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検索対象: SFマガジン 1981年7月号
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1. SFマガジン 1981年7月号

みはど - った ? ・ 何も 気づかないかね ? マ ェロキュスの遺体を 青耳の再生センターに わざわざ送ってきた しかし何日もたって とっくに再生に まにあわなくなって しまったのをだ こんなことはなかった 思考判断が なにかのせいで 狂ったような おかしな 行動の 連続なんだ みようなことを やってなければ ししカ・ この一年 何の報告も してこないし ついには 調べて もらえないか ? 急を要するのだ 思考判断が 狂ってた場合ーーー彼が 何をやらかすと みような それを 我々は 重犯罪の セクションじゃないから .. こ [ 殺人許可は ないのたかーーーね 殺人の 可能性た 0

2. SFマガジン 1981年7月号

「細野さん。と言っても、あなたはお忘れでしようが」 細野は。ホカンとその様子を眺めていた。ーーー気違いだろうか ? ヤノ警部補は微笑んだ。細野の脳裏に記憶が閃光のようにひらめ 「さ、とれた足はこれでもう大丈夫。安心して行って下さい。我々 が常にガードしていますからね」 「あ ! 夕、タイムパトロールの : : : 」 やさしい声だ。ゴキ・フリはチョロチョロと羽目板の間にもぐりこ んで行った。その後ろ姿を、男はうっとりと見送っている。ーーー・気「おや」 ヤノ警部補は顔をしかめた。 「消去が不充分のようだな。もう少し強化するように、二課の連中 こっそり逃げようとした細野の足音を聞きつけて、男がふり返っ た。そして大またで彼の前にやって来ると、内ポケットから金色のに言ってやらなきや」 —カードをチラリとひらめかせて、言った。 ひとり言のようにつぶやき、気をとり直して再び細野に笑いかけ クイムボリス 「時間警察捜査一課のヤノ警部補です。またお会いしましたね、える。 「でも間に合ってよかった。あなたはもう少しであの方を殺してし 5 まうところでしたからね。全く危いとこでした」 「細野」 1 E 0 0

3. SFマガジン 1981年7月号

が、やがて戻って来ると、相変らずポケラ ~ ッと座りこんでいる細かに小さな物であろうと、絶対に許さない。それが我々の任務でし 野の前に立ち、踵を合わせて敬礼してみせた。 て、違反者は : : : 」 「どうなるんです ? 」 「御協力、感謝します」 「これですよ」 ニッコリと笑ってそう言うと、懐から今度は金色に光るカー ヤノ警部補は「ギーツ」という音を出しながら、右手の人さし指 ドを取り出して、細野の眼前にチラリとひらめかせた。 タイムリス 「時間警察捜査一課のヤノ警部補です。手配中の時間犯罪人ドクタで自分の首を横にこすってみせた。そのしぐさは細野をして、なん ・サカモトが十三世紀の日本に潜伏中との通報を受けまして、アとなくぞくりとさせる、うそ寒い雰囲気に満ちていた。 ジトを急襲したのですが、あと一歩のところでとり逃しまして、ま妙に顔青ざめて黙りこんでしまった細野に、ヤノ警部補は再び素 あ、かろうじてやつのジャン。フに同調できた私一人が、こんなとこ晴しい徴笑を投げかけた。 ( 一体いくつくらいなのだろうか。年齢 ろまで追ってきたというわけです。いやあ、なんとも面目ない。しのよくわからない顔つきだった。ひょっとしたら、彼らに年齢など ないのかもしれなかったが : : : ) 。 かし、あなたのおかげで本当に助かりましたよ。ここで見失うと、 「じゃあ私はこれで。まだ犯人護送の任務が残っておりますし、カ またちょっと面倒なことになるところでした」 マクラの方の後処理も大変ですので : : : 。失礼 ! 」 細野の頭の中を、さまざまな想念がめまぐるしく走り回った。 。ハッと敬礼する。その姿が瞬間またたいて、フッと消えてしまっ ーまさか・ーーーでもーー・ー・ひょっとしたらーーーしかし , ーーーあるいは た。路上に横たわっていた、ドクター・サカモトとかいう犯人の体 もしかして : も一緒に消えていた。 / ~ 後こ残ったのは、風と、阿呆面をした細野だ 「タイムパトロール・ け。 「この時代になると、皆さんわかりが早いんで助かりますよ」 確かにその姿を見、声を聞いたにもかかわらず、まだその存在を ヤノ警部補がニコニコとうなずく。 「この男は ( と顎をしやくって ) 、例の元寇を成功させようとたく信じきれないような、たった今の出来事なのに、その記憶だけに薄 らんで、当時のカマクラにタイムトラ・ヘルしたらしいんですな。 い膜がかかっているかのような、妙な感じだった。あれは本当にあ ったのだろうか ? 細野はあえて声に出して言ってみた。 1 馬鹿なやつだ」 。もし、成功してたら、一体 : : : ? 」 「元寇 : 「夢を見てたのかな ? 」 「さあね」 しかし次の瞬間には、それが決して夢ではなかったことを、はっ ヤノ警部補は器用に肩をすくめた。 ~ きりと思い知らされた。額にできたでつかいタンコ・フが、急にズキ タ「ムまリス 「しかし、我々時間警察のあるかぎり、こういう気違いどもに勝手ズキと痛み始めたのである。 な真似はさせませんよ。歴史を改変しようとする試みは、それがい 2

