やつは悪魔のせいにし 「悪魔た ? 今のを聞いたか、デッカー ? と、ぬかるみの中に何か痕跡がないか捜した。何もない。デッカー には、かれらと再び顔を合わせることよりも、おのれの恐怖心、自たらしいぜ」 デッカーとジャクソンは、口論が森の中に飲み込まれるまで歩み 分の臆病さかげんを自覚することの方が怖かった。自分なりのイメ 1 ジを抱いてそれまでの人生を歩んできたデッカーだったが、そのを遅らせた。二人で歩いていると、ジャクソンは自分に何が起きた か説明を始めた。影に泣かされた時、彼に言わせると、これまでに イメージは向こう岸のテントのそばでこなごなになってしまった。 見聞きしてきた悲劇がすべて自分の悲しみとなって戻ってきた感し 怖くなんかない、俺の勇気を破壊した犯人を見つけさえすれば、 がしたという。父親の死、飢えた子供たち、飛行機事故。そういっ ままでどおりの自分に戻れるのだ。彼はそう思った。 た出来事が、な・せか自分のせいであるかのようにジャクソンは話す キャンプに戻ると、ジャクソンとポルドはリュックサックの上に 坐 0 て携帯用のウイスキーを回し飲みしていた。ジャクソンはきまのだった。朝鮮戦争のことや米軍の失態についてとりとめもなくし り悪げな笑いを浮かべながら親指を立ててデッカーを迎えた。瞳がやべ 0 た。話せば話すほど、彼は支離滅裂にな 0 た。自己憐憫に酔 ったようになり、言葉が切れ目なく続いた。平素の話しぶりとは違 異様に輝いていた。ウォージェックは、反対側で膝をついてぎごち ない手つきで寝袋を丸めていた。手には包帯がしてあ 0 た。デ , カうのをみかねてデッカーが元気づけようとしても、ジャクソンは悲 しみの中に閉じこもってしまうばかりだった。 ーは手を貸そうとしたが、断わられた。 ジャクソンのステーション・ワゴンが停めてある木材の切り出し車のところに着くと、ジャクソンは運転は嫌だといって聞かなか った。そこで、ジャクソンの隣人のポルトが運転席に坐った。 路に戻るまで一時間歩いた。はじめのうちは一団となって、スコッ デッカーには、道の名がどうしても思い出せない。狭く、曲りく チをがぶ飲みしながら森の中を進んでいった。そのうち、ポルトが ねった、メイン州奥部によくある何の変哲もない道だった。路面の 切り傷の一件で再びウォージェックと口論を始めた。 。もう忘れてくれ。でも、あの仔鹿大きな陥没はところどころ直されていた。制限速度の標識は見当ら 「じゃあ、俺の手のことはいし のことはどうなんだ ? 実はまだ生きていた、とでも言うのか ? 」なかったが、人気のない道で先を急ぐ四人には、五十マイルが妥当 なところに思えた。 「狼に盗まれたのかもしれん。でなけりや、ヤマネコに」 実際、あの事故もポルトの落ち度ではない。急カー・フを抜ける時 「メイン州には狼はいないんだぜ」 にはちゃんとスビードを落としていた。雄鹿のせいだ。枝角の十本 「なら、野犬のしわざだ。そもそも、お前の言ってることはつじっ まが合ってないじゃないか。よりによ 0 て、なんでまた俺たちがあはゆうにあろうという大きな尾白鹿が道の真ん中にいたからだ。根 が生えたようにつっ立っていた。ポルトは、鹿を避けようとハンド んな目に遇ったか、説明がっかないだろ」 ルを切り、プレーキを踏んだ。右前輪が舗装面を外れ、路肩のへこ ウォージェックは肩をすくめた。神の仕業で説明がっかなきや、 みに落ちた。車はスリツ。フし、道を外れ、松の木に正面衝突した 9 悪魔ってとこかな」 9
