くやしいが俺には彼らのことはさつばり判らない。なにしろ俺いる瞑想者めがけて投げつけてやったゞ は、まったく瞑想ができない人間なのだ。 小石は放物線を描いて、気にくわない瞑想者の頭上へーーと思い 6 きや、とんでもない方向へとんでいってしまった。 今の日本には瞑想できる人間と、俺のように、まったくできない 人間と二種類いる。むろん瞑想できない人間の方が、まだ圧倒的多 ガラスの割れる音がした。・ヒアノの音が、はっとしたようにや 数ではあるが、いい気持はしない。彼らの超然とした姿を見ているむ。ガラガラと窓を開ける音につづいて、どなりちらす男の声。 と、おのれが一段下の動物のような気がしてきてしまうのだ。 「いけね」 しかし、それにしても妙な世の中になったものだ。 俺はくるりと踵を返し、すたこら先へ走り始めた。 こんなことがはやりだしたのは一年ほど前からだろうか。実際は しばらく道を走ると公園にでた。 もっと前からなのかもしれないが、全国的にひろまったのは一年ほ肩で息をしながら、その木々に囲まれた公園に入ってゆく。 ど前からだ。 むろんはやりといったって、人がやったから俺砂場や、土の中に埋めこまれたタイヤのそばで子供たちが遊んで よ、。くところによると、ある日ふいに , も、というわけこよ、 いる。ペンチでは老人が、うとうとと日向ぼっこをしていた。 瞑想したくなってしようがなくなり、気付くと日課のように毎日瞑「お、いた」 想を始めてしまっているというのが本当らしい。そして、やがて物 公園の奥に、なんの種類かはしらないが、ひとかかえもありそう 理の法則をまったく無視して、ふわふわと宙に浮きあがってしまう なほどの幹の、巨大な木が一本生えている。その木の下の芝生に、 というのである。 七人の若い男女が集まっていた。みなジーンズなどの軽快な服装を している。 妙な現象だ。 そちらへ近づいていった。 まあ、俺自身、瞑想する気なそ、これつぼっちもおこらないのだ から、そのへんのことは詳しくは判らない。 ひとりの若い男が集まった男女に、にこやかになにか言ってい こ。 だから、・フームとかそういうのではなくて、瞑想を始める人々 が、たまたま全国でいっせいに同時に現われたということなのだろ「それではみなさん。今日もこれから瞑想を始めようではないです う。集合的無意識の段階で、なにかがあったのかもしれない。 か。宇宙の波長にわたくしたちの心を同調させるのです」 瞑想者はずっと先まで行ってしまった。瞑想しながら、なぜ道を なにが、わたくしだ。微笑がなんとも、いやらしい 正確にたどっていけるのか不思議である。 他の男女たちも笑みをつくり、・ハチパチと拍手をした。 電柱の下に、石ころがひとっ落ちているのに気付いた。 彼らはいわゆる瞑想族だった。このところあちこちで、こういう 「やっとあった」 瞑想のできる人々が何人かで集まってグルーブを作りはじめている その石を拾った。そして三十メートルほど先をゆらゆらと進んでらしい
ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ こいつが地球に来る時には、大気圧とから身を守るために というより口ポットとシュ、 地球人の体型に似せた気密服 ワード・スーン レーターをま・せ合わせた強化服みたいなものーー・、の中に人っ て、あたりを横行闊歩するというワケ。面白いのは、この火星 人たちは植物から進化した生物なので感情というものがほとん どなく、性格は残酷無比である : : : というアイデア。もっとも 感情のない植物人間ってのは別に海野の独創ではなく、・ ・ストリプリングの怪奇『緑の血』からの借りものたが。 さて、ストーリー の紹介を続けよう。 地球でたた一人、火星兵団の存在に気づいていた日本の蟻田 博士は、ことあるごとに世間に警告を発していた。ところがこ た人類は、遅まきながらも金星への移住を計画し、各国協同で れが当局の忌諱に触れて、博士は謹慎処分にされるやら、つい 多数のロケット艦が建造される。