ロズム - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1982年2月号
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1. SFマガジン 1982年2月号

うに思っています。ふたりは学校友だちで、なんでもロズムは、ク 「それじゃいいよ、きみ。きみは私を見破ったのだからね」 ロズムはもどって来ていたのですが、にこっともしませんでしラス中でいつも一番だったとのことです。 「でも私、行く気がしないのよ。ここにいるわ」 「きみは私を見破ったのだよ。本当に私はロッサム、いやロズムの私は夫といい争いをするのは、きらいです。これまで私は、結婚 ロポットで、主人のために働いているのだ。せいいはいよく主人生活のために自分を犠牲にして来ました。といいますのは、いやに に仕えているのだ、基本命令のままにね。あすの朝やって来たまなったというだけの理由で、私ひとりだけのものではないきずなを と思っていたからなのです。いっか え。そして本当のロズム助教授と話をするのだ。いま最も重要とみ壊してしまうことはできない、 なしている問題を解こうとしている研究室から、ここへやってくるイエンダが家に帰ってきて、私たちはいっしょに暮らし、イエンダ 。しいな、と私は思っていたの からね。ああいう人たちと会いたくないし、不必要なことにわずらには父親がある、というようになれま、 わされたくないんだよ。あした会えるからね。だが、きようは帰っです。 て、よく眠っておくことだ : : : 」 「私あなたと残ることにしたのよ。あなたは嘘つきじゃない、イン あきらかなペテンでごまかして、ズムは。フレスルをドアの外へチキはやらない、信じてい、 、と思ったからなの : : : 」 押し出してしまいました。 ロズムはいきなり私の手をとると、今にもキスしそうでした。ま 「でもあすは、もうフォトコビーを持ってきていますからね : : : 」るで小さな子供をあやしているみたいです。これもまたオルセンを と、。フレスルはいいました。私には彼が、まるで反抗期の少年のよ意識してのことだ、と私は見てとりました。もう長いこと、私にそ うに見えました。。 とうして私の夫に楯つくようなことができるのでういうやさしい態度を見せたことはなかったからです。 しよう。しかも、あんなことをでっち上げたりして : 「きみは私とヤナに何かある、と思っているのじゃないかね ? 私 「オルセン夫妻には私からよくいっておくよ。きみははやくイエン たちはいっしょに仕事をしている、ただそれだけのことなのだよ。一 ダのところへ行って、あすの朝ここへくるようカレルにいっておい彼女は私の最上の秘書なのさ。私が外出する時、彼女といっしよな てくれたまえ」と、ロズムは早ロでいいました。 のは、それだけの理由からで、私の妻はきみなのだよ。イエンダが いるので、きみが国外に出られないことは、わかっている : : : 」 カレルは私たちの男の子の面倒を見てくれていたのです。よいお 医者さんでした。つまり、こういうのがロズムのプランなのです。 ロズムはうれしそうにいいましたが、実はそれが、私と別れたい プレスルを精神病院に監禁させる腹なのですね。抜かりがありまと思っている、世界最大の生物学研究所で働くため今度外国へ旅行 せんでした。ォルセン夫妻を丸めこめ、・フレスルを舞台の外へ追いするのは、とりもなおさずほかの女性をめとるための旅なのだ、と 払う。カレルはロズムが好きで、私がイ = ンダに面会に行きますいうことを私にやさしく知らせるためだったのです。こんな外交的 と、いつもロズムのことをきくのです。ロズムをほとんど天才のよ手腕が彼にあるとは、意外でした。卑劣というほかありません。

2. SFマガジン 1982年2月号