ベルトを着用していたが、助手席のウォー ばしてくれと言うと、彼女はわかってくれた。 レトよ、幸いンート・ ・ンエックはシート・ ベルトの効用を認めていなかった。 デッカーとジャクソンが見舞いに行くと、ポルトは個室に入って 7 ウォージェックは、フロントグラスに頭から突っ込み、上半身は いた。具合が悪そうでじっとして動かなかった。萎えた身体の上で 外、下半身は中に入ったままの姿で動かなくなった。ショックが収皮膚がたるんでいた。黄疸特有の古書のページのような肌色をし、 まると、一瞬あたりは完全な静けさに包まれた。世界の残りが四人顔や手のあちこちにクモの巣状の小さなしみが浮かんでいた。瞳は に追い付かなくてはならないとでもいうような静けさだった。きれ深く落ちくぼんでいた。意識は完全にはっきりしていて、二人の米 たわけもわかっていながら、ポルトはそしらぬ顔をしていた。 いにワックスのかけてあったジャクソンのステーション・ワゴン。 プロ・フット 二人は、ペイトリオッツ 一アッカーま、・ とす黒い血がポンネットの上ではじかれて玉状になる ) や狩りの話をとってつけ ポール・チーム たようにして、二、三分で引き揚げた。デッカ 1 はまた来ると約東 のをばう然と見つめていた。 したが果さなかった。十七日後、ポルトは飲酒からきた肝硬変がも . とで昏睡状態に陥った。投与された利尿剤の効果もなく、一九七七 ウォージェックの死が引き金となり、三人はばらばらになった。 ート・ポルトは肝不全のため 感謝祭が過ぎた直後、三人は同じ電車でポストンに通うことをやめ年十一月七日、月曜日の未明、アをハ てしまった。ジャクソンは勤め先の広告代理店の仲間と車で出勤す死亡した。 ハリー・ジャクソンは、ポルトの死に打ちのめされた。葬儀の三 るようになり、ポルトは銀行のダウンタウン・オフィスから郊外の 支店に転勤になった。クリスマス・カードのやりとりは別にして、 カ月後、彼は広告代理店から無期休暇を貰い、その数週間後にはか 交際が絶えてから一年近くになろうとしていた。 かりつけの精神科医の勧めに従いローガン病院に入院した。病院の ある金曜日、仕事から戻ったデッカーは、家族と紅葉を見に週末医師達は、彼の病状を軽度のうつ病と診断した。四十四歳という年 旅行に出かけようとしていた。そこへジャクソンが現われた。彼は齢、これまでの精神分析歴、親友二人の悲劇的な突然の死、こうい 怯え、そんな自分を隠そうとする力も失っていた。彼は、その朝、 った事柄を考えれば無理もないと言った。医師達は、彼に抗うつ剤 を投与し、二、三カ月もすれば退院できるだろうと慎重な判断を下 ポルトがゴミを出している最中に倒れるのを見たのだった。ポルト した。 は離婚後、一人暮しだったので、ジャクソンは彼を家に運び入れ、 救急車を呼んだ。ポルトが死んでいるように見えたため、病院の職デッカーが見舞いに行ったのは一度きりのことで、それもけんか 員はどこが悪いのか聞こうともしなかったという。後で、ジャクソ腰のあっけない面会となってしまった。ジャクソンは、医者に例の ソが銀行に電話をかけてみると、ポルトは二、三日前に辞職してい影のことを話したがり、自分の話を裏付けてくれとデッカーに頼ん たそうだ。 だのだ。デッカーがその考えを捨てさせようとすると、ジャクソン そのニ一ユースはデッカーをそっとさせた。エレンに旅行を一日延はデッカーが悪魔とぐるになっていると言ってなじり、冬の星のよ
