ローティス - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1982年3月号
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1. SFマガジン 1982年3月号

8 ートが最初に会ったのはアーミンだった。アーミンの話では、 過去一年のうちに、チャオと・ハジルが急に、次々と亡くなったとい 六年間、右半身がマヒしたままだったランジャンが死んだ。みん教室に行くと、学習マシンにテストが。フログラムされてあった。 なはほっとしていた。 ハートはひとりマシンを動かし、二、三、質問に答えたが、今日は ( ートはキチローの監視のまなざしのもとに、むつつりと教室にもっと重要なことがあるという気がして、立ちあがって教室を出 入った。 た。一度振りかえって、また歩き出す。二年前にくらべると、キチ いつもの授業がそれほど進まないうちに、キチローが衝動的なス ビーチをはじめ、授業は中断された。「・ ハート、おまえはわしたち 5 つみ 6 年寄りの生きがいなんだ。わしらにはどうにもできなかったが、い つかこの船にもっとたくさん人が増える日がくる。マシンのくびき ートは自習をしても、 しいかとき、喜んで要求がかなえられるを逃れる人々が。わしらの生きがいは、おまえとおまえが代表する と、しばらく空想にふけり、マシンと遊んだ。ゾールの中の若きロ希望なんだ。わしらはやるべきではなかったことをしてしまい、為 ーティスの姿が目に浮かび、 ハートは立ちあがって。フールがまだあすべきことをし残してしまった」 るかどうか見に行った。 ハートにはなんのことだかわからない。 今日の教師である白髪頭のローティスが、パ ートが無断で脱走し「しかし、わしら全員の生命を負わせるのは、おまえには重荷だろ うな ? 」キチローは吐息とともにつけ加えた。言いわけしているよ たのを発見し、怒って追いかけてきた。二人は言い争い、ローティ スよく トの髪をつかんで、教室に引きずって帰ろうとした。 え、そういうふうにってくれるのなら、・ほくはだいじよう ローティスはまだ元気な老女だが、・ハ ートに激しく振りはらわ「いし れ、倒れた。ローティスの悲鳴に驚いて、 ぶです」 ートは逃げ出した。 まもなくキチローがびつこを引き引き、追いかけてきた。・ハ 教師は喜び、男らしく・ハートを抱きしめた。しかしキチローは重 っこうに はもっと走って追っ手をごまかすか、安全な部屋を捜そうかと思案要な点を見逃している。 ートは誰がどう感じようと、 したが、逆にくちびるを突き出して、その場に踏みとどまった。キかまわなくなっているのだ。 チローはく / ートに平手打ちをくわせ、おどしつけ、教室に連れ帰っ た。思いだせるかぎりでは、今までそんなに強く腕をつかまれたこ とはなかった。 シンと遊んだ。やがてみんながタ食に呼びにきた。

