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検索対象: SFマガジン 1981年9月号
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1. SFマガジン 1981年9月号

くわごん といって、少しも過言ではない。 では、そのやうに少年科学小説は不振であっていゝ のであらうか。 さよう かたしん 無論、断じて左様ではないと、、作者は堅く信するもので か - つりゆ . ら - けふりよくま ある。近代国家の興隆は、あらゆる部門に科学の協力を保 おと もちろんへいじ せんじ たねばならぬ。科学力の劣る国家は、戦時は勿論平時に於 もまや らくごしゃ ても必ず世界の落伍者とならねばならぬことは、最早改め て申すまでもないことであらう。そのやうに国民の科学力 たいせつ が大切であり、たしかに必要であることはよくわかってゐ ても、なお垣を一つ隔てた別世界を見るやうに何か取りつ きにくい感じを持ってゐる人が、決して尠くはないのであ くわがくちしき わづ る。その、取りつきにくい科学知識を、たとへ僅かづつで ぎようみ はあっても、どうしたならば平易に、しかも興味をもって 0 自分のものとすることが出来るであらうか それには けいしぎ 先づ、親しみやすく書かれた『科学小説』の形式が第一の くわ ものではなからうか。そしてこの故に、あらゆる方面の科 がくせうせつ ねが 学小説が、盛んとなることを希ふものである。 きそうてんぐわい たゞ、こ人で一つ特に触れて置きたいのは、奇想天外と した だん べっせかい すくな ふしん 「太陽の島」 けん いふことについてゞある。科学小説には、一見奇想天外な くわせい ことが、しば / \ 出て来るのである。例へば火星へ行った 0 かたて るゐ 話だとか、ビルディングを片手で動かした話、などの類で かくうむけい まゆしか あって、これが一部の方々には、架空無稽として眉を顰め いはゆる させるものだといふことである。つまり所謂科学小説なる くうさうものがたり でたらめ ねごと ものは馬鹿々々しい空想物語であり、出鱈目な寝言みたい なものであって、殊に少年の読物に左様なものを与へると たいへん いうことは大変な間違ひである といふ見方なのであ ぎやく しか る。しかし、これは逆に眉を顰めなくてはならぬ。 きそうてんぐわい 一言でいへば、これは奇想天外の『けじめ』がっかぬか はんだん ら、つまり自分には判断がっかぬから、といふたけで、た ヾわけもなく眼を覆ってゐるのではあるまいか。例へてい ったビルディングを片手で動かすことも『槓杆の理』によ れば、却って動かぬといふことの方が有り得ない。又、地 きう しんくうよこ 球と火星との間には真空が横たはってゐるのだから、。フ かくうむけい ペラーを使ふ飛行機で行くとすればこれは架空無稽ではあ のう しんくうじようたい らうが、しかしロケットを使へば却って真空状態の方が能 率がよいことも、これ亦よくわかってゐるではないか。 ”てらと 人間が空を飛ふーーなんといふ奇想天外であらうか。し ふしぎ かし現在は飛行機があって、誰しも一向に不思議とは思は ばんりいきゃう 居ながらにして萬里異境の声を聴くことが出来るー ーこの驚くべぎ奇想天外も、ラヂオのある今日のわれわれ けいけん は、平気で日常に経験してゐることなのである。たゞこれ はんせいきぜん きさうてんぐわい こ、こ取り入れたなら らの奇想天外を、たった半世紀前冫月説 ば、果してなんといはれたであらうか。 科学はすばらしいスビードで進歩してゐるのだ。昨日は かくうむけい もはやじゃうしき 架空無稽といはれたことも、今日は最早常識とまでなって ゐるのである。 りつ くわせい おどら おほ

