地球 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1981年8月号
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1. SFマガジン 1981年8月号

る。 先月で引用した『火星兵団』のあとがきからもうかがえるよ うに、どうやら海野は異星人による地球侵略を真面目に心配し ていたらしいフシがある。どうしてこんな考えを持つに到った のか、ウエルズに私淑していたと言われる海野のことだから 『宇宙戦争』がその源泉となっているであろうことは推察でき るが、それにしてもなにか原体験が , ー、・幼少時に宇宙人にいじ められたとか、あるいは先祖の仇が宇宙人だったとかいう経験 がーーーあったのではあるまいか ? ( あるわきゃねーずら、そげ なもン ) ま、冗談はともかく、海野の″地球侵略コンプレックス″を 示す一例として、面白い文章がある。これは桃源社版『地球盗 難』の瀬名堯彦氏の解説からの孫引きになってしまうのだが、 参考までにちょっと引用させていただこう。 ( 前略 ) 海野は、将来このような事態の発生を本気で信じ ていたらしく、終戦直後、「光」創刊号 ( 昭和二十年十 月 ) に「原子爆弾と地球防衛」と題する、興味深い一文を 書叢藝父民国小 警襲空 若三十簽 4 4 『空襲警報』 寄せている。その一節を引用して見よう。 「私はここで私の結論を先に掲げる。すなわち、原子爆弾 の実現したのを機会として、全世界はお互いの間に於ける 一切の戦争を永久に終局とせねばならぬ。そして、全世界 は一致団結して協力し、地球防衛の一目標に精進せねばな らぬ。地球防衛とは何か。それは地球の敵より地球人類を 護ることである。地球の敵とは何か。それは他の遊星に棲 息する生物で、われら地球を狙う者共のことである。 これはちょっと耳にすると、如何にも空想に過ぎるお伽 噺のようにも感するであろう。しかしよく考えてみると、 好むと好まざるとに拘らず必ずわれらはやがてかかる侵略 者を迎えねばならないだろう。この大宇宙には何億とも数 の知れない多数の恒星があり、それは大小とりどりの太陽 として輝いている。何億の太陽には、われら地球と同じ成 因で生れた遊星が附随している場合も多かるべく、その中 にはわれら地球と同様に、文明を持った生物も棲息してい ることだろう。 ( 中略 ) 宜しくわれら地球人類は、今から 直ちに一致協力して、やがて宇宙より侵入し来るであろう ところの恐るべき偉力を持った他星生物を迎える準備をし なければならないのだ。これが『地球防衛問題』である。 そしてこれは一日も急いで取掛らねばならぬ。私はこれま でに度々この問題を取上げ、『地球盗難』『火星兵団』等 の長篇科学小説として天下に警告して来たが、今日更にこ 。 ( 以下 の問題を提示し、全世界の輿論に訴えたいと思う いかにも海野らしい、科学小説家の面目躍如たるものが あるではないか。 ところで海野の地球侵略テーマのには前述『地球盗難』 5

