ア / チ・テーゼ 「どうしたんだい、イヴ」 「命題はいつもライトである必要はない。 弁証法はダークな反命題 そして、ラウリは、ねるまえにぼくが発信音をきいて映像機の周なしでは成立しないんだ」 波をあわせたとたんに、そう云いはじめたのだ。 ラウリは優等生の答えをした。彼はフィ tL ソファーのギルドのフ サイケル 「みんなが気にしていたよ。午後のプログラムを四つとも、自由アースト・コースを通っていたし、ソフィストの準ギルド員の資格 学習に切りかえたろうーーおかげでこれから三サイクル、きみはプももっていたからだ。 コラブタ ログラム調整をつづけなくちゃならないよ」 「あのうーー背徳者のことでも ? 」 デイソー / ー 「わかってます、ラウリ」 「紊乱者か。きみは進歩したよ、イヴ。これまでのきみは組織社会 ぼくが答えるのを、映像のラウリはふしぎそうに見た。 のダークサイドにまったく関心がなかった」 「おかしいね。きみは、たしかまだ鬱期に入ってはいなかったろ ラウリが、気をわるくしたようすがないのに少し安心してぼくは う ? きみの分類はたしかに、鬱期の方が長いマイナスだけつづけた。しかし一方では少しばかりがっかりしてもいた。それで ど、ばくのグラフではきみの生体リズムはまだ、下降期のはじめには、賢いアダルトたちにとっては、それさえも自明の命題で、ぼく あるはずだ」 はプログラムどおりに思考をたどっていたのにすぎないのか ! アダルト 「ええ、ラウリ」 こにも成者の足あとがべたべたとついていた。ぼくのものなんかな いー・ーーまったく、・ほくひとりの独自のプロセスなんてありやしない 「何かあったのなら、云ってごらん。指導員には健康管理の義務が あるんだ」 んだ。 「何もないんです。ただ・・・ーー」 「・ほく ぼく、考えたんです。ぼくたちは、市がーー組織社会と ばくはためらい、ラウリの顔をみつめた。ラウリはぼくに答えをして最高度に進化した形態だとおそわりました。だのに、もしそう デイソー′ー くれられるのだろうか ? ラウリは男らしいきつばりとした、ギリ ならなぜその社会の中に、紊乱者なんていうものが存在しうるんで シャ型の顔立ちをしており、聡明で辛抱強い期齢一一十二年の美青年しようか ? そういう反社会性が残存している社会とは、結局完成 プロポーズ だった。彼はたぶんミラに第一契約者の申込をするだろう。ステイしていない社会なのじゃないでしようか。こんな こんな考えを グー墨アス は天才だから・ーー だからといって、ラウリがイーラやぼくに気を配もっことは、反社会的かもしれないけど、でもーー」 らなかったわけではない。 「いや、イヴ」 ライト・ 「ちょっと考えていたことがあって」 ラウリは朗らかにさえぎり、手もとにおもむろに電光筆記板をひ レクチュア ぼくは、ことばを選んで、考え考え云った。 きよせて、講義の口調になった。 「何。云ってごらん」 「社会形態をよりふかく認識しようと考えることはちっとも反社会 「あまり明朗なことじゃないんです」 的じゃない。むしろ逆だよ。社会というものはたえず走査され、認 ライト ヴィジフォー / スキャニング ま 4 ュュティ コミュ 4 ティ 238
って少しもかまやしない ) そしてひどく孤独な場所に思われた。・ほくは草の葉を白と緑にいっ せいにそよがせる風に頬を吹かせ、ちらちらと梢をきらめかせる光・ほくは乾しあんずの種を草のあいだに投げすて、髪をくしやくし にかこまれて目をほそくしながら、ここはとてもさびしいところやにかきみだし、わざとどしんと草の上にねころんだ。乱暴にふる まってみたが、喜びは生まれてきはしなかった。・ほくは目をとじ、 ・こ、とふいに感じた。 それは、これまでまったく味わったことのない種類の孤独感たつあふれてくる音楽からも、世界からも切りはなされ、・ほくは不幸な た。いるべきひとがそこにおらず、そしてそれゆえに世界が永遠にのだろうかといぶかしみながらねそべっていた。 何かを欠いた場所としてぼくをとりまいている、という感じ。 それは、何がなし新しい感覚に思える。 ( 不幸なのかしら ) ぼくと世界との幸福な一体感は失われていた。少なくとももう、 欠けた何かが・ほくと世界とのあいだの深淵を埋めてくれないかぎ市民は幸福になる権利と義務がある。そしてつまるところ、ひと り、ばくはもとの何も知らず孤独を孤独と感じてさえいなかった満りでいて、ステイや、ミラとラウリのことを考えて少し悲しい気持 ち足りたひとりには戻れはしないのだ。 をあじわうにせよ、・ほくはこれまでいつもずっと幸福に、みたされ これはどうせ嘘じゃないかーーーそんな考えが唐突に・ほくにうかんて、やってきたのだ。 できた。木々も、小烏も、草の花も、空も、光も、風も、ほんとの ( 不幸ーーでも、な・せ ! ) ナチュラリズム ひとが紊乱者になるとき、そのはじまりはこんなふうにやってく それでありはしない。それは自然環境学の成果によって、市民に最 も有効な環境として構成され予定された。フログラムの結果でしかなるのだろうか。これはラウリにたずねることのできぬ問いのひとっ だ。なぜならそれは個人に属していたから。 。学説とデータと結論とが設計図と見取図を案出し、それにもと デイソーー づいて土が運ばれ、草が植えられ、強化ガラスの境界板のなかにオ ( 紊乱者であるってどんな気分だろう ) 「わるくないわ、なかなか」 ゾン発生装置と、そして対流発生機とがうめこまれた。 突然、風が答えた。 木々に小鳥が放され、死ねばまた次の小鳥が放され、弱よわしい ・ほくは文字どおりとびあがり、そして化物を見るおもいで、前に 陽光を増幅する輻射機がこの草原の輝きをつくったのだ。この風は ほんとうの風ではなく、予定され算出された理想の風だ。それに髪を立ってわらっているレダを見つめた。 「ハイ、イヴ。遅れちゃったわ」 吹かせて、・ほくはこのエリアをどこよりも好きだと考えていたのだ。 こんなふうに反抗的な考えかたをしたことは、これがはじめてだ デイソー・ダー 「どうしたの」 った。・ほくは自分におどろき、怯え、・ほくはもしかすると紊乱者に 5 4 レダはおもしろそうにたずねた。きようは真紅の長衣をきてい なろうとしているのかしら、と考えた。 っ△ た。レダの白と銀色のからだに、真紅の長衣は炎のようにたわむれ ( そうだとしたところで、かまうものカ 、。・まくはもう、何がどうだ デイソーグー トーイ
の人間のためしのために、あなたの腕が失われたことを告げれば、 「ないわ。でも、それを見れば、何か思いつくかもしれない」 ガイも、私たちを助けてくれるだろうと言ったのよ」 「できれば、サンプルを持って帰るようにするわ」 ゲイルは、そこに「もしかすれば」の一言を付け加えるのをやめ ゲイルが答えたとき、部屋の扉が、大きな音をたてて開いた。 た。何としても、アシュロンのそばを離れたくなかったのだ。 「誰だ ! 」 「聴こえたわ、ゲイル。それが本当だとすれば、私たちも安心た アシュロンが、片腕で、身体を起こしながら、呶鳴った。 わ。死にさえしなければ、何とかあなたたちを救い出す手は、考え扉の中に人ってきたのは、全身を血と泥と汗で汚した黒い鎧の数 られると思うから」 人の兵士たちだった。手には血まみれの剣や槍を持っている。真中 ローダの声に、かすかに明るさが戻った。最悪の事態を避けるこの逞ましい若者が、アシュロンの質問に答えた。 とができそうに思えたからだ。 「ガイのサリスだ」 そのとき、ゲイルは、ラダ・ガルイの語ったもう一つのことを、 そして、ゲイルの姿に目をとめ、白い歯をむき出しにして、笑み ローダに伝えておくべきではないかと思った。もしも、自分たちを浮かべた。その表情に、ゲイルは全身が鳥肌立つのを感じた。ア が、殺されてしまったら、そのことは誰にも知られずに埋もれてしシロンに身を寄せる。 まうかもしれない。 サリスと名乗った若者は、剣を、隣りこ ~ いた仲間に手渡し、ゲイ 「ローダ、一つだけ聞いておいてくれる ? さっきの壁の模様のこ ルに向かって、歩み出した。 と、覚えてる ? 」 「ついてるぜ、こんないい女が残ってたとはな」 「ええ、覚えてるわー サリスは、兜を脱ぐと床の上に放り投げた。