ば、ヒミコの名は記憶にある。写真も見たぞ、たしかヒミコは赤「どうして」ヒミコはまったく突然、目に涙をうかべた。「わたし ハスターはしかし、 たち、なんにもわるいことはしてないのに。どうしてこんなめにー ん坊だった。記録は古いものだった。チーフ・ サーク警部から送られてきた写真を見て、ビンときたのかもしれな 、。だとしたら意地がわるい、なにがデートだ、なにが休暇だ、青おれはなにもいえなかった。嵐が去るのを待つ小舟のように、ナ 龍刀をもっていけだ ? 冗談じゃない。海賊が相手なら機動戦闘艦だひたすらヒミコの心の昻ぶりが静まるのを待った。たぶん、こん を使わせてくれればいいのに、きっと武装と航行用エネルギーを節な場合、待つのがいちばんいいのだ。下手になにかをいったりする と、安全弁をふさぐような結果になりかねない。爆発する女は苦手 約するために、民間機で だ。おれの手には負えない。 「海賊課はわたしたちを守ってなんかくれないわ。自分で身を守る 「ラテル、もうすぐだ」 しかないのよ」 おれはヒミコにキャラ・ハンが襲われたときの状況を訊いた。ヒミ 赤い砂漠の上に大都市があらわれる。アモルマトレイだ。透明水 コのこたえは捜査とよく一致する。犯人はわからないという点で品でできた巨大な。ヒラミッドのように見える。アモルマトレイは も。 火星が改造される以前の都市の形態をくずしていない、遺物的都市 ・こ。がんとして新火星大気をうけいれぬ、硬質ガラスと。フラスチッ 「だめだ」とアプロ。「アモルマトレイにはマイク " カートライト という男はいないし、過去にもいなかった。立ち寄った形跡もなけクで構築された閉鎖空間だった。新火星時代の初期、都市はそれま れば、買い物もしていないし、病気にもならなかった。どう思う、 での殻をとりはらい、そんな殻なしで呼吸できる新しい火星の誕生 ラテル」 を祝ったが、アモルマトレイだけはかたくなに旧態を守って今日ま 「ヒミコの話が真実なら、ケイマ・セルは海賊に消されたにちがいできている。初期には古いと嘲られたが ( と、火星史の本に書いて ない。とにかく海賊課の検索網にひっかからないように、すべてのある ) 現在では火星名所だ。またの名を、火星開発記念市という。 人があつまってくるからいろいろなものが生まれる。大きな商談、 痕跡を消すなんて、海賊にしかできまい」 「おれもそう思う。ヒミコの精神状態を調べたが、異常は感知してスターをめざす者の汗、成功者の笑顔、男と女の運命的な出会い、 いない」アプロは彼の首輪をさした。インターセプタ 1 には、人間嫉妬の炎、敗北者のうめき、殺意をこめた一撃。 の身体から放射されるさまざまな生体情報をとらえて分析する能力「アモルマトレイか。息のつまりそうな街だな。閉鎖的で。まさに ・ : あの街は海賊 もある。「この娘は狂ってはいないよ。ケイマ・セルはたしかに消飛ばない宇宙船だ。海賊が狙ってもおかしくない : に乗っ取られているのかもしれないそ」 されたんだ」 「なんだ ? 」とアプロ。 「消された : : : 信じられないわ」 「なんですって ? 」とヒミコ。 「おれは信じた」とアプロ。 229
「やつばり、言っておいた方がいいな。メリンが、寝ている間に夢手に入れることができるかもしれないし、何よりも、この惑星で実 を見たらしい」 際に機能している都市にぶつかる最初の機会であることに、アシュ それは薬によって眠らされている間には、珍しいことたったが、 ロンは好奇心をそそられた。 目が覚めかける寸前に、夢を見ることがないでもない。 すぐにステンに、計画の変更を伝える。ステンたちの意見も同じ だった。二機の飛行艇は、彼方の都市に機首を向けた。 「あのモーネが、その夢の中に出てきたというんだ」 ロールの話は、それで途切れた。発進の準備で、話をするどころ誰が、実際に、都市に出向くかという点で、彼らの意見は割れ ではなくなったからだ。