かびかの床には足跡が全然なかった。 しろ、船はめったに役に立っ答をしてくれない。それに少なくとも 「あそこに誰か住んでるのかなあ」マルはガラスに鼻をくつつけてもっと年をとるまで、父親になる心配をする必要はないのたった。 訊いた。 0 「誰もいないよ」タングが言った。「帰ろう」 「いっか、・ほくらが住むのかもしれない」マルが小さな声で、考え 深げに言った。 お決まりの朝食を食べたあと、 ートは初めて、居住区で待って いるみんなに会うのが、少しばかり不安になった。子供たちがさら 9 に一年、年をとったとすれば、もはや幼児とは言えず、ほぼ対等に つきあうべき人々となる。・ハ ートは不安をはらいのけ、部屋を出 今日は男の子対女の子の闘いはすざまじくはなかったが、依然とた。 してくすぶっており、一日中、突発的に起こるにらみあいや、髪の今日の子供たちは、体つきこそ目をみはるほど大きくなってはい つばりつこ、ののしりあいで、 ートはけっこう忙しかった。例ないものの、十回目の合同・ハースディを祝う意気ごみは十分で、は によって、ケーキとアイスクリームの昼食は成功し、ゲームも楽しじめの歓迎さわぎがおさまると、子供たちはすぐに・ハートにこれを かった。今回はパ ートは他の。フレイヤーたちをしのぐために、い 知らせた。壁には大きなカレンダーがさげられ、過ぎ去った日々が ぶん奮闘しなければならなかったが。 バツで消してある。一年が過ぎたのはまちがいない。 女の子一人と男の子一人が、ゲームしていた・ハスケットのポール 今日は荒つぼいゲームの最中、 ートは数人の少年たちにいちど の体積を計算するのに、どんな公式を使うべきかということで、ちきにとびかかられ、あっさりとやつつけられてしまった。少年たち よっとした論争をし、 ( ートは初めて、子供たちが知識を、もしかの方では、、計画的にいちどきにとびかかったわけではなく、また、 すると・ ( ート自身は学んだことのないような、重要な知識を持ってもはやバ 1 トの力を重視しているわけでもなかった。 いるのだとわかった。それなのに、・ハ ートは親になろうとしてい そして今年は、少女たちに話しかけるとき、奇妙な感じを覚える る ! それとも、船が言ったことの意味を取りちがえてしまったの瞬間が、たびたびあった。パ ートはほとんどはにかみに近い感情を 味わった。 一日が過ぎ、服をぬぎ、ひとり・ほっちのべッドにもぐりこんだと きも、 ートはその点を悩んでいた。「ねえ」船に問いかける。 「はい」 ・ : なんでもない」・ ハートはほうっておこうと決めた。どっちに数人の少年たちの背が、中でも・ハルークとオーレンの背が、急に 226
ロ 1 は年をとり、元気がなくなった。もう誰にも荒つぼくあっかわ言もいいじゃないかと言った。この最後の提案にキチローは怒っ れることはないだろう。 ′】トが皿のケ】キをひとかけらも残さずに食べ終わり、立ち 、刀し ートは食料室に行き、はるか茸初期のパーティにそうしたよあがってその場を去っても、口論はつづいており、誰も・ハ うに、マシンをパンチして、小さな・ハースディ・ケーキを要求しなくなったのに気づかなかった。今日はプールまで行けたが、ゾー ルはとうに干あがっていた。 た。こうするのも、ずいぶん久しぶりのように思える。 まもなくケーキが出てくると、小さなローソクを十四本と、ライ ターを一個要求した。ケーキを食堂のテー・フルに運び、ひとりぼっ 6 ちでケーキを食べた。ローソクに火をともし、ささやかな儀式をし たが、自分のために歌うのはばかばかしい気がした。 目をさまし、いつものように部屋を出たパ 1 トは、通路の一番目 パーティにつきものの甘い発泡性の飲みものを要求したが、やがの重いドアが開かないのに驚いた。そして別の通路に気づいた。