タイム - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1981年5月号
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1. SFマガジン 1981年5月号

顔になっこ。 「えツ、み、みせて ! 」 小さく叫んで蒼くなったのはヒノだった。 〈なんじゃ愛の儀式のことか。地球人どもは性生活などと言ってお しかしタイムは平気な顔で、 るが、この惑星では愛の儀式と呼んでおる、優雅なもんじやろう ・カ : 。そうか、それが知りたかったのか。そんなことがのう。じ〈ええいいですよ。明日の朝一〇時ごろにしますから、あまり近づ 、いいだろう、プスプス ? 〉 つは″プラックホール人〃というのはな、地球年にして約七年に一かないで見て下さ、 度、この惑星の公転周期としては二年に一度だけ、愛の儀式を行う たずねられた。フス。フスはタイムの陰で恥かしそうにもじもじしな ことになっておるのじゃ。それが愛の周期なのじゃな。さて、それがらうなずいた。 いいのよね〉 が : : : ちょうどよいことには、明日の朝がその七年ぶりの愛の儀式〈ええ、ヒノさんの科学のためなら、 の日になっておるのじゃ。それでと : : : おおそうじゃ、さっき紹介ヒノはひっくりかえった。 した息子のキャプテン・タイムが、明日″プラックホール人″の美 8 女・フス。フスと愛の儀式をおこなうはずじゃ。ああ、これこれ : : ↓ 老人はスケスケ美女に命じてタイムを呼びに行かせた。 タイムはあいかわらずの形相であらわれた。 一時は大さわぎとなったが、ヒノはすこしして息をふきかえし みると、ひとりの″プラックホール人の若い娘をつれていた 9 た。そしてアールやシオダになぐさめられて、床についた。調査員 ・フス。フスだった。 の異星の恋の結末は常に悲しいものなのだ。 ヒノは思わず立ちあがった。 翌朝もここ桃源郷は快晴だった。 〈ま、ヒノさん、お世話かけたのね。わたしうれしかったのね〉 紫色の空はあくまでも高く澄みわたっていた。 「いやあ、おめでとうございます。おめでとうございます」 三人は朝食をすますとすぐに、ホールホール老人によって、草花 ヒノは複雑な顔つきであいさっした。 の世界へと案内された。 タイムは生き生きとしていた。 そこはけわしい山壁によって囲まれた広い肥沃な盆地だった。 〈ぼくたち、明日結婚することにきめたのです。それで、あの集落しばらく歩くと腰ぐらいまでの高さのくきに小さな白い花が = 面 から。フス。フスに来てもらったんですよ : : ↓ に咲いている花畑に出た。 ホールホール老人はキャプテン・タイムに言った 9 〈このあたりいったいが、わしが苦心して栽培した『プラックホー けし 〈タイム、この連中が愛の儀式を見たいといっておるのだ。卵子とル芥子』の畑じゃ。よく見なさい。白い花のひとつひとつに、黒い 精子の話はわかったが、その前段階がわからんらしいのだな。おま色の花粉がついておるじやろう。それがミニミニなのじゃ 3 え、明日の儀式を見せてやってくれんかな : : ↓