いですからね : : : 」 いう、正常な死の徴候を見せて死んで行くにきまっているのです・ : 「きみは頭がおかしくなったのだよ」と、私の夫はいいました。 ャナは笑い出しました。私にも・ハカげているように思えたので「あなた本当に何ともないの ? 」と、私はできるだけやさしく。フレ スルにききました。 「そいつは。フレスル君、三段論法もいいところだよ。だが、冗談は 「いつも変だったのです。考えに考えて、けつきよく何もかも考え これくらいにしておこう。きみは午前の講演には本当に顔を見せてすぎてしまったのです : : : 」と、ヤナが言葉をつけたしました。 いなかったのだが、・ とういうわけかね・・・・・こ プレスルは度の強い眼鏡で、私たちを見つめていました。見たと ロズムはききますと、実の父親のように。フレスルの肩をかかえよ ころ、すっかり落ちついています。 うとしました。まるで、怒ってはいないんだよ、私はジョークがわ「つまり、あなたはロズム先生じゃないのです : : : 」 かるのだよ、何もかも水に流してあげるからね、といわんばかり「じゃ、私はいったい何者なのかね ? 」 に。プレスルは譲りませんでした。顔はまだこわばったままです。 。フレスルは考えこみました。 「午前中ずっと、先生を告発すべきか . どうか、考えていたからで「ぼくは先生を知っています」と、彼は沈痛な口調でいいますと、 合理的な社会のことをまた話しはじめました。「ロズム先生は本当 ロズムはいきなりどなったのですが、今はもう本気に怒って、顔にすばらしい学者なのです。世界最大の学者なのかもしれません。 をまっかにしていました。 それでいて先生は、そういう地位を手に入れようとあくせくなさら 「それじゃな・せ、そいつをやらなかったのかね ? 行くべきところないでしよう。先生にとっては、ほかの人たちに認められなくても へ行くがいいよ。出て行きたまえ ! すぐ ! 研究所では二度と私同じことだと思います。本当の学者で、未来の人間は先生のように の前に出てこないようにしたまえ : : : 」 なるにちがいありません : : : 」 ロズムはプレスルをドアのところまで、引きずるようにして連れ私の夫は、もう少しで感動するところでした。 て行きました。 「それなのに、な・せきみは彼のことを疑っているのかね : : : 」 「ご用心 ! 」ャナはあらゆる場合のことを考えていたのです。「ド 「それはあの気の毒なチャベックと共同で生きた物質ーー何にでも アの前にオルセン夫妻が立っているかも知れませんわ。もういっ来役立ち、成功をつくり出し、世話をしてくれるが、そのことによっ ても不思議ではないのですもの : : : 」 て実はそれを創った者を殺してしまうロポット、生物機械をつくり ロズムはひるみました。世界の生物学界のトツ。フにすえてくれる出したからなのです。われわれに、わがロズム先生を返してくださ 5 はずの人間の前で、恥かしいところを見せたくなかったのですね。 、。ぼくにはあなたがなぜチャベックを殺したか、よくわかってい 2 「あなたを告発しようとは思いません。ロズム先生を傷つけたくなるのです。チャベックはあなたを支配しよう、としました。あなた す。

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おしまいには研究所へ泊りこむ始末です。まるで突然、自分の成功題を解決した、という満足感で、人間が生活から期待しているすべ や自分の構想以外のことは、何も考えていないみたいでした。そしてのことが解決できるのでしようか。チェスやクロースワードバッ て、けつきよく勝ったのです。ヘレナさん、・ほくにはロズム先生がズルを生きがいにしている人たちが、最も幸福だ、といえるでしょ すっかり変ってしまったように思われるのですがね : ひょっとすると、ロズムのことは。フレスルの方がよく知っていた 「もしかしたら、あなたの方がロズムをよく知っているのかもしれ のかも知れません。私はよく、この人たちのつくっているこの研究ません。私は彼に変化がおこっていることに、気がっきませんでし チームは、夫婦のようなものではないか、と思ったものです。絶えた。ずっと前からあんなでしたし、今は前より仕事ぶりがはげしく ず生活を共にしていたのですものね。。フレスルはロズムを崇拝してなっただけではないか、と思っています。でも、私を行かせてくだ いました。ロズムが彼を初めて家へ連れてきた時のこと、彼に本をさいな。でないと、救いを求めて大声をあげますわよ。・ハスに急い 貸していた時のこと、まるで友だち同士のように彼と話していた時で乗らなければならないのです。そんなことをしていると、あなた のことを、思い出します。私はよくこの髪の毛のふさふさした青年もいっかロズムのようになってよ : : : 」 ししました。