新 て立ちあがって、ワインが置いてあるところに行き、カツ。フに一杯しく作られたのか、あるいは初めて姿を現わしたのかわからない ついだ。 が、今までのドアとは直角に交わるかたちで、新しい入口ができて キチロ 1 がやってきて、二、三秒・ハートをにらみつけた。「おま え、教室にいるものと思ったが」老人の声は半分驚き、半分怒って 一瞬後、 ハートは通路に足を踏み入れた。 いる。「いったいどういうつもりだ ? 」 ハ 1 トの耳 「わたしに与えられた至上命令は、きわめて明快です」 ' 「今日は・ほくの十四歳の・ハ 1 スディなんです。ケーキを食べているもとで船が言った。「子供たちの可能性を十分に発揮させるには、 ところ」 少なくとも人間の親がひとり必要です。 キチローはしばらく、老人特有のはれぼったいまぶた越しに・ハ 二十標準年以内には、移住に適する惑星系に到着します。今日か トをじっとみつめた。「ああ、うん、おまえの・ ハ】スディを忘れらきみの目ざめる日が増えます。きみは親として、移住の第一世代 て、すまなかった。だがそれは、テストのさいちゅうに脱け出す口を育てるのです。子供たち同様、きみは第一級の遺伝形質を持って 実にはならんそ」キチローはどこかのドアを開け放してきたらしいますから、おそらく、子供たちがおとなになったときも、リーダ ーの位置にとどまれるでしよう。今日からそのための実習が始まり く、話のあいだじゅう、病院の方向からいらだった不平が聞こえて きた。 ます。基本的な人間心理に関する初歩の勉強は、昨日で終わりまし た」 アーミンとヘルサがやってきた。「どうしたのかい ? 」 5 キチローが説明すると、口論がはじまった。ヘルサは、 ートはようやく理解し、満員のベビ 1 ・ペッドからにぎやかに聞 はもう少し違う態度をとったほうがよいと言い、ア 1 ミンは休日宣こえてくる泣き声に導かれ、新しい育児室の方に向かっていった。
鑑賞しようということになったが、船に乗っている者のうち、この 7 方面にたけている者は誰もいなかった。 4 ヒムャーとビビアンの壁画が完成し、アーミンとバジルがチェス 4 のチャンビオン戦をしている。 ートナーとして、幸福に永久的にペアを組 セックスと生活とのパ ートは再建された庭園で採れた雑種の果物を味わってみた。 ナとなり、同様に パースディ・。ハ ーティのんでいた者たちが、今では別の意味でのパート】 一年間はつづく五十回目のゴールデン・ 一一ⅱが、ちらりと出た。そろそろ準備にかかるべきだという。 幸福そうに暮らしている。 、ートは目にした 0 トが前の授業で何を教わったか、いまどん 今日の学校では、・ハ 義歯がうまく使われている風景を、 生物学研究室で働いていたフェイが、速効性の苦痛のない毒をのなテストを受けさせたらよいかで、教師たちがひともめした。結局 ートはいい成績をおさめ、論争していた ハートは鈍いショックを受けた。み行なわれたテストでは、・ハ んで自殺したという話を聞き、 ートにはなにも説明しな教師たちは全員胸をなでおろした。 んなはその理由を知っているにしても、 、刀ュ / 0 学校ではヒムャ 1 が地球の芸術のさまざまな伝統について、熱気 5 はあるが難解な授業をくりひろげた。 ハートが隔離区域の最後の重いドアから出たとき、みんなが 8 まだ十五人残っているーー出迎えに集まっていた。みんなかっさい 4 し、歌をうたって迎え、今日は学校は休みだと言い、最大で最高の パ 1 スディ・パーティにく ートを連れていった。 庭園係と生物学者とから、植物を若返らせるのに成功したという ーティの席上で、みんなの 報告があり、この発見を人々に応用する希望が生まれた。ある者は大統領に選ばれていたシャロンは、パ 興奮し、その点に関して、船が賢明にもなんの力も貸さず、自由に協力を得て、事態進行を誓うという、短いスビーチをした。