目 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1982年2月号
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1. SFマガジン 1982年2月号

は、今観察している現象に対する筋の通った見事な説明であると思軒目でもない ( ここではコーヒーじゃなくミルクを飲んでいる ) 。 われた。 右端も緑ではあり得ない ( その右にはもう家がないのだから緑 9 そうして、もう少し正確に言うと、私はこの現象の単なる観察者でいいのは四軒目だけだ。五軒目は「緑の家の右になるから、白 ではなかった。この島の滞在を延長させられているということ自だ。さらにその続きも簡単きわまる。イギリス人の家は赤いと言う 左端はノルウェー人だし、ほかの家は 体、私も巻きこまれていることを示している。それに加えて、どんのだから三軒目以外にない。 なに私が自分自身に甘くても、私がここの住民と同じ危険にさらさみんな別の色だから。次に、ノルウェー人は医師にちがいない。と れていることを認めないわけこよ 冫。いかない。例の知能の高い者の免いうのは、医師の家は黄色であり、黄色でありうるのは、つまりま 疫という仮説にも全然安心はできなかった。秀才と凡才の境界は明だ色の決まっていないのは一番左のノルウェー人の家だけだから。 らかでないし、いわんや、個々の人間がその境界に対してどのあた ところで医師の隣人ーーっまり二軒目の住人、ノルウェー人の唯一 りに位置するかという絶対的な基準はーーーそんなものが仮にあるとの隣人ーー、は馬を飼っている。一方、イギリス人の隣人は大工であ してもーーー分からない。実は、はなはだ歴然たる事件が ( 理由はある。ここでは二つの選択がある。大工をイギリス人の左隣とするか とで述べるが、私はその事件をデビッドには話さなかった ) 、曹長右隣とするかである。左隣の青い家の住人としてみた。するとうま のクーデターの翌朝に起こったのである。賢明なる読者各位は記億く行った。続いて、弁護士はトマトジュースを飲むのだから五軒目 しておられよう、だれがゼプラを飼い、だれがビールを飲なかを解の住人だ。なぜと言うに、左端は医師で、二軒目は大工で、三軒目 明して見せることができないうちに集会がお流れになってホテルへはミルクを飲むし、四軒目は コーヒーである。弁護士とトマト 帰った時、私は紳士のエチケットを破ってアルジャーノンをクライジースという二つの条件を同時に満たすのは五軒目しかない。さ ン氏に売り渡した。さて、興奮していたにもかかわらず、私はすぐあ、着々とすべてはっきりして行く。 ″日本人は探偵である″まだ に眠りこんだ。珍しくぐっすりと安眠したらしく、朝目が覚めると職業不明の家は二つ、三軒目 ( イギリス人の家と分かっている ) と 頭は申し分なく爽やかで、夢と目覚めの境を越えたばかりにしては四軒目だけだ。とすると日本人は四軒目の住人だ。″スペイン人は これまで味わったことがないほど冴え切っていた。突然、沈めてお大を飼っている″さて、国籍不明の家は二つしか残っていない。二 いた物が浮力に負けて水面に頭を出すように、前夜のテストが頭に軒目 ( ここは馬がいると分かっている ) と五軒目。つまりスペイン フラン 浮かんだ。左端はノルウェー人の家だ。二番目の家は青い。真中、人は五軒目となる。″フランス人は紅茶を飲んでいる ス人といえばもう二軒目しか住む家はない。″ 技師は猫を飼ってい つまり三番目の家ではミルクを飲んでいる。ここで私は行き詰まっ 大工の隣人 たのだった。だがその先は明々白々じゃないか。四番目の家は、コる″ーー技師といえばもう三軒目しか住む家はない。″ は狐を飼っている″両隣のうち、片方は技師で、これは猫を飼って , ーヒーを飲んでいるからには、緑だ。左端の家は緑ではあり得ない いるから、狐はもう片方、左隣の家の医師が飼っていることになる。 ( 右隣が白ではなく青だから ) し、二軒目でもない ( 青だ ) し、三