2. SFマガジン 1981年9月号

す。 「ねえ、本当に : : こ 「あなた ? 何やってるの ? 遅れちゃうわよオ」 「なんでもないったら。ちょっと立ちくらみがしただけだ」 良子の声で、初めて気がついたように、左手首の腕時計を見る。 なるほど、いつもならとうに出かけている時間だった。しかし「そーお ? 」 ひどく疑り深そうな声が、靴べらを使っている彼の背後から追い ついてきたが、恭兵はあえてそれを無視して、立ちあがった。 恭兵は、蹌踉とした足どりで、トイレを出た。 「どうしたの、顔が真っ青よ。気分でも悪いんじゃない ? 」 ドアの外に、心配顔をして立っていた良子が、不安気な声を出「気をつけてね」 「わかってる」 逃げるようにして家を出て、足早に坂道をおり、横丁の角を曲が ったところで、急に恭兵は立ち止まった。ポケットの上から手をあ 「でも、ほら。ひどい汗 : : : 。あらッ ? 」 てて、卵の丸みを確認すると、恭兵は、私鉄駅への道を、それまで 不意に声の調子を変えて、良子は恭兵の右手をのそきこんだ。 とはうって変った、ひどく / ロノロとした足どりで、たどり始め 「ねえ、そっちの手、何持ってらっしやるの ? 」 そう説かれて、恭兵はなぜかしら、ひどくドキマギした。別に何た。 も後ろ暗いところはない筈なのに ( それとも、男がたまごを産むと いう事は、後ろ暗いことの範疇に人るのだろうか ? ) 、まるで、マ スターベーションの現場を見られた中学生のように狼狽したのであ る。 その日の午後、恭兵は練馬区のはずれで小さなデザイン工房をや 、や。な、なんでもない。なんでもない「たら ! 大丈夫たってる、一つ年上のいとこを訪ねていた。会社の前まで行くことは とうしても今日はそんな気になれず、結局、公衆電 行ったのだが、。 よ。本当になんでもないんだから」 舌で適当なことを言って、休んでしまったのである。 声高にわめきながら、たまごを妻の目から背中で隠すようにし言 。フレハプア。 ( ートの鉄製の階段をあがった、とつつきのドに て、恭兵は寝室にかけこんだ。ドアを閉めて大急ぎで服を着替え 〈でざいん工房・ S ( arSh 一 P 〉というプラスチック板。その下に小 る。タンスの引き出しからハンカチをもう一枚取り出して、たまご を丁寧に包み、スーツのポケ〉トに落としこむ。そして、書類鞄をさく和泉俊一の名札が、細い鎖でぶら下げてある。 つかむと、まだ何か言いたそうにしている良子の脇を、目をそらし「よお、珍らしいことがあるもんだな。さあ、あが「てくれ、 いとこの俊一は、ヒゲ面を笑いでくしやくしやにしながら、仕事 9 ながらすり抜けた。 机から立ちあがって来た。片手にエア・フラシを握っている。美大の 「行ってくるよ」

3. SFマガジン 1981年9月号

だ、そのことでお前を困らすような事はなかったろう。それに、相ー二つに割れて。 手がどんな男でも、そいつは絶対にたまごなんか暖めたりはしな恭兵は四つんばいで、たまごに近づいた。どうしようもないほど 9 い、まっとうな人間だろう。俺とちがって : : : 。痛み出した古傷を震える手で、そっと二つの殻を、掌にひろいあげる。アイボリーホ おさえるようにして、恭兵は右手の中のものを、ぎゅっと握りしめワイトの殻は、驚くほど軽く、うすく、今にも崩れてしまいそうな ほど、もろく見えた。 その晩、久しぶりに恭兵は荒れた。 恭兵自身が書いたことだ。茶摘み極楽鳥は九九九日目にたまごか 永久に孵ることのない石の卵を抱いて、酔生夢死、流浪の人生をら孵化すゑと。 送る。それもひとつの幸せだ。恭兵は自分にそう言いきかせなが彼は血走った目をあげて、鉄格子ごしに空をふりあおいだ。 ら、わけのわからない酒をあおった。そして、道端のポリ・ハケツの青空には一片の雲さえ浮かんでいなかった。 上に、危なっかしく立ちあがると、目の前を流れて行く酔客の群れその瞬間、 ーーー恭兵の理性のたがが、完全にふっ飛んだ。 に向かって演説を始めた。 「うあおおおおおおおおおおおお : ・ 「諸君 ! 酔っぱらい紳士諸君 ! 聞きたまえ。小生がここに所持大きく開かれた恭兵の口から、けだものじみた絶叫がほとばしり いたしておるところの、このたまご。このたまごは、実は ! 何を出た。 かくそう、あの、幻の鳥、見た者に幸福がおとずれると言われておその声は、白々とした留置所の廊下に、長くいつまでも響き続け る、伝説上の鳥、茶摘み極楽鳥のたまごなんであります。なぜ、か の鳥が茶摘み極楽鳥と呼ばれておるのかと申しますとオ : 人垣をかきわけて二人の警官がこちらにやって来るのを、もうろ うとした目で見つめながら、恭兵はなおも大声をはりあげ続けた。 今でも新宿に行けば、両の掌にたまごの殻を捧げ持ち、うす笑い を浮かべて歩いている、おかしな浮浪者を見かけることができる。 朝日がトラ箱の床に、くつきりと鉄格子模様の影をおとすころ、通行人は、彼の捧げ持ったまごの殻に、一様に不思議そうな視線を 金の鈴をころがすような物音で、恭兵は目をさました。こめかみの送るが、すぐに興味をなくしたように目をそらし、足早にその場を ただの気違いか。とつぶやきながら。 あたりがズキズキしている。彼は顔をしかめて起きあがった。そし立ち去ってしまう。 て、脇の下が妙に空虚なことに気付いて愕然となった。 恭兵が、今、どれほど幸せかに思い至る者は一人もいなかった。 はっとして床の上を見回した恭兵の目が、さらに大きく、まなし彼の目には、今もはっきりと見えるのだ。真っ青な空に舞い踊 りもさけんばかりに大きく見開かれた。 る、彼の茶摘み極楽鳥の姿が、はっきりと見えるのだ。金色の冠毛 小さな四角い陽だまり。その中に、たまごはころがっていた。 をなびかせ、七色に輝く尾羽を空中に長く長くひきながら : ・