ところがいざ完成したロケッ には気違い扱いされるやら。さんざんな目に会わされてしまっ トが地球を離れようとすると、とたんに火星兵団の宇宙艦に撃 墜されてしまい、一隻として無事に金星までたどりつけたもの まよ、 そして人々がモロー彗星に気を奪われて大騒ぎしている間に も、火星兵団は次々に来襲し、しだいに人間狩りの準備を進め そうこうするうちにも彗星は刻一刻接近し、火星兵団の人聞 ていく。こうして地球人が ( タと気がついた時には、すでに各狩りは開始され、脱出用ロケットは火星人のために片っ端から 地に火星兵団の基地ができあがっていた。 やられてしまう : ・ : 。もはや人類には生きのびる道はないのた モロー彗星との衝突、火星兵団の侵略と二重の危機に直面しろうか ? と、そこで一人敢然と立ちあがったのはあの蟻Ⅲ 博士。博士はこの混乱の間にも研究に研究を重ね、ついに火星 の金属を分解するガスと「外の遊星にも、あまり類のない」と いう原子工ンジン付きの大空艇とを完成していたのだ。 さあ、ここに来ていよいよ地球側の反撃がはじまる ! 今ま でたかが地球人 D といい気になっていた火星兵団は、仲間の宇 宙艦が蟻田博士のガスに溶かされるのを見て大あわて。みんな 一勢に地球から退却しようとするのだが、博士の大空艇に攻撃 されてアレョアレョという間に全減してしまう ( この辺の宇宙 ドッグ・ファイト 船どうしの空中戦シーンは、なかなか迫力がある ) 。結局火 星側で生き残ったのは悪役丸木の乗る旗艦一隻のみ。 『火星魔』 の 月険科學小訛 高ご志し書肩 『地球人最後の冒険』 7
「なかなかそうはね : ・ : 。なんといっても、汚染された地球という それだけ言って、男は歩み去った。 イメージに対する恐怖はぬぐい去ることが難しいですし。そのため ・フラウンとミツルは顔を見合わせた。 の説得材料としても、早く数字を欲しがっているんでしよう」 「行きますか ? 」 「しかし、これを見てどう思いますかね : 。とても、安心して住「行「てみましよう」 んで下さい、とはいえないと思うけど」 二人はやや急ぎ足気味に、言われた場所へ向かった。 「そうですね。それに、今、地球に住んで」る人たち 0 = ともあ外〈出た時、放射能汚染や病原菌、化学物質などから身を守るた めの防護服は、使い捨てでなく、洗濯し、殺菌装置を取りかえ、消 「我々のことですか ? 」 毒を施すことによって、再使用されることになっていた。 ・フラウンは手を止めて、顔を上げた。 消毒場には、ガレージに隣接した小部屋があてられ、そこへ行く 「いや、外の人間や動物たちのことです」 には、一旦、建物の外〈出なければならなくな 0 ていたが、部屋の 「そのことですか : = 。だ 0 たら、少《のことには目を「むるしか中を覗くだけなら、廊下からガラの小窓越しに見ることができ ないんじゃないでしようか」 この基地にいる者は、多かれ少なかれ、全員が・フラウンのような 二人が行 0 てみると、そこには十数人の人々が集ま「ていた。 考えを抱いているようにミツルには感じられた。 ミツルは人々をかき分けて前へ出、窓の中を覗きこんだ。 「なぜですか ? 彼らにだ 0 て生きる権利はあると思いますよ」 消毒場には黄色い照明がっき、壁際に、多くの防護服が吊り下げ 「これは権利の問題じ ~ ないんですよ」・ , ラウは真剣な顔にな 0 られていた。床の上に、、毛布をかけられたものが横たわ 0 ている。 た。「戦いなんです、生きのびるためのね」 それは人間の死体に違いなかった。 壁の時計は正午を少し回 0 ていた。二人は食事をとることにし「 = = ・・アンだよ : ・・・・」 て、部屋を出た。 一口カカささやいた。 ~ こ 0 廊下を歩いていると、向こうからや 0 てきた男が二人に話しかけ確かに、毛布の一方の端からはみ出しているのは赤味がか 0 た頭 髪のようだった。 「グ = ンがヘマやっちまったよ」 ( いったいどうして : 「どうしたんだ ? 」 ミツルには訳がわからなかった。・ ・フラウンが訊くと、男は肩をすくめてみせた。 な・せアンがこんなところで死んでいなければならないのか ? 「なこ、 冫たいしたことじ、ないんたよ。防護服の消毒場〈行「てみ窓の前を後ろの人間に譲 0 て、ミ ~ はその場を離れた。 な」 果たしてアンが、あの時、連絡艇の中を覗き込んでいた人物と同 こ 0 8 6
