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検索対象: SFマガジン 1981年8月号
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1. SFマガジン 1981年8月号

アー・コ 「わたし、忘れてたのよーーあんた清浄だったのねえ。ほんとのほのとほうにくれた顔。 んとに最初の性ホルモンも飲んでないのね。まあ ! ひょこ ! あそれは・ほくがしたことだった。・ほくの心はひりびりし、そして・ほ盟 2 くはこれまで味わったこともないくらい不幸たと思った。不幸 ! あ、おかしい ! 」 ・ほくは、これまで、ほんとうに不幸だったことなどなかったの 「レダ ! 」 コラブダー ・ほくは激怒してしまって叫んだ。こんな背徳者なんかもう二度とだ。ひとにあんな顔をするほど悲しみを与えたこともなくーーーひと まっぴらだ。だが、 レダをおきざりにしようと立ちあがり、スティの唇を額におしあてられたこともなぐ。 額のその箇所から、なにかあついじわりとしたうずきがたえまな ションにとびついたとたんに、レダは笑いやめた。 しに伝わってきた。大いそぎでユニット へ帰りついて、ばくの最初 「いくつもりなの ? そうじゃないんでしよ、イヴ ? 」 にしたことは、洗面所の鏡で、額になにかしるしが、赤いあざか、 「いくよ。もう学習時間だ」 「ねえ、怒らないで。怒っちゃいや、そんなつもりじゃなかったん刻印のようなものがうかび出ていないかしらべることだった。 額はいつもどおり、青白くなめらかだった。しかし、・ほくは、そ だわ」 れがどこかしらかわってしまっているように感じた。・ほくはもう・ほ 「知らないよ、・ほくは ! 」 ヴァー・コ 「イヴ ! あたしあんたをわたしのユニットにつれてって、市で作くじゃない。清浄で何も知らぬイヴではなくなってしまったのだ。 ってない花のお茶をのませてあげるつもりだったのよ。お菓子もあだが、かわりにレダは・ほくに何を刻印したのだろう。堕落を ? 悲 デイソー・ター しみを ? 紊乱者の宿命を ? るの。あんたがとても喜びそうなものもあるのよ ! 」 心は千々に乱れ、二度とラウリも、ステイも、ミラの顔も見たく 「花のお茶なんかいらない。 よい日を、レダ ! 」 リミテッ・ト ないと思った。・ほくは何度も額を殺菌消毒し、べッドにもぐりこん ・ほくはわざと云ったのだ。走路を高速走路にのりかえる線にセッ でいた。・ほくは、気がっかなかった。 ほんとうは、ばくの心を トして、・ほくはレダをおきざりに動きだした。 乱したのはレダのぶしつけな唇ではなかったのだ。・ほくを傷つけた 「イヴ ! あしたも、来るでしょ ? 来るでしよ、イヴ ? 」 のはレダの嘲笑ーーーそしてレダの泣き顔だった。・ほくはレダを傷 レダが磁カ線のうなりにまけまいと叫ぶ。・ほくは知らん顔をしょ つけた。そのことで、・ほくはやりきれなく不幸だったのた。 うと思っていたが、何かにひつばられて、ついさいごにふりかえっ てしまった。そして、ぎくりとした。 トーが 見なければよかったのだ。レダは、赤い長衣をひらひらさせ、ぼ 一くのほうを、手もふらずに見ていた。だがなんて悲しい顔を、レダ はしていたのだろうーー泣き出しそうな子どもの顔。不安と重荷に ぼくは不幸だったーーしかしまた、それは、ばくのこれまで知っ おしつぶされそうな、人生でさいしょの悲しみにぶつかった子どもていたどんな幸福よりも、ゆたかだった。 00