長く伸びた黒い髪 「この宮殿の王の一人に、そのことを尋ねたら、それは、文字だと が、額に垂れた。ゲイルは、サリスをにらみつけ、ラダ・ガルイが 言ったのよ。どういう意味なのか、わかる ? 」 言ったとおりのことを口にしようとした。 ローダは、一瞬、沈黙した。 「近寄らないで ! 私たちはーー・こ 「それは、ファーヴだったの ? 」 「黙ってろよ、牝鹿ちゃん、あんたが何を言おうと、おれには聴こ 「ちがうわ、見たこともないものだわ。文字だなんて、思えない。 えないぜ、ちゃんと用事を済ますまではな」 でも、たしかに、彼は文字だと答えたのよ」 ガイの兵士たちが、笑い声をあげた。 「その模様、見たいわ」 「よせ ! 」 メリンが割り込んできた。ゲイルは、メリンが考古学をかじった アシュロンが、左手で、ゲイルをかばおうとした。 ことがあるのを、思い出した。 サリスは、手甲をつけた手で、アシュロンの頬を殴りつけた。ま 「メリン、可 —か、心当りがあるの ? 」 だ回復していないアシュロンは、ペッド の上に倒れた。
つけて膝をかかえていた。 「ちがう、友達ーーっまり、一緒にいて楽しいと思い、帰りがけに すると、レダの気分は、また突然にかわってしまった。 は『よい日でありますように』じゃなくて『また会おうね』といっ 4 「ねえ、イヴ。どうしたの、怒らないでよ ! わたし、何か気にさて別れる人のこと。互いにとてもよく気があうので、《契約の塔》 わること云ったの ? ねえ、怒らないで。わたしあんたがとても好のことなんか思いっきもしないほど、いまの関係をかえたいと思わ ャングマン きなの。あんたってとてもかわいい男の子だから」 ない人のこと。昔は、そういう人だけが友達だったのよ。いまは、 「またからかうんだね ? 」 同じ試験管からとりだされ、同じサイクルに保護室に入り、ひとり フレンズ 「どうしてそんなこと云うの」 の指導員に見守られるもののことだけを同期というけどね。さもな ・フ戸ポーザー 「たってそうじゃない、また二回会ったばかりだよ。それなのにそきや知人、さもなけりやもう契約者になっちまうかその申込者って んなこと云うなんて」 わけ。めんどくさいったらありやしない、人を好きたと思うのにま 「あら、一度会えばその人を好きか嫌いかを決めるのに充分じゃなず申込登録がいるなんて、ばかな話じゃないの」 それじゃ、イヴは、わたしが嫌いなの ? 」 これが紊乱者なのだな、と・ほくは納得し、少し恐ろしくーーーしか ・ほくは考えてみた。そして、 しレダの声をきいているのは妙に快かった。 プレンズ 「わからない」 「ねえ、レダーーじゃあ、・ほくをその : : : 友達だと思ってくれる と結論を出した。 の」 「きっと・ほくは、あと百回あなたと会っても、あなたが好きか嫌い 「もちろんよ ! 」 か決められないだろうと思うな」 「でもどうして ? ・ほく、とても何もできない劣等な未契約者でー 「じゃあ、イヴ」 ーしかもあなたを好きかどうかも決められないよ」 イソーー 紊乱者の銀色の目が輝いた。 「契約者じゃないのよ。友達なの。友達って、わたしがここにいる 「あんた、わたしとあと百回、会ってくれるわね ? 」 わというと、別に来てといわなくたってやって来てくれるの。それ ええ」 は、わたしと話がしたいからよ、わたしを見るのがイヤじゃないか ためらいがちに、しかしそう云うことにふしぎなよろこびを感じらよ、そうでしょ ? だから、あんたがきようここに来てくれたか ながら・ほくはとうとう答えた。これは、反社会的なことかしら ? ら、あんた、わたしの友達たし、友達たからわたしあんたが好きな それだってかまうものか、ぼくはどうせ模範市民になれつこないだの」 から。 「あなたのいうこと、・ほく、よくわからないよ、レダ、そのーー論 「嬉しいわ、イヴ、じやわたしとあんたは友達よ」 理のたてかたが」 「同期生 ? 」 「わかんなくたっていいのよ、イヴ。でもわたしといて、楽しいで フレンズ プレノ・ス イ・ローズ リーグ デイソー・ター フレ / ズ フレンド ートナー
