が、ことはそれほど容易なものではなかった。私が彼らの声に注意これは、あるいはビッグ・・ ( ン開始以前の、一点に凝縮した宇宙 し始めるようになると、声はますます明瞭なものとなり、最初全くを内部から見たのに、イメージは似ている。そして、この無限大の 5 2 意味がっかめなかったのが、次第に理解できるようになってきた。光速を持っていた始源宇宙には、時間は存在しなかった。静止して そして、昨日から今日にかけて私は彼ーー彼らと呼ぶべきだろう いたのだ。単位空間当たりのエネルギーは無限大だが、単位時間当 コンダクト かーーーと完全な接触に成功した。ただ、彼の声を聞くだけではな たりに見るならばゼロだったのだ。 く、こちらから質問することも可能になったのだ。どこまでそのイ だが、この光速が無限大で時間の経過のない始源宇宙は、実際に メージを具体的にしるせるかはわからないが、残された時間の中では存在せず、発生と同時に光速度は急速に低下し始め、現在に至っ とにかく記す。 たという。しかし、宇宙は空間的に一様ではなかったために、光速 彼は私にこの特異宙域について説明した。ーー宇宙が存在を始め度が周囲と同じに低下しきれない宙域が、現在の宇宙の中に存在す る以前、宇宙は一点に凝縮していた。こう考えるのはビッグ・・ハンるのだという。つまり、空間的に一様ではない宇宙は、言いかえれ 宇宙論の根本だ。だが、これは光速度を一定と定義したスケールでば時間的にも一様ではないということだ。 宇宙を測定していたため、当然そういった結論に達するのだが、ひ我々は、そういった宙域に引き込まれたのだと、彼らは説明し とたび光速が時間の関数だとして宇宙を組みかえるならば、他の解た。だが、太陽系外に出たとほとんど同じころ、・ハシリスクは加速 釈も可能となる。時間の経過というものも主観的なものなら、等速を開始した。これほど太陽系に近いところに、そんな宙域が存在し で時間が経過していくという定義も考えなおさなければならない。 得るのか。しかも、・ハシリスクはその中を数十光日にもわたって航行 宇宙の開始時より一定の速度で動いていたものは存在するか ? 原し、さらに加速を続けている。これほど巨大な宙域が存在するなら、 子時間、惑星の公自転、ラジオ星の振動等々、すべてが無限大から今までになぜ観測されなかったのか。彼らはそれに答えて言った。 ゼロへ、あるいは一から〇へと遷移していく途中の宇宙でしかな ハシリスクの乗って来たのは、特異宙域が太陽系に向かって突き 現在以外の瞬間を、どのように観測できるのだろうか。そのよ出した触手だ。この特異宙域の中心はここからシリウスへさらに一 うな、時間を定義できない宇宙では、光速度でさえ絶対的な尺度に光年ほど近づいた所にある。中心付近では光速度は通常空間の数百 はなり得ない。 倍に達する。ただし、中心から離れるにしたがい、急速に速度は低 宇宙は、始源時においては、無限大の光速を持っていた。この時下するが。 には、あらゆる地点での存在が宇宙のどこにでも情報として伝えら私はさらに聞いた。このような宙域は、宇宙に多く存在している れる世界であり、相互の位置は定義できるが、情報伝播時間はどこのだろうかと。すると彼らは、よくはわからないが、この宙域はそ にあってもゼロになる。さらに、単位空間当たりのエネルギー量はれほど珍しい存在ではないようだと答えた。そして、この宙域は絶 無限大だったはずだ。 えず移動している存在なのだとも。
度計を置いて、潮汐力が発生していないか測定してみたのだ。その だ。しかも、加速度自体も増大しているというのに。 考えられることはただひとつ、巨大な重力場に・ハシリスクがとら結果、もしも本艦が重力場の中にいたとしても、それは完全に一様 4 えられ、引き寄せられているということだった。最も理解しやすい なものであるということだけがわかった。潮汐力は見いだされなか モデルは、前方に大質量点が存在するということだろう。他の観測ったものの、このことはひとつの可能性が消去されただけにすぎな いのだが。 機器は、パルス電波の類も光学的な存在も一切受信していないか ら、おそらくそれは・フラックホールのようなものだろうと私は考え 七月二五日日曜漂流一一〇日目記 それもよし、私は一人で笑った。