クイン・ サーガの 世界 1982- 12 鷹 臨時増刊号 世界の極北をめざすグインの行手には ? 栗本薫グイン・サーガを語る 作者のフォト・レホート 三大コンテスト応募作、ついに登場。 ナリスとディーンの少年の日々 グインを襲う妖魅の脅威 / グイン・サーガ外伝五篇一挙掲載ー、ー・栗本薫 カローンの蜘蛛 風の白馬 樹怪 湖畔にて 水雪の女王 ーレムスの恋唄ー レムスの秘められたあわい恋物語。 ー黄昏の国の戦士ー 原敏江 4 92 132 い、、れ
チワ グイン・サーガ萼 「こ几又 一ノイー アムネリス 尾形美和子 アルド・ナリス 川上玉緒 ルナン 稲吉美穂 アストリアス 小原弓子 イドの犠牲者ーー , 原彰子 シーンと枕カハ 衣装 死の婚礼 り押えられるアス アスを見るアムネリス 幻のアニメ登場なら幻のグ イン・サーガ劇場も。・・というわ けでもないが、これ一、一・そ内輪の極 致というべきグイ、ン・サーカ劇を 紹介しよ、つ クイン・サーガ劇は「傭兵騎士 旦プ等ても上演されてはいるが、 、、今御紹介するのは内輪も内輪、 キ再、フ先ての突発事なのだ。 グイン・サーカ・ファンの天野雅 さん、ほか十人の人たちかキ 人中九人までがグイン・サーガ・ , ファン。そこで突加としてグイン・ サーカ劇上演のはこびとなったの イドの襲撃
・ = ~ 。、、第第和 34 年曜月第日、国鉄東曷特別扱承認雑誌第 6 記号 ~ 第 0 製昭和 5 ア年和月日国鉄首都増刊号承認第 3453 号 ; い = き 昭和町年に月日印刷 , 発行 ( 第 23 巻第は号又、 ~ 。、 ヾゞグイン・サーガ外伝朝夢言 ' 第 5 篇一挙掲較 ' , ー = をく長篇厂 ' 第雪の女王 中・短篇〉冖 カローンの蜘蛛 ャツ。′ヂ 風の白馬 樹怪 湖畔にて第、 ・薫ン・サガを語・ ・クイン卅ーガ簡易人名 ・まほろしのグイン・アニメ
ミ / 冫を・ , 表紙 / 加藤直之本文中イラスト / 本原敏江深井 ・ S - F マガジン・ 1982 年 12 月臨時増刊号 ( 第 23 巻 13 号 ) 昭和 国岩淵慶造横山宏大野嘉孝 57 年 11 月 10 日印刷発行発行所 / 東京都千代Ⅲ区神Ⅲ多町 2 ー 扉・Ⅱ次構成 / 大久保友博 2 色ページ制作 / 西村 2 郵便番号 101 早川書房 TEL / 東京 ( 252 ) 3111 代 SF マガ 和人十野冂紀「・十 O UT ジン編集部タイヤルイン / 東京 ( 252 ) 3117 発行人 / 早川清編集 人 / 今岡清印刷所 / 誠友印刷株式会社 グイン・サーカ簡易人名事典 クイン・ランド ・漢字読み方教室 ・中原服飾事情 ・生物図説 ファングループ集合 読者のおたよりコーナー ・傭兵騎士団のページ セイファートのページ グイン・サーガ教養講座 グイン・サーガによせる ・新井素子 ・奧村恵子 立兄月 ・佐久間弘 ・立入晴子 ・遙くらら リーターズ・ギャラリイ まばろしのグイン・アニメ 超ウチワ、グイン・サーガ劇場 104 3 5 98 223 17524271 21 野崎岳彦 糀谷和代 つなしさっき 十五月 ・七人の魔道師のページ ・聖騎士侯のページ ・大島渚 ・小沢遼子 ・加藤直之 ・高千穂遙 ・中川裕子 261 112 108 106 123 7 ラ 124120 116 114 113 143 195 巧 9 81 47
