考え - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1982年11月号
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1. SFマガジン 1982年11月号

に見たものを黙殺してしまいそうになり、用意してきたせりふをい 断崖を縫うような狭い谷になっている。セラフはほぼ満月に近く、 、ス・グリム、ぼ その輝かしい青い光が、ふだんなら褐色の岩をきらめく石のカーテうのが、にわかに困難になった。「ターチャ くは、ええ、この : : : 計画について考えてきたんです。これがあな ンに変容させていた。スヴィルは、その頂を見るのに首を伸ばさな くてはならなかった。てつべんにはペイファスト海軍の砲台があたにとってーーーここのみんなにとって、重要だというのはわかって り、筒先がこちらに狙いをつけていた。タルレ艀は入港水路の半分います。しかし、ぼくは、ええ、ぼくは適任ではないと、その : 近い幅があった。 小さな光が艀から離れていくのに気がついて、ヘドリッグスの足ターチャはデスクからクリスタルのレター・カッターを持ちあげ どりは乱れた。あの女は、短い黒髪を兜のようにしているーーあのた。彼に満面の笑みを向けた。「早い話、あなたはやりたくないと 女はコロナーダス・アスキュアセ 1 ニヤに似ている。スヴィルはテ判断したわけね。旅の料金は支払う気があるけれど、この計画にい ラスの柵にかけよった。女は五十ャードあまり離れているし、こちのちを賭けるいわれはない。そう言いたいの ? 」 らを向いてもいない 「ええ、まあ」とスヴィルはほっとしながらいった。「ぼくの考え けれども彼にはそれがコルだという確信に 近いものがあった。膝の上に小さなスーツケースをのせている。どがわかってもらえて、よかった」 ・カッターを眺め、空中に うなっているのだろう ? 彼女の名を叫びながら、柵づたいに彼は ターチャは何もいわなかった。レター 走った。しかし、谷を吹きぬける風の音が強く、そして彼女はすで投げあげて、きらきら光りながら回転するそれを、板紙製の机に衝 に遠く離れてしまっていた。小舟は峡谷の湾曲にそってまわってい突する寸前にキャッチした。彼女の唇から奇妙なごろごろという音 き、見えなくなった。 がした。笑っているのだとスヴィルは気がついた。 結局のところ、コルではなかったのかもしれない。だが、古くか「まったく、スヴィル、あなたはわたしがこれまでに会ったいちば らの〈ファンタシー〉の標語が胸に浮かんだーーー「物事は見かけどん欺されやすい人間ね。もとい、二番目に欺されやすい人間よ。あ おりのものではない」 なたは田舎っぺえのとっちゃん坊やよ、そんなあなたが、人をだま 役員用のデッキに着く頃には、気分もかなりおさまっていた。タして、群島から離れたことがあるなどと思わせることができると、 ーチャの秘書の一人と顔を合わせると、サイエンス・エデイターのどうして思ったのか、わたしには想像もっかないわ。わたしには、 オフィスに案内された。 あのドーフォックスが必要なの。クリルサークでわたしたちが出会 グリムはスヴィルがデスクに歩み寄るとかすかに微笑した。「坐ったのは偶然だと、本気で信じていたの ? わたしはあの動物を長 ってよ、スヴィル。打ちあわせを始める準備ができたの ? 」 いこと研究しているのよ。あなたを殺させれば、きっとわたしがア ンチョの新しい主人になれるはずよ。わたしがそんな方向に行かな 3 へドリッグスはすすめられた椅子にはつかなかった。デスクの前 に突っ立った。ターチャがそこにいるだけで、あやうく、この午後いのは、モラルの高潔さからにすぎないのよ」

