シリウス - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1982年12月号
15件見つかりました。

1. SFマガジン 1982年12月号

もっとも、メシ炊きといっても適当にレーション . パッ クを調理したぶつつぶしてしまえる。 いざ″というのはこの星系の独立運動の り、レーションの員数を艇のメイン・ バンクで確認するだけという ことだ。そんなことは子供でも知っているが。 気楽なものだが。 それにしても、今回の任務はえらく貧乏くじを引いたもんた。四 なんでこんなに大そうな肩書きがついてるかっていうと、艇長の〇日にわたって定期。 ( トロールと、観測任務をやったあと、さて母 ミン大尉以下五人しか乗り組んでいないこのグルカ一〇七には、主艦に帰ろうという時になって、太陽系の方から飛来してくる未確認 計兵・士官が二人いて、下っぱの方の俺が次席と呼ばれてるだけの飛翔体があるから、そいつを調査しろときた。俺達五人のクルーの トラッカ 話だ。もう一人の主計は、通信員でもあるチョードリ少尉で、こつ中で、ぶーたれてない奴は一人もいなかった。 ちの方はメシ炊きはやる必要がない。通信業務の他はもつばら艦の いくら大型の艦載機だといっても、グルカ級の哨戒艇 航宙・作戦記録を担当し、毎日のデータをメイン・・ ( ンクに放り込は四〇標準日間もの長期間にわたって単独行動をとれるようには、 エンジニア んでいる。あとの二人の乗組員は、航法員のダワ三曹と機関員のゴできちゃいない。軍は、哨戒艇なんて大げさな艦種名をつけてくれ ータム二曹だ。 たが、要するに艦載機なんだ。重武装して対艦攻撃や対地攻撃がで グルカ一〇七は、艇という名はついてはいるが、実際は艦載機だきるように設計されているんで、居住性なんて最初から無視されて し、それに見あった高加速性能を持っている。もっとも、シリウス 星系には艦載機を多数搭載した宙域制圧戦闘母艦は一艦しかない。 やたら馬鹿でかい推力のエンジンを積み込んで、そのくせクルー その、俺達の母艦はカンチェンジュンガ級の三番艦″アコンカグのためには情ないほどのスペースと質量しかさいてはいない。まっ ア″だが、彼女は今はシリウス・メジャーの内惑星軌道にいるはすたく、戦争なんてここ何十年もやったことがないのに、何だって軍 だ。そして、俺達のような艦載機群が母艦を遠くはなれた宙域で、 の造船屋はこんなに戦争道具ばかり作りやがるんだ。 哨戒任務についている。 五人が四〇日間も暮らす艇に、船室と呼べる空間が三カ所しかな スキッパ ナビゲーダー 言ってみればアコンカグアは、単艦でシリウス星系全域の救難、 いのはどういうことだ。その三つのうち、ひとつは艇長、航法員、 工 / ジニア トラッカ サーベイヤー 警察任務をカ・ ( ーする艦載機群の基地になっているわけで、俺達の機関員のおさまる操縦席で、もうひとつは観測員の俺と、通信員の グルカ一〇七もそんな艦載機のひとつだ。艦載機群をふくめて、アチョードリ 少尉が陣どる観測ドームだ。この二つは、とても部屋と コンカグアは太陽系から派遣されてきた。 呼べるような場所じゃない。無駄なスペースは一切作らんぞと意地 シリウス系の、内宇宙における商業航路の船腹量が増大するにつ になって設計したような場所だ。 れて、組織化された救難・警察行動が必要になってきたことがその ただひとっ部屋と呼べるのは、もう一つの生活区画というところ 派遣の理由で、太陽系からの一種の開発援助といえた。だが、いざだけだ。この生活区画だって、合理性をどこまでつきつめられるか となったら汎用性能を持つアコンカグアは、単艦でこの星系全部をためしてみたような区画で、狭苦しい空間が、居住区兼体育室兼調 システム ナビゲークー ペ ス システム スキツ・、 2 ー 7