ハリー・ジャクソンは病室の床の上で、シ うに冷たく、よそよそしい目を向けるのだった。彼はデッカーに対十一月七日の昼食時、 する憎悪をわめき散らした。すると、たちどころに石護人が現わ ーツにくるまり身をよじらせて死亡しているところを、当直看護婦 れ、彼を連れ去った。 に発見された。検査室からのレポートはその日の午後になって届い ジャクソンは夏に一時退院した。・ : カ狂暴な事件を起こした。天た。解離性動脈瘤の疑いが強く、もはや手遅れではあったが、発作 井から吊した電灯に物干し綱を結びつけ、首つりを図ったのであに要注意、と記されていた。 る。しかし、電灯の固定器具がはずれただけで済んだ。おかげでそ デッカーは、木材の切り出し路をそれ、荒木造りの橋のそばに車 の後の数週間、彼は拘東服を着せられ、涙の枯れるまで泣く破目に なった。彼は幻覚を訴え、多量の鎮静剤を飲まされた。十月末、どを止めた。彼は、神経質そうにバック・ミラ 1 をのそいたが、その ういうわけか、ジャクソンは突然失明した。病院のスタッフは妄想中で動いているのは、乾ききった路上に舞い戻る車の立てた土煙だ だと言って片づけたが、担当医は徹底的な身体検査を受けさせた。けだった。ドアを開け、車を降りた。空にしたカティサークがまた
り、気のおけない仲間がいる。彼はいつものように、すぐ仕事に取 りかかった。コーヒー・・フレイクの少し前、〈アメリカン・ア 1 キ デッカーは、三人が池を渡ってテントに向かって来るのを見つめ 6 テクチャー〉誌の編集長、旧友ジャック・マレーが電話をかけてきていた。一人が止まり、丸太の上にぶざまな姿をさらしている仔鹿 た。一九七九年度最優秀インテリア特集号にデッカーの手がけたウを調べ、仲間に向かってうなずいた。かれらはテントの中に入って エ・フスター ・コミご一ティ・カレッジを載せたいというのだ。デッ来た。三〇口径のライフルが手元にあった。が、体が麻痺して、動 カーは嬉しそうな声を出そうと努め、さらにはマレーのカメラマンけない。三人の友人がどうなっているのか振り返って見ることもで に建物の案内をしようとまで申し出た。無感動な中にも、我ながらきなかった。 ジャクソンは彼らに連れ出される時泣いていた。両の腕をとら うまくやっているという満足感がある。マレーに取材は次の木曜日 ではどうかと聞かれると、デッカーは他に仕事が入っていないか調れ、よろめきながらテントの入口をくぐりぬけた。次にウォージェ べるため、予定表のペ 1 ジをめくった。あきを確かめると、彼は予ック、そしてポルト。最後がデッカーだった。かれらの魚のように 定表のページを元に戻した。そこには「本日、一九七九年十一月七ぬめっとした手が触れた時、彼は身震いした。デッカーは引き起こ され、ほかの三人と一緒に並ばされた。 日」、と記されてあった。 三人の影たちが見分けられてきた。仔鹿のそばにいるやつは、痩 デッカーは、共同経営者のケリンズと早めの昼食をとりながら、 ウエリントン・カレッジの連中とのミーティングの対策を打ち合わせさらばえた男の顔をしていた。頭蓋骨に肌がじかにはりついてい せた。ケリンズのデザイン・チームは、新しいローウ = ル寄宿舎のるようだった。残りの二人はどうやら女らしい。一人は、安ものの 概略図を提出するばかりになっていた。ケリンズがデッカーに手短皮をしわくちゃにしたような顔をし、もう一人の顔はのつべりと表 かな説明をし終えたとき、デッカーは、思いのこすことはなにもな情がなく、子供のデスマスクといった感じだった。 影の男は、内臓を抜かれた死骸を四人の前に置いた。死骸はぐに いと思った。ケリンズはよくできた男だ。俺の死のショックからい ったん立ち直ってしまえば、オフィスをうまく切り回していくことやぐにやで、腐りかけた獣特有の臭いを放っていた。 しわだらけの女は、ロー・フの下から彫刻を施された木杯をとり だろう。今から五年、十年先にも、〈インテリア・デザイナー・デ ッカー、ケリンズ & アソシェイツ〉と押印された用紙に製図者の誰だし、ジャクソンのところへ滑るように近づいた。死人の顔をした 少女が、ジャクソンの目に両手を伸ばし、中指で両のまぶたを閉じ かが図面を引いてくれる、そう考えるとデッカーは嬉しくなった。 昼食の間に、ケリンズの無言の困惑をよそに、マンハッタンを三杯た。 も飲んだあげく、酔いと押えつけていた緊張感にデッカーは打ち負「泣け」彼女は言った。ジャクソンが目を開けると、涙が頬を伝わ かされてしまった。彼は弁解してトイレに駆け込み、吐いた。胃がり杯の中へ流れ込んだ。影がウォージェックの方へ移動しても、ジ ヤクソンは泣き続けていた。 空になってもなお、デッカーはしばらくあえいでいた。
