思っ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1981年8月号
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1. SFマガジン 1981年8月号

つけて膝をかかえていた。 「ちがう、友達ーーっまり、一緒にいて楽しいと思い、帰りがけに すると、レダの気分は、また突然にかわってしまった。 は『よい日でありますように』じゃなくて『また会おうね』といっ 4 「ねえ、イヴ。どうしたの、怒らないでよ ! わたし、何か気にさて別れる人のこと。互いにとてもよく気があうので、《契約の塔》 わること云ったの ? ねえ、怒らないで。わたしあんたがとても好のことなんか思いっきもしないほど、いまの関係をかえたいと思わ ャングマン きなの。あんたってとてもかわいい男の子だから」 ない人のこと。昔は、そういう人だけが友達だったのよ。いまは、 「またからかうんだね ? 」 同じ試験管からとりだされ、同じサイクルに保護室に入り、ひとり フレンズ 「どうしてそんなこと云うの」 の指導員に見守られるもののことだけを同期というけどね。さもな ・フ戸ポーザー 「たってそうじゃない、また二回会ったばかりだよ。それなのにそきや知人、さもなけりやもう契約者になっちまうかその申込者って んなこと云うなんて」 わけ。めんどくさいったらありやしない、人を好きたと思うのにま 「あら、一度会えばその人を好きか嫌いかを決めるのに充分じゃなず申込登録がいるなんて、ばかな話じゃないの」 それじゃ、イヴは、わたしが嫌いなの ? 」 これが紊乱者なのだな、と・ほくは納得し、少し恐ろしくーーーしか ・ほくは考えてみた。そして、 しレダの声をきいているのは妙に快かった。 プレンズ 「わからない」 「ねえ、レダーーじゃあ、・ほくをその : : : 友達だと思ってくれる と結論を出した。 の」 「きっと・ほくは、あと百回あなたと会っても、あなたが好きか嫌い 「もちろんよ ! 」 か決められないだろうと思うな」 「でもどうして ? ・ほく、とても何もできない劣等な未契約者でー 「じゃあ、イヴ」 ーしかもあなたを好きかどうかも決められないよ」 イソーー 紊乱者の銀色の目が輝いた。 「契約者じゃないのよ。友達なの。友達って、わたしがここにいる 「あんた、わたしとあと百回、会ってくれるわね ? 」 わというと、別に来てといわなくたってやって来てくれるの。それ ええ」 は、わたしと話がしたいからよ、わたしを見るのがイヤじゃないか ためらいがちに、しかしそう云うことにふしぎなよろこびを感じらよ、そうでしょ ? だから、あんたがきようここに来てくれたか ながら・ほくはとうとう答えた。これは、反社会的なことかしら ? ら、あんた、わたしの友達たし、友達たからわたしあんたが好きな それだってかまうものか、ぼくはどうせ模範市民になれつこないだの」 から。 「あなたのいうこと、・ほく、よくわからないよ、レダ、そのーー論 「嬉しいわ、イヴ、じやわたしとあんたは友達よ」 理のたてかたが」 「同期生 ? 」 「わかんなくたっていいのよ、イヴ。でもわたしといて、楽しいで フレンズ プレノ・ス イ・ローズ リーグ デイソー・ター フレ / ズ フレンド ートナー