2. SFマガジン 1981年5月号

ホールホール老人はふたりをたしなめた。 アールはしょざいなげに、そのへんをうろうろした。 〈厳粛な瞬間じゃそ。興味本位で見てはいかん。あくまでも学問的 9 近くの花畑の道で、昨夜のスケスケ美女ロポットが働いていた。 2 にな、学問的に : : ↓ アールは近寄って声をかけた。 「は、はい」 . 『きみ、名まえなんていうの ? 』 『デジャ ヒ / とシオダはあわてて坐り直した。ヒノは眼をしばたたき、シ ー・ソリスよ』 アールは花を摘んで東ね、その美女ロポットにささげて、 オダは調査 / ートをパタ。ハタさせた。 『アールデジャーのんに花束を ! 』 老人のいうとおり学問のためなのだが、やつばりどうも落ちつか ないのだ。とくにヒ / は、一度は愛し合った仲であるだけに、とく ( ロポットだからこのていどでも上出来なのである ) べっ複雑な気持ちになるのだった。 ・ハ力なことを言っているうちに、数分して後方で、ドスン・ハタン ギャーツというびどい物音がした。 小高いその丘は、一同が腰をおろした場所から二〇〇メートルほ どはなれていた。だから、キャゾテン・タイムやプスプスの表情ま アールがあわててとびあがった。 ではわからなかった。 老人がニャニヤした。 しかし、その動作から、若い二人の心が燃えていることだけは、 〈お前さんがおっこちた音じゃよ。心配するな。こうしてぶじにお はっきりと感じられるのだった。 るんじやからな : : : 〉 アールは情けない顔でデジャ】・ソリスのそばをはなれ、皆と並タイムが丘の頂上にゆっくりと腰をおろした。 プス。フスはしばらく立ったままだったが、タイムにうながされ んで腰をおろした。 そのとき、前方の丘の上にキャプテン・タイムとプスプスがあらて、そのそばに恥かしそうに坐った。無数の糸状の脚が若草のよう にひろがった。六本の鞭のような腕が自分の胴を抱きしめた。 われた。 いよいよはじまるのである。 なかなかの好カップルだった。タイムの上半身は″・フラックホー ル人″に似ているので、坐るとほとんど区別がっかなかった。腕も 9 これまで見せていた左右二本のほかにあったらしく、いま坐ってい るのをみると、やはり六本のしなやかな腕を胴のまわりに垂らして 「で、でましたな」 ヒノが首をのばした。 ホールホール老人のいうとおり、たしかに混血なのだ。 タイムと・フスプスの身体は二メートルぐらい離れていた。 「どうなるのかな ? 」 シオダものびあがった。 ふたりは離れたまま一度顔を見合わせると、そのままの姿勢で、

3. SFマガジン 1981年5月号

の″ヒノシオ号″に乗ればよろしい。それと、ヒ / シ . オ号の最終的″プラックホール人″の集落ではどこでも、今日夫婦や恋人たちが 0 な運命はもうきまっておるのじゃ。お前たちが到着前にすでにその同じことをしているんですよ。そういう人たちのほうが、ずっとい 5 2 最後を見ておるのじやからな ! 〉 せいのいい霧を出すんでしようがね、キーツキッ〉 「は、はあ、あの・ : : ・」 「いや、とんでもない」 しかしヒノやシオダは、それ以上反論することはできなかった。 ヒノがあわてて首をふった。 なにしろ科学的忍法をつかう超老人なのだ。すべては仰せにしたが シオダがたずねた。 うほかはないのである。 「あの、それで、頭は軽くなられたのですか : ホールホール老人は、しょげているヒノとシオダを無視して、住〈そうですね。ぼくの場合は混血だから、埋葬はまだあまりしてい 居のほうへ歩きだした。 ないのですが、それでも母の・フラックホールを父と分けあって受け そこへ、キャプテン・タイムと。フスプスが丘から降りて合流しついでいますので、若干重かったんです。それが、今日の儀式でス こ 0 1 ッと軽くなったような気がしますね、キーツキッ〉 〈いや、あつばれじゃったそ〉 プス。フスもうなずいた。 老人は若いふたりをほめそやした 2 それから一向は、ホールホール老人の客間にもどり、帰りの準備 キャプテン・タイムは、ほっとしたような表情だった。。フス。フスをすることになった。 は六本の腕をタイムにからませて、恥かしそうだった。足もともま だよろけがちだった。腰の力がすっかり抜けてしまっているらしい。 4 「どうもありがとうございました」 シオダが丁重に礼を述べた。 キャ。フテン・タイムは、見かけは気味のわるい顔をしているが、 「貴重な経験でした。視野が拡がりました」 じっさいはなかなか親切であり、またヒノやアールを乱闘で窮地に ヒノが、。フスプスへの慕情をたちきるように、しゃちほこばって追いこんだことでもわかるように、なかなかの切れ者だった。 おじぎをした。 恋人。フス。フスとの逢瀬の間をぬって、昨日のうちに、シンジケー 『感謝感激です』 トの小親分のパラド、子分のツクス、それにイイイとヤャヤとヨョ アールも礼を言った。 ョの三人の″ペテルギウス人″とをきびしくとりしら・ヘ、その悪事 キャ。フテン・タイムは快活に返事をした。 の全貌をつかんでおいてくれたのだった。 〈いえいえ、どういたしまして。お粗末なものをお見せしました。 〈これがその取りしらべ調書です。《コンサルタント社》とやらに この惑星では二年に一度の周期で愛の儀式がおこなわれるので、持ち帰れば、喜ばれるでしようよ、キーツキッ〉