プレスルはその場を動かず、寄ら に向って、どなりたい気持になったものです。そんな話を信じては私は腹を立てて、、、 だめです、彼の年ごろの人間には、そんな名のない宗教のようなもば防がんとばかりに、ポケットのなかで鍵を握っていました。 の、科学者の秘密結社のようなもののために自分を犠牲にしたり、 「・ほくは本当のロズム先生のようになりたいのです。・ほくは学問に 一つの問題だけのために自分の頭脳と論理を傾注し、それでいて、 一身を捧げています。真理を知るために一身を捧げているのです。 そういう生きながら本のなかに自分を葬ってしまった人たちや研究ぼくは人間を、本当に考え認識する存在、愛他の精神、おたがいに 室のムシたちよりは、ずっとあけっぴろげでしかも複雑な生活をし報いられることのない助力をする能力を備えていることを主な特徴 っミューン ている街の庶民たちが今日なお探し求めている、幸福、満足、歓とする、真のホモ・サビエンスに変える新しい、合理的な共同体を び、愛、享楽、充足感といったものを求めることはできないので建設したいのです。ご主人はいつもぼくに、こう教えてくれたので す、とね。 す。だからぼくは、科学者になりたいのです。だからぼくは、生き でも、私はいったい彼に、このようなことのほかの何をしなさているような気がしているのです。ところが、今ぼくの目に見えて いるのは、ほかのことなのですからね。女性の秘書を連れ歩くよう といえたでしよう ? 私はよく心のなかで、こういう人たちのうちの誰かと駆け落ちしなことさえしているのですよ。突然 : : : 」 て、本当の生活とはこんなものだ、と見せてあげたら、と思ったも私は、とうとう腹を立ててしまいました。 9 のです。でも私は、イエンダがあるので、誰とも駆け落ちしません 「いいですか、。フレスルさん、私はいよいよ本当に出かけなければ 5 でしたし、今日では私はもう年をとってしまっています。論理の問 ならないのですよ。ロズムのことでは、今に陰口をきかれるように

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よ」 です。でも、部屋のなかにいるのはもちろん彼だけでした。 ロズムの書斎からは、彼の声が聞えてきました。どうやら、すぐ「私はまちがったことなど、一つもしていない。何一つ私物化して 7 2 こようとせず、私たちの置かれている状況がいかにゆゅしいものではいない。なんといっても私は、研究チームのキャツ。フなのだから あるかを理解しようとしない救急医といいあいをしているみたいでね : : : 」 した。。フレスルは立ち上りました。私は逃げ出しはしないか、と気法廷で自己弁護をしているみたいでしたが、それから突然私の耳 をもみましたが、アパートのドアの方へは行きませんでした。 に、少しちがった声が聞えてきたのです。 「ぼくたちはあなたに援助の手をのばすことはできないでしよう 「だが、彼は私を信じてくれたし、私を好いてくれた。私は彼の前 か」と、彼はいうと、何か武器はないか、とばかりにあたりを見まではいつも、理想的な学者を演じていた。そんなことをする権利 わしました。 は、私にはなかったのだが : : : 」 「ロポットがそう簡単に手を上げないことは、予期していました二 「ナンセンス」と、もう一つの声は叫びました。一 研究所か警察に電話することが必要になるかも知れません」 ドアをしめながら私は、ジキル氏と ( イド氏にまつわるあの奇怪 私はこわくなりました。ロズムにはこういうことに耐えるのが、 な話ーーー個性が入れかわるというあのスチーヴンソンの古典的物語 たいへんでしよう。彼は今度は自分の部屋で、ほかの時よりも大きを思い出していました。ジキルⅡロズムが ( イドⅡロズムと暄嘩を な声でどなっていました。言葉があらかた聞えました。一瞬、自問しているように、私には思われたのです。ナンセンスな点では、こ 自答しているような感じでした。誰かほかの人の声が、彼に答えるれはロズム対ロポットにけっして劣るものではありません。 ような感じでもありました。私もこんなファンタジーにひたってい 「どうも彼自身の方が病気みたいよ : : : 」と、私は背後でロズム るうちに、もう何が何だかわからなくなってしまいました。 が、家具をたたき壊しはじめている音を耳にしながらいいました。 「ここで待っていてください。