2. SFマガジン 1982年11月号

ら、すぐ一切にストツ。フをかけようとしたことだろうが、今度もこというのも、ただ、それが現に目の前で展開されているから認める の妖精の国のような光景が私の心にひき起こしたものは、ただ信じだけだということにも気がついてはいた。もし、この眺めのことを 8 ・、だい驚異であり、異様な昻奮であり、そうして、ヨアナと不思議話に聞いたのだとしたら、もしほかのだれかが尋常でない光の噴水 な発光現象との間の理解を絶する結びつきから疎外され、隔絶されに変身した胡桃を見たというのだとしたら、もとより私はそんな話 を信じなかったことだろう。 ているというつらい感覚であった。 「どういうわけだったのかね ? 赤い蛙は何だったのかね」とコル 小さな実の数々からの輝線をはっきりと見せながら梢を高くそび えさせた巨大な噴水は、一瞬はげしい緊張に身を震わせ、ついで突ネアは今度はそう尋ねている。 私は石のようになったまま火の雨を見つめていた。ョアナは腰か 然曲線を描いて火花の房をョアナの掌に振りかけた。私は思わずあ っと叫んだ。光量の重みでヨアナがおしつぶされるのではないかとけの上で身をもだえ、一生懸命話そうとするが言葉が続かない。 思った。だが娘はびくともせずに光の激流を受けとめた。そうし「むずかしいの、言えないわ : : : わからないわ : : : どう言えばいし て、妙な言い方だがこのえも言われぬたそがれのような冷い煖炉のかわからない : 火影に映し出されたヨアナの顔には、恍惚とした笑みが浮かんでい 「聞いたとおりに言いなさい」とコルネアは気づかわしげにしん・ほ た。鼻はびくびくとうごめき、半ば開いた口元から洩れる息づかい う強くはげました。 「みんな一つなの : : : 草も、石も、人も : : : むこうには人はいない は奇妙に静かなあえぎのようだった。 の。木、木、大きな、大きな木 : : : 葉は赤くて、実の中に考えが入 「何と言ってるの ? 」とコルネアがささやく。 コルネアが″デート ″を待ち構えていたことに私は今ようやく気っているの、赤いからなの : : : 。緑の実には考えはないの、赤い実 がついた。ョアナはちょっと黙っていたが、それから、切れ切れにだけよ : : : 」 早ロでしゃべり出した。メッセージを受けながら急いでひとことず「どこたね、むこうって ? 」 っ伝えようとしているような具合だった。 「遠くの方、ずっと : : : 木が赤いところ。ずっと前から来たいと思 ・ : ああ、苦しい 「苦しい なぜだ ? 庭 : : : 全部荒された、殺っていたけれど、動かない、歩かない。たくさん、たくさんの考え された : : : 」 。そうしてようやく蛙が来て、そうして私たちがみんな駄目に 私は耳を疑った。とは言え、これは、今朝コルネアがたんぼぼのして : : : ああ、なんてつらいこと ! 」 話をョアナから聞こうとしていたのは遊びではなかったということ「蛙はどうやって来たんだね ? 」 のれつきとした証拠である。私にはまだ信じられなかったし、信じ「わからないわ、なずかしくて : : : 。赤い火の棒。だれにも止めら る気にもならなかったが、しかし、そもそもこの赤い光線のふさそれない : 蛙のためにたくさんの木が死んだ、たくさんの木が : のものが信じがたい光景なのであって、私がそれを受け入れている・ : 力を蛙にやるために。死んだと言ったけれど、私たちのところへ

3. SFマガジン 1982年11月号

したがって強気でゆくとすれば、すく 〇倍になっているから、インデックスは と なくとも『インデックス皿ー』 まあ三倍ぐらい需要があるのでは 極真流道に危機せまる " よりは多くはけると予定するべきであろ 甘い考えをもって部数をきめたところ、 やっと旧版なみーーという出足で蒼くな っこ 0 しかし、石原博士の弱気なことは定評 いつだったかもこのコラムで、″イン デックス類″の売れ行きが一五年前の昨年はそれに懲りて、旧版の二割ましがある。道を歩いていて猫の姿をみても 女房の陰にかくれるほどである。 ″黎明期″にくらべて逆におちこんでしていどに抑えて『インデックス礙 で、ぐうんと弱気を前面におし出し まったーー・、と嘆いたことがあったが、今ー网』を出したのだが、それもまた甘 ~ 回『図書解説総目録』を出版してみい考えで、フタをあけてみたらとても旧て、逆に旧版よりも少部数にしてしまっ た。もちろん昨年の『インデック て、その退潮ぶりを三たび思い知らされ版の部数にとどかず、再び蒼くなった。 ス皿ー网』の復刊よりも下である。 で、今回の『図書目録』・ いくらなんでもこれならなんとかなる 『図書目録』の場合には、十数年前の様 まさに決定的といっていいほどのダメ 1 ジをうけてしまったのだ。 子をふりかえってみても『インデだろうーー・、という最低の線をねらったの 」 0 ックス』よりは動きがよかったし、また 一昨年『インデックス 1 ー网』 嗚呼しかし : を復刊したときは、ファンの拡がりが一常識的に考えても、より一般性がある。 ・連載ェッセイ・ 石原博士の研究室④イ 桓星船で生まれた人のために・その 8 石原藤夫 宇宙兵プルースは正しかった ! イラストレーション宮武一貴 こ 0 ラボラトリー . 会叺ツを 6