2. SFマガジン 1982年3月号

キチローが。ハ ートにとびかかっているあいだに、・ハジルとマルが 下の階の部屋に水が張ってある。ローティスは必要な個所にどんな ふうに防水処理がしてあるか、。フールに水を満たすために、どんなフリツツに追いっきそうになった。全員が鬨の声をあげているよう 3 ふうに水のパイプを取りつけたかを、指で示した。水の深さは人のだ。 フリツツは急に向きを変え、別の通路に逃げようとしたが、ジ 頭の高さ以上ありそうだ。 ルの方がすばやく、行く手をふさいだ。フリツツは捨てばちになっ ハ 1 トは感動すると同時に、子供たち自身の手でプールが作ら れたことに、、 しくぶん心を乱された。「マシンにとめられなかったて突進し、。 ( ジルはこん棒を振りあげる間もなく、隔壁に押しつけ られ、首をしめられていた。バジルの手からこん棒が落ちた。その ローティスは頭を軽く振って、マシンの力をはねつける仕草をし顔が白目をむく。馬乗りになったキチローの下でデッキに押しつけ られている。ハートにも、それが見えた。 た。「中に入るわ。水泳のこと、知ってる ? 地球の人々は昔、い マルは組みあっている二人に近づき、。フラスチックの椅子の脚 つも泳いでいたのよ。記録によると、海でも泳いでたんだって」 ローティスはわすかな衣服をぬぎすてると、裸で水に入った。あを、力いつばい振りおろした。いやな音がして、フリツツが敵を放 おむけに浮かび、水をけりながら、なすすべもなく魅せられてみつし、うしろによろめいて倒れた。 、 1 トはもがいて、つかまれて ートをカづけてくれる記憶キチロ 1 が立ちあがりかけると、 めるバートに、心得顔の微笑を向けた ? ハ ノ 1 トの思いは、安全な自分の部屋 ートの心は揺れに揺れた。 いた手をふりほどき、走った。・、 の中に、女性のヌードは入っていない : ハ トがふり に帰ることだ。それにはマルや・ハジルやフリツツがいる場所と、プ 不意に、駆けてくる足音がすぐ近くから聞こえた。・ハ 1 ルとのあいだを通らなければならない。プールの中にいるローテ 向くと、横の通路から猛然と走ってくる人影が見えた。フリツツは イスは、ぽかんと口を開け、端にびったりくつついて、成りゆきを 一年前より体格も大きく、力も強くなっているが、そのフリツツが ートにもローティスにもろ見守っていた。 おびえ、目を大きくみびらいている。・ハ を見て、こん棒を振り 狂暴な目つきのマルが、駆けてくるバート くに目もくれす、誰かに追われているようにプールの周囲を走って くる。 あげた マシンが近づいてくるのは、誰にも見えなかった。だが、たくさ そのとおり、フリツツは追われていた。キチローとバジルとマル が、フリツツのあとを追ってくる。椅子の脚をこん棒がわりに手にんのパネルを張った壁から、今ひょいととび出してきたといった風 ートも走り出した。すに、気がつくとマシンがすぐ傍にいた。マシンは羽でもあっかうよ 持ち、狩りの興奮で形相が変わっている。バ ートが走り出しうに、マルが振りまわすこん棒をその手から奪うと、同じ瞬間、手 ぐに、それは失敗だと気づいたが、遅かった たために、追跡本能に駆られた誰かに、うしろからとびかかられ、荒くマルを突きとばした。マルはよろけ、フリツツの足につまずい て倒れた。 デッキの上に押し倒されてしまった。 とき