グインと、ほっとしたマリウスとが、入ったところから出ようとうだったーー・・そのうしろにはもう切り立った崖だ。 グインはその土の山を調べ、さらに、ぐるりとそのまわりをまわ むしろに手をのばしたときだ。 ってみた。 むしろが外側から動き、入ってきた、洗い物の皿を山ほどかかえ 「あっ」 た少女が、ハ ッと棒立ちになった。 土の山はどうやら、ただの目かくしにすぎなかったらしい。その その手から皿がおちてけたたましい音をたてる。娘が口をあけ、 ありったけの声で叫ぼうとしたせつな ! すぐうしろの崖に、明らかに洞窟の入口にドアをつけたとおぼしい グインの体が少女に打ちあたり、その大きな手がそのロをふさものがみえた。 ぎ、そして、いつのまに抜いたか、剣がびたりとのどにさしつけら「あそこだ」 れていた。 かけ出すグインに追いすがってマリウスがわめいた。 「ウ、ウ、ウ : ・ : ・」 「たいへんだ、グイン。さっきの音で、二、三人台所の方へ来るよ」 「声を出すな」 「急げ」 グインはうなるように、 グインは崖にかけより、ドアのとってをひつつかんだ。 「云え。でないと殺すそーーー秘密の倉はどこだ」 「錠がかかっている」 「グインツ , 少女は必死で首をふる。グインはすさまじい形相で、剣を少女の う、うしろであかりがついたよう ! 」 顔にあてがった。 「くそッ 「云わねばその鼻をそぎおとす」 グインはやにわにうしろへひくなりドアに体当たりした。 どんな時代、どんな国にも、顔が女のいのちであることは少しの木の扉は砕けてふっとぶ。 ちがいもない。少女はヒッと息をのみ、自由な方の手で一方を指さ「うわあ ! 女たちがぼくたちをみつけた ! 何かわめきながらこ した。 っちへくるよー 「よし」 マリウスのわめき声を耳にとめながらグインはあいた入口から中 グインの拳がひらめき、少女は気を失ってくたくたと床にくずおへとびこむ。 れる。 とたんに、彼はあっと声をのんで、その場に凍りついた。 それをひきずり、家の外のしげみに放りこんでかくすと、グイン 「グイン ! 逃げなくちゃ ! 早く、みんな武器をもってるよツ」 は少女の指さした方へ突進した。 マリウスがわめき、グインが動かぬのに焦れて、彼も中へとびこ 少女は、村と反対の方角を指さしたようだった。そちらには、一み「グインの腕をつかんでひつばり出そうとし 見したところ、こんもりともりあがった土の山のほかは何もないよ とたんに 3
00 の 000 ロへ向う。背までの長い黒髪、黒い瞳。 間に呑まれる。 サルビア・ドミナバロの有名な服のデ顔に特徴的な傷あとがある。二五歳。 ザイナー ターラゴンの戦士。 ダーヴァルスパロの十二聖騎士侯のひ とり。 シ ター・ウオンスカ】ルの従者。 ダークモンゴールの白騎士隊々長。ア パロの聖騎士。 シグルドタルーアン ( 北方諸国 ) のヴ ムネリスの旗本隊としてパロへ行く。 ターニアパロ王アルドロス三世の妃 アイキング王。 で、リンダとレムスの母。黒竜戦役の セムのラク族の若き戦士。グイン さい、モンゴールに殺される。 を崇拝し、ノスフェラスの戦いでは常 スタック現アルゴス王。スカールの異ダイモンゴール、タイラン伯爵配下の につき従う。 シモンナリス付きの小姓。 母兄。 白騎士。 ジュナスクリスタルの大商人で、有力スニセムのラク族の少女。大族長ロトダイアン北方のロングホーン家当主オ 1 ウイン・ロングホーンの妻。 1 の孫娘。モンゴ 1 ルのスタフォロス ギルドの長。 ジラールカウロスの現大公。 城で虜囚となり、そこでグイン達と知タイランモンゴールの伯爵。現パロ占 シリアランズベール侯の娘。 り会う。リンダを慕って以後つき従う領軍司令官にして、白騎士団総司令。 ことになる。 黒騎士団のカースロン隊長と反目して シルヴィアケイロニアの皇女で、アキ レウス大帝の娘。一八歳。 タヴィアクインズランド ( 北方諸国 ) シンクリスタル北大門の番兵。 シン・シャンキタイの道士。 の女王。〈氷雪の女王〉と呼ばれ、氷 の中に封じこめられていると云われ る。 ダウルスパロの魔道士。魔道士の塔に 属す。 タグモンゴール、ツ 1 リード城の青騎 士。 スカールアルゴスの王太子でスタック 王の異母弟。〈黒太子〉と呼ばれる。ペ ック公と共にアルゴス軍を率いて、 ス セプセムのラク族の小族長。 ゼルス古代パロのヤヌス神殿の祭司 長。 ドールと通じたと云われる。 セ タ 266