・フラックホールの作り出す潮汐昨日まで、ずっとデータのみを記してきた。他に書くべきことが 力に艦ごと引き裂かれて死ぬというのは、考えうる限りで最も派手なかったせいだが、私の体に感じることも書いておく必要があるだ な死ではないか。しかもそうなれば、艦外に泳ぎ出していった仲間ろう。 いではな私の体にも、何ら加速度は感じない。座標よりの加速度はすでに も、やがて・ハシリスクに集中してくるはずだ。それも、 一を超えているというのに。速度は三五、〇〇〇キロ / 秒と少 いか。私はそんな風に考えている。 し。決してデータの間違いではない。そのままにしておいた潮汐計 測も、全く反応は示さない。 六月一六日水曜漂流七一日目記 私の予想は、はずれた。艦は直線的に加速しており、正艦首方向 にシリウスを向けたまま、いささかも軌道はねじまげられてはいな俺はかなりあせってノートのページをめくった。もしかしたら、 かった。ということは、・フラックホールは艦とシリウスとの間にあそのままずっとデータばかりが記されたままで記述は終了してしま うのではないかと心配したのだ。いらいらと時計に眼をやりながら るはずだ。だが、艦の進行方向をいくら観測しても、・フラックホー 数字の行列を読みとばしているうちに、ほとんど最終ページ近くに ル存在の客観的な事実は見い出せなかった。 なって再び文字はあらわれた。 正艦首方向に、びたりと・フラックホールが存在しているという、 考えられないほどの確率の低さは無視するとしても、艦の異常な加 速を説明するために、・フラックホールを持ち出すのは無理なよう 一二月一七日金曜二五五日目記 あと二週間ほどで、二一〇〇年も終わろうとしている。地球の太 陽のまわりの公転をもとにした暦など、今の私には遠い存在だ。太 陽系それ自体でさえ、同じことだ。 六月一八日金曜漂流七三日目記 もうひとつの測定をやってみた。艦首と艦尾にそれそれ精密加速あの戦いは、すでに終了したことだろう。この艦が、ガニメデの
定しようーーそれなら、コルレヴァリュローはだれが″創り出し われわれに彼らの存在の気配が見えないように、ジーノとメイラた″のか ? 最大の疑問を、たんに一歩あともどりさせたにすぎな 3 いではないか。 ーにもわたしの存在の気配は見えない。それでも、彼らは自己流の やり方で反応していた : ・ しかし、あらゆる存在のレベルの中には、その中核の謎を解く鍵 最上級統合探求者としてのわたしの役目は、十二分に満たされがある。それらの鍵を手にすることによって、すべての生物は生命 た。部分の集まり以上に大きい究極の全体像を、わたしはつかんの段階を昇っていくか、それとも袋小路にたどりつくーー繁栄する か、それとも絶減する。 だ。友人が冗談まじりに″宇宙の秘密″と呼んだものを、わたしは 見つけた。 わたしの見つけた鍵は、人類を衰退と死に追いこむような鍵だっ いましがた観察したあの映像のように、銀河系に進出した人類た。われわれの住む世界はたんなるウムヴ = ルトであって、宇宙で、 はないのだ。 コルレヴァリュローがわれわれを創り も、ただの幻影にすぎない。 出したのだーーーそれも、自由意志を備えた本物の創造物ではなく、 一種の複製として。 わたしは博物館をあとにした。ノーマからは自分の船で飛び立っ その証拠は決して見つからないだろう。これはたんなる直感であた。 ' ふるさとの世界へはもどらなかった。そうする代わりに、ある る。しかし、わたしはこれまでの経験から、自分の直感を信用して荒れ果てた惑星へと向かった。いまそこで、わたしはだれとも交際 いる。あの閉じこめられた映像とおなじように、、人類もしだいに衰を絶って「余生を送ろうとしている。勝手な思いこみを許してもら 弱し、プログラムされた反応を聞きとりにくくなっていく。あの閉えるならば、、わたしは宇宙の病いをさぐりあてようとして、個人の じこめられた映像とおなじように、われわれはしだいに遠く離れば病いに罹ったのだ。もし、ほかの人間とっきあえば、おそらくわた なれになり、鮮明さを失っていく。あの閉じこめられた映像とおなしの心の中にあるこの衰亡の種がひろがっていくだろう。 