てくれ。宝ぬすっとかどうかについてだって、何びとっそれらしい 出すからには、おまえは何かのたくらみをもら一ているりかもしれぬ 0 行動を示さぬうちからそうだと決めつけられては、どの , ような申し からだ。そのような異形のすがたをしたものは、信じるわけにはゆ 2 ひらきもできようがない。 : 、 カそれももう云わぬことにする。それかぬ」 ゆえ、俺にその罪のつぐないを求めてくれ。他の二人は、何のかか「やれやれーーーこの連中くらい、つきあいにくいやつらは見たこと わりもないのだ」 : ないぜ」 グインの云ったことを、スヴンが通訳しおえると、かれらの間 イシ = トヴァーンが小声で云った に非常な混乱と動揺がまきおこったのが、はっきりとわかった。 近くでみると、洞窟の入口には、大きな岩がころがしてあり、そ かれらはおそらく、仲間どうしでも意見のくいちがいが出てきたれが、洞窟をとざしているのだった。兵士たちはその岩にとりつい ものにちがいなかった。しかし、しばらく話しあってから、議論のて、あける仕事にとりかかったが、これはかれらにとってはたいへ一 結果をスヴェンが通訳したとき、息をのんでいたイシュトヴァーンんな大仕事であるらしかった。 とマリウスはがっかりさせられた。 ようよう入口があいた。ぼっかりと暗い穴があらわれるや、兵士 たちはおそれおののいてうしろへさがり、長老たちに一喝されなけ 「いや、ならぬ。悪魔の道づれは悪魔であり、宝をねらう盗賊は、 このヨッンヘイムでは生存をゆるされぬ。お前たちは三人ともクロれば、あわやそのまま逃げ散ってしまうところだった。 ウラーに捧げられるのだ。すでに裁きはおこなわれ、断は下され長老たちにせよ、恐しく思う気持にかわりはなかった。しかし、 かれらは、けんめいにおのれをおさえていた。 た。何ものもかえることはできぬ」 グインはなおも、くいさがろうとしたが、もうスヴェンは禁じら「さあ ! 」 れたらしく、それを通訳しようとせず、うしろへさがった。 一人が手をあげ、中を指さした。 「はあっ、そんなことだろうさ。それじゃこれが、あんたが云って「入るのだ」 いた『俺にまかせておけ』って意味かい、グイン」 何も、もはや抗弁の余地はなかった。 イシ、トヴァーンは呪い文句を吐いた。グインはそれにはとりあ三人は槍におどされて、一歩穴の中へ入るーーとたんにうしろか わず、もう一度、洞窟の前で、こころみた。 らっきとばされ、そしてその背後でびたりと岩がころがしこまれ 「ではもう云わぬ。ただこれだけをきいてくれーーーそれならば、まて、唯一の出入口はとざされてしまった。 ずはじめに、俺をクロウラーに捧げてくれ。そののちに、二人を穴 視界はふいに、灯をふきけしたように暗くとざされた。 に入れるがよい」 「わあ。ばか。出しやがれ」 また、いやになるくらい論議がかわされた。 イシ = トヴァーンはかけより、岩をおしてみ、それがびくともし 「いや、だめだ。三人一緒に入るのだ。なぜなら、そのように云い ないのを知るとぎゃあぎゃあわめき出した。
て来た。 これは俺の連れ、ヴァラキアのイシ、トヴァーンと吟だちに″クロウラーの穴″に投げこまれる。気の毒だが、ヨッンへ 8 遊詩人のマリウスで、よい人間であることはこの俺が保証する」 イムは財宝を守らなくてはならないのだ。 とかれらは云って幻 また、スヴェンは通訳のためにふりむき、こんどは長老たちはずる」 いぶん長いこと互いに協議しあっていた。 とうとう、スヴェンはまたグインの前にきた。 「ロカンドラスという名は、きいたことがない は云っている」 「何てこったいー それじゃ結局、おれたちは、「三つの試練のすべ 彼は云った てにぶちあたらなくちゃならねえと、こういうわけなんだな、ええ 「あんたには二つの嫌疑がかけられている。ひとつは、その姿から ? 」 して、あんたは「ローキの手先、おそるべき悪魔で、ヨッンヘイム イシュトヴァーンがわめいたにもかかわらず、三人は、たちまち に破減をもたらすためにやって来た、という疑い もうひとつのうちに、剣をはぎとられ、何ひとっ武器をもたぬままひったてら は、ロカンドラスというものはここにいないし、その名をきいたこれた。イシ = トヴァーンはそれにグインがおとなしくしたがったの ともないので、あんたがそのようにいつわって、結局、他のヨッン が不満だった。