2. SFマガジン 1982年12月号

知というのは、言うまでもなく我々の出す赤外線を観測して位置を大事なことは、敵のレーダーを無効にすることではなく、敵に誤 知ることなのだが、全力加速している我々は、闇夜に信号灯をあげつた目標を追尾させ、敵がその間違いに気付いた時には再び我々を 3 2 つつ逃げているのに等しかった。 追跡できない位置に退避することなのだ。あるいは、我々のいる方 しかも、敵は・ハシリスクのエンジンと船体が発する赤外線の、振向が敵につかまれてもかまわない。問題なのは、彼我の距離と相対 動数特性を知っていると考えるべきであり、この探知にキャッチさ速度の偽情報を与えて追跡を断念させることなのだ。 れれば、ドプラー効果から彼我の相対速度を読まれてしまうのだ。 私は、回頭前に注意深くダミーを放っておいた。それは最も古典 ハシリスクは、それほど有名になっていた。 的で有効なレーダー欺瞞の方法だ。ばらまかれた金属箔が、本艦の しかし、この赤外線探知にも弱点はある。それは、艦載型の探知ものと酷似した影を敵のレーダーに写し、散布した金属片の中央部 機では指向性が悪いという点であり、我々が恒星のような赤外線源に射出した赤外線源が、その効果をより高める。これは何度も使 をめざして突っ込めば、充分に恒星の出す赤外線の中にかくれてし 成功した手だった。必要とあれば複数のダミーをばらまいても まえるのだ。最も強烈な赤外線源は太陽だが、それでは一五〇度近 しし間抜けな敵がそれを偽物だと見破った時には、我々は安全圏 い大回頭をしなければならないし、警戒の厳重な木星包囲網に突っに退避を終えているはずなのだ。 込むことになる。その時の彼我の位置関係と本艦の飛翔ペクトルよ だが、間抜けは我々の方だった。充分、敵から離れることができ り、シリウスに艦首を向けることが最上と考えられた。そこなら、 たと思った時、考えられない位置から発信されたレーダー波を我々 わずかな回頭ですむのだ。 はとらえたのだ。私が無視した第一の敵は、実は哨戒艇などではな 私はこの時、第一の哨戒艇のことは無視した。どのみち、自分達 、ずっと大型で最終速度の大きいフリゲート艦だったのだ。しか が太陽系内にとどまれるだけの推進剤を残しておこうとするならも、圧倒的な物量の差で地球軍が竣工させた戦闘艦隊の中でも、最 ば、最終速度の小さい哨戒艇が急速回頭して我々を追撃するといつ新鋭のゾディアック級フリゲート艦だった。 た無茶はすまい。したがって、我々を追う体勢にすでに入っている敵は、我々のセンサーや分析評価システムに、哨戒艇であるとの 第二の艦の未来位置とシリウスの間に本艦を突っ込ませていったの偽情報を与えつづけ、第二のフリゲート艦から我々の情報を受けっ つ、自己の位置を暴露するレーダー波発信を押さえ、急回頭して我 私は哨戒艇のことは気にとめず、もうひとつの問題を考えてい我の側後方にまわり込んでいたのだ。まったく、心憎いまでの操艦 た。敵のレーダーをだます方法だ。これは、エンジン全開状態の本だった。ただひとっ我々に有利だったのは、敵フリゲート艦の位置 艦をとらえる赤外線探知ほど長い有効距離は持っていない。だが、 が理想的とは言えず、我々の位置がやはりシリウスにさえぎられて 敵が攻撃射程に入った時には、我々の正確な位置と速度をさぐり出 いると期待できることだけだった。 す。 私は、ただちに二つのフリゲート艦のレーダー波に同調したジャ