アシュロンは、何度か、モーネを振り返った。誰もが、メリンでさえも、自分で都市を訪問してみたいと願っ た。ロールには、他の人間には黙っているようにと、言ってお いていたのだ。そのメン・ハーを最終的に決定したのはモーネの存在だ た。これ以上、余計なことに、仲間たちが気を取られてはならない った。キリイが、モーネを連れていくことを強く主張したのだ。わ のだ。アシ、ロンは、スキャナーとレーダーに、全神経を集中しよけもわからぬ人間たちだけで行くよりも、少しは、土地に馴染みの うとした。 ある者が入っていた方がいい 。そしてまた、彼女を連れていること 最初に都市を発見したのは、後ろの飛行艇に乗っているステンだで、都市の住民たちも、警戒心を柔らげるのではないか、それがキ った。飛び立ってから最初の一時間が過ぎ、丘陵地帯の半ばにさしリイの主張の根拠だった。 かかった時だった。 そしてアシュロンが、その意見を入れた。その結果、モーネが頭 「アシュロン、スキャナーに反応がある。右手前方だ。まだ、十キを知っているアシュロン、キリイ、それにゲイルの三人が、モーネ とともに、都市に向かうことになったのだ。 ロは離れているな。だが、都市らしいそ」 アシュロンは、素早く、スキャナーを遠距離用に切り換える。画都市から一キロほどのところで、飛行艇は四人を降ろし、また飛 び去っていった。都市の外壁の上には、幾つか明りが動いていた。 面に、小さな光点が現われた。 見張りだろう。アシュロンは思った。だが、彼らが飛行艇に気付く 「そうらしいな。メリンに尋ねてみる」 わけはない。どんなに目の良い人間たちであろうとも、この闇の中 後ろを振り返って、メリンに声をかける。 で、完全に光を消している飛行艇を見分けることなど、できるわけ 「メリン ! 都市らしい反応が出た。どうする ? 」 もないのだ。 答えてきたのは、ゲイルだった。 キリイが非常用のトーチに火を点けた。あたりが、ぼんやりと明 「メリンは、ヴィトグにしては、早すぎるって言ってるわ。でも、 るくなる。その光の中で、ゲイルが、モーネの覚醒にとりかかる。 都市たとしたら、近付いてみる価値があるんじゃないかしら ? 」 それは、アシュロンにしても同様だった。ヴィトグではないかもキリイは、近くに何本かの木が生えているのに気付き、枯枝を集め 5 しれないが、一応は、立ち寄ってみるべきだろう。へダスの情報をはじめた。足の下の地面にも、草が生えている。それまで彼らが飛
じる都市同士の人間は、密接な関係を持っていることになるのだ。 らく、この惑星全体が、女をそのようにしか見ていないのではない かと思え、そのような考えに、仲間のキリイが、見事に対応してしこの件については、専門家のメリンに知らせておいた方がよさそう 7 だ。キリイは、考える。 まったことが、許せないと思えたのだ。 アシュロンも、似たようなことを思い、同時に、自分だったらど マイダスにも、幾つかの宗教はあった。だが、それはあくまでも こしてしまえなかった精神的な面について関わるだけだったし、キリイのように基本的に う対処したかを考え、キリイほどうまく冗談冫 のではないかと考えていた。それは奇妙なことに、キリイに対するは何も信じていない人間も存在していた。この惑星が、おそらくは 警戒心を強めた。自分がキリイの能力をうらやんでいるとは、思わそうであるような、宗教が現実の生活や人々の行動そのものを規定 してしまうような世界は、考えにく、 なかったし、思いたくもなかった。 この都市のどこかに、そうした宗教の拠点がある筈だ。唐突に、 四人は、黙ったまま、ティニットに言われた宿に向かって歩い た。キリイは、ティニットの言った言葉の中で、一つ気になったこキリイはそこを訪れてみたいという好奇心に駆られた。 とを考えていた。