2. SFマガジン 1981年8月号

それがわかっていない人間は、市ではばかものだったし、まして れらに無価値で、劣等にみえているには何の違いもなかった。 ばくはもうそろそろ最初の契約をする期齢にさしかかっているのだ だから、・ほくは何かというとこのコモン・エリアー - ーー・ほくたちは 単に「 O<< 」と呼んでいたがーーーに来たが、それはこの、標識どおからなおさらだった。 ゴそン・ニリア・ウス ( ああ、どうすればいいのだろう ! ) りに云うなら共用地南には、よくあるような契茶部やゲ 1 ム・ だが、ひとりのとき、ぼくは特に、そう云わずにはいられないよ 七ンターがついていないので、いまでは・ほくの仲間たちは、だれも うなやるせない気持ちになる。こんなエリアのような、全市の見わ ここには来ようとしなかったからだ。 たせるところにいるときはよけいそうだ。 たぶんこの「南」は、未完成のままで計画のかわってしまっ アコモン・リ た O だったのだろう。だから、ずっと高くなっているそこに シティは美しい。シティのすべてが美しい。ここをはなれて別の シテイや、別の星へ出かけていくことなど、・ほくには耐えることさ は、ゆたかな木々とあたりまえの走路スティションがあるだけで、 えできないだろう。ばくはシティを愛している。そこは・ほくにとっ あとは何にもなく、だからそこにはいつも風が吹いているのだし、 だからそこからはシティの三分の二が何の建物にも邪魔されずによて文字どおりすべてだ。 く見えるのだ。・ほくは、あのなじみぶかいワクワクした気持ちに身そして・ほくはこうして立って見おろしているとき、なんともいえ をゆだね、描画機をもってくればよかった、とちょっと考えぬふしぎな気分によく見まわれる。それは何といったらいいのだろ ・ほくの腕がおそろしく長くのび、・ほくのからだがひどく大き た。しかし、いつも・ほくがそれを忘れる、ということじたいが、・ほ くうすくひろがっていって、目の下にひろがるシティ くのしたいことがそれではないことを示しているはずだ。 そう、とぼくは考えてみる。たしかに、・ほくはこの美しい光景をイーストのコミ = = ティ全域をつつみこんでしまい、びったりと 絵に描きたいわけではない。それは・ほくに造形感覚の刺激を与えるかさなり、《行為》を行なっているようなーーそんなことをいう・ほ レベルラヴ くは期齢もまだ十五期めで、第一段階の行為さえまだ済ましてない わけではない。 だが、それなら歌をつくりたいのではなおさらない。・ほくの音楽のだから呆れてしまうが・ー・ーそんな、どうしてもうまく伝えること のできぬ気分だ。 の成績はいつだって最悪なのだ。書くーーそれもやはり問題外だ。 いっそのこと、ソフィストになったらどうだい、と友達に云われそんなとき、・ほくはよく、このシティになりたい、などと思って みたりする。このシティそのものに合体し、ひとつになり、とけこ たこともある。しかしそれも・ほくには何かちがっている気がした。 ・ほくは、このエリアに来るみ、そこに住んでいる市民ひとりひとりについてもっとよく知り だがそれなら何をしたいのだろう ? たびに、風にま「すぐむかいあって、いつのまにかその同じひとったくなる。いつだ「てぼくはひとびとに興味がある。このひととあ 7 のひとが第一契約者どうしだったし、そのひとは別のひとの申込者 のことがらを考えている自分に気がつく。 、くら眺めても見あ に登録ちゅうである、といったようなことは、し ( 何をしたいのだろう , ー、ー何を伝えたいのだろう ) コン・ハエオン