2. SFマガジン 1981年8月号

こねちまうわ」 「もうやめた」 「・ほくは会話は嫌いなんだ」 ・ほくは云い、草の上にひっくり返って空を眺めた。これは・ほくの 3 2 ぼくはふくれてつぶやいた。 大切なプライヴ = ート・タイムで、何ひとつ、こんな銀色の目の紊 「じゃ何が好きなの。会話が嫌いで、申込をどうするつもり ? 《無乱者にかきみだされるいわれなんか、ありはしなかった。 レント・スダッフ 言の行》でもはじめるの ? ああ、あんたテレ。 ( ス ? 」 「まあ、あんたって、退屈な赤ん坊ね」 「それは特 << だけど、メッセージまではいかない」 レダは笑い、笑って笑って笑った。彼女が笑うと白い長衣がさわ 「歌手のギルドの資格もないんでしょ ? じゃあんたって何ができさわとさざなみをたて、銀色の目がくるくると光り、・ほくは呆れて るの ? 」 それを見ていた。 「何も」 「あなたのギルドは笑う人って名まえにちがいないよ ! 」 レダに悪意がなかった、なんて云わない。 レダのさざなみをうか「怒ったのね。でも、あんた、何も知らないんだもの。期齢はいく ・ヘた銀の目は、小踊りするような悪意にかがやいていたからだ。だっ ? 」 がそれはまったく馴れきった武器で、的確に・ほくのいたみをついて「十五」 ゆくので、・ほくはうつかりして彼女に底意はないのだと信じてしま「十五 ! 」 うところだった。何といったって、ぼくが彼女にそんな反応をうけ また彼女は笑いにむせるか、と思った。しかし彼女はそうはしな るいわれはなかったからだ。それから・ほくは彼女が紊乱者だという かった。ふっと笑いやめて、 ヴァーゴ ことを思い出して溜息をついた。 「清浄ね」 「その溜息はどういう意味 ? 」 とつぶやいただけだった。 ヴァー・コ 「別に」 「未契約だよ」 「ほらまた ! 会話学の教科書を思い出すのよ。あんたはいつで「だから、あんた、こんなところで幸せでいられるのよ、ヤングマ も、あんたが感じてること、あんたが感じたいと思ってること、あン」 んたが感じたとあいてに思わせたいことを正しく伝えるべきなの ・ほくは息をつめた。彼女は、・ほくがひとりでこっそりシティと行 よ。やり直し、その溜息はどういう意味 ? 」 為してるみたいだと感じていた、その幸福感を知っていたのだ。 「あなた、・ とうして認識票をつけないの」 「あなたもテレバス ? 」 デイソーー 「それはね、あたしが《紊乱者》だからよ。知ってるでしょ ? ほ 思いつく解答はそれだけだった。 プランチ ら、つまった。こんな袋小路の枝を選ぶのは、やつばり o マイナー 「ちがうわ」 というのがレダのぶあいそうな答えだった。 イ・ロー・ス デイソーダー サイ ラーファ トーが

3. SFマガジン 1981年8月号

「しなさい、 レダは白い膝を乱暴にひらき、どうみても第一《行為》もまたの レダの物云いにはいつでもこんな傲慢な感じがびそんでいること 少年のようだった。胸は扁平で、すける長衣からのそける乳首はふ を、もうぼくは吾りつつあった。たが、こんなふうにして、どうや たつのかわいい球飾りにすぎず、からたっきはしなやかにほっそり しているというよりは。ほき・ほきして無愛想だ「た。およそこのぐら「て何を話せるというのたろう ? い、なまめかしさや色「ばさから遠い人間は見たこともない。彼女「しないじゃないの」 レダがとがめた。 がどのギルドであったにせよ、それは最高の芸術であるところのセ わからないから」 クソロジイのギルドでたけはないだろう。それとも、それが持ちま「何を話していいか カ / ・ハセーション 「会話学を習わなかったの」 えのからだっきではないのだとしたら、彼女はたぶん性ホルモンの 「習ったよ ! でも O マイナーだった」 服用を長いことおこたっているのだ。 「そのわりに、あんた、いい声よ、イヴ」 美しくて男らしく、また女らしく、堂々とした神々のような市 民たちを見なれているので、・ほくには彼女のみにくさがほとんど奇彼女はまたぼくをからか「ていたのた。それがわか「たので、・ほ 彼女のようであるのは、どんなことなのだろくはむつつりしていた。 形のように思われた。・ , 「わかった、じゃ、わたしがはしめてあげる。あんたは指導員にす うと、・ほくは考えた。それは辛くないだろうか ? それは、直せな とるみたいに、わたしのあとをついてくるのよ、ポールをおとさす いのだろうか ? そんな筈はない、医学にはすべてが可能だ に。よくってフ・」 すれば、彼女は彼女自身の意志において、こんなみにくいととのつ でもどうして、そんなことしなければいけないの ? 」 ていない外形をもちつづけているのだ。どうしてそんなことができ「いし 「どうしてって、何が」 たのだろう ? 「話たよ。どうして話をしなければいけないの ? 」 「さあ」 「そうしなけりや、わたし、あんたのことがわからないからよ。わ 突然レダが云ったので、・ほくはまったくびつくりしてレダをみつ からなくていい、なんていうことは、云わないでしようね」 めた。ノ 彼女はいつもぼくをおどろかせる。 「あんたはもう、しゅうぶんにわたしを見たわよ、イヴ。見られて「市民はわかりあうべきだよ」 アドレス・テーマ お馴染の提言命題が自然にロにうかんだ。美は調和である。医学 るの、飽きたわ」 は前提である。知性は展開である。性は芸術である ごめんよ」 「もっと見たければ、またこんどにして。わたし、したくないこと「ストッゾ ! 」 するどい声でレダがさえぎった。 はしたくないの。わたしと話をするか、あっちへいくか、して」 「なるほど、 0 マイナーね。あんた、うまい展開をみんなっかみそ 「はーー話をするよ」 ウ・ コン・ハニオン 233