3. SFマガジン 1982年3月号

自分の部屋の一脚しかない椅子にすわり ハートは腕を組んで船るだけで、その少女たちはひどく心配そうなようすだった。 に話しかけた。「ねえ、・ほくは親にはなれないよ。・ほくはいっこい ートの傍にガリーナとビビアンがやってきて説明してくれた。 何をしているんだろう ? 」 どうやら少年たちは六人ずつの二グルー。フに分れ、二グルー。フのあ 「必要なら、さらなる指示が与えられます」 いだに公然たる対立が起こっているらしい 「まだに まくを、一年にたったの一回しか起こさないつもり ? 」 「もう何カ月も前から、ぶつかりあいが起こっているのよ」ガリー 「計画は修正されたスケジュールに従って進んでいます」 ナは言った。「いつも目のまわりに黒いアザをつくってるし、鼻は ( ートは立ちあがり、もう一度部屋を出ようとした。だが、ドア血まみれ。今日のは今まででいちばんひどいみたい。今日は、・ハ はびたりと閉ざされたままだった。 スディ・パ】ティを開くかどうか、で始まったの」どちらかといえ ( ートは船の中枢部のなにかがおかしくなったのかと思った。一ば目立たないほうで、ふだんもまじめな顔をしていることが多いガ 般の多くの機械のように、。フランニング・コンビュ 1 ターがこわ 丿ーナは、厳粛さと秩序が好みらしい。「それに困ったことに、女 れ、信じられないほどおかしな決定をくだしているのではないだろの子たちの半分も巻きこまれてしまったのよ」 うか ? 冷静な理性的な記憶は、そんなことはありえないと語って ヘルサとローティスもやってきた。少女たちは風雲急を告げる戦 いるものの、 ハートは不安な気持でべッドに入った。しかし眠り闘状態を、なんとかとめられないものかと話しあった。船内はいや は、自動的に急速におとずれた。 に静かで、不吉な感じがする。く ノートは傍で聞いていて、すべての ことが危険に思えた。少女たちは、少年たちの戦いの場所や待ち伏 5 せの場所がどこか、つきとめようとあれこれ話しあっているが、 ートは通路の設計さえろくに知らない。 ソロンは驚くほど大きくなっており、バ ートはソロンがあまり興少女たちの話しあいがつづいているさいちゅう、 1 トの傍に来 味はなさそうだが、それでも親しげに笑いかけてくるのを見てほっ たローティスが、身ぶりでついてくるように言い、船の奥に向かっ とした。ロの中の昨日の傷がまだ痛いが、ソロンはけんかなど覚え てもいないように、、 / ローとあいさっした。 「どこに行くの ? 」・ハ ートは平和を守る計画か、隠れる計画でも実 トの昨日のけんか相手は、よこ オ冫か別のことに気を奪われてい 行するのかと思った。 るようすで、あいさつもそこそこに、フリツツやヒムャーや他の少「見せたいものがあるのよ」ローティスはパ 1 トよりわずかに背が 年たちとの、熱心な内緒話にもどった。まもなく密談は終わり、少高い。まっすぐな黒い髪と東洋人の目をもっ少女だ。まもなく、何 年たちはむつつりと意味ありげに通路を駆けていった。・ハ ートがあ本もの通路が合流している広々とした場所に出た。子供たちはそこ たりを見まわしてみると、コモン・ルームには少女が六人残ってい に、まにあわせの水泳用プールを作っていた。デッキがはがされ、 229

4. SFマガジン 1982年3月号

げつそりやせている。しかしチャオは、他の人々が言ったとおり具 ( 1 トとしては、今好まれているゲームのビンポンの方に、ず 合がよさそうで、楽しげに仲間に加わっている。 と関心がある。 だいたいにおいて、年配者たちは楽しげだった。みんなパートの みんなの話題は、料理マシンを修繕して、もっとかみやすい料理 ことで大げさに騒ぎたてたが、。ハ 1 トはひどくしらけた。さびしくにすべきかどうかだ。 はないが、孤独な気がした。バ キチロ 1 ートは船のことをもっと勉強したい 、ソロン、アーミンの健康な三人は、身体の調子を保つ と思ったが、今日は授業は休みだった。 トリス、カリーナ ために、野心あるプログラムを請けあった。エ・ シャロン、ヘルサ、それにロ 1 ティスは、男たちをあざ笑いなが ら、自分たちは減量の方法を検討している。トラクはやせているの 6 で、これには関係ない。たぶんかむのが困難なせいだろう。 ランジャンが卒中を起こし、右半身不随で入院していた。必要が 高まっているというのに、医療プログラムがさらに縮小されたため 6 に、みんな船に怒っている。かってはみんなにささやかな治療室と して与えられていたスペースの一部は、今では壁で仕切られてい ビビアンが死んだ。誰も驚かなかった。 る。そこではなにかが起こっているらしく、みんなはなにが起こっ ートの今日の教師はローティスだ。七週間前に、。フールで・ ( ているのかわからないために、腹を立ててうなずきあった。 トを誘惑しようとした女性。白髪頭の年老いたローティスと目を合 ここ数日、ずっとやさしかった顔に、今日はうらやましげな色をわせながら、バ 1 トは彼女がなにも覚えていないとわかった。それ まじえ、みんなはバ 1 トに質問した。しかしバートは答えるべき情も当然だ。プ】ルにいたのは彼女ではなく、同じ名前の別の誰かだ 報のカケラも持っていない ったのだから。ロ 1 ティスは園芸を教えた。 現在、大統領の席は空いており、政府再建の問題は、ややヒステ庭園はまた広くなっていた。依然としてたくさんの若返り植物が リックに論争されている。 場所をとっている。みんなにはもう広いリビング・ルームはいらな いのだ、と・ハ 】トは思った。二十四人いた人数が今では十四人にな り、生き残っている人々は、かってのように動きまわらなくなっ 6 太っていたビビアンがやせ、体が痛むようになった。ランジャン ート、この写真を撮った日を覚えておるかね ? 」 はまだ不随のままだ。・ハ ートはまるで自分から熱心に聞きたがった 「ぼくは覚えているけど、あなたは覚えていませんね」・ かのように、病気の話や、あちこちのぐあいの悪さを聞かされた。 ンを置き去りにして、荒々しく立ち去った。本当はア ートはア ーミノカ 252