シャロ 任せていた理由がわかったと言った。それはコン。ヒ、ーターの創造ンのことばどおり、彼女ひとりではどうにもならないのは確かだっ 能力の限界をはるかに超えている。人間にしかできないことなのた。 っしょに遊ぶ老人たちは、しばら ハレーポールの試合をした。い 全員が納得したわけではなかった。 ートが出会った子供たちと同じ名前の人々で、短い時間で く前に・ハ トの学校は、教師全員がかかりきりになった。今日は音楽をはあるが、仲間の一人になった気分を味わうことができた。・ ( ート 248
げつそりやせている。しかしチャオは、他の人々が言ったとおり具 ( 1 トとしては、今好まれているゲームのビンポンの方に、ず 合がよさそうで、楽しげに仲間に加わっている。 と関心がある。 だいたいにおいて、年配者たちは楽しげだった。みんなパートの みんなの話題は、料理マシンを修繕して、もっとかみやすい料理 ことで大げさに騒ぎたてたが、。ハ 1 トはひどくしらけた。さびしくにすべきかどうかだ。 はないが、孤独な気がした。バ キチロ 1 ートは船のことをもっと勉強したい 、ソロン、アーミンの健康な三人は、身体の調子を保つ と思ったが、今日は授業は休みだった。 トリス、カリーナ ために、野心あるプログラムを請けあった。エ・ シャロン、ヘルサ、それにロ 1 ティスは、男たちをあざ笑いなが ら、自分たちは減量の方法を検討している。トラクはやせているの 6 で、これには関係ない。たぶんかむのが困難なせいだろう。 ランジャンが卒中を起こし、右半身不随で入院していた。必要が 高まっているというのに、医療プログラムがさらに縮小されたため 6 に、みんな船に怒っている。かってはみんなにささやかな治療室と して与えられていたスペースの一部は、今では壁で仕切られてい ビビアンが死んだ。誰も驚かなかった。 る。そこではなにかが起こっているらしく、みんなはなにが起こっ ートの今日の教師はローティスだ。七週間前に、。フールで・ ( ているのかわからないために、腹を立ててうなずきあった。 トを誘惑しようとした女性。白髪頭の年老いたローティスと目を合 ここ数日、ずっとやさしかった顔に、今日はうらやましげな色をわせながら、バ 1 トは彼女がなにも覚えていないとわかった。それ まじえ、みんなはバ 1 トに質問した。しかしバートは答えるべき情も当然だ。プ】ルにいたのは彼女ではなく、同じ名前の別の誰かだ 報のカケラも持っていない ったのだから。ロ 1 ティスは園芸を教えた。 現在、大統領の席は空いており、政府再建の問題は、ややヒステ庭園はまた広くなっていた。依然としてたくさんの若返り植物が リックに論争されている。 場所をとっている。みんなにはもう広いリビング・ルームはいらな いのだ、と・ハ 】トは思った。二十四人いた人数が今では十四人にな り、生き残っている人々は、かってのように動きまわらなくなっ 6 太っていたビビアンがやせ、体が痛むようになった。ランジャン ート、この写真を撮った日を覚えておるかね ? 」 はまだ不随のままだ。・ハ ートはまるで自分から熱心に聞きたがった 「ぼくは覚えているけど、あなたは覚えていませんね」・ かのように、病気の話や、あちこちのぐあいの悪さを聞かされた。 ンを置き去りにして、荒々しく立ち去った。本当はア ートはア ーミノカ 252