3. SFマガジン 1982年12月号

度計を置いて、潮汐力が発生していないか測定してみたのだ。その だ。しかも、加速度自体も増大しているというのに。 考えられることはただひとつ、巨大な重力場に・ハシリスクがとら結果、もしも本艦が重力場の中にいたとしても、それは完全に一様 4 えられ、引き寄せられているということだった。最も理解しやすい なものであるということだけがわかった。潮汐力は見いだされなか モデルは、前方に大質量点が存在するということだろう。他の観測ったものの、このことはひとつの可能性が消去されただけにすぎな いのだが。 機器は、パルス電波の類も光学的な存在も一切受信していないか ら、おそらくそれは・フラックホールのようなものだろうと私は考え 七月二五日日曜漂流一一〇日目記 それもよし、私は一人で笑った。・フラックホールの作り出す潮汐昨日まで、ずっとデータのみを記してきた。他に書くべきことが 力に艦ごと引き裂かれて死ぬというのは、考えうる限りで最も派手なかったせいだが、私の体に感じることも書いておく必要があるだ な死ではないか。しかもそうなれば、艦外に泳ぎ出していった仲間ろう。 いではな私の体にも、何ら加速度は感じない。座標よりの加速度はすでに も、やがて・ハシリスクに集中してくるはずだ。それも、 一を超えているというのに。速度は三五、〇〇〇キロ / 秒と少 いか。私はそんな風に考えている。 し。決してデータの間違いではない。そのままにしておいた潮汐計 測も、全く反応は示さない。 六月一六日水曜漂流七一日目記 私の予想は、はずれた。艦は直線的に加速しており、正艦首方向 にシリウスを向けたまま、いささかも軌道はねじまげられてはいな俺はかなりあせってノートのページをめくった。もしかしたら、 かった。ということは、・フラックホールは艦とシリウスとの間にあそのままずっとデータばかりが記されたままで記述は終了してしま うのではないかと心配したのだ。いらいらと時計に眼をやりながら るはずだ。だが、艦の進行方向をいくら観測しても、・フラックホー 数字の行列を読みとばしているうちに、ほとんど最終ページ近くに ル存在の客観的な事実は見い出せなかった。 なって再び文字はあらわれた。 正艦首方向に、びたりと・フラックホールが存在しているという、 考えられないほどの確率の低さは無視するとしても、艦の異常な加 速を説明するために、・フラックホールを持ち出すのは無理なよう 一二月一七日金曜二五五日目記 あと二週間ほどで、二一〇〇年も終わろうとしている。地球の太 陽のまわりの公転をもとにした暦など、今の私には遠い存在だ。太 陽系それ自体でさえ、同じことだ。 六月一八日金曜漂流七三日目記 もうひとつの測定をやってみた。艦首と艦尾にそれそれ精密加速あの戦いは、すでに終了したことだろう。この艦が、ガニメデの

4. SFマガジン 1982年12月号

時間が無い。出発の時だ。これ以上は書けない。私にとってただら、カタ。ハルトで俺達を引っかけながら、連磁をかけたタ、ンカーを 一度のチャンスだが、私は成功を疑ってはいない。私が発狂したと放り出してやるから、そいっとドッキングしろとさ。この船の爆破 5 は予定通りだ」 思われても この船の最後の大花火ってわけだ。俺は、たった今読みおえた手 そこで唐突に手記は終了していた。ページを最後まで開いてみた記の話を仲間にするのは、もう少しあとにしようと考えていた。ど こか遠くへ飛んでいった彼らのことを考えながら、一人でこの船の が、あとは俺が立ち入るのを拒絶するかのように、どのページも空 白のままだった。俺はそれでも未練がましく何度もページをくり返最後を見とどけるのもわるくない。あとでみんなに文句を言われる かもしれないが、なに、かまうものか。 してめくったが、・ とこにもそれ以上の続きは書いてなかった。 「けっこうだね。どうせこのポロコン。ヒュータは、ろくなのがつま ヨードリ少尉が苦労しながらコン。ヒュ 俺の横のシートでは、チ っていない。そろそろ切りあげようと思っていたところだ」 タ内のメモリイを引き出そうとしていたが、みんな消えちまって、 リ少尉はそう言って、接続してあった動力ュニットを引 まともな形で残っているのはひとつも無いと、しきりに文句を言っ き抜いた。ダワ三曹は、ちょっと残念そうなふりをみせたが、それ ていた。顔を頭の上にあげると、穿孔はすでに終わったらしくて、 でも最後の作業を省略できたことを、素直に喜んでいるようだっ ダワ三曹はキットを操作しながら、操縦室の内部をさぐっていた。 そんな中をさがして見ても、最後の一人はいないよ。死体がもし た。それでも、声だけは不服そうに言った。 も船内にあったとすれば、俺が今いるシートに乗っかってるはず「だが、何だってその旅客船の乗客を俺達が引っぱり出さなきゃな だ。俺がそう言おうとした時、イアホンから緊急通信のコール : 鳴らないんだ。シリウスの双曲軌道にこれから突っ込むところだろ。 エマージェンシー たいいかげん作業にあきていたらしいチョードリ少尉もダワ三 ・・ハッグの中で凍眠していりや、脱出就道に入っ 曹も、顔をあげてポリュームを絞っていたイアホンの音量をあげた。てからでも充分間にあうだろうに」 スキツ・、 全員退去までには、まだ時間があった。艇長は早ロでまくしたてた。 「議員さんが乗ってるんだってよ」めんどくさそうな声で艇長は言 った。「コールド・スリー。フで何十日もつぶされるのはかなわんとさ」 「母艦からの命令だ。すぐにこの船から離れなきゃならん」 作業を切り上げる一」とについて、誰からも文句は出なかった。艇俺はため息をついて、ノートを船外作業服のポケットにねじ込ん だ。この星系からも、未知な所が急に少なくなってきたような気が 長はつづけた。 「どこかの阿呆な旅客船のエンジンがぶつこわれてとまらんのだした。なんだか、このポロ船に乗っていたクルーが、ひどくうらや と。放つぼっといたらシリウスを通りすぎてあさっての方へすっ飛ましい気がした。 そんなことを思いながら、グルカ一〇七に向けて泳いでいったも んでっちまうそうだ。俺達の艇が一番近い軌道にいるから、お客を 助け出せってことだ。お客がカタバルトの減速に耐えられんようなんだから、なんとなく星の海がいつもより暗くみえた。 スキ あたり スキッ :