4. SFマガジン 1982年11月号

いる。だれかカ ートソン ) が、夜学の女教師 ( クレア このアイデアにはドラマチックな可能性 興奮に目を輝か ・プルーム ) にすすめられて脳手術を受がある。非常な努力のすえ、知的な人間と ン せ、「『ロ】ズけ、正規の教育をすませたとたんに、彼女して成熟をとげたが、ふたたびそれを失う マリーの赤ちやを犯そうとする。はねつけられて、彼はヒ運命に直面する男ーーこの男には、だれも ん』をどうおッビーになり、ヘルス・エンジェルになるが共感するかもしれない。な・せなら、彼の : 身蘒ラ考えになりまが、まもなく本の世界にもどり、やがて = 物語は、わたしたちみんなが恐れている す ? 」とたずねンビューターのように頭の鋭い超天才にな人生の過程を、ス。ヒード・アツ。フしたもの り、彼と女教師は恋におちる。だが、悪賢だからだ。その物語は、わたしたちの意識 たら、さっさと逃げ出すことにしている。 ( 『ローズマリーの赤ちゃん』について、 い科学者たちが彼に知らさなかったことがある生命のうつろいやすさを表現した隠喩 なにか考えることがあると考えるとは ! ) ある。彼の天才は一時的なもので、いずれとなりえたかもしれない。そんなふうな突 そして、こんどは『まごころを君に』が、 はうすのろに戻らなければならないのだ。 っ込みをすれば、『まごころを君に』も、 常識や教育を突きぬけて原初のまぬけのハ 誠実な芸術作品のテーマとなりえたかもし れない。だが、おそらくそれでは、『マー ートをとらえる、あの原始的でお粗末なア ツ。ヒールを備えてやってきた。大学生たち テイ』から『摩天楼』にいたるお涙頂戴路 はイヨネスコやべケットやアルトーを勉強 線を踏襲した、この安つぼいファンタジ この『まごころを君に』が観客に与え したあげくーー『まごころを君に』に反応 るような、即時の満足は望めなかったろ する。自分の趣味が追いつけない教育を受 けた人たちは、意外に大ぜいいるらしい。 う。しかも、この『まごころを君に』は、 教育もあり、本も読むのに、彼らはそれで 大衆向ぎの標的まで提供してくれる。チャ を もこのヘドロをほしがるのだ。 ーが″科学者の世界″を、この世界の ろ たびたびアンソロジーに収録された短篇 こ病根に関するシリファントの田舎臭いエピ まグラムで叱責するのだーーー世界の病根は、 から、テレビドラマ、そして長篇小説と形「 ~ 物 を変えた『まごころを君に』は、しばしば どうやら科学者にあるらしい。きっとシリ ″クラシック〃と呼ばれる種類のーー・ー実 ファントは、その他大ぜいのハリウッド人 は、いじけた多年草でしかないのだが 種とおなじく、自分を芸術家と考えている 恐るべきアイデアを持っている。スターリ のにちがいない。彼も、監督のラルフ・ネ ング・シリファントが脚色したこの映画で ルソンも、商業意識を持ち合わせているだ は、精神薄弱の青年チャーリー ( クリフ・ けなのだが。 5