なぜ彼は、マーシュの人間たちが、このレンケに通りの両側には、材料や大きさこそちがえ、一つのイメージに統 一されたデザインの建物が並んでいた。それは均一化されたという とどまることを嫌うと言ったのか ? キリイは、モーネに尋ねた。 ことではない。 一つ一つの個性が、全体の中に入り込んできたとき 小さく頭を傾げて、モーネは答えた。 に、 「それは、当り前だよ。神様がちがうんだから」 一つのイメージが浮かんでくるということだ。もちろん、ほん の一部でしかないが、基本的な都市計画そのものが、しつかりと構 わかりきったことだというロ調だった。 「どういうことだ ? 」 成されているのを感じる。この惑星が、文明のレベルで言えば、第 「マ 1 シュは、聖母さまの都市で、レンケは、天人の都市だという二レベルに含まれていること、そのことがキリイは、奇妙に思えて きた。あるいは、より上のレベルに属している可能性があるかもし ことさ」 れない。キリイは、そのことを忘れまいと、心に刻み込んだ。過大 「ヴィトグは ? 」 評価も危険だ。だが、過少評価は、より一層、危険なのだ。 「聖母さまの都市に決まってる」 モーネの答は、キリイの予想どおりだった。なぜ「四つの塔の都「キリイ、あそこらしいな」 市」の住民が、彼方のヴィトグまで旅しなければならなかったの先を行っていたアシュロンが、振り返って、言った。通りの左側 か、これでわかるというものだ。今、モーネの言った二つだけではに明りが燃えている。その明りのすぐ横の建物を、アシュロンは指 なく、幾つかの宗教がこの惑星には存在しているのだろう。門のとさしていた。二階建ての木造の間ロの広い建物だった。門のところ ころで、通信器についてキリイの言った言葉を、相手が何も言わずで教えられた宿屋らしい に受け入れたところからも、それがわかる。そして、同じ宗教を信木製のドアは「・鍵がかかっていなかった。押し開けると、中は、
アモルマトレイは昔から中枢コンビュータによる中央集権的管さ″ ここの中枢コンビュータは ″だれにでも操作できるわけじゃない。 理体制をとっている。ー市内のすべてのコン。ヒュータ・システムは巨 大な ( 形はたいしたことはない、機能がばかでかい ) コンビ = ータそれだけで独立した行政機関だ。だから乗っ取るしか方法は に常時監視されていて、その中枢コンビ、ータは必要ならば任意のや、まてよ、まさか″ コンビ = ータを自分の意志で制御したり、システムから切りはなし″そうさ、市当局がケイマ・セルを消したとも考えられる。海賊事 たりできる。低位コン。ヒュータの暴走を許さない集中制御管理体制件とは無関係に。もし海賊なら、とミコも消したろう、きのう彼女 をとっているわけだ。高度に計画的でなければ過去の厳しい環境のが入ったとき。だまって外に出すというのはおかしい″ なかを生きぬいてはこれなかったのだろう。もしこの都市を乗っ取″それなら、ケイマ・セルが消された理由はなんだ ? 〃 天才的頭脳と、だ″知るか。とにかく市長をぶつ殺そう″ りたければその中枢コンビュータを奪えばいい。 ″まてまてまて、なにをいってる れにも見つからないでやれる運と、そして海賊課をなんとも思わな " 間違えた、中枢 = ピ = ータを 0 壊そう。 い度胸があれば、不可能じゃない 「アモルマトレイは中枢コンビ = ータに大きな権限を与えて、都ヒミコには、おれたちがしゃべっているのだとは思えなかったろ 市機構の管理をしやすくし、都市機能の維持と安全を最優先に考えう。舌打ちをしたようにしかきこえない。高速言語の語彙は少ない るという全体主義的な旧都市体制をとっているだろう、だからそのが、ア。フロのような気のおけない相棒とならまったく不便は感じな 。記号のような高速言語で十分だ。この言葉は目くばせと同じと コン。ヒュータのジャックに成功すれば、街中のコン。ヒュータを同時 に手に入れたことになる。