ぼくが見に行ってきます」 新しい試験管を床の上に投げちらしている音も、聞えてきまし 彼は私をはなそうとせず、私のかわりに行ぎたがりました。私はた。 夫の部屋へ逃げこまなければならなかったのです。 「ぼくは病気だったことは一度もないのですよ : : : 」 「出て行ってくれたまえ。これは私の問題なのだから : : : 」 私はもはや。フレスルを引きとめることはできませんでした。 夫は興奮して、私にどなりつけました。どこへも電話せず、肱の 私の夫は、廃墟のようになった研究室のなかに立っていました。 ところが破れているワイシャッ一つで、蝶ネクタイもどこかへやっ この瞬間の彼のどこに、きのうのあの成功した助教授のおもかげを てしまった姿で、部屋のなかを行ったり来たりしていたのです。私見ることができたでしよう ! は無意識のうちに、彼のたたかっている相手を探しました。取「組「プレスル君、 0 メディを演ずるのは、これでたくさんだね。私を みあいの喧嘩をしているところだった、というように思われたから いじめるのはもうやめてくれたまえ。よろしい、きみが勝ったんだ

5. SFマガジン 1982年2月号

「それじゃあの話しぶりは、一体どうなのだ ? 」 「先生 : : : 」と、。フレスルはロズムを抱擁するのでした。「先生の 「あれも学問の世界ではまったく可能な仮説だ、とのことよ : : : 」 ことを心配していたのですよ。お目にかかれてうれしく思います」 ロズムは考えてもみませんでした。 きようのロズムが昨夜のロズムと寸分ちがわないことや、ロズム 「・ハ力な。カレルはね、私が苦境におちいっているのをただうれし ひだ がっているのだ。今ごろは研究所の連中は、私をサカナにして喜んの着ているタキシードさえ、ひとつひとつの襞まで同じであること など、プレスルにはぜんぜん問題ではなかったのです。 でいることだろう。息子が病気なところへ、今度は協力者が病気に なったときている。これは成功の代償というやつなのだ。みな、自「先生まで殺されるのじゃないか、と思って、もう気が気じゃなか こらん ったのですよ。チャベックに対してどういうことをしたか、・ 分たちが平凡で、健康な息子や同僚を持っていることを喜んでい る。関係など何もありやしないのにね。関係があったとしても、そになればわかります : : : 」 んなものはまちがっていて、感情やケチな根性の影響を受けたまち「基本命令というやつを、きみは忘れているね」 どうやら私の夫は、きのうのゲームのつづきをやる決心でいるら がった考え方の典型的な見本なのだ。きみまでそういう連中の仲間 入りができるとは、私にはわからないね。だが、きみに警告しておしく、微笑を浮べながら「フレスルを部屋のなかへ連れて行きまし くよ。私はこれからはもう敵を容赦しないからね。どいつもこいった もみな、息の根をとめてやるのだ。私には今そうするだけの力が十「何かメカニズムをつくる以上、われわれは理論上の機械を扱う時 と同様、その仕組みに何等かの基本的命令を与えなければならない 分あるのだよ : : : 」 彼は私に向ってどなるのでした。私には予期していなかったこと で、そういう彼の前に私は思わずあとずさりしたほどです。彼はと「ではどんな命令を先生は与えられたのです ? 」 。フレスルはもどかしそうにききますと、コーヒーをぐいと飲みま きどき朝不気嫌になるのですが、あまりの剣幕に私はこわくなった ほどです。いきなり、スチーム一口ーラーのように転がりはじめたした。ロズムがカレルのためにつくっておいたものなのでしよう。 のですから。雪崩のように、といってもいいでしよう。自分の発見「どんな命令なのです ? 」 したものを武器に、身のまわりの人間を本当にみな破壊するのでし彼はきくと、例の・ ( カ長い刃物を握りしめました。それは豚を殺 もろば ようか。こんなことになろうとは、まったく思いもよらなかったのす時に使うものに似た大きな包丁で、両刃が研いでありました。 「そこが問題なのだよ」 です。その瞬間、彼は本当に変ったのでした。彼は電話のところに 急いで行きました。ところが、それよりさきドアのところでブザ私の夫は上司のように、いささか非難めいた口調でいいました。 3 ーが鳴ったのです。それでも、もし。フレスルが入口のところですぐ「むかしから人間は機械に、どんな命令を与えてきたのだったか 長い刃物を抜かなかったなら、平気で救急医を呼んだことでしよね ? オートメーションの仕組みになっていない機械に対してもだ