4. SFマガジン 1981年5月号

〈ゃあ、あのときは失礼しました。もっともタイムトラベルの関係 〈うむ、アレじゃ。性教育もアレなのじゃよ : : : 〉 で、あなたがたとドンパチや 0 たのは今より未来になるわけですが 2 2 「ははあ ? 」 ね。つまり、おやじがミ = ミ = を玄関にまいてあなたがたを シオダはまたわからなくなったようだった。 呼びよせたさっきの時刻は、あなたがたが川 のほとりで昼めしをく ヒノが口をとがらせた。 っていた時刻になるわけですからな : : : まあ、いずれにせよすまん 「アレアレ 0 て何だねシオダ、教えろよ。おれがジャンプ中にことをしました。わたしもおやじに呼びよせられて未来からいまこ 読んだにはそんなのなかったそ ! 」 こに着きましてな、ロポットから話をきいたところです。あなたが 〈いまはよかろう。夜が明日にな 0 たら教えてつかわす。ほれ、こたはじつは善玉だそうで、キー ' 、キ , キ , 〉 の中に書いてあるんじゃ、この中に〉 「いや、こちらこそ失礼しました。レーザ銃で撃ったりしまして」 老人はビニール本をたたいてニャリとした。 ヒノは頭を下げた。 シオダはこの件はこれでやめにし、さいごの質問にうつることに 「わたしは戦争のときはもうジャン。フに入っていましたが、シ した。質問は体験者のヒノがかわってした。 オダと申します」 「『プラックホール鴨』のとびかたもふしぎでしたが、われわれ『どうもどうも』 は、それと全く同じとびかたをする奇怪な天馬にまたが 0 た怪人物シオダとアールもあいさっした。 に襲われました。たしかキャプテン・タイムとか言ってました。あ キャプテン・タイムは快活に笑った。 の怪人はいったい何者だったんでしようか ? 」 〈いやあ、わたしもあぶなかったですよ。久しぶりに『プラックホ 〈ああ、あれかーー・〉ホールホール老人は手をたたいてスケスケ美ール銃』や『ホワイトホール銃』を使いましてね、キー ' 、キ ' 〉 女を呼びながら言った。〈ーーーあれはわしの息子じゃよ。恥かしな キャプテン・タイムは天馬にこそ乗っていなかったが、その姿形 がら、わしと″プラックホ 1 ル人″の妻との間にできた息子なのじはあいかわらずだった。 ゃ。いまロポットに呼びに行かせよう : : : 〉 麻のような黒い髪にプラックホールだらけの白い顔。そして大き ヒノもシオダもアールもいっせいにのけぞった。 く見開かれた黒い右眼と白い左眼 ! ただ、その動作や表情は天を飛んでいたときとはうってかわった 3 穏かさで、三人を安心させていた。 身体つきをよく見ると、上半身が″プラックホール人″に似てお のけそった三人がやっと坐りなおしたとき、あの、旧敵キャ。フテり、 下半身が人間に似ていた。 ン・タイムが部屋に入ってきた。 〈おやじの命令であなたがたを追いはらうためにあんなことをしま

5. SFマガジン 1981年5月号

さっきみなづき : ときのうつうひたのしまん ・緑式部タイムトラベル日記巻十ニ 「源氏殿、お久しゅう」。緑式部が一年のタイムトラベルを 終えて、平安の世に戻ってきたのだった。「大儀てあった。 そちの仕事、我、高く評価す」と怒る源氏は ねぎらいの言葉をかけ、トラベル中に預っていた 緑式部宛の手紙や書類を手渡した。緑式部はそれを 受取るや否や、「積立報告」と表書きのある書類を捜して 封をあけた。「一年の貯え、いかばかりか」と期待の面持ち。 しかし、その口からもれた言葉は「な、な、なんとせん」 書かれていた積立額は年前のまま 緑式部は、うらめしそフに怒る源氏を見つめ、そっと最後の 報告書を護した。そこには「昭和の世には天引積立なるものあり。 本人居ずとも、積立てらるるものなり」と書かれていた。 みなさまのお役に立っ 三和墾イ