5. SFマガジン 1982年12月号

えられるほどの余裕なんかない。それを見こしたか、奴はつけ加えせんは人間は機械よりは偉くはなれないんだ。このあたりの宇宙 こ 0 も、要するに管理されているってことか。 「メジャー第四惑星軌道のはくちょう座側をかすめて、ヘびつかい その時、ひろい上げた目標からの電波を解析していたチョ 1 ドリ 座に向けてすっ飛んでいく軌道だ。近恒星点でシリウス座標系の緯少尉が顔を上げ、誰に言うともなく言った。 度プラス一〇度あたりを通過する。わかったか ? 」 「太陽系から来た奴だ : : : あれは。かなり徴弱だが識別信号を発信 今度はなるほどとか、うむとか言う声が返ってきた。つけ加えるしている。だがそれはおそろしく息の長い重原子系の電池でなんと なら、それはシリウス自身の磁場の影響を気にせずに、磁場カタバ か発信しているだけで、メインの動力系が作動をやめて何十年かた ルトをひろげられる位置でもある。タンカーを俺達に向けて射出しっている。おそらく中に生きた人間はいないよ」 てくれるか、タグ・ポートで回収されることを未練がましく考えて俺は思わず背後の星空をふり返った。数十年以上をかけて、ひっ いた俺は、少なからず落胆した。 そりと星の海をわたって来た宇宙船がこの眼に見えるような気がし その時、光学望遠鏡を操作していた俺の手がとまった。あきらか たからだ。だが、主恒星を遠くはなれたこの宙域で、透過率一〇〇 に恒星ではない飛翔体の影像を、視野の中に見つけたのだ。シリウ ーセントにまで色をおとしたキヤノ。ヒーを通しても、目標は見え スの放っ光で、斜めから照らされている位置にあるそいつは、ゆっやしなかった。かわりに、減速中の主エンジンが吐き出す推進剤の くりとだが確実に鮮明さを増していった。俺は、視野の中にきざまひろがりが、遠 いトリマンの光をうけて・ほんやりと光り、星々の光 れた十字線の交点にそれをロックし、指向性レーダーのコーン角をさえもかすんで見えた。 さらに鋭くして望遠鏡に連動させた。俺はそれをみんなに伝えた。 俺はシートから身をのり出して下を見おろしているようなきゅう 「メガネでもっかまえたよ。ちょい就道を修正してくれ」 くつな姿勢をやめて、もとの姿勢にもどった。望遠鏡の視野の中で スキツ・ ( スキツ・ハ 言いおわらないうちに、かすかに姿勢制御の振動が伝わり、艇長は、いぜん目標は・ほやけたままだった。艇長のくぐもった声が俺達 の声がそれを追っかけた。 のイアホンに伝わった。 「びったりだ。あと一八〇秒後に加速度を、五分の一におさえ 「あれの船籍はわかるか ? 通信員」 て、一〇〇メートルに近づいたら、さらに二〇分の一におとす」 チ ヨードリ少尉は、となりにいる俺にはかえって聞きとりにく、 俺は、これだけの距離から移動目標を見つけた見張りの能力を自低い声でポソボソと言った。 慢したい気になったが、やめにしておいた。早期警戒装備の艦載機「この艇のメイン・ パンクに照合したが、該当データなしだ。母艦 は、母艦の有効索敵距離をこえる遠距離から、目標をとらえることにデータ請求を出している所だが : : : ちょっと待ってくれ。今もど ができる。救難。 ( トロール装備のこの機から、あれだけの距離の目って来た」 標をつかまえたって偉くもなんともない。訓練をつんだって、しょ チョードリ少尉の言葉がとぎれた。俺はとなりのシートを見た。 トラッカ 2 2 2

