月 る す 下 降 シャトルとは呼んでいないが、有翼、再使 ーだった。 Z tn の・スへースシャトル形断面になっていることは注目される 用可能の有人宇宙機と言えば、シャトル以も、サターン 5 さえも、これに比べればち大きな翼を持ったスペースシャトルを重 やちに見えてくる。 ( 七頁◎、八頁◎ ) 外の何物でもない。 心より上に置けば、風見安定の逆で全体の 空気力学的再突入を行なう有翼宇宙機の御参考までにのスペースシャト空力的安定は悪くなる。それを補正するた アイディアは、一九五〇年代まではむしろルのデータを示せば、発射時の高さ五六 めに大きな尾翼をつけるという理屈は、一 ごく一般的なものだった。マーキュリーや一四メートル、幅一一三・七九メートル、奥応理解できる。 ヴォストークのような弾道再突入を行なう行二三・三五メートル、最大質量一一〇四三 このデザインで驚くべきことは、第一段 宇宙機の方が後から構想されたもので、明トン、総離昇推カ三〇六二二 Z 、またオのロケットが一基しかないことだ。発射質 らかに弾道ミサイルの再突入体開発の副産ービターは全長三七・二六メートル、全幅量が一〇〇〇トン以上だから、このロケッ ・エンジンは一基で一〇〇〇〇 EZ ( 一 物と言える。 二三・七九メートル、空虚質量七四八四四 キログラムとなっている。 Z は九・八〇六六五重 ) 以上の推力を発 ブラウンの月計画に出て来るシャトルとも —のスペースシャトル発射ロケット生しなければならない。サターン 5 第一段 かなりの共通点を持つ。ただしフォン・プは二段式で、大きな尾翼、 ( 第一段と第一一段の 1 エンジンが一基六八一九 Z なのだ ラウンのシャトルは発射時の高さ八〇・八のが重なって一体となる ) を持ち、全体のから、実質造られれば間違いなく世界最大 エンジンだし、多 メートル、直径一九・八メートル、質量な印象はやはり 2 の拡大版だ。尾翼、またの液体推進剤ロケット・ んと六三五〇トン、第一段だけで五一基のシャトルの翼面が、楔形を組合せた ( 尾翼分スペースシャトルの固体ロケット・プー ロケット・ エンジンを持っというモンスタでは間に平行部分を置いている ) 超音速翼スター ( 一基一七九〇 Z ) をも抜いて 2
ルデンシェルトなどといった名の科学者や て月へ打ち出されたが、着陸には失敗し、 技師を乗せていた。宇宙船は月周回軌道か 太平洋に着水した。 ケイヴァ 1 は彼の発明した重力遮断金属ら、イヴァーノフ、ノルデンシェルトの二 の球に乗って、べッドフォードと共に月に人を乗せたフェリーを月面に降し、二人は 渡った。べッドフォードは後に地球へ帰還調査の後母船とランデブーした。宇宙船は したが、ケイヴァ 1 はとり残された。 その後火星軌道まで足をのばしてから、地 球へ戻った。 これら空想上の計画には、少なくとも一 ウエルナー・フォン・・フラウンは一九五 つの共通の欠点があった。すなわち、原理一年にコリアーズ・マガジン主催のシンポ ジウムにおいて、雄大な月探検計画を発表 的に実行不可能と言うことだ。 原理的に妥当な、最初の空想的月飛行計した。まず有翼の宇宙輸送機が地球と軌道 画は、多分ロシアのコンスタンチン・ツイとの間を往復して資材を運び、 トーナッ型三〇トンの資材と一〇人を収容している。 ォルコフスキーによって立てられたものだの宇宙ステーションが建設される。これを推カ三六二〇 ( キロニ = ートン ) の ろう。二〇一七年ヒマラヤの宇宙基地から足場に全高四九メートル、全幅三四メート ロケットで宇宙船は打ち出され、五日かか 出発する宇宙船は長さ一〇〇メートル、直ル、発射質量四〇〇〇トンの月着陸船が三 って月に到着する。