4. SFマガジン 1981年9月号

た。小さいのを選んだのは、恐怖からと言うよりむしろ美的理由かると胎児の手足のように折りまげた , ーーベンチのように細いーー四 らです。 肢があたくしの体の中へ入っていくのが見えました。不意に、それ いままさにわれとわが身にナイフを突きたてようとしているわたがそれではなく別のものだということを理解いたしました。やはり しの姿が鏡に映っておりました。それは細部の最後のひとつまで、それもあたくし自身だったのです。だから、庭の小径のしめった砂 統一された様式を保っている劇的なまでに完璧な光景でしたーーー天の上を歩いたとき、あんなに深く足跡がついたのです。だから、あ 蓋つきの広い寝台、二列に並んだ蝋燭、手にもった金属の輝き、蒼のかたが不意に部屋へ入っておいでになったとき、あたくしはこん 白な顔ーーー体は死ぬほど怯えきっていましたし、膝は萎えそうでしなに強いのだ、こんなに強いのがあたくしだと、繰り返していたの たが、メスを持った手だけはしゃんとしていて微動だにしませんでです。 うつかりしていたので ドアに鍵がかかっていませんでした した。強く押しても屈しない卵形の抵抗物がいちばんはっきりわか る、胸骨のすぐ下のところへ、深々とメスを突きたてますと、一瞬す。あのかたは愛人と密通するときのように忍びこんでこられまし 痛みを感じましたが、それはただそう思っただけで、傷口から流れた。言いわけと盾の代わりに、赤いスラの大きな花東を差しだしな 出た血はたった一滴でした。肉屋のような技を見せることはできまがら。あたくしが恐怖の叫び声をあげて振り返りましたから、あの かたはご覧になりましたーーーでもおわかりになりませんでした、理 せんでしたから、ゆっくりと解剖学的な慎重さでもって、歯をくい しばりしつかりと目を閉じて、ほとんどおなかのところまでまつぶ解されませんでした、できなかったのです。あたくしが両手で銀色 たつに切り開きました。とてもそれを見るだけの気力はありませんの卵を体の中へ押し戻そうとしましたのは、驚いたからではありま でしたが、まだ立っておりました。でももう震えてはいませんでしせん。息がとまるほど恥かしかったからです。でもあまりにも大き た。ただ、体は氷のように冷えきっていました。耳ざわりなまるですぎましたから、さらに切り裂いてようやく押しこみました。 あのかたの表情、声にならない悲鳴。そして逃げだされました。 喘息の発作を起したような息遣いが、どこかほかのところから聞こ えてくるみたいに部屋中に満ちていました。切り裂かれた白い外皮どうかこんなことを告白するのをお許しください。あのかたはあた がめくれ、銀色に光るなかば体に埋まったものが鏡に映っておりまくしの許しを得ることも、招かれることも期待できなかったもので した。それはあたくしの体内に隠されていた胎児が、血のでない。ヒすから、花を持って訪ねてこられたのです。ところが家にはだれも ンク色をした肉がふたつに裂けたひだにつつまれているようでしおりませんでした。あたくしがしようとしたことをだれにも邪魔さ 非のうれたくありませんでしたから、召使いたちを全部外出させてしまっ た。こんな姿を見るとは、なんて恐ろしいことでしようー ちどころがないみごとな銀色の表面にどうしても触れることができたからですーーほかに方法がありませんでした。おそらく最初の疑 ませんでした。小さな柩のような楕円形をしたものが、縮んだ蝋燭惑は、あのかたのお心にもすでに芽生えていたと思います。前日、 の炎を映して輝いておりました。あたくしは身動きをしました。す干上った河床を二人で渡ったときのことを思いだしました。そのと 239