4. SFマガジン 1981年8月号

つきそのもので、どうもそのやんわりとした社交パターンはたちの よくない冷やかしに思われてしかたがなかった。 「イヴ」 ぼくはぶつきら・ほうに答えた。ナン・ハーをいうのはイヤだった。 べアレンツ ヤノグマン ナイハ 1 は所属ュニット、ギルド、提供者、すべてを明らかにして 「男の子」 コミュニオン しまう。フル・ネームを告げることは、あいてと永続的な連続 レダは、草の葉をむしりとり、それをかみながら云った。 ( そう訳していいかどうかよくわからないのだが ) をもつ、とメッ 「こんな O が好きなの ? 」 セージすることである。 「ええ」 ・ほくの逡巡をあざけるように、 「あんた、変人よ」 アルファ 「レダ TJ 7 夜、セイヤー ファミリーの元ギルド・メン・ハーで 「みんながそう云うさ」 彼女は顔をのけぞらせて笑い いままでぼくがねころんでいた草期齢は三十六よ」 彼女はいちばん正式のフル・ネームをたてつづけにあびせかけ の上にふわりと腰をおろして、長衣から細い長い脚をはみださせ、 見事な大あぐらをかいた。 ・ほくはおすおすしてそこに立ち、じぶんをでくのぼうだと感して「三十六 ? 」 いた。なぜなら、・ほくはここにいたいし、それは・ほくの権利なのだ ・ほくは仰天して叫んだ。ほとんど彼女は、未契約者に見えかねな 力いつ。ほう彼女もここにいたいし、それは彼女の権利だ。そして いほど、小娘めいていたからだ。 ・ほくは彼女と一緒にいるのはいけないことだろうと思ったし、彼女「そうよ、ヤングマン」 が立ち去ってくれればと望んだが、それは彼女の権利を侵すこと未契約者の男性にヤングマンと呼びかけるのは、慣習だったにも で、しかも・ほくは立ち去りたくなく そしてぼくはこっそり、こかかわらず、レダがそれをいうたびに、ぼくは彼女のわらいのひそ デイソーグー こに、彼女のそばにいてもう少し、はじめてみる紊乱者を眺めてみんだ悪意を感じた。 とも感じていたからだ。 いまははっきり彼女だと云っていい彼女は、しかしやつばり、ど この命題は設問機の出すどんな倫理命題よりもずっと難問に思れだけじろじろ見ても女性の特徴を具えていなかった。彼女を美し フ諸ーメール われた。しかし、彼女はじろりとぼくを見、座んなさい、とあっさ いとはどうしても云えなかった。なぜなら彼女は女性の美しさとさ メイル り命令することで、・ほくの困惑をたちどころに解決してしまった。 れる要素をいっさいそなえていないばかりか、男性のそれもなかっ 「名まえをきいてもいいですか ? 」 た、つまりは彼女は何でもないように見えた。 優雅な慣用句を使って彼女は云いながら、・ほくを見たが、その目美しさとは、ふさわしさである、ということを、・ほくたちは学習 なかに人りこんできたのである。 2 クエスト・マシーン トーガ メイル ヴァーイ 2 引