2. SFマガジン 1981年8月号

ろうよ」 星の最高峰をふくむ連山が影絵のように連なっていた。その連山へ 「船長。指示どおりにしますか ? 」 向って、平原はゆるやかな傾斜で高まってゆく。 「しばらく様子を見よう。宙航士、操縦士。七度二分十五秒。高度「船長。間もなく《ポイント・イーグル》だ」 現在のまま。速度三三二キ卩メートル」 フルイは誰かに聞かれるのを恐れるかのように声を忍ばせた・ 「宜候」 《 : : : サンビヤクドノホウコウニクロイイワガミエルダウソノ ヒダリニクズレタガケガアルソノジョウクウデテイセンセョ・ 《アナクレオン幻》は急激に減速しつつ回頭した。 「《ポイント・イーグル》へ連れてゆかれるのかもしれないな」 「船長。この惑星には、当時の連中が残っているんですかね ? 」 「船長。三百度の方向などという言い方は太陽系連合の航路管理局 「そうとしか考えられないな。引揚げすに残った連中がいたのだろの習慣だぜ。あれは地球人だよ。やはり生き残っていたんだ」 う」 「だが、あのロポットと植物人間のサイボーグみたいなやつは、あ よくそういうことがある。基地を撤収するような時、将来の為にれは何だ ? とても地球人に関係があるとは思えなかったそ」 残された保安要員が長い間にそのまま、その基地や惑星を支配する「スミ。おまえに言っているんじゃない。黙っていろ。船長。どう 組織を形作ってゆくことがある。 思う ? 」 その事例かもしれない。 船長のイタカは疑惑と苦渋の色を顔に浮かべて、スクリーンを見 つめていた。 だが、残されている記録には、それを示す何の記載もなかった・ 「船長。相手の正体もわからないのに、言うことを聞くのは、軽率 リトル・ハラは前方の重力場を消減させると同時に、後方に小さな じゃないか」 重力場を作り出した。 リリエトは責めた。 巨大な《アナクレオン幻》の船体が、ゆっくりと停止した。 ・コウドヲュックリサゲチャクリクセョ・ 「危険ならすぐ脱出する。われわれは写真偵察に来たんじゃないん《 : ・ だ。わかっているだろう。リリエト」 高度が下るにつれ、地表があきらかになってきた。大小無数の石 イタカのままよリ 塊が散乱している荒蕪地がどこまでも続いていた。 ~ ー肖いたように鋭かった・ 《アナクレオン幻》はすでに指示されたコースに入っていた。 高度二〇〇〇。一〇〇〇。地表に、大きな暗色の斑紋が横たわっ ていた。それが鷲の形に見えないこともない。かって、《ェニセイ 6 ・ポグ》の人々によって、イ 1 グル・ポイントと呼ばれていた場所 ・こっこ 0 このあたりは、《ェニセイ・ポグ》の中枢部が置かれていた所だ 平原の果に台地があらわれた。はるか北方の地平線には、この惑 ケース 2

3. SFマガジン 1981年8月号

ⅧⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅱⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ 然、米連主力艦隊を大恐慌の中に抛げこんでしまった。 こうして私は否応なくビース提督に欧弗同盟軍攻撃を承認さ せてしまうのだった。しかし、この恐るべき超能力を持った 大使とは、そもそも何者なのだろうか ? 果たして彼は日本の 味方なのか ? また、その目的は・ 1 物語が進むにしたがってしだいに明らかにされる >< 大使の正 体ー・・・。大使とは、地球征服の命をうけて金星から飛来した 宇宙人だったのだ。″四次元跳躍術″なる超能力 ( これは紙の 両端に点を打って、その紙を二つに折ると、点と点とは一瞬に して重なってしまい という説明から分かるように、完全に おどろ ″これからが、見場なんだ。まだ、愕くのは早い。よく見 ワープ航法と同じ原理だ ) を持った大使は、地球を自壊させ てゐるがいゝ。 るべく私を傀儡として汎米連邦と欧弗同盟とを衝突させようと 戦艦オレンヂ号は、見えない絲によって宙吊りになって たくらんでいた : るようであったが、このとき、とっぜん戦艦オレンヂ号の そして物語は、金星からの侵略に対抗して四次元跳躍術の遮 まんなか 艦体が、真中のところから、切断されてしまった。つまり断方法を発明したわが大日本帝国が、原子工ネルギーを用いて うしろ 前部煙突のところから後が、切断されて、無くなったので陸地をすべて削りとり、ついには日本全土の完全海底要塞化 っゐらく ( ! ) を実施する場面で結ばれる。 あった。尤も、その切断された半分が、海上へ墜落してい くところは見えなかったが : ぶさう 『あっ、もう、よしてくれ。もう、わかった。お、黒馬博 日本要塞の武装が、やがて更に発展して全世界に拡が くわいりよく ちきうえうさい しゃうらい 士。これ以、艦隊のうへに、怪力をふるふのは許してく り、「地球要塞」となる日も、決して遠い将来ではないで きんせい れ。』 あらう。いや、金星のプ・フ博士は、今より三十年後には、 らうば、 はう - 」 ~ 、 ″今さら狼狽するのは見苦しいそ。なぜ初めから、わが申 地球が一大要塞化することを見極めて報告してゐたではな うちう 入れに応じないのか。″ いか。地球上の戦争は果てても、戦争は更に宇宙へ向って せんかん えいゑん さういってゐるうちに、戦艦オレンヂ号の艦体の半分も 延長し、戦争の果てる時は遂に永遠に来ないであらうー 見えなくなった。戦艦一隻が、一二分の間に、見えなくな ってしまったのである。 ・ほくが最初にこの『地球要塞』を読んで感心したのは、全地 けいはう 室内では、警報ベルがしきりに鳴ってゐる。そして入口球の要塞化という雄大な構想もさることながら、この時代に小 いや大道具というべきか ? として″次元″の概念 の扉は、破れんばかりに、うち叩かれてゐる。怪事は、果道具 えんとっ ( ママ ) せき せつだん 0 1 『大宇宙探検隊』 ちうづ まをし くわ 0 だいきようくわう ひろ 8