無理もなかった。写真に写った連中は、どれも汚れきっており、尖った棒が三本たてかけてあるだけで、他には道具らしいものも何 子供でさえも年寄りのような表情をしていた。 もない。 「どこに住んでいるかわかりますか ? 」 入口付近には、小さな動物のものらしい骨や、木の実の穀が散ら ばっている。 「行ってみるんですか ? 」 グエンの顔にはからかうような表情が浮かんでいる。 ( どこかへ移り住んだのかもしれない ) 「ええ、まあ・ : : ・」 ミツルは腰を伸ばして、あたりを見回した。 どこにも人の気配はない。 「会えたとしてもわかりつこないですよ、当人かどうかは。彼らは もう、人間というよりも、もと人間とでも言った方がいいような存そのまま立ち去ろうとしたミツルは、思い直して、小屋の入口に 在ですからね」 背中の荷物を降ろした。中には基地から持ってきた食糧が入ってい 「住んでるところはわかるんですか ? 」 る。それを、小屋の内側に積み上げた。 ミツルは怒りを抑えてもう一度、同じことを訊いた。 そうしておいて、もと来た道を引き返した。途中、どこかで子供 が泣くような声が聞こえた。 三メートル程に伸びた松が、ところどころに生えていた。その下 に繁るシダの中に、何者かが踏み分けた細い道がある。ミツルはそ「結局、人間が安心して住めるのは、地球だけだってことですか の道をたどった。今日は一人である。背中には小さな荷物を背負っね。もっとも、今や、それ程安心できないところにしてしまったん ている。 ですけどね、自分たちの手で。へへへ : ブラウンは奇妙な笑い声を上げた。 道は少し上り坂になり、まわりの樹木もだんだん大きくなってき コロニーの方から計測結果を早く送るように催促してきたのであ た。が、道は容易にたどることができた。 る。ミツルがここに来てから、まだ十日しかたっていない。 小さな流れが木立ちの下で心地好い音をたてている。そこを通り 過ぎると、平らな空地に出た。片隅に、木の枝とシダの葉とで造っ ミツルは・フラウンに手伝ってもらって、これまでのデータを整理 していた。 た三角形の小屋がある。 グエンが言っていた、アンの住家に違いな、。、 しや、それは住家「コロニーの居住条件はどんどん悪化してるんですよ。将来への不 と呼ぶには、あまりにも粗末であった。 安から、産児制限は困難だし、かといって収容可能な人員は限られ ていますからね」 ミツルは扉もない小屋の中を、腰をかがめて覗き込んだ。 7 ごⅱもしない。 「こちらへどんどん降ろしゃいいんですよ。住居の気密さえ保て 6 床はなく、土の上に苔の乾かしたものを敷きつめてある。奥に、 ば、コロニーよりはずっと快適に暮らせますからね」
し、必要以上にこここ、 冫したくはなかった。壁は湿って、カビがはえソン枢機卿になるだろう。だから、異端はことごとく押しつぶすの ている。空気は熱く、じっとりしていて、カセイン人に特有の不だ。今度のような場合がそうである。 快な・ ( ターの臭いが濃くたちこめていた。襟が首筋に荒々しくこす「我々はアリオンにはほとんど影響力をもっていない」 れた。法衣の下は汗びっしよりだ。足はずぶ濡れで、胃がチリチリ 大僧正が言っていた。しやべりながら、その腕が動く。緑と天色が と焼けるようだった。 斑点となったがっしりした棍棒のような四本の腕が水面をかきみだ 私は任務の話をすすめた。 し、呼吸ロのまわりの薄汚れた白い繊毛が、ひとことごとに震えた。 「つまり、この新しい異端はこれまでになく下劣なのですね、分団「数人の僧侶、いくつかの教会、わずかな信者。