5. SFマガジン 1981年8月号

可一日 Set ア 数カ月前のある日突然、僕の事務所に松竹も、「たかが・です」とか、「・にたり、話がロック界の神経を逆撫でしたりし 映画のプロデ = ーサーと名乗る人から電話がは賞をやれない」なんて、大人気 ( おとなげ ) ないように注意したつもりだ「たが、それで あった。「週刊プレイボーイ」で特集された ない註を付けるような「純」文学作家面はしも相当過激な内容になってしまった。 コン・ ( クト・キーポードの記事で僕を知ってませんから、ご安心下さい 第ときたもんだ。 ロック・ファンや、かってロック少年だっ かけてきたらしい。映画音楽の仕事でもい いまどきとの間に中黒 ( ・ ) を入れるなた僕と同世代、或いは少し上の世代のロック ただけるのかと思ったらこれが大違い、キャんて、作者はよほど古くからのファンな誌編集者などには、どうしてものゲーム ラクターとして興味があるとおっしやるそうんでしような。確かに二十年前には、は性、遊園地性の魅力が伝わりにくいようだ。 逆に、今だに「反体制でなければロックに非 で、これには弱冠二十二歳のマネージャ 1 の tn ・小説と書かれていたものね。 しかしこの、どこをどう押さえると皮肉にず」という心情派に拒否反応を起こされてし の森脇もび 0 くり。 そう、もうだいたいおわかりでしよう。あなるかだけを知っている要領の良さ、ツポだまう。 の ( この業界では〃あのと書かれればともけ押さえて通の顔と言おうか、試験で一発山ただし、そういう人達と話が合うたった一 かくも話題になっていることは間違いなし ) カケ勝負みたいなコビー感覚は不快でならなつの点は、最近のアニメ・・フームはちと変だ 「なんとなくクリスタル」に出てみないかと ミージシャンであんな生活してる奴がね、ということだ。 いうおハナシだったのだ。主人公の女子学生いたら病気ですよ、・ヒョーキ。ミュージシャ僕は、今の十代はもう日本人ではなくなっ のデルモの彼氏というのが、若手フュージョ ンが言ってるんだからこれはもう間違いない たかと思っていたが、そうではないらしい ン・グループのキ 1 ポード奏者という設定。のであって : ・ 「ヤマト」も「ガンダム」も、メカの面白さ 当。トどうもこれが、僕と仲のいいカシオペアと文壇殺すにや刃物は要らぬ、ナウィ風俗書やゲーム性がやっと正当に評価されてウケて 、う・ハンドのキーポード奏者、向谷実君をモけば良い。 いるのだろうとばかり思って喜んでいたら、 デルにしているらしい。色々と話題になった 中・高生ファンから「メカに喜ぶのはガキ ノレイヤ ・フランド商品の知識のほかにも、一口坂スタ隔週ロック誌「」のシンセ特で、僕らのような本格派は、もっと人間のド ジオ ( 「およげ ! たいやきくん」の大ヒッ集「シナゾス」で、門倉純一氏と対談をした。ラマを見なきゃいけないんだ」とか、「ヤマ トでキャニオンがぶつ建てた豪華最新設備の門倉氏は、もうこのコラムではお馴染み、あトに見られる生命の美学こそ、今の日本人に スタジオ。野田宇宙大元帥は「俺が建ててやペ ・りようそう、秋沢豊両氏と共に「音失われた大切なものだ」とか、この類の発言 ったようなモンだ」と鼻高々である ) だの、 コン」をリードする、のコンビュータを聞くと、あれあれやばいな、結構臭い世界 僕ですら知らないようなレコードやア 1 ティ 1 屋さんにして映画音楽のコレクターでに行っちまいそうだな、と気が気ではない。 ストが出てきたり、まあよくもあれだけつまもある。四月三十日号だからもう店頭にはなやつばり、さだまさしやアリスが受けるわけ らんことを知ってると呆れ果てる。 いが、お読み逃しになった方は・ハック・ナン だわな。カエルの子はカエル、日本人の子は なんと例の註釈にはプラッドベリまで引っ ・ハーをどうぞ。 日本人。こうした傾向を、評論家が、すわア ばりだされて・ですよ、作家。でその対談ではお互いに方言を使いすぎニメの右傾化だとわめきたてるけど、それも ナカ′声