3. SFマガジン 1981年8月号

える、誰かの話し声が必ず聞こえる、と。 「そうお ? 何かご用だったの」必死で眠気とたたかっているよう 目をこらしてみると、廊下の反対側の突きあたり、階段の影になな声だ。 ったあたりから、もうひとっ別のうす暗い光がかすかにもれてい 「いえ、 しいんですの」エレンが言った。「もうお休みになってる た。その光にむか 0 て、彼女は歩いてい 0 た。木の床をじかに打っとは思わなか 0 たものですから。お話はあしたにしますわね。おや かかとの音が、がらんとした背後の廊下に大きくびびく。 すみなさい」 彼女の注意をひきつけていたのは、常夜灯の光だ 0 た。そのそば「おやすみ」 の扉が半開きになっているのに彼女は気づいた。扉に手をふれて、 ひどく面くらったまま、エレンは、暗く息苦しい部屋を出た。 ほんの少し押しひらいてみる。メイ伯母の声がした。彼女はなかへき「とメイ伯母は寝言を言 0 ていたにちがいない。さもなけれ 入っていった。 ば、病気のせいで頭がおかしくなって幻覚を見ていたのだ。どうか 「脚の感覚がまるでないのよ」伯母がしゃべっていた。 してるわ、伯母が目を覚したまま、誰かが訪れるのを心待ちにして 「痛くもなければ、とにかく何にも感じないの。なんとか使いもの いて、しかもその誰かはこの家のなかにいて、このわたしとその誰 ぐらいにはなりますけどね。感覚がなくな 0 ちゃったら、もう役にかとをまちがえたんだなんて考えるのは。けれども言いきかせて 立たなくなるんじゃないかって、心配したものよ。全然そんなことも、言いきかせても、エレンの心はいっかまたその考えにまいもど はなくてすんだけど。あんたは、ちゃんと知ってたわよね。だっ ってきてしまうのだった。 て、こうなるだろう 0 て言ってたもの」伯母がせきこみ、暗い部屋そのとき、さほど遠くない、階段の上の方で足音がきこえた。 = のなかに、 べッドのきしむ音がひびいた。「いらっしゃいな。ほレンはいそいでとび出した。階段のあたりは真暗でがらんとしてい ら、となりに」 て、見上げてみても何も見えない。さっきの音もやつばり、この 「メイ伯母さま」 死にかけた家のたてる音のひとつだったのだろうか、と彼女は思っ ふいにあたりを沈黙がつつんだ。伯母の息づかいさえきこえな 、深い沈黙が。やがて伯母の声がした。 そんな説明ではわれながら納得がいかなくて眉をひそめながら、 「エレン、あんたなの ? 」 エレンは台所にもどった。貯蔵室にいつばい罐詰があるのをみつけ 「もちろんですわ。いったい誰だとお思いになって ? 」 て、スープをつくってみる。食べていると、またさっきの足音がき こえた。今度は、すぐ真上の部屋かららしい 、いえ。きっと夢を見ていたんだわ」またべッドが音をた てた。 エレンは天井を見上げた。もし何者かが上で歩きまわっているん 「何か、脚のことをおっしやってたみたいですけど」 だとしたら、どうもあんまり用心深い人間とはいえない。それで べッドがきしみつづける。 も、どう考えてみてもやつばり、それは足音だとしか思えなかっ 2 7

4. SFマガジン 1981年8月号

ったというのだろう。しかも、それ以外のことには何ひとつ、興味ばらせ、まるきり喧嘩ごしにそのエリアへ、タイムを見はから って出かけたのだった。 をもてずにいるなどと告白した上で。 デイソーイー C ほくは、行きたいところに行く権利があるんだ。みにくい紊乱者 考えるほどに気がめいってきて、・ほくは鬱からぬけだせなかっ コモン・エリア なんかに邪魔させるものか ) ・、、まくを南 << O << にしきりにひきよせた。 た。そのことカ ~ ・ほくはどきどきする心臓をもてあましながら手すりにしがみつ ( あそこでは風が吹いている ) き、挑戦的にそうつぶやきつづけていた。 ( あそこではひとりでいられる ) それが望みなのだ、そうぼくは自らに云いきかせた。風と光と孤そのとき、・ほくはまだ、ひとが心をひかれた他のだれかのところ へ出かけるためには何の権利も必要とはしないのだ、ということを 独。ほかに何が要るというのだろう。銀色の目 ? 悪意にみちたく すくす笑い ? とんでもない ! 彼女は・ほくをからかったのだ。彼知ってさえいなかったのである。 コモン・エリア コラブダ 女のような背徳者が、毎日あんな退屈な何もない公園で空をみて 2 いるなんて、そんなことがあるわけはない。 いや、たとえあったところでどうだというのだ。・ほくには望みの 《南 << 》は無人だった。 場所にいる権利がある。行きたいところに行き、したいことをし、 いきごんでやってきた・ほくはきよろきよろし、それから失望し、 生きたいように生きるのは、社会市民の基本的な権利の第一だ。そ れがもし他の個人の利害と相反するのだったら、要求の多少によっ同時に安堵してスティションをおり、買ってきた乾し果物をかじり て妥協点を見出さなければいけないが、しかし南 << はとても広いながら草に足をふみいれた。 」リ 7 !. デイソーグー モン・エリア 「なんだ、いやしないじゃないか」 O << だし、そしてその草原はぼ 0 ど紊乱者のふたりがわけあった わざと声に出して・ほくは叫んでみ、すると風がその声をさらって ってそれそれに王国をたてられるくらいにゆたかに茂っているのだ いった。・ほくはひとりで、そして見わたすかぎりの草と、やさしい なら、何をためらうのだろう ? 市木蔭をつくってくれるための何本かの樹木と、適当に配置された白 それは・ほくの権利なのだ ! いペンチや灌木の茂みを見つめながら立っていた。 民は義務と同様、権利を行使することにおいても果敢でなくてはな ロート 風がさやさやいい、草をいっせいになびかせた。・ほくの胸にひろ らな、 ・ほくはそう自分に云いきかせ、何回となく走路にのり、 がったえたいのしれぬ落胆は、・ほくが感じていたよりはずっとふか そして途中でセンターや広場の方へ逃げこんでしまった。さいごに は・ほくはもうそんな自分にひどく腹をたててしまったので、自分のく、・ほくは草に腰をおろし、そして、どうしてだろう、と考えた。 臆病さを罰するために、南 3 のエリアからへまっすぐむかう直通南、・ほくの大好きな静かな場所は、これまでにぼくがいちど の走路にわざわざのりに行き、手すりをしつかりつかんで顔をこわも来たことのない見知らぬ場所であるかのように、よそよそしく、 戸ート 2