2. SFマガジン 1982年2月号

「みんなが気にしてるのは、あなたじゃないのよ。むしろあたしの 彼女は氷をカラカラいわせながら言った。 ハンターの連れてる女」 方よ 「そうだな。美人になったよ」 「おれがハンターだって、どうして連中にわかるんだ ? 」 ギュンターがそう言うと、急にリロは笑いだした。 ギュンターは手でリロの顎をつかみ、目をのそきこんだ。 「そうじゃないの。ギュンター、あなた、本当はお酒、ひさしぶり 「わからないと思う ? その体格、その目つき。少なくとも近い将 なんでしょ ? 」 来そうなる男だってことは、この地区に住んでるもんなら誰だって 彼は少しぎくりとして尋ねた。 ビンとくるわよ。不満 ? 」 「どうして ? 」 「ん ? し 、や、別に」 「のみ方がそんな感したもの」 リロは声を出さずに笑って、ナツツを口にほうりこんだ。 そう言ってリロは、水滴のついたグラスの外周をひとさし指でぐ 「ついこないだまでは、あなたがああいう目をしていたのよ。〈 るりとなでた。 グラスはギュンターの口から離れ、かといってテー・フルに置かれターってものを見る目ね」 「ついこないだはおそれいった。物心ついたらもう養成学校に入っ もせず宙をさまよった。 てたよ」 「ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったのよ」 リロは彼の様子に気がついて、グラスを掴んだ手を自分の両手で「変わってない、最初から ? 」 ギュンターはグラスの底を見つめた。心の底にはいろいろなもの 包むと、ゆっくりと下におろさせた。そんなつもりというのがどん なつもりなのかギンターにはわからなかったが、彼はなんとも情が沈澱しているーー妬み、羨望、後悔、疲労、優越感。かきま・せる ートと名のつ とカラカラと音がする。目をあげると、さっきギル・ハ けない気分になってしまった。 ギ = ンターは、サングラスをちょっとどけてみた。薄暗いはずのた若僧と視線が合い、むこうはあわててそれをそらせた。 ーテンたちのこちらをうかがう姿「そうだな。そうかもしれない」 照明がやけにギラついて見え、・ハ ギュンターは氷をかみ砕いて、うなすいた。 がはっきりと見えてしまった。 「連中、遠慮ってもんを知らんのかね。こっちが控え目に顔かくし「あのころは「 - 本当に行けるとは思ってもいなかった」 てるっていうのに ギュンターは、入院前後のあわただしさをよく覚えていた。 リロは、つと上目づかいに彼の目を見、それからのどもとあたり彼は、特に自分のからだに異常を感じていたわけではない。ます ブールで泳いでいるとき、彼の祖母が気づいたのである。ギュンタ に視線を落として言った。 「自意識過剰よ。あなたしゃないわ」 1 の母の母は、彼のからだを珍しそうな目でしげしげと見まわし た。そのくせまるでどうでもいいことかのように、彼の母親に向か 「うん ? 」