デイソー虻ー しれないけど。ねえ、イヴ、あんたはわたしのいうことを、対話 が好ましいと思うのだ。・ほくも紊乱者なのかもしれない ヴァー・コ コミュニケ・サイコロジー デイソーグー 学の型、や交通心理学の法則によってじゃなくて、その無垢な心 そのまえに、もっと紊乱者についてよく知らなければならない。 できいて答えてくれるわ。わたし、あんたがとても好きよ、イヴー 「イヴ」 ーあんたがわたしをこわがらなけりやいいと思うわ」 レダが音楽的な低い声で、風に伴奏される沈黙を破った。 「どうして、・ほくがあなたをこわがるの。あなたはーーーあなたはー 「ここ、気持ちがいいわね」 「ええ、とても」 ぼくは、さっき教わったばかりのことばを思い出した。 「ここに座って、話をしても楽しいし、話をしないでも楽しくて、 「友達でしよ、レダ」 そうしてじっとしてるのって、とてもすてきね」 「ええ・・ーーそう思うよ、レダ」 「まあ、イヴ ! 」 レダはふいにしなやかな手をのばし、・ほくの頬を両手でかこん 「わたしね、イヴ。ほんとうは信じてなかったの、 「何を ? 」 で、額に唇をおしつけた。 ・ほくは仰天してとびあがり、手をふりほどき、レダをつきはなし 「あんたがまた来るだろうということよ。あんたって変人だわ、イ てとびすさった。人間と、予備段階ーーーっまり、契約の塔に登録 ヴ。ュニークとだって、云ってもいいわ。まだ十五なのに」 ; 。まくくらい、平凡なーーーそれし、性ホルモンの増量投与をうけ、セクソロジストの講座をとっ 「ほくがユニークだって ? どこカ ~ も少し劣等な人間は、いやしないんだよ、レダ。個性指数もレギて、《契約者コース》の第一期終了証書ももらわすに、いきなり接 、どのジャンルにも目立った才能は示触するなんていう不道徳な、反社会的な、不衛生な、おそましいー ラー、総合指数もレギュラー ー不潔なことを自分がしてしまったのが、信じられなかった。 してないし、それに : : : 」 「そんなこと、どうでもいいの、わたしには」 額に、生まれてはじめて捺された他人のくちびるのあとが、ねば ねばとなまあたたかく、・ほくはほとんどロもきけなかった。レダ レダはせつかちにさえぎった。 トーガ は、草の上にうすくまっていたがゆっくり立ちあがり、真紅の長衣 「あんたは気がついてないだけよ。このいやったらしい時代のなか を直し、そしてーーーかんかんに怒るか、悲しそうな顔をするのでは で、みんな、じぶんこそがほんもののユニークだと思っているわ。 ないか、と思っていたのに、いきなりけたたましく笑い出して、銀 あんたは自分を平凡だという。でも、わたし、これまでにこのエリ デイソー・ター アでいろんな人と会ったけれど、一人として、紊乱者にほんとの興色の目が涙でいつばいになるまで笑った。 ィーア 味をもつほど変人な市民はいやしなかったわよ。あんたは十五の未「まあーーまあーーイヴったら、あんた ! まるで磁カ線に投げこ 契約者のくせに、ものごとにほんとうの、。フログラムどおりじゃなんだ乾しグリみたいにはじけたわ ! 」 ヴァー・コ い興味をもってるわ。もちろんそれ、単にあんたが清浄だからかも「レダ、ひどいよ ! 」 クイア 2 引
「あなたは ? エルワース」 の理由を思いつくことがでぎなかった。そして、それを考えると、 「おれは、見張りに立つ」 とうてい寝るどころではなくなってしまった。 エルワースが答えると、ムザクが、ロを開いた。 そして、立ったままでいるムザクに声をかける。 「おれが起きていよう。もう大丈夫さ。それに、まったく眠くない 「ムザク ? 」 のだ」 男は振り返った。 エルワースは、ムザクの顔を見、うなずいた。 「どうしてハイアに行くの ? 」 「よかろう、ムザク、あんたは深い眠りを体験したんだからな」 「おれには、わからないな。すべては = ルワースの考えなのだ」 そして、イレンの横に、寝転んだ。目を閉じる。イレンが、小声ムザクの目は、その底に、何かはかりしれないものを潛めている で尋ねてきた。 ようだった。それに興味をひかれ、イレンは、尋ねた。 