5. SFマガジン 1982年11月号

抜けているのに気がついていなかったのである。ターチャはクリッ そしてもう一度。さらにまた一回。 グの鉢の蓋をはずした。 アンチョはまもなく、どんなことでもやってみれば褒美が貰える 「見事な出来だったわ」と彼女はいった。「アンチョはあなたが前が、。まえにやったことを繰り返した場合には褒美が少なくなる、と を通っていく際に一人のこらず目を通していた。今度は別な力を出心得るようになった。そこで、毎回、新しい芸を披露しようと努め ドーフォックス すようにしてもらわなきゃならないわね、この子がわたしたちの求た。まもなく彼らはドーフォックス本来の対応 めているとおりのものをつくりだしてくれるまで」彼女はアンチョ の故郷の島ではとても役立っている本能的な対応の能力ーーを、ひ に葉を二枚たべさせた。小さな哺乳動物はしばし恍惚としてそれをとっ残らず引き出してしまった。肉食動物を追いはらったり、意識 むさぼった。食べ尽すと、もっと欲しがったが、タ 1 チャはすでにを鈍らせたりする力もある。また、昆虫をおびきよせて、警戒心を 容器の蓋を閉じていた。アンチョはよくやったが、もっと褒美を貰ゆるめさせるものもあった。 うためには、さらにいい実績を上げなくてはならないというわけだ アンチョはまた、文明世界に来てから教えられたわざもやってみ っこ 0 せた。ある回には、通路にいた乗組員全員が狂ったような笑いの発 スヴィルはドーフォックスを愛撫した。アンチョはゲームを楽し作を起こしてしまった。アスキュアセーニヤはアンチョが通ったあ んでいるようだった。「ねえ、ターチャ、アンチョはあの″ここに と十五分間、くすくす笑っていた。彼らが見たものはなんともおか はいないよ″のシグナルの点ではほんとに信頼できるよ。それに、 しなものだったのだが、なぜ可笑しいのかをターチャやスヴィルに 一度に大勢の人間に目を配ることもできる。もうこれ以上、手のこ説明することはできなかった。 んだものを求めずに、このへんで手を打っちやどうだい ? 」 そして、ターチャは作業を円滑に進めようと手を尽したのだが、 「それだけじゃだめなのよ、スヴィル。あなたたちはずっと本丸のこの営みは苦行になってきた。ことに船員たちはげんなりしてい 中枢まで行かなきゃならないのよ。ーー最も貴重な供物がおさめられた。アンチョは彼らの情緒をさんざんに痛めつけた。あるときに ている御金蔵まで。アンチョの″ここにはいないよ″があれば、あは、二十分間、笑い泣きをさせつづけた。ドーフォックスは浴びせ なたはおそらく衛兵の鍵を盗むことはできるでしよう。でも、数字られる注目のすべてに熱心に反応していたが、今では興味を失いは あわせ錠のかかっている扉があったらどうなるかしら ? 衛兵が無じめていた。 百回目にスヴィルが模擬通路を進みかけたときのことだった。彼 抵抗で見すごしてくれるというだけじゃだめなのよ。積極的に手を はこの船員たちがターチャに示す敬意と服従の大きさに驚いた。彼 かしてもらえないといけない。それに、〈ファンタシー〉のコレク ションは一万冊以上あるわ。少なくとも二トンにはなるでしよう。女は肩書きの示している以上に艀では権威があるにちがいない。彼 それを運び出すのにも手助けが必要になるわ」彼女はノートとペン女が低い、気持のいい声で考えを示すと、みんなが即座に実行する 2 を手にとった。「もう一度やってみましよう」 のである。これは、最もすぐれた人物はどんな組織でもトツ。フにま