3. SFマガジン 1982年2月号

まで境界面に向かって射ちつづけ、大佐が激しく悪態をついた。ギが頭から飛びこんできたようすを演じた。男はリーヴズが出現した ルスンは血みどろの饗宴を見るのに耐えられなくなって目をそらしあたりを考え深げにじっと見つめ、一瞬ギルスンは男の冷酷な目が てから、自分が大を見つめているのに気づいた。犬はうれしそうにまともに自分の目をのそきこんでいるような気がした。男は向ぎを かえ、ゆっくりと考え深げに家のほうに歩いて、中に姿を消した。 ポーチに坐って、尻尾を振っている。 空地の中は、機械の立てる単調なひびきだけで、静まりかえって オい ! 」クランツがとっぜんさ 「しかし、こんなことがあるはずはよ いる。クランツがすすり泣きはじめ、大佐が単調な声で悪態をつい けんだ。「あんな家族がここにいたとしたら、歴史にも、新聞にも くらなんでも、あんなことが忘れられるはずはた。兵士たちは放心したように見える。みんなが怖気づいているん 出ているはずだ。い だ、とギルスンは思った。死ぬほど怖気づいているんだ。 ない ! 」 「なにをばかなことをいってるんだ ! 」ギルスンは怒りをぶちまけ芝生の上の家族がいま行なっているのは、ビクニックの後片付け た。「あれは過去じゃない。あれがなんだかは知らないが、とにかの奇怪なパロデイだった。子供たちはかごを持ってきて、女のおと よくわからなの綿密な監督のもとに、食い残しを拾い集めている。彼らの一人 く過去じゃない。そんなことはありえない。あれは が骨を犬に投げ与えるのを見て、計時係の兵士がまた嘔吐をはじめ 十′し、刀 どこかよその場所だ。なにか別の : : : 次元 ? 宇宙 ? 一フレル・ワーレ・ト、 の世た。芝生がもう一度きれいになったあと、彼らはかごを家の裏手へ 仮説があるじゃないか。ハ やつらは現在の時間にいる運んでいき、おとなたちは家にもどった。まもなく男だけが、こん 界、多元宇宙・ーー名前はどうでもいし どは白麻のスーツを着こんで現われた。手には本を持っている。 んだ、あの汚らわしいやつらは。カルヴァギャストのまじないが、 ( ラレル・ワールドの一つに穴をあけた。きっとそういうことにち「聖書だ」クランツが驚きを声に出した。「あれは聖書だ」 、をしナ「どう考えたって、あの かしない。くそ、ああいう連中を生み出す歴史とは、どういうもの 「聖書であるものか」ギルスノよ、つこ。 ・ : 怪物どもに聖書のあるはずがない。なにかほかのものだ。でな だったんだろう ? やつらは人間じゃないよ、クランツ。姿形はど うあっても、絶対に人間じゃない。″愉快な自転車旅行か。どこきやおかしい」 まで見当はずれだったんだろう ? 」 その本の外見は、たしかに聖書に似ていた。装丁は黒革で、男が それはついに終わった。一家は芝生の上に寝そべった。ふくらんどうやらある一節を探しているらしく、ページをくりはじめると、 だ腹は血と脂にまみれ、飽食でまぶたが重そうだった。二人の子供中の紙も聖書に使われるのとおなじような、薄い丈夫な用紙である は眠りこんでしまった。男のおとなはじっと考えこんでいるようだのがわかった。男は目的のページを見つけ、ギルスンの目からする った。やがて男は立ち上がり、リーヴズの衣類を拾い集めて、丹念と、そこに書かれていることを演説口調で朗読しているようすだっ こ 0 に調べはじめた。それから女の子を起こして、どうやら質問してい るらしい。女の子は身ぶりをし、指さし、パントマイムでリーヴズ 「いったいやつはなにをする気だろう ? 」ギルスンはいった。彼が 245

4. SFマガジン 1982年2月号

サイエンス・ロマンの遭遇。ギャラクティ 0 ◎ 1981 UNIVERSÅLCITY ST Ⅷ OS,INC.. 催 太陽系第 3 惑星、、地球クを求めて広大な宇宙を飛びつづける「宇宙空母ギャ ラクティカ」。末来のテクノロジーを余すところなく搭載したバトルスター。ま さにサイエンス・ロマンそのもの。宇宙という空間て、そのメカニズムひとつひ とつがパワーを発揮したとき、ドラマは 生れる。そして今、ドラマは確かな 形となって目の前に現れた。 SF モデル「宇宙空母ギ ャラクティカ」がそれだ 、ま第ををミきを強き第を学をき ONOGRAM ■宇宙空母キャラクティカ Y2 , 500 TM ■サイロンベス : スタ、 Y3 , 000 , ・サイロンふレイダ、一 を YI 、 50 プラモテル⑨・タイム パン 3 〒 111 東京都台東区駒形 2 丁目 5 番 4 号 ・モノグラムの商品は、 アメリカ・モノグラム社の 金型を使用し、日本でバ ッケージングしたものです。 ・全国の一流模型店、デバー トにてお買い求めください。 * T 「 ma 「 Of ⅱ c 5 Unive 「 City St i05 ヨ 卩ァンを作る楽しい時間 ■コロニアル ; パイバー YI , 500 49