ことさらロにする 長どの ? 」 ほどの力もない。すでに異端者の数は我々を凌駕しておる。君の知 「そのとおりだ」 恵と洞察力を頼りにしているぞ。この災難を転じて福となすのだ。 ろんばく 「どこで始まったのです、この異端は ? 」 この異端は見えすいておるから、容易に論駁できるであろう。たぶ 「アリオンだ。このヴ = スから三週間ほどで着く世界だ。完全な人らかされた者からも真の道に向かう者がでるかもしれん」 類の星だ。君たち人間はどうしてああも易々と堕落するのかね。ま「おっしやるとおりです」私は言った。「で、どのような異端なの ったくわからんよ。カ日セイン人ならひとたびなにかを信仰すれでしよう ? 何を論駁するのですか ? 」 ば、それを捨てることは決してない」 実は、そんなことはどうでもいいのだと思った。それは嘆かわし 「よくわかっています」 いことに、私自身の悩める信心をあらわしているのだろう。私は数 私は礼儀正しく応じた。信仰をはじめたカ日セイン人がほんのひえきれぬほどの異端者を扱ってきた。彼らの信念、彼らの疑いは頭 と握りだということはロにしなかった。カセイン人は、のろまでの中にこだまし、夢をかき乱すのだった。トーガソンを聖職者と認 退屈な種族で、何百万人もの人々は他人の生き方を知ろうという興めたその勅令が、六つの世界で、ニ、ー ・ローマの司教排斥の原困 味はみせず、自分たちの昔からの宗教以外のものを信じようともしとなった。その道をたどった人々にしてみれば、私の眼前に漂い よ、つこ 0 ー「ー ガソン・ナイン日クラリス・ツンは例外的人物だっ水かぎのついた四つの大きな手で教会の権力を行使している ( 濡れ た。彼は二世紀ばかりまえに初めて改宗した人々のひとりだった。 た聖職者の襟をつけているほかは ) まっ裸の巨大な異星人にこそ醜 そのとき、法王ヴィダス五十世は、人間以外のものも聖職者になれい異端を見出すであろう。キリスト教は人類にとって唯一最大の宗 ると決めたのである。長大な寿命と鉄のような信仰心をもったトー 教だが、それはたいして重要なことではない。非 キリスト教徒は我 ガソンが現在の地位までの・ほったのは、なんの不思議もない。もっ我の五倍はいるのだ。加えて、キリスト教の分派も七百をこえる。そ とも、彼について教会に入ったのは千人にも満たぬ人々であったの のうちのいくつかは〈地球と千の惑星の真恒星間カソリック教会〉と だが。彼には少なくともあと千年の余命がある。いっか彼はトーガ同程度の規模である。勢威を誇るドリン二十一世にしてからが、法 すうぎけい カラー 9
「よし。それじゃあ、おやすみ」 無理矢理、頼んでやっと連れてきてもらった下界であった。一度 「おやすみなさい : や二度、頼みこんだのではない。一年も前から言い続け、根負けし スビーカーからは、それ以上ブツリという音も響かなかった。 た父親が、九歳の誕生日がくれば、その時、連れて行ってやろうと しばらくしてからミツルは送信ボタンをオフにし、立ち上がって言ったのだった。 貯蔵庫から一食分のパックを取り出した。加熱して、引き出したテ コロニーを維持するのに懸命な、寄り合い所帯の人々は、一人一 ー・フルの上に並べる。ひとロ食べ、思いついて、部屋の明りをつけ人が自分の仕事に責任を持ち、他人の役割に干渉する余裕はなかっ た。操縦室が明るくなると、外の景色は見えなくなった。窓ガラスた。そのために、父親はミツルを連絡艇に乗せることができたのだ には、部屋の内部が映っているだけだ。 った。管理体制が整えば、こんなことは不可能になるに違いなかっ一 少し安心して、ミツルは再び食事にとりかかった。 十分もたたないうちに、食事は終わった。空容器をディスポーザ コロニーはすっかり完成しているわけではなかった。そして、 ーに投げ込み、テー・フルを押しこんで、ミツルはまた父親の座席につになれば完成するのか、見当もっかなかった。建造途中で世界戦 坐った。前方の窓、上の方に自分の顔が映っている。