どんなデータ・べースの内容も、銀行預いってもいい。連想を助けるヤーだけでできている。しゃべらない 金の数字から極秘のキャリア・ファイルの内容まで、中枢コンピ、でも意志が通じ合うくらいの信頼関係になると、基本速度よりさら に早くなり、こうなるともう私的な符牒のようなもので第三者には ータを操るだけで自在に書き換えられる。人間ひとりを消すくらい まったくわからない。たとえ、同じ海賊課の刑事でも。 はなんでもない」 「まさか」ヒミコは弱く笑った。「都市をハイジャックする、です白く輝く結晶都市が視野に広がって、もう全体のピラミッド形は わからない。山に入ると山の形がわからなくなるのと同じだ。おれ って ? 」 ・ハイロットを切り、砂漠に着陸させた。 ″中枢コンビュ - ータか″ア。フロが海賊課刑事の間だけでつかわれるはヘリカーのオート・ ヒミコを 「ア。フロ、おまえヒミコをダイモス基地まで送ってこい。 高速意志伝達言語でいった。″なるほど、それを使えばケイマ・セ 市内に入れるのは危険な気がする」 ルの名は一発で消せる。すると犯人は海賊だとは限らんな〃 としうと ? ・ / 「あの、わたしなら、 しいんです」 いいって ? 」 ″中枢コンビュータを操作できる者ならだれにでもやれたってこと「なにが ? 230
び越えてきた荒野とは、このあたりの地形は明らかに異なってい キリイのしを 、こ、モーネはうなずいた。 た。一本の川が、荒野を緑に変えているのた。 「あの都市は、何て言うの ? 」 人間の生きる土地は、こうでなければならない。アシ、 0 ンは考ゲイルが尋ねる。モーネは、彼女にやられたことを思い出したら えた。キリイが、集めた枝に火を移す。その熱と光が、アシ = 0 ンしい。顔をしかめた。だが、それに関しては何も言わずに、答え の頬を赤く染めた。 る。 「もう目覚めるわ」 「レンケだと思う」 ゲイルが低い声で言った。 そのとき、モーネは、自分の服が、きれいに洗濯してあることに それとほとんど同時に、モーネが呻き声をあげる。キリイが、モ気付いた。顔つきが変る。おびえが全身を支配した。追いつめられ ーネの横に膝まづく。モーネが、突然、目を開けた。半身を起こした者のような目で、キリイたちを見回す。 てあたりを見回す。まだ目の焦点は、合っていない。 「君が、女の子であることは、もうわかってるよ」 「大丈夫かい ? 」 キリイがなだめるように言う。 キリイが尋ねる。初めて、モーネは、自分の周囲の人間に気付い 「だが、男の子のふりをしていた方がいいんなら、そうしてもかま たような表情を浮かべる。頭を軽く振る。 わないんだよ」 「ここは、・ とこ ? 」 モーネは、二人の若者と一人の娘を見つめ続けた。やがて、小さ つぶやくように尋ねてきた。 くうなすいた。アシロンは思わずため息をもらした。それほど、 「丘の中の都市の近くだよ」 緊迫したものを感じていたのだ。それが何かわからなかったが、こ キリイが答えてやる。 の少女が、少年をよそおうことには、アシロンたちの理解を越え 「丘の中 ? 」 た理由があるように思えた。 「そうだ。君たちの都市から、西へ向かった先にある丘陵地帯だ」 「男の子でなければならないんです、今のところは」 アシュロンが、ロを挾む。 モーネが、訴えるように言った。 「じゃあ、パッサだ」 「わかった。そういうことにしよう。さて、モーネ、我々は、あの モーネが、少年のような口調で言 0 た。まだ自分の正体がばれてレンケという都市に入れてもらえるだろうかね、こんな時間に」 いないと思っているのだ。アシ = ロンは、まだ充分に目覚めきって キリイが尋ねる。モーネは、わからないと答えた。 いないのに、もうすでに自分の正体を守ろうとするモ 1 ネの態度「とにかく、当 0 てみるとしよう。ここで野宿するよりは、あの外 に、半ば感心し、半ば不安を覚えた。 壁の下で寝る方がましのようだからな」 「この辺は、パッサっていうのか ? 」 アシ = ロンが立ち上がりながら言った。キリイとアシ = ロンは、 6 6