5. SFマガジン 1982年2月号

天井の色はいつもと違っていた。灰緑色。ペ 1 ジ、じゃない。油だ。もう一度戸外に目をやってみる。秋。つまり、三十五歳か。そ・ 断なく、十分寝足りたべッドに身じろぎひとっせず横になったまうして、フライ。 ( ンのぬしはジディってわけだ。 ホストンのアパートって可能性はあ まあ、それもいいだろう、と彼は思った。まだダーリーンとの破 ま、ラリイ・ガースは考えた。・、 る。でなければウィネトカなのかも知れない。もちろん、まるつき局の場面を生きたことはなかったが、それがつらい苦い破局だって り初めての場所ってことだってありうる。カ・ ( ーをはねのけ、ごろことは、そうしかなりえないってことはわかっていた。いっかはき りと向きを変え、外に両脚を投げ出して上半身を起こしてみた。背っと、実際にそれを体験しなければならない時が来るだろう。でも ホストンじゃない。 中は痛まなかった 9 : " 一日の苦労は一日にして足れり。 (> 六ー三四だ。いまは、ジ = ディ との結婚から数日か数週間しか隔っていないはずだ。以前なのか以 四方の壁もやつばり天緑色で、家具はウォルナット。うん、ウィ ネトカだ。念のため、パスルームに入る前に、窓のシ = ードを上げ後なのかはわかりかねる。通りの向うの街路樹だって役には立たな て外を眺めてみる。ずいぶん久しぶりだけれど、いちいち細部までい。このあたりの木々はいっ紅葉し、いっ散り始めるんだったか、 見覚えがある。確かに、ウィネトカだ。そして彼は三十五か六のは思い出すことができないからだ。ま、とにかく話に耳をすましてい ずだ。ウィネトカですごすのは二年そこそこなのだから。ひとつだよう。そうすれば、彼女の方でしゃべってくれる : け肝心な問題が残っている。ジュディなのか、ダーリーンなのか 。フラスチック製のカ・ハーのひとつに、片面にテープで鍵を貼りつ バスルームの鏡も、彼の推測を裏づけていた。ロ髭をちょっぴりけた見慣れないカードが入っていた。引き出してみる。と、裏面は たくわえていた時分のおれだ。写真で見た記憶がある。あんまり気半分以上、彼自身のきちんとした細かい筆跡で埋まっていた。ほと には入らなかったが、髭そりの時にも残しておいた。出だしから不んど数字ばかりだ。最初の行はこんなふうに読める℃「 1935 ~ 5 ト しやり方じゃない。 必要な変化を持ちこむのは、、、 小雑録。図表参照。 8 、 75 ~ 3776. 2Z62 ~ 9763 》 10Z56 ~ 12Z56 」まだ 寝室に戻り、べッドわきの小卓から煙草とライターをつまみあげまだ数字は続く。彼は驚異の念にうたれた。驚異はやがて興奮にか る。キッチンでフライバンがじゅうじゅういっている。ジュデイだわった。突然その数字の意味するものがわかったからだ。月とそし ろうか、ダーリーンだろうか。どっちにしても、早くあっちに顔をて年だ。彼はいま、生涯のいくつかの時期を、実際に生きたとおり みせた方がいい 、まず紙人れの中味を調べてみてからだけど。大事の順序で記録したものを目にしているのだ。「 9Z70 ~ 一二 70 」とい なことをまず先に。 うのが目にとまった。これは、いまじゃないか。ということは、ま 煙草に火をつけると、彼は次々カード類をめくり、外なる世界で だジュディとは結婚していないんだ。この期間が終わるまでにはす の彼のアイデンティティを構成している細目に目を通していった。 ることになるだろう。その大雑把な記録には、なんと、けさ始まっ たばかりのこの期間と、きのうで終わった一期間とのあいだに、さ ふむふむ : : : おれの性格からして、免許証は更新済み、クレジット ・カード類の期限も切れてはいまい。とすると、いまは一九七〇年らに六つもの期間が記されていた。彼は機械的に小卓からポールペ 5