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「向うへ行けば、きっとロズムは、あなたにもっといいように見え 「大学を出ただけの生物学者なのです」 ますよ。向うでは、ロズムより成功した、もっと ( ンサムでもっと「そんなことはどうでもいいのです。彼にとってはそれは研究のた 7 2 若い男の人が、見つかるかもしれませんしね : : : 」 めの仮説で、その仮説でロズムがなぜ変ったかの説明がつくはずで しいえ、これまで私には、ロズムが彼女を選んだことがのみこめすし、またその仮説によって理想的なロズムというイメージを持ち ないのでした。私の本当の夫なら、このようにはけっしてふるまわっづけることができるはずなのです。私にはそのことがナンセンス ないはずです。本当の夫。あの空想家と同じでいる自分に気がつい とは、とても思えません。実のところそれは、特殊な人間像なので て、私ははっとしました。でも、なぜ空想家なのでしよう ? す。こういうロポットのイメージがいかに広まっているか、この門 題に関する文献がもはやいかに厖大なものになっているか、人びと カレルはきようちょうど宿直なのでした。だからこそ、私は精神がこういう人間機械のことを考えることがいかに多いか、というこ 病院へ通してもらえたのです。人びとはもう、出発まぎわの・ ( スのとにご注目ください。それはたぶん、人間の持って生まれた一定の ところに並んでいました。私はカレルに一部始終の話をして、あす性向に答えるものがあるからだと思います。どうも人間は、そうい の朝来てくれるよう頼みました。あの青年には本当に治療が必要な う理想にかなった助手によって、本当におびやかされているようで のかもしれないのです。 す。その助手というのは、最も効率のよい手助けをしますが、同時 「誰にも危険ではありません。ロズムがロポットを創り出した、と にそのことによって、人間を傷つけるのですからね。プレスルは仮 思っているとしたところで、それだけではまだ精神病だときめるわ説を立てた上、今その仮説を実験によって証明しようとしているの にはいかないのです。人造の原生動物を創り出し、世界中がそのです。私はその結果に興味を持っています。精神障害とこのことに ことで彼をちやほやしていますね。今日では私は何ごとにも驚きまは、あまり共通点はありません。そんなことになれば、人間の心理 せん。どうやら人間には、・ とんな機械でもっくることができますについて理論をあれこれと考え出している者は、みな精神障害者と し、欲しいものを何でも創り出す能力があるようです。問題は、そ いうことになりますからね。そんな法則はないのです : : : 」 ういうことがみなわかっているかどうかですね。科学はますます複 カレルの部屋に腰をおろしているのが、私は好きでした。壁には 雑化しています。科学の基礎を築いた人たちの単純で直線的な法則集めた絵がいつばい張ってありました。彼の患者たちの描いたもの は、もはや通用しないのです。何もかも複雑化してしまいました。 なのです。強烈な原始芸術を思わせるような風変りなものもあれ れいい 基本的な問題では、・ とんな仮説、たとえどんなに、、ハカらしいものでば、霊媒が描いたのではないかと思われる手のこんだものもありま も、検証する必要があるのです。たとえば、ロポットのそのイメー した。カレルは私たちの生活の外にある不思議な世界に、住んでい たのです。その世界へ行くのに、私たちは終点まで電車に乗り、そ ジにしても、ドクトル・。フレスルにとっては研究のための仮説にす ぎないかも知れません」 れから一台しかない・ハスに乗り換えるのですが、その世界では私た