は夢中になり、揺れる太鼓腹やきしむ関節を相手に、機敏にジャン 。フし、百キロの体重にぶつかられて、ひっくり返ったりした。 しかし、 ートが仲間でいられるのは、ほんのひとときのことだ 3 爆発は二度となく、行方不明の二人が生きているという微候もな い。危機感は去り、話題はふたたび若返り療法の望みに集中してい こ 0 5 義歯が誇らかにロ中におさまっている。必ずしもびったりと合っ ( ートはみんなが学校のことなど忘れているだろうと思って、居ているとは言えないが、ソロンは改良できると楽天的に思ってい 住区域に行ったが、そうではなく、約東どおり授業があった。今日た。 は〈ルサが教師で、船やその使命に関して、古い記録がほとんどな授業はつづいている。今日は指導陣がチームを組み、人間の言語 にも教えてくれないことや、みんなが自力でみつけ出したことなと無限に近いその種類を教えた。そうしたことばの一部は、誰かか ど、船に関する基本的な知識を学んだ。昼食後、・ ( ジルがやってきれかが、話せないまでも読むことができた。 て、しばらくのあいだ、船の外観や、観測窓のようすについて話し 4 てくれ、 ハートを少し驚かせた。・ハジルの話しかたには感情が欠け ており、まるで存在感が感じられなかった。 広大な庭園の樹木を材料に、屋根のない、壁の高いパビリオンふ 2 ートこまこ うの建物が造られた。社交場として使うのだという。 れは、なにかを造りたいという目的のためだけに造られた建物のよ 全員が極度の興奮状態にあった。一カ月ほど前、おそらく船尾のうに見えた。 ヒムャーは関節炎の治療法を探している。指がこわばって、かな 方向だろう、一、二キロはなれた個所で、爆発が起こり、船全体が 揺れたというのだ。船体に隕石があたったのか、それとも船内に原り仕事の障害になっていた。 因があるのか、そのあたりはわかっていない。 マルとオーレンがまだ生きていて、爆発を起こしたのだというう わさが流れた。 9 4 完成した。ハビリオンの中で、フーアドはべッドに横になってい 2 宗教熱が急に復活していた。緊張した雰囲気の中で授業がおこな われた。 た。心臓発作で倒れたのだが、回復しつつあるという。ガリーナの
もしかすると、壁をこわそうとしたと めさせようとはしていない。 きには、やめさせるつもりなのかもしれないが。 ! 」アーミンが手になにか持って近づいてきた。 「まだ、これ見てないだろ。このあいだのパースディ・パー 宇宙船内で爆発物を使うのは、基本的に危険た。重大な、取り返 ートメントの空 撮った写真だよ。そのうちまた、ああいうパーティをひらく必要がしのつかない損害を与えるかもしれないし、コンパ 気が真空中に爆発するかもしれない。 あるな」 「それでオーラとタングは死んだ。だから、壁を腐食し、溶かして ーティのときには、まだカメラ、持っ ハートは写真を見た。「パ てなかったじゃない。これを撮ったのは昨日だよ。あなたたちにとしまう酸をぼくは作ろうとしていたんだが、それがなくなってしま った。マシンがみつけて、取りあげられてしまったらしい」。ハルー っては、去年のことだけど」 クは肩をすくめた。結果は決まっていても、決意は変わらないとい 「ああ。そうだね、たぶん」 うように。「だけど、今にわかるさ、わかるとも」その声にも態度 にも、気落ちしたようすはみじんもなかった。 8 境界線を示すテー。フは依然として貼ってあるが、今日はゲームは 2 ートま 行なわれておらず、みんなも忘れはててしまったようだ。・ハ ノートは乗船仲間たちの関心を集め 今回は、ここ数日になく、く フ 1 アドとトラクが二人とも太ったのに、少し驚いた。二人ともシ エドリスとヘルサは・ハ トの歯を調べ、船が歯列矯正をしなか ヨーツの上の肉がだぶついている。 ったのはどうしてだろうと、声高に言った。 ハートは、星の見える観測窓のところへまた行きたいと思った 「それほどひどく曲がってるわけしゃないわ。でも、わたしたちが が、呼吸装置は、以前にパジルがしまっていたロッカーになかっ 子供の時に何人かは、矯正されたのよ」 1 トこ ・、ルークとソロンがやってきて、なにをしているのかと・ハ ートの未来についてのディスカッションが始まり、と 昼食後、 説いた。