着陸後貨物船の資材で 径四メートルのロケットで、イヴァーノフ、機建設される。二機は人員輸送用で二〇人基地が造られ、六週間の調査の後、人員船 ニ = ートン、フランクリン、ラブラス、ノずつが乗り組み、もう一機は貨物輸送用でに二五人ずつが乗り組んで月を飛び立つ。 人員船は再び五日かかって地球に戻り、宇 宙ステーションとランデヴーする。 像 このような空想上の宇宙計画が、実際の 宇宙開発にどのような影響を与えたか見定 、。こど、現実のアポロ ( 宇 0 めるのはむずかししオオ 0 、計画が、形態においてどころか発想におい てさえ、フォン・プラウンの計画とも根本 的に異なっていたことだけは確かだ。 しかし空想上の計画がなかったら、人々 〇 / の心に果して月〈行こうとする願望が生れ 0 0 0 0 0 0 0 9 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 三 = 三一 = 三三 = 0 0 ー 0 0 ーー遠心加速度 回転からの距離 8 ーーーⅡ・人工重力のグラフ
の 面 月 の ス ロ◎ Ld 面 杯断 ( 一三頁から統く ) 射ロケットを含めた全よう。 船内の装備と言えるものは、実にこれだ 体図、・ 2 ~ 4 が月着陸船だ。右上月宇宙船の底面の直径は五・九一メート けだ。現実のアポロなどの、身動きもまま に書かれたように、名称は「月宇宙船」 ル、高さは私が図から推算したところではならぬほど機器のつめ込まれた様とは大違 ( ルナー・スペース・ヴ = スル ) となって五・四メートルになる。質量一トンといういで、さっきの楽観的な質量見積りもここ いる。シップと言わずヴェスルと形容した見積りは、極度に楽天的と形容するほかは カら生れたものだろう。当時ののメ ところが、今から見れば新鮮だ。どちらもない。ちなみにアポロのコマンド・モデ = ン・ ( ーにアポロを見せたら、どうしてこん 「船」と訳されるが、ヴェスルの方には 1 ルは直径三・九メートル、高さ三八 ・メなに多くの機械が必要なのかといぶかしん 「容器」という意識が強い。宇宙の真空の 1 トルで、機内気圧を下げるなどギリギリ だに違いない。 これに限らず、やたら内部 中へ、眼尻を決して乗り出して行く気持がの軽量設計にもかかわらず五・六トンになが広々としているのが、昔の宇宙船の想像 表われているようだ。 っている。 画の特徴と言える。 月宇宙船の方から説明していくと、 r-æ— 宇宙船の中心には太い柱が通っていて、 船穀の周囲には一二の小窓⑩があり、頂 ・ 4 で。 ( ラシ = 1 トに吊り下っている釣その中に航法関係の機器が収められている部にも三つの大きな窓⑩がある。いずれも 鐘形の部分だけが耐圧船殻で、これだけが・ 1 、⑩⑩⑩ ) 。座席⑦は壁面に丸形で、船の窓を連想させる。実際原文で 地球へ戻って来る。アポロにも通じる形沿って、離昇時に体が上向きになるようには po 「 ( ( 舷窓 ) と言う語が用いられてい で、三人乗りという点も共通している。と取りつけられている。④は航法用の光学観るが、これを「宇宙港」と訳した恐ろしい ころがの月宇宙船には致命的な見落測装置で、常に天球の静止した像を観測者小説が出ているそうだ ( 「じよるすも 1 る しがあるのたが、それについては後で述べに提供する。 ・とらんけん」ではない ) 。 3 0 3 3 の 3 0 3 3 0 0 の 0 4 5 6 7 8 9 0 0 0 SECTIONAL VIEW OF LUNAR SPACE-SUIT