5. SFマガジン 1981年9月号

恭兵は、ぎゅっと目を閉じて天を仰ぎ、だるまさんがころんだ、彼がひり出したところのそのたまごをつまみあげた。 だるまさんがころんだ、だるまさんがころんだと十回となえた。 しげしげと観察する。 おそるおそる目を開き、下まぶたのまっ毛ごしに、チラッとそれ確かにたまごだった。いや、たまごのように見えた。色を白と見 を盗み見る。そして、その白っぽい丸みをおびた姿の片鱗が、ほん たのは誤りで、むしろうすい象牙色、アイボリーホワイトというや のちょ 0 と目に入 0 たとたんに、まるで電撃でもくら 0 たような調つだった。本物のたまごは、殻の表面がザラザラしているものだ 子で、あわてて視線をそらし、さらにロの中で、だるまさんがころ が、こっちはまるで磨きあげたようにツルツルしている。それが出 んだを二十回くり返した。 し てきた場所を考えれば、馬鹿に身ぎれいなシロモノだった。 こんなことはありえない。絶対ありえない。何かのまちがい かし、よくこんなでかいものが、何事もなく通ったもんたな。 だ。目の錯覚だ。誰かのイタズラた。そうだ、ユキのやつが俺をび 恭兵は、まずそれを鼻に近づけて嗅いでみた。 つくりさせようと思「て、こ「そり入れておいたにちがいない。あ「うっぷ ! 」 はは。そうとも。あはははは。そうに決まった。あははは、は。 やはり、それ相応の匂いはしてる。水を流して、丁寧に洗ってか だ、第一、人間が : ら、も一度嗅いでみる。今度はどうやら大丈夫らしい 恭兵はゴクリと唾を呑みこみ、顔を引きつらせながら、思いきっ 次に、爪の先で軽く弾いてみた。 固い音だ。 てその単語を口にした。 窓にすかしてみる。ーーー何も見えない。 : た、たまごを、産める筈が、な、ないない、ないしゃないか「ふうむ」 恭兵は、狭いトイレの中で、すっかり考えこんでしまった。実 しかし、その言葉は、陶器の中でつやつやと光っている、純白の際、考えなければならないことが沢山あった。ありすぎた。その物 たまごを前にしては、ひどく弱々しい響きしか持ちえなかった。恭体の正体をはじめとして、どうして糞 ( 失礼 ) のかわりに、こんな 兵自身にも、わかっていたことだ。彼が入った時、そんなものは、 ものが排泄されたのか。全体、人間の体内でこんなものが合成され どこにもなかった。そして、彼が何らかの物体を、した、という事うるものなのか。昨日、悪いものを食べた覚えはないし、第一、ど 実。さらに、それにもかかわらず、彼がした筈の物体、つまり恭丘 ( んなものを食べたら、その翌朝、たまごが産めるようになるって言 がしたと思いこんでいた物体が、その小さな部屋のどこにも見うけうんだ ? 食いあわせか ? 冗談じゃない。 られないとなれば、以上の事柄から導き出される結論は一つしかな 掌にのせたたまごを、じっと見おろしながら佇んでいると、解答 かった。つまり : 不能の疑問の大群で、目が回りそうだった。恭兵は軽いめまいを感 恭兵は勇を鼓して、ふるえる指で、うすいビンクの陶器の中で水じて、壁に片手をついて体を支えた。 につかっている、鶏卵をひとまわり大きくしたくらいの、そして、 その時、ドアにノックの音がした。 8 7