やがて二人は、呼吸装置の行くえを教えてくれた。船内のきには、まるでパート の存在など無視してつづけられた。 未踏の奥地に行きつくための″技術的研究″に使われているとい ランジャンが言った。「・ほくは船が、いつの日か、何年か先に、 ハートに花嫁を世話する計画なのだと思っているよ。もしかする ハートはさらにくわしく知りたがった。二人の話では、船内の奥と、すでに人工子宮で人間を育てようとしていて、それが失敗した 1 トは足どめをくっているんだ」 の方へ通じる通路は、堅い壁とドアとで閉ざされており、船はなんのかもしれない。かわいそうな びとの立入をも禁止しているという。しかし、船は技術的研究をや 他の者が説いた。「この船に人間の精子や卵子を、たつぶり積ん 237
4 ートが共同区域に入った 通路には誰も出迎えに来なかったが、・ハ とたん、隠れていた場所から、みんながくちぐちに「サプライズ ースディ ! 」とか叫びながらとび出して ! 」とか、「ハツ。ヒー 古いコモン・ルームには、もうべッドは置いてない。みんなは二きた。・ハ 1 スディはまだ来ない。だが共同の・ハースディを ートも招待されていることがわかっ 人すっ組になり、 いくぶん安定した関係で眠っている。 祝う決まりができ、そこに・ハ さらに目立っているのは、たいていの人々が今日は鼻をぐずぐずた。 「 / ーティのこと ート」ヒムャーが言った。 いわせていることだ。シャロンの話では、新しい生物研究室での実「十年ぶりだね、 験が失敗し、ビールスが洩れてしまったという。みんなは、心配しさ。そろそろ開いてもいい時期だと思ってね」 なくていいとバ ートに請けあった。実際のところ、、、ハ ートは心配し「あなたを″名誉十五歳″にしてあげるわ」フェイが口をはさん ていなかった。少なくともビールスにかんしては。 だ。「それとも、″名誉二十四歳″はどう ? 」 おおむね、のんびりした、緊張の少ない一日だった。 「ワインをお飲み、 ート」誰かが言った。 「ワイン ? 」 「庭園はきっと成功するって、言っただろ」 「ーーーあ、少しだけよ。まだ小さいんだからーーー」 「ーーグラス一杯ぐらい、害はない 庭園で仕事をしているローティスは、今日はショ 1 ツ姿だ。 ってから、どれぐらいになるたろう。みんな十分に愛想よく迎えてトはロ 1 ティスの下半身にたっぷり脂肪がついているのに気づい 、つしょに泳ぎに行ってた。彼女の腿の赤い血管が広がり、皮膚の下で、ふそろいな網目模 くれるが、傍に集まってくることはない。し くれる者が二人現われた。。フールはまた改造され、より安全に、よ様を作っている。 ートにもうつ り楽しげに作られている。 ぐずぐずいっていた鼻は、すっかり治っていた。・ハ 1 トにはうつって 何人かの人々は、船がすっと前に、学校の生物学課程用に与えてったときのために、薬が用意されていた。だが・ハ 、よ、つこ 0 . し / 、刀ュノ くれた種子を、成育するのにいっしようけんめいになっていた。パ 1 トは新しい庭園を見せてもらった。食用になるものはまだなにも「たぶん、船がちゃんとあなたの世話をしてくれているのよ」チャ オが言った。 なしが、たぶん次に来たときには。 キチローがびつこを引いている。 ートはキチローが誰かと競争 して膝を痛めたのだと聞いたが、けんかなのかゲームなのかはわか らなかった。 235