この地底王国のちっぽけな、ひょわな住人どもぐら ヘイムへ忍びこもうとするやつらと同じく、ヨッンヘイムの財宝ー 彼とグインとの二人がいれば、何のことはなくかたづけられ ー世に名高い、《ファーフニルの黄金》をねらってきた盗賊ではなる、と思っていたからである。 いかという嫌疑だ」 しっそうするってんだ ? 」 「いま暴れ出さなかったら、いっこ、、、 「弁明の機会を与えられるのなら、俺はそのどちらにも申しひらき イシュトヴァーンはけわしく叫び、このときばかりはマリウスも をしてみせるが」 イシュトヴァーンが正しいと思ったが、しかしグインはかれらを制 し、考えがあるのだから、すべて任せておくようにというだけだっ」 グインが云った。イシュトヴァーンは内心、悪魔の方はともか く、宝目当だという嫌疑のほうは、どう弁明するのかと思ったが、 何も云わなかった。 グインのそういう云い方には、実績がともなっているだけに、か スヴェンと長老のあいだにまたひとしきりやりとりがあった。それら二人にもあらがえぬ何かがあり、それでイシュトヴァーンも、 れから、スヴェンは、妙にきつばりと云った。 不平満々たる胸をおさえておとなしくしたが、しかし、その氷の家 「いや、だめだ。釈明の機会は与えられないーーー釈明の余地はなを出て、通りをずっとひきまわしてゆかれるにつれて、しだいに心 い、と長老は云う。なぜなら、あんたのその姿は、人間のものでは配になってきた。 ありえないからだ。したがって、あんたはーー連れも一緒に・ーーた「クロウラーだって ! 」 そう、長老たち こ 0 4
水だったがーーでのどのかわきをいやしおえたころ、また娘たちが意を払わなかったが、長老たちに再びうながされて、またしゃべり 入ってきて、盆がからになっているのをみてかれらに笑顔をむけ、、はじめた。 タルーアンのスヴェンというものーーーあなたたち 「わたしは それをさげていった。 「この地底国にも若い娘がいるということがわかってありがたいけは、どこから・ーー来ました ? 」 ど、しかし、あんなあわい目と髪の色では、あまり若い娘らしい感「この外の世界から」 じがしないね」 グインが云うと、その豹頭が口をきくということに、ますます、 タルーアンのスヴェンは驚倒したようだった。 マリウスが云った。 そこへ、さきほどの長老たちが入ってきたが、こんどはもうひと「あなたは、人間じゃない」 りの男が一緒だった。それはこの地底国の人種ではなく、たけがた彼は他の二人に目もくれずに云った。 かく、赤毛と、あかるい青い目ーーー一見してわかる、タルーアンの 「その姿もそうだしー・ーそれに、あなたは、フルゴルとー・ーガルム 男で、まだそれほど年をとってはいないらしく、毛皮の胴着を着、の試練をのりこえてきた。あなたはーーー何者です ? 」 むしやむしやとひげをのばしていた。片足に、重たげな足かせが目「俺の名はグイン」 立つ。 グインは云った。 長老たちにうながされて、タルーアンの男は三人の前にやって来「グイン こ 0 「そうだ、そしてこんな姿をしているが俺は化物ではない。こうし 「ワタシ てしゃべり、人の感情をもっている。二つの難関を切りぬけたの のいうこと、わかりますーーーか ? 」 も、魔法でも何でもなく、知恵と、そしてなんとしてもョッンヘイ ひどく、たどたどしいしゃべりっぷりである。 ムにたどりつきたいという思いのゆえにすぎぬ」 しかし、タルーアンはケイロニアの隣国であり、中原には地つづ スヴェンはそれを長老たちに通訳した。 きにあたる。そこにすむ人々は中原とは人種もちがうし、ずいぶん 特有のなまりでわかりにくくなっているとはいえ、タルーアンのこ 「ではな・せョッンヘイムへ来た ? どこから、ここの入口と三つの とばは、もともとは中原のことばと同じ系統なので、「三人にはきき試練のことをきいたのです ? 」 とることができた。 「ヨッンヘイムは美しい北の伝説だ」 「わかるとも。あんたは、タルーアンのヴァイキソグか ? どうし グインはうまく云いのがれた。 て、こんなところに迷いこんでとらわれた ? 」 「そして俺は、わけあって、北の賢者として知られるロカンドラス イシ = トヴプーンが云った。しかし、タルーアンの男はびつくりをたずねたいのだが、北方諸国をさまよい歩き、ついに彼を見出せ 2 したように , グインを見つめており、イシュトヴァーンの問いにば注なかづた。そこで俺は「のこされたさいごの地ョッンヘイムへやっ
