フレスル - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1982年2月号
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1. SFマガジン 1982年2月号

「工場でアルプミンを生産すると、高くつくことにならないでしよしたが、あんなことをする必要はありませんでした。うむをいわさ うか。今日家畜を生産しているより、高くつくのではないでしようずプレスルを、ほうり出すべきだったのです。彼にはそれができた 8 2 か。家畜を生産するには、乾草と畜舎さえあればこと足りるのですのですからね。どうやら彼自身のなかで、彼がロポットであるか、 もの」 ロポットでないかの問題は、今のところ未解決のようです。私は彼 その人たちは私を、軽蔑するように見ました。私もいっしょに招に援助の手をのばすべきではないか、と思いました。私はますます いてもいいのじゃないかなど、思いもよらなかったことなのでし夫のことを考え、プレスルを裏切るようになったのです。じっさ 、ゾレスルは闘士ではありませんでしたし、ロビンソン・クルー 「委員会がこれから審議するのは、正にその問題なのですよ。われソー式の自由を望んでいたのです。 午後私はしばらく、。ヒアノの前に腰をおろしたほどです。初めは われはそのために先生を必要としているのです、ソウドルシカ : ' ハカらしく、かっセンチメンタルに思われました。ふたたび・ハイエ その人たちはそれほどこの問題に熱中していましたし、またそれル教則本を習いはじめているみたいに、私は「さすらいの羊飼い」 チェコでビアノを習いはじ ほどロズムを信じていましたので、私はプレスルのことを口にする ( ) のメロディをたたきました。私が自分のフラ める時、よくひくわらべ歌 ットにいて、それほど寒々とした気にならなかったのは実に久しぶ ことさえできませんでした。・フレスルは自分で何とか道をきりひら くことでしようし、結局この二人は、、 っしょに研究することになりのことでした。 るのではないでしようか。 四時ごろだったと思いますが、誰かが・フザーを鳴らしました。私 ロズムは、ヤナの側に腰をおろしているだけでした。ャナは、彼には待っている人は一人もいませんでしたので、長いこと鳴るにま の方を見ようともしませんでした。勝ちほこっているみたいでしかせておきました。廊下にはまた二人の制服が立っていました。ご た。ロズムは、出世の誘惑に抗しきれなかったのです。彼はまた、存じのように、私には階級は見分けがっかないのです。 私のもとを去って行きました。彼がプレスルをおそれていたのは、 「何のご用でしようか、ソウドレフ ( 同志、 ノ単数形 ) ? 」と、ひとりで来たみ ナいに、私はふたりの人にいいました。 とりこし苦労だったようです。彼は午前中ずっと本当の人間のよう なふりをしていましたが、そんなこと、しなくともよかったので「奥さんはヘレナ・グローリオヴァーさんでしようか」 す。プレスルはひょっとすると、もう警察に留置されているかも知「前に一度申しましたが、私はそういう名ではございません」 れません。それとも、みなに嘲笑されているかも知れません。聖者「午前中お宅にビオロク ( 生物学者 ) ・。フレスルという人が来てい がみなそうであるように : あんなファンタスチックな比喩をもましたね ? 」と、二人はまるでビオロク ( = 。語では語尾が声音 ) が彼の ってしても、やはりうまくいきませんでした。誰冫 こも、ああいう比ファーストネームみたいに、ききました。ビオロク・。フレスル。 喩はわからないのです。ロズムは部屋で自分に向ってどなっていま「ええ。でも、あの人は精神病者ではありません」と、私はロ早や