5. SFマガジン 1981年8月号

警笛がきこえ、列車の放っ光芒が、橋の上の男の姿を浮き上がら せた。 といったきり言葉が出なくなってしまった。 シル h ットの手が上がり、拳銃がそれまで逃げてきた方角に向け 「圭一」 られた。上着の内側にホルスターがのそいている。先日雑木林でぼ と背後から声をかけたのはママだった。 くがビストルを見たと思ったのは錯覚ではなかったのだ。きっとパ 「もう寝るのよ」 パもあの時気づいたのだ。そしてそのことを国軍に連絡した いったい守くん家に何をしたの ? 」 ダダダッ、つるべ射ちの音がして、男の手から拳銃がポロリと落 「仕方なかったんだ」 ちた。守のパパは胸を真っ赤に染めて、手すりを越え、走ってきた 「パパの嘘つき、仕事だなんていって ! ・ほくはママの袖の下をくぐり抜けるようにして逃れると、玄関か列車の上に落ちていった・ ら、素足に靴をつつかけておもてへとび出した。 7 近所の人々が恐る恐る顔を出している。 ・ほくはかけ出した。背後で。ハバの呼ぶ声をきいた。 それにかまわず、住宅街を出きったところまで来て、戒厳令下で雑木林は、満天の星の下で、さながら巨大な生きもののように強 びとけのない大通りをかけ抜けて行く二つの人かげ、それを追う兵風にゆらいでいた。 士たちの猟犬のような姿を見た。 橋の下では列車が止まり、煌々としたライトのもとで、遺体の収 街灯が・ほんやりと路面をてらしている。 容作業が行なわれていた。平吉氏が何か悪いことをして追われてい 追跡者の銃が火を吹き、逃げてゆく人かげのひとつが・ハタッと倒たとするなら、彼がどこへ行こうとしたかを知るために、おつつけ えた。もうひとりは助けに戻ろうとしたが、すぐに膝をついて拳銃捜査の手が周辺にのびるはずだった。その前に守に会いたいと思い ・ほくは抜け道を通って雑木林の近くまでやってきたのだった。 を兵士たちに向けて発射した。兵士たちが伏せたすきに、ガンリン スタンドと鉄工所の間の路地にネズミのように走りこんだ。その東懷中電灯は持っていなかったけれど、月あかりが葉かげからさし 側には畑をへだてて″メガネ橋″があるのだ。 いって、どうにか崖ふちに向って進むことができた。 ぼくは南に迂回して大通りを横切り、いつもの小道から″メガネ風のため、崖の上に立っと、とばされそうになった、地平線は黒 黒とした森かげとなり、月灯りに色彩を失った田畑の間を、鉄道線 橋″へ向った。 前方に橋がみえてきた。保線の灯に浮き上がっている。走ってき路が不知火のようによぎっていた。 た逃亡者が立ちどまって、追手を振り返った。薄あかりの下で男の ・ほくはためらいなく斜面をおりはじめた。兵士たちの手がまもな 9 くとどいてくるたろうし 、。、。、だってぼくを捜している。時間はあ 顔が見てとれた。