2 灰白色の平原が、さえぎるものもなくどこまでも続いていた。ほ とんど傾斜のない地表に掃かれたわずかな起伏の翳は、眼下にひろ がるその地上がま・ほろしなどではなく、現実のものであることを示 すわすかな証しであった。 弓い陽射しが平原に落ちると、その表面はあるいは粗く、あるい は濃密に、点刻模様をあらわし、描き出した。それは眼下の惑星の 表面に、厚くコーティングをほどこしたように見えた。 その表面の、かなり遠い位置を、黒い多角形の影が滑ってゆく。 それは時おり大きく形を変えた。 《アンドロメダ・アネモネⅡ》は自らの影を従えて、半球上を、何 回も旋回をくりかえした。 「老ドラム。まだ発見できないのか ? 」 船窓に集合眼を押しつけていたヒシカリが、視線を下界からコン ソールの老ドラムに移した。 《アンドロメダ・アネモネⅡ》は大きく旋回した。 「標識が消えてしまっているんだ」 「位置がわからないのか ? 」 「慣性航法装置では位置が出ているが」 「そこではだめなのか ? 」 「着陸位置を正確に知りたい」 シグナル 「標識が故障したのだろうか ? 」 「電力の供給が絶たれたということもある」 シグナル コンソールの標識指示ランプは死魚の目のように光を失ってい シグナル 「発信電波はタイプとの変成波で、パルスは七二〇〇サイク ルだ。間違えるはずもない。それに、こちら側の故障ではない」 「《城塞》に何かあったのではないかな ? 」 「もっと高度を下げてみよう」 船体がさらに深く傾き、スクリーンの中の地表が急速に拡大し、 せり上ってきた。 「老ドラムよ。この地表はいったい何でできているのだ ? 」 ヒシカリがまた船窓に貼りついた。 ・前回までのあらすじ・ 荒れ果てた惑星の植物人たちの村は星人に破壊され、生き残った 首長フセウと長老ヒシカリは伝承の古き都を求めて旅立つ。ロウホ ト族のスターズを加えた一行は海辺に星人の巨大宇宙船を発見し、 この悲劇の謎を解く何者かの到来を待ち受けるのだった。一方、地 球の人類の末裔がこもる《ワルハラの城塞》では、再生のための生 物学的特性を記したカードが謎の侵略者ツーリストにより破壊され る。情報収集のため第一委員フサと老ドラムは別個に地上に赴く が、フサは大都市を、老ドラムは干上った海底を見る。再度地上に 赴いたフサは幻影におそわれ、サイボーグ化した人類に原因不明の ツーリスト 組織の壊死が蔓延し、異星人の影におびえた人類が地下にこもり、 自らを記号化してゆく過程を見る。委員会はカードの再生に必要な アストリウムを求めて二隻の宇宙船を送り出すが、事故により老ド ラムのみが目的地に到達する。そこにフセウたちがいた。植物人は 惑星開発のサイボーグだったのだ。記憶の戻った長老の協力でアス トリウムの精錬と宇宙船の修理がなされ、老ドラムとヒシカリは核 融合反応により大爆発を起した惑星から地球へと帰還の途につく。 ツーリスト 一方、《ワルハラの城塞》は異星人の攻撃により次第に都市機能が 低下しつつあり、さらに大地震によって壊減的打撃を受けていた。 8
おれはヘリカーを発進させる。「北ラベリント・ 3 2 4 へ」へリ 。おおっぴらに銃を下げて、殺し屋だと名のりながらやってくる 殺し屋なんかいるものか。いや、おれは過去一度だけ、そういう馬力ーは三メートルほど浮上し、のんびりと道にそって動きはじめ 3 鹿というか度胸がいいというか自信過剰というか、そんな殺し屋をる。見あげる空は高いが、空は偽物だ。 「ラテル、アモルマトレイには市民行動監視装置が街中に張りめぐ 射ったことがあるが。 らされていたという伝説を知ってるか」アプロは高速言語に切り替 「特別任務なんだ」アプロが首のインターセ。