2. SFマガジン 1982年2月号

「それじゃあの話しぶりは、一体どうなのだ ? 」 「先生 : : : 」と、。フレスルはロズムを抱擁するのでした。「先生の 「あれも学問の世界ではまったく可能な仮説だ、とのことよ : : : 」 ことを心配していたのですよ。お目にかかれてうれしく思います」 ロズムは考えてもみませんでした。 きようのロズムが昨夜のロズムと寸分ちがわないことや、ロズム 「・ハ力な。カレルはね、私が苦境におちいっているのをただうれし ひだ がっているのだ。今ごろは研究所の連中は、私をサカナにして喜んの着ているタキシードさえ、ひとつひとつの襞まで同じであること など、プレスルにはぜんぜん問題ではなかったのです。 でいることだろう。息子が病気なところへ、今度は協力者が病気に なったときている。これは成功の代償というやつなのだ。みな、自「先生まで殺されるのじゃないか、と思って、もう気が気じゃなか こらん ったのですよ。チャベックに対してどういうことをしたか、・ 分たちが平凡で、健康な息子や同僚を持っていることを喜んでい る。関係など何もありやしないのにね。関係があったとしても、そになればわかります : : : 」 んなものはまちがっていて、感情やケチな根性の影響を受けたまち「基本命令というやつを、きみは忘れているね」 どうやら私の夫は、きのうのゲームのつづきをやる決心でいるら がった考え方の典型的な見本なのだ。きみまでそういう連中の仲間 入りができるとは、私にはわからないね。だが、きみに警告しておしく、微笑を浮べながら「フレスルを部屋のなかへ連れて行きまし くよ。私はこれからはもう敵を容赦しないからね。どいつもこいった もみな、息の根をとめてやるのだ。私には今そうするだけの力が十「何かメカニズムをつくる以上、われわれは理論上の機械を扱う時 と同様、その仕組みに何等かの基本的命令を与えなければならない 分あるのだよ : : : 」 彼は私に向ってどなるのでした。私には予期していなかったこと で、そういう彼の前に私は思わずあとずさりしたほどです。彼はと「ではどんな命令を先生は与えられたのです ? 」 。フレスルはもどかしそうにききますと、コーヒーをぐいと飲みま きどき朝不気嫌になるのですが、あまりの剣幕に私はこわくなった ほどです。いきなり、スチーム一口ーラーのように転がりはじめたした。ロズムがカレルのためにつくっておいたものなのでしよう。 のですから。雪崩のように、といってもいいでしよう。自分の発見「どんな命令なのです ? 」 したものを武器に、身のまわりの人間を本当にみな破壊するのでし彼はきくと、例の・ ( カ長い刃物を握りしめました。それは豚を殺 もろば ようか。こんなことになろうとは、まったく思いもよらなかったのす時に使うものに似た大きな包丁で、両刃が研いでありました。 「そこが問題なのだよ」 です。その瞬間、彼は本当に変ったのでした。彼は電話のところに 急いで行きました。ところが、それよりさきドアのところでブザ私の夫は上司のように、いささか非難めいた口調でいいました。 3 ーが鳴ったのです。それでも、もし。フレスルが入口のところですぐ「むかしから人間は機械に、どんな命令を与えてきたのだったか 長い刃物を抜かなかったなら、平気で救急医を呼んだことでしよね ? オートメーションの仕組みになっていない機械に対してもだ