4. SFマガジン 1981年7月号

「南カリフォルニア大学 ? 」 さらにもっと小さな声で、・フリッジウエルはいった。「あなたに また首を振る。「ミズーリです」 お嬢さんはいませんわ。まったく一人も。わたしだって予習して来 「ああ」と彼。「いい学校だ」チャ 1 ヴェイスは間をおいた。「こてるんです」彼女の濃い瞳がさらに大きくなったように見えた。 こに来たのは業務命令かね ? 」 「ニューメキシコ計画についてすべてを知っているわけじゃありま 三度目の否定。「自分の時間を利用して来ました」 せんーーーだからこそここに来たわけで。でも、うわさを縫い合わせ 「ああ」チャーヴェイスはもう一度いった。「意欲的だね。それることはできますわ」ちょっと間をおいた。「局から古い映画を借 で、わたしと、〈ニューメキシコ計画〉について話がしたいわけり出すことまでしたのよ。きのう、それを四回見たわ」 チャーヴェイスは、違和感が戻ってくるのを感じ、疲れ果てたよ 顔には職業的な冷静さを、声には熱意を込めて、彼女はいった。 スポンのポケッ うな気がし、さらにーー畜生 ! ーーー老いを感じた。・ 「ええ、心から。ワイオミング大学の同窓会誌を見るまで、こんな トから鎮痛剤の容器を手探りして出し、そして開かないまま戻し 近くに住んでいらっしやるとは思わなかったんです」 た。「空腹じゃないかね ? 」彼はいった。 「どうやってわたしを見つけ出せたのか、不思議に思っていたんだ「そう思っていただいてけっこうですわ。朝食をとらないで来たん よ」チャーヴェイスはため息をついた。「母校に裏切られたか : ですもの」 ・ : 」鋭い眼で彼女を見る。「わたしはインタビュ 1 を許可しない。 「昼食か何かとるとしよう」チャーヴェイスがいった。「いっしょ たとえたまたま家に引き入れてしまったとしてもだ」彼は立ち上が にダウンタウンへ行こう。出るときにミス・オハンロンをおどろか 、徴笑した。「きみは階段を使いたいかね、それとも木をすべりさないよう、注意するんだよ」 降りる方がお好みかね ? 」 「くトリシアってどなたですか ? 」 オハンロンは階下の廊下で二人と出くわしたが、ポカ 「娘だ」チャーヴ = イスはロを開いた。「わたしの過去の思い出イスを見せただけだった。「若いお嬢さんと二人ぶんの昼食が必要 ですね、チャーヴェイス博士 ? 」 「わたしも家族を虫に殺されました」と、・フリッジウエルが小さく「今日はいらないー とチャーヴェイス。「いや、ありがとう。ミス いった。「わたしの両親は悪い時期にビロクシにいたんです。蜂は ・プリッジウエルとわたしは外で食べるつもりなんだ」 二人に一度も触わりませんでした。二人とも、殺虫剤のせいでやら オハンロンはじっと彼を見た。「お薬はお持ちですの ? 」 れたんです」 チャーヴェイスはズボンをたたいてうなずいた。 チャーヴェイスの関節の痛みが、氷の針のように刺した。彼は立「暗くなるまでには帰っていらっしやるんでしようね ? 」 ち上がりーーじっと見つめた。 「ああ」と彼。「その通り。もしそうならないようだったら、電話 さ」 6