6. SFマガジン 1981年8月号

が十一一一も下 0 イヴ・だ。・ほくは、、ラでなくイーラでなく階も高」 0 だ。誰かの気配を、しかも同じ = リアにいて感しとれな い、などとは考えられない。 、。・まくはイヴで、その・ほくがここにこうしているのが スティでなしー だが、息をつめている・ほくの前で、灌木のしげみがゆ「くりと一一 いまなのだ。それは何なのだろう。・ほくはな・せイヴに生まれてきた のだろう。・ほくには何ができるのだろう、・ほくには何がなすべき仕つに割れた。 ャングマ / 「ハイ、男の子」 事だろう、伝えるべきメッセージなのだろう ? 耳に快い、ちょっと低い声が云った。 ( ・ほくはここにいる ) クリスタライゼー しいと思った。結晶作「 ( イ」 ・ほくはこのまま時間が結品してしまえ・は、 ・ほくは茫然と答えながら、じぶんが挨拶をかえしたことさえ、気 用。何ひとっさだかでなく、何ひとっ決められていす、ただ・ほくが イヴで、ここにこうしていて感している、それたけがたしかであるがついていなか 0 た。 ・フ戸ー 「どうしたの ? 」 、、。ぼくは申込者なんか こんな時間。それがいつまでもつづけばし 《行そのひとは、咽喉をふるわせて笑い、一歩・つつ、茂みからぬけだ つまでも清浄のままでもいい 出来なくたってかまわない、い してきた。長衣が小枝にからむのを神経質にひつばりながら。彼女 為》なんか知りたくもない。 が小枝を払いのけると、つよい若木の匂いがばっとた「て草の匂い そんな手つづきがなくったって、ぼくはシティと行為することが できるのだし、風を肌に感じることもできる。このふしぎな感じをにまじる。 風が吹いていて、彼女の紫がか「た銀色の髪を吹きちらした。彼 メッセージするために、クリ = ーターのギルドに入って、絵を描し 、。どれかひとつを。ほ女はシティを背景にして、銀の泡から生まれ出た銀色の = ンフのよ たり歌をつくったり詩をかいたりもしたくなし うに立っていた。彼女を生み出した灌木の茂みは彼女の細身がぬけ くの仕事に決めることで、他の楽しさのすべてを見すてなければな このまま、いまの・ほくのだすのをまちかねて、ばくりともとどおりとしてしまった。 らないのがいやだ。・ほくはこここ ャングマン まま、世界のなかでまどろんでいるのが、いちばん幸せなのた。ひ「何を見ているの、男の子 ? あなた、未契約者だわね」 彼女は云い、そして長衣を風に流した。・ほくはやつばり口がきけ とりで、ひとりきりで 、は、かっ 4 ~ 0 ひとり ? ・ なぜって、彼女はーー、彼女であるかどうか、どうしてもわからな 突然、・ほくはうろたえてとびおきた。ぼくがひとりきりで、この か 0 たし、光る銀いろの目は・ほくを見て奇妙な笑いにさざめく小川 トーガ O< にいるのではない、ということが、ふいに感じられたからだ。 そんなばかな , 、ー打消してみたが、動悸がやまなか 0 た。そんなのようた「た。そしてーーそして、彼女は、そのさらさらする長衣 認識票をつけてさ ばかなことはない。・ほくは総合指数はスティより十一 = も低いレギのどこにも、ひとつもーーおお、ひとつもー ュラー ・レヴ = ルだけれども、テレ。 ( シー指数たけは平均より三段えいなかったのだー シ / 229