3. SFマガジン 1982年2月号

私はふたりの前に、紅茶のカップをさし出しました。ほんのしばを病的に嫉妬しているからだ、という証言をすることになってい らく前ロズムが研究室でおこなっていたのは、おそろしい決闘だつる。きみは私が彼女といっしょに寝ている、と考えているが、何と 8 2 たにちがいありません。最年少の協力者を前に、これほど自己卑下でもいうがいいよ。きみがあることないこと考え出した原因は、こ をしている以上、彼はあらゆる困難を克服しなければならなかったれなのだ。きみが私に思わせたがっているような学者の理想像から はずです。少し前には私をおどし、昨夜は。フレスルを精神病院にとでもなければ、高遠な思想のためからでもなく、動物に共通のあり じこめてしまおう、としていた彼である以上、自分自身の成功、自ふれた原始的嫉妬心からで、そいつは無断引用などよりずっと悪い ことなのだよ。きみは分裂している。私より悪いね。きみは女のた 分自身の栄光をどんなに強く望んでいたかしれないのです ! と思っているのだ。人間の認識の歴史安 「・ほくはあなたが本当のロズムではないことを、最初の瞬間から知めに私を破減させたい、 っていました。あなたがあの包丁を見つめていられたあの瞬間からそもそもの初めから複雑なものにしている、女という陳腐この上な いものをいいがかりにしてね。だが、どっこいそうはさせないよ」 : 」と、。フレスルは、、 しました。私の夫はあわや紅茶を、絨毯に ぶちまけるところでした。 「ぼくはロポットを、破壊したいのです。ロポットという、できそ こないの機械を破壊したいのです。あなたはロズムの意志に反し 「きみは一体この私に何をしろ、というのかね ? 若僧のくせにー きみの年ごろでは、私は試験管をやっと洗わせてもらえるところだて、彼に奉仕しているのです」 ったのだよ。私がきみを研究所に連れてこなければ、今ごろきみは「きみに許してもらうには、私はいったいどうしたらいいんだ ? 」 一体どこにいる ? きみはひざまずいて、私に感謝すべきなのだよ。 ロズムはもう少しで、すすり泣きしそうでした。彼はまた例の哀 アイディアは、誰の頭にだって浮ぶんだ。きみひとりじゃない。重願するような、妥協的なおだやかな声で話していました。もうどな 要なのは、誰がそのアイディアを検証するかなのだ。わかるかね ? りも、おどかしもしませんでした。彼は本当に二つの声を持ってい たのです。こんな状態の彼を、私はこれまで一度も見たことはあり 私がきみを研究所からおつぼり出したら、きみは自分のアイディ アをチン。フンカンプンの文書に記録しておくことはできるが、そんません。。フレスルは立ち上りました。 なもの、何の役にも立ちはしないだろう。きみは、私を目当に頭か「ぼくはもう例のフォトコビーを持っています。・ほくはきめたので らひねり出したあの哀れなチャ。ヘックや、ほかの奇人たち同様、こす。そいつを保安局に渡します。一刻もゆるがせにはできません。 つけいな最期をとげることになるのだよ。人間というやつはね、きできるだけ早く口ズムを救う必要があるのです。さもないと、人類 み、発明家ごっこをするのが好きなんだ。きみはその他大勢の一人全体が脅威を受けることになります・ : : こ になるだろう。今のようなことをやめないなら、私はきみをおつば 。フレスルはドアの方を向きましたが、そこにはヤナが姿を見せて り出すからね。きみをやつつけるぐらい、私は平気でやるよ。あすいました。彼女が私たちのフラットの鍵を持 0 ていることを、私は ャナは、きみが私のことをとやかくいっているのは、私たちのこと知らないでいたのです。ファッション・ショーからまっすぐやって

4. SFマガジン 1982年2月号

きなスキャンダルになるのを防ぐには一体どうすべきか、というこ 「そうだよ」 とばかり考えていることが見てとれたのです。 「ぼくたちがお手つだいしてはいけませんか」 「・ほくはあなたを崇拝しています、ロズムさん」 「そう」 しいました。私 「そのことは例の奇妙な形、ロポットの特異な姿と関連があります。フレスルは先生という敬称をつけるのはやめて、 の夫は最後にふりかえりました。感動しているように私には思われ ました。 ロズムはプレスルを、まるで試験の時のようにほめました。 「ぼくはあなたが世界の誰よりも好きです。あなたに代ってその実 「そのとおり。私はやつを、分身として組み立てなければならなか ったのだが、きみにはそれがわかるね。なぜなら実験台になろうと験台になりたいほどです。二度目の時はおっしやってください、お いう者は一人もいなかったからだ。次回はどこにもあるというタイ願いです : : : 」 プ、でなければ人気スポーツ選手を利用するということになるだろ ロズムは悲しそうに肩をすくめますと、今は手に握っていたあの 包丁をもう一度じっと見ました。まるでほかにどうしようもないの だ、ということを確かめてみたいと思っているようでしたが、すべ 。フレスルはロズムの前にはだかりました。 てをもう一度考えているようでもありました。もちろん彼にとって 「それはだめです」 は、この青年とのあいだにいざこざがなければ、さらによかったの 彼は暗い表情をしていました。 「そんなことをすれば、人間が使っているロポットに恋をする、とでしよう。 いうような事態になるかも知れません。ハンサムな男性ロポット 「あとでぼくに、あなたのロポットを見せてくださるでしようね や、みめうるわしい女性ロポットを、誰でも使えるということにな ? 」と、プレスルはおしまいにきいたのですが、もちろんこれで彼 れば、一体どんな危険なことになるか、想像してみてください : は何もかもきめてしまったのです。 それよりぼくは、動物の顔にすることを考えたのです。猿や大の顔「もちろん」と、私の夫はいうと、急いでドアをしめました。 をしたロポットをつくる、ってわけです」 証拠を示さなければならなくなった以上、彼はプレスル相手にこ 「きみは床を掃くことのできる大を見たことがあるかね ? あるい のコメディをもはやつづけて演ずることはできないのでした。で は炊事のできる犬を ? どうやらほかの可能性はないようだ。私のも、どんなに彼はプレスルとおたがいによく理解しあっていたこと 選択は正しかったのだ。われわれは各人にその分身のロポットを創でしよう。・ とうやらこのふたりは、、共通の考えや共通のイメージを るのだ : : : 」 持っていたようです。それでも、けつきよく単細胞の生物を創り出 5 ロズムは。フレスルを、やんわりと押しのけました。私には彼が今すことに成功した冷静な私の夫と、この空想家がちがっていたの のうちから、救急医にどういったものか、このことがあまりにも大は、一体何によってだったのでしよう ? この人たちと話をするに か」