6. SFマガジン 1982年2月号

「怒って切っちゃいましたよ」 押して、助けを求めた。 なく立っている。 「どうします ? 」 ふり向くと、あの大マルムシが、静かに 「なんですか ? こんな夜中に」 「我々で追跡しましよう」 中から気弱そうな中年の小男が出てきおれの背後を通りすぎて行くのが見えた。 「奥さんに断わらなくていいんですか ? 」 「なんですか ? あれは」 「大丈夫ですよ。妻は私がいなくたって気 「だからマルムシだって言ったでしよう」 マ、マルムシ」 にしませんから」 「マルムシ ? 」 「あなた酔っ払ってるんですか ? 」 「じゃ、行きましようか」 「そう、マルムシ」 「マ、マルムシが歩いてる」 「行きましよう」 「そりや、マルムシだって運動不足になり 小男はドタドタと家の奥へ入って行っ おれたち二人は夜の町へ飛び出して行っ た。そして、ものの数秒もたたないうち ますから、時々は歩きますよ」 に、ほっぺたを押えながら帰ってきた。 「ち、違う。でつかいマルムシ」 しばらくあたりを捜していると、大通り 「一晩中、酔っ払いの相手でもしといで 「そりや、マルムシにだって小さいのもい のセンターライン上をサワサワサワと音を れば大きいのもいますよ」 たてて移動する、大マルムシの後ろ姿が目 中年女の罵倒する声が聞こえてきた。 「そ、そうしゃなくて : : : 」 に入ってきた。 「大丈夫ですか ? 」 あわてていると、なかなか自分の意思を 大通りにはもう人影もなく、車も通って 「いつものことですから。それより、警察 他人に伝えることができない。 いない。そんな中をマルムシは我物顔で動 に知らせなければ」 そんな進展のないやり取りを続けている 小男は急いで一一〇番に電話した。 き回っている。 うちに、奥の方で女の怒鳴る声がした。 「もしもし、警察ですか ? 私は xx 町 x 「あなた ! なんなの引」 直線コースの場合はかなりのス。ヒ 1 ドで 「は、はい。ただの酔っ払いです」 丁目の山本辰五郎と申す者ですが、家の近移動し、曲がり角に来ると、しばらく止ま くを大きなマルムシがうろついているんで って触角を。ヒク。ヒク動かしてから、再びサ 「違う。おれは酔っていない」 す。えっ ? 私は酔ってなんかいませんワサワサワと移動する。 「早く追い出しなさい ! 」 よ。とにかく早く来てください。えっ ? そんな後ろ姿を見失わないようにしなが 「はい。ほら、あなた、妻がああ言ってま いたずらじゃありません。本当なんです。 ら、おれたちは五メートルほどの間隔を置 すから出て行っ : いて、足早に追跡する。 小男の言葉が途中でとぎれた。顔を上げ大きなマルムシが : : : 」 山本さんはしかめつつらをして、受話器 「どこへ行くんでしよう ? 」 て見てみると、小男はポカンと口を開け、 「さあ ? マルムシに聞いてみなければわ おれの後ろの方に目をやりながら、だらしから耳を離した。 こ 0 5