根をおろしてしまったのだ。おそらくは、この地上のものではな 「グインーーーグイン。目をさましとくれ。グイン、嵐がくるよ」 、どこかよそからやってきたのだろう、グイン。あたしのうしろ ゆりおこされて、グインはハッと目ざめーーー同時に反射的にとび にまわってみてごらん」 起きた。目のまえに、ランタン婆が立っていた。 グインはそうしーーそして、声もなく唸った。 「ここは、どこだ」 グインは叫んだ。さやさやとみどりの風が梢に鳴り、たそがれ近何か奇妙な植物が、ぎっしりと長いひげ根をはびこらせて、谷の いスミレ色の空が稍の上にみえる。それは、しずかで、平和な谷のなかばをおおいつくしていた。それはたしかにこの地上のものでな いとしてもふしぎのない、色と、かたちとを持っていた。 景色だった。 グインは、一本の巨大な木の下によこたわっていたのだ。彼は身そのひげ根はのびて、すでにその巨大な女王然としたとねりこを をおこし、手や脚をみた。何か小さなクラゲにでも吸いっかれたよさえ犯しはじめていた。しかし、そのひげ根のかなりの部分が、ま るで何ものかに荒々しくむしりとられでもしたかのように、つけ根 うに、小さな赤い穴が、点々と肌にあいていた。 のところからぶつぶっと切れていたのである。 「ここはどこだ。ダークランドか」 もういちど、やや皮肉つぼくグインはたずね、まわりを見まわし さらにまわっていってグインは暗然とした。そのひげ根に巻きこ た。ランタン婆ははずかしそうだった。 まれるようにして見えていたのは、まぎれもない人間の白骨ーー・・・そ 「英雄のあんたをベテンにかけたことをゆるしとくれ、グイン。これも一つや二つではない人骨だった。さびたかぶとやよろい、布の こはランタン谷、あたしの土地。でも、そうでもしなきや、あんた切れはしもころがっている。 はあたしに力をかしてなどくれなかろう。あんたにやたんと、やる「お婆。この樹怪に火をかけ、きれいに焼き払ってやろうか」 グインは云った。それが生きながら樹怪のえじきとなった不幸な ことがあるんだから」 旅人たちをも供養する道かもしれなかった。 「おまえは何ものだ」 しかしランタン婆は、あわてたように首をふった。 グインはきいた。こたえるかわりに、ランタン婆は、とねりこの 前に立ち、うなづいてみせた。そのとねりこの木は谷のいちばんよ「あたし達にや、火は禁物 , ーーいっ風向きがかわるかもしれないし い位置に座をしめ、ほとんど谷いつばいに影をおとすほどにも生いね , ーーああ、有難うよ、グイン」 グインはとねりこから、まきっき、その幹の中にまで先端をさし しげり、明らかに、何千年もの樹齢を経た、この谷の女王だった。 「あのシレーヌ、あれは、何ものだ」 入れているひげ根をひきぬき、投げすてた。ランタン婆は目をばち ばちさせた。 グインはたずねた。 本当だよ、あれはこのあたしがここで何千年も自「その杖をね、その上につきたてておくれ、どうか。そうすりや、 「知らない。 この樹怪の上に、あたしの生命がわかれて生える。すぐにすっかり 分の王国を見守っていたあと、突然空からやってきて、このへんに 3 7
「別に、グインがさせてるわけしゃなく、あんたが勝手にグインのて、安全地帯へむかって逃げ出した。 冒険にくつついてくるのじゃないか」 「グイン ! 」 マリウスがぶえんりょに指摘し、しようのない二人は、またして マリウスとイシュトヴァーンが同時にわめいた。 も、場所柄もわきまえぬ烈しい口論をはじめるところだったが、そ「おちつけ。心配するな」 のときグインが二人を制し、そっとたいまつをかざしてみた。 カづよい声が答えた。 「え ? 」 「そ、そんなことを云ったってーーーああー・こっちへくる ! 」 「どうかしたのかい、グイン ? 」 いまでは、それこそがきかされたところの霧怪以外のものではあ 「ふむ」 りえないことは、かれらには火をみるより明らかになっていた。