6. SFマガジン 1981年8月号

「こんな気味の悪い思いをさせて、もう、守の奴」 光景となった。 正太は、木片を、ガニ股の脚で踏みつふし、蹴りとばした。 草むらに散乱した手足や首は、白昼夢を思わせた。 ぼくたちは、しばらくは言葉もなかった。木の間を風が渡ってき「進、来い ! 」 「どこへ行くの ? 」 て、首筋をかすめて通った。 「決まってる、守をさがしにさ」 「守のやっ、どうして俺たちの人形などっくったのだろう ? 」 「そんなこといっても、どこにいるかわかりはしないよ」 正太が気味悪そうにいった。 「この辺にいるよ、人形をおいたまま、いなくなるわけがないだろ 進が、・ほくの心の中を察したようにズバリといってのけた。 う。それに、まだ生木が乾いていないもの」 「呪いの人形さ」 「なんだって」 正太は、崖ふちの方へ歩き出した。進が不承不承あとに続いた。 ぼくは、ひとりで、林の中に残された。 「きらいな奴の人形をつくって、針でつつくんだ、突かれたところ が痛くてころげまわる。心臓をつき刺されれば : : : 死ぬーー」 守は彼らにみつかってしまうかもしれない。だが、それも身から 出たサビだ、とぼくは腹立たしい気持で思った。正太や進の人形は 「冗談はやめてくれよ」 ・ほくのまでつくって、わけのわからない恨みをはらそ 「ぼくたち守のこと、だいぶいじめたもんなあ」 うなんてひどいではないか。 「でも」 正太がすがりつくようにいっこ。 それにしても、ぼくは彼の恨みをかうようなことを何かしたのだ 「横沢はどうなんだ、こいつは守の友だちだぜ、こいつの人形があろうか : るのはおかしいじゃないか」 ・ほくの心は乱れた。 「どうだい、横沢」 風の音が激しく、タ陽は赤味を増していた。 正太と進の声はきこえなくなった。 「わからない、意地悪したことはないけれど、守がパ。ハに叱られて 崖下への小道をみつけたのだろう。・ほくは逃げるように、雑木林 いるのを、黙ってきいていたりはしたなあ」 を抜け出した。 「そんなこと、意地悪のうちにははいらないよ、な、そうだろ」 ″めがね橋″に立っと、珍しく電車が来かかるところだった。警笛 「そうかもしれないな」 を鳴らしながら、土手と土手の間から姿を現した。線路がカ ~ プし と進。 ているのだ。。 歹車が足元をくぐって走り去ったあと、雑木林はタ陽 9 「そうさ」 に燃えるように見え、警笛はな・せか守の悲鳴でもあるかのように、 と正太は進にあいづちをうった。急に元気をもりかえした。