7. SFマガジン 1982年2月号

わけですからーー・それに、とにかく、ぼくたちはこれからパートナ ・イース トの市長なのだし、そうなるだけの何かをそなえた人間 1 をもつわけですから、 トナーのいない淋しさ、というもの なのだ、という、はっとする思いだった。 を、比較によって知っているというわけではありません。 ーーそれ ディマーの鋼鉄色の目が、静かに , ーーしかし ( 彼がそう見せよう に、多くの人びとが、 ぼくやミラとま「たく同じ状況のもとで、少と意図してや 0 ているのだろう ) 微かな苛立ちの芽生えをかくし しも淋しいなどと感じることなく、楽しくやっていると思います」て、・ほくを見つめていた。 「そうだよ」 「どうだね、イヴ。ーー答えたまえ」 デイ「ーの口調には、ほんの少し・ーーごくわずかだが、苛立 0 た「ええ , ・ーこ ようなひびきが感じられた。 ・ほくは唾をのみこんだ。 「楽しくやれーー・、それが市民の基本理念だ。そのためになら、どん ぼくは、落ちていって、いまもなお、落ちつづけている、ミラの なこともたいてい大目にみられている。ドラッグも性交も、あらゆ ことを考えた。まま人形を抱きしめたミラ、小さな赤ん坊と大きな る種類がきわめて合法的だ。市は決して、その子であるところの市寒い部屋。 民たちの、二百万人中のさいごのひとりにいたるまで忘れるような 「ええ、ディマー。そうですーーーぼくは、淋しいのです。ミラ・プ ことはない。 『人間はごく少しのものしか見えない。システム ラウンもそうだったーーーのだとぼくは信じています」 にはたくさんのものが見える。マザー コンビュータには、もっと 「それをきいてありがたいよ」 たくさんのものが見える』」 思わず、というように、ディマーは傍白した。 ディマーは引用した。 「ここで , ーー・このシティで ? 」 「さようーー・われわれは、孤独ではない、なさすぎるくらいだと私 「ええ、そうです。このシティで , ーーこの、愛するーーー母なるシテ は確信する。シティ・システムは、われわれを一人にしておかな イの中で」 。われわれにはーー・正当な市民であるかぎりーーーそのありうべき 「なぜだね」 《場》があり、所属するギルド、。、 トナー、班、クラ・フがある。 こんどの問いは、 いくぶんそっけなく発せられた。 きみにも、私にもだ。 »-a ・がぼくをみて、カづけるようにほほえんだ。 それでも、きみは淋しいかね ? 」 ふいに、ぼくは、自分の中に、長い、長いあいだ待ちうけていた ばくは、ふいに、目のまえのデイ「ーが、ぐいと大きくな「たよ勇気が、し 0 かりとわきあがり、根をおろすような気がした。そう うな威圧感を感じて、はっとたじろいだ。 だ、と・ほくは思った。ぼくには云う権利があるのだ。たとえ、その 同時に、ようやく、・ほくのむにきざしてきたのは、目のまえにい せいで、反逆者になるのだってかまわない。これはぼくに与えられ るこのハンサムな壮年の男が、やはり誰がなんと云おうと、ファー た機会だった。大きなへやですすり泣いていたすべての小さな子ど 2

8. SFマガジン 1982年2月号

ミラの えてくれていた。・ほくはおずおずと入っていった。一 1 だったはずだ。一体これは、どういうことなのだろう ? ・イーストの、市長 生まれたばかりの小生意気な反抗心は、少なくとも当座は棚上げ死ーーぼくの気の毒な友の死は、このファー になった。ぼくはヘやの中を見まわし、すっかり気をとられてい や O ・ O の権力者、セクソロジスト・ギルドのリーダーがのりだす ような、大ごとだというのだろうか ? へやの中には、四人の人間がいた。さっきの女性、少し神経質そ 二人とも、明らかにビューティフル・ビー。フルだった。ディマー うな、カウンセリング・ギルドの・ハッジをつけた男、ディクタフォ と・は目を見かわし、・が交代してゆっくり前にすすみ出 た。二人はぼくの心理のうごきを口に出されたのと同様によみとっ ンの前にいる、セクレタリーらしい女、そして ていたのだ。カイハセーショニズムは、どんどんっきつめてゆくと まさか , ・ほくはびつくりして、まじまじと見つめた。大柄な、 。 : 、 : ・イ・ランゲージになってゆく。こ ( ンサムな、髪に白いもののまじった「実に美しい目をした男、ばさいごにはその八割まてカホテ くはたしかに、その顔を何回もニュースや何かで見たおぼえはあるのすぐれた二人が、互いに一言も口をきかずに、互いの役割をたし かめ、ゆずりあい、ぼくの動揺をとくべく働きかけるようすは、見 が、しかし、まさか ているだけで、まったくみごとなものだった。そしてそれは、ビ、 「自己紹价をさせてほしい」 ーティフル・。ヒー。フルや、たとえばアウラなどにも共通のあのゆっ 耳にお・ほえのある声が云った。 たりとした自信ーーひとをくつろがせ、安らかな気分にさそいこむ 「私はディマー・イトウ—O ・ O メン・ハーで役職は、ファー ある云いようもない《自然さ》によって、ここちよく裏づけられて ーストの市長だ。きみに会えてうれしい、イヴ」 いた。この、おのづからなる人間的魅力と、説得力のある雰囲気を ぼくはど , もった。 もたない人間が、たとえかれらのようにふるまおうとしても、とう 「ぼくは、まさかーー市長のあなたがなぜーー失礼、お会いできてい不可能だったろう。 カウンセラーのオーノはそれにくらべるとおどろくほど、とるに て、非常に光栄です、ディマー・イトウ」 「こちらの美しい女性は、・ << ーーー私の大切な友人であり、市のたらなく見えた。セクレタリは、へやの備品の一部にすぎない ーズだ。そのうしろでは、・ほくは ? セクソロジスト・ギルドの議長で O ・ O メン・ハ ? これは、あまり、楽しい思考とは云 とうなのか ・ほく自身は、・ は、カウンセラーのオーノ、それから技術者ギルドのナナ・レイ えなかった。誰だって、自分はちょっとしたものだと考えている、 ヴァー・コ たとえ十六歳の子供でもだ。その自信が、目のまえでみるみるしぼ 「よろしく」 ・・・、レオ / ーラ・ ? これもまた、おどろんでゆくのを見るのは、有意義かもしれないがとうてい愉快な体験 8 であるとは云いがた℃ くべきことがらのひとつだった。・ < は次期市長候補ナイハー ・フレイ・ハッグ