6. SFマガジン 1981年9月号

前回、うつかりひとこと、次はペンフォード だといったばかりに、あっちでもこっちでも 〃『タイムスケー・フ』については大野版スキャ ナーを参照のことみと書かれて、身動きとれな くなってしまった。みんなずるいんだよね。。、 ス、 ・ハスって感じで。まあ、なにしろこの『タ イムスケープ』は前評判がものすごく、それど ころかとうとうネビュラ賞を受賞してしまっ た。おまけにテーマは″科学と科学者″だし、 宇宙船は出てこないし、女性は出てくるけど 〃幼い少女第は活躍しないし、そのうえハード カ・ハーで四百十二ページもある。いずれ訳され るかも知れない : しかしまあ、くじけないでがんばりましょ う。なんといっても、『タイムスケー・フ』は評 判作なのだから、これを紹介するのはスキャナ ーの使命でもあるのだ ! といいつつも、紹介に入る前にちょっと 脱線してしまうのです。本誌の世界情報を 書いている島田武クンが「何やけったいなレコ ードがありましたよ」と見せてくれたのが、ラ ルフ・ルンドステンというスウェーデン人ひき いる〃アンドロメダ・オールスターズ ( ! ) なる・ハンドの、『アルフア・ラルフア大通り」 ( い ) 。知っている人は知っている、知らない人 はもちろん知らん、あのコードウェイナー・ス ミスの代表作の一つ ( 中には最高傑作だという 人もいる ) 、かって浅倉久志氏の名訳で「海」 に載った″幻の名作みをフューチャーしたアル ・ハムなのだ。 何となく日本のマンガを思わす、どこかで見 遂に評判の『タイムスケーオを紹介する ! S F S CA N N E R 大野万紀 たようなジャケットで、ぼくのイメージにある 0 ″アルフア・ラルフア大通りをとは大分違うけ 8 れど、それはまあいし ジャケット裏にある ″コードウェイナー・スミスの短篇よりの一 言で充分。他にもいろいろ書いてあるけれど、 実はスウェーデン語なので、全然わからない。 ところで、その中身だけれど、これはまあ聞 く前から予想できたし、実際その通りだった。 これは北欧へのぼくの偏見かも知れないけれ ど、″何となくクリスタル″なんだよね。要す るにひと昔前の〃プログレ第風な、シンセサイ ザーのワンパターンな使い方で、悪いとはいわ ないけれど何度も聞こうという気はしない。で もかまわないのだ。コードウェイナー・スミス の、それも「アルフア・ラルフア大通り」をア ルバム・タイトルにしたロック・ンドがあっ た、ということだけで満足なのだ。 このルンドステンという人、実は全然知らな かったのだが、他にもっ・ほいレコードをた くさん出しているらしい。ジャケット画も ( ど こかで見たようなものばかりだが ) 、なかなか それつばい雰囲気のものが多くて、なるほどこ いつはファンだなあ、と思わせる。ただ、 絵とタイトルを見ただけで、中身の音も想像が ついてしまうところが ( 一枚しか聞いてないの によく言うよ ! ) ちょっと″修業が足りんと 思ってしまうところなのであります。英語タイ トルのつけ方のイモつぼさも大したもので ( 例 えば "Spaceflower Dance ・ ) とか "Happy Earthday" "Computerful Love ・ ) そして "Horrorscope") 別にパロディじゃないと思う のだけれど、この感覚には笑ってしまうのだ。