クインシー・ショーンズ冂愛のコリーダ AMP -28028 / 曰 AMC ー 28018 / 各 Y2 , 800 ・ザ・ナイト」と、プロデューサ マイケル・ジャクソン「オフ・サ・・ウォール」、ショーシ・べンソン「ギヴ・ ーとしても大活躍、まさにプラック・コンテンボラリー界のビッグ・スクインシー、 3 年振りのリーダー アルバム。常に、時代の求める音をいち早く与え続けてきた彼のセンスは、 3 年間の空白を一気に飛び越えた。 今、フューション・ミュージックの理想の形ともいえるクインシー・サウンドをパッケージにして、只今、発中 ノし 0 アルファレコート株
」 0 とデッカーは自分に言い聞かせた。何事もないような顔をして、オは膝を落とし、発作的に震えていた。誰もかまってやろうともしな フィスで今日一日をやり過せるなどとは力なことを考えたものかった。 : あいつらはなにものなんだ ? 」ポルトの声 「いったいぜんたい : ノニック寸前だった。 は震え、 ほどなく、オフィス・ポーイのべニーが現われ、二人は会社のス ンのある駐車場へ向か 0 た。 = 、ートンまでの車中、デッカーは妻「知るもんか。なんで俺にわかる ? 」ウォージ = ックは怒って言 0 た。「あの女、何のことを言ってたんだ ? 」 が家にいるのではないかとずっと恐れ続けていた。 彼はサイド・ドアを開け、声をかけたが、返事はなか「た。二階「よくわからん。何のことかわからなか「た」 の寝室に行くとビジネス・スーツを脱ぎ捨て、ジーンズ、 ( イキン「俺にはわかった。全員わかってたはずだ」デッカーは言った。ポ グ・プーツ、フランネルのシャツ、それにダウン・ベストを身に着ルトとウォージ = ックがデッカーをまじまじと見つめた。ポルトは けた。デッカーは、廊下の向かい側の書斎に入り、机をひ「かき回目をそらしたが、そのたるんだ顔はタマゴの殻のような色に変化し して十二番ゲージの散弾が入ったほこりまみれの箱を見つけた。ウていった。 ポルトは、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。「何かの幻覚 インチェスターは、寝室の押入れの棚の最上段、予備の毛布の下に あった。彼は、ショットガンと弾薬を毛布でくるむとボルボのトラさ。たぶん、食中毒だろう」 「じゃあ、これは何だ ? 」とウォージェックはデッカーを見つめな ンクに入れた。 がら言うと手を挙げてみせた。血に染った手のひらには五インチの デッカーは階段を駆け降り、台所に入るとその朝エレンに言いた かったことをあまさず伝言板になぐり書きした。出がけに彼は酒棚傷が走っていた。 の前で立ち止ま 0 た。今ならまだ急げば、暗くなる前にあの池に着「よし、見せてみろ」ポルトはウォージ = ックの手首を損んだ。ポ ルトが傷を調べている間、ウォージェックは彼のなすがままにされ けるだろう、と彼は思った。 ていた 「なんで切れた ? 」ポルトは握っていた手を放したが、ウ 「自分でやったんた オージェックは腕を下げようとしなかった。 死人の顔をした少女は、もがいていた仔鹿を抱き上げてあやして ろ」ポルトの声には非難がこめられていた。ウォージ = ックは手を 、た。しわだらけの女が四人に近寄ってきた。 「そんなもの俺の前から引っ込めてくれ、目ざ 挙げたままだった。 「死の影がおまえたちにとりつく。この日を忘れるな」 彼女が仲間のところへ戻ると、三人は霧の中に差し込んできた朝わりだ ! 」 「ちょっと歩いてくる」デッカーはテントに入り、ライフルに弾を 日の中でゆらめき始めた。 込めた。「二、三分で戻る」 「忘れるな」一条の光が三人を貫き、そして三人は消えた。 デッカーは池の囲りを歩き、はじめにかれらのいたあたりに来る ・ほう然自失の四人は、聞き慣れた森の音の中にいた。ジャクソン 8