6. SFマガジン 1982年11月号

来るためなの。でも私たちがみんな駄目にした : : : 」 「すっかり疲れたね、無理を言ったかな ? 」とコルネアが尋ねるの 「でも蛙は ? 蛙は何だったの ? 」 を聞きながら、私はヨアナを抱きあげた。 「蛙じゃなかったの、その棒だったの。棒のカ : : : 。みんなは考え「眠い」とヨアナは呟いて私の肩に頭をもたせた。 るの、赤い実が考える : : : 。棒は地面でちちこまって、まるまって ペッドへ抱いていくうちに眠ってしまったと思う。 。たくさんの木の力がみんなそこに入っていたの、赤いかたま「疲れ過ぎさせてはいかん」とコルネアはそのあとで私に言った。 りになって。考えのかたまり」 まるで私が疲れさせたみたいに。「あの子は手袋をもっているか な ? 」 「でも何のために ? なぜそれを送ってよこした ? 」 「知るためよ。それから私たちの方でも知るようにと : : : 。赤い木「手袋ですって ? 」 は考えるの。私たちも一緒に考えるようにと : : : 」 私は半信半疑でコルネアの顔を見た。だが、途方もないことばか 「むだじゃなかったそ ! そう言っておやり、むだじゃなかったり起こったあとで、また、今さら驚いていても始まらなかった。と と。私たちは赤い葉と実を調べよう。見つけよう。私たちも、みん にかく、私は頭のおかしい人に答える時のようなものやわらかな調 な一つだということがわかったし、いずれはこの地球の木を何本か子で返事をしていた。 赤くしよう、もしそうする必要があれば・ 一緒に考えるため「今は夏ですよ。夏に手袋がいりますか ? 」 だ。蛙は大事に守ってやろう。心配することはないぞ」 「そうだね」とコルネアはうなずいた。「じゃあ、あの右手をネッ 「調べて ! 見つけて ! 冬になると死んじゃうの。葉も実も落ちカチーフで包んでやれ、タオルでもいい、何でもいいから : ・ : ・わか るでしよう、そうして来年はまた緑の葉が出るでしよう、考えのなるかね、休ませなくちゃならん。元気になるようにな」 い緑の実がなるでしよう。力は消えるの、変るの : ここはむこ今度ばかりは呑みこめた。 うとちがうから : : : 」 「眠っている間でもたんぼぽが話しかけるというわけで 「こう言っておやり : : : 」とコルネアがまた言い始めた。けれども「わからんが。あるいは胡桃も、窓越しに : ・ : ・。今はヨアナは眠ら ョアナは腰掛の上にうずくまって、へとへとになって呟いた。 なくてはいかん」 「もうでぎないわ : : : 」 私はたんぼばが光を放っている部屋へ取って返した。だが例の光 反射的な動作で掌を返し、膝に当てた。それは本を閉じたような線は有機物を透過するのを思いだしたので、チョコレートのパック 感じだった。光の噴水はすっと引っこんだ。真紅の炎の柱は中空でのアルミホイルでヨアナの手を包んで、その上から紐で結わえた。 しばらく身を震わせ、痛々しい戦慄のうちに縮んで行った。そのあ土間へ出てみると、コルネアはまだいた。 とに胡桃の実がルビーのような残映を放っていた。 「きみはどういうことだと思うかね ? 」とコルネアは問いかけた コルネアと私は同時にヨアナを振り向いた。 が、それはどちらかと言えば自分の頭を整理するために、聞き手が