4. SFマガジン 1981年8月号

当・科学日険時代」ー會津信吾 第九回 海野十三 STRIKES BACK 一 本誌連載中のビータ ー・ニコルズ編『エンサイクロペデに掲載されたもので、タイトルは「険奇小説世界的大混乱」。 イン・ヘイジョン ィア』で「侵略」の項を引くと、史上初の地球侵略テーマの原作者ウエルズの名前はなく、虎髯大尉の作のようになってい ート・ポーターのる。おまけに内容も舞台をロンドンから東京に移し変えた翻案 作品は、オーストラリアの作家兼牧師ロく 『細菌培養者たち』 The G ミ Growers ( 一八九一 l) とさもので、しかも雑誌で二回分載というかなりいい加減な扱いだ れている。しかし編者ニコルズは、『細菌培養者たち』を侵略った。 テーマの嚆矢としながらも、「現在では忘れ去られたこの小説その後、大正四年になって、今度は光用穆によるほ・ほ完訳が の影響力は評価しづらい」と述べ、そして「おそらく世間に広東京の秋田書院から刊行されている。この時の邦題名は『科学 く流布しなかったのではあるまいか」といぶかってみせてい 小説宇宙戦争』となっているが、すでに大正四年という時点 る。 で The e ョミミを『宇宙戦争』とした訳者の TJ したがって、異星人による地球侵略を本格的に扱った最初の感覚のスルドさには、脱帽させられる。また、この光用訳は としての名誉は、どうしてもウエルズ大先生の『宇宙戦文章もなかなか滑らかで読み易く、矢ロ達、木村信児、土屋光 争』 ( 一八九八 ) に譲らざるを得まい。 司らによる戦前 ~ 戦中の数種の訳本の中でも、屈指の良書と言 えるだろう。 わが国に『宇宙戦争』が初紹介されたのは、今を去ること六 十九年前の明治四十五年のこと。原作が出てから十四年ほど後海野十三ものテーマとしてしばしば地球侵略を扱ってお り、代表的な作品には『地球盗難』『火星兵団』の二長篇があ の翻訳だ。押川春浪が創刊した青少年向けの雑誌〈冒険世界〉 4