5. SFマガジン 1982年3月号

4 ートが共同区域に入った 通路には誰も出迎えに来なかったが、・ハ とたん、隠れていた場所から、みんながくちぐちに「サプライズ ースディ ! 」とか叫びながらとび出して ! 」とか、「ハツ。ヒー 古いコモン・ルームには、もうべッドは置いてない。みんなは二きた。・ハ 1 スディはまだ来ない。だが共同の・ハースディを ートも招待されていることがわかっ 人すっ組になり、 いくぶん安定した関係で眠っている。 祝う決まりができ、そこに・ハ さらに目立っているのは、たいていの人々が今日は鼻をぐずぐずた。 「 / ーティのこと ート」ヒムャーが言った。 いわせていることだ。シャロンの話では、新しい生物研究室での実「十年ぶりだね、 験が失敗し、ビールスが洩れてしまったという。みんなは、心配しさ。そろそろ開いてもいい時期だと思ってね」 なくていいとバ ートに請けあった。実際のところ、、、ハ ートは心配し「あなたを″名誉十五歳″にしてあげるわ」フェイが口をはさん ていなかった。少なくともビールスにかんしては。 だ。「それとも、″名誉二十四歳″はどう ? 」 おおむね、のんびりした、緊張の少ない一日だった。 「ワインをお飲み、 ート」誰かが言った。 「ワイン ? 」 「庭園はきっと成功するって、言っただろ」 「ーーーあ、少しだけよ。まだ小さいんだからーーー」 「ーーグラス一杯ぐらい、害はない 庭園で仕事をしているローティスは、今日はショ 1 ツ姿だ。 ってから、どれぐらいになるたろう。みんな十分に愛想よく迎えてトはロ 1 ティスの下半身にたっぷり脂肪がついているのに気づい 、つしょに泳ぎに行ってた。彼女の腿の赤い血管が広がり、皮膚の下で、ふそろいな網目模 くれるが、傍に集まってくることはない。し くれる者が二人現われた。。フールはまた改造され、より安全に、よ様を作っている。 ートにもうつ り楽しげに作られている。 ぐずぐずいっていた鼻は、すっかり治っていた。・ハ 1 トにはうつって 何人かの人々は、船がすっと前に、学校の生物学課程用に与えてったときのために、薬が用意されていた。だが・ハ 、よ、つこ 0 . し / 、刀ュノ くれた種子を、成育するのにいっしようけんめいになっていた。パ 1 トは新しい庭園を見せてもらった。食用になるものはまだなにも「たぶん、船がちゃんとあなたの世話をしてくれているのよ」チャ オが言った。 なしが、たぶん次に来たときには。 キチローがびつこを引いている。 ートはキチローが誰かと競争 して膝を痛めたのだと聞いたが、けんかなのかゲームなのかはわか らなかった。 235