生まれて初め争が勃発したため、それ以上、工事を進捗させることを諦め、急 拠、避難施設に転用されたのだった。 て地上の夜を迎えゑ九歳の男の子の顔が : 国籍を問わず、様々な民間人が、数カ所に建造中のコロニーに運 「何てことないや、″地獄″なんて : : : 」ミツルは自分の顔に向か って、言ってみた。「恐いこと、あるもんか。何もいやしないんだ ばれた。地上は核兵器と生物兵器によって、もはや人間の住むこと もの」 のできない場所と化してしまったのだ。 不安そうな表情の男の子が、ミツルを見返している。 軍人を拒否したのは、コロニーの方の判断であった。自らの住む ミツルは室内灯を消した。 所を汚した者は、その場所に止まって責任を全うすべきだと考えた 黒々とした大地と、ほの明るい空が、窓の外に広がった。その境のである。 い目のあたりを、ミツルはじっと見続けた。何も動くものはない。 コロニーに収容できたのは四万人弱に過ぎなかった。二カ月間の 生きのびている動物もいるはずだ、と父親は言っていた。だが、戦争から十二年たった今、地上に生きる人間はいないものと思われ その数は極端に少なく、おそらく目に入ることはないだろう、とていた。いや、いたとしても、もうどうすることもできなかったの も。 である。コロニー内に、治療不可能な病原菌を持ちこむことは、生 ( どうして、こんなところを見たいと思ったんだろう ) き残る人類の数を減らすことに他ならなかったし、そうすることな ミツルは、ぼんやりと考えた。きれいだと思っていた気持は、もく、 地上に生存する人を迎え入れることは不可能だった。 うすっかり薄れていたゞ コロニーの人々は自らを、汚染された地球から隔離したのであ こ 0
がめるような視線が、ミツルに集まっている。 「だからどうだ 0 て言うんだ ! 」グ = ンは声をはり上げた。「今 もう何時間も、荒地を歩き回っていた。 や、地球ばやつらのものなんだ。やつらが勝手に生きてゆけばいし 基地の人間たちに対する怒りが、ミツルの胸の中で渦巻き、いっ んだ。生きのびることができるかどうかもわからないおれたちに、 までたっても消えそうになかった。 やつらをかまっている余裕があるものか」 ( あいつらは、アンのことを人間とは考えていないんだ ) 「でも、殺さなくたって : : : 」 ミツルの脳裏には、あの、連絡艇の窓から覗きこんでいた地獄の 「殺そうとしたわけじゃない」グ = の声は湿 0 ぼくな 0 た。「き子の顔があ 0 た。醜、顔ど 0 - 」。・、、・ しナナカカラスをはさんで相対してい のうは、なんとか追い返したんだ。だが、あい 0 は懲りずに、またるうちに、それは気にならなくな 0 た。最後にはむが通じていたは 今日もや 0 て来やが 0 た。今度はいくら脅しても立ち去ろうとしなずだ、ミッ ~ はそう信じていた。 いんで、しかたなく、少し食い物をくれてやろうかと思ったんだ。 あの子供がアンであっても、もし違っていたとしても、ああいう しかし、ただやる 0 じなくて、せ「かくだからこの機会に、身体体験を持 0 たことが、自分の、アたちに対する目を変えてしま 0 をちょっと調べさせてもらおうと思って : 。あいつらがなぜ平気たに違いない、基地の人間はそういうことがなか 0 たから、あれほ で暮らせるのか、誰だって知りたが 0 てるからね」 どまでに冷酷になれるのだ、とミツルは考えた。 ミツルにはやっと事情がのみこめてきた。 生い茂 0 た草をかき分けて坂道を登ると、遠くに基地の建物が見 「それで、消毒を : ・ : ・」 えた。ぐる 0 と回って、基地の裏手の丘の上に出ているのだ 0 た。 「そうさ。いくらなんでも、そのままでは触われないからな」 ミツルは立ち止まって、〈ルメットごしに不格好な建物をながめ ミツルの、いに怒りが芽生え始めていた。 た。防護服の下で、身体全体が汗ばんでいる。 「だって、相手は生きている人間じゃないか」 何か、聞き慣れた物音が、風に乗って聞こえてくる。 