7. SFマガジン 1981年9月号

氏 いつもそういう質問ばかりだ。問題は個々 じめはあのアンソロジーにのせる短篇のつ の作品だよ。ポ。フ・デイランには好きなの 5 もりで書きだしたんだ。それが長篇になっ てしまった。ハ 黒が多いね。 ーラン自身、『危険なヴィ ・ウ 黒丸『バッグ・ジャック ジョン』を編んでいたころは、ニュ は、・フ・デイランがたくさん引用されて エー・フなんて知らなかった。とにかくイギ リスのニュ いますね。 ・ウェープは別物だよ。 スピンラッドうん、あのころのボ・フ・デ ランはタ・フーの打破を目的としていたが、 イランは最高たった。それから「大閃光」 イギリスのニュ ・ウェープは文体のほう が中心だ 0 たからね。その意味では、当時 "The Big FIash" という短篇を書いたこ はそれそれ別々の動きだったんだ。もちろ・、 とがある。核爆弾を崇拝するロック・グル ー。フの話た。そのあとで『火炎をぬけて』 ん、『危険なヴィジョン』が出版されるこ ろには両者はいっしよくたになっていた Passing T 守ミミミ ( 一九七五 ) とい う長篇も書いている。これはアメリカ以外 が、あの本の企画は一九六五年、小説が集ヴェトナム戦争での体験なんかもヒントに どこでも出版されていない本で、中身は映 まったのが六六年、出版が六七年、つまりなっているわけですか ? 画とロックとドラッグのことばかりさ。そ スピンラッドいや、ぼくはヴェトナムに 三年がかりだということは知っておいたほ のころはロサンジェルスにいて、 >-Äフリ 、つ - 、カーし . し ・ウェー・フに本格的に関は行かなかった。あのすばらしい戦争は、 ・。フレス紙に勤めていてね。政治コラム わりあうようになったのは、 1 ハッグ・ジ残念ながら体験しそこなってしまった。あ ハロン』からだね。 のころはサンフランシスコのヘイト日アシや映画評なんかを書いていた。ロックの批 黒丸すると偶然ですか ? 『危険なヴィジ 評はやったことがないけれど、この新聞に ュべリ地区に住んでいたんだ。そのあたり はロック評論家やミュージシャンがたくさ ョン』が逆にイギリス作家に影響を与えた も何かからんでいるかもしれない。 というようなことは ? ・ んたむろしていたから、いろいろと付合い 黒丸ロックが好きだというのも、ヘイト スピンラッド要するに、あのころはみん 日アシュべリに住んだ理由としてありますはあったよ。しかし聞くだけで、自分でや なが同じようなものに影響されていたん か ? 〈ドアーズ〉がお好きだと聞いたけったことはないね。 伊藤『火炎をぬけて』は持っていないん だ。世界の状況とか、音楽の状況とか、政ど。 治の状況なんかにね。みんなが周囲の世界スピンラッド 〈ドアーズ〉は大好きだですが、大作だそうですね。 よ。 のできごとに影響されたんだ。それが スピンラッドほかの長篇の二倍の長さは 界にも起こったわけさ。 あるかな。いわゆる現代ハリウッド小説と 黒丸ほかには ? いうやつで、レコード産業と映画産業とア 伊藤すると『ジャングルの男たち』は、 スピンラッドそれは答えがむずかしい、 ヾ、、、 0