5. SFマガジン 1982年2月号

いですからね : : : 」 いう、正常な死の徴候を見せて死んで行くにきまっているのです・ : 「きみは頭がおかしくなったのだよ」と、私の夫はいいました。 ャナは笑い出しました。私にも・ハカげているように思えたので「あなた本当に何ともないの ? 」と、私はできるだけやさしく。フレ スルにききました。 「そいつは。フレスル君、三段論法もいいところだよ。だが、冗談は 「いつも変だったのです。考えに考えて、けつきよく何もかも考え これくらいにしておこう。きみは午前の講演には本当に顔を見せてすぎてしまったのです : : : 」と、ヤナが言葉をつけたしました。 いなかったのだが、・ とういうわけかね・・・・・こ プレスルは度の強い眼鏡で、私たちを見つめていました。見たと ロズムはききますと、実の父親のように。フレスルの肩をかかえよ ころ、すっかり落ちついています。 うとしました。まるで、怒ってはいないんだよ、私はジョークがわ「つまり、あなたはロズム先生じゃないのです : : : 」 かるのだよ、何もかも水に流してあげるからね、といわんばかり「じゃ、私はいったい何者なのかね ? 」 に。プレスルは譲りませんでした。顔はまだこわばったままです。 。フレスルは考えこみました。 「午前中ずっと、先生を告発すべきか . どうか、考えていたからで「ぼくは先生を知っています」と、彼は沈痛な口調でいいますと、 合理的な社会のことをまた話しはじめました。「ロズム先生は本当 ロズムはいきなりどなったのですが、今はもう本気に怒って、顔にすばらしい学者なのです。世界最大の学者なのかもしれません。 をまっかにしていました。 それでいて先生は、そういう地位を手に入れようとあくせくなさら 「それじゃな・せ、そいつをやらなかったのかね ? 行くべきところないでしよう。先生にとっては、ほかの人たちに認められなくても へ行くがいいよ。出て行きたまえ ! すぐ ! 研究所では二度と私同じことだと思います。本当の学者で、未来の人間は先生のように の前に出てこないようにしたまえ : : : 」 なるにちがいありません : : : 」 ロズムはプレスルをドアのところまで、引きずるようにして連れ私の夫は、もう少しで感動するところでした。 て行きました。 「それなのに、な・せきみは彼のことを疑っているのかね : : : 」 「ご用心 ! 」ャナはあらゆる場合のことを考えていたのです。「ド 「それはあの気の毒なチャベックと共同で生きた物質ーー何にでも アの前にオルセン夫妻が立っているかも知れませんわ。もういっ来役立ち、成功をつくり出し、世話をしてくれるが、そのことによっ ても不思議ではないのですもの : : : 」 て実はそれを創った者を殺してしまうロポット、生物機械をつくり ロズムはひるみました。世界の生物学界のトツ。フにすえてくれる出したからなのです。われわれに、わがロズム先生を返してくださ 5 はずの人間の前で、恥かしいところを見せたくなかったのですね。 、。ぼくにはあなたがなぜチャベックを殺したか、よくわかってい 2 「あなたを告発しようとは思いません。ロズム先生を傷つけたくなるのです。チャベックはあなたを支配しよう、としました。あなた す。