「どこに行くつもりなの ? これから」 「ムザク、あなたは何者なの ? 」 「ハイアさ」 ムザクは、白い歯を見せた。 ちょ 0 とためら 0 たが、 = ルワースは、本当のことを告げること「そいつを、おれも探しているのさ」 「死ぬって、どんな気分 ? 」 「ハイア ? ここからずいぶんあるわ」 イレンは、相手の笑みにさそわれて、そう尋ねた。 「そうらしいな。イレン、おまえは、それがどこにあるか、知 0 て「そうだな。やはり、眠るのに一番近いのかもしれない」 いるか ? 」 面白くも何ともない返事だ。イレンは思った。そして目を閉じ 「そうね、ここからずっと西の方に行ったところよ。何カ月もかか た。もしも死が、眠りと似ているのなら、自分は、この十何年とい るわね、歩くつもりなら」 う間、ほとんど毎日、死を経験していることになる。そして今ま 「手は考えるさ。とにかく、そこまでの道案内は、おまえに頼むべた、もう一度、それを経験するところなのだ。 きらしいな」 ムザクは、すっかり眠りこんでしまった仲間を見おろした。 「私にだって、わからないわ。船の道なら少しは心当りがあるけれ ( 以下次号 ) ど、陸の道となると、想像もっかない」 「まあいいさ、まずやってみることが先だ」 エルワースは、目を閉じたまま答えた。またイレンが話しかけた ときには、すっかり眠りの中に引きずりこまれていた。 イレンは、な・せ = ルワースが ( ィアに行こうとしているのか、そ 8
「勉強 ? 」 ハス通りである。人眼は多い 「二人とも来いよ、神社の境内で俺のサンド・ ( ッグになってもら「ううん」 う。お狐様にお願いでもしろよ。うまくいけばドロンできるかもし「明日は、日曜日だ。一緒に遊・ほう」 「ごめん、それも」 れないそ」 正太は先に立って歩き出した。進は、虎の威をかりた狐といった「・ほくがきらいなのかい」 「そうじゃない、でも」 ありさまで、ばくたちの背後にまわった。 「パパとママが駄目だっていうの ? 」 ( やってやろうしゃないか ) というのがその時の・ほくの気持たった。それが守にも半分ほど通守は首を振った。 ・ほくは、アル中気味で乱暴者の彼のパパと、脂粉の臭いのする彼 じたらしい。守はいきなり身をひるがえすと進のむこうずねをいや のママを思い出しながらいった。いかにもそれが的を射た考えのよ というほど蹴りとばし、一もくさんに走りだした。 うに思えてくる。 「逃げるか、こら ! あ、あ、あ ! 」 守は弱々しい笑みを浮かべ、二、三歩うしろへ下がった。 追おうとした正太は、片足けんけんをやっている進につき当り、 ともに歩道に転倒した。そのすきに、・ほくもまっしぐらに守のあと「今にきみとはゆっくり遊べるようになるさ : : : じゃあ」 「どこへ行くの ? 」 を追った。 ぼくたちは住宅街の人口まで来て、ようやくかけるのをやめた。 「ぼくも連れていって」 「ここまでは来ないだろう」 「近いうちにね、それは約束する」 「どうかな」 「残念だな」 と守。 「あいつらは執念深いんた。月曜日学校へ行けば、またけんかをし彼の視線を背に感じながら、・ほくは自分の家の方へ歩き出した。 門ロで振りかえると、守の姿はすでになかった。 かけてくるよ」 「今度はやりかえしてやる」 3 「やられるのはぼくだけでいい。きみを巻き添えにして悪かったよ」 「とんでもなし。 、、・よくこそ、きみを助けることができなくてーーー」 翌朝、また霧がさめやらぬ時刻、守の。 ( パの声で眼をさました。 「ちゃんと助けてくれたじゃないか。感謝しているよ」 「守が昨夜もどらなかったのです」 「・ほくの家に来ないか、きみの見ていないマンガがたくさんある」 「ほう、それはご心配で」 「ありがとう : : : でも、だめなんだ」 7 9 《