6. SFマガジン 1982年12月号

今どき、幽霊船なんてものがあるのかどうか、俺は知らない。そありついている。重力井戸の底でほこりまみれになるよりは、宇宙 れどころか俺達の間じゃ、幽霊船なんていう言葉を知ってるってこ 空間で真空や極低温ととなりあわせに生活してるほうが、サマにな と自体が珍しいんだ。もっとも、俺だってそんなに博学じゃない。 ってる。大地にへばりついて生きてるなんて、年よりのやること ただ、古い時代の地球の小説が好きで、暇な時にはいつも母艦のラ イプラリーに入りびたっては、フォレスターやスティ・フンソンなん とにかく、幽霊船の話だ。その昔の実物がどんなものかは知らな いが、あれを幽霊船だと言っても文句を言うやつはいないだろう。 て古典を読みあさっている。そのせいでそんな言葉を知ってるとい うだけの話だ。 俺は勝手にそう思っている。 こいつは、ライ・フラリーから引っぱり出した話だが、昔になれば初めからもう一度順序よく話す必要があるようだな。俺の名は大 なるほどメカとエネルギーの量が少なくて、その分だけ面白い時代崎一曹。タイタンの軌道コンビナート生まれだ。ガキの頃から俺は 宇宙船乗りになるつもりだった。だが、一度は太陽系内の商業航路 だったそうだ。たった一枚の地図に世界全部を書き込めた古い昔に は、海ってところは男が俺は男だといばってられる場所だったらしの機関員にはなったものの、面白くなくて二年でやめた。初めて人 間が宇宙に飛び出して三〇〇年にしかならんのに、今は太陽系のす 。どんな時代の船たって、海の上を行く船なら一番高いマストの てつべんから見える世界は、たかだか十数キロ先の水平線でしかなみずみまで開発されていて、ほんの少しの危険もなしにどこへでも 行ける。命がけで宇宙船に乗りこんだのは遠い昔の話なんだ。 かったんだから、それはそれで男の世界だったんだろう。だから、 キャ・フテン ナピゲーター はるかに水平線の上に姿を見せ、次第に全貌をあらわしてくる幽霊俺が太陽系で船員をやっていたころにはもう、船長とか航法員な 船のおそろしげなシルエットなんてのは、たしかに絵になっていたんて言葉も無くなりかけていた。そんな仕事は、衛星か軌道コロニ ろう。 】にいるオペレーターが全部肩がわりするようになっていたんだ。 そうだ、幽霊船の話だったな。何にせよ、あれが幽霊船なのかど太陽系の内宇宙ーー海王星軌道内・ーーで宇宙船乗りをやっていたっ うか、そんなことはどうだっていい。 そんな古くさい言葉を知ってて、何もおもしろいことはない。だから俺は年齢制限からはみ出さ る俺だが、本物の船を見たこともなければ、海さえも実物は見たこ ない内に、航空宇宙軍の外宇宙艦隊に志願し、そして母艦ごとここ とはない。地球だって見たことがないんだ。それどころか、知ってへ派遣された。もう俺は生きている内に太陽系にかえることはない るかぎりのどの惑星の重力井戸の底におりたこともないんだ。 だろう。もっとも、この星系にいる移民も兵隊も、それは同じこと 俺は、航空宇宙軍外宇宙艦隊シリウス方面隊所属の哨戒艇、グル カ一〇七の観測員で大崎一曹という。シリウスは太陽系の外に初め俺はこのグルカ一〇七乗り組みの観測員兼主計次席だ。主計次席 て人間が住むようになった星系なんだそうだが″今どきの若い者″なんて言うと、何やら偉そうな士官殿みたいだが、要するにメシ炊 が誰でもそうしたいと思うように、俺はちゃんと宇宙空間でメシにきのことだ。ついでに言うなら観測員というのは見張りのことだ。 2