8. SFマガジン 1981年9月号

なでてくれと催促するように頭をぼくの手にこすりつけた。 「イヴ、あんたがもし適応しつづけていたいのなら、さっさとお帰 「すべての暗黒はまだきみの魂に宿っていないのだ」 り、そしてもう二度とここへ来ないことよ。でもあんたが不適応の 4 哲学犬は重々しく云った。・ほくは機械的にそのふわふわする毛皮キャンデイだの、反社会のお茶だのをおいしく思うんなら、いっ来 ヴァー・コ をなでながら、ふしぎでならなかった。 たっていいわ。あんたはエ ーリアンの目をしてる子どもだもの。よ 「だってかれらは契約してないと云ったでしよう。性ホルモンなしかったら泊まっていったっていいのよ」 でどうして行為することができるの ? 登録しないでどうして二人「泊まる ? 」 ぼくは全身に悪寒を感じ、激しく首をふった。そして壁にうきで でいられるの ? しかも契約者ュニットに通うんでなくて、この家 にずっといるの ? 朝から晩まで ? かれらにはプライヴェート・ ている時計を見あげ、もう十九時になっているのをみてすっかりび つくりした。 ライフというものがないの ? 」 「帰るの ? 」 「かれらは私生活を共有している」 レダがものうげに云う。彼女は、アウラの手をつかんで唇にもっ 「個人生活は共有できない最後のものだよ ! 」 デイソーグー て来、そのしつかりして白い美しい指を一本づつ、キャンディをか 「なぜなら、かれらは紊乱者だからね」 おもしろそうに、しかしその問題はこれで打切りだと宣告するよじるように歯をたてていた。 「うん。でも、また来るよ」 うにファンが云った。 「友達たものね」 「でもーー」 「少年、かれらを見ていてすてきだと思うんだろう ? かれらはた面倒くさそうにレダは答えた。銀色の目は、なにか、かすみがか だ見ているだけで、なにかをメッセ 1 ジしてくるだろう ? 」 かったようにうるみ、くちびるは濡れて輝き、レダは何かぼくの知 らぬ、あやしい情動が身内で起こってくるのをじっときいているよ 「ええ、・ほくはそう思ったけど、でもーー」 うたった。アウラが黒くゆたかな髪をうしろへ振りやり、指をレダ 「かれらのような二人を見たことがないだろう」 デイソーー 「ええ、でもそれは紊乱者だからーー」 のほそい顎にかけてもちあげ、小さくびらいて短い息づかいを洩ら ・ほくはちょっと考え、そして首をふった。 しているオレンジ色のくちびるにその真紅のふつくらしたくちびる 「アウラもなの ? 」 をゆっくりと近づけていくところだった。 デイソーダー 「アウラも紊乱者だ。ただし本質は必ずしもそうではないのだとわ アウラのもう一方の手が、レダの長衣のあわせめをはがしてい たしは思う。レダは生まれながらの背徳者だけれどね」 く。レダはアウラの肩に両手をかけ、うっとりと目をとじ、アウラ の見事に隆起した胸のあいだに頭をもたせかける。 「そうよ、わたし、反社会的なことはなんでも大好きよ」 レダがアウラにびったり寄り添って云った。 「ポーイ」 ートナー

9. SFマガジン 1981年9月号

飛んでいるとは思えない。零はトマホークをうながし、・ ( ンシーの 「なにも起こりはしませんよ。これだけ巨大なシステムになると、 。フリッジへ行く。エレベータは使わない。 鉄の階段をけのぼる音クオリティ・「ントロールはおそろしく複雜で難しい。万全を期し 3 がやけに大きくひびく。 て造ったシステムでも、欠陥が絶対にないとは残念ながら言えない ・フリ , ジは明るい。外が見える。全電子機器が作動している。人んです。それを十兆分の一にはできても、ゼロにはできない。多分 がいないのが不気味だ。 この艦は、ジャムに攻撃を受けたときにたまたま欠陥部が表面に現 レーザー ・ = ンパス、航路ディスプレイ、航法レーダー・ディスわれたんたと思いますよ。いままでその欠陥がわかるような事態が 。フレイが作動している。まるで船そのものといった操舵輪が自動的起こらなかったたけじゃよ、 オしかな」 に修整動作をやっている。零は片手で舵輪をつかんだ。い うことを「五十分だ、トム。欠陥を見つけようとは思うな。情報を集めるだ きかない。オ ート・ホイール・コントロールを切る。切れない。舵けでいい。分析は帰ってからゆっくりとやろう。もし人間がいたら 輪は零を無視して動きつづける。 捕まえろ。身の危険を感じたら威嚇の必要はない、射殺しろ」 「 0—0 ( 戦闘情報室 ) へ行ってみよう」 トマホークは立ち止まると、心配するなというように手をあげ、 「ぼくはエビオニクス管制室に行きます」 うなずいてみせた。 「管理は厳重た。三重のプラスト・ドアで守られているんだろう」 「注意をおこたるなよ、トム。おれを射つなよな。おれはあんたの 「鍵を忘れたではここに来た意味がない。艦長とオフィサが持味方た。だけど時間に遅れたらおいてくそ」 デ・ハッグ ってるやつ。まかせておいて下さい。コンビ、ータの虫取りにし 「あなたはいい人だ。そんなことはしないでしよう。ブッカー少佐 てきます。ジャムたなんて考えすぎですよ、中尉」 があなたを信頼しているわけがわかったような気がする。零、あな トマホークは白い歯を見せて笑った。 たはいつまでもブーメラン戦士ではいられないだろう。氷の ( 「ビストルは持ってきたろうな」 はいっかは融ける」 ・フリッジを出る。 「あんたは予言もやるのかい ? 」 「精密機械のなかでぶつばなすわけにはいきません。もしジャムだ トマホークは零の肩をたたき、無言で狭い艦内通路を歩み去っ としてもコン。ヒ、ータルームではなにもできないでしよう。一番安 た。零は小柄なインディアンの姿が通路の角を曲がって見えなくな 全た。中尉は・ ( ンシーの航行を監視していて下さい。知らないあい るまで、マシンガンを下げて立ちつくしていた。 だに地上に激突、なんてのはごめんだ」 「わかった。 : しかし、なんとなく心配だ」 零はバンシーの戦闘情報室の管制席に腰を下ろし、ディス。フレイ 「プーメラン戦士らしくもないですね」 を見つめた。 「あんたを無事に連れもどす義務がある」 すべての電子装が無人のパンシーⅣを操っている。長距離索敵 ホイール