6. SFマガジン 1981年5月号

にな、お若いの : : : 〉 。フスプスは六本の腕をふりまわしてヒ / にからみつき、情熱的な「決して忘れはいたしません ! 」 キスをした。どうやら、激しい抱擁とくちびるヘのキスは″・フラッ こんどはヒノが大声で答えた。 クホール人〃の別れのあいさつらしかった。 こうして、名残りを惜しみつつ、着陸したばかりの″ヒ / シオ ヒノのくちびるはまたもそこだけ時間が狂ってしまい、しばらく号。にのった三人は、ゆっくりと地表をはなれるのだった。 はロがきけなかった。 「もぐもぐもぐ」 想い出ぶかい《タイムマシン惑星》の全景が、スクリーンの中で 『プラックホ】ル天馬』にまたがるキャ。フテン・タイムは、そんな遠ざかりかけたころ、操舵。 ( ネルを自動に切り換えたヒノが、しみ 。フスプスとヒノのようすを微笑して見守っていた。白い眠と黒い眼じみとした口調で言った。 プラックホール・ハウダー ホワイトホール・ ( ウグー が雄々しく、また優しく、光ったり光を曲げたり吸収したりした。 「ミニミニとしし ミニミニと じつに さいごに、ホールホール老人が念をおした。 すばらしい科学的資源の産出する惑星だったなあ。このふたつがあ 〈土産のほかに、 この″ヒノシオ号〃をもう一度ここへ戻すためのれば、できないことはないなあ。いまに《タイムマシン惑星》の文 ミニミニをタイムに命じていま大量に積ませておいたが、そ 化が銀河を支配するんじゃないかなあ : : : 」 のわけはわかるじやろうな。母船の″プラ号″とやらに着いた この言葉をきいて、調査ノートをひろげていたシオダが、小首を かしげた。 ら、そので″ヒノシオ号″を戻してもらわんと、シンジケー トの連中を帰す船がなくなり、すべての論理が狂ってしまうのじ「ぼくはいま、遠ざかるあの惑星の地表を見ながら、そのことを考 ゃ。たのむそ、お若いの : : : 〉 えていたんた。″・フラックホール人″たちは、ホールホール老人の ヒノもシオダも大きくうなすいた。 助力を得なくたって、無限に文明を発展させることができるはず 「もちろん、そのとおりにします。論理がくずれたら、われわれのだ。今ですら、あのむすかしい性教育がうけられるんだからね。だ 調査成果もなくなってしまうわけですから : : : 」 が、じっさいには、意外なほど原始的な状態にとどまっている。惑 シオダのこの返事に、老人はアカンべ工をした。 星の寿命の長さから考えても、これはすこし変だ。なにか原因があ 〈お前たちの活躍には、死んだこの妻も感心しておることじやろるにちがいない : : : 」 う。言うまでもないことじゃが、この惑星の諸現象は、ブラックホ 「おいおいシオダーーー」ヒノがあきれ声を出した。「ーーーまたなに ールの粉末と反重力物質さえ認めれば、あとはすべて = 、ートンとか学術的なことを考えはじめたのかね ? 」 アインシュタインの方程式で説明がつくのじゃ。サイエンティフィ シオダは淡々として言った。 ックなのじゃなあ。イワシの頭もみな科学ということを忘れんよう「ぼくの仮説をいうと、文明の進展を阻害している原因は、たぶん こ 0 254

