたとき 小さく頭を傾げて、モーネは答えた。 に、 「それは、当り前だよ。神様がちがうんだから」 一つのイメージが浮かんでくるということだ。もちろん、ほん の一部でしかないが、基本的な都市計画そのものが、しつかりと構 わかりきったことだというロ調だった。 「どういうことだ ? 」 成されているのを感じる。この惑星が、文明のレベルで言えば、第 「マ 1 シュは、聖母さまの都市で、レンケは、天人の都市だという二レベルに含まれていること、そのことがキリイは、奇妙に思えて きた。あるいは、より上のレベルに属している可能性があるかもし ことさ」 れない。キリイは、そのことを忘れまいと、心に刻み込んだ。過大 「ヴィトグは ? 」 評価も危険だ。だが、過少評価は、より一層、危険なのだ。 「聖母さまの都市に決まってる」 モーネの答は、キリイの予想どおりだった。なぜ「四つの塔の都「キリイ、あそこらしいな」 市」の住民が、彼方のヴィトグまで旅しなければならなかったの先を行っていたアシュロンが、振り返って、言った。通りの左側 か、これでわかるというものだ。今、モーネの言った二つだけではに明りが燃えている。その明りのすぐ横の建物を、アシュロンは指 なく、幾つかの宗教がこの惑星には存在しているのだろう。門のとさしていた。二階建ての木造の間ロの広い建物だった。門のところ ころで、通信器についてキリイの言った言葉を、相手が何も言わずで教えられた宿屋らしい に受け入れたところからも、それがわかる。そして、同じ宗教を信木製のドアは「・鍵がかかっていなかった。押し開けると、中は、
ろうか ? 」 に、死んだ自分たちの教官の名を、都市の名であるように告げた。 「へダス ? マーシュから何人か、ここに逃げ込んでは来たが、そ 「ワイドル ? 聞いたことがないな。どこにある ? 」 の中こよ、 冫。いなかったようだな。あるいは、おれがいないときに通 「南た、ずっと南にある。ここにくるまで、二年近く、かかった」 った人間の中にいたかもしれんが、わからん。どちらにしろ、マー キリイが、この惑星の暦を頭の中で計算しながら答える。 シュの人間は、ここにはとどまりたがらないからな」 「二年近く ? そいつは、ちょっとしたものだな」 隊長の男は、感心したように言う。だが、目の前に並ぶ顔が、若ティ = ットは、答えた。若者は、かすかに、気落ちしたような表 すぎるのに気付く。しかも女と子供まで連れているのは、それほど情で、頭を下げると、先に行って待っている仲間たちのところへ歩 の長旅をするには、不適当だと思えた。男は、その疑問を口にしみはじめた。ティニットは、娘の顔を見、思いついたように大声で こ 0 言った。 「おい、キリイとやら ! そのゲイルという娘を、おれに一晩、貸 「仲間が何人かいたのですが、死んだのです。残ったのが私たち三 人。この少年は、「四つの塔の都市」で、ヴィトグに連れていってしてくれないか ? 」 おれにも ! という声が兵士の中からも、発せられた。ゲイルの くれと頼まれたもので、仲間に入れたのです」 アシ = ロンが答える。この男は、やや年を食っている。隊長の男顔から、血の気が引いた。キリイは、にやりと笑いながら、振りか は、アシ = ロンの顔を見ながら思った。話し方でも、それがわかえる。 る。だが、妙ななまりのある言葉だとも思った。それも、この三人「いや、駄目だね。先約でいつばいさ」 がそれほどの遠方から来たのであれば、納得できる。どちらにし 意味ありげに、アシュロンの方を、身振りで示した。ティニット ろ、この旅人たちが、敵ではないことは確かなように思えた。 は、おおげさにがっかりしてみせた。兵士たちが、笑い声をあげ 「で、どこへ行くつもりだ ? 」 る。キリイも笑ってみせた。そしてゲイルとアシュロンの表情を 「ヴィトグです、人を探しに行くのです」 見、再び彼らとの間に溝ができかけているのを感じた。二人とも、 年に何人かは、ヴィトグへ向かう途中で、このレンケを訪れる旅キリイに馬鹿にされたように感じているのが、わかった。仕方ない こしちまうより、うまい切り抜け方が思いっかなかったの 人がやってくる。隊長のティニットは、ほとんど興味を失いかけてさ、冗談ぐ いた。早く次の見張りの兵士たちと交代して、酒でもひっかけ、柔だ。 らかいべッドに入りたいと思いはじめた。四人の名を尋ね、泊れる ゲイルは、兵士たちとキリイの双方に対して、怒りを感じてい 場所を教えてやる。礼を言って、歩きはじめようとした旅人の一人た。男とペッドを共にするのは、かまわない。だが、自分の意志で 9 が、振り返って、尋ねてきた。キリイという名の若者だった。 そうするのだ。僅かな言葉のやりとりであったが、自分が物のよう 6 「マーシュから、ヘダスという人間が、ここにやってこなかっただに扱われているのを感し、それに対して、怒りを感じていた。おそ