フタ 1 を見せながらい える。昔はそれで個人の行動を追跡・監視し、異分子やサポター った。「海賊退治だ」 ジ人間を自動暗殺機械で粛清したとか。ケイマ・セルはこの伝説 「海賊 ? 知らんな。きいてないそ」と警官。 「あたりまえだ。おまえたちでは役に立たないからおれたちがいるのシステムで消されたのかもしれない″ ″ありうることだ。粛清システムも実在すればコン。ヒュータで管理 んだ」 ア。フロの言葉は警官の気分を害した。彼は銃をおさめて回れ右をされているだろう。しかし、それは伝説だろう、実在するかどうか し、一言もいわずにパトカーにもどった。同僚と短いことばを交すはわからない″ と、こちらにはなんの挨拶もせずパトカ 1 を発進させて、行ってし過去のアモルマトレイは、この宇宙船のような都市の安全の維持 のために、多くの反逆者や怠け者を厳しく処罰したらしい。それは まった。 「協力はしないそ、勝手にやれーーというわけか。望むところだ」歴史で学んだ覚えがある。しかし血と暗殺のイメージでおれたちが 「まずいそ、ア。フロ。市警の協力がないと少々やりにくいかもしれ粛清システムと呼ぶそんな機構が実在したのかどうかは、はっきり ない」へリカーに乗る。「 , ーーどうして ? 考えてもみろよ、インしない。おれもアプロもアモルマトレイの歴史については素人だ。 ターセ。フターは役に立たないと思わなくちゃいけない。ここの情報伝説程度のことしかわからない。専門家はそんな伝説を即座に否定 網はすべて中枢コンビュータににらまれているから、そいつが敵だするかもしれないし、あるいは、「そのとおり、実在していて、当 とすると、われわれは偽の情報しか与えられないのだと考えたほう時の市民はおおらかな気持でうけ入れていたようですよ。しかしこ のシステムは新火星歴〇五年に都市機構から切りはなされ、以後は が安全だ。となると頼りは人間のロコミだけだ」 「かまうもんか」ア。フロはヒゲをなでながらいった。「市警の人間使われていません。いま使えば犯罪ですよ。いわば独立国だった過 去とは異なり、いまのアモルマトレイは一地方都市にすぎません。一 も敵かもしれないんだ」 「フム、そうか、まあ、とにかくヒミコの身元はばれなかったよう自治権を超越した行為は火星連邦中央主権に対する反逆ですよ」 ーというかもしれない。こんなことならアモルマトレイの歴史をし 上を仰ぐといくつかの窓で、さっと首をひっ込める気配。海賊のつくり研究してくるのだった。 ア。フロはインターセ。フターでラカート月 立歴史資料館を呼び出 巣かな、ここは。
ろうか ? 」 に、死んだ自分たちの教官の名を、都市の名であるように告げた。 「へダス ? マーシュから何人か、ここに逃げ込んでは来たが、そ 「ワイドル ? 聞いたことがないな。どこにある ? 」 の中こよ、 冫。いなかったようだな。あるいは、おれがいないときに通 「南た、ずっと南にある。ここにくるまで、二年近く、かかった」 った人間の中にいたかもしれんが、わからん。どちらにしろ、マー キリイが、この惑星の暦を頭の中で計算しながら答える。 シュの人間は、ここにはとどまりたがらないからな」 「二年近く ? そいつは、ちょっとしたものだな」 隊長の男は、感心したように言う。だが、目の前に並ぶ顔が、若ティ = ットは、答えた。若者は、かすかに、気落ちしたような表 すぎるのに気付く。しかも女と子供まで連れているのは、それほど情で、頭を下げると、先に行って待っている仲間たちのところへ歩 の長旅をするには、不適当だと思えた。男は、その疑問を口にしみはじめた。ティニットは、娘の顔を見、思いついたように大声で こ 0 言った。 「おい、キリイとやら ! そのゲイルという娘を、おれに一晩、貸 「仲間が何人かいたのですが、死んだのです。残ったのが私たち三 人。この少年は、「四つの塔の都市」で、ヴィトグに連れていってしてくれないか ? 