5. SFマガジン 1981年7月号

号だ。その返事ではこちらの警告にすこしも愕ろいていないようだ ◇ ナ。承知でやっているのか、サンタ・マリヤ、この空域はわれわれ ェクストレーム の海図のもの以外に航須はありえない最果てだゾ。 1 度くるっても 音のない、動くものの気配はもちろん、それ自体形と果もない。 どこへも着きっこない。正気か、サンタ・マリヤ」 そしてもし太陽が蝕していれば・それは外惑星界では地球での数百「正気だ。そしてあんた方の言ったことも残らず承知だ。うっちゃ トレス 倍度も多くおこることだったが・神話の女王の宝石箱のやうにギッ っといてくれ、」 シリと詰まって輝いている満天の星のほかは光さえがない空間をな「そう聞いてうっちゃっとけると思うのか。、道義的にも、宇宙法か がれてゆく船の姿は、なにか夢のなかの淡い映像に似ていながら、 らも。知ってやってるなら自殺行為だし、だいいち船舶法違反だ 灯光を放っているかぎり意想外の遠くからでも見る者の目に入ってそ。サンタ・マリヤ、止まれ ! いま添乗保安兵をむける。乗客全 くる。 員の意志かどうか、司法科が取調べたいと言っている」 「そこへゆく船ーーー」 「ことわる ! 」 との無電が呼んだ、 「ー聞えるか」 との艇がいった。、「くそでもくらえ。乗客なんかいやしねえ。、 「きこえる」が応えた。「なにか用か」「用というほどのものは おれひとりだ。よけいな世話アやくな ! 」 オスチオ ない」とが言う【 の船はしばらく黙り、三十秒後に舳ロのあく灯光が闇にビカリ 「だが貴方がたはどこへ行こうというのだ。こちらは宇宙軍ネレイ として小さい船艇がはなれ出ると、おなじ無電が硬化した口調で ド基地の輸送船だが、われわれの航須を度も外れている貴方がた「無届け航行船サンタ・マリヤ」 の行手を心配してお訊ねするしだいだ。その方向はどこへ到着する と呼びかけた【「挙動不審と宇宙法ならびに海王星域條令違反で 角度にも合致しないことを貴方は知っているのか。冥王星界は貴方検挙する。すなおに訊問にこたえ、また当方の検東におうじるべく の陰舷六〇度だし、内惑星たちはその反対がわだ。貴方はわれわれ減速しなさい。乗員は何名で、それそれの身分と姓名は何だ」 この星域を往き来するものの海図のすべての航路から完全に逸脱すこたえる無電は冗談とも罵詈ともっかぬ卑猥な言葉を投返しただ る危険をおかしている。そのまま行けば貴方がたは太陽系を出てしけだった。 まい、果のない無限空間を漂うことになるーーー」 「サンタ・マリャー・不ましめにもほどがあるそ ! 」と此方は叫ん 「とまれ ! 応しなければ法の名において射撃するしかない」 「聞いているのか、船」 「射ってみろ」 「聞いているーー標識が読めるだろう、名で呼んでくれ」 ど相手は冷やかに言放った。「「法の名」なんそに恐れ入る昼と 3 はつば はなび 「わかったサンタ・マリヤ。こちらは海王星第四連隊輸送班んびちゃねえそ。こっちにだって火箭もあれア爆雷もある。射合い はて ふね