7. SFマガジン 1982年12月号

津止一発室。ノ、翌和豊嚀斗中 篇ならヴォクトなどかなり出てくるので すが、みつかったのは、 アルタイル『キャッチワー すが ) 、簡単には見つからないのです。 現在スターフリートの菊池陽子氏が今 ルド』、『デネブラ救援隊』 年出版された最新作を中心に調べて下さ ラランド二一一八五『超惑 っていますが、古いものについては、広 星への使命』 く読者の皆様のご協力も得たいと思いま はくちょう座六一番星『重 す。よろしくお願いいたします。 力の使命』 グルーム・フリッジ一六一八 『マインド・フリッジ』 今月はほんとうは、 ノ 1 ドなお便りへの ーナード星『文明の仮面 回答を中心にするつもりだったのたが、 をはぐ ( 古い ! ) 』 朝の仕事前のお茶の時間が長すぎて、気 くじら座タウ星『所有せざ がついたらもうタ方の退社時間になって る人々』 フォーマルハウト『ロカノ しまった。石原博士の勤務態度っていっ もこういうふうなんですよね。 ンの世界』 アークトウルス『アルクト ( 日本経済がおかしくなってきたのも無 理はありません ) ウルスへの旅』 ( 無理があ やはり齢のせいか、香山滋や海野十三 る ) ウォルフ三五九『白い影』 ( 無理 ヴェガ、。フロキオン、ルイテン星、カプの話をすると、ついつい興奮してしまっ がある ) ケンタウルス座アルファ星 / シリウスタイン星、ヴァン・マーネン星、ルイテて、長びいてしまうのです。 ン七二 ~ ハ ~ 八 ( くじら座星 ) 、シュ来月からは、もう図書目録の話はしな / 。フキオンなど『目的地アルフア・ いつもりです。しかし、原稿は着々とっ ケンタウリ』 ( 無理がある ) トルーフェ二三九八、ヘびつかい座三六 の くりつづけますから御期待ください。 へびつかい座七〇番星『へびつかい座番星 / 七〇番星、さらにロス、ウォル ホットライン』 ( 無理がある ) フ、 (..50 などの多くの番号星 : : : を主要昨日で一五〇ページ分ができました。 原 などです。 舞台とした ( できれば著名な ) 長篇を探あと六五〇ページで上巻が完成です。岡 本俊弥氏や巽氏にもはげましてもらった このほかにプロクシマ、ケンタウルスしたいのです。 図書目録はつくっても、こういうことし、がんばらねば : 座アルファ星、エリダヌス座イプシロン に着目して調査したことはないので ( 短 ( ついでにガイハレ・ドラゴンズ ! ) 星、グルーム・フリッジ三四、シリウス、 け 7

8. SFマガジン 1982年12月号

0- 」 0 母港を出港してすでに九カ月余りになる。クルーが艦外に退去して要がある。 からでも二二〇日だ。私に残された日数は、まだ三〇〇日以上もあ る。彼らが私のために残していってくれた動力を使い切るのに要す 一二月一八日土曜二五六日目記 どうしてこんな簡単なことに、今まで気づかなかったのか。 る日数だ。最初のころは、この残日数というものがどうしようもな 私はあくまで操艦の技術者であって、科学者ではないために、こ く私に重くのしかかっていたものだ。 のような単純なことを考えっきもしなかったのだが。艦の座標位置 だが、このごろはさほど気にならなくなってきている。それは、 人生の半ばに達し、充実期にある者よりも、少年の方が死というもを算定するプログラムをチ = ックした時に、当然気づいているべき だったのだ。だが、結果としてはこの間違いをおかしたまま、正し のに対して言いようのない不安を持っことに似ているのかもしれな 、。ともかくも、私は残された日数の半分近くをついやして観測を続い位置を出すという奇妙な結末になったのだが。 今日、久しぶりに数時間の船外活動をした。気閘を通過すること けて来た。今では淡々と、最終日までの日数を数えることができる。 だからこうして何の気負いもなく、このように再び書けるのだが。 により、空気とエネルギーのロスが生じるので、できるかぎりそれ だが、この日数というのも、あまり意味がないもののように思えを避けるようにし、艦内から最小限のセンサーを使用して観測して いたのだ。 る。母港を出て九カ月とはいうが、実際には何日なのかよく分から ない。それは決して主観的なものではない。私は結果が信じられずだから艦外に出た時も、周囲に見えるものがあまりにあたりまえ に何度もくり返して測定した。だが同じだった。いっかこうなるだすぎて、私はそのことの異常に最初は気づきもしなかった。私は、 ろうということは、これまでの観測データから予想はしていたのだこれまで一、〇〇〇キロ / 秒をこえる速度で航宙を行なったことは が、実際にこうしてそれがおこるまで私には信じられなかったのない。そのために、当然見るべきことを見落としていたのだ。 私のいる宇宙では、光速の上限は三〇万キロ / 秒ではないよう 結論を先に示すべきだろう。仮装巡洋艦・ ( シリスクは、本日、光だ。それは本艦の現在の速度を知れば当然のことなのだが、私が見 る宇宙の星ぼしは、全く太陽系内で見るのと同じに見えていた。 速を超えた。何のショックもなかった。 現在の加速度は三・二太陽からの距離は七四・五光日にな光行差現象は全く生じていないのだ ! 光速を超す速度で宇宙空 間を突進しているのに。そして、当然のことのように前方のシリウ る。体感加速度は、いぜんゼロのままだ。このまま加速度が増して ・シフトが認められ いけば、私の生きている内に光速の一〇倍もの速度でシリウス星系ス、そして後方の太陽からの光も、ドッ。フラー なかったのだ。その結果、光行差現象を無視したに近い、低速時の を通過してしまうことになる。こんなことがあり得るだろうか ? 現実に私の眼の前でおこっているのでなければ、とても信じられな天測プログラムが、そのまま現在も通用しているということになっ いことだ。もう一度、全部のデータを根本的に洗いなおしてみる必てしまったのだ。 247