7. SFマガジン 1981年5月号

ハード SF の危機を回避すべく惑星の謎に迫るヒノシオ ! 大団円なるか ! ? タイムマシン惑星 ( 中篇 ) 石原藤夫 イラストレーション・横山宏 幻 4

8. SFマガジン 1981年5月号

小高い丘を中心とした桃源はしんと静まりかえり、ときおり吹く 紫の空の一点に視線を移した。 やがて、タイムの六本の腕が、その空の一点に向けて伸ばされやわらかな風の音と『・フラックホール芥子』のそよぎだけが、異様 た。つづいて、。フス。フスの六本の腕もしなやかに、同一方向に伸ばに大きく耳にこだましていた。 された。 数分たった。 とっぜん、ホールホール老人のしやがれ声が静寂をやぶった。 〈見よ ! あれが愛の瞬間じゃ ! 〉 ヒノは首をひねった。 いつのまにか、老人は立ちあがっていた。 シオダも小首をかしげた。 ヒノは眼をしばたたいた。 / ~ 。 彼こよ何も見えなかったからである。 『オリン。ヒックのポスターみたいな格好してますなあ』 アールが遠慮のない声をだした。 「しいツ」ヒ / はアールを制し、それから小声でシオダに話しかけ シオダは小首をかしげ、スパイグラスの焦点を合わせた。場所が た。「ー、ー・どういうことになるのかね、離れて坐って体操みたいならを考えて、これまでは使わないでいたものである。 ことをして。準備体操すましてからヒシと抱き合うのかな ? 」 〈おお、愛じゃ。愛は宇宙の神秘じゃ。おつ、見よ、線じゃ。愛 「いや、そういう気配も感じられないなあ。むしろ、今のあのポー の結晶じゃ ! 〉 ズになにか大きな意味があるのかもしれない。とにかく厳粛な気持老人はしわがれ声をはりあげ、昻奮して倒れそうになった。 ちでやってるようだからね : : : 」 アールがあわててささえた。シオダは丘の上をスパイグラスでじ っとにらみ、それから七ッ道具の中の線検出器をとり出して調 シオダのぼそぼそした話を耳にして、ホールホール老人がまた二 べ、首をひねり、それからハタと手をうった。 人をたしなめた。 、よ、よは「お、おい。なにかわかったのか ? おれには何も見えないがな。 〈なにをゴチャゴチャ言っとる。静かに見学しなさい。しし じまるのじゃ。学問のためだからこそ下賤なお前たちにも見せてやあの二人はずっと同じポーズのままのようだし : : : 」 っとるのじゃそ ! 〉 ヒノが、そんなシオダのようすに気づいて、低いかすれた声でさ ヒノもシオダもあわてて口をつぐみ、坐りなおした。 さやいた。 しばらく、そのままの状態がつづいた。 シオダは老人を気にしながら、小声で話した。 タイムとプスプスはそのポーズのまま彫像のごとく動かなくな「スパイグラスで眺めるとわかるんだが、タイムと。フスゾスが六本 り、それを見つめるホールホ 1 ル老人の表情はますます厳粛なものの腕を伸ばしているその方角に向けて、二人の身体から、霧のよう となっていった。 なうすいガスが流れ出ているんだ」 2

9. SFマガジン 1981年5月号

した。 老人はさすがに真剣な面持ちだった。 〈太陽系へのお土産にな、この仙境でとれたミニミニをジー 〈いやなに、わしの忍法をもってすれば、五人や六人はなんでもな ブの荷台に山盛りいつばい進呈することにしよう。また、貴重なミ いのじゃがの。むずかしいのは万能ジー。フに積んだ大量のミニミニ ニミニや反重力物質粒も一袋ずつ進呈することにしよう。受やタイムの天馬に積ませたミニミニⅡなのじゃ。つま けとりなさい〉 り、・フラックホールを・フラックホールによってジャンプさせな 「ははあーーー」 ければならん。それに、 ミニミニや反重力物質も少量じゃが ヒノとシオダは大感激してその場にひれ伏した。 土産に加えてやったからの、ホワイトホールの涌出や反重力物質の 老人は満足そうに、 斥力にさからって・フラックホールによってジャンプさせるーーーとい 〈ま、それぐらいあれば、地球の・フラックホール・サイエンスもちう曲芸もせにゃならん。それがむずかしいのじゃ。だが、わしはや っとは進歩するじやろう。また、お前たちが″ヒノシオ号″を紛失ってやるそ。この芸だけは、まだ息子にはできんのじゃ。これタイ した損害についても、補ってあまりあるから、上役からとっちめらム、よおく見ておけよッ ! 〉 れることもなかろうて。ではそろそろ出発するかな : : : 〉 老人はタイムにこう呼びかけると、一歩下がって両脚をふんば 「よろしくお願いいたします」 り、杖を逆手にもって呼吸をととのえた。 ヒノとシオダはそろって頭を下げた。 つぎの瞬間、老人の細い腕が閃光のように動き、裂帛の気合が濃 霧をつきやぶった。 5 〈忍法プラックホールツ、 工ャー 4 老人を含めて一同六名は、たちまちのうちにの主人公になっ ホールホール老人は一同を、岩戸の前の霧ふかい岩棚の上に整列た。 させた。天馬にまたがったキャプテン・タイムや恋人のプスプスも ヒノもシオダも、前回のジャンプ以上にスベオペのヒーロー っしょだった。 として活躍し、の古本を集め、ミニミニをあっかったハ 「ご老師ご自身の他に五人と万能ジー。フを一緒にジャンゾさせ ードを書き、美女とノーベル賞やヒュ 1 ゴ 1 賞や星雲賞や日本 るのですから、たいへんですねえ」 大賞に埋まり、銀河の正義のために闘いぬいた。 ヒノが老人のやせこけた身体を眺めて、ちょっと心配そうな声を長い長い一瞬がすぎた。 かけた。この岩棚に道がついていない理由は、もちろんふだん 一同は、ヒノとシオダがこの惑星に着陸した直後の、その着陸地 ジャン。フで出入りしているからであるが、こうも大勢いっしょでは点のすぐそばに出現した。 どうなることか ヒノとしても心配になったのである。 ヒ / もシオダも幻覚の中でその業績を褒められすぎて、すっ 252