Z O 0 イギリス人の保守性が、こんなところに現 船自身も、その下半部に直径一四センチメ わで、あまり良いことはない。 われたと言えようか。 1 トルと七センチメートルの固体ロケット 月宇宙船を発射するロケットは、フロイ ロケットは直径五・九一メートル、全高 ディアンが喜んで何か言いそうな形をしての束を持っ ( ⑩ ) 。 いる。方式としては—の月計画は月直第二次大戦までは、液体推進剤ロケット三〇・〇メートルになる。固体ロケットの 行式、つまり地球上から直接に月へ向け飛は推力、信頼性などの点で固体推進剤ロケ束は外周から順次点火され、燃え尽きると び出し、月からまっすぐ地球へ戻って来ットに及んでいなかった。だから—が自然に落下する。一段の固体ロケットが全 る。これは地球軌道で月着陸船を組み立て固体ロケットの方を選んだのも一応理解は部燃焼し終えたら、次の段の点火が始ま る。ロで言うのは簡単だが、これをコンビ るフォン・・フラウンの方式 ( 地球軌道ランできるが、やはり慎重にすぎたというか ュターもない時代に、簡単なリレーだけで デヴー ) とも、月に降る前に月周回軌道に勇気の不足 ( クラーク自身が「未来の。フロ 人るアポロの方式 ( 月軌道ランデヴー ) とファイル」の中で、技術的予言の失敗の一やるとなると、実際上の問題は大きい しかしこのロケットが、固体ロケット独 も異なり、恐らくこれまで計画された最もつの理由として挙げている ) と言わざるを 得ない。液体ロケットの本質的利点、高い得の大袈裟な炎と煙を噴きながら、空にな 単純な月着陸だろう。 ロケットは本当のところ、多数の小型比推力、推カコントロールの可能性、大推った固体ロケットのチー・フをパラ・ ( ラ落 ( 直径二八センチメートル ) の固体推進剤力の実現などは、すでにツイオルコフスキして昇って行く光景は、ちょっとしたみも ・長・・ゴダ 1 ド、・オ 1 ベルトらのだろう。・ ロケットの東だ。小型ロケットは—・ ミックのフ 1 の上に示したように六角形に東ねられ、先達によって指摘されていたし、の先端にある月宇宙船は、セラ ェアリング③、原文では carapace ( 亀甲 ) それが五段に積み重ねられている。月宇宙メン・ハ 1 も当然知っていたはずだからだ。 FIG. 2 0 2 4 下 6.5 6 日 G. 牛 ⑦一一一刷 S の月宇宙船 ー 08
た。砦の・ほやけた輪郭に向かってゆっくり這い進みはしめた。だが 後の石が落下し終るまで待ったから、ことなきをえた。山のことに 疎い私が岩崩れの下敷になって圧し潰されるのを狙って、アルルホ黄色つぼい明りがついている二階の窓から眼を離さなかった。月が デスを護っているやつが、わざと岩が崩れそうな場所を選んだのだ眩しかったし、暗闇に慣れていたから重い瞼はおろしていた。・ほん ということに思い当ったーーそんなことが起る可能性はめったになやりと明りがついている窓に、大きな影が壁を横切るようにしてな かったが、私は俄然、気持が高揚した。敵がただ逃げまわり迂回すにかが動く気配がしたから、動きを早め、建物の土台まで這い寄っ るばかりではなく攻勢にでることもできるとなれば、ますますもった。一メートル、また一メートルと胸壁を登りはじめたが、それは さして難しいことではなかった。積み上げた石の隙間は漆喰が詰め て闘いがいがあるというものだ。 雪で真白にな 0 たつぎの山間の谷に、人家でも城塞でもない建物てあり、石自体の途方もない重みでびくとも動かなかったからだ。 が立 0 ていた。それは巨人でも片手では動かせそうにない重い石で黒々とした穴があいているような、低い位置にある窓のところに達 できていた。それが敵の隠れ家だったのだ。こんな荒地で、ほかにした。それはまるで大砲のために胸壁にあけた銃眼のようだった。 