もよくあるのか ? 」 グインは最初の揺れと同時に、反射的に地面に身をふせていた。 グインはヨッンヘイムの若者にきいてみた。しかしかれらは途方 4 しかし他のものはなかば足をすくわれるように宙にまいあげら にくれて首をふるばかりだった。通訳のスヴェンを失って、かれら れ、叩きつけられた。 には、互いの意志を疎通させるすべがなかったのだ。 グインはとっさに手をのばして、イシュトヴァーンの手をひつつ グインは起きあがり、気をつけてあたりの高いところへの・ほって かんだが、そのときこの鳴動のためにひびわれた氷山はばっくりと いって、まわりのようすをみようとした。氷ひと色のたそがれの世 口をあけ、その下にかくれていた暗い黒い海がぶきみにせりあがっ 界にはかなりの亀裂が走り、あちこちで、暗色の水がみえていた。 たと思うと、むこうをすべりおちてゆくスヴェンの姿がみえた。 グインはもう一方の手を届かぬと知りつつむなしくのばそうとし「グイン、どうしたことだいこれは」 た。しかし、とたんに自分とイシ = トヴァーンのからだがずるする「わからん。しかし、われわれは、少しいそいでヨッン〈イムへも どった方がよいかもしれん」 と氷の肌をすべりおちたので、あわててまた手がすりむけるのもか 「どうして まわず氷の突起にしがみついた。その耳に、スヴェンのおそろしい それと、ここも うむ、俺の見た 叫び声がきこえ、そしてすべってゆくタルーアンの男の恐怖にみち「ヨッンヘイムが心配だ。 て見ひらかれた目がグインの目に一瞬やきついたかと思うと、彼は目に狂いがなければ、ここもどうやらしだいに危くなりはじめてい ばっくりと割れた氷のさけめにのみこまれ、永遠にみえなくなつるようだ」 た。このヨッンヘイムでさえ、死は決してその訪れを忘れたわけで 「ええツ」 はなかった。 短くイシュトヴァーンは叫び、まわりを見まわして、了解した。 「氷が割れてる」 のこされたものは声も出せず、必死に大地にしがみついていた。 ようやく鳴動がおさまった、とみてグインはそろそろと立ちあがっ彼は短く云った。 「よほど、ひどい振動だったんだ」 、大丈夫か」 ョッンヘイムの入口につくまではかなりある。 「下手をすると あちこちからのろのろと身をおこしたのは三人だった。スヴ = ンそのあいだのどこかで、亀裂が、とびこえられぬほどひろがってし とあともうひとりが、海にのみこまれていた。 まうとーーーわれわれは、この氷の上にとりのこされることになる」 一体何だったんだ、ありやーーー海の底から、くじらが「早く、行こう、グイン ! 」 波をわけて出てきたってのか ! 」 あわてて、二人は歩き出した。ョッンヘイムの若者たちも、すぐ に事情をのみこんだとみえ、いそいでついて来た。 イシュトヴァ 1 ンがふるえる声で叫ぶ。 「こんな北の海は、泳いでわたるというわけにゆかんから厄介だ」 「いや、そうとは思えん。こんなことは こんなことはこれまで ガトウ
スヴェンは古いタルーアンなまりで嘆くでもなく云うのである。 の人のもので、奴隷もこの点ではまったく同様だった。のみものは 「わたしがフアフニールの宝に目がくらみ、自分こそそれを手に入 水だけだったが、清らかなふんだんな泉が二つあった。 グインとイシトヴァーンは、ある日かれらにつれられて、共にれることのできる人間だと思ったときには、わたしはまだ十六歳で いま、わたしが何歳になるのかはわかりませんが、も 狩りにゆき、また、魚とりにもいってみた。その魚とりほど興味深した。 わたしはタルーアンへかえれたとしてもかえるつもりはありま かれらは、地上に出て、永遠の氷にとざされ いものはなかった たノルンの氷海〈ソリでゆき、そこでぶあつい氷に穴をあけて、目せん。もしわたしが祖国にいたら、もうと「くに年をと「て死んで いたでしようが」 をもたぬ奇怪な魚をもりでつくのだった。そうして見る地上はつね にたそがれのノーマンズランドであり、氷山と氷塊とがどこまでも奴隷たちは多かれ少かれ、同じ思いでいるようだった。