5. SFマガジン 1981年8月号

ます離昇してから四分半の間にト 点 ( つでオービターの天井板が吹きとび、二人 ラブルが発生した場合は»-a モ止 の体はロケットで座席ごと外へ射ち出さ ード ( リターン・トウ・ランチ・サン れ、パラシュート・ か開く ことには、よ TJ ジ 2 ン っている : しかし、たとえばなんらか イト ) が使われる。固体ロケット・ の原因でスビンが発生したりして射出が不・フースターは離昇から二分で燃え尽主 可能な場合もあるわけで、そのままマイア きるから、この前にトラ・フルが発生規 、、の方へ素ッ飛んでいく などという最してもとにかく上昇を続ける。あせ正 悪の事態となったらどうする : : : ? 管制 って・フースターや外部燃料タンクを 所は、搭乗員の万一の僥幸を祈りながら固切り離したりしないのだ。そして燃 体ロケット・プースターと外部燃料タンク え尽きた・フースターを切り離したあ をオービターから切り離す。オービターは とでこの *-a モードに入るわけ だ。これは、まだの噴射が そのまま地上へ : 0 一これを考えただけでーー、とにかく つづくオービターをゆっくりと横転 が対応策を用意しているのは発生の可能 ・回頭させるのである。これが完了し叫幻 性があるということだろうからーーーー私は、 したとき、オービターは機首を西の スペース・シャトルにのせてやろうかと言方へ向けて外部燃料タンクの上に乗ト われてもとても、のつかる気にはならない ケ上 ツかった姿勢になっている。仮にエ ロち のだ。とても恐怖を克服できそうにないー ンジンが一基停止しても、残る二基体打 もちろん、こんな深刻な事態はそう頻々 わ の推力によってオービターはケープ ・カナベラルに向かって引き返すわ 40 と起きるわけもないだろうが、しかし、オ 1 ビターに装備されている主エンジン三基けである。そして燃料を使いつくし 飛行打ち切りのモー のうちの一基の出力が低下する : : : 位のこ てエンジンが停止すると、七秒後、 とは、この次の打ちあげに発生してもべっ アラウンド ) モードが使われる。三分半と オービターは機首を下げると同時に空ッぼ に不思議はない。 こんな場合に備えて、飛となった外部燃料タンクを切り離し、その しえばもう固体ロケット・、、フースターは燃 え尽き、切り離されたあとである。ここで 行打ち切りは三つのモードが詳細にさだめまま滑空降下で、番発射施設の北側につ られている。なによりの救いは固体ロケッ くられた四千メートル滑走路へ進人するわ主エンジンの出力低下が発生したときは、 へたにひき返そうとするなということにな ト・・フースターが非常に強力なものなのけである。 離昇してから三分半以降にトラ・フルが発る。そのまま燃料が燃え尽きるまで上昇を で、この・フースターだけでもなんとか上昇 つづけるのだ。そして地球をぐるりと一周 生した場合は O << ( アポート・ワンス・ ( 言が続行できるという点たろう。 t— 524 sec. 300 245 270 RTLS モード 発射基地へ帰還 主 AOA モード 地球一周の上、 非常着陸予定地に帰還 ATO モード 低高度衛星軌道に いったん乗ってから帰還 MC モード・ 予定の衛星軌道に乗り 予定を早めて帰還 離昇後の経過時間 上昇中の飛行打ち切り方式 副 ( 予備 ) 480 560 400 320 240 馬 0 2

6. SFマガジン 1981年8月号

『火星兵団』のほかに、その名も『地球要塞』という子供向けのオルガ姫とともに巨大な島型潜水艦〈クロクロ島〉に乗って の長篇がある。これなどは仕掛けや小道具もにぎにぎしく、現諜報活動を行なっている。そして汎米・欧弗の緊張状態の続く 在でもけっこう楽しめる内容なので、詳しく紹介してみようかある日 クロクロ島操縦室の私の目前に、音もなく幻のよう と思う。雑誌〈譚海〉昭和十五年八月号 ~ 十六年二月号に連に現われたのは高圧潜水服のような鎧に身を包んだ謎の怪人。 載、単行本は昭和十六年三月偕成社より刊行の作品だ。 ( な自らを >< 大使と名乗るその怪人物は、私にこれから汎米連邦連 お、譚海については拙稿第七回をご参照下さい ) 合艦隊旗艦〈ユーダ号〉の司令長官室を訪れてみないかと切り 出してきたのだ。 せいれき きぼう 西暦一九七〇年の夏ーーー この突然の 「もとより、それは希望するところであるが」 よどむーー「これから、どうして敵の旗艦 折から私は、助手のオルガ姫をつれて、絶海の孤島クロ申し出に、私はいい そげき クロ島にゐた。 に近づけばい & か。私が甲板を踏む前に狙撃でもされ & ば、お しまひだ」 物語は、こんな書き出しから始まる。この小説の舞台となる しかし、私の力を信じろという X 大使の言葉に乗せられて、 一九七〇年の地球は、南北アメリカを合併した汎米連邦、ヨー結局は大使に承諾してしまう。 ロッパとアフリカを統合した欧弗同盟、そして大日本帝国を中 心とする大東亜共栄圏の三大勢力によって分割・支配されてい 『よろしい。向ふへいったら、君が説きたいと思ふことを 訊いてよろしい。しかし、わしの代りに、 一つ二つ訊いて る。おりしも汎米連邦と欧弗同盟とは資源問題をめぐって対立 しあい、今まさに第三次世界大戦は一触即発の状態にあった。 もらひたいことが出来るかもしれな。いそのときは、ぬか さと 主人公の「私」こと黒馬博士は、美人アンドロイド ( わワ ) りなく、やってくれたまへ。むろん相手には、悟みれぬや うにな。』 これは大使の科白。とーーー突然起こった激しい目まい。そし て私が再びあたりを見回した時には・ ・ : なんという不思議、 つの間にやら私は旗艦ューダの司令長官室に立っていたのだー 驚くューダ号の司令長官。ヒース提督に詰め寄った私は、彼の 口から驚くべき事実を聞かされる。提督の話によると、これか ら雌雄を決しようとする汎米・欧弗の両者は開戦まぎわの今に なって急に和解し、逆に提携して大東亜共栄圏を侵略する計画 なのだという。 提督の言葉に激怒する私の耳許へ、そっと >< 大使のささやき ひめ 『地球要塞』 かんばん ( ママ ) 6