9. SFマガジン 1982年12月号

それにしても、私にはまだ釈然としない部分が残っていた。な倍ゆるやかなものになったのか、さもなくばその両方なのかもしれ ードウェアは、特異宙域を通過すれ ぜ、・ハシリスクに向かってこの宙域は触手を伸ばし、引き込んだのない。そして、 : ハシリスクのハ か。オデイセウス・〇も同じように引き込まれたのか、そしてあのばもとの相対速度に落ちて、シリウスへ飛翔する。 超光速で内部が移動する空間流というのも、特異宙域から突出した その時になって、彼らの声のうち、他の七人は声をひそめ一人の 触手なのか。彼らは言った。 声が前面に出て来たのを私は感じていた。だが、そうなっていても この艦が引き込まれたのは、この艦の持つ情報のせいだ。艦自体彼らの意思はひとつであり、彼の声が全員を代表しているのだとい のハードウェア、そして我々自身を加えた系が、非常に高い情報密うことは、彼のはずんだ声を聞いているだけでわかった。彼とは、 度を持っているために、内部情報密度の希薄な特異宙域に引き込まもちろんあの機関兵のことだ。 すごいよ、艦長。僕はこのためだけに宇宙船乗りになったんじゃ れることになった。だが、この宙域は比較的小さいものだったので、 太陽系それ自体にまで接触することはできなかった。もしそんなこないのかって気がする。星が、きらめいている。星がこんなにきれ いなものだなんて、今まで感じたことがないよ。 とになれば、膨大な情報移動で、太陽系もこの宙域も狂ってしまう。 ードウェアなんていらないんだ。そんなに重い 我々の艦とオデイセウス・〇とは状況が異なる。オデイセウ僕達にはもう、 ものを取り去ってしまえば、どこにだって行くことができるんだ。 ス・〇はずっと通常空間を航行している。あの空間流というのは、 特異宙域の情報量にギャップが生じた時におこる、一種の放電のよこの宙域から銀河中心にのびている空間流がある。それに乗って行 うなものだ。これは、特異宙域の触手のような小さな変化率は持つけるとこまで行ってみたいんだ。 ていない。 これに巻き込まれると、艦は構造的にも、情報系自体も私には本当に彼らがうらやましかった。しかし、なんとか私は彼 破壊される。実際にそのようにして引き込まれ、破壊された艦もあらにわかれの言葉を送ることができた。すると、彼だけではない、 他の七人の声も一斉に私に呼びかけた。 ったようだ。くわしいことは知らないが。 我々は九人で一組のクルーだ。艦長が我々と一緒に来ない理 さらに彼らは私の聞くことに答えていった。 いくらこの艦にある観測機で光速度測定を行なっても、三〇由が何かあるとでも言うのか ? 万キロ / 秒の値しか出せないはずだ。つまり、光速度は時間と距離私は面くらった。そんなことが可能なのか。 の関数であり、周囲の星から測定した速度が三〇万キロ / 秒を超え彼らはそれそれに私を歓迎する声をあげながら言った。 我々の時ほどやさしくはないが、可能だ。あの鳥がもどって たところで、それはただちに光速度をこえたことにはならない。系 内観測で、光速度が三〇万キロ / 秒であるのと同じ意味で、この。ハ来れば シリス あの鳥は幻覚ではなかったのか。そう聞く私に シリスクの慣性速度は今でも一、〇〇〇キロ / 秒なのだ。・ハ ク全体が三〇〇倍の長さに伸びたか、あるいは時間の流れが三〇〇 2 引