た グインの声が重々しかったのと、彼がふいに足をとめたので、二しかにそれはふつうの霧とちがっていた , ーーねっとりとして、地 人はあわてて前方をすかして見た。 を這い、うずまくのだが、ふつうの霧よりも濃密であるようにみえ 「霧がわいて来たそ。あれがふつうの霧で、その霧怪でなければよ たし、妙にひとかたまりになっていた。しかし、何にもましてあや いのだがーーー」 しげだったのは、その霧の動くようすに、妙に知性をーーー知性とい 「ええッ うのが云いすぎならば、明らかなひとまとまりの意志の存在を、感 ぎよっとして、二人はなおもすかし見てみた。グインの云うとおじさせるものがはっきりとひそんでいることだった。それは何とも ッと、音をたてるほどの早さでもって、谷にいっ いえずいやらしい感じがした。 のまにか灰色の霧がおりてこようとしていた。 「すごく速い ! 」 マリウスが叫んだ。 三人は足をとめ、一箇所にかたまりあい、ぎよっとしてそれを見 つめた。 「逃げよう、グイン、早く岩までもどらなきゃーーー」 「おちつけ」 霧は異常な速度で谷の向こう半分を満たしつつあり、そのため に、谷は灰色の煙で埋められた煙突のようにもみえる。 グインはくりかえした。そして、さっきよりわけていた荷物の一 方をいきなり地面におろし、奇妙なことをはじめた。それをぶちま へんな匂いがしやしないか けると、大きなっ・ほに入れてもってきていた火酒を、おしげもなく イシュトヴァーンがふるえ声で云ったときだ。 そのぼろや寝るためのしき皮の上にぶちまけはじめたのである。 「フルゴルだ」 「グイン ! 」 7 かれらはモルフキンが短い金切声をあげるのをきぎーーーっいで小 おどろいて二人は叫んだ。グインが、気でも狂ったか、と疑っ 人はやにわに、誰も予想しなかったようなおそろしい速さでもっ こ 0
です。やつつけても、やつつけても、大地にふれるともっとつよく 「何がおこったのかわかるか」 5 グインは礼儀も何もかまわずにきいた。 なってよみがえるのです。ですから、ローキたったひとりでも、わ 2 「ええ、たぶん。ョッンヘイムに、さいごの試練がおとずれたのでたくしたちがどうして立ちむかうことができましようか ! 」 「俺の剣をかせ」 すわ」 グインはやはりかみつくように云った。 「さっきのは地震か ? 火山の爆発か」 「早くしろ」 「そのどちらでもありません。黒小人が、攻めよせてきたのです、 グイン。ョッンヘイムの守護神の一たるクロウラーが、死んだと知「おお、グイン、あなたはまさかーーーそんな : : : 」 って。さっきの鳴動は、黒小人が知っているふしぎな術で、氷山を「俺は俺より頭ひとつ大きい巨人になら、打ち勝ったことがある」 このヨッンヘイムの入口にぶつけ、この地底の国をうちこわそうと グインは云った。 したのです。黒い巨人口ーキの力をかりて。かれらは、ヨッン〈イ「それに、クロウラーを死なせたのは俺だ。だから俺がクロウラー ムの秘密をうばいとりにくるでしよう。こんどこそーー」 にかわってそやつを退治てやろう。 そやつの力をかさにきて小 「そうしたらこの世界が破減するのだ、とおんみは云ったのだ、ク人どもが悪事をはたらいているというのならば、そやつを退治れ リームヒレ・トー・ ば、もう、黒小人どもがヨッンヘイムをせめることはできまい」 「こんどだけでいいのです、グイン、こんどだけで。わたくし、ク 珍しくも激昻してグインはどなりつけた。 ロウラーにかわる守護神を、地底から呼び出そうとしていたので。 「戦わないのか。な・せ誰も、剣をとってないのだ。なぜ広場にあっ まってさわいでいるのだ ? 鎧をつけ、ヨッンヘイムの二つの入口でも、このままではとてもひまがない : を守るのだー 「すぐに、それを呼び出してクロウラーの洞窟におさまらせるよう この地底都市はそうかんたんにおちはせん」 、女王よ」 「一方のロは大丈夫です、グイン。