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きなスキャンダルになるのを防ぐには一体どうすべきか、というこ 「そうだよ」 とばかり考えていることが見てとれたのです。 「ぼくたちがお手つだいしてはいけませんか」 「・ほくはあなたを崇拝しています、ロズムさん」 「そう」 しいました。私 「そのことは例の奇妙な形、ロポットの特異な姿と関連があります。フレスルは先生という敬称をつけるのはやめて、 の夫は最後にふりかえりました。感動しているように私には思われ ました。 ロズムはプレスルを、まるで試験の時のようにほめました。 「ぼくはあなたが世界の誰よりも好きです。あなたに代ってその実 「そのとおり。私はやつを、分身として組み立てなければならなか ったのだが、きみにはそれがわかるね。なぜなら実験台になろうと験台になりたいほどです。二度目の時はおっしやってください、お いう者は一人もいなかったからだ。次回はどこにもあるというタイ願いです : : : 」 プ、でなければ人気スポーツ選手を利用するということになるだろ ロズムは悲しそうに肩をすくめますと、今は手に握っていたあの 包丁をもう一度じっと見ました。まるでほかにどうしようもないの だ、ということを確かめてみたいと思っているようでしたが、すべ 。フレスルはロズムの前にはだかりました。 てをもう一度考えているようでもありました。もちろん彼にとって 「それはだめです」 は、この青年とのあいだにいざこざがなければ、さらによかったの 彼は暗い表情をしていました。 「そんなことをすれば、人間が使っているロポットに恋をする、とでしよう。 いうような事態になるかも知れません。ハンサムな男性ロポット 「あとでぼくに、あなたのロポットを見せてくださるでしようね や、みめうるわしい女性ロポットを、誰でも使えるということにな ? 」と、プレスルはおしまいにきいたのですが、もちろんこれで彼 れば、一体どんな危険なことになるか、想像してみてください : は何もかもきめてしまったのです。 それよりぼくは、動物の顔にすることを考えたのです。猿や大の顔「もちろん」と、私の夫はいうと、急いでドアをしめました。 をしたロポットをつくる、ってわけです」 証拠を示さなければならなくなった以上、彼はプレスル相手にこ 「きみは床を掃くことのできる大を見たことがあるかね ? あるい のコメディをもはやつづけて演ずることはできないのでした。で は炊事のできる犬を ? どうやらほかの可能性はないようだ。私のも、どんなに彼はプレスルとおたがいによく理解しあっていたこと 選択は正しかったのだ。われわれは各人にその分身のロポットを創でしよう。・ とうやらこのふたりは、、共通の考えや共通のイメージを るのだ : : : 」 持っていたようです。それでも、けつきよく単細胞の生物を創り出 5 ロズムは。フレスルを、やんわりと押しのけました。私には彼が今すことに成功した冷静な私の夫と、この空想家がちがっていたの のうちから、救急医にどういったものか、このことがあまりにも大は、一体何によってだったのでしよう ? この人たちと話をするに か」

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つけたせいですし、私自身がロポットのようにふるまっているから で一度も興味を持ったことのない世界に入って行かねばならなかっ でもあるのです。彼はいいわけをしました。 たからです。 、ちょう 初めに私に声をかけたのは、オルセン夫人でした。叫び声のよう「研究はもう終えられたのですか。鳥のレ・ ( ーを石炭から生産す なものをあげたのです。悲鳴と絶讃の中間のような声で、今にも気る方法は、もう考えっかれたのですか」 絶しそうでしたが、抱擁するために私のところへ驤けよってきまし この分だと、今に食物も機械化されることでしよう。そんなら私 はいっそのこと海草を食べますね。まだしも海草は自然で、本物な た。どうやら夫人には、なぜ私が午後あんなにぞんざいなかっこう をしてオルセン夫妻を迎えたかが、やっとのみこめたようです。そのですから。 れだけ夜、あっといわせよう、というこんたんだった、というので「私の夫はここに来ているのでしようか」 ロズムのロポットは驚きました。人間とほとんどそっくりに。私 す。彼女はそのことで私を責めました。私のやり方がフェアではな というのです。この分だと、私が殿方をみなかっさらってしまはまた動揺しはじめました。彼は私を、密室のようなところへ連れ う、というのです。殿方をみな魅了するのはまちがいない、というて行きました。 のです。今回私の通訳をつとめてくれたのは、ロズムの協力者の一 「きみ、本当に来てくれたのかね ? きみにどうして感謝したらい 人でした。