7. SFマガジン 1981年8月号

ここからは、シティのーーー・ほくたちのコミ、ニティの北側の三分 の二がまるまる見わたせるのだ。それは銀色に光る、うねる走路と 2 テッド 2 ダワーユニツツオフィス 高速走路の網をめぐらして、白い夢幻的な塔と住居地と作業地のき つばりしたコントラストをなしている。 それは銀のペールをかけた白い幻影だった。いちばん高く天をさ している《契約の塔》によりそうようにしていくつもの塔がたって いる。低くなっているユニツツには緑が気まぐれなアクセントをそ える。 ここからみるシティくらい、美しいものはない。そして、美が至 上の価値のひとつである、ということは、ばくたちが最初に習うこ 走路をとびだすと、風が吹いていた。 とのひとつだったから、ぼくはいつも、ひとびとがこのような巨大 ぼくがこのエリアを何となく好きなのは、そのせいだろう。ま ~ かな美をつくりだしたことに驚嘆すると同時に、ひとびとがもっとか には、シティで風の吹いているところなんかありやしない。 れらのつくりだした美に気づかぬことに不満をもっていた。 ロート それにここからはいろいろなものが見えた。走路を通る人たちを たしかに、美は・ほくたちにとって途方もない大きな価値なのだ。 見ているのが、いちばんおもしろい。かれらはさまざまなしるしをぼくはわけても、与えられたいくつもの系統の中でもこの方面にひ つけている。もっと小さいときには、ぼくたちの最大の、決して飽かれた。きっとぼくの《提供者》のどちらかが、美学系のクリエ】 テッド きないゲームは高速走路の上から、すれちがう人たちの・ハッジの当ターのギルドにいる人だったのだろう。 てつこをすることだった。だが、それももう皆は飽きてしまった。 そう思うことは、とてもなぐさめになる。なぜなら、ぼくは、同 ・ほくは、いつまでたっても、決して飽きることがなかったのだが。 じ期の友人たちが、さっさといろいろなことを学びおえてしまい ロード 風は、サイクルのあいだはいつも強くて、そして冷たい。ふつ走路での子供らしい遊びにも興味を失い、同時にここや別の場所か う、みんながあまり起ぎてこないサイクルのあいだに、・ほくが好らの風景の美しさをもあっさり見すごすようになってしまってもま んでここに来るのもそのためだ。強くて頬にふきつけてくる風に向だ、ぐずぐずと走路から走路へのりうつり、ひらけてくる景観の万 かいあ「て立ち、息をつまらせ、目をほそめてシティの景色を見お華鏡にみとれることを何よりの楽しみにしている少年だ 0 たから ろしていると、・ほくはどこかへむけて航行している船のヘさきに立だ。・ほくのことをみんなはぐずだと云「たし、もちろん、それはい 「ているような、ひどくわくわくする、同時に甘ず「ばいふるえにずれ・ほくがクリ = ーターのギルドに入ることを意味しているので、 ひたされて、からたがちぎれて飛んでしまうような気がした。 一種の敬意を含んでいたけれども、それにしたっていまはぼくがか 第一章レダ 一南 < べアレ / ッ ダワー

8. SFマガジン 1981年8月号

ミラはぼくをけげん そう思うことはじっさいとても奇妙だった。・ほくは軽躁喚起剤をつばいで、傷ついているひまがなかったのだ。 のみ、少し元気になって学習エリアの = = ットに出かけたが、 ( 公そうに見、ラウリが入ってきたので席についた。・ほくは小踊りした ミラは・ほくを怒らせさえ、できや いくらいだった。ざまを見ろー 共の場所でプライヴェートな気分をまきちらすことは恐しく礼儀知 らすなことなのだ ) ふしぎなことに、ステイやミラと顔をあわせたしない。なぜなら風のつよい南で、銀色の目の気まぐれな紊乱 とき、だんだん、薬のせいでなくじぶんが躁的に浮きたっているこ者に友達だと云われたのは、ミラでも、イーラでも、スティでも、 、、・まく、イヴ、そのひとだったのだから。 ラウリでさえな、 ~ ~ 。力なかった。 とに気づかないわけこま、 それは、どういったらいいのだろうーーこれまで・ほくの一度も味スティは静かにおちついて自分のプログラム、予定より十八レ・ヘ ルも先へ進んでいる天才のプグラムを進めてい、ぼくやミラをふ わったことのない感じ、・ほくはかれらの知らない経験をしたのだ、 コントローリズム という優越感に似たもの、かれらはなんと子どもじみているのだろりかえろうともしなかった。彼はすでに管理学の初歩のテキスト うという こっそりくすくす笑わずにいられないようなそんなけをはじめている。・ほくはスティの。ハーソナリティをどんなにうらや しからぬ気分だった。 んだことだろう。 「ハイ、イヴ」 ・ほく以外の誰でもありたくなかっ たカ、いま、・ほくは誰でも ミラは相変らす背が高く、美しく、そして人をばかにしたようだ 《かれら》でさえありたくなかった。な・せならレダと話し、レ つも・ほくをダを傷つけ、早くレダにあやまってあの悲しい顔をいやしてやりた った。彼はひそかに自分を反逆者になそらえており、い いと熱烈に望んでいるのはただイヴひとりだったからだ。 ひどく軽んじて扱い、そのことで・ほくはひどく傷つけられるのがっ まくはいま、ミラがどれほどたわいもなく、「卞ど ねだったのだが、に ラウリはときどきふしぎそうにぼくを見たが、何も云わなかっ もつ。ほく、そして平凡に。ハターンどおりに見えるかに一驚していた。 た。定期交信のときで充分だと思ったのだろう。ィーラはーーそし 「ハイ、ミラ」 てイーラが、どんなに子どもつぼく見えるかも、・ほくをおどろかせ ハランスの完璧なイーラを 「あいかわらすかわいいねえ ! ずっと、自習して、何を習ってた こ。・ほくはいつだって堂々たるイーラ、 、子のイヴ ! 」 とても美しいと思っていたのだ。 の、背をのばす方法かい、しし 「まあ、そんなところさ」 まくのファミリー とぼくは驚きながら考えた。・ほくの指導員、 フレンズ 「そのわりに成果があがってないね。きみにいちばん必要なのは女・ほくの同期。かれらはぼくについて何も知らないし興味ももっては レディ ℃ない。かれらはなぜ・ほくの同期なのだろう。 性ホルモンを服用して、女になることさ、そうしたら第二契約を申 し込んであげるよ」 何もかもがこんなふうに新しく、何かしら・ほくをおどろかせるす 3 5 「覚えとくよ、ありがとう」 がたでぼくの目に映じた。・ほくはまるでいま生まれたばかりのフラ 2 スコ ・べイビイのように目を瞠っていた。ばくがレダを傷つけた、 ミラは・ほくを苛々させられなかった。ぼくの内心は別のことでい トレイター マニコライザ フレ / ズ リー デイソー