なにか考えようがあるだろうか ? そこで私は、それ以上臭いを探 しまわるのをやめ、後肢を崩れやすい瓦礫に突っこみ、前肢で細か い岩屑を撫ぜまわすようにし、転落しないように二本の中肢で体を 支えながら滑り降りはしめた。ついに雪のところに達した。今度は 底無しのクレ・ ( スなどに落ちこまないよう一歩一歩慎重に肢を運 び、音をたてすにそこを渡った。峠のほうから近づいていくことを やつは知っていたから、待ち伏せを警戒する必要があった。だから 近づきすぎて砦の建物から見られないように用心し、茸のかたちを した岩の下に体を滑りこませ、そのままじっと夜の来るのを待っこ とにした。 やがて暗くなってぎたが、また雪がちらついていて、闇をほの白 くしていた。だから、あえて建物に近づくことはせず、前肢を組ん でそれに頭をのせ、建物が視界に入るようにするだけにした。夜半 も過ぎると雪がやんだが、体に積った雪は払い落さなかった。そう していると周囲とまったく同じで、まだ一度も着たことはないが、 雲間からのそいている銀色の月に照らされて花嫁衣裳のように輝い 書泉カクマ - ト 旅行・山の本フェア 駿河台下角 294-00 代 ) 7 月 1 日 ~ 8 月 15 日 書泉グランデー階 4 階美術・家庭・児童 3 階辞典・参考書・図鑑書泉プンクマー日階 2 階理工学・医学・農業 マンガまつり 1 階雑誌・文学・文庫 士也階法律・経済・社会 7 月 10 日 ~ 8 月 31 日 書泉クランデ地階 書泉グランテ 書泉プンクマート 4 階 鉄道図書まつり 千代田区神田 295 ー 00 れ代 神保町 1 3 7 月 10 日 ~ 8 月 31 日 書泉クランデ 5 階 6 階辞典・学参・みト 5 階電気・機械・建築 夏休み 4 階医学・生物・理イヒ学 自然観察図書フェア 3 階法律・経済・就職 2 階哲学・教育・社会 7 月 10 日 ~ 8 月 31 日 1 階文学・詩歌・文庫 書泉グランデ 4 階 土也階芸術・家庭・児童 253
どこか、おかしい。エルワースは田 5 った。 「見て ? 」 クロスイング イレノが、エルワースの腕を擱んだ。振り返ると、岩大たちが、 数十歩のところまで近寄っているのが見えた。同じことだったか。 キリイの腰で、剣が揺れた。死体の一つから、盗んだ細身の剣だ エルワースは、覚悟を決めた。だが、奇妙なことに、岩大たちは、 ・つた。軽いものだったが、その重さが、自分を蛮人にしたように思 それ以上近寄ろうとはしなかった。それどころか、おびえたようなえた。マイダスでは、何度か、剣の練習をしたことがあった。だ 声をあげている。 が、それは、あくまでも運動の一つでしかなかった。まさか、こん ムザクが立ち上がった。そして、岩大たちの方を見る。何匹かのなもので、自分の身を守ることになるとは、想像もしていなかっ 岩犬が吠えた。だが、それは、恐怖をまぎらわすためにあげた声と しか思えなかった。 レンケが陥落してから、一夜が明けていた。キリイとモーネは、 「行こう」 河を渡る手段がないままに、河辺の茂みの中で、夜を明かしたの だ。モーネが、朝から黙りこくっているのが、気になった。だが、 ムザクが言った。 キリイ自身にも考えることは山ほど、あった。 「どこへ ? 」 アシュロンとゲイルは、。 とうなったのたろうか。自分の取った態 イレンが尋ねる。 「あっちさ」 度は、本当に正しかったのか、時が経つにつれて、キリイは疑問に 思いはじめた。だが、もはや、終ってしまったことだ。キリイもま ムザクが、都市の中を指さした。 た黙りこくって、河に沿って歩き出した。 「あっちに行くより、あるまい ? 」 もはや、レンケの城壁は、点のようにしか見えなかった。 