9. SFマガジン 1982年2月号

かりませんね」 若い警官は、最後には泣き声になってし近の各移動はすみやかに交通を遮断し、次 ちょうどその時、おれたちの後方から、 まった。 の指示を待て ! 」 一台の。 ( トカーがサイレンを鳴らさずに近「応援が来るまでとりあえす尾行しましょ さすがに部長の一声だ。無線器からは、 づいてきた。 う。さあ、乗って」 なんの疑いも持たない「了解」という返事 「あっ、おまわりさん。こっち、こっち」 警官を加えた三人での追跡が始まった。 が、次々に返ってきた。 パトカーはおれたちの横に止まり、中かしかもパトカー付きだ。だんだん本格的に 「いやあ、たいへんな騒ぎになりました ら若い警官が顔を出した。 なってきたそ。 ね」 「さっきいたずら電話をかけてきたのはき 「それにしても、やけにせせこましく歩き「そうですね。わくわくしますよ」 さまらか ? 警察をなめると : : : 」 ますね、あのマルムシは」 「血沸き肉踊るという感じですね。生まれ 若い警官は、おれたち二人が指差した方「きっと急いでいるんでしよう」 て初めてですよ、こんな気持ちになったの 向に目をやると、言葉が続かなかった。 「なぜそんなに急ぐ必要があるんでしよう は。今までは妻の尻にしかれつばなしで、 「な、なんだ ? あれは」 か ? 」 つまらない毎日でしたが : : : 」 「マルムシです」 「さあ ? 私はマルムシじゃないのでわか 山本さんの愚痴を聞いているひまはな りません」 い。おれはこの騒ぎをもっと身近で感じよ そうこうしているうちに、。、 「捕えるかどうかしてください」 / トカーがも パトカーから飛び出した。 「ちょ、ちょっと待て」 う一台やってきて、中から髭を生やした少「住民の皆さん、こちらは警察です。ただ 若い警官はパトカーの無線器で連絡を取しえらそうな警官が出てきた。 今、巨大なマルムシがこの町内をうろつい 「あっ、部長」 ております。危険ですので白線の内側に : 「本部、本部、こちら〇号車。 x x 町 x 丁 「お前か、寝・ほけてふざけた連絡をしてき : じゃない。絶対に外に出ないでくださ 目付近に巨大なマルムシ出現。応援を頼み ます」 おれたち三人が指差した方を見ると、部 くり返します。たた今、巨大なマルムシ 「なにお前寝・ほけてるのか ? 」 長の髭がピンと逆立った。 しいえ。起きてます」 部長は無一 = ロのままパトカ 1 にもどり、乱 警察の広報車がやってきて、マイクのポ 「馬鹿 ! たかがマルムシごときで、いち暴に無線器を取り上げ、大声で怒鳴った。 リュームをいつばいに上げてがなりまくっ いち警察が動くか ! 」 「全車緊急連絡、全車緊急連絡、 x x 町 x ている。しかし、あまり本気にする人はい 「とにかく来てください。お願いします」 丁目付近の路上に巨大なマルムシ出現。付ないようだ。 6