10. SFマガジン 1981年5月号

徴を表にすると、つぎのようなことになるだろう。 これらとはちがって反重力物質は、・ とちらかというと的用語 なので ( ただし重力遮断物質ほどは的ではない ) 、空想的な解 2 反物質正物質と逆の電荷および磁気モーメントをもち、説書にときおり出てくるていどである。いちばんくわしく述べてく 正物質に衝突すると一〇〇パーセントがエネルギるのは、たぶんクラークの『未来のプロフィル』 ( 早川書房 ) であ ーにかわってしまう。質量は正。二〇世紀にすでろう。 に発見されていた。 なお、・フラックホールとホワイトホールは常に対をなして語られ 反重力物質正物質 ( および反物質 ) との間に引力ではなく斥るが、それは吸収孔と涌出孔という対であって、物質の正反や正負 力が作用する特殊な物質。その質量が正か負かは とは直接の関係はない。つまり、通常のプラックホールやホワイト 斥力ということだけではきまらないが、たぶん負ホールは正物質の重力的極限として形成されると考えられる。また だろうといわれる。また、反重力物質相互の力が反物質だけでできる・フラックホールやホワイトホールも想像するこ 引力か斥カかもわからない。二〇世紀では未発とができる。 見。重力遮断物質とはまったく別もの。 閑話休題ーー 負の物質質量がマイナスである物質。図 4 にあるように正 3 物質を押しのけるが、正物質からは引かれる。負 4 物質間には斥力が作用する。正負両物質の共存は 虚質量の導入を許容すゑ一一〇世紀では未発見。 この惑星に到着して以来のほとんどの謎がとけて、ヒノやシオダ がほっとしたとき、小高い丘の上のキャ。フテン・タイムとプスプス 《タイムマシン惑星》に大量に産する反重力物質は、反重力の性質もほっとしたようだった。 と同時に負物質の性質をそなえているものだが、正物質と図 4 のご天空に向けていた六本の腕を下におろし、いかにもぐったりとし た様子でうずくまったのた・ とき鬼ごっこをする推力を利して、それにつながる他の正物質に加 速度を与えるという特質をも有しているのである。 「おわったのかな : ・ なお、負の質量に関しては、ソ連の物理学者テルレッキーの『相ヒノが、額の汗をぬぐいながら、かすれ声で言った。 対性理論のパラドックス』 ( 東京図書 ) がくわしい。また虚の質量 〈いやあつばれ、見事な儀式じゃった・ふたりともわしの著した に関しては、最近はやりのタキオンについての解説書にいくらでも『性の神秘』によって勉強しただけのことはあるわい 述べられている。一方反物質は実在の物質だから、物理学の教科書ホールホール老人は満足そうに言って眼をほそめた。 を読めばよい しばらくして、キャプテン・タイムが立ちあがった。そして、ね