7. SFマガジン 1981年8月号

こでは運命の皮肉も読者の期待を裏切る ことはない。 19 世紀後半の大きな生物学的テーマはも ちろん進化であり、これが引き起こした思 想の対立は、 S F の発展に最大の刺激を与 えた。この論争に対する反応は、さまざま な形をとった。人類の進化論的未来に関す る種々の考察は、進化と遠未来の項で論じ られている。またヒトの進化論的歴史は、 ヒトの起源の項にまとめられている。進化 を適応の過程と見る考え方は、地球とは異 なる環境に適応した生命体という形でいく つかの試みを触発したが、これらは異星人 と宇宙生物の項で取り上げた。同じ発想が もうすこし控え目なスケールでなされた場 合には、風変わりな地球生物を描く数々の ファンタジイになる。中ではウィリアム・ ホーフ。・ホジスンの海洋小説と、ロノく一ト ・ W ・チェンバーズの S なん the U 加〃 ( 團 1904 ) に収められた諸短篇 が注目に値する。前世紀の奇怪な残存生物 ( 通例は恐竜 ) は、探検メロドラマに不可 欠な彩りとなった。その中では、ジュール ・ヴェルヌの『地底旅行』の , age のイ 化厩尾 / 4 な e ( 18 ) と A ・コナン・ ドイルの『ロスト・ワールド』 T んビん 0 立 べレズフォードがいる。 G ・ウェルズ、 J ・ H ・ロニー兄、 J リアム・ホープ・ホジスンのほかに 中に多用した初期 S F 作家としては、 生物学的思弁にとりわけ力を入れ、作品 Ⅳ or ( 1912 ) がとびぬけている。 H ・ ウィ るか後年になるまで進歩が見られなかった 要なテーマとして初期に登場しながら、は デアにおちいりがちだった ( 医学 ) 。重 疫病など、常套化のきわまりつつあるアイ た。医学方面の思弁は、万病の薬、新種の 験生物学をあっかう小説の影を薄くさせ わたって生物学 S F の中で優位を保ち、実 進化論的ファンタジイは、その後多年に のは、生物工学 - 一一生物の戦略的改造であ る ( 遺伝工学 ) 。現実世界では、研究に よって多くの可能性が開かれつつあった が、 S F 作家の想像力を刺激するまでには 至らなかったようだ。きわだった反応を引 き起こした唯一の事件は、放射線の突然変 異誘導特性の発見である。突然変異という 発想には、好奇心をかきたてずにはおかな いものがあり、進化論の中で決定的な役割 を果たすことにより、その重要性はまし た。 S F 作家たちはそれ以前にすでに、メ ロドラマ作法上のさまざまな理由から光線 のたぐいに魅せられており ( 動力資源、 武器 ) 、生物学的思弁に放射線を取り入れ た結果、、、突然変異ロマンス″が急速に開 花した ( ミュータント ) 。ジョン・ティ ンはこうしたロマンスの代表的作家であ る。 初期のパルフ。作家には生物学の知識をそ なえた者は稀で一一一例外はスタンリー・ G ・ワインポームぐらいだろうーー作家たち は奔放に、無雑作に生物学のアイデアを処 理した。ワインポームはおもに異世界の生 物系の想像にその専門知識を生かしたが、 生物学的実験を数多く取りあげた唯一の作 家としては、医師であり、後に精神科医に なったディヴィッド・ H ・ケラーがいる。 ( ただし生物学者ジュリアン・ハックスリ ーが、 19 年、アメージンク・・ストーリー ズ誌に "The Tissue-Culture King ”を発 表していることも、 ーに記しておいてよ いだろう ) 1940 年代に入ると、事態は多少改善され た。生物学の素養のある作家たちが、この 時期何人か S F 界に補充された。中では生 化学者のアイザック・アジモフ、そしてジ ェイムズ・プリッシュが有名である。フ・リ ッシュはカレッジで動物学をおさめ、医学 関係の技術者をしていた。 S F を精力的に 書きだすのは年代に入ってからだが、彼 262