「だから加減してやったんだよ。まさかあれくらいで死ぬなんて、 ミツルはじっと耳を澄ました。 思いもしなか 0 た。外を裸でうろっき回っているやつらだからな」 笑い声だった。近くで、子供たちが笑い合っているのた。ミツル ミツルはこぶしを握りしめた。身体が・フル・フルと震える。 にはそれが、天使の歌声のように聞こえた。 ・フラウンがミツルの前に立ち塞がり、ミツルの両腕を押さえつけ こっそりと声のする方へ近づく。 こ 0 基地へ向けてゆるやかに下 0 ている斜面の開けたところに、三人 「駄目ですよ。あんたの立場が悪くなるばかりだ」 の子供がいた。裸で、皆やせており、髪も伸び放題伸びている。 低く、さとすような声。 ( アンの子供たちだ ! ) ミツルはプラウンの手をはらいのけると、廊下を駆け出した。一 子供たちは母親が帰 0 てくるのを待「ているようだ「た。一番年 0 7
少しずつ、窓の方へにじり寄った。 る。 急に、顔が光の中に浮かび上がった。 今、ミツルと、危険に満ちた地球の大気とを隔てるものは、連絡 ミツルは声をあげずに絶叫した。 艇の壁一枚であった。 窓の外にあったのは人間の顔に違いなかったが、それは人間とい その壁は決して破れてはならないものだった。一 空もすっかり暗くなり、地上との境い目もはっきりしなくなつうには、あまりにも人間離れしていた。粗い髪の毛はぼう・ほうに伸 こ。 び、その間から半分っぷれた目がのそいている。もう一方の目は完 ミツルは室内灯をつけて、ノロノロと立ち上がり、壁に取り付け全につぶれている。顔の色は黒く、ロは片方が斜めに裂け上がって ・・ ( ッグの方へ向かった。今夜はそれを取り外しいた。 たスリー。ヒング その顔が、まっすぐミツルを見つめているのだ 1 て、床の上で寝なければいけない。 ミツルは気が遠くなりそうになり、思わず目を閉じた。一分近く 床にスリー。ヒング・・ハッグを広げたミツルは、何気なく横の窓を 目を閉したままで、心を落着け、そっと目を開いてみた。 見やった。 顔はまだ窓の外にあった。 恐布に全身が硬直した。 - ミツルは歯をガ しかし、今度は意識が薄れることはなかった。 白い小さな掌が、窓にへばりついている。 ワアワアとわめき散らしたい気持を押し殺し、ミツルは息を大きガタいわせながらも、じっとその顔を見つめ返した。そして、艇の そばから追い払うにはどうすればよいだろうかと、思案を巡らせ く吸いこんだ。 ( だ、大丈夫だ。絶対に中へ入ってこれやしない ) 操縦卓の裏側に取り付けてある携帯用のビームライトを思い出 そう自分に言いきかすと、何とか身体を動かすことができそうに し、それを手に取った。まっすぐ、窓の外の怪物に向け、スイッチ 思えた。 を人れる。まばゆい光が窓にきらめき、外の様子は見えなくなっ ミツルの手よりは小さい 窓の外の掌は少しずつ移動していた。 が、どう見ても人間のものだった。 ミツルはライトを向けたまま、少しずつ、窓に近寄った。 ミツルは背を低くして、その掌の向こうをうかがった。間違なく 何者かが、連絡艇の中を覗きこんでいた。汚染された大気に素肌を ( 光に驚いて、逃げてくれればいいんだけど : : : ) 窓に顔を寄せて、外をうかがってみた。怪物はいなくなってい さらした何者かが。 父親に連絡をしようかと思ったが、すぐにその考えを打ち消しる。 ミツルはホッとしてライトを消し、操縦席までもどった。眠る気 た。ぎたてて父親の仕事の邪魔をするよりも、自分で追い払った 分ではなかった。腰を下ろして、先程見た窓の外の顔を思い出そ 方がいいと考えたのだ。 こ 0 こ 0 6
よく水蛇なんかと : 女か ? あれ 銀星流と 呼んでたらしい コンか 言 , つに あの子を ? 銀星流って ? あの人間は : 知らないそうた に 3
ああ 今会ってきたよプ・・イ・ 一五位岬で : ・ しかしまア 会いましたか 保安局の人間に 会って下さい 保安局 ? 再生センターじゃ ないのか ? 保証は ないの力い ? 5