10. SFマガジン 1981年9月号

川。フロモーション ( 続 ) 対立する惑星マイダスとアレクサンドロスの二つの勢力間に位置 する惑星は、一段低い文明レベルにあり、文明圏からの接触はタ・フ ーとされていた。しかしこの惑星に敵が侵入したとの疑惑にかられ 三人の旅は、寄妙なものになった。ムザク、エルワース、イレン た両勢力は、それそれに調査隊を送りこむ。だが、着陸寸前にどち の中で、目的地のハイアまでの道筋を知っている者は、一人もいな らも謎の攻撃を受け、マイダス側は隊長ワイドル以下少数の調査隊 いのた。 員が、アレクサンドロス側にいたっては、記億を失った男がたった一 毎朝、太陽が昇ると、その位置から、イレンが、だいたいの方向 人生き残るばかりだった。マイダス側は、原住民の襲撃を受けて隊 長のワイドルを失いながらも、ヘダスという人物を求めて、土地の を決めて、三人は歩き出す。イレンは、自分がティクスの娘であ 娘モーネとともにレンケの街にたどりつく。だが、彼らが街へはい り、太陽と星による航海法を、幼い頃から教え込まれていたこと ってほどなく、狂暴なガイの軍勢がレンケの街に襲いかかる。街へ を、感謝した。実際、三日もいっしょに旅をした頃から、イレン はいった者のうちキリイとモーネはかろうじて脱出するが、負傷を は、二人の道連れが、思ったよりも楽しい男たちであることに気付 しているアシュロンと、彼の看護をするゲイルの二人はガイの手に 落ちた。一方、アレクサンドロスの男は、記憶を失ったままエルワ ースという男に出会ったが、部族抗争のさ中、殺されてしまう。し その楽しさを支えているのは、小柄なエルワースの方だったが、 かし、彼はなんと死からよみがえった。そしてまた、エルワースも 謎めいたムザクの方も、それなりにイレンの心をなごませてくれる 一度死に、そしてまたよみがえる。蘇生ののちムザクと呼ばれるよ 雰囲気を持っていた。少なくとも、キャラと船の上で育ってきたイ うになった男は、エルワースと旅に出、キャラの街でいったんはと レンのこれまでの十数年の中で、出会ったことのない男たちだっ らわれながらも街の有力者の娘イレンを人質に、ふたたび旅をはし めるのだった。 ことに、イレンは、二人の男が協同して獲物を狩るのを見るの が、好きだった。エルワースが勢子になって、鹿や草牛を狩りた底からおびえた。まるでムザクの身体の中に、外見とまったく異な て、草や茂みの影に身を潜めていたムザクが、あの白い棒で、逃げるものがあり、それが突如として姿を露わにしたように思えたから てきた獲物を叩き殺すのだ。まるで白い棒が、殺す魔力を持ってい るかのようだった。だが、イレンは、それを確かめるのは、まさに そのときは、エルワースが、何とかムザクを押しとどめることが 生命がけになることを、身をもって知った。 できた。そのすぐ後で、エルワースが、イレンに言ったものた。 「いいか、イレン、あいつがああなったら、誰にも止められない。 それに手を触れようとしただけで、ほとんど穏やかと言っていし ムザクの表情が一変し、イレンに掴みかかってきたのだ。イレンどうしてああなるのか、おれにもわからないのだが、あの白い棒に は、自分では、勇気のある女だと思っていたが、そのときは、心の手を触れたり、取ろうとする者は、まず殺されることを覚悟しなき こ。