6. SFマガジン 1982年2月号

うに思っています。ふたりは学校友だちで、なんでもロズムは、ク 「それじゃいいよ、きみ。きみは私を見破ったのだからね」 ロズムはもどって来ていたのですが、にこっともしませんでしラス中でいつも一番だったとのことです。 「でも私、行く気がしないのよ。ここにいるわ」 「きみは私を見破ったのだよ。本当に私はロッサム、いやロズムの私は夫といい争いをするのは、きらいです。これまで私は、結婚 ロポットで、主人のために働いているのだ。せいいはいよく主人生活のために自分を犠牲にして来ました。といいますのは、いやに に仕えているのだ、基本命令のままにね。あすの朝やって来たまなったというだけの理由で、私ひとりだけのものではないきずなを と思っていたからなのです。いっか え。そして本当のロズム助教授と話をするのだ。いま最も重要とみ壊してしまうことはできない、 なしている問題を解こうとしている研究室から、ここへやってくるイエンダが家に帰ってきて、私たちはいっしょに暮らし、イエンダ 。しいな、と私は思っていたの からね。ああいう人たちと会いたくないし、不必要なことにわずらには父親がある、というようになれま、 わされたくないんだよ。あした会えるからね。だが、きようは帰っです。 て、よく眠っておくことだ : : : 」 「私あなたと残ることにしたのよ。あなたは嘘つきじゃない、イン あきらかなペテンでごまかして、ズムは。フレスルをドアの外へチキはやらない、信じてい、 、と思ったからなの : : : 」 押し出してしまいました。 ロズムはいきなり私の手をとると、今にもキスしそうでした。ま 「でもあすは、もうフォトコビーを持ってきていますからね : : : 」るで小さな子供をあやしているみたいです。これもまたオルセンを と、。フレスルはいいました。私には彼が、まるで反抗期の少年のよ意識してのことだ、と私は見てとりました。もう長いこと、私にそ うに見えました。。 とうして私の夫に楯つくようなことができるのでういうやさしい態度を見せたことはなかったからです。 しよう。しかも、あんなことをでっち上げたりして : 「きみは私とヤナに何かある、と思っているのじゃないかね ? 私 「オルセン夫妻には私からよくいっておくよ。きみははやくイエン たちはいっしょに仕事をしている、ただそれだけのことなのだよ。一 ダのところへ行って、あすの朝ここへくるようカレルにいっておい彼女は私の最上の秘書なのさ。私が外出する時、彼女といっしよな てくれたまえ」と、ロズムは早ロでいいました。 のは、それだけの理由からで、私の妻はきみなのだよ。イエンダが いるので、きみが国外に出られないことは、わかっている : : : 」 カレルは私たちの男の子の面倒を見てくれていたのです。よいお 医者さんでした。つまり、こういうのがロズムのプランなのです。 ロズムはうれしそうにいいましたが、実はそれが、私と別れたい プレスルを精神病院に監禁させる腹なのですね。抜かりがありまと思っている、世界最大の生物学研究所で働くため今度外国へ旅行 せんでした。ォルセン夫妻を丸めこめ、・フレスルを舞台の外へ追いするのは、とりもなおさずほかの女性をめとるための旅なのだ、と 払う。カレルはロズムが好きで、私がイ = ンダに面会に行きますいうことを私にやさしく知らせるためだったのです。こんな外交的 と、いつもロズムのことをきくのです。ロズムをほとんど天才のよ手腕が彼にあるとは、意外でした。卑劣というほかありません。