6. SFマガジン 1981年7月号

っこ 0 での三分の一ちかくまで減ったことを知っているかね ? 」 私は椅子から立ちあがりかけているのに気づいた。 「ジョンは、あなたがたが門をくぐったとたんに、あなたの心を読 5 「あんたはこれまで会った異端者同様、狂信者だ、ルキアン・ユダんだ」ルキアンが言った。「そして、わたしにしらせたのだ。彼が ソン。あんたが信仰を失ったのを哀れに思うよ」 ここにいることは、ほんの数人しか知らない。 , 彼よ、もっとも効果 ルキアンは私といっしょに立ちあがって、 的に嘘をつく手伝いをしてくれる。信心が真実であるか、信心のあ 「自分自身を哀れみなさい、ダミアン・ハ ・ヴェリス」と言っるふりをしているだけかわかってしまうのだ。わたしは頭に挿入管 た。「わたしは新しい信仰と新しい目標を見つけた。わたしは幸福をさしこんでいる。だから、いつでも話ができるのだ。わたしを な男だ。あなたは苦しんでおり、哀れな男だ」 ″嘘つき″にしたてたのも、もとはといえばジョンの力だ。彼は、 「それは嘘だ ! 」思わず叫んだ。 . わたしの信仰がうつろだと知っていた。わたしの絶望の深さを感じ 「いっしょにおいでなさい」 とったのだ」 ルキアンは言い、壁の制御盤にふれた。と、龍にすがって泣くュ と、瓶の中のものが口をきいた。維持装置の基部にあるス。ヒーカ ダの絵が引きあげられ、地下への階段があらわれた。 ーから金属的な声が流れてきた。 「こちらへ」と、彼が言った。 ・ヴェリス。うつ 「君の絶望も感じとっているそ、ダミアン・ハー 地下室には、淡い緑の液が満たされた巨大なガラス瓶があった。「 ろな聖職者よ。君は実に多くの疑問を口にしてきた。心が病み、疲 工 / プリョ それはその中に漂よっていた・ーー胚体によく似たもので、ひどく高れ、信じなくなっている。仲間に入りたまえ、ダミアン。君はずつ 齢のようにも、幼いようにも見える。裸で、大きな頭と発育不良のと昔から″嘘つき″であったのだ」 身体をもっていた。その四肢や生殖器からチュ 1 プがでて、生体維 しばらく、私はためらい、自分の心の奥底を見つめ、信じていた 持のためらしい機械につながっていた。 のは何だろうと思った。私は自分の信仰を探した。かっては私を支 ルキアンが明かりをつけると、それは眼を開けた。黒くて大きなえていた炎を、教会の教えに対する確信を、キリストが自分の内部 眼である。その眼は私の心を透視した。 に存在することを探した。しかし、なにも見つからなかった。私の 「わたしの仲間だ」ルキアンがガラス瓶を叩いた。「ジョン・アジ むはうつろだった。燃えっき、疑問と苦痛だけがあふれていた。し ヤ・クロスだ。第四サークルの″嘘つき″さ」 かし、ジョン・アジャ・クロスと微笑をうかべるルキアン・ユダン 「そして、精神感応者だー、私は気味の悪い確信をもって応じた。「 ンに答えようとしたとき、あるものを見つけた。ずっと信してい いくつかの星でテレバスをーーー大部分が子供だったがーーー大虐殺た、いまでも信じているものだった。 したことがある。教会は、心霊力は悪魔の罠だ、と教える。聖書に真実。 でていないのである。あの大虐殺は決していい気分のものではなか私は真実を信じていた。それが私を傷つけようとも信していた。