故国から つづく、世にもさびしい荒れはてた極北であり、ときにふしぎなあひきはなされ、なっかしい人々と、二度と会うことはないのだとい でやかなオーロラがその空をいろどった。かれらは長い道をたどっう思いが、かれらの表情にくらいうつろな悲しみを漂わせていた が、かれらはここでのくらしには不平をもっていなかったし、国へ てョッンヘイムにもどると、その地底の国がはるかに光と明るさと これは、イ かえりたいと熱烈に悩んでいるものもいなかった。 あたたかさにみちており、地上のほうがずっと暗く凍えていること シュトヴァーンを戦々恐々とさせた。ここに長いこといると、そう におどろいた。な・せ、ヨッンヘイムがつねに光にみたされているの かは、クリームヒルド女王も説明することができなかったのであなってしまうらしいと、悟ったからである。 る。そうしてとる魚も凍らせて切り身にして食べるしかなかった しかし、それでも、ヨッンヘイムのくらしが、安楽で、そして案 が、それは、獣肉だけの食事にちょっとしたいろどりをそえた。 外に居ごこちのいいものであるということは、イシュトヴァーンで また、グインは、はじめにかれらに通訳をしてくれたタルーアンさえ認めていた。そこには、悩みも、野望も、不平もなかった のスヴェンと話してみて、彼が、そのいうことから判断して、おそ幸福も、出世も、変化もなかったからである。それはイシュトヴァ らく三百年以上もまえにヨッンヘイムへまぎれこんだ人間であるら ーンをぞっとさせたが、それは、そういうしずけさと沈静がいとわ ハロス王国はあったがゴー しいと知った。彼の知っている中原に、 しいからではなくて、それに身をまかせていれば、現世の、死すべ ラはなく、またタルーアンの隣国ケイロニアをおさめるのは蛮族のき人びとの喧騒とばかさわぎとが、うとましく、おそろしく見えて 王であり、そして、タルーアンはいまよりはるかに奥地へまで勢力くるからこそであった。イシュトヴァーンはあやしいけだるい誘惑 を張っていたのである。 を感ずるたびに女王にたのんで例の宝倉へ入らせてもらい、もっと 「どうせもう、いまからかえれたとしたところで、知っているものも現世的なそれらの富にうっとりと見入り、手にすくってみて、そ も一人もいないし、祖国そのものもおそろしくかわってしまって見れが中原で彼にもたらしてくれるはずの栄光と栄華と成功のありつ わけがっかぬでしよう」 たけをまばゆい虹の中に思いえがいて見なくてはならなかった。 245
かれらの一行はその神殿のかたわらをとおりすぎ、その向うの洞 彼は小声でののしった。 「妖蛆だとーーどうせ、ろくでもないくちなわ、みずちのたぐいな窟の入口をめざしていた。白と光の中にぼっかりとひらいたその黒 い口は、あやしい不吉な予言のように凶事の匂いを宿し、その中に んだろう。ごめんだぞ、そんなものに呑まれたりするのは や、いや、心配するな、ヴェントのイシュト坊やよ ! お前は王にあるものについての、そっとするような予測を否応なくさせた。 兵士たちは黙りこくって歩いていた。まるで、そこに近づくこと なるんだ。光の玉座につくんだ。こんなところで、そんな下らねえ が、かれらにとってさえも非常な恐怖をさそうのだ、というよう 死に方をするもんか。するもんか ! 」 しかし、その彼の確信も、楽天主義も、しだいにぐらっきかけてに。 いよいよ、そこへ近づいたとき、グインは足をとめた。 来た。 「進め。歩くのだ」 三人が、二十人以上の小隊に厳重にとりかこまれて ( 明らかに、 ついて歩いていたスヴェンがあわてて云う。それへグインはする 長老たちは直接グインの体格を見てみて、それだけの人数が必要で あると判断を改めたにちがいなかった ) まっすぐに通りをぬけ、つどく云った。 れてゆかれたところは、この地底都市のつきあたりと思える氷の山「通訳してくれ。俺は弁明の機会を与えられなかったが、一つだ け、長老たちに云いたいことがある」 山の手前でーー山々といっても、そのてつべんは、天井にくつつい スヴェンはおどおどして、彼とヨッンヘイム人を見くらべた。し ているのだから、むしろ巨大な、おそろしく巨大な氷柱とでもいう べきだったかもしれないがーーそこは、それまでの、この地下都市かし、彼はひどくグインにおそれをもっていたので、とうとう、お どおどしながらも、そのことばを伝えた。 