7. SFマガジン 1981年8月号

える、誰かの話し声が必ず聞こえる、と。 「そうお ? 何かご用だったの」必死で眠気とたたかっているよう 目をこらしてみると、廊下の反対側の突きあたり、階段の影になな声だ。 ったあたりから、もうひとっ別のうす暗い光がかすかにもれてい 「いえ、 しいんですの」エレンが言った。「もうお休みになってる た。その光にむか 0 て、彼女は歩いてい 0 た。木の床をじかに打っとは思わなか 0 たものですから。お話はあしたにしますわね。おや かかとの音が、がらんとした背後の廊下に大きくびびく。 すみなさい」 彼女の注意をひきつけていたのは、常夜灯の光だ 0 た。そのそば「おやすみ」 の扉が半開きになっているのに彼女は気づいた。扉に手をふれて、 ひどく面くらったまま、エレンは、暗く息苦しい部屋を出た。 ほんの少し押しひらいてみる。メイ伯母の声がした。彼女はなかへき「とメイ伯母は寝言を言 0 ていたにちがいない。さもなけれ 入っていった。 ば、病気のせいで頭がおかしくなって幻覚を見ていたのだ。どうか 「脚の感覚がまるでないのよ」伯母がしゃべっていた。 してるわ、伯母が目を覚したまま、誰かが訪れるのを心待ちにして 「痛くもなければ、とにかく何にも感じないの。なんとか使いもの いて、しかもその誰かはこの家のなかにいて、このわたしとその誰 ぐらいにはなりますけどね。感覚がなくな 0 ちゃったら、もう役にかとをまちがえたんだなんて考えるのは。けれども言いきかせて 立たなくなるんじゃないかって、心配したものよ。全然そんなことも、言いきかせても、エレンの心はいっかまたその考えにまいもど はなくてすんだけど。あんたは、ちゃんと知ってたわよね。だっ ってきてしまうのだった。 て、こうなるだろう 0 て言ってたもの」伯母がせきこみ、暗い部屋そのとき、さほど遠くない、階段の上の方で足音がきこえた。 = のなかに、 べッドのきしむ音がひびいた。「いらっしゃいな。ほレンはいそいでとび出した。階段のあたりは真暗でがらんとしてい ら、となりに」 て、見上げてみても何も見えない。さっきの音もやつばり、この 「メイ伯母さま」 死にかけた家のたてる音のひとつだったのだろうか、と彼女は思っ ふいにあたりを沈黙がつつんだ。伯母の息づかいさえきこえな 、深い沈黙が。やがて伯母の声がした。 そんな説明ではわれながら納得がいかなくて眉をひそめながら、 「エレン、あんたなの ? 」 エレンは台所にもどった。貯蔵室にいつばい罐詰があるのをみつけ 「もちろんですわ。いったい誰だとお思いになって ? 」 て、スープをつくってみる。食べていると、またさっきの足音がき こえた。今度は、すぐ真上の部屋かららしい 、いえ。きっと夢を見ていたんだわ」またべッドが音をた てた。 エレンは天井を見上げた。もし何者かが上で歩きまわっているん 「何か、脚のことをおっしやってたみたいですけど」 だとしたら、どうもあんまり用心深い人間とはいえない。それで べッドがきしみつづける。 も、どう考えてみてもやつばり、それは足音だとしか思えなかっ 2 7

8. SFマガジン 1981年8月号

んとうにぼくひとりのためにあると思うのはわるい気持ではなかっ きない ( ッジが語ってくれるふしぎな物語だ。 た。そう思ってから、ぼくはあわててそれをうちけした。なぜな 2 それはセクシイな関心といったほうがよかった。ぼくがシティを 2 抱きしめたいと思う、シティを美しいと思うそのしかたには、¯、 カら、そんな考えかたはとても反社会的たからだ。正しい市民たっ 七クシイな要素が混りこんでいるようで、だから・ほくはときどき、 たら、美しさを、共感を、感動を、どんなものをでもシティにわけ セクソロジスト ・ほくがなるべきなのは性管理者ではないかと思った。たがそれはもあたえ、伝え、メッセージし、共有したいと望むのがあたりまえだ ちろん最高にデリカシーと・ハランスを必要とする分野で、云えば仲ろう。・ほくたってたしかに一方では、ここからのシティの美しさを 間たちにいっせいに嘲笑されることがわかっていたから、また誰ひ形にしなくては、としきりにもどかしくっていたはすだ。 とり 指導員のラウリにさえも、うちあけたことはない それにしても風は・ほくの服をなふって吹いてゆき、・ほくの銀色の ( ぐずのイヴーー・なりたいものも決められないイヴ。誰からも第一髪は頬にもつれ、顔の上におちかかる木洩れ陽はうっとりするほど 快かった。・ほくは目をとして皮膚の感覚を極限まで味わいたく、し 申込さえないイヴーーー落伍者。できそこない ) あそこではくはいつもそんなことを思っていなければならないの かし目をとじてすばらしい眺めをしめだしてしまうのも惜しく、ま ・こ。だのに、・ほくはどうしてこれほどあそこが好きなのたろう ? ばたきをしながら寝ころんで、そうして・ほくはなんと幸せなのだろ 胸のいたむほどシティが好きで、そのどこからどこまでを美しいとうと思った。 思い、接吻したいと思い、知りつくしたいと思い あの中で悲し世界はすばらしい。生きていることはすばらしい。にくの鼻は草 し思しはかり抱いているくせに ? の青い匂いをかぎ、紫がかった空は白く衛星をうかばせてひろが だがいまは、・ほくはひとりだった。・ほくはひとりがとても好きり、 耳に人るのは走路のたえまない・フーンといううなりと、遠い市 ぼくよりずっと大きく美し、 ・こ。・ほくを比べてみる誰かもいない。 しの中心部のざわめきと風の音。 ' ほくの皮膚は滑っこいグラス・ファ ミラや、期齢が十一のうちからもう第一申込者が三人もいたイーライ・ハーの冷やりとする感触にときめき、吸いこむ空気は・ほくの肺を コントール、コ しつべんづつ、管制委 、つばいにする。 や、天才指数を示していて、五サイクルに、 ミッチイ 員会がやってくるスティにじぶんを並べてみて、悲しくなり、・ほくすべてが、・ほくを包んでいた。・ほくは、ここにいることが幸せ ・こ。・よくはここにいる、ぼくはここにいる それだけで、ばくは悲 にはシティを愛しているという資格なんかないんだ、などとばかり しいほど満たされている。どうして、いちばんの幸せというのはい 思っていなくてもいし ( 楽しいことだけを考えていよう。楽しいことはみんな美しいから ) つも、悲しい味わいがするのだろう。ここにいるのは・ほく、期齢十 アイ・キュー シンセサイザー ドウインゲマシンー 志向未決定、ミラより頭はんぶん小さく、 ・ほくは、描画機も作音機もなしに草の上にそっと足を投げ出五、指数レギ、ラー フィメール してすわり、しきりにシティの美しさを空費しているようなうしろィーラより体重が三十。 ( ウンド軽く ( ともかくもイーラは女なの アイ・キュー まイ、ひし」り・、ほ たから、これはものすごく恥すべきことたった ) スティより指数 めたさを感じたが、それでもこのいっときの眺めが、に ト・イ - 口ーズ