エルワースは、黙って、ムザクの顔を見つめた。どういうこと 「舟なんて、見つかりそうもないな」 だ。たしかにこれはムザクだ。だが、・ とこか奇妙なところがある。 キリイは、モーネに話しかけた。 ムザクが先に立って歩きはじめた。エルワースとイレンは、そのあ とに従った。岩犬たちを振り返ったエ、ルワースは、その執念深さと「でも、舟がなければ、渡れないよ」 狂暴さで知られる獣たちが、あきらめたように、自分たちのやって モーネが、答える。 きた方向に戻っていくのを見た。 キリイは、もう一度、河の水面を見回した。対岸まで、泳ぐわけ ~ 。しかないだろうか。どう見ても百メートルまでは、ない。 もう一度、ムザクを見たエルワースは、どこが奇妙なのか、気付こよ、 「泳いで渡るか ? 」 いた。ムザクは、あの白い棒を持っていないのた。エルワースは、 イレンの肩をんだ。 モーネが、驚いたような表情で、キリイを見上げる。 6
いうことだ。遠心加速度は回転半径に比例 面白いことに、ソ連のソュース宇宙機は思ったことも、十分に理解できる。 これとそっくりの丸窓を持っている。内側船体は三・五秒に一回転する。計算してするから、船内の人工重力の強さは図⑧ には御丁寧にカーテンまであるし、ソ連のみると、確かに船体の外周では九・五四Ⅱ ( 六頁 ) のグラフに示したようになってし 、つまり地上における重力 (t) の九まう。立っている人間の頭の部分の重力 センスは大分クラシックだ。 七 % が発生する。座席の向きも、人工重力は、〇・四ぐらいにしかならない 上半身と下半身で極端に重力が違うこと この月宇宙船は船体を垂直軸回りに回転に対してちょうど地上と同じ向きになる。 させて、人工重力を発生させている。今か船殻の内面に帯状にキャット・ウォ 1 ク⑥が、精神や肉体にどんな影響を及ばすか、 悪くすれば無重量より困ったことにはなら ら見れば、たかだか月へ行って帰って来るが設けられている。 のに人工重力とは大袈裟な、というところ人工重力の方向からして、船内の様子はないか。ニーヴンの「中性子星」の主人公 ・ガガーリンが地球アポロともスカイラ・フとも根本的に異なは潮汐力で体を引きちぎられそうになる だが、何しろューリー が、それに近い感じになるかもしれない り、むしろ「一一〇〇一年」のディスカヴァリ を一周 ( 一九六一年 ) するまでは、人間が ( ものずきが計算したところ、「中性子星」 宇宙に出るとたちまち発狂するとか、無重 1 をうんと小さくした感じになるだろう。 量状態では食物を飲み込めずに窒息死する自分の頭の上二、三メートルの所に、他人の設定では本当に引きちぎられてしまうそ だろうとか、眼球の動きが安定しないからが逆様にぶら下っている光景は、さぞかしうだ ) 。 またこの回転数では、コリオリの力も相 まともに見ることができないとか、まこと奇妙なものだろう ( 六頁、七頁図⑧工 ) 。 もっと困ったことに、宇宙船の壁面では当に効いてくるはずだ。物を放るとカー・フ しやかに言われていたのだ。が用心 して、乗員を極力無重量状態に置くまいとほぼ一でも、他の部分ではそうでないとするわ、ま「すぐ歩こうとしてもふらっく 月 の ス ス 0 ・ 0 0 ー 07