7. SFマガジン 1982年11月号

われが S F と分類する文学の大部分は育た ない。進歩の観念と同じく、進化論はまず 18 世紀後半のフランスで栄えた。それが 文学ではじめて重要な意味をもって描か れたのは、レティフ・ド・ラ・フ・ルトンヌ の進化論的ファンタジイん 4 d を 0 〃怩れ e ″立 ra ん第 4 だ 4 〃ん 0 襯 e 00 ( 1781 ) で、これはコント・デュ・ビュフォンの 丑 / 立 0 / 尾 4 ル ( 1749 ー 67 ) から一部 のアイデアを借り、寓話風に書かれてい る。 19 世紀初頭にはラマルクが『動物哲 学』 ~ ん los ん 00Z0g “ ( 1809 ) で、も っと精巧な進化論を展開し、適応という重 要な考えを導入した。これは、ダーウイン が『種の起源』 0 g 切ぉ ( 1859 ) でのべた自然淘汰説に道をひらくものであ る。いまでは、われわれは進化と言えばダ ーウインを連想し、さまざまな異端的理論 に、、ラマルク説″や、、新ラマルク説 / / とい うレッテルをはりがちなので見おとしやす いが、 19 世紀の大半にわたってラマルクの ほうが大きな影響力をもつ著述家であった し、フランスでは ( 神秘思想に傾いたアン リ・ベルグソンのちょっとした援護もあっ て ) 20 世紀にかなり入ってからも、その状 態は続いた。一方、イギリスでは、ダーウ インが実証主義者 T ・ H ・ハックスリーや 社会学者ハ ート・スペンサーらに支持 され、他のどの国よりも彼の理論が強く信 奉されるようになった。ドイツでは、ダー ウインはエルンスト・ヘッケルという、彼 の理論の明からさまな普及者に恵まれた。 しかし、アメリカには彼に比肩できる人材 は見出せない。そして、フランスでは進 化論思想についての強力な伝統がすでにあ り、ダーウインが即座に大きな衝撃を与え るということはなかった。こうした理由か Ⅱ れ、これは 20 世紀に人ってからもしばらく は、思想と強調点にかなりの多様性が見ら ら、フランスとイギリスの進化論的 S F に 続いた。 フランスの進化論的ファンタジイの伝統 を確立した最初の重要な作家は、な売 I ' ア襯・ ( 1872 ; 國ん″襯に 1887 ) や『此世 は如何にして終るか』前ん 4 アれ襯。 ( 1893 ー 4 ) を書いたカミーユ・フラマリオ ンと、 "Les xipéhuz ” ( 1887 ) 、 "La mort de la terre ” ( 191 のなど多くの先史時代を 扱ったファンタジイを書いた J ・ H ・ロニ ー兄の二人だが、両者とも明らかにラマル クの影響をうけている。ジュール・ヴェル ヌ唯一の進化論的ファンタジイ〃 ag ( 1N1 ) もまたラマルク説に拠って いる。、、エラン・ヴィタール〃すなわち、 生の躍動 ( ラマルクはこの観念を否定し た ) という考え方で進化の概念を神秘化し たベルグソンの場合は、特に彼の進化理論 というよりも、むしろその哲学思想全般が より大きい影響を与えたようである一一一べ ルグソンの時間理論は、一時彼の弟子であ ったアルフレッド・ジャリにも影響してい る。そして、イギリスの進化論的ファンタ ジイとして、もっとも重要な一冊である J ・ D ・ペレズフォードの T ん e 〃 4 襯第イ訪 / Ⅳ 0 れ d 鉱 ( 1911 ; The Ⅳのに、素 材を提供したのがベルグソンなのは、明ら かである。 しかし、イギリスの進化論的ファンタジ イのほとんどはダーウイン理論の暗示する もの、なかんずくその俗っぽいキャッチフ レーズ、、適者生存″、、生存竸争 / / にとらわ れた。ダーウインの支持者である T ・ H ・ ハックスリーは、 1890 年代初頭に H ・ G ・ ウェルズを教え、非常に強い感銘を与えて こうしてウェルズは、生存競争を勝 いる。 ちぬくことで培われた特性そのもののため に、人類は公正な社会を永久に築きあげら れないたろう、という考えにとりつかれて この恐怖は、『タイム・マシ しまった ン』 T ん T 尾気イ ac んツど ( 1895 ) 、『モロ 270