8. SFマガジン 1981年8月号

合作もあれば、オットーのソ g 作品もあ る。ほか 2 人の合作は、ジョン・コールリ ッジ名義で 11 篇、ディーン・ D ・オプライ ェン名義で 1 篇。オットーはまた単独でゴ ードン・ A ・ジャイルズの名前も使い、ウ イル・ガースのハウスネームでも書いたほ か、近年になって長篇をひとつ出版した。 末弟のジャックは、《キャプテン・マーヴ ェル》の初期に活躍したイラストレータ 。兄のオットーは同コミックスの常連台 本作家だった。 アールとオットー兄弟のよく知られた作 品は、第 1 作 "The First Martian" ( 1932 アメージング誌 ) をはじめ、すべてイアン ド・ビンダーの名前で発表されている。中 でも重要なのは《アダム・リンク》シリー ズで、これはオットーのソロ作品。知能を 持っロポット、アダム・リンクが情感たっ ぶりに自伝を綴ってゆく。作品の大半は 『ロポット市民』みぬ襯ん切ん一火 0 との ( 1939 ー 42 , アメージング誌 ; 1 5 ) に収めら れているが、ほかにアメージングに発表さ れた末収録作品が 3 篇ある。リンクは高度 に人間的で、その後まもなくアイザック・ アジモフのやや鈍重なロポット像が、 S F 界において動かしがたい規範の地位を確立 するものの、ロポット・ヒーローを共感を もって描いた例として、《リンク》シリー ズはその重要な先駆とされている。ビンダ ーのもうひとつの大きなシリーズに《アン トン・ヨーク》ものがある。不死人となっ て生きてゆくアントンとその妻の物語で、 全作品がみ 0 れ York 1 襯襯 0 記 ( 19 ー 40 , TWS 誌 ; 統 1 % 5 ) に再録されてい る。また 1930 年代にイアンド・ビンダー名 義で書いた地味な雑誌連載が、その後少 しずつ出版されるようになった。中では E など d 召ゞ ( 1934 , ワンダー・スト ーリーズ誌 ; 1965 ) と or C 尾酣 / 0 れ ( 1939 , アーゴシー誌 ; 1949 ) が注目に値 VIII する。後者は、上帝の地球支配が抵抗にあ い、最後にくつがえされるまでの物語。 19 年から 42 年にかけて、オットーはゴー ドン・ A ・ジャイルズ名義で TWS 誌にま たひとつのシリーズを書いている。それら は題名がすべて "Via" で始まるので《ヴァ イア》シリーズと呼ばれ、のちに ~ 4 ん 研ビ S 第 4 化 ~ ra 襯 / ( 1971 、イア ンド・ビンダー名義 ) の題名で出版され た。オットーは単独で、また合作で、シリ ーズをなさない小説も数多く書いている。 発表誌は、 1933 年から 42 年にかけてのパル プ雑誌群であり、それら作品の内容は、ジョ ン・ W ・キャンベル・ジュニア以前の A S F の典型といってよい ( キャンベルの A S F 誌登場は、 S F の質的革命を象徴するで きごとである ) 。 1940 年以降、オットー ビンダーは《キャプテン・マーヴェル》と 《スーバーマン》コミックスの台本を書い ている。小説からは遠ざかったが、ノンフ イクションは数多く書き、平行して編集に も力を注いだ。空飛ぶ円盤への関心が強 い。 1953 年から 54 年にかけ、短期間 S F に カンバックした。 60 年代と 70 年代に出版さ れた小説のうち、かなりの部分は第 2 次世 界大戦以前の作である。 ビング、ヨン BING, JON ( 1944 ー 〔 J C 〕 / ルウェーの作家、編集者、翻訳家。法 律の学位を持ち、ノルウェー I BM で法律 関係のコンビューター・エキスパートの職 にある。トール・オーゲ・フ・リングスヴェ ールと組んで、共作の S F 短篇集を数点発 表。この中には 2 人の処女出版火Ⅷ 確れ / れ g 〔太陽周回〕 ( 1967 ) も含まれ る。単独でも、児童向け、おとな向け合わ せて半ダースほどの長篇と、短篇集 Det I ん第〔やわらかな風景〕があ る。作風は神話的であり反リアリズムであ 264