ローランド・デッカーは、目覚めるとまず最初に思ったーー今日みを広がらせていた。午後遅くには、凍ったぬかるみがしばらくの だ。今日が、やつらに俺が死ぬと予言された日だ。 間柔らかくなった。池から出て速い流れとなって岩走る冷たい水の デッカーは寝室のひんやりとした暗がりの中に横たわったまま、 音がするだけで、あたりは静まりかえっていた。 最期の時に備えて自制心のかけらを継ぎ合わせようとしていた。こ彼ら四人は、何年も前からメイン州での狩りを計画していたが、 のままへト ・ツ・の中でやつらを待つ。出かけて行きやつらに立ち向か シーズン中に全員の週末がそろって空いたのはその時が初めてたっ 。やつらのことなど無視してしまう。すべて前に幾度となく考えた。午前中はまったくついていなかった。昼食のすぐ後、一頭の仔 たことだ。 鹿がデッカーに驚いて、茂みの中からウォージェックの真ん前に飛 デッカーは妻を起こさぬようにペッドからそっと抜け出し、シェび出してきた。ウォージェックは狩りが初めてだったので、血抜き ドを上げた。雨垂れが窓ガラスをつたっていく 。空は薪から昇ると解体はデッカーが手伝ってやった。 煙の様な色をしていた。近所の家々の前には、へこみのついたゴミ その晩、彼らは仔鹿の心臓をアルミホイルに包んで炭焼にし、フ ハケツが空にしてもらおうと並んで待っている。世間にとってはい リーズ・ドライのシチューに人れて食べた。うまかった。池の水で つもと同じ生活のリズム。デッカーだけが同調していない。彼はシ 割ったスコッチで祝杯を上げ、毎年四人で狩りに来ることを誓い合 っこ 0 エードを下げ、着替えを始めた。 エレンに別れのキスをしに寝室に戻ると、神経が今にもまいりそあれが起こったのは、十一月七日の日曜日、まだ薄暗い夜明けの うになった。彼女は左腕をデッカーの寝ていた方へ伸ばし、猫のよこと。森はひんやりとした霧に包まれていた。大雪の前ぶれにも似 うに身体を丸めて眠っている。そのうち、夫のぬくもりを求めて手たそっとするような静寂。デッカーはずきずきする痛みのせいでは さぐりし、彼がいないのに気づいて目をさますだろう。かがみ込んっと目ざめた。脚がつっていた。起き上がって痛むふくらはぎを揉 で妻の掌に唇を触れると、目頭が熱くなった。 んだが、硬直が広がり、デッカーは痛みに耐えかねて地面をのたう デッカーよリくー ちまわった。 サイド発八時二十分の電車に飛び乗り、ポスト ンまで、窓際の席に坐っていた。ダウンタウンの墓穴のようなトン初めかれらは池の向こう岸にいた。デッカーは無理矢理痛みを追 ネルにさしかかるまでに、電車はしまりのない顔をした通動者でしい払った。かれらは突風のように水上を渡り、影は黒っぽい人間の だいにふくれあがっていった。その顔も闇に飲まれ、逃がれるすべ形をとり始めた。枯れ木のような顔に垂れているロープは、夜のと ・より。 もない思い出と共にデッカーは一人とり残された。ウォージェッ ク、ルト、それにジャクソン。今日は三人の命日た 9 いったんオフィスに着いてしまうと、・デッカーの気持はしつかり 名もない池だった。乾燥した秋の、気候が岸辺を後退さ・せぬか , るしてきた。自分の好みに合わせて設計した部屋。心安まる調度があ 5