9. SFマガジン 1981年8月号

味の微少変化を指摘するのはなんとなくためらわれた。あれだけの変動が無視できないまでに大きくなっていった。陽一はじっとが 熱心に作った現場を見たあとでは。ケチをつけたら今のしあわせがまんした。子供さえできればすべてうまくと思い、早くできないも 2 逃げてゆくような気がする。 のかと望んだ。 「愛してる ? 」 もう限界だ。一年近くたって陽一はそう思うようになった。きょ 突然そう訊かれて陽一はどぎまぎしてしまった。 うこそ言うぞ。きようこそ言う。きようこそ。きよう。 「あたりまえさ」 その日もそう決心して玄関に入ったのだがーー次の瞬間には忘れ 息子の隆が父親のかわりに平然とこたえた。 ている。ついにきた、赤ん坊が、恭子の腕に抱かれて。 「おかあさんは最高だよ。なんてったってお料理上手だもの。前の「恭子ーー・やったな」わあ、なんて ( ッビーな気分なんだろう。 おかあさんなんてーーー」 「さっそくお祝いしなくちゃな」 「なまいきな口を利くんじゃない」 陽一はふと異和感をおぼえる。いつものしあわせな匂いがない。 隆はさっさと食事をすませるとぶいと食堂を出ていった。 料理の香りが。無理もない、なにしろ赤ん坊が出来たんだからな。 「隆の前でおかしなことを言わんでくれ」 陽一が赤ん坊に手をさしのべると、恭子はかたく抱きしめたまま 「ちっともおかしいとは思わないけど。ね、もしわたしが浮気して後ずさり、居間へ逃げる。 いるって言ったらどうする ? 」 「恭子 ? どうした。 ・ : まてよ、その子は子供じゃないな : : : 時 「きみはそんなことはしないさ」 期が合わない。きみのコ。ヒーか。育てることにしたのか。そうなん 「わたしにはできないっていうの」 だな、それがいい。卵子だけとって棄てるなんて残酷だ。これでな 「いったいなにを言いたいんだ。なにが不満だ。以前はそんなんじにもかもうまくゆく。隆は ? 」 ゃなかった。どうしてこんな意地のわるい女になったんだ ? 」 「塾よ。今夜はごちそうだから早く帰ってくるように言っておいた 「わたしは女なの ? 」 わ」 「そうとも。きみは生まれたときから女だし、いまも女、これから「そうか、そいつはたのしみだ」 もずっと女だろうさ」 「そうね。あなたもわたしの味に慣れてくれたようだし」 恭子は目を伏せる。 「きみの味だって。じゃあきみはわざと味を変えていたのか。なん 「 : : : わるかった、どなったりして。くだらないことで喧嘩する てこった。慣れた、だと ? とんでもない。なんでそんなことを」 のはよそう。せつかくの料理がまずくなる」 「あなた文句は言わなかったわ」 この気まずい雰囲気はその晩だけで消えた。 「がまんしてたんだ。気が狂いそうだった。きみにはわからないだ 恭子はますます上機嫌で料理を作るようになり、それにつれて味ろうさ。頼むから元の味にしてくれ」