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現代 S F の多くは、生物学の現況に深い関 心を示しているように見えるが、そこに現 われる思弁に、、外挿的〃とか、、リアル″と 評せるような例はほとんど見当たらない。 だが、これは必ずしも批判の言葉ではな こうしたアイデアの扱い方は興味深い ものにはなりうるし、文学性を高めている 場合も多い。ただし生物科学そのものを扱 う S F がきわめて少ないことは認めなけれ ばならないだろう。人間が人間であるゆえ に置かれる状況を表現するのに、生物学的 アイデアを暗喩に使うのは、あるいは避け られないことなのかもしれない。人間は生 物なのだから、生物学の思想が人間のイメ ージに影響を及ぼすのは当然のことなので ある。 S F はたんにその影響を誇張 ( あえ ていえば、外挿 ) しているにすぎないの だ。少なくとも生物学に関するかぎり、 S F は現在に至るまでまったく人本主義的な 媒体であったといえる。 〔 B S 〕 ビオイニカサーレス、アドルフォ BIOY CASARES, ADOLFO ( 1914 ー アルゼンチンの作家。その作品は、 S F や探偵小説の形式を観念的かっパディ風 に用いているが、意図はふつう形而上学的 なところにある。ん 4 て , 紐 c れ / ( 1940 ; 英訳 T んど怩れた・ 0 れ研ユん / 4 れ d 0 & 0 お 1964 所載 ) は、その ような作風でモレルがついに不死性をかち えるまでを描く。代表作刃ーど加 / の ん分。ぉ〔英雄たちの眠り〕 ( 1954 ) は、超 自然の存在らしい謎の人物に、死にかけた ところを救われる職人の物語。職人は何年 か後にまた同じ状況におちいるが、今度は ん″ビ ra た行・ 4 五 4 ー立 / ca に幻想小説のアンソロジー ・ポルへス、シルビーノ ビオイ = カサーレスは、 何の干渉も入らない。 XII ( 乞 1940 ) を編 厩 olog ・オカンボととも ホルへ・ルイス んでいる。またオノリオ・フ・ストス = ドメ ックの名でポルへスとの合作がある。 〔 J C 〕 『ポルへス怪奇譚集』 既訳作品 0 化厩の房・れ , ぉ raor 市れ 4 ん ( 1967 , ホルへ・ルイス・ポルへスと共著 ) 。『プス トス = ドメックのクロニクル』 C お 6 襯・ c の 召 4 の Do 襯 ( 1967 、ホルへ・ルイ ス・ポルへスと共著 ) 。 ビショップ、マイクル BISHOP, MICHAEL ( 1945 ー アメリカの作家。幼年時代、世界各地を 旅行。ジョージア大学で英語文学の修士号 を取得、学位論文のテーマはデイラン・トマ スの詩。 1970 年、ギャラクシイ誌に。、 Pifion Fall" で登場、短期間のうちに 70 年代の代 表的な新人作家の地位を確立した。作品は 並みなみならぬ知的複雑さをそなえ、異星 260 じえた主人公の自己開発の物語は、説得力 的な分析が積み重ねられてゆき、暗喩をま る。異星文化のこみいった、ときには感動 政治のしかれた地球に送還される運命にあ を起こさなければならず、失敗すれば独裁 宇宙ェビック。主人公は異邦の惑星で奇蹟 その典型である。フ。ロットはゴシック風の 4 ra / 工 br 訪刃ッぉ窺 ( 1975 ) は 具もすべてそろっている。処女長篇み 舞台で、伝統的スペース・オペラの小道 ドコア S F であり、その多くは他の惑星が はこれがない。彼の小説は表面的にはハー 気が陰に陽に感じられるが、ビショップに 去 10 年に現われた創作教室の解放的な雰囲 ニュー・ウェープの影響が色濃く見え、過 ・プライアントには、 60 年代アメリカン・ 扱えないものがある。たとえば工ドワード の時期輩出した一群の作家たちとは同列に がうかがえるものの、ビショップには、 わには、内容の暗さもあえて辞さない姿勢 人や人間の疎外状況を人類学的に扱う手ぎ