7. SFマガジン 1981年7月号

と、アイフリエルの輸送船にはいってくる不法者の無電は話し了の船はトマ・クランドに追付きはしないし、たとえ追付いたとして も屍体の収容しかできはせんだろう」 えた。 「そのとおりだ ! 」 「やつはそうやって、何をされてるのか分らねえでいる俺の手にて サンタ・マリヤから呶娜るような大声がつよく返ってきた " めえの兜をもたせやがって、押戻すひまもねえうちにツーツと流れ て 0 ちまいやがったんだ。おれはお前さん達みてえに宙空で外被を「てめえら、宇宙軍のくせしてよくもそんな言草吐きやがるナ。ヤ・ ぬいだり着たり器用なまねはできねえが、命と釣替えちや仕様がねイ、死者の遺体を野ざらしにしないのは宇宙の大法だぞ。おれに命 かばね え、鼻血だらけになってどうやらトマのを冠「たヨ。そして船にもをくれたやつの屍を漂わせておけるか ! そうよ。おれはトマの躰 どった。トマの教えたとおりにしてナ】つまり、近くまで舟が来たを追ってるんだ。軍の保護・収容なんぞ真ッ平でえ ! 」 「だがそんな大まかな方向で目的に辿りつくとは思えない。きみは ら有効距離に入るまで待って、ラヂオを出すんだ、すると電波のつ くる磁場で双方がひつばられるので、噴射不足がおぎなわれるってここで一度狂っても角度は進むごとに標的から開くばかりだという あら ことが分らんのか ? 粗ツ。ほすぎるヨ」 わけさ。とにかく、そういう風にしておれは助かったーーー・」 「そんな事は百も承知だ ! 」 とニノ・ラコステ・ファスカリはつづけた。 と吼えるニノの声が、あい変らす近よりかねている派艇と本船双 「だがトマ・クランドはふん捕まえるはずのおれに命をくれて行っ お前さん達もはじめに言方の通信室にひびきわたった。 ちまやがった。どこへ行くか分るかい ? ったろう】この空域はさい果てで、おれ達はどこへも着かねえ角度「その粗つ。ほい事をおれはやってるんだ。先で角度がひらこうが開 くまいが、追付こうが追付くまいが、おれはトマの躰が漂ようのを へ向ってるって。そうなんだ。やつはそんな方へ流れちまやがった 止めるために、奴の流れた方へ飛ぶんだ。探知機も持ってりや加速 んだ。うっちゃっとけねえちゃねえか」 の爆薬も積んでる。人界へもどる気なんそさらさら無いんだ。行先 「そうかーーー」 が系外だろうと無限界だろうと、おれは奴を拾いにゆく・せ」 と、本船のらしい無電がやや納得のいった口調を示して答えた : 「だがそれでもやはり捨てておけないことは当方もおなじだ。司法そう言いすてるとどうじにサンタ・マリヤは火薬を連爆さしてそ ためら 班の艇に接近を命じるから射たんでもらいたい。基地に報告したとの場を離れると、宇宙兵でも躊躇うような加速でどんどん遠ざかり はじめた。 ころ自殺行為だから説得・収容しろという指示が返ってきた」 そして、そうやって見るみる小さくなりながら、無電だけは大声 「いやだナ。断わる」 のままでこう言った【 とペレス・ファスカリは答えた 1 「ヘン、外惑ッ児だそ、見損なうな ! 」 「なぜだ、サンタ・マリヤ、いやラコステ・ペレス・ファスカリ、 なぜそんな不可解な航行をするんだ。きみの話の速度関係ではきみ ー 47