ガルムとフルゴルの守っている用意をはじめるがいい 方は。わたくしはガルムをとき放ちますわ。黒小人たちには、かれグインは云った。 らはたおせません。でもクロウラーのロは : : : それに巨人口ーキは「もはやそれでヨッンヘイムは二度とおびやかされることはあるま そこを責めてくるでしよう。黒小人だけなら知らず、ローキにわた くしたちがどうやって立ちむかえるというーーー」 「ええ、でも」 「そやつは、どのぐらい大きいのだ。どういう力をもっている」 「でも、グイン ! 」 グインはかみつくようにたずねた。 クリームヒルドと、マリウスの叫びがほ・ほ同時だった。マリウス 「ローキは、あなたより頭ひとつ大きいですわ。神々と人との間に は青ざめて両手をにぎりしめた。 生まれた悪の巨人で、大地からふしぎな闇の生命をさずかってるの 「グイン、それでは、あなたが , ー - ーあなたがローキと戦っている間
ておいたものがある。ごらん、これは聖なるいちいの木の生きた枝 をもたらしてやればよいのだな」 でつくった杖だよ。枯れ枝や幹から切られて死んでしまった枝では 「そうしてくれるなら、あたしはお前にシルヴィア姫の行方を 、この葉は見てのとおりみずみずしく青いし、生ある杖ゆえ風 少なくともどっちの方向をさがせばいいのかを教えてやるともさ。 だって、あたしの友人には、千里をゆく烏もいるし、吹きつける風の声、水のささやき、木々のうわさもききつける。この杖のみちび くように行っておくれ、グイン、そしてもし、砂漠で水にかわいた もいるのだからね」 「シルヴィア皇女の行方はむろん知りたいが、そのために心を枉げときは、この杖に水を探させるのだ。この杖はあの女を退治るの に、きっと役立つよ、グイン」 はせね」 「有難くもらっておくとしよう」 グインは重々しく云った。 グインはこたえて、その杖を手にとった。たしかにそれは生きて 「どこへ行けばよいのか教えてくれ、婆。そして何をすればよいの いる木そのものだった。杖のかたちはしていたけれども、グインの かも」 手の中で、その幹のなかにみずみずしい樹液の流れ脈うっているこ とがはっきりと感じられたし、そしてそのあちこちにはみどりの葉 かくて や芽がふきだして、さやさやと風に鳴っているのだった。 ひと夜がすぎた。 グインとランタン婆が外に出ると、どこにいたのか、たちまち昨 そうは云うもののこの世界には、日の上り沈みも、時のうつろい すらもないようだったから、そのひと夜とは、グインがひと眠り日の大烏が、クワーツと陰気な声をあげながら舞いおりてきて、杖 し、目をさまして、二回めの食事をしたということでしかなかつのてつべんにとまった。 グインはふしぎそうにまわりを見まわした。それはどことなくや 食事をおえると、ランタン婆はグインの旅支度を手伝い、弁当をはり妖魅めいた世界で、昨日と同じに灰色とうす紫のたそがれの中 にうずくまっており、一幅の絵でしかないとでもいうように、動く もたせ、かいがいしく世話をした。さいごに皮ひもを足にまきっ ものも、生あるものも目にみえぬ、あやしくわびしい静寂の国だっ、 け、マントのとめがねをとめると、すっかり支度ができた。 こ 0 「世話になったな」 「ふしぎなところだ。ここには北も南も、昨日も明日もないように グインは重々しく別れを告げた。ランタン婆は残りおしそうに、 「あたしが行けるといいのだけど、あたしはあのドールの女の瘴気みえる。ここは一体どこなのだ。俺はどうして、こんなところに迷 いこんでしまったのだろう」 にあてられ、先へすすむことができない。あたしはいつもここにい るからね、グインーーーかわりに、あたしの大烏の・フラギドウーラに グインはつぶやいた。しかし、どのみちきいてみてもムダなこと 3 6 案内させよう。あんたの寝ている間に、あたしはこのとおり用意しはすでにわかっていたから、ききはしなかった。