10. SFマガジン 1981年8月号

ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅧⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ聞ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ の功績のひとつは、ジャンル S F 作家とし ては初めて生物学的アイデアを大量に取り 入れ、それらを巧妙に使いこなしたところ にある。初期の重要な作をひとつあげれ ば、 "There ShaIl Be No Darkness" ( 195 の これは、超自然の空想世界か ら借用したシンポルを、生物学的アイデア によって合理的に説明しようとするタイプ の小説のひとつである ( 超自然の生物 ) 。 こうした小説には、ほかにジャック・ウイ リアムスンの Da ビ r T ん 4 〃 Yo ″ T んツん ( 1940 ; 匝 1948 ) 、リチャード・マシスン の『地球最後の男』 1 Am g 鈕イ ( 1954 ) がある。 ジャンル S F の発展につれて、生物学的 アナロジーもしだいに洗練されていった。 それまでも異星生物は、地球上の生命形態 の多様性を考慮したうえで提示され、説明 されるのが常だったが、それが緻密になさ れることはめったになかった。ところが 50 年代に入ると、たとえば下等動物の奇妙な 生殖活動をモデルに、人間と異星人との異 様な関わりあいを想像する。といった作品 が台頭してきたのである。以下は、この種 のアナジーを用いて実り多い成果をあげ ている作家たちである。フィリッフ。・ホセ ・ファーマー、特にその『恋人たち』 The ん。怩 ( 1952 ; 匝 1961 ) 、「妹の兄」 "Open to Me, My Sister ” ( 1960 ; 図 "My Sister's Brother") 、「キャプテンの娘」 "Strange Compulsion ” ( 1953 ; "The Captain's Daughter ” )。シオドア・スタージョン、 特にその "The Perfect Host" ( 1948 ) 、 「反対側のセックス」 "The Sex Opposite ” ( 1952 ) 、 "The Wages of Synergy" ( 1953 ) 。そして最近の例ではジェイムズ・ テイプトリー・ジュニア、特にその "Your Haploid Heart ” ( 1969 ) 、 "A Momentary Taste of Being ” ( 1975 ) 。 こうしたアナロジー思考は、 S F におい 2 という て生物学的アイデアがしばしば より一般に一一一どのように使われているか の好例を見せてくれる。いまあげたような 作品では、異様な生物学的関係が、心理的 関係にもあてはまる暗喩へと変容する。も XI 幼稚なアナジー思考に占められている。 した概念の探究は、いま象徴主義と暗喩と 死、性、サイボーグーー SF におけるこう クローン、アンドロイド、遺伝工学、不 たことは否定できない。 弁する試みをしばしば攪乱し、妨害してき 説に役立て、生物科学の将来をリアルに思 が、生物学的アイデアをじかに科学的に小 トの位置を明らかにしようとするこの傾向 料となるかもしれない ) 、宇宙におけるヒ れは人間の心理を考える上におもしろい材 も多い。生物学にひたすら暗喩を求め ( こ 用語となって、この慣用に従っている S F か抽象的で半形而上学的な調和をあらわす 界のほうに浸透しており、人と環境のなに については、 こうした誤用はむしろ現実世 するものとなる。 \ 、エコロジー″という語 間と他の生物との理想化された関係を象徴 となる。同様に共生は、人間同士または人 りも、人間社会のありうる形を考える暗喩 集合精神とは、昆虫類の社会組織の様態よ 念についてもいえる。こ うして S F では、 寄生と共生といった馴染み深い生物学的概 集合精神、エコロジー ( また宇宙植民 ) 、 した生物学的アイデアたけにとどまらず、 る。これは、生きている天体のような飛躍 する暗喩として、もつばら役立てられてい 間とその環境との心理的な関係を明らかに とその他の知的生物との関係、さらには人 定するのに直接使われることは稀で、人間 対しても行なわれている。仮想の状況を設 やり方は、その他多くの生物学的な概念に が多くの場合効果的でもあるのた。同様な たく非科学的な用法である一一一だが、それ ちろん、これは、、科学的アイデア〃のまっ