10. SFマガジン 1982年2月号

ような行動に出たのかもしれませんし、ただ自分を守り、自分だけ種の精神錯乱、熱病で、チフスのように彼の意識を混濁させてしま がうまくいくことを願い、また自分のアイディアを盗んだ男をただ った、というわけなのだ。彼が死んだことで、何もかもはっきりし こうしてやりたかったのかも知れません。盗んだ当人が法を破るのたよ。カレルだけが彼を救うことができた。精神病院に行くのが当 に使ったのと同じ暴力を使って、自分の権利を無理に確保したかっ然だったのだね。私が彼を殺したのではない。そんなに簡単だ、と たのかもしれないのです。暴力をこの世からなくすることなんか、 きみは思っているのかねっ・人間を殺すことが、ローソクを吹き消 ぜんぜん望んでいなかったかもしれません。 すほど楽だ、ときみは思っているのかね ? あらゆる筋肉、あらゆ 「プレスルは殺されました : : : 」と、私は小声でいいました。 る器官、自分の持っているあらゆる力で抵抗してくるのだよ。人を 「死んだのだよ」っまり彼は、何もかも知っていたのです。「だか殺すことは、人を疑うように単純じゃないのだ。われわれの脳は、 ら私は、きみが米てくれたことをうれしく思っているのだ。私はき物事を単純化することによって働きをしている。これがわれわれの みがまた、何もかも悪いように解釈しはしないか、と心配していた認識するやり方なのだ。だが、それはまだかならずしも真実という のだよ : : : 」 ものではない。たとえ私が、原生動物をつくる方法をみごと発見し 「私、何もかもとてもいいように解釈しているわ。あなたはあなた たとしてもだ、私にはまだそれをいかにして殺すかがわからないの の例の発明を盗んだ上、そのことを知っているチャベックをまず片だからね。フレミングがペニシリンのあとで、球状菌をつくること こいつは・ハカげたアイディアなのだ。例の づけ、それから。フレスルを片づけたのよ。私は最後の生き証人なのができなかったように。 だわ。私、あなたを破減させることができるのよ。そしてまた、やロポットと同じようにね。とはいっても、そいつは死の前の状態、 るつもりなのよ」 断末魔にそのままとてもよく向いているのだよ」 私はテープルのところに腰をおろすと、大衆小説を読んで知って 「ハカげているかもしれないけれど、もう二度もおこったことなの しるように、ロポットのマタ・ ハリよろしく、両足を組み、パフでですからね 9 こんなナンセンスがまたおこるの、私、手をこまねい 顔を軽くたたきはじめました。 て待つようなことしたくないのよ。それに、あの人たちが死んだこ とは、あなたに。フラスになったのですからね : : : 」 「そんなこと本当じゃないと、きみはよく知っているはずだ。チャ べックは老衰で死んだんだ。解剖の所見を私はもう持っている。プ彼は興奮しました。 レスルが死んだのは偶然だ。すごく興奮していたからね。きみはそ「せめて私の目を見てみたまえ。そんなことをして、きみは一体何 の目で見ているはずだ。あのような状態では、何がおきても不思議・を狙っているのかね ? きみはなぜここにいる ? きみの目にもき ではない。やはり私は、医者を呼ぶべきだったのだ。あのファンタみは仮装人物のように映っていることが、私にはわかる。私はきみ スチックなイメージときたら、どうだ。今になってやっと納得できがどんな人間か、知っているんだ。今のところ、きみは私の妻なの るのじゃないかね ? どう見ても、あれは前からの病気なんだ。一だからね。きみは刑吏のように、私を罪人扱いすることはできない 288