」 おれにも ! という声が兵士の中からも、発せられた。ゲイルの くれと頼まれたもので、仲間に入れたのです」 アシ = ロンが答える。この男は、やや年を食っている。隊長の男顔から、血の気が引いた。キリイは、にやりと笑いながら、振りか は、アシ = ロンの顔を見ながら思った。話し方でも、それがわかえる。 る。だが、妙ななまりのある言葉だとも思った。それも、この三人「いや、駄目だね。先約でいつばいさ」 がそれほどの遠方から来たのであれば、納得できる。どちらにし 意味ありげに、アシュロンの方を、身振りで示した。ティニット ろ、この旅人たちが、敵ではないことは確かなように思えた。 は、おおげさにがっかりしてみせた。兵士たちが、笑い声をあげ 「で、どこへ行くつもりだ ? 」 る。キリイも笑ってみせた。そしてゲイルとアシュロンの表情を 「ヴィトグです、人を探しに行くのです」 見、再び彼らとの間に溝ができかけているのを感じた。二人とも、 年に何人かは、ヴィトグへ向かう途中で、このレンケを訪れる旅キリイに馬鹿にされたように感じているのが、わかった。仕方ない こしちまうより、うまい切り抜け方が思いっかなかったの 人がやってくる。隊長のティニットは、ほとんど興味を失いかけてさ、冗談ぐ いた。早く次の見張りの兵士たちと交代して、酒でもひっかけ、柔だ。 らかいべッドに入りたいと思いはじめた。四人の名を尋ね、泊れる ゲイルは、兵士たちとキリイの双方に対して、怒りを感じてい 場所を教えてやる。礼を言って、歩きはじめようとした旅人の一人た。男とペッドを共にするのは、かまわない。だが、自分の意志で 9 が、振り返って、尋ねてきた。キリイという名の若者だった。 そうするのだ。僅かな言葉のやりとりであったが、自分が物のよう 6 「マーシュから、ヘダスという人間が、ここにやってこなかっただに扱われているのを感し、それに対して、怒りを感じていた。おそ
任があるだろう ? 」 けを呼ぶよりないからだ。手を伸ばして、触れてくる。交信のスイ 「早くしろ ! 」 ッチに触るのではないかと、キリイは冷汗が背中を流れるのを感し 6 門の中の声が、言う。 た。だが、男はそれで満足したらしく、手を離した。・フラスターを 「わかった。今、行く」 持ってこなくて、正解だった。キリイは思った。説明のしようがな キリイが、無造作に、門の間に身体をすべり込ませた。 、。背負ってきた荷物の中には、服と携帯食しか入っていない。携 たいまつの暗い光に慣れた目には、そこが、光で満たされている帯食の方は、再び、問題にされかけたが、キリイが用途をありのま ように思えた。だが、すぐに慣れる。光を発しているのは、三本のまに伝えると、衛兵たちは、それで満足したようだった。 支柱に支えられた一抱えほどの金属製の容器で燃えている炎だっ モーネは、まったく問題にはされず、ゲイルもアシュロンも、同 た。その照明器具が、四つほども壁沿いに並べられている。 じようなものだった。ただゲイルの持っていた応急処置用の薬を入 キリイは、その匂いから、燃えているのが石油の一種だと見当をれた箱が、衛兵たちの疑惑を呼んだ。 つけた。門から伸びている広い道の両脇に、間を置いて、同じよう「彼女は、医者だ」 な容器が置かれ、炎を燃やしていた。この惑星にしては、かなり遅キリイが言う。 い時間であるにも関らず、数人の住民たちが、道を歩いていた。 「医者 ? ああいかさま師のことか ? 」 「荷物をおろせ」 隊長の男が、馬鹿にしたように言った。 門の中にいた五人ほどの兵士の一人が、言った。どうやらその男「そうじゃない。彼女は、本当に、病人を治すことができる」 が、門の衛兵たちの隊長らしい。兵士たちは、かって、キリイたち アシュロンが言い返した。 の最初のキャンプを襲ってきた者たちとは、明らかに異なった鎧と「本当か ? 