とは、急にまったくちがった感じになっていた。 このヨッンへ 長老はふりかえり、けげんな顔をしてにらみつける。それへ、グ というのは、その氷柱の向こう側では、にわかに、 イムのどこにでもあふれているまばゆいめくるめく光が消えて、暗インは云った。 い洞窟がその先にあるのが見えたからだ。そこは明らかに、ガルム「俺は自分がどうしてこのようなすがたで生まれてきたのかも知ら の洞窟と同じような、奥深い通路になっているらしかった。 ぬ。だから、お前たちが俺を悪魔だというならば、俺にはそうでは しかし、見てのとおり、他 グインはすばやい目で、その巨大な氷の山が、それも中は空洞ないと云いはるだけの自信はない。 になっているらしいことをみてとった。その入口には、兵士が立の二人は、まったくふつうの人間だ。どこも、あんたたちとちがっ っていたし、のそける限りでは、その中の方もまたふつうの氷のたところはない。たまたま俺と知りあい、同行するはめになっただ だから、もし、どうしてもというなら、この俺はどんな 家の内部のようになっていて、しかし他の家々のように半円形をけだ。 9 ふせた形でないために、何となく、それは神殿めいた印象を与え目にあわされても不服はいわぬ。このような姿をしていることの罰 2 を、甘んじてこの身にうけよう。だから、他の二人は、許してやっ こ 0
グインは足をいそがせながら説明した。 その下に渦巻く黒い、不吉な水がはつぎりとみえた。かれらは青 「この水は氷よりももっと冷たい。そこにおちれば、たちまちのうざめて、顔を見あわせた。 ちに心臓はちぢみあがり、止まってしまう。ヴァラキア生まれの水「こりゃあわたれやしないよ、グイン。迂回しよう」 練の上手も役には立たぬ。 せめてものなぐさめは、スヴェンも「ああ。しかし急ぐんだ。どうも、この一帯の氷がうごき出してい あのヨッンヘイムの若者も、きっとさほど苦しむひまもなく息がとるようだから」 まったろうということだ」 かれらはあわてて裂け目にそって走り出した。ョッンヘイム人た ちもあとにつづいた。 「冗談じゃないね」 しかし、いくらも走らぬうちに、かれらはもっと大きな裂け目ー 低くイシュトヴァーンは呟き、いっそう足もとに気をつけた。 ーこんどはさっきの裂け目を直角に走っているーーーにぶつかったの ョッンヘイム人たちにとってもそれはやはり、ただならぬ異変で あったらしい。かれらは、ざわざわと何やらしゃべりあいながらグである。 インたちにおくれぬよう急いでいた。・ ふきみに氷には黒っ。ほい亀裂「イミール が入り、ゴゴゴゴ : : : という音がひっきりなしにきこえ、そして、 ョッンヘイム人たちはよわよわしく呷ぶと、すっかり観念した、 とおくで氷山がゆっくりと氷塊のあいだをすべり出るのがみえた。 というように、そこにすわりこんでしまった。イシュトヴァーンは 「なんてこった ! 」 刻一刻ひろがってゆく、いのちとりの冷たい海を眺めながら、幼い 子どものようなふるえる声を立てた。 イシュトヴァーンがうめいた。 「氷の下がぜんぶ海だなんて。 やつら、ヨッンヘイム人は、海「グイン ! 丨ーああ、グイン、どうしよう : ・・ : 」 の下に住んでるのかい ? 」 「すわりこんで泣くひまはない。 こうしてるうちにも、亀裂がひろ 「そうではない。このへんは、海がおそろしく入りくんで入りこんがり、望みは失われるんだ」 グインは手荒にヨッンヘイム人たちをひきおこした。 でいるのだろうーーーこれまでは、上を氷がひとしなみにおおってい 「さあ、ついて来い ! 」 るのでわからなかったが。それにしても、急ごう。思ったよりも、 彼はさっきの裂け目へひきかえした。そこは、さっきよりまた少 異変はひろい範囲にわたっているようだ」 かれらはいよいよ緊張して先をいそいでいった。しばらくは、裂しひろがったように思われた。 け目にゆきあたっても、ひと思いにひらりととびこせるていどのも「どうするんだよ、グイン のしかなかったが、やがて、かれらは愕然として立ちすくんだ。お「ここで立往生しても死ぬのは同じだ」 よそ二タール近くもある裂け目が、 云うなり ばっくりと口をあけていたので あるー グインは少しうしろにさがってじゅうぶんに助走をつけるなり、 250