8. SFマガジン 1981年7月号

・ローマの聖ヨハネ大聖堂を飾るタメルウエンズとロ、 王の称号を名乗る権利を主張する七人のなかのひとりにすぎないのが、ニ、ー きようこ リディズの絵に比肩しうるほど素晴らしいものであった。 だ。私の信心もかっては鞏固であったが、異端者や不信心の者のな かにいることが、あまりに長すぎた。祈疇をあげても、いまでは疑本のなかには、イスカリオテの聖ユダ修道会会長、ルキアン・ユ 念を払い捨てることができなかった。だから、大僧正がアリオンのダソンによる出版許可がついていた。 異端の姿を口にしても、知的な興味は抱いたものの、恐怖は感じな本の名は『龍と十字架の道』といった。 っこ 0 私は〈救世主の真実号〉が星々の間をすべるように進んでいるあ 、刀ュ / 、だに、その本に眼をとおした。最初は、これから戦わねばならな 「奴らはひとりの聖者をつくりあげたのだ」と、大僧正は言った。 い異端をよく理解するため、おびただしい量の註を参照していた 「イスカリオテのユダからな」 が、やがて、そこに語られる異様で複雑でグロテスクな物語にひき こまれてしまった。その本の言葉には情熱と力と詩心があった。 キリスト騎士団の古参兵である私は、専用の宇宙船をもってい た。〈救世主の真実号〉と呼ぶと、私はうれしくなる。その船が私かくて私は、イスカリオテの聖ユダなる異彩を放つ人物にまみえ に割りあてられる前は、十二使徒のひとりにちなんで〈聖トマスたのだった。複雑で野心家で、議論好きな、まったく尋常ならざる 号〉と名づけられていたが、私には、疑い深いことで有名な聖者人物である。 ハビロンという が、異端と戦う船の守護者として適当とは思えなかった。私は〈救彼はペッレ〈ムに救世主が生まれたその同じ日、 世主の真実号〉内では、なんの義務も負っていない。船には〈聖ク古代の伝説の地に誕生した。少年時代は貧民窟に暮らし、必要のあ げん シスダ リストフォルス修道会遠距離交通部〉の修道士修道女が六人乗りるときは肉体を売り、成長するに従い女衒となった。彼は若かった はたち 組んでいたし、私が貿易商人のところから引き抜いてきた若い女性ので、黒魔術の研究をはじめ、二十歳にならずして、練達の魔術師 になっていた。それはすなわち、彼が龍の調教師ユダになったとき が船長をつとめていたからだ。 それゆえ、ヴ = スからアリオンへの三週間のすべてを、異端の聖でもあった。神のつくりだしたもっとも恐ろしい生物ーーー古えの地 とかげ 書の研究にふりむけることができた。大僧正の事務官から渡された球の、巨大な翼をもった火を吐く蜥蜴の意志を操ることのできる最 ものである。分厚くて、がっしりした、美しい本で、黒っ・ほい色の初にして唯一の人になったのである。本には、巨大なじめじめした らんらん 革で装本してあった。ページの縁には金箔がおしてあり、うっとり洞窟のなか、眼を爛々と輝かせて赤熱の鞭をふるい、金緑色の小山 ホログラフィック するほど美しいカラーの立体画のさし絵がたくさん挿入されていのような龍を寄せつけずにいるユダの絵がおさめられている。その とう る。注目に値する仕事だった。製本というほとんど忘れ去られた技腕には籐の籠をかかえ、その蓋は少し開いて、三匹の龍の仔の小さ 術を愛する者の仕事だろう。内部に複写された絵ーー、原物はアリオな頭がのそいていた。四匹目の仔龍はユダの袖を這いあがるところ ンの聖ユダの館の壁に描かれているのだろうーーーも、不敬ではあるだ。これが彼の人生の第一章であった。 プラザ 4

9. SFマガジン 1981年7月号

わが指揮艦スパロー号 アレグサンダー・ケント / 高橋泰邦訳 〈海の勇士 / ボライソー ・リーソー / 清水政二訳 シリーズ③〉戦功を認めら 一九四二年八月、フラ れ、念願の艦長昇進を果た ンス北沿岸のディエッ したボライソーの前には、 プ近郊の町プールヴィ 新たな敵が立ちふさがる , 定価五六〇円 ル ( 暗号名グリ ワ 】ビーチ ) に上陸した連 合軍の熾烈な戦いと、 ある秘密の任務を描く ャパンドラ抹殺文書 定価四六〇円 広瀬順弘訳を二 マイケル・パーⅡゾウハ ・好評発売中 クレムリン内に潜む O スパイの正体を示唆した古 乗れない方舟 文書ーーーーその行方をめぐっ アラン・ムーアヘッド て展開される米ソの血みど 消えゆく野性の国に生きる人、 と動物を描くアフリカ = 一ⅱ 定価三八〇円 定価三四〇円 庫 さもなくば喪服を ラビエール & コリンズ 文 揺れ動くスペインの歴史を背 / 景に描く世紀の闘牛士の半生 ジョエル・スワードロウ / 河合裕訳ワ 定価六〇〇円 爆弾を仕掛けられたまま飛 カ 翔した三機の旅客機。全権 を委任された O—< 局員が ャ 破局回避に挑む ! 迫真の ポリティカル・サスペンス 定価四ニ〇円 を ) のコ 3 〈ディエップ奇襲作戦〉 グリーン・ビーチ 世界の涯てまで逃げた男 コリン・マッケンジー 二十五億円強奪の郵便列車強 ~ て 盗ビッグズの大胆な逃亡人生の , 定価四八〇円・世「 ま ! 第キエメレ・コル、 ジェイムズ 大第長駅