その人も私を、驚いたような目でまじまじ見るのでし いだろう ? 何度きみにくるよういったか、知れないよね ? 久し た。ロズムの発見がそうであったように、私のやって来方も思いがぶりにきみはまた来てくれたのだが、アインシュタインがプラハに けないものだ、というのでした。 滞在中、講演をおこなった講堂を、あの時きみに見せたのをお・ほえ ているかな ? 」 「あのアメーバのこと ? 」と、私はほほえみながらいいました。 「ありがたくないですわ。そう比較していただいても、うれしいと私はおぼえていませんでした : は思いませんね。新聞ではそのアメーノぐ ' 、よ、あまり魅力的には見え 「あなたが喜ばれるか、私わからないのです」と、私は彼にいいま ませんでしたものね」 した。 どうもロポットらしいのです。記億こそ、ロポットの主な特性の 彼は顔を赤らめました。この人たちはこれまで私の前で、一度も つも記憶にたよっています。正確この上 顔を赤らめたことはなかったのです。家では私はどちらかといいまはずです。ロポットは、、 すと、この人たちにいつもおてつだいさんのように見られていましないカードのように、ロズムの生涯のひとときひとときを、丹念に たし、私が紅茶をいれてあげた時も、礼をいうのを忘れられたこと記録しているにちがいありません。 「私、あなたを脅迫しに来たのよ」 が、何回かあったのです。そんなこと、重要に思っていなかった、 のだと思います。自分たちの問題で、討論しなければならなかった そうです、私はすぐプレスルのような行動をとってはいけないの のですから。ところが、今は顔を赤らめているのです。私が口紅をです。。フレスルは本当にヤナのことが原因で、ロズムに対してあの 287

9. SFマガジン 1982年2月号

なることは、わかっていました。成功すればうらやましがられるものあげられたものをみな欲しがっているのですからね。変った時か の、と思っていました。才能がなくておろかな人たちょ、、 ーしつでもらそうなのです。奥さんがイ = ンダ君のところへ行かれることまで、め 2 ひとのことをうらやましがりますし、またいつでも世論の大勢をき当てにしているのですよ。きようもオルセンをフラットに招いたの めますが、それは残念ながら、そういう人たちが過半数を占めてい は、ひとえに奥さんがここにいられないことと、ヤナといっしょに るからなのです。いっか、そういうことはなくなるでしよう。でもオルセンを接待できることを当てこんでの上なのですからね。どこ さしあたり、そういう事態と妥協しなくてはなりません。そんな人へ行っても、奥さんのかわりにヤナを人に紹介しているのですよ。 たちの陰口に対しては、知らぬ顔をしているのが、唯一の武器なですから、ぼくは鍵をはずしたのです。奥さんに納得していただか のです。うらやましがられたって、鼻であしらえばいいのです。私なければなりませんからね。ご主人がどんな要求を出しているか、 はそういう話を近所の人たちゃ、あなたたちの要領のいい同僚たち いちいち並べ立てたり、新しい車をお見せしたりするのはやめてお の奥さん方から聞くのは、予期していました。そういう奥さん方ときましよう。新しいロズム先生が実際に行動している現場を、見て ぎたら、ファッションに憂き身をやっしたり、よろめいたりするほ いただくことにして。奥さんも・ほくと同じように、目で見て確かめ か何一つしないのですものね。でも、あなたまでそういう人たちのる必要があるのです。確認する必要があるのです。といいますの 仲間入りするとは、まったく予期しませんでしたわ。私の夫にあれは、・ こ承知のように学問の世界では、主観的な印象や思いっきを信 だけ世話になったあなたが、彼の陰口をききはじめるなんてね。しずるわけにはいかぬからで、・ほくにはもうひとりのオ・フザー かも、彼の妻のところで : 。女性の秘書を連れ歩いている、なん要るのです。同僚たちは信じたくありません。あの人たちのことは てことまでね。この分だと大型車とか新しい務所とか、・せいたく よく知りませんし、あの人たちのなかには、・ほくほどロズム先生が ぎわまる絨毯とか、協力者をもっと増やしてほしいとかいう注文を好きな者はいないからです」 出したとか、古い建物がもう手狭になったので、ガラスでできた新「ロズムが好きですって ? 