7. SFマガジン 1982年2月号

おしまいには研究所へ泊りこむ始末です。まるで突然、自分の成功題を解決した、という満足感で、人間が生活から期待しているすべ や自分の構想以外のことは、何も考えていないみたいでした。そしてのことが解決できるのでしようか。チェスやクロースワードバッ て、けつきよく勝ったのです。ヘレナさん、・ほくにはロズム先生がズルを生きがいにしている人たちが、最も幸福だ、といえるでしょ すっかり変ってしまったように思われるのですがね : ひょっとすると、ロズムのことは。フレスルの方がよく知っていた 「もしかしたら、あなたの方がロズムをよく知っているのかもしれ のかも知れません。私はよく、この人たちのつくっているこの研究ません。私は彼に変化がおこっていることに、気がっきませんでし チームは、夫婦のようなものではないか、と思ったものです。絶えた。ずっと前からあんなでしたし、今は前より仕事ぶりがはげしく ず生活を共にしていたのですものね。。フレスルはロズムを崇拝してなっただけではないか、と思っています。でも、私を行かせてくだ いました。ロズムが彼を初めて家へ連れてきた時のこと、彼に本をさいな。でないと、救いを求めて大声をあげますわよ。・ハスに急い 貸していた時のこと、まるで友だち同士のように彼と話していた時で乗らなければならないのです。そんなことをしていると、あなた のことを、思い出します。私はよくこの髪の毛のふさふさした青年もいっかロズムのようになってよ : : : 」 ししました。プレスルはその場を動かず、寄ら に向って、どなりたい気持になったものです。そんな話を信じては私は腹を立てて、、、 だめです、彼の年ごろの人間には、そんな名のない宗教のようなもば防がんとばかりに、ポケットのなかで鍵を握っていました。 の、科学者の秘密結社のようなもののために自分を犠牲にしたり、 「・ほくは本当のロズム先生のようになりたいのです。・ほくは学問に 一つの問題だけのために自分の頭脳と論理を傾注し、それでいて、 一身を捧げています。真理を知るために一身を捧げているのです。 そういう生きながら本のなかに自分を葬ってしまった人たちや研究ぼくは人間を、本当に考え認識する存在、愛他の精神、おたがいに 室のムシたちよりは、ずっとあけっぴろげでしかも複雑な生活をし報いられることのない助力をする能力を備えていることを主な特徴 っミューン ている街の庶民たちが今日なお探し求めている、幸福、満足、歓とする、真のホモ・サビエンスに変える新しい、合理的な共同体を び、愛、享楽、充足感といったものを求めることはできないので建設したいのです。ご主人はいつもぼくに、こう教えてくれたので す、とね。 す。だからぼくは、科学者になりたいのです。だからぼくは、生き でも、私はいったい彼に、このようなことのほかの何をしなさているような気がしているのです。ところが、今ぼくの目に見えて いるのは、ほかのことなのですからね。女性の秘書を連れ歩くよう といえたでしよう ? 私はよく心のなかで、こういう人たちのうちの誰かと駆け落ちしなことさえしているのですよ。突然 : : : 」 て、本当の生活とはこんなものだ、と見せてあげたら、と思ったも私は、とうとう腹を立ててしまいました。 9 のです。でも私は、イエンダがあるので、誰とも駆け落ちしません 「いいですか、。フレスルさん、私はいよいよ本当に出かけなければ 5 でしたし、今日では私はもう年をとってしまっています。論理の問 ならないのですよ。ロズムのことでは、今に陰口をきかれるように