10. SFマガジン 1981年7月号

みはここを去らねばならん」 「わかってます」クリスチャンは答えたが、この家の外の生活がい 「クリスチャン・ハラルドスン、レコーダーはどこだ ? ー監視人は ったいどんなものかと、大いに不安だった。 尋ねた。 「レコーダー ? 」クリスチャンは反問したが、それからむなしいと「将来のことを話そう。我々はなにかきみにやれそうな仕事を見つ ウォッチャー くろって、きみを教育することになる。飢える心配はない。退屈で 気づき、装置をとりだして監視人に渡した。 ウ十ッチャー 「おお、クリスチャン」と監視人、その声はおだやかな悲しみに満死ぬこともあるまい。しかし、法律をやぶったのだからして、今後 はきみにはただ一つ禁止されることがある」 ちていた。「なぜきみは、これを聴かずに提出しなかったのだ ? 」 「最初はそのつもりでした」クリスチャンは言った。「でも、どう「音楽」 「すべての音楽ではない。 クリスチャン、専門の聴く人ではなく、 してわかったんですか ? 」 「きみの作品から、突然、い 0 さいのフーガが消えたからだ。突ありふれた人々が楽しむことを許された音楽もあるのだ。ラジオや , まがいの部分が、きれいになくなってしまテレビ、そしてレコードの音楽。しかし、生きている音楽、新し 然、きみの歌から・ハッ、 った。それに、きみは新しいサウンドの実験もやらなくなった。きい音楽・、、ー・これはきみには禁じられることになる。きみは歌っては ならん。楽器を演奏してはならん。また、リズムを打ってもいか みはなにを避けようとしていたのだ ? 」 「これです」クリスチャンは言い、腰をおろすと、生まれて初めてん」 「なぜですか ? 」 ー。フシコードの音の複製にとりかかた ウォッチャー 監視人はゆっくりと頭をふった。「この世界があまりにも完全 「しかし、きみは今日まで、このようなことは一度も試みなかっ な、あまりにも平和な、そしてあまりにも幸福な世界たから、我々 た。そうだな ? 」 は法律をやぶるような適応不能者に、不満足をひろめてまわるよう 「もう、御存知でしよう 「フーガと ( ープシコード、きみは最初にこの二つのものに着目しな真似は、許すわけにはいかんのだ。ふつうの人々も、一種の安直 たーーーそして、この二つだけは自分の音楽にとり入れなかった。しな音楽のようなものを創るが、専門に音楽をまなぶたけの天分がな : ・、ツハに染められ、 いから、いずれにしても大したことはない。しかし、もしきみがー かし、この何週間かのきみの歌は、すべてカ / ー。フシコ いや、つまらん話はよそう。ともかく、これが法律だ。そして、 ッハに影響されていた。ただし、フーガは一つもなく、ハ きみがもしさらに音楽を創ったら、クリスチャン、きみはひどい罰 ードの音もなかったが。きみは法律をやぶったのだ、クリスチャン、 、しカね、ひどい罰だ」 きみがここに置かれたのは、きみが天才であり、自分の霊感にのみをうけることになる。、、、 ウォッチャー クリスチャンはうなすき、監視人に導かれるままに家を去り、そ 忠実に、あたらしいものを創ってきたからだ。しかし、いまやもち ろん、きみは亜流であり、真に新しい創造はきみには不可能た。きして森と《楽器》から遠ざかっていった。最初、彼はそれを法律違 ウォッチャー リスナ 9 9