6. SFマガジン 1982年3月号

ついていえば、ぶんぶん回る電子さえも動きを止められているの : ・動作のヘルサを見るのは、つらかった。なにか進行の遅い不治の病 ・ : でも、肉体的な危険は心配ないわ。ごくわずかなものですから気ではないか、そうガリーナが疑っているという話を、他の人たち がしてくれた。そして、もっと明かるい話題に切りかえた。 はや ート」シャロンが一「ロっ ガリーナは生物学の授業を再開したがり、研究室の中をすっかり「今はね、カード遊びが流行ってるのよ、 こ 0 ートに見せて歩いた。 「船からは人間の生殖細胞をもらえずにいるの。でもね、理論上「カード遊び ? 」 は、新しい世代を育てられるのよ。わたしたち自身のふつうの細胞「ポーカー、ホイスト、・フリッジ」ランジャンが言った。「見せて を使って、作りはじめてるわ。あなたにクローニング細胞の話をしやろう。船の記録から掘り出した昔のゲームだ。それから、おれた たかしら ? 」 ちは船のコントロール区域に達するために、。ハリャーを通りぬける いえ」 新しい方法を、二つ試したんだが、どっちもうまくいかなかった」 「そのうち話してあげる。どっちみち、まだ成功していないし。は「実際に試したわけじゃないぞ」フーアドが異議をとなえた。 つきりとはわからないんだけれど、船になにか陰険な方法で妨害さ「あら、コンビューターにかけてみたじゃない」ローティスが口を れているのかしら、それともわたしたちが気づいていない問題があはさんだ。 るのかしら」 「あのな、船はまだ、あのコンビューターをおれたちに不利に ハートはガラスびんに入った、成育中の組織のかたまりを見せら「いや、おれがずっと言ってるだろ」ランジャンが反論した。「船 れた。しかしそれは、一体となって人間を形づくる、あらゆる器官が手出しできる可能性は、封しこんだとーー」 ハートには、その実験はメ「勝手にしろ ! おれはそうは思わんーーこ に分化するような組織になれずにいる。 論争は白熱したが、なぐりあいが起きそうな気配はなかった。 ドもっかない状態にあるように見えた。 あちこちの壁や頭上に、古い色テー。フが貼ってあるが、みんなが 9 考え出したゲームは、まったく顧みられなくなったようだ。 3 今日バ ートが耳にした唯一の争いらしいものは、最高の植物と花 を育てる競争だった。 今日は祈りの会があった。儀式はさらにこみいったものになって いるが、前回よりも熱意が欠けている。人々の衣服は、今では主に 8 自分たちで作っているが、ずっと手のこんだゆったりしたものにな 3 3 4 っている。みんなのしまりのなくなった体を隠し、体型から注意を っム 腕がやせ細り、足首がふくれあがり、病人のようにのろのろしたそらす作りだ。