もあった。密林や、海の底にあるという話も聞いたことがある。だ りのようになった身体で、足を連んだ。 が、自分が、その一つにめぐり会うとは、思ってもみなかった。 何度も、イレンは、エルワースが、気を失うのではないかと思っ エルワースは、乾いた舌で、ひび割れた唇をなめた。そこに足を た。血の気がすっかり失せ、冗談めいた言葉がいつも飛び出してき たロも、あえぐためだけに半開きになっている。よく動く目も、表踏み入れた者は、呪われてしまのだ。・ 「ムザクだわ ! 」 情を失っている。 イレンが、小さく叫んだ。見ると、建造物の一つの壁際に、う 突然、思いがけぬほど近くで、岩犬の吠え声がした。 あの崖を降りてきたのだ。イレンは、ニルワースの身体に生気がずくまっているムザクの姿があった。ムザクに向かって、足を踏み 出したエルワースの腕を、イレンがんた。 戻ってくるのを感じた。 「駄目よ、行っちゃ」 「畜生 ! もう来やがった」 けれども、背後から迫ってくる岩犬たちの吠え声が、イレンの恐 かすれた声で、エルワースがつぶやいた。イレンは、かすかに自 怖を追いやった。イレンは、エルワースの腕を離し、いっしょにな 分が絶望しはじめているのを感じた。 前方の視界をさえぎっている岩を回ったとき、驚きが、絶望にとって、歩き出した。 「どうした ? 」 ってかわった。 ニルワースが尋ねる。 「これはーーー」 、と思ったのよ。あの畜生ど 「やつばり、あちらに行った方が、しし イレンが息を呑んだ。ほとんど意識を失いかけていたエルワース もに食い殺されるよりは、呪われた方が、ましだわ」 が、頭を上げる。そして、同じような驚きの声をあげた。 エルワースは、笑い声をあげた。自分が、まだ笑えるということ 狭かった谷間が、広くなり、そこには見たこともない建造物が並 に、驚いた。ムザクのところにたどりついたとき、岩犬たちの姿が んでいたのだ。鈍い灰色と銀色の建造物の幾つかは、崩れ落ち、 骨格だけになっていた。だが、多くは、まだ堂々とそびえ立ってい岩の影から現われた。 る。その高さは、ほとんど両脇の崖の高さに匹敵すると思えた。数「ムザク ! 」 エルワースは、眠っているように見えるムザクの肩をゆすった 9 十メートルは、ある。 「禁じられた都だわ」 ムザクの目が開いた。エルワースとイレンの顏を見上げる。 イレンが、おそれに満ちた声でつぶやいた。まるで、大きな声を「急げ、奴らが追ってくる」 出すことさえ、禁じられているかのようだった。ニルワースも、薄「奴ら ? 」 れかかった記憶をまさぐり、どこかで、そのような都市のことを聞「岩大どもさ ! 」 「ああ、奴らか」 いたことがあったのを思い出していた。それは一つではなく、幾つ ー 45
ジギーは、しばらくの間、目をふせていたが、やがてビリーの顔 ジムは足早に事務所を出てゆきながら言った。 「ホモの件は訂正しておくぜ、だんな。まったくいい傾向だよ」 を見た。 「ばかみたいだと思うでしょ ? ほんとだよね。でも、あたし、、あ んたにはほんとのあたしのからだを抱いてほしいと思うもの」 ジギーは陽気だった。 彼女はよく飲み、よく食べ、よく歌った。 .. 彼女に完全な身体があ冗談めかして言ったが、語尾がふるえた。彼女のつくり笑いが、 るわけではないのだが。 不自然にロのまわりにへばりついている。 彼女は、プライスンの店のかた隅に置いてある受像器を中心とす・ヒリ 1 は、ジギーの髪の毛をつかんでひきよせた。手ざわりはま る半径二〇メートルほどの空間に、ひっかかっているにすぎないのだまだ稀薄だったが、問題ではなかった。ビリーは彼女の頭を自分 の胸におしつけて言った。 である。 「つまらねえことを考えるな。お前は十分セクシーさ。お前にくら ジギーは、実体のない存在である。彼女はあるまとまりのあるパ ルスであって、普段は地上に達することなく宇宙空間をさまよってべりや、他の女なんて、丸太棒のようなもんだぜ」 もっとうまいことを言いたかったが、ビリーには思いっかなかっ いるが、季節的に上空の複雑な高情報層が乱れ、切れ目ができると た。そのかわりに彼は、ジギーの髪と額にいやというほどキスをし そこを通って地上へ届くのである。