そして、どこまでもひろがるだろう。 じように、われわれの末路は過去の遺物をほじくりかえすことだ け。複製には創造的な未来がないからだ。 あまりにも心の痛手が大きかったため、わたしは自分が博物館で これこそわたしの巨大な単純化、これこそわたしの宇宙との合一やり残したことを、このわびしい住居にたどりつくまで思い出せな かった。ホロキャツ。フのスイッチを切るのを、忘れてきたのだ。 だ ! これは衰退を前にした花盛りでもある。 なにかの発作にでもとりつ いや、こんな考えはナンセンスだ , いまもあそこで二つの映像は、果てしない会話をつづけているか かれたのか ! わたしの推論にはなんの根拠もない。究極的な″宇もしれない。電池のなくなるまで。そのとき、はじめて二つのしゃ 宙の秘密〃など存在しないことは、よくわかっている。それに、こ べる顔は、恵み深い無の中に沈みこみ、去っていくだろう。 の場合、かりに人類がコルレ・ヴァ、リヂプ = の創造物でしかないと仮音声は絶え、映像は消え、静寂が残る。 っこ 0-
いのものなんだわ」 いんだ。十五年前にきみのくれたホロキャツ。フを、わたしはどこへ 「わたしはいまでも昔のことをお・ほえているよ、ジーン。きみがゴ行くにも持ち歩いている。離婚が成立したとき、、わたしは宇宙傭兵 3 ー。 ( ルと結婚してから、もう十年になるはずだ。たぶん、わたしをの艦隊に加わった。現在、われわれは汎スラ・フ連合側について戦っ 忘れているかもしれない。たぶん、このホロキャツ。フは歓迎されなているが、ついさっき、これからスカンドラへ向かうことがわかっ いだろう」 た。あいにく、目的は好ましいものじゃないがね。そこでわたし わたしが耳をそばだてて立ちつくしている前で、二つの映像はう は、きみにこれを渡すチャンスがあることを信じて、このホロキャ っとりとおたがいを見つめあい、意思のつうじあわない会話をつづ ップを作らせた。メッセージはごく簡単だーーわたしはきみのすべ けた。 てを許す。これだけの年月が経っても、やはりきみはわたしにとっ 「わたしたちの考えはちがうーーーっまり、ちがった考え方をするのて大切な人なんだよ、ジーン。たとえわたしがきみにとってなんの よね」ジーンは目を下に落としていった。「あなたならうまく説明意味もなくても」 できるでしようーー昔からインテリだったから。知ってるわ、あな「クリス、あなたの妻です、ジーンです。いまどこにいるにして たはわたしが頭が悪いから軽蔑してる、そうでしょ ? わたしたちも、聞いてください。そりや二人のあいだにいろいろもめごとはあ いっしょに暮らしてたときはこんなこと は非言語的コミュニケーションを持ってるっていうのが、あなたのったわ、でも : : : クリス、 いえなかったけど、あなたと結婚してほんとによかったーーあなた ロぐせだったわね : : : どういえばいいのか、よくわからないわ。た だ、傷ついたあなたが、腹立ちまぎれに新しい旅へ出かけるのを見は大切な人です。失いたくありません」 るのが、悲しくてたまらなくて、だから , ーーええ、そうなのよ、ごら「ふしぎな運命だよ、きみがゴ ーパルと結婚してから、たぶんきみ んのように、あなたのいじらしい妻が、自分の足りなかったところの故郷になっているだろう惑星へ、わたしが敵として乗りこむこと になろうとは。わたしはいつもあいつを、わたしたちのあいだへこ を埋め合わせようと、このホロキャップを送ったの。愛をこめて。 いとしいクリスーーーねえ、おねがい どうか地球へ帰ってきてちそこそ忍びこんでくるろくでなしだと思っていた。彼に伝えてほし ようだい。そしたら、なにもかももとのようにうまくいく わ。わた い。彼がきみの面倒を見ているかぎり、ほかにどんなことをしよう したちはおたがいのものだし、わたしはあなたを忘れてません」 と、わたしはなんの悪意もいだいていない、とね」 これだけのことをしゃべっているうちに、彼女はしだいに興奮し女がいった。「あなたがどこにいようと、愛を送ります。考える てきた。 のはあなたのことばっかり : : : 」 「きみがわたしを歓迎しないことはわかっているよ、ジーン」メイ「彼のおかげで、きみがわたしをすっかり忘れていたらいいのに。 ラーがいった。「だれも時間を逆もどりさせることはできない。し彼はわたしにそうする義理がある。きみとわたしは、むかし、おた かし、チャンスがきたら、わたしはどうしてもきみと連絡をつけた がいにかけがえのない存在だった。あれ以来、わたしにとってあんな
の他』 ( 雄鶏社 ) の初版出版年については、その年がおわってすいぶんたってか くわしい読者の御教示を期待していま である。 ら出されているからである。 す。 目録では四八一ペ 1 ジに出ている。 昭和二一年の出版物が収録されている ( なお雄鶏社の読みをャ行にするかア行 記されている出版年は二つあって、ひ年鑑は、『昭和二十二年 / 二十三年版』にするかについては、出版年鑑の出版社 とつが昭和二一年 ? 月であり、他が昭和と名づけられていて、二一年分の他に二 リストにしたがってャ行にした。しかし 一三年六月である。 二年の本も同時に収められている。しかア行が正しいような気もしている ) このうち、一三年版については、たしも発売されたのが昭和二三年の一一月に かに存在することがわかっている。私自なってからである。 しかしそれにしても、ミステリー界に 身所有しているから、これはまちがいな このような状態だから、本来昭和二二は大変な人が多い。歴史が浅いせいもあ い。六月より前の月に出たのがあるかも年のリストに並べられるべき本が誤ってって、 cng.æ界はまだ足もとにもおよばな しれないが、とにかく昭和二二年という昭和二一年のリストに混入してしまった いことがいくらもある。 年に出版されている本はあるのだ。 としても、すこしもおかしくはないの 中島河太郎氏のような書誌学部門もそ : 」 0 問題は昭和二一年の版である。 のひとつである。 じつをいうと、現物に当ったことがな ( なお発行日については、このころの出昔一度だけ、氏の書庫を拝見させてい いのだ。したがって四八一ページの表記版年鑑にはどの本も省略されているの ただいたことがある。厳重な耐火ビルの 法はまちがいということになる。 C 内ので、調べようがない ) 二階建てで、出入口は外からの火焔を防 記号を除去して掲載しなければいけな さて、中島河太郎氏の御意見によれ ぐための大きな金庫扉になっている。む 、。旧版のものがそのまま写ってしまっ ば、この二一年版は「出版されなかったろん火だけでなくドロポーさんも入れな たのだが、これは私のミスである。 のではないか ? 」ということなのであ しかし旧版においても、根拠なしにこる。 そこに整然と人名別に並べられている れを載せたのではない。 私としても、出版年鑑の記述よりも中 。いったいどのくらい ミステリ】の数よ、 当時の出版年鑑にちゃんとリストアッ島河太郎氏の御記憶の分が正確だと思う になるのだろうか ? 。フされているのだ。 のだが、これについても「ない」ことの雑誌にしても、日本に三セットしかな だから、出たことは出たのだーーとい証明は困難という問題があって、下巻を いといわれる新青年の全巻揃い ( この雑 えることになるわけだが、どっこいそうつくるときに付するつもりの正誤表によ誌には創刊号あたりからすでにがの は問屋が卸さない。 って完全に消してしまう , ーー・というとこ ってるんですよね ) をはじめ、じつに膨 なぜなら、現在の出版年鑑とちがつろまではいきにくい 大なものである。 て、当時の混乱期の出版年鑑というの この件についても、当時の出版物にお 石原博士の書庫 ( というほどのもので 4
きたとはいわないのに、 SF の方はファン タジイのサフ・ジャンルだという議論がなさ この二つは区 れうることである。確かに 別が難しく、多くの専門誌がそれをひっく るめていうことで、その困難を克服してい る。すなわちファンタスティック・サイエ ンス・フィクション・ストーリーズ誌、 ガジン・オプ・ファンタジイ・アンド・サ イエンス・フィクション、サイエンス・フ ァンタジイ誌といった具合で、他にもたく さんある。イタリア語では S F のことをフ ファンタジイ ァンタシュ・ンツア fantascienza とサイエンス 語 ) と呼ぶ。 その一方では、何人かの批評家が、二つ のジャンルは決して混同されるようなもの ではないと主張している。ダルコ・スーヴ インもその一人 ()S F の定義 ) 。両者を 区別する最も簡単な方法は、おそらく二つ のステップに分けて考えることだろう。ま ず、小説形式のすべての文学作品を、紙の 上に画いた大きな円の内側にあるものとし て思い浮かべる。大きな円の中には小さな 円があり、ファンタジイとラベルがつけら れている。大きな円の中にあるものはすべ て虚構作品と見なされるわけだが、それと の違いは、小さな円の中の物語が現在にも 過去にも起こりえないものであるのに対 し、大きな円に属する作品はそれがおこり うる、すなわち、現実を模倣したものであ るということである。ファンタジイは、物 語の少なくともどこかの要所において、常 に本当らしさに欠けている。この区別はむ ろん完全に満足されるものではない。とい うのは、読者のうちにある種々の信念によ りかかるところが大きすぎるからである。 われわれの知るかぎり、ホメロスの聴衆は 額の真中に一つだけ目のある大男が本当に 存在すると信じていたのであり、『オデュ ッセイア』 0 お 0 は、リアルな旅行記だ ったのである。 小さなファンタジイの円の中には、さら に小さな円があり、 S F というマークがっ いている。 ( これはすべての S F はファン タジイであるが、すべてのファンタジイが SF とはいえないとする論法である。同様 に先の例ではすべてのファンタジイは小説 であるが、すべての小説がファンタジイと はいえないと仮定されている ) 。われわれ はとりあえず、この S F の円に含まれるも のの共通点として、そこで起こるできごと には合理的な説明があると、読者に信じ込 ませたがる特徴を挙げよう。けれども、合 理的説明はなされるが、これらの小説は現 実世界のできごとを模倣しようとはしな い。その理由の一つは、想像されたできご とが未来に設定されているためであり、ま た別の理由としては、想像された事実が現 実世界でまだ起こっていないためである。 たとえば地球に彗星が衝突したり、アメリ 力に黒人の大統領が選出されたりというよ うなことである。これらは不合理でも超自 然的なことでもないが、今までのところ現 実世界と並行していないというわけでファ ンタスティックなことなのだ。 ファンタジイの円の中にあるが、さらに 小さな S F の円よりは外側にあるすべての ものは、どこかの部分で、不合理なものに 頼っている。普通それはオカルトの一形態 であったり、超自然力の干渉であったり、 魔法であったりする。ノン S F ・ファンタ ジイは、知識へではなく、神秘へと向かう ものである。それは認識に関わりあうもの ではない。、、天地には思いもよらないこと が、そのスローガンなのかも がある・・ しれない。それは未知によってわれわれの 興をそそる。その登場人物たちはしばしば 謎めいた、あるいは異様な秘密を伝授され る。 S F とノン S F ・ファみタジイとのあい たに設けられるこの雑な、実用的区別法 270
もしも、手もとに分光観測機があれば、さらにいろんな事実がわても気になることがあづたのでもう一つの検査を行なった。 - そのこ かったかもしれない。い くらなんでも、光速度が無限大などであるとを記したい。本艦の医療ュニットの中に、精神分析のセットがあ 4 っム はずはない。 この宇宙であっても、上限が存在すると考えるべきった。単純なものだ。さまざまな遭難事故の状況に応じて各乗員の だ。トリマンや、太陽のスペクトルを精密に観測することができれ精神状態をチェックし、もしも指揮官の分析結果が基準値を下まわ ば、光速度も測定できるのだろうが、本艦は戦闘艦であって観測船れば、他の者に代行させるというものだ。このノートにも、コビー ではないのだ。 を焼き込んでおくが、私自身の精神状態はきわめて正常で、指揮官 ダイライン そのかわりに、私はひとつの実験を行なった。艦の係留アンカー としての責務を果たすのに不都合な所は何もないとの結果が出た。 射出機から、ワイアをはずしたアンカーを射ち出し、レーダーでそだが、私が完全に発狂しているのであれば、このような自己分析自 れを追ってみたのだ。規準通りの初速で慣性飛翔するアンカーの距体が無意味なことなのだが。 離は、簡単に算出できる。それをレーダー観測してレーダー電波の昨日の記録には書かなかったことがもうひとつある。艦外活動中 速度ーー・・・・光速に等しいと考えてーーを逆に計測しようとしたのだ。 に見たあれは、幻覚なのかもしれない。だが、私にあのような幻覚 念のために、艦首部にあるレーダーとは別に、艦尾にもサ・フ・レー を見る潜在的な願望は見当たらない。しかし、幻覚ならそれでもよ ダー・システムを据えて、艦側直角方向に射出するアンカーを追跡 。私の見た主観的な事実を冷静に記すべきだ。もしもこの記録が させ、正確を期すようにした。 精神分析医の手にわたることがあれば、彼はこのような状態で見る これらの一連の実験のために、艦内に残り少なくなっていたエネ幻覚について講義をしてくれることだろう。 ルギーを、大幅に消費することになった。閉鎖循環システムが停止鳥を見た。 するまでの私の余命は、一気に一〇〇日足らずに短縮するはずだっ 大きな鳥だった。星空を背後に大きくはばたいて私のそばを通り たが、別にためらいはなかった。 すぎていった。エウロ。ハ生まれの私は、今まで地球の空を飛ぶ鳥な 結果のみを記す。初速から算出したアンカーの位置は、艦首及びど見たことはない。だが、写真で見たことのある鳥とは全く違って 艦尾から測量した方向角と完全に一致した。そして、レーダー電波 いた。宇宙空間をはばたきながら飛ぶ鳥など、ナンセンス以外の何 の速度は三〇万キロ / 秒。光速度は常に一定ということらしい。つ物でもない。 け足すなら、私に残された日数は六〇日 + 三〇日というところだ。 しかし、あの鳥の表情は忘れることのできないものだった。私の 少し休息が必要なようだ。 方を見たあの眼はーーー何と言っていいのか言葉がみつからない。例 えば、愛、あるいはやさしさという言葉がそれに近いのかもしれな 一二月一九日日曜二五七日目記 、。私は田 5 わずその鳥に声をかけようとした。島は 昨日、四時間に及ぶ艦外活動で私は疲れ切ってはいたが、どうし
だが、そのこと自体はあまり重要なことではない。我々が、このら、誰でも一度は聞いたことのある話だ。第三期の外宇宙探査計画 艦の全センサーを動員して宇宙空間の学術観測を始めるうちに、我である、オデイセウス・シリーズに、登録されることのなかった零 我は奇妙な事実に遭遇することになったのだ。 号機ーー・オデイセウス・〇。ーーが存在したというのだ。そしてその その最初の徴候は、すでに入力のないまま放置してあった電波系零号機は、銀河中心に向けて果てしなく加速し、今もなお飛びつづ 通信機の受信部に、入力が認められたことだった。最初、我々は何けているともいう。 らかの雑音が受信アンテナにとらえられたのだろうというぐらいに さらに、これに加えて超光速宙域の話も我々は知っていた。太陽 しか、考えなかった。なぜなら、すでに制御されていなかった受信系のすぐ近くを、超光速空間流が流れているというのだ。オリオン アンテナは、太陽系とは全く異なる方向に向けられていたからだ。座の方角から銀河中心に向かって流れるそれは、絶えず径とその流 有人外宇宙探査隊のいくつかは、いまだに太陽系を遠くはなれたれの位置が変化し、近づく船を呑み込むのだと伝えられていた。そ 宙域を航行しているはずだったが、戦前の全盛時に比べれば今ではして、オデイセウス・〇はその空間流にそって飛翔しているのだと わずかなものでしかない。我々にとっては敵である航空宇宙軍の外いうことも。 宇宙艦隊に属する、有人外宇宙探査隊の動向は、正確には知らなか我々は、全員でそのオデイセウス・〇からの電波を解析した。お ったが、その時機、その方向で行動中の外宇宙船がいるとは思えなそろしくシフトし、微弱なその電波の意味を、我々の貧弱な装備で かったのだ。 解読できるとは、あまり期待はしていなかった。だから、我々の関 その受信アンテナは、ヘびつかい座といて座の境界付近を指して心はもつばらオデイセウス・〇の慣性飛翔速度、及び相対位置の観 いた。そして、その方向は実は銀河中心方向であることに気づくの測に向けられた。 には、時間はかからなかった。 それを知ることができれば、空間流の位置ーーとは言っても、電 通信兵は、この電波にかかりつきりで分析を続けた。そして得ら波を発信した時点と、オデイセウス・〇の位置から見たという意味 れた結果は、おどろくべきものだった。この、銀河中心方向からのでしかないがーーーもわかるだろうと、我々は考えたのだ。実際、我 電波は、あきらかに人類の発したものであるとーー・・異知性体でも何我の軌道と太陽系ー銀河中心を結ぶ線とは一三〇度もの角度があっ たため、移動しながらの観測はそれほど困難ではなかったのだ。 でもない、我々と同じ地球人類のものであるとーーしかも、大きく ドップラーシフトし、雑音かと間違うほど減衰した電波の発信源そして、その結果は我々にとってめくるめくものだった。この記 は、少なくとも十数光年の彼方を亜光速で飛翔中の宇宙船であると録を手にする者は、すでに亜光速航行、あるいは外宇宙航行といっ いうのだ。 たことはさほど珍しくないかもしれない。だが、ガニメデ籍の宇宙 4 っ 4 私を含めて全員がある古い話をおもい出していた。それは、外惑船乗りだった我々にとって、外宇宙とは手の届かぬ存在でしかなか 星連合軍、航空宇宙軍の双方を問わず、宇宙空間を航行した者なった。今までにも有人外宇宙探査は行なわれたが、それらはすべて
てのも、妙な気分だ。気をとりなおしてよく見てみると、その部屋装材の色の違いでわかった。ただひとっ残されたトイレの、開けら のひろさも気閘室より広いとはいっても、たかがしれていた。俺のれたままのドアから中をのそきこんだ俺は、この船のクルーのうち ヘッドランプの光が壁面で乱反射し、かざり気のない室内をぼんや何人かは女性だったということを知った。航空宇宙軍じゃ、昔にく りと照らし出していた。ヘッドラン。フの光束を広角に切りかえるらべりやましになったものの、今でも艦載機には女は乗せない。 と、なれた眼は不自由なく室内を見わたせた。 無重力べッドは六個あった。もちろん、だからと言ってこの船の その部屋の内部は、気閘室とはちがって円筒そのままだった。だ クルーが六人だというわけじゃない。十二人かもしれない。あるい が円筒の径は、気閘室の部分よりいくらか小さい。それはこの船首は九人かも。俺はその船内にあった五個の耐シートを見て、たぶ 部の外形を見た時から予想していたことだったが。ただし、中央部んこの船のクルーは九人くらいだろうと見当をつけた。残りの四個 チュ 1 プ が操縦室にあるはずだ。 分には、ここにも連絡筒が突き抜けている。 全体の形は、初期のころの内宇宙貨客船にはよくある″マウス車気閘室とをへだてる隔壁を下にした配置の耐 ()5 シートは、いずれ 輪″の見本みたいな形をしている。内宇宙航路でさえ旅客専用高速も俺達の艇のようなカプセル型の複雑な機構は持っていない。せい 船と、無人貨物船とに完全にわかれている今じゃ、貨客船なんてのぜい二分の一程度の加速性能なら、ただのシートでも充分通用す は見たこともない。もちろん、乗客の快適さを増すためのこのいかる。 にも原始的な、人工重力装置も話に聞いたことがあるだけだった。 この部屋は、たぶん乗員居住区であると共に、あとから改装した だが、その部屋の内部は、あきらかに戦闘艦用に改造されたあと時につけ加えられた諸機能の制御を行なう発令所を兼ねていたのだ が見えた。おそらくその部屋の内部は、最初はいくつかの小扇形のろう。そこにあるシートに座ってコントロールするのは、中継なし に作戦宙域から母港へ、傍受される心配なくダイレクトに通じる通 小部屋に分割されていたのだろう。そして、中央軸部分のチュープ をとりまくようにして、ドーナッ状の回廊をめぐらしていたはず信装置であり、この船の存在を暴露することなく自船の現在位置を つかむ大容量受動型航法装置であり、そして火器管制システムだ。 この部屋のさらに上ーー気閘室との反対側にある最後の部屋、操 しかし、この居住区を仕切るそれらの隔壁は、今は全部とりはら ハードウェアしか詰まっていないはずだ。 われてひとつの大きな部屋になっていた。そして、無重力ペッドや縦室には、商船としての 筋力トレーニング器械を見るまでもなく、大質量のドラム回転装置だが、それだってシート四つ分の制御端末は必要なわけだ。 が取りはずされているのが分かった。そんな人工重力が必要なの俺はその部屋の、五つのシートのうち戦闘指揮のものと思われる ードウェアを見た。たぶ は、宇宙慣れしていない旅客だけだ。なくたって別にどうというこ 三つのシートと、その周囲に配置されたハ 3 とはない。 ん、小出力レーザーの他には投射型のミサイルとランチャーを、船 2 隔壁と共に、個室のトイレもほとんど取り払われているのが、内体中央部の貨物区画に積み込んでいた程度の武装だったんだろう。
が、こちらの世界の草をはんでいる。やが いうなればこの宇宙規模の時間災害が人 これまで短篇ないしは中篇しか書いてい なかったルーマニアのギョルゲ・ササルマて人間たちもその〈門〉をくぐって姿を消為的な黙示録であることは明らかである。 ンが、今年のはじめ長篇『二〇〇〇年』をしはじめた。どうやら彼らは過去へ降りる文明の礎石も、永遠なるものの象徴もつぎ 発表して注目を浴びている。ューロコンー か、未来へ登っていくらしい。異変に驚いつぎと崩壊してゆき、時間嵐がやんだと で受賞した中篇『アルジャー / ンの逃た当局は、タイムトンネルの出入口に警備き、あとに残ったのはただ荒廃した地球だ 亡』が本誌一一月号で紹介されて、好評をえ兵を立てて、往来を防ごうとする。だが、けであった。 そのうちタイムトラベルの方法やガイドプ作者は、わずか一一十年足らず先の二〇〇 た作家である。 物語は、途方もない大がかりな実験からックまで現われ、時間旅行が一般化する。〇年に、未来と過去に通じる〈時間の門〉 始まる。ヨーロッパのある国の科学実験所いつの時代でもそうだが、大災が起るを設けることで、ただ宇宙の破局を描こう としたのではない ( 二〇〇〇年という年の で、クオークスと呼ばれる亜 設定は、明らかに、キリスト教の至福千年 量子を解放するために、その 国の電力総生産量の四分の一 期の思想を念頭においている ) 。過去から ルものエネルギーを消費する超 呼び寄せられたソクラテス、ダヴィンチ、 トーマス・モア、ニュートン、ヘーゲル、 分子加速機が科学者たちによ アインシュタインといった哲学者、思想家 って開発され、可動させられ ることになった。ところが動 との、科学の倫理についての異常な対話が ここでは重要な意味をもっている。作者は C•Q かしてみると予期に反して恐 人間の知識そのものの再点検をおこなっ ろしいことが起ったのだ。装 ているのだ。現在人類が直面している厳し 0 置が作動しはじめたとたん異 い問題は、核エネルギーや遺伝学、情報科 0 変が生じ、宇宙に摂動が起っ て、地球上いたるところで 学などの助けなくしては解決できない。だ が、そうした高度のテクノロジーが地上の 〈時間節〉ーーっまり、現代から過去の歴と、そのどさくさにまぎれてひと儲けたく 0 ン史時代へ、また逆に未来から現代へ通じるらむやつはいるもので、この奇妙な科学実生命を絶減させるおそれもある。この作品 0 マ 〈時間の門〉が現われたのだ ~ その結果、験の結果が引き起した消減や災害もそうしはそうした問題に答えようとしているが、 0 レ たとえばアレクサンダー大王の軍隊が、そた連中に利用され、無知な大衆が餌食にな実際には解答をだしていない。作中かなり 重要な意味をもっている人物が、〈時間の の門をくぐり抜けて現代へーー一一〇〇〇年る。 門〉をくぐって姿を消したまま戻ってこな 年 . サになだれ込み、イラン領内を走 0 ていた列やがて、その異常現象の強い緊張に耐え 。これはおそらく続篇を書くための布石 0 ・ケ車を襲 0 たり、時計など存在しなか「た時かねた地球に、激しい地殻変動が頻繁に起 O レ 代で、振り子時計が時の鐘を打つ。そうか り、それが大規模な火災や洪水、地震、噴だろう。 と隸えば、どこか別の時代から現れた仔馬火をともなうようになった。 深見弾 G ( ) 目物 n 2 ① 3 く 3 ミレ - 一ア . ー 33