7. SFマガジン 1982年3月号

ハートがまた仲間に加わったという話が伝わると、たいていの青 0 年たちはやっていたことをやめ、見上げるような図体で・ハ ートを取 2 り囲んだ。だれもかれもがほほえみ、歓迎のあいさつをし、 の肩を抱き、頭をなでて髪の毛をくしやくしやにしてくれた。たくみんなの仲間に加わってまもなく、。ハ 1 トは数カ月前にタングと さんの人々がいろいろなものを見せたがった。 オーラが死んだことを知った。二人は、ふだん人間の出入りが許さ ・ハジルが星を見せてくれた。船の中の重力のないところをふわふれていない個所に入ろうとしたという。 わと漂い、泳ぐ。空気はあるが、万一に備え、 ' 、・ノレよく ( 、ノをノ 1 トに呼「あの、その二人は : : : あの、なにか・ほくに関係のあることをしょ 吸装置を着けさせた。ガラス越しに、パ 1 トは途方もなく大きく長うとしたの ? もっと・ほくを起こしておこうとか : : : 」 、カ 1 ・フした船体を見た。星空はさらに想像を越えたもので、ま「いし 、え」フェイははっきりくびを横に振った。「ちがうのよ、 るでラメ入りの塗料をぶちまけたような、きらめく広がりを見せて 。気にするのはおよしなさい」 ートは気にして訊いたのではない。なにがしかの希望をこめて いたのだ。 昼食後、 ハートはまた水泳をさせてくれと頼んだ。他の人たちと 。フールに入っていると、ローティスの腿が特に、いくぶんまだらに「あの二人は船のいちばんっきあたりまで行こうとしたんだ」ラン なっているのに気づいた。きっと皮膚の下の脂肪のせいにちがいな ジャンが説明した。「古い記録では船尾と呼ばれているところだ。 。それにロ 1 ティスの左の腿には、血管が開いて、糸のような赤きみ、古い記録を見たことあるかい ? 船のある個所には、航行コ い網目状の模様が見える。 ントロ 1 ル装置や、いろいろな装置が据えてあるらしい」 夕食後、・ハルークとタングに脇に呼ばれた。「、 / 1 ト、きみは一若者たちはできるだけ断片をつなぎあわせて、船に関する初歩的 な知識 ハートに説明してくれ、 年に一日という生活が、本当に好きなのかい ? 」 ハ 1 トの理解力も少し向上した。 「わかんない。平気だと思う。船にはなにか理由があるはずだかみんなはこの先も船内各部へ侵入する試みをつづけ、最終的には船 ら。船は・ほくたちのことをちゃんと世話してくれてるだろ ? 」ほかをコントロールするつもりらしい。それは今までにない奇妙な発想 にもなにか・ハ 。 / ート自 1 トは話したかもしれない。とにかく、船はすべてをではあったが、その考えにどれほど気乗りしているかま、く 聞いていた。 身にもさつばりわからなかった。 只 1 トの頭越しに、男二人は目をみかわした。さらに何人かの娘 が加わったグル 1 プにつきそわれて、 ートは部屋にもどった。船 トをベッ は部屋に帰るよう命令し、ほとんど押しこなように、ぶ ドに入れた。 今日のように、乗船仲間たちがバ ートにあまり注意を払わなくな 234

8. SFマガジン 1982年3月号

「よくもやったな」マルは倒れたまま情ない声でもんくを言った。 言ったのは、頬とあごに濃いひげの生えた、たくましい若い男だ。 マシンの握り手とぶつかったときすりむけたのだろう、手には血が少しとまどったが、・ハ ートはそれがキチローだとわかった。キチロ 3 2 にじんでいる。 1 が今年の大統領であることも、まもなく知った。今では大統領選 船が大きな声で言った。「わたしには、飛行計画のために必要たは一年に一度なのだという。 と判断すれば、一人一人を犠牲にする権限があります」 また、めったに争いが起きないと聞き、 ートは心からほっとし 誰ひとり身動きもせず、声も出せずにいる。そのしびれたような た。去年、自分を殺そうとしたのが誰だったのかという論争を、ほ 沈黙の中をマシンがフリツツに近づき、かがみこんだ。マシンに抱んの少し耳にした。今年の・ ( ースディで起こった争いといえば、そ きあげられたフリツツは、目は半眼、ロも開いている。 の程度のものだった。 マシンはフリツツを抱いて、通路を歩いていった。だらりと垂れまもなく・ハートよ、く ~ ノースディというものが、子供のけんかと同 たフリツツの手足には、まったく生気がない。他の少年たちも、武様に、子供つぼいものだとみなされており、今日はパーティは開か 器を残し、不安げについていった。・ハ ートのうしろで、水をはねかれないと知った。そのかわりに、心をこめた昼食が用意され、デザ えす音、水のしたたる音が聞こえた。ローティスがプールからあが ートにあっさりしたアイスクリームが出された。 ートと守 ったのだ。マシンは数十メートル通路を進むと、一枚のパネルの前 話題は。ハ ートの目的に集中した。・ハ ートは船が話してく でとまった。 れた目的を隠さずにくり返したが、たいした話ではない。 キチローが船に呼びかけた。「それ、廃物処理シュートだよ」し スジルが言った。「これから船は、きみをどうするつもりなんだ かし、すでにフリツツは姿を消していた。 ろうな ? ぼくが言いたいのは、きみはもはや、・ほくらの父親とし 走りだす ' ハ】トに、目をくれる者はなかった。・ハ ートは自分の部ても、手本としても、助つ人としても、必要じゃないってこと」 屋に駆けこむと、震えながら壁をみつめた。船はなにも言わずに、 「わかんない」・ ハートはさらに少しアイスクリームを食べながら言 夕食を用意してくれた。・ハ ートは少し食べたきりで、ペッドにころった。少年少女たちの目は同情に満ちているが、もの言わぬ視線 がりこんだ。眠りと忘却が必ずおとずれてくるべッドに。 ハートにとって気持のいいものではない。「そのことを船に いたら、修正されたスケジュールにより、飛行計画は順調に進んで 6 いるとか、そんなことを言ってた」 シグリッドがわかったというようにうなずいた。「それが船のや トが状況を偵察しようと部屋から顔を突き出したとき、二十りかたよ。あなたに答えたくないとしたら、答えないのよ」 三人全員が通路で待っていた。異状なし。 「今度は誰もきみを殺そうなんてしないよ」これが第一声だった。 〆リッパ