」 兜をつけていた。あの襲撃者たちは、ほとんど、黒一色の姿であっ 兵士の一人が、好奇心に駆られたように尋ねてくる。 たのに対し、この都市の兵士たちは、濃い朱色を基調にした鎧をつ 「本当た。病人を連れてくれば、わかる」 けていた。そし = その隊長とお・ほしき中年の男は、中でも、色鮮アシ = 0 ンが答える。 かな鎧をつけていた。鎧は、おそらくは鉄と思える金属片と皮のよ その兵士が、何か言おうとするのを、隊長の男が止める。 うなもので造られている。 「ラミイ、やめておけ。そいつは、あとの話だ」 隊長と思える男は、キリイの姿を上から下まで眺めまわした。 それから、四人の異国人に向きなおる。 「それは何だ ? 」 「おまえたちの都市はどこだ ? 」 腰につけた通信器を指さす。とっさに、自分たちの守り神だと答「ワイドル」 える。それは必ずしも嘘ではない。万が「の場合には、これで助本当の事を言うわけこよ 冫。いかなかった。キリイは、ためらわず
たき火から、長めの枯枝の東に火を移し、たいまつのかわりにす「東のコ四つの塔の都市」から」 「マ 1 シュからだと ? あそこには、もはや男はおらぬ筈だが、 る。 アシュロンとゲイルが先に立ち、キリイとモーネが、あとに続いな」 それが冗談であるかのように、兵士たちは、笑い声をあげた。 た。モーネ以外の三人は、小さくまとめられたパックを背負ってい アシュロンは、すぐに言いなおす。 た。旅人をよそおうためには、少々、荷物が少なすぎたが、ないよ りはましだろう。あるいは、近くで荷物を失ったことにしてもい「しばらく滞在しただけです。その前は、南からやってきました」 「何人だ ? 」 都市に近付くにつれて、道はしだいに広くなり、途中から、数知「ごらんのとおり、四人です」 れぬ車がつけた轍がはっきりと見てとれるようになった。モーネ兵士たちは、何事か互いに話し合っていたが、再び声をかけてき こ 0 は、前方をまっすぐ見すえて歩いていた。おそらくは、どのように してここまで運ばれてきたのか、自分といっしょに歩いている者た「門の前まで進め」 ちが何者なのか、尋ねたいことは幾つもある筈なのに、黙りこくっ アシュロンたちは、言われたとおりに、歩いた。 たまま、足を運んでいる。自分が少年のふりをしなければならない 門の割れ目に明りが近付いてきた。重いかんぬきをはずす音がす その理由を尋ねなかった者たちに対する礼のつもりなのかもしれなる。ゆっくりと門が押し開けられた。その途端、アシュロンは、自 キリイは思い、微笑んだ。 分たちが無暴な真似をしているのではないかという思いに襲われ レンケの外壁に到るまでに、三本のたいまつが必要だった。西側た。この土地の風習も何も知らずに、一種の好奇心とあせりだけ の外壁のすぐ外を、川が流れているのが、わかった。薄暗いたいまで、やってきてしまったように思え、あれもこれも、準備しておく つの光が、ぼんやりとレンケの門を照らし出したとき、何かがアシ べきだったことが、次々と頭の中に思い浮かんできた。 ュロンの目の前に突き立った。思わず足を止める。投げ槍だった。 身体を横にしてようやく入れそうな幅だけ、開くと、門の動きは 柄の先がまだ震えている。見上げた四人は、十メートル近い外壁の止まった。その隙間から、黄色を帯びた光が、外の闇にはみ出して 上に、数人の兵士が立っているのを見た。 「一人ずつ、入ってこい」 「止まれ ! 何者だ ? 」 門の中から声がした。先程の兵士の声とは、ちがう声だった。 兵士の一人が、呶鳴った。 アシュロンが、足を踏み出すと、キリイが制止した。 「旅の者です ! 中に入れてもらえますまいか ? 」 「おれから入る。アシュロン、あんたは最後がいいだろう。何かあ 7 アシュロンが言う。 ったら、あんたが、みんなを呼ぶんだ。指揮者は、全員に対する責 「こんな時間に、か ? どこから来た ? 」