8. SFマガジン 1982年11月号

◎ 0 0 0 0 。こっこ 0 、、、・こって。 「はあはあ」・ 「あれはあの、お部屋の名前なんですか ? 」 それじゃあ当たり前すぎて面白くないでし「こちらはあの、マガジンという雑誌の よ グラビア頁にエッセイを書いている難波と申「そうなんですよ」 「あの、どなたがそいうアイデアを ? 」 は、七月の末、まだじめじめとしっしますが」 「はあ、あの銀河鉄道ですか ? 」 遅梅雨の午後、ネージャーの車で「はあはあ」 「あ、そういう名前の 部屋もあるんですか。 に抜ける年っ どなたがお考えになっ 走ってい たんですか ? 」 うな映 「それはねえ、私じゃ ルをズラッ ちょっとわかりません た看板が目に飛 ので」 び込んできた、という トロス 「あの、内部も何か 次第。 をのインス》 的な趣好を凝らして を・「猿タ ~ アコ お店の名前は「四角 あるんでしようか ? 」 い林檎」。 しいえ、別にそう、 最初はのビデオ うことはございません 専門店か、はたまたゲ けど、経営している会 ーム・センターか、と一 あ社の電話番号を申し上 思ったら、よく見るとウ ? げますから・ : ・ : 」 こう書いてあるでない ふーむ、近頃ではた の。 スこかがレンタル・ルーム ″レンタル・ルーム″朝一朝 3 イですら、ちゃんとナン 「啾ひえーっ ! 」 トカ・プロジェクト A 」 、を - とこれはちょっ トロス かナントカ・。フランニ と頭のおかしいフ ングとか、まるで広告 アンが経営しているに さ 違いない。 ロダクション そう思った僕はさづ 、おやりになっ そく番号案内で電話番をを = てかけてみ「あの、さきほどおたくの前を通りがかりまようなナウッちい名前 こ 0 したら、映画のタイトルがずらっと並んてる。 さ でいましたので、これはひょっとしたらそこの、ナントカ・プランニング 「もしもし」 「もしもし」 好きの方のアイデアかと思いまして、お電話んに電話したら、お店の設計をしたデザイ 事務所のデザイナーのアイデアなんだそう・ 相手は帳場 ( ? ) ばさん風といった声を差しあげたんですが」 井 りんご 谷 ラってみよう /

9. SFマガジン 1982年11月号

続いた。「問題は、・、 成功した。すると、こんどは、奇妙なことが起こったんだ」 ーナムの星に責任を負う者がいない、という 0 年上のほうのヤフーに目をやっていたインターンは、顔を上げところにあるんです。もし、ヤフーたちが労働力として役立っとい 6 て、それはどういうことか、と聞いた。 うんなら、っと配慮されたやり方で利用されたでしようが、使い 「生き残りの僅かなタスマニア人たちは、意地を通すことに決めものにならない、というわけで、だれも気にとめないんです。彼ら た。彼らは生殖を拒否した。そのあと何年かで、彼らは死に絶えたの半数がスタン銃でやられても平気ですよ。囚人たちが用済みにし : 私は、彼らについて書いた本を子どものころに読んで、どうい たあと、ヤフーの雌たちのなかに、まだ生きているのがいても、は うわけか、えらく心を動かされたんだ。ドードー、おおうみがらしけの乗員たちは、彼女らを陸に戻してやらず、二十フィートの高 す、クアッガ、それにタスマニア人ーーそういう減びたものが、私さから放り出してしまう。それでもなお、だれも心を痛めないじゃ の心をゆさぶるんだよ。どうしてもそれを心の中から追い払うこと ないですか。ハ ーさん ? 」 ができない。ヤフーたちのことを耳にしはじめたとき、私には、彼ふたりの目が合った。「なんだね ? 」とハ らがかってのタスマニア人たちのように思えたんだ。ただ、ちがい 「誤解されては困ります。ばくはここに職を得ています。なにも、 ーナムランドに植民者がいないだけだ」 職を賭してまで、ヤフーたちを救おう、というんじゃありません。 インターンはうなずいた。 が、もし、あなたが関心をお持ちで、何らかの力になってやれると 「でも、それは、この毛むくじゃらの連中に、何のたすけにもなりお考えになり、何かをしてみたい、 ということならーーー」インター ませんよ。彼らがいまどれくらい生き残っているか、もともとどれンはちょっと間をおいた。「いや、いますぐにも始めなくちゃ。こ くらいいたのか、もちろん、だれにもわからないんです。ただ、雌のあと何回も来ないうちに、タスマ = ア人の絶減と同じように、ヤ については、どれだけ捕えられて船につれてこられたかを、日誌のフーたちは一頭もいなくなりますよ」 ーの目を見た。 記録で調べています」インターンは、じっとハ 「こちらに来るたびに、はっきり数が減っているんです」 セロペー第三惑星を、詩人たちは、「秋の星」と呼んでいた。少 ーパーは頭を垂れた。そして、うなずいた。インターンの話は なくともの映像テープでは、〈セロペー第三惑星、詩人たちに 愛されてきた秋の星〉というのが、いつもながらのうたい文句であ った。詩人たち、とはだれのことか、だれも知らなかった。が、こ しかに、総督領では、ニューイングランドの十一月初旬のような気 候が、ほぼ恒常的に続いていた。 ヤフーたちのもといた・ハーナムランドは、乾燥した温暖な気候だ った。総督は、二頭のヤフーを、暖房した檻の中に入れた。檻の広