「いつなの ? 」 り、小さな友人たちに学校を案内してもらったあと、マシンが大き 「二、三カ月先だよ」記憶の中で、正確な日付は静かに眠ったままなケーキを運んできた。今度は玩具やキャンディのささやかな。フレ 2 っ 4 で、空白の穴があちこちにある。 ゼントの他に、風船がある。 「楽しかった。ねえ、みんな、明日・ほくが来たら、またパースデイ「今日も・ハースディじゃないの・ハート ? 」 ・パ 1 ティが開けるかもしれないよ。船がスケジ、ールを守ってく「うん、ちがうよ。ばくのは二、三カ月先なんだ : : : 二カ月と二日 れれば、みんな六つになるはずだもの」 あと」 「明日 ? 」 「いくつになるの ? 」 「ああーー・来年さ。そうカ ~ 、、・まくときみたちは、ちがうスケジュ 「十四だよ」 ルで過ごしているんだ。・ほくは一年に一日しか目をさまさない。き ケーキとアイスクリームを食べてしまうと、みんなはゲームを楽 っと、もうすぐ船がきみたちと同じスケジュールに合わせてくれるしんだ。子供たちは・ ( ートの力とス。ヒードと機敏さにひどく感心 だろう」 ートはみんなに、ゲームに必要なポールやロ 1 プやスティック 「来年 ? 」 をあっかうこつを、少し教えてやった。ときどき、ゲームの最中、 ( ートはため息をついた。子供たちにとって、明日と来年の区別人や物に激しくぶつかった子供が、泣き出してゲームを中断させ はほとんど定かではないのだ。特に・ハ ートの話しかたではわかるま ハートはけがの程度がどれぐらいか、マシンよりはずっと早 く、しかもうまく言ってやれると思った。 タイム・スケジュールの差は、今年は子供たちも楽に理解できる 七歳の・ハースディ・パ ートは何人かの子 ーティが始まる前に、・、 ようになっていた。他のいろいろなことについても同様だった。 供たちに、かなり熱心な質問を受けた。フーアドとランジャンとオ / ートがなにをしているのか、バースディ 今度もまた、子供たちの居住区域が変化していた。一部は学校ら 1 ラは、会えないときに・、 しく、 ートが行ったときには子供たちは全員、学習マシン・コンと・ハースディのあいだの一年をどう過ごしているのか、知りたがっ ソールについていた。 船が今日一日は休日だと宣言した。 「眠っているんだ。船は人をすっと眠らせておくことができるんだ 「 ( ースディ・。ハーティを開こう ! 」男の子が叫んだ。 トがみんなと話をし、船の指示どおり新しい本を読んでや「ふーん」ランジャンは疑わしげだ。 よ」
8 ートが最初に会ったのはアーミンだった。アーミンの話では、 過去一年のうちに、チャオと・ハジルが急に、次々と亡くなったとい 六年間、右半身がマヒしたままだったランジャンが死んだ。みん教室に行くと、学習マシンにテストが。フログラムされてあった。 なはほっとしていた。 ハートはひとりマシンを動かし、二、三、質問に答えたが、今日は ( ートはキチローの監視のまなざしのもとに、むつつりと教室にもっと重要なことがあるという気がして、立ちあがって教室を出 入った。 た。一度振りかえって、また歩き出す。二年前にくらべると、キチ いつもの授業がそれほど進まないうちに、キチローが衝動的なス ビーチをはじめ、授業は中断された。「・ ハート、おまえはわしたち 5 つみ 6 年寄りの生きがいなんだ。わしらにはどうにもできなかったが、い つかこの船にもっとたくさん人が増える日がくる。マシンのくびき ートは自習をしても、 しいかとき、喜んで要求がかなえられるを逃れる人々が。わしらの生きがいは、おまえとおまえが代表する と、しばらく空想にふけり、マシンと遊んだ。ゾールの中の若きロ希望なんだ。わしらはやるべきではなかったことをしてしまい、為 ーティスの姿が目に浮かび、 ハートは立ちあがって。フールがまだあすべきことをし残してしまった」 るかどうか見に行った。 ハートにはなんのことだかわからない。 今日の教師である白髪頭のローティスが、パ ートが無断で脱走し「しかし、わしら全員の生命を負わせるのは、おまえには重荷だろ うな ? 」キチローは吐息とともにