なった。どんなに巧妙にかくされていても、道化はたちどころに、 ら″という仮定におさえこまれた形で、頭うち状態におちいってい ″釘のありかを発見し彼の知能では、とても見つけられない 筈のかくし場所から、やすやすと″釘″をひろい出すのだ。 そんな時代に、技術者たちは、道化の存在を知った。発明よりも ばあさんが死んだ時、道化をひきとったある施設の長が、彼の能応用の才にめぐまれた彼らの頭に、閃くものがあったのも当然であ 力を発見し、彼を大学の研究室にひきわたした。狂喜した研究員たる。 ちは、道化を相手にテストをくり返した。驚くべきことに、小規模道化は″釘″を呼ぶ。呼び声は、″釘″がどこにあろうと届く。 なマルチ空間のモデルを使っても、道化の能力に変化はないことがおまけに、その″呼び声″は、超心理針で検出可能だった。科学者 わかった。″釘〃がいかなる種類の空間にあっていかなる時空ヴェと技術者たちが、主として感動をおぼえたのはこの点である。道化 クトルで移動していても、道化は″釘″の位置をつかみ、ばかりか は″釘″を呼ぶことができる。ならば、他のものを呼ぶことはでき それを彼のほうに″ひきよせる″ことができた。 ないか ? 例えば宇宙船を。 要点はこうだ。幸か不幸か、当時すでに、超空間飛行の理論は完 できた。技術者たちは″釘〃の正確なコピーをつくり、それを宇 成していた。その理論が、そして空間工学に関する他のすべての理宙船にのせた。無人宇宙船は、位置同定不能のまま、とにかくもマ 論が実効性を欠いていた理由は、ただひとつ、マルチ空間に意味のルチ空間に投げ込まれた。第一回目のテストでは、宇宙船内から、 ある座標系を設定することが不可能だったからだ。座標系が必要だ″釘″のコピ 1 だけが帰って来た。第二回目のテストでは、宇宙船 った。宇宙の中心点が・ーー言うなれば、空間工学というテコの支点は自分自身の中に突入し、裏がえしになって通常空間に落ちて来た が、少なくとも想定される必要があ「たのだ。星間航行における最が、 " 釘のイ , ージを記録したポ ' クスのそばで、超心理針が道 大の問題点は光よりも速く飛ぶこと自体ではなく、マルチ空間内で 化の″呼ひ声〃を検出していたことがっきとめられた。 位置を同定することにある。それは単に、道に迷わぬための方便で それで充分だった。道化は、船そのものを動かすことはできなか ーない。マルチ空間航法は、ドリルのように空間に穴をうがち、空ったが、″釘″の位置を把握し、″呼び声″をおくることができ 間そのものを手がかり足がかりにして進むという方式だったから、 る。光も電波も、位置同定の手段に使用できないマルチ空間内で、 . 確定された座標系と、それによるフィード。 ( ックがなければ、そもこれは、疑似座標系設定の第一歩となる。あとは、道化の″呼び そも数メートル以上移動することが不可能なのだ。 声〃を、位置同定ビーコンに″翻訳〃すればいい。 同様のことが、反重力、重力遮断、各種エネルギーの位相変換、 かくして道化の脳髄は、光コンビータに接続され、″ビーコン 亜空間メモリー 、その他一切のことについて言えた。空間工学に関・アルファ〃となった。本来不可能だった空間工学が発達し、その する様々な理論は、実用一歩手前までいきながら、″もしも、マル産物はすべて、星間交通局によって厳重に封印された古釘のイメー チ空間というとらえどころのない相に、疑似座標系が設定できたジボックスを備えることとなった。 こ 0 ー 45
のー るりと取り巻く。 だけを残して暗黒の空間になっていたのだが、その暗黒の空間の中 私はガタガタと震えた。 に、白い点がポッポッといくつも見えたのである。 人々の顔や手足は真黒だったのである。ただ色が黒人のように黒「宇宙空間だ ! 」 くなったというのではない。眼や鼻やロなど立体的なものがまるで女の子の顔に宇宙空間が見えたのである。まるで宇宙を覗く窓だ。 判らないように真黒になっていたのである。 まわりの人々をよく見ると、やはり、暗黒の中に白い点や、星雲 顔や手足のシルエットだけを残し、そこだけポッカリと暗黒の空 などが見える。 間が抜けているみたいに見えるのである。服はちゃんと見える。 「なんというシュールリアリズム」 そして、さらによく見ると人々の服の上にも、黒い斑点がいくっ 私は眼をしばたたいた。 も浮き出しはじめていたのである。 私の傍に、おじちゃんどうしたの ? とスカートをはいた小さな 私は電柱から、とび降りた。 女の子らしい人物が近寄ってきた。彼女の顔や手足も、シルエット 人々が後ずさる。 62
設備、それに大きな通信装置ーー博物館の壁は電磁波スペクトルを キロ強まで、まちまちである。 ノーマの最大の謎はこれだーー・この惑星の特異な地形は、もとか透過しないので、内部からの情報はすべて出入口からケープルで伝 らのものなのか、それともコルレヴァリュローの干渉によるものな達され、そこから第二空間経由で銀河系各地に送信される。 のカ ? な・せなら、この建造物は、惑星を陸の北半球と海の南半球「探求者よ、お待ちしておりました。ノーマ博物館にようこそ」 にすつばり二分しているからである。その片側には、烈風と青味が アンドロイドはそういって、わたしをェアロックからホテルの内 ここでもアンドロイドがすべ かった雪に磨りへらされた、クレーターだらけの果てしない平原が部に案内した。ほかとおなじように、 ひろがっている。そしてもう片側には、恐ろしいアンモニアの大洋ての卑しい仕事を受け持っている。わたしはロビーのカレンダー時 がのたうっている。島一つないその海には、火炎魚やそのほかの神計に目をやり、到着した旅行者がみんなそうするように、腕コン。ヒ 秘的な生き物が棲んでいる。 、ーターをパンチして、地球がいまどのあたりの時間にあるかを調 コルレヴァリュローの建造物のいちばん幅の広い部分に、不調和べた。 なビルがごちやごちゃとひとかたまりになっている。宇宙空間から アルファ音楽の優しい鎮静作用の中で、わたしはぐっすり眠って やってきたあなたは、それを見てほっとする。宇宙船が着陸し、あ超光速ラグを吹きとばし、翌日は博物館そのものへとでかけた。」 なたはエレベーターに乗りこみ、建造物の屋上に出る。そして 不可解なほどシンメトリックな宇宙 ( そして、コルレヴァリロー 博物館は二十名の人間の職員で運営されている。ぜんぶ女性であ がその侮りがたい一部を形作っている宇宙 ) のまっただなかに る。館長は探求者に必要な情報をすべてわたしに与え、観覧用の乗 人類が一つの乱雑な足がかりを築いたことをうれしく思いかえす。 り物をいっしょに選んでくれた。わたしはそのあと、ひとりで館内 いっとき、わたしは宇宙船のそばに立ちどまり、巨大な周囲の環へとはいっていった。 境を目に入れた。むらさきの太陽が雲の中に昇り、わたしの立って人類は単分子金属を育てる方法を数多く知っているけれども、ノ ーマにあるコルレヴァリュローの建造物は、不可解な材料で作られ いる果てしない平原に影を駆けめぐらせた。遠い海は、見えないむ ていた。その全長を通じて、どこにも継ぎ目や縫い目がないのだ。 こうでどよめき、むせび泣いている。そこは淋しい場所だったが、 さらに、その材料は光を封じこめているか、放射しているらしく、 わたしは淋しさに慣れていた。わたしがふるさとと呼ぶ惑星では、 館内では人工光線の必要がない。 年末からつぎの年末まで、めったにほかの人間に会うことがない。 そのことを別にすると、中はからつばだった。赤道全周にわたっ 生殖センターを訪れるときを除いては。 て、この建造物はまったくからつぼだった。ただ、人類が千年あま 風に揺さぶられて、わたしはまた歩ぎ出した。 り前にそれを手に入れてから、博物館に改装し、そこへ銀河系のが ノーマで人類が作った建物は、博物館の巨大な出入口の前にかた まりあっている。参観者用のホテル、各種のオフィス、貨物の運搬らくたを詰めこむようになったのだ。
トメイや人こう 生密の オ 2 さ象うし・さこ実の の細一 スロデざ。しょ者 0 介現ろになななア エドルあるかる。訳 2 アのラ でが紹常だ難いん的ニ ニ類セウン一 , れこいか 国篇、り異る困がそ心コ アオでくそてう コ無 な長またあをちに野ー の・てのつろ リをス ん作あしろ出まスずへ へ史ペタ一近・せトプだ か新年とい訳てイら『 一ジ最・純みンダ目 星歴は さの 川つろがえデわの 。なてメがカ 惑のでピロ の家うよい体考ルか作 , ソた易しコ観ひ 化ス 版作もちは文と一い新 はンれ平理のの で文リ , 因い由オあ最 部たギ。篇アさく料公ら 黜→つは原な理の 一れイう短・表しに人のち 翻ないの。かな当にる るル発らと主スこ 第ま。い のう除うういき , し の生のとすナにずごるイ よをい思は大しなで 作にもた介ジ , めみ語デは のととで , かいん 部こたつ紹リ祐はををルの けスいか繩もし構組」第 だインない筋の。おり 」そいなにオ 3 て想史一る れデノいな一るだは取 ~ 第 相で位こ編』となの , 見 こルのては ンダスか類にに 春物さ 1 一冊れでがてそと験 乗り物で前進をつづけながらも、わたしは予想に反して、べつに博物館の中では、ここの光の特殊な性質が、どんな無限の印象を 無限の観念に圧倒されはしなか 0 た。無限に対するあこがれは、たも和らげている。自分がとほうもなく巨大な閉鎖空間の中にいるの ぶん太古の祖先が十までの数を指でかぞえはじめたときから、人類はわか「ているのだが、光線の関係で閉・広所恐怖の感覚はす 0 か り奪われているので、その巨大な広がりを描写するのはさし控えよ の心にやどっていたのだろう。宇宙空間へ進出するようになって、 その傾向はいっそう助長された。われわれが種族ぜんたいで経験しう。 これまでの十世紀あまりで、数千ヘクタールの面積が、人類のが ている幸福は、起源がもっと新しく、人類が成熟期に達してから得 らくたでふさがった。アンドロイドたちは、展示品を並べるために たものである。その傾向は、現在のどんな心配ごとをも無視して、 遠い目標に専念するという気質を作り出すのにも寄与していゑし休みなく働いた。展示品は電子工学的方法で走査されているため、 かし、わたしはーーー個人的意見だが・ - ・ーー無限のすべての形態にあこ文明世界に住な人間なら、だれでもこの博物館にダイヤルするだけ がれる傾向が、個人と個人密接な関係を妨げてきたという考えで、第二空間をつうじて、希望する展示品の立体映像を、、居ながら ナいまのわれわれは、惑星に縛りつけられていた祖先のように愛にして見られる。 ほとんど行き当たりばったりに、わたしは展示品の中を旅してい しあうことすらしなくなった。祖先とはちがって、いまのわれわれ っこ 0 は離ればなれに暮らすようになった。 解説人と作品 プライアン・ W ・オールディス Braian. 、 Aldiss
☆へひっかい座ホットライン : ジョン・ウアーリイ☆☆☆☆イラストレーション錦織正宜☆文森田繁 シンフ 共生者・バラメーター / ソルティス 上のイラストを御覧いただきたい。 この薄気味悪いのが、シンプ ( 共生 者 ) ・バラメーター / ソルティス壌だ。 ちなみに、彼女の名がバラメーター で、ソルティスは彼女と融合している シンプの名前である スペース・イラストレック、今回は ジョン・ヴァーリイの処女長篇「へび つかい座ホットライン』から、土星の 輪に住むシンプを取り上げてみた。シ ンプとは、太陽系に向けて送信される 謎の科学情報 ^ ホットライン〉によっ てもたらされた、一種のサイボーグ技 術だ。シンプそのものは単なる植物だ が、人間がこれに融合すると、シンプ は知性を獲得すると同時にほば完全な 閉鎖生態系を構成するようになる。こ く少量の固形物と日光の供給さえあれ ば、宇宙空間で生きることすら十分に 可能なのだ。もっとも、ヴァーリイカ なせ太陽光線を主エネルギー源とする 生物を、土星などという地に住まわせ たのかは定かではないのだが。 さてストーリイはというと、異星人 の侵略によって地球を追い出された人 類が、今度はどうやら太陽系からも追 い出されるらしい、というものである こう一言ってしまうと実も蓋もないの たカ、この作品はストーリイよりも、 的ディティールを楽しむ作品だ。 難しいことは言わすに読むのが一番 だろう
「百回目」 ビーコン・アルフアは、ゆっくりと崩壊しつつあった。空間はさ 「ウソだろう」 ながら、本来の姿をとりもどそうとする記憶プラスティックだっ ハットーは考えた。本当に今日は、フールの誕生日なのだろう た。空間工学の目に見えない支持材をとり去られたデッキは、たよ か。ケーキもロウソクもない誕生日なんて、ずいぶん淋しいものに りなく分解して行く。 し / . し 誕生日をむかえた子供にしては、フールはあまり楽しそ ビーコン・アルフアがなければ、本来そこにそのような姿で立っ うではなかった。ひょっとしたらフールはみなし子なのかも ている筈のない ( ウト次長は、借りを返しに来た空間の復元力に五 ( ットーは、両手をポケットにつつこんで、二つの品物をとり出体を引き裂かれる苦痛の中で、腕を組んだ少年の姿を見たように思 し、堂々たるポルトと、見すぼらしい古釘を見比べた。彼は、むず 0 た。あれは道化かも知れない、次長は、漠然とそんな感じを抱い かしい決断をせまられていた。フールと遊ぶのは、特に楽しいこと た。そして、これは確かに、次長は、調子つばずれの、しかしなっ とは言えなかったけれど、フールはシャツの汚れをとってくれた かしいメロディーを聞いた。 し、この古釘をもらって行けば、彼には何もなくなってしまう。 「おかえしに、これ、あげるよ」 ハッビイ・ハースデイトウュウ ハットーは、巴い切って言うと、ルトとナットを、例のテー・フ ハッビイ・ハースデイトウュウ ルの上にそっと置いた。まだ拾ったばかりだったのに ハッビイ・ハースディディアフール 「それから、フール、最後に歌を歌おう」 ハッビイ・ハースデイトウュウ 上等のシルフォンの礼服をかぎざきだらけにし、右目の上から血棚あげにしていた運動 = ネルギーをいきなり返債されて、数百の を流しながら " 釘の間。によろめき入った ( ウト次長は、カ。フセル静止惑星が蒸発し、数千の宇宙船が虚空に消えた。 プロトネイル を一目見て、宇宙が崩壊しはじめていることを知った。原釘とは 数十万バーセク四方にわたって、空間は沸騰した。多くの超新星 似ても似つかぬポルトとナットが、台の上に鎮座している。誰がこ が生まれ、そして消えた。 んなものを ? 誰も数えたものはいない。しかし ビー 0 ン・アルフアは、再び大きく身ぶるいした。部屋の天井と超新星の数は、ちょうど百個あ「た。 壁が、七色のスペクトルに分解しながら、ガラスのように砕け散 る。すべての物が、溶け、にじみ、輪郭を失いはじめた。フールが ″古釘″に対する愛着を失うとともに、人工的な力で矯められてい た空間が支点をはずされ、反乱をおこしたのだ。 22
考えた。それらの限界は、人間が用心深く彼らに負わせてきたものれにもかかわらず、まだそこの空気の中には、一目で人間の属世と である。アンドロイドはそのことに気づいていない。アンドロイド わかるものーー忍耐や、勇気や、希望ーー・が保存されている。かっ にとって、アンドロイドのウムヴェルト、つまり概念上の宇宙は、 てここに住んでいた人びとは、わたしの同類なのだ。 明らかに無限なのだ。それが彼らの幸福に寄与している。ちょう この宇宙船は、循環処理装置の故障のために、真空内で死減した ど、われわれのウムヴ = ルトがわれわれの幸福に寄与しているようのだった。当時のマイクロ・カプセル技術には、血球内への酸素注 入は含まれていなかったし、いわんやその特性を遺伝的にすること 日が経つにつれて、わたしは依頼主たちに役立つような並置や品 など、思いもよらなかったのである。すべての機材や内装は、その 物にでくわすようになった。それらはすべて腕コンビューターに記 故障が起きた当時のままにされていた。 録しておいた。 個人用ロッカーの中をかきまわしていると、古代金属の一つ、金 で作られた細い輪が見つかった。輪の内部には、細かいが拙劣な技 五日目は、宇宙船やその付属品を集めたセクションを調べること術で、古代文字が刻んである。わたしはそれを親指の先にのせて・ ( になった。銀河旅行の黎明期から保存されていたものである。 ランスをとりながら、どういう機能をもつものかと考えてみた。こ 多くの展示物がわたしの感情を揺さぶった。その感情はおもにノれは初期の受胎調節具だろうか ? スセドニ つまり、過去へもどる快感だった。多くの展示物の中わたしの肩のあたりに、博物館の目がある。それを作動させて、 に、わたしは人間生活がいまと異なっていた時代、たぶんもっと不わたしが手にもっている品物はなにかと、公式カタログにたずねて みた。 安定で、これほど禁欲的ではなかった時代の反映を見たのである。 トナーを指す大昔の用 〈第一銀訶期〉は、男性たちがーーー愛の。 ( さっそく答が返ってきた。「あなたの手にあるのは、人類の体格 語を使えば、しばしば″妻″や″恋人″を連れてーー原始的な機械が現在よりも小さかった時代に、人間の指にはめられていた指輪で で遠い冒険の旅に出た時代だが、それはまた人間の一雌一雄の結びす。この宇宙船とおなじく、その指輪も第一銀河期に属するもので つきが薄れ、人類が成熟に向かいはじめた最初の時代でもあった。すが、宇宙船よりやや以前のものではないかと考えられています。 第二空間の発見以前に作られた初期の宇宙船の一つに、わたしは この年代は、現在知られている指輪の機能ーーたぶんに象徴的なそ はいってみた。スケールはきわめて小さい。背をかがめて短い通路れーーとも符合します。それは女性または男性が結婚の状態にある を抜けると、そこが五人の乗員のための休息室である。金属は旧式ことを示すために、着用されました。特にこの指輪の場合は、世襲 に洗練されたもの。ほとんど木材といっても通るほどだ。わずかな的所有物であったのかもしれません。当時の結婚は、子供が生まれ 家具は、とうてい人間の体格に合わせてデザインしてあるとは思わるまではおろか、死ぬまでつづくことが建前になっていました。人 れない。その様式の狙いは、幻の機能主義を追っているようだ。そ 間の生物量も、男女の比率が半々で、現在の恒星社会に見られる十
が、ことはそれほど容易なものではなかった。私が彼らの声に注意これは、あるいはビッグ・・ ( ン開始以前の、一点に凝縮した宇宙 し始めるようになると、声はますます明瞭なものとなり、最初全くを内部から見たのに、イメージは似ている。そして、この無限大の 5 2 意味がっかめなかったのが、次第に理解できるようになってきた。光速を持っていた始源宇宙には、時間は存在しなかった。静止して そして、昨日から今日にかけて私は彼ーー彼らと呼ぶべきだろう いたのだ。単位空間当たりのエネルギーは無限大だが、単位時間当 コンダクト かーーーと完全な接触に成功した。ただ、彼の声を聞くだけではな たりに見るならばゼロだったのだ。 く、こちらから質問することも可能になったのだ。どこまでそのイ だが、この光速が無限大で時間の経過のない始源宇宙は、実際に メージを具体的にしるせるかはわからないが、残された時間の中では存在せず、発生と同時に光速度は急速に低下し始め、現在に至っ とにかく記す。 たという。しかし、宇宙は空間的に一様ではなかったために、光速 彼は私にこの特異宙域について説明した。ーー宇宙が存在を始め度が周囲と同じに低下しきれない宙域が、現在の宇宙の中に存在す る以前、宇宙は一点に凝縮していた。こう考えるのはビッグ・・ハンるのだという。つまり、空間的に一様ではない宇宙は、言いかえれ 宇宙論の根本だ。だが、これは光速度を一定と定義したスケールでば時間的にも一様ではないということだ。 宇宙を測定していたため、当然そういった結論に達するのだが、ひ我々は、そういった宙域に引き込まれたのだと、彼らは説明し とたび光速が時間の関数だとして宇宙を組みかえるならば、他の解た。だが、太陽系外に出たとほとんど同じころ、・ハシリスクは加速 釈も可能となる。時間の経過というものも主観的なものなら、等速を開始した。これほど太陽系に近いところに、そんな宙域が存在し で時間が経過していくという定義も考えなおさなければならない。 得るのか。しかも、・ハシリスクはその中を数十光日にもわたって航行 宇宙の開始時より一定の速度で動いていたものは存在するか ? 原し、さらに加速を続けている。これほど巨大な宙域が存在するなら、 子時間、惑星の公自転、ラジオ星の振動等々、すべてが無限大から今までになぜ観測されなかったのか。彼らはそれに答えて言った。 ゼロへ、あるいは一から〇へと遷移していく途中の宇宙でしかな ハシリスクの乗って来たのは、特異宙域が太陽系に向かって突き 現在以外の瞬間を、どのように観測できるのだろうか。そのよ出した触手だ。この特異宙域の中心はここからシリウスへさらに一 うな、時間を定義できない宇宙では、光速度でさえ絶対的な尺度に光年ほど近づいた所にある。中心付近では光速度は通常空間の数百 はなり得ない。 倍に達する。ただし、中心から離れるにしたがい、急速に速度は低 宇宙は、始源時においては、無限大の光速を持っていた。この時下するが。 には、あらゆる地点での存在が宇宙のどこにでも情報として伝えら私はさらに聞いた。このような宙域は、宇宙に多く存在している れる世界であり、相互の位置は定義できるが、情報伝播時間はどこのだろうかと。すると彼らは、よくはわからないが、この宙域はそ にあってもゼロになる。さらに、単位空間当たりのエネルギー量はれほど珍しい存在ではないようだと答えた。そして、この宙域は絶 無限大だったはずだ。 えず移動している存在なのだとも。
だが、そのこと自体はあまり重要なことではない。我々が、このら、誰でも一度は聞いたことのある話だ。第三期の外宇宙探査計画 艦の全センサーを動員して宇宙空間の学術観測を始めるうちに、我である、オデイセウス・シリーズに、登録されることのなかった零 我は奇妙な事実に遭遇することになったのだ。 号機ーー・オデイセウス・〇。ーーが存在したというのだ。そしてその その最初の徴候は、すでに入力のないまま放置してあった電波系零号機は、銀河中心に向けて果てしなく加速し、今もなお飛びつづ 通信機の受信部に、入力が認められたことだった。最初、我々は何けているともいう。 らかの雑音が受信アンテナにとらえられたのだろうというぐらいに さらに、これに加えて超光速宙域の話も我々は知っていた。太陽 しか、考えなかった。なぜなら、すでに制御されていなかった受信系のすぐ近くを、超光速空間流が流れているというのだ。オリオン アンテナは、太陽系とは全く異なる方向に向けられていたからだ。座の方角から銀河中心に向かって流れるそれは、絶えず径とその流 有人外宇宙探査隊のいくつかは、いまだに太陽系を遠くはなれたれの位置が変化し、近づく船を呑み込むのだと伝えられていた。そ 宙域を航行しているはずだったが、戦前の全盛時に比べれば今ではして、オデイセウス・〇はその空間流にそって飛翔しているのだと わずかなものでしかない。我々にとっては敵である航空宇宙軍の外いうことも。 宇宙艦隊に属する、有人外宇宙探査隊の動向は、正確には知らなか我々は、全員でそのオデイセウス・〇からの電波を解析した。お ったが、その時機、その方向で行動中の外宇宙船がいるとは思えなそろしくシフトし、微弱なその電波の意味を、我々の貧弱な装備で かったのだ。 解読できるとは、あまり期待はしていなかった。だから、我々の関 その受信アンテナは、ヘびつかい座といて座の境界付近を指して心はもつばらオデイセウス・〇の慣性飛翔速度、及び相対位置の観 いた。そして、その方向は実は銀河中心方向であることに気づくの測に向けられた。 には、時間はかからなかった。 それを知ることができれば、空間流の位置ーーとは言っても、電 通信兵は、この電波にかかりつきりで分析を続けた。そして得ら波を発信した時点と、オデイセウス・〇の位置から見たという意味 れた結果は、おどろくべきものだった。この、銀河中心方向からのでしかないがーーーもわかるだろうと、我々は考えたのだ。実際、我 電波は、あきらかに人類の発したものであるとーー・・異知性体でも何我の軌道と太陽系ー銀河中心を結ぶ線とは一三〇度もの角度があっ たため、移動しながらの観測はそれほど困難ではなかったのだ。 でもない、我々と同じ地球人類のものであるとーーしかも、大きく ドップラーシフトし、雑音かと間違うほど減衰した電波の発信源そして、その結果は我々にとってめくるめくものだった。この記 は、少なくとも十数光年の彼方を亜光速で飛翔中の宇宙船であると録を手にする者は、すでに亜光速航行、あるいは外宇宙航行といっ いうのだ。 たことはさほど珍しくないかもしれない。だが、ガニメデ籍の宇宙 4 っ 4 私を含めて全員がある古い話をおもい出していた。それは、外惑船乗りだった我々にとって、外宇宙とは手の届かぬ存在でしかなか 星連合軍、航空宇宙軍の双方を問わず、宇宙空間を航行した者なった。今までにも有人外宇宙探査は行なわれたが、それらはすべて
からの古いっきあいだった。彼は、カリストでくらした子供のころ 地球系の航空宇宙軍外宇宙艦隊の手によるものだった。我々には、 から、暗い空にうかぶ星・ほしをながめるのが好きだったと、いつも その周辺技術さえ与えられなかった。 2 我々の思いを笑止ととられぬ内に、我々の得たデータのみを記そ言っていた。厚い大気層の底からしか星を見ることのできない地球 う。オデイセウス・〇は太陽系から約二四光年の位置を、ほとんど人には、宇宙を行く資格などないというのが、彼のロぐせだった。 光速に近い速度で銀河中心に向けて飛翔していた。ただし、その電その彼が、カリスト籍の商船の船員になったのは当然のなりゆき 波を発信した時点においてという意味でだが。そして、その飛翔経だったし、開戦の前になって編成された外惑星連合軍の兵士とし 路を空間流と同一と考えるならば、我々は約六〇〇日後にその流れて、選抜されたことも不思議ではなかった。彼はいつも言ってい ードウェアの助けを た。宇宙船という、人間らしさのない巨大なハ の近くを通過するとの結論を得たのだ。 その日数を算定した時、順調に観測を続けていた我々の間に動揺かりて宇宙を飛んだとしても、それは本当に宇宙を飛んだことには がおこった。我々に残された日数は、その位置に到達するのに必要ならないのだと。いつの日か人間は、自分の肉体のみで宇宙をわた な日数の、数分の一でしかなかったからだ。ようやく我々は死を現っていくことができるのだと。私には、彼の希望を拒否する理由は 実のものとして意識し始めた。オデイセウス・〇からの電波を観測考えっかなかった。 することで、つかのま忘れることのできていたそのことを、再び身私が許可を与えると、彼は再度挙手の礼をし、気閘の向こうに消 えた。数分後に気閘内気圧ゼロを示すサインがともり、すぐに外側 近に感じてしまったのだ。我々の全員がその位置に到達する以前 のハッチの開く気配が伝わった。彼は今、自由だ。私は理由もなく に、死に絶えるのだ。 我々の誰もが、閉じこめられた宇宙船内での死というものを知っそう思った。おそらく彼は推進銃を全開にして、この艦から離れて るのだろう。太陽から遠くはなれた星の海の中を泳ぎながら、彼 ていた。ゆるやかな、それでいて最もみにくい死。このような事態い をさけ、ひきつづき前方の宙域にある空間流の観測を続けていくたは短かかった人生の中で最も幸福な時をすごしているに違いない。 めの、最も合理的な方法は、しごく簡単なことだった。 誰も動こうとはしなかった。あるいは、彼のあとに続こうという 一人を残して他の者全員が艦から退去する。そうすれば、数倍の気にすでになっていたのかもしれない。しかし、私と同様に彼のこ 時間が残された者に与えられ、他の八人は苦しみながら死を先にのとをよく知っている者達は、少なくとも彼が船から遠く離れて見え なくなるまで、船外に出るべきではないと、心に決めていたのかも ばす行為から、のがれることができる。しかも、大死にではなく。 だが、私は艦長としてそのような命令を下すことは、到底できなかしれない。私は、貯蔵庫からラムの最後のポトルを取り出し、封を っこ 0 切ってクルーにまわした。手わたされていくボトルのチ、ー・フから そんな中で、艦の操縦室付の機関兵が、私に挙手の礼をして言っ 一口ずつをすすり、順に彼のために、そして自分のために祈った。 た。自由行動の許可を与えられたし、と。私はその兵とは開戦以前 そして、それがひとまわりまわったあと、首席パイロットと航法