10. SFマガジン 1982年11月号

ら、かまわないでしよう : ターチャは机に向かっていて、顔は横向きになっていた。前かが : べイファストを発ったら返すわよ : みになって、デスクの上の大きな紙をしっと見ている。スヴィルは必要なのよ : ・〈ファンタシー〉のコレクションを救うのに」 彼女のこんな悲しげな表情を見たことがなかった。眼が大きく見開この最後の約東はいくぶんタウンスの気持を鎮めたようだった いて、頬には涙が光っていた。へ ドリッグスはもっと窓に身をよせが、なおも彼はたずねた。「 : : : 本当に思って : : : やりおおせると た。何を読んで、こんなに元気をなくしているのだろう ? 机の上 ターチャは笑った。「あのとんまには : の紙は、精密な図面だったーーー何の図面だろう ? やがて、それは 、・どうとでも説き伏せら オスターレイで構想されている蒸気タービンの一種だとわかった。れるわよーーーあなたにも、お・ほえがあるでしよう」タウンスの顔が この機関は創意に富み、効率もきわめていし しかし、建造する赤くなった。 へドリッグスはショッ のに何千オンスもの鉄が必要だ。非金属でポイラーを造ろうとする クを受けて窓から身を引いた。おれのこと 試みは、こつけいな、そして時には悲惨な、失敗に終わっていた。 をいっているのだろうか ? コルを見ると、まっすぐに凝視を返し どうして、設計画が人を泣かせたりするのだろう ? てきた。 グリムは不意に顔を上げたが、窓のほうにではなく、オフィスの 「行こう」とスヴィルは小声でいった。パルコニーの端まで行き、 扉に対してだった。どうやら誰かが入室の許可を求めているようだ下のデッキへとびおりたーー編集部の徽章をつけた乗組員のほとん ったが、厚いガラスを隔てては、実質上、何も聞きとれなかった。 ど真上に。そいつは、しばらく彼をみつめていたが、やがて元どお ターチャは驚異的なスビードで図面を隠し、表情をととのえた。もりに歩み去ったーー明らかにアンチョが放射をやめていたのだっ のの数秒で、すっかり冷静な顔になった。 た。ターチャがこれを聞きつけたら ? そう思うとそっとした。 ・タウンスだった。へ 来訪者は・フレイリー ドリッグスは盗聴に対そんな考えは、コルが柵の上に降りてきたことで中断された。二 する心の咎めのことなど忘れて、ガラスに耳を押し当てた。中で話人は乗組員の居住区画へと戻っていった。彼は自分の船室の入口の されていることが、かろうじて聞きとれた。 三フィート手前で立ちどまった。」 コルが彼を見た。「どう ? 」 タウンスが話していた。「おたくの連中が十五オンスの : : : 鋼鉄 をとった。わたしの鋼鉄を ! なぜだ ? 」 「わからないよ、コル。ばくがもっと知れば、ぼくらが見たものが 「わたしには必要だったのよ」彼女の表現はほとんど傲慢といえる罪の立証ではなくなるんじゃないか。ぼくはすっかり混乱してしま っているんだ」 ほどだった。 しかしタウンスはひきさがらなかった。「それで ? わたしにも「いっ心を決めなきゃいけないの ? 」 「今晩のうちのいっかだな。夜の覚醒期の中食の前に、最後の指示 : そうなんだ。なにか金属がなくては、印刷できないのは : : : 」 「まさか。わたしたちは : いまはソムナイの風下にいるんだかを受ける。そのあとどれくらいしてから出発するのかは知らないん 234