ジギーはいつも、砂漠にエント ロビー風が吹きあれる少し前に、受像機のコイルの両端に電位を生た。 じさせるのだ。しかし、この受像機なるものが、いっから・フライス ンの店に置いてあったのかは誰も知らない。親爺も、はるか昔のこ潜水服が二人、カードのやりとりをしている。 「先生、どうかね ? 」 とのような気がする、確かな記憶はないと言うだけである。 ・ハットは自分の手を伏せてきいた。 とにかくジギ 1 は、店の看板として、はるか昔から客の膝に坐っ 「どっちかね ? わしのカードがか ? それともきみの具合がか ていたのだ。 「ビリー、 あたしこのごろここにいられる時間が少なくなったわね」 「先生の手の内を教えてもらえるとは思っちゃいねえよ」 「そうでもないさ。今言えることは、健康状態もカ】ドも、わしの 「何言ってる。おれが来るといつもいるじゃねえか」 方が少しは良いだろうということだ」 ジギーは顔だけで笑った。 「かなわないね」 していくの。怖いわ。切ないよ、ビリー ・ハットはロ髭を指の腹でしきりになでつけた。少なくとも、勝負 7 ビリーは何と一言ってよいかわからなかった。 なんてこった。おれの創 の方で負けがこんでいるのは事実だ。
それでも彼は一週間もちこたえた。 岡村は、恭兵の腕をとらんばかりにして、にじり寄ってきた。そ 八日目の朝、恭兵はいつもとちがう道を通って駅に向かった。ゴして彼の耳元に口を近づけ、下卑た声で、こうささやいた。 ミ収集車を待ちわびて、道にはみ出しているたくさんのポリ・ハケッ 「どんな気分でした ? 」 の中の一つに、素早くたまごを落としこなと、彼は足早にその場を「え : 立ち去った。もちろん、あたりに人影のないことを十分に確認した 恭兵は、初めて目の焦点を合わせて、岡村を見た。黒ぶち眼鏡の 上でのことだ。ところが、駅の改札を抜けようとしたとたんに、彼奥で、金壺眼が好奇心にギラギラ光っている。 はとても強いカで肩をつかまれたのである。 「気分って ? 何のことでしよう : 「おい、あんた ! 」 「とぼけないで下さいよ」 野太い声が恭兵の耳を打った。身のたけ二メートルもありそうな いっそう声を低くして岡村は言った。歯槽膿漏のロ臭がプンとに , 0 っこ 0 0 イユ / 大男が、左手に卵を持って彼を睨みつけていた。顔が怒りのために ゆがんでいる。 「産む時の気分ですよ。ーー産んだんでしよ、あなた」 「ひとんちのポリ・ハケツに、こんな物を捨てるたあ、一体どういう 了見なんた。ええッ」 まるで汚物を扱う時のような手つきで、たまごを恭兵の掌にたた 大声でわめき出したくなる衝動を抑えるのに、恭兵はありったけ きつけ、 の自制心を動員しなくてはならなかった。 なぜ ! なぜ知って 「今度、こんな真似しやがったら、ただじゃおかねえからな。よくる。なぜー 覚えとけ ! 」 「な、何のお話か、わ、私にはさつばり : : : 」 憤然として叫び、のつしのつしと引き返して行った。 「そのたまごですよ。あなたが生んだんでしょ ? 恭兵はのろのろとたまごを脇の下にはさみこみ、改札を通った。 目がうつろだった。 「何を馬鹿な」 ホームに・ほんやりと・佇んで、三本目か四本目の電車を見逃した 笑おうとした。 時、誰かが彼に話しかけてきた。 無駄だった。 「和泉さん。もし。和泉の旦那」 「馬鹿とは何だ、鹿とは ! 」 「ああ、お向かいの : 、岡村さんのご主人」 岡村が突然、怒鳴り始めた。 恭兵は、なんとなくうなずいた。 「たまごなんか産みやがったくせに、そういう、大きな口叩いてい 「お早ようございます」 いと思ってんのか。はっきり言ってみろよ。え ? どんな気がした ちがいますか 8 6