」 しいビルを欲しがっているとか、なんてことまで今にあなたはいし 「ぼくは本当のロズム先生を、誰よりも尊敬しています。先生を救 出すかも知れないわね。そういうお話はもうたくさん、さ、鍵をか うためにあらゆるものを犠牲にしているのです : : : 」 えしてください。でないと、私は本当にあなたと、取 0 組みあいの私は、プレスルの頭がおかしくな 0 たような気がしました。 0 ズ 喧嘩をはじめますよ。息子のところへ行くのです。あなたにけがを ムが好きなくせに、彼の陰口をきいているのですし、ロズムを救う させたところで、私は平気なのですからね。たとえ一秒でも、イエ と同時に破減させよう、としているのですものね。そこのところ ンダからだましとるような真似はしたくないのです : : : 」 が、私にはわからなかったのです。といって私にはよく、この二つ 「きようはだましとることになりますよ。ご主人のせいでね。つまの気持は共存しているのではないか、と思われましたし、異端者を り、あなたのおっしやったとおりなのです。ご主人よ、、 ーしま奥さん助けているのだ、という主観的な確信をいだいて、焚刑に処したり

10. SFマガジン 1982年2月号

アノをひきはじめるってわけ : : : 」 を考えていたか、それとも今私の話している相手がロズムでない 彼は深く息を吸いました。それとも溜息をついたのでしようか尸 か、どちらかです。 こわがらなくなったのでしようか。 「不思議な午後だったよね。私は幸福だったのだが、心配事がいく 「このすぐあとで、あれは実はプレスルの発見だったのだ、と声明つもあったので、そのことを考えていた。つまり私は、あの青年も みぢか したら、あなたはもう研究をやらせてもらえないかも知れない、と好きだったのだよ。私は身近の協力者たち、それから自分の妻を敵 思うわ・ : : ・」 にまわすようなことは、けっしてしたくなかったのだ。そういうこ 彼はやはり人間だったのかも知れません。私の方を向いてにつことも、これからはなくなるよ。今にわかるからね : : : 」 り笑ったのです。 こういいながら、彼は私をまた会議用ホールに連れて行きまし こ 0 「私はきみに感謝しているよ。きみも知ってのとおり、ここ数日間 私は奇妙なひとときを何度も味わっているからね。それが本当に一 私は用心深く、彼について行きました。午後彼がネコをかぶって 番いいことかも知れないね。私はきみのいうとおりにするよ。つま いたのかも知れないと同様に、こういったこともみな偽装かも知れ 家族のいうとおりにね。私にとってはおそらく、ほかの生活は なかったからです。もしロポットなのなら、ただ時間を稼ぐっもり ありようがないのだ。きのうの〔午後、私はそのことを知ったのだで、今ではもう私を厄介払いすること、完全な成功への道に横たわ よ。私がしばらくにせよ幸福だった時にね。アウトサイダーとしてる私という最後の障害を取り除くにはどうしたらよいか、その人造 頭脳でいろいろ考え、策略をめぐらし、計算しているのかも知れま 「どこで ? 」 せん。しかし、もし彼が本当のロズムであり、彼がああいったす 彼はわからないふりをしました。・ てのことを本当に考え、約東したことを実行するつもりなのなら、一 「どうしたのよ、どこだったの ? 」 ・フレスルの行動は本当に狂気の沙汰であり、彼の推測はナンセンス 「われわれは午後どこにいたのだったけ ? 」 であり、その死は犬死だということになります。。フレスルは朝やっ これは本当のロズムが今のところまだ、自分のロポットに伝えるて来た時に、今の私のように、あなたのやったことをすべての人に ことができなかったにちがいない、と思われる情報なのでした。私告げてください、ということができたはずです。でなければ少なく は「川岸」で彼を試してみました。それから「ヴァシスカー通り」とも、ロズムがきようの午後カプトを脱いだ時に、そのことを受け で。完全な落第でした。生物学のカードには、まだデータが記入さ入れることができたはずです。それ以上の何を、彼から望むことが れていなかったのです。 できたでしよう ? 一体それ以上の何を : ・ 「おぼえていないね」 数時間前にここへ搬入されたにちがいないヤシの木の下で、私は 彼が本当にああして散歩しているあいだ、ずっと何かほかのこと人びとにとりかこまれました。この研究所で園芸係りを雇っていよ 290