8. SFマガジン 1982年2月号

自分をモデルにね ? そっくりの人造人間を ! 研究中のある瞬「そんな・ ( 力なことがあってたまるものかね。ォルセンがこのこと のすべてに兵器という側面があるといった時、私はふとそう思づた : 。私はここに一晩中ずっといたのだよ : : : 」 、夢うつつに : 彼は私を、大きなガラス箱のところへ連れて行きました。そのなのだよ : : : 」 ォルセンはそれを、兵器という側面という言葉で表現したのでし かではジャガイモでも煮ているみたいに、何かがごとごと音を立て さつりく ていました。すると、これが、彼の人造原生動物の保育器だったの た。人間の大量殺戮、秘密の方法による破壊、しかもこのことでは でしようか。そうでなければ、なぜ私をこんな所へ連れて来たので誰が悪いのか、はっきりしないのです。病気と兵器を区別すること しよう」自分のやったことを認めるつもりなのでしようか。するとも困難です。これがオルセンのいう兵器という側面、なのでした。 「突然私は、何かぜんぜん別の声を聞いたのだった。まるで私のか やはりあれは、ただの比喩ではなく、現実だった、のでしようか。 彼には、自分のロポットがあるのでしようか。夢遊病者は、夜やつわりに、誰かが話しているみたいなんだ。私がいったことを、私は いうつもりではなかったのだ。こういうことが、私には何回かあャ たことを知っているのでしようか。いっかカレルは、外を長いこと 出歩きながら、自分ではおぼえてもいない患者たちの話をしてくれた。自分ではどうにもできないんだ : : : 」 たことがあります。物事をきめ、話をし、自己紹介をしたりしてい 「自分 ? それとも自分のロポットなの ? 」 というのです。 るのに、誰もまるで気づかない、 「両方ともだ : : : 」 「でも、あなたのロポットは、一体どこにあるの ? いや、あなた彼はまた溜息をつきました。私にはもうわかっていました。もち のモデルは ? あなたは二人いるはずですものね : : : 」 ろん、また攻撃がはじまったのです。。フレスルの前で演じてみせた そういったことはいったのですが、それはいかにもナンセンスに時のように。。フレスルをなだめて、私がカレルを連れてくるのを待 っていた時のように。でも、今度はうまくいかないでしよう。 聞えました。彼はにやにやしていました。 化物大ウサギと半裸の美女 をともなし 、、、〃暝目 5 旧 庫 を探しもとめる男の行く 文 ワ 手には : : : 書き下ろし カ 表題作を含む俊英の第ャ 作品集・定価三八 0 円 ロック弋のド F 感性 岬兄悟 瞑想者の肖像 , 297

9. SFマガジン 1982年2月号

「そんなもの、簡単に破壊できるわよ」 そこには大臣、オルセン夫妻、ヤナそれにロズムの協力者のうち数 「きみには、基本命令がどういうものか、わかっちゃいないね」 名の人が立っていました。 「それはそうよ。あなたはそのことを。フレスルにとてもうまく説明「彼はどこにいるのです ? 」 していたわ。あなたに死ぬまで奉仕しなくてはならないのだ、とい ロズムの姿は見えなかったのです。 って。でも、あなたより長くは生きられないはずよ。年とったチン「彼は一体どこにいるのです ? 」 ・ハンジーが、その率いる群のために自分を議牲にすることができる みな私を、困ったように見ました。 のなら、ノーベル賞の候補にもなろうという人間に、そうするのが「書記局へ駆けこんで来たのですよ」 どうして困難なのでしよう ? 」 ャナがべそをかきそうな顔でいいました。 「きみは私を殺すつもりなのかね ? 」 おそらく彼に、のつびきならぬ現場を見られたのでしよう。 「あなたを救うつもりなのよ」 「見た、と叫んだのです。誰を見たかはいいませんでした。見た、 彼はふらっきながら外へ出て行き、ドアを自分でしめましたが、 といったのです。見た、見た、と何度もくりかえしていいました。そ もう一言もいいませんでした。猫かぶりめ。私には彼がどこへ行くれから、壊してやる、って。そして、外へ飛び出して行ったのです」 のか、わかっていました。隣りの部屋で、もうカレルに電話してい 「彼にとっては、たいへんな興奮だったのですよ」と、オルセンが るにちがいありません。私がプレスルのつかんだ真相を知ったも説明しました。 のですから、私を厄介払いするこんたんなのです。でも、私は先手「あんなに成功していたのに」 を打っことができます。白い部屋のなかを、私は見まわしてみまし「それに兵器という側面 : : : 」私はま「たく冷静な口調でいいます た。それらの器具は、 いったい何なのでしよう ? それらのうちと、おきあがりました。「彼をどこへやったのです ? 彼は一体ど いったいどれが兵器なのでしよう ? 私はまるで銃殺隊が前にいるこにいるのです ? 」 みたいに、助けを求めて叫びはじめました。私はそれらの器具に体「ご愁傷さまです。国民全体の損失なのです」と、大臣は私にいし をぶつけ、床の上に投げちらしました。それらは私の足もとに、音ました。「奥さんはけなげな方なのですから」 を立てて飛び散りました。私は血みどろになりましたが、まだ生き「彼をごらんにならない方がいいですね」と、オルセンは勧めるの ていました。私はおろされたシャッターに向って、体当りをしましでした。「なにしろ、屋根裏に近いところから飛び降りたのですか た。。フレスルのはたせなかったプランを、なしとげるつもりだったら」 のです。私はシャッターに、頭をぶつけました。叫びはじめたので 「ロポットは見つかったのですか」私が痛みのあまりうわごとをい すが、膝がへなへなになり、意識を失ってしまいました。 っている、と思ったのでしよう、みな私を気の毒そうに見ていまし 私は誰も人のいなくなった会議用ホールで、我にかえりました。 た。「私たちは彼のロポットを見つけなければならないのですよ。 298