9. SFマガジン 1981年8月号

って少しもかまやしない ) そしてひどく孤独な場所に思われた。・ほくは草の葉を白と緑にいっ せいにそよがせる風に頬を吹かせ、ちらちらと梢をきらめかせる光・ほくは乾しあんずの種を草のあいだに投げすて、髪をくしやくし にかこまれて目をほそくしながら、ここはとてもさびしいところやにかきみだし、わざとどしんと草の上にねころんだ。乱暴にふる まってみたが、喜びは生まれてきはしなかった。・ほくは目をとじ、 ・こ、とふいに感じた。 それは、これまでまったく味わったことのない種類の孤独感たつあふれてくる音楽からも、世界からも切りはなされ、・ほくは不幸な た。いるべきひとがそこにおらず、そしてそれゆえに世界が永遠にのだろうかといぶかしみながらねそべっていた。 何かを欠いた場所としてぼくをとりまいている、という感じ。 それは、何がなし新しい感覚に思える。 ( 不幸なのかしら ) ぼくと世界との幸福な一体感は失われていた。少なくとももう、 欠けた何かが・ほくと世界とのあいだの深淵を埋めてくれないかぎ市民は幸福になる権利と義務がある。そしてつまるところ、ひと り、ばくはもとの何も知らず孤独を孤独と感じてさえいなかった満りでいて、ステイや、ミラとラウリのことを考えて少し悲しい気持 ち足りたひとりには戻れはしないのだ。 をあじわうにせよ、・ほくはこれまでいつもずっと幸福に、みたされ これはどうせ嘘じゃないかーーーそんな考えが唐突に・ほくにうかんて、やってきたのだ。 できた。木々も、小烏も、草の花も、空も、光も、風も、ほんとの ( 不幸ーーでも、な・せ ! ) ナチュラリズム ひとが紊乱者になるとき、そのはじまりはこんなふうにやってく それでありはしない。それは自然環境学の成果によって、市民に最 も有効な環境として構成され予定された。フログラムの結果でしかなるのだろうか。これはラウリにたずねることのできぬ問いのひとっ だ。なぜならそれは個人に属していたから。 。学説とデータと結論とが設計図と見取図を案出し、それにもと デイソーー づいて土が運ばれ、草が植えられ、強化ガラスの境界板のなかにオ ( 紊乱者であるってどんな気分だろう ) 「わるくないわ、なかなか」 ゾン発生装置と、そして対流発生機とがうめこまれた。 突然、風が答えた。 木々に小鳥が放され、死ねばまた次の小鳥が放され、弱よわしい ・ほくは文字どおりとびあがり、そして化物を見るおもいで、前に 陽光を増幅する輻射機がこの草原の輝きをつくったのだ。この風は ほんとうの風ではなく、予定され算出された理想の風だ。それに髪を立ってわらっているレダを見つめた。 「ハイ、イヴ。遅れちゃったわ」 吹かせて、・ほくはこのエリアをどこよりも好きだと考えていたのだ。 こんなふうに反抗的な考えかたをしたことは、これがはじめてだ デイソー・ダー 「どうしたの」 った。・ほくは自分におどろき、怯え、・ほくはもしかすると紊乱者に 5 4 レダはおもしろそうにたずねた。きようは真紅の長衣をきてい なろうとしているのかしら、と考えた。 っ△ た。レダの白と銀色のからだに、真紅の長衣は炎のようにたわむれ ( そうだとしたところで、かまうものカ 、。・まくはもう、何がどうだ デイソーグー トーイ