10. SFマガジン 1981年8月号

デイソー虻ー しれないけど。ねえ、イヴ、あんたはわたしのいうことを、対話 が好ましいと思うのだ。・ほくも紊乱者なのかもしれない ヴァー・コ コミュニケ・サイコロジー デイソーグー 学の型、や交通心理学の法則によってじゃなくて、その無垢な心 そのまえに、もっと紊乱者についてよく知らなければならない。 できいて答えてくれるわ。わたし、あんたがとても好きよ、イヴー 「イヴ」 ーあんたがわたしをこわがらなけりやいいと思うわ」 レダが音楽的な低い声で、風に伴奏される沈黙を破った。 「どうして、・ほくがあなたをこわがるの。あなたはーーーあなたはー 「ここ、気持ちがいいわね」 「ええ、とても」 ぼくは、さっき教わったばかりのことばを思い出した。 「ここに座って、話をしても楽しいし、話をしないでも楽しくて、 「友達でしよ、レダ」 そうしてじっとしてるのって、とてもすてきね」 「ええ・・ーーそう思うよ、レダ」 「まあ、イヴ ! 」 レダはふいにしなやかな手をのばし、・ほくの頬を両手でかこん 「わたしね、イヴ。ほんとうは信じてなかったの、 「何を ? 」 で、額に唇をおしつけた。 ・ほくは仰天してとびあがり、手をふりほどき、レダをつきはなし 「あんたがまた来るだろうということよ。あんたって変人だわ、イ てとびすさった。人間と、予備段階ーーーっまり、契約の塔に登録 ヴ。ュニークとだって、云ってもいいわ。まだ十五なのに」 ; 。まくくらい、平凡なーーーそれし、性ホルモンの増量投与をうけ、セクソロジストの講座をとっ 「ほくがユニークだって ? どこカ ~ も少し劣等な人間は、いやしないんだよ、レダ。個性指数もレギて、《契約者コース》の第一期終了証書ももらわすに、いきなり接 、どのジャンルにも目立った才能は示触するなんていう不道徳な、反社会的な、不衛生な、おそましいー ラー、総合指数もレギュラー ー不潔なことを自分がしてしまったのが、信じられなかった。 してないし、それに : : : 」 「そんなこと、どうでもいいの、わたしには」 額に、生まれてはじめて捺された他人のくちびるのあとが、ねば ねばとなまあたたかく、・ほくはほとんどロもきけなかった。レダ レダはせつかちにさえぎった。 トーガ は、草の上にうすくまっていたがゆっくり立ちあがり、真紅の長衣 「あんたは気がついてないだけよ。このいやったらしい時代のなか を直し、そしてーーーかんかんに怒るか、悲しそうな顔をするのでは で、みんな、じぶんこそがほんもののユニークだと思っているわ。 ないか、と思っていたのに、いきなりけたたましく笑い出して、銀 あんたは自分を平凡だという。でも、わたし、これまでにこのエリ デイソー・ター アでいろんな人と会ったけれど、一人として、紊乱者にほんとの興色の目が涙でいつばいになるまで笑った。 ィーア 味をもつほど変人な市民はいやしなかったわよ。あんたは十五の未「まあーーまあーーイヴったら、あんた ! まるで磁カ線に投げこ 契約者のくせに、ものごとにほんとうの、。フログラムどおりじゃなんだ乾しグリみたいにはじけたわ ! 」 ヴァー・コ い興味をもってるわ。もちろんそれ、単にあんたが清浄だからかも「レダ、ひどいよ ! 」 クイア 2 引