10. SFマガジン 1982年2月号

アノをひきはじめるってわけ : : : 」 を考えていたか、それとも今私の話している相手がロズムでない 彼は深く息を吸いました。それとも溜息をついたのでしようか尸 か、どちらかです。 こわがらなくなったのでしようか。 「不思議な午後だったよね。私は幸福だったのだが、心配事がいく 「このすぐあとで、あれは実はプレスルの発見だったのだ、と声明つもあったので、そのことを考えていた。つまり私は、あの青年も みぢか したら、あなたはもう研究をやらせてもらえないかも知れない、と好きだったのだよ。私は身近の協力者たち、それから自分の妻を敵 思うわ・ : : ・」 にまわすようなことは、けっしてしたくなかったのだ。そういうこ 彼はやはり人間だったのかも知れません。私の方を向いてにつことも、これからはなくなるよ。今にわかるからね : : : 」 り笑ったのです。 こういいながら、彼は私をまた会議用ホールに連れて行きまし こ 0 「私はきみに感謝しているよ。きみも知ってのとおり、ここ数日間 私は奇妙なひとときを何度も味わっているからね。それが本当に一 私は用心深く、彼について行きました。午後彼がネコをかぶって 番いいことかも知れないね。私はきみのいうとおりにするよ。つま いたのかも知れないと同様に、こういったこともみな偽装かも知れ 家族のいうとおりにね。私にとってはおそらく、ほかの生活は なかったからです。もしロポットなのなら、ただ時間を稼ぐっもり ありようがないのだ。きのうの〔午後、私はそのことを知ったのだで、今ではもう私を厄介払いすること、完全な成功への道に横たわ よ。私がしばらくにせよ幸福だった時にね。アウトサイダーとしてる私という最後の障害を取り除くにはどうしたらよいか、その人造 頭脳でいろいろ考え、策略をめぐらし、計算しているのかも知れま 「どこで ? 」 せん。しかし、もし彼が本当のロズムであり、彼がああいったす 彼はわからないふりをしました。・ てのことを本当に考え、約東したことを実行するつもりなのなら、一 「どうしたのよ、どこだったの ? 」 ・フレスルの行動は本当に狂気の沙汰であり、彼の推測はナンセンス 「われわれは午後どこにいたのだったけ ? 」 であり、その死は犬死だということになります。。フレスルは朝やっ これは本当のロズムが今のところまだ、自分のロポットに伝えるて来た時に、今の私のように、あなたのやったことをすべての人に ことができなかったにちがいない、と思われる情報なのでした。私告げてください、ということができたはずです。でなければ少なく は「川岸」で彼を試してみました。それから「ヴァシスカー通り」とも、ロズムがきようの午後カプトを脱いだ時に、そのことを受け で。完全な落第でした。生物学のカードには、まだデータが記入さ入れることができたはずです。それ以上の何を、彼から望むことが れていなかったのです。 できたでしよう ? 一体それ以上の何を : ・ 「おぼえていないね」 数時間前にここへ搬入されたにちがいないヤシの木の下で、私は 彼が本当にああして散歩しているあいだ、ずっと何かほかのこと人びとにとりかこまれました。この研究所で園芸係りを雇っていよ 290