10. SFマガジン 1981年8月号

紊乱者、と・ほくは思った。レダは紊乱者なのだ。たが彼女はどうで飲物をびとっ買い、吸いながら歩いた。 してそうなったのだろう。彼女が美しくなく、みにくく ほとん人びとはせわしく、あるいはたおやかに行き来していた。かれら 3 2 ど奇形のようにみにくいからだろうか ? は美しく、満足しており、そして自分のなすべきことをすっかり見 走路はたゆまず急ぎ、・ほくを市のもっと賑やかなエリアに送りと出してしまっているように見えた。それは当然のことだ。市民はそ どけた。白い塔たちが両側に並びはじめるとぼくはレダのことを考うあらねばならなかったのだからーーそれとも、少しは、そうでな リミテッド 。彼女はなんと人間よりも塔や、高速走路の磁カ線に似ていたい人間も混っていたのたろうか ? 何をし、何を愛し、何を望んで ことだろう。 いるかをすべて明らかにしてくれるパッジに飾られて、その奥でま ・こ、暗くもやもやとした《何か》をかくしている、などということ 走路が中心部に人ってゆくにつれ、すれちがう市民の数はふえ / た。かれらの誰ひとりとして、美しくなく、美しいシティにふさわが、できるのだろうか ? しくないようなものはいなかった。青紫の空には、無重力船がとん ぼくには、メッセージするすべもなかった」・ほくはとぼとぼと歩 でいた。むかしの、進化していない人びとが見たなら、それは女神いてゆき、そして・ほくのユニット へ入った。しきりに自分が子ども と男神が住む、神がみの都のようにも思えたかもしれない。 たという感じがし、わからぬことにとりかこまれ、ひどく小さくて そしてぼくはそのシティが好きで、それにふさわしい人間となねうちのない、立派な人びとのあいだにいるのがはずかしい虫けら り、シティのために何かをつけ加えたく、自分にふさわしい業績でだと思えた。いつもよりもい「そうその憂鬱はふかかった。これも 飾られたかったのだ。 みんなレダのせいだ。何もかもこころえているような顔で、ひとを しかし、いま、何かしらそこがひややかに、へだてのある、ガラわらい、なぶりものにして ! ・ほくは、紊乱者などと出くわしたお スの向こうの風景のように見えることに、ばくは気づかないわけに かげで台無しにされた・ほくの時間のことを思い レダとその銀色の 。いかなかった。レダのせいだ レダが・ほくの心をかきみだした悪意に輝く目を深く憎んだ。 のだ。 彼女がみにくく、ユニークで、そして紊乱者であるので、・ほくは 不安にかられているのだ。なぜならーーなぜなら、ミラよりも・ほく は美しくなく、イーラよりもやせて小さく、そしてスティよりも指 ・ほくはきっと、ひどく浮かないようすをしていたのに違いない。 数が低かったのだから。レダについて考えてみたくてたまらなか もう十五齢になっているので、レクチュアの時間は、。フログラム 「たがそうすることがひどく恐ろしか「た。それで、ぼくはそうをかえれば自由学習にかえられた。ステイやミラにとても顔をあわ することを少しのばすことにし、住居地 = リアで主走路をおり、 せる気はしなかったので・ほくはそうしたが、ぼくたちの掵導員であ ぼくの「一 = , トにむか「て、歩道を使わすにぶらぶら歩いた。途中るラウリとの定期交信は休なことができなか「た。 デイソー′ー イ・ランチ ダワー ュニツツ デイソーー デイソーグー