0 亟を取ー第一 ←ー一一判光年一一一→ 上の人が 0 からへ行きつく前に、スビでは、ちがった世界に住んでいると考え 〈 1 ー ( ミ c ) 」〉、 + ( ミ c ) Ⅱ 0.2195 ードは十分光速に近づくので、滑車の部なけれはならないのだ。 というとんでもない割り合い ( 計算の このことを認識することによって、こ 分の運動でこの。ハラドックスを解くこと はできないのだ。 の巧妙な。 ( ラドックスは、相対論をくっ理由は省略するが、相対論的速度の和の がえすようなものではないことが理解さ式から簡単に求められる ) でちちんでい では、これはい . ったいどういうことな るのである。 れる。 のたろうか : その結果、総合してみると、ベルトの この問題に矛盾があるようにみえたひ 具体的にいうと とつの原因は、観測者をベルトと床の二図 1 の上側のベルトにいる人からみ上に乗っている人にとっても、やはりペ ことにあるとると、自分の乗っているべルトはちちまルトは「たるむ」のではなく「千切れ つにしか分けなかった す、滑車 0 と 0 の距離は六〇パーセントる」方向になかってしまうのだ。 考えられる。 にまでちちむから、ベルトはたるまねば・すなわち、この。 ( ラドックスの正解 ベルトはと下で等速であるが、べク トル的には逆である。つまり、まったく ならないように思われるが、さらに観察は、どの人からみても「ベルトは・千切れ 逆の速度である。したがって、上側のべを深めて、下側のベルトをも見てみるる」ということになるのである。 ルトの観測者と下側のベルトの観測者と と、これは相対的に 0 けよりももっと大さて、この正解を認めたとすると、こ こにさらにおもしろいことがあ「つ。 きなス。ヒ ードで運はじめの仮定で、・ヘルトは伸縮不可能 の材質でできているとしたが、今度は、 動してい ス いくらでも伸びる″材質でできている ることに 。こどし″ちちむことは 気づくのと考えてみようナオ ない〃ものとする。 ラである。 > すなわそうすると、猛スビードで運動するべ ルトは「千切れる」ことはないが、「伸 べちベルト = の下の部びる」という現象をおこすにちがいな 。そうしなければ、寸法が合わないか 分は、上 ~ の部分のらである。 で、そういう現象をおこしたあと、こ 人からみ 図 のベルト・コンべアを停止させたとしょ ると、 う。すると、ベルトには″ちちむ″性質 8 はないから、ダランとたるんた長いベル 0 0 ← ← 0- 0
「何とも言えないわね。父は、何でも見通しているような人だか 「たぶん、泉が近くにあると思う」 ら、少しでも早く出発した方が、無難だと思う」 「水を汲んできてくれ」 「そうだな。行くそ、ムザク ! 」 「わかったわ、でも、何で汲めば、しし エルワースは、ムザクの手を掴んで、立ち上がらせる。ムザクの エルワースは、あたりを見回した。そしてすぐに言った。 もう一方の手は、あの白い棒を擱んだままだ。そしてエルワース 「イレン、おまえの靴があるじゃないか。それでいい」 イレンは、泉があると思える方向に、歩み出した。どうして自分は、先頭に立「て歩き出すイレンの背中を見た。 さすがはティクスの娘というべきか、いつの間にか、昔からの仲 が、ムザクのために水を汲んでこなければならないのか、イレンは 間のような顔をしていやがる。エルワースは考えた。どういう神経 舌打ちした。このまま立ち去ってしまっても、かまわないのだ。だ が、すぐに、彼女は思い直す。少なくとも、 = ルワースという男をしているのだ。ただの箱人り娘だと考えていたら、ひどい目に会 は、自分のことを信煩してくれたのだ。ティクスの娘として、他人わされそうだ。 ムザクは、まだ夢の中にいる者のように、ふらっきながら歩いて の信頼を裏切ることはできない。 いる。それでもエルワースには、以前の再生のときからすれば、は 「私は、馬鹿だ」 るかにしつかりしているように思えた。よみがえるたびに、何かが 腹だちまぎれに、独り言を言うと、イレンは、急ぎ足になった。 失われ、何かが付け加えられてくるようだ。そして、失われるもの 片方の靴に水を満たして戻 0 てみると、ムザクは、半身、起き上よりも、付け加えられるものの方が多いように思えた。 あるいは、こうして再生を繰り返しながら、ムザクは本来の自分 がっていた。