9. SFマガジン 1982年3月号

4 ヒムャ】は改良した仕事場でこっこっと、器用な手を駆使して、 いくつかのメガネを作っている。義歯の方は目下研究中で、ソロン が主な研究を受けもっている。船は日常的な軽いけがなどの治療は してくれるのに、人工的な肉体補強物に関しては、いっさい協力を 拒否している。 ートよシグリッド : カつい二、三日前に死んだと聞かされた。 エドリスとトラクとキチローは祈りをつづけているが、船に祈っ このいちばん新しい死が、みんなの心に残っているためかもしれているのではない。・ ( ジルは星のかわりに壁をみつめるようにな ートの学校生活の第一日目は、うまくいかなかった。ロ り、ほとんど口をきかなかった。 ーティスの教えかたは、問題から問題へ、専門的事項から専門的事今日は。 ( ー トの学校はうまくいった。教師役のフーアドは気さく 項へと、やたらにとんだ。ロ 1 ティスは自分でもうまくいっていな にしゃべり、昔の地球の話をして楽しませてくれた。 いと認め、ため息をついた。「来年、つまり明日は、誰か他の人が 教えてくれるでしよう。わたしからなにか学べた、・ハ 4 「ええ」 一日が過ぎていこうとしているとき、 ートはわくわくするよう今日の教師はチャオで、 ハートに幾何学の美しさを教えこもう 一な話を聞いた。オーレンとマルが死んだというのは、もはや確かでと、固い決意をしていた。 ~ はない。少なくとも、コントロール区域に通じているとお・ほしき、 庭園では、植物が伝染病から回復しかけているという。原因は誰 使っていないインターコムの回線を通じて、一方的なメッセージが にもわかっていない。 伝わってきたのだ。生存しているのかどうかは、意味不明のことば ランジャンが不定期間の大統領に選ばれ、事態進行を誓った。 が伝わってきただけで、わからない。もしかすると、広大な船内で何度かの失敗のあと、ふたたび義歯作りが進んでいた。ソロンや の通話が一時的に遅滞していた回線か、あるいは記録ドラムか、な他の人々が歯列矯正器が必要かどうか、また・ ( ートのロ中を調べた にかから突然に発せられたどうでも、 しいことばかもしれないし、現力ぐ ・、、まうっておいてもかまわない、あるいはほぼだいじようぶたと 世代の人々が発したものではないかもしれない。しかし、ひょっと しうことになり、 ハートをほっとさせた。 ちに、学校に行くべきだというのよ。つまり、正式にね。マシンがすると : どうしてあなたを除外しているのかわからないけれど、そんなこ と、まあ、 、いじゃない」フェイは白髪になりかけの髪をかきあ げ、問題に取り組むような目で・ ( ートをみつめた。「これからの人 生で役立つよい習慣を身につける時期は、今のようでもあるし、も う過ぎてしまったのかもしれないわね」 4 4 246