10. SFマガジン 1982年12月号

が、ことはそれほど容易なものではなかった。私が彼らの声に注意これは、あるいはビッグ・・ ( ン開始以前の、一点に凝縮した宇宙 し始めるようになると、声はますます明瞭なものとなり、最初全くを内部から見たのに、イメージは似ている。そして、この無限大の 5 2 意味がっかめなかったのが、次第に理解できるようになってきた。光速を持っていた始源宇宙には、時間は存在しなかった。静止して そして、昨日から今日にかけて私は彼ーー彼らと呼ぶべきだろう いたのだ。単位空間当たりのエネルギーは無限大だが、単位時間当 コンダクト かーーーと完全な接触に成功した。ただ、彼の声を聞くだけではな たりに見るならばゼロだったのだ。 く、こちらから質問することも可能になったのだ。どこまでそのイ だが、この光速が無限大で時間の経過のない始源宇宙は、実際に メージを具体的にしるせるかはわからないが、残された時間の中では存在せず、発生と同時に光速度は急速に低下し始め、現在に至っ とにかく記す。 たという。しかし、宇宙は空間的に一様ではなかったために、光速 彼は私にこの特異宙域について説明した。ーー宇宙が存在を始め度が周囲と同じに低下しきれない宙域が、現在の宇宙の中に存在す る以前、宇宙は一点に凝縮していた。こう考えるのはビッグ・・ハンるのだという。つまり、空間的に一様ではない宇宙は、言いかえれ 宇宙論の根本だ。だが、これは光速度を一定と定義したスケールでば時間的にも一様ではないということだ。 宇宙を測定していたため、当然そういった結論に達するのだが、ひ我々は、そういった宙域に引き込まれたのだと、彼らは説明し とたび光速が時間の関数だとして宇宙を組みかえるならば、他の解た。だが、太陽系外に出たとほとんど同じころ、・ハシリスクは加速 釈も可能となる。時間の経過というものも主観的なものなら、等速を開始した。これほど太陽系に近いところに、そんな宙域が存在し で時間が経過していくという定義も考えなおさなければならない。 得るのか。しかも、・ハシリスクはその中を数十光日にもわたって航行 宇宙の開始時より一定の速度で動いていたものは存在するか ? 原し、さらに加速を続けている。これほど巨大な宙域が存在するなら、 子時間、惑星の公自転、ラジオ星の振動等々、すべてが無限大から今までになぜ観測されなかったのか。彼らはそれに答えて言った。 ゼロへ、あるいは一から〇へと遷移していく途中の宇宙でしかな ハシリスクの乗って来たのは、特異宙域が太陽系に向かって突き 現在以外の瞬間を、どのように観測できるのだろうか。そのよ出した触手だ。この特異宙域の中心はここからシリウスへさらに一 うな、時間を定義できない宇宙では、光速度でさえ絶対的な尺度に光年ほど近づいた所にある。中心付近では光速度は通常空間の数百 はなり得ない。 倍に達する。ただし、中心から離れるにしたがい、急速に速度は低 宇宙は、始源時においては、無限大の光速を持っていた。この時下するが。 には、あらゆる地点での存在が宇宙のどこにでも情報として伝えら私はさらに聞いた。このような宙域は、宇宙に多く存在している れる世界であり、相互の位置は定義できるが、情報伝播時間はどこのだろうかと。すると彼らは、よくはわからないが、この宙域はそ にあってもゼロになる。さらに、単位空間当たりのエネルギー量はれほど珍しい存在ではないようだと答えた。そして、この宙域は絶 無限大だったはずだ。 えず移動している存在なのだとも。