イレンの手から水を受け取ると、一息で呑み干した。 を取り戻すことになるのではないか。エルワースの頭の片隅で、そ 「助かったよ」 んな考えが生まれ、しだいに大きくなっていった。 エルワースが、イレンに笑いかけた。 三人は、夜明けまで、密林の中を歩いた。そして三人が疲れ切る 「たいしたことじゃないわ。それよりも、私の靴を返してよ」 イレンは、ムザクの手から靴を取り返し、濡れたままで、はきな頃になると、ムザクは、完全に自分を取り戻していた。太陽が昇り きった頃、エルワースは、大きな木の下で立ち止まった。 おす。 「ここまでくれば、とりあえずは充分だろう。一休み、しようじゃ 「で、どうなの ? もう出かけられそう ? 」 「ああ、そろそろ大丈夫だろう。だが、まだはっきりと記憶が戻っないか」 イレンが、木の根元に腰をおろした。 てないからな。おまえの父親の追手がかからないことを祈るよりな 「それがいいわ」 いな」 「とにかく、一眠りするんだな、二人とも」 エルワースが、はしめて、心配そうに言った。 門 7
たら、ゲイルとアシ、ロンは、殺されることになるだろう。そのと通信機を見つめて、その時間を過ごした。 き、おれたち・は、どうすべきなのか、ローダの言っていることは、 待っているのは、ゲイルも同じだった。戦いの音は、ますます激 9 そういうことなんだぜ」 しくなっていった。アシュロンは、眠り続け、ゲイルは壁の模様を 見つめ続けた。戦いの音の様子や、この宮殿の中の雰囲気からすれ ロールは、ステンの顔を見つめた。 ば、情勢はレンケにとって不利であるのは確実のように思えた。 「おれたちは、アシュンとゲイルを見殺しにするより、ないんだ ろうな、そのとさは」 時々、廊下を駆けていく兵士たちの足音が響いた。そのたびに、 ゲイルは、身を固くした。自分の目で、戦況を確かめることができ メリンがうなずいた。ローダは、それをじっと見つめた。 ないのは、いらだたしいことだった。何度か、様子を見に出てみよ 「そのとおりね。私たちは、彼らを見殺しにするよりない。でも、 それはつらいことよ。そのときになって、私たちの中から、そのつうかと思ったが、アシ、ロンが目覚めてからにすべきだと、考え直 らさに悲鳴をあげる人が出ないことを祈るわ。そうなったら、ます。 た、私の決心もゆるぎ出すに決まってるんだから」 また、足音が響いた。ゲイルは、身を固くして、部屋の扉を見つ 「キリイを見ならうんだな」 めた。その足音は、これまでのもののように、廊下を通り過ぎてい ロールが言う。それは、明らかに、ゲイルとアシュロンを置いかず、外の扉の中に入ってきた。ゲイルは、唇を噛みしめた。立ち て、レンケの外に出ていったキリイの行為を、彼が快く思っていな上がって、身構える。無造作に、部屋の扉が開けられた。白い長衣 をまとった老人が、兵士たちに囲まれて、部屋の中に人ってきた。 いことを示していた。 「ラダ・ガルイ ! 」 それに関しては、残りの三人も、ほぼ同様の感情を抱いていた。 そうするようにキリイを説得したローダでさえ、キリイは、あの場ゲイルは、吐き出すように、その老人の名を口にした。 レンケの王たちの一人であるラダ・ガルイの顔には、うっすらと にとどまると強く主張す・ヘきだったと考えていた。結局は、同じ行 動を取るにしろ、そこにはもう少しためらいがあって当然だ。それ汗が浮かんでいた。 に気付かないのが、キリイの欠点た。ローダは思う。そして不必要「私の名をお・ほえていたのかね ? 」 な敵を造ってしまうのだ。 「忘れるわけがないわ ! 」 「どちらにしろ、おれたちは、ここで待っているよりない」 ゲイルは、憎しみを隠そうともしなかった。 ロールが言って、メリンの肩を軽く抱いた。マイダスの若者たち「だが、間もなく、忘れざるを得なくなるかも知れぬな」 は、自分たちが何もできぬことを知っていた。できるのは待っこと ラダ・ガルイは、笑みを浮かべて言った。 こけだ。 「どういうこと ? ・」 時間は、這うようにして過ぎていった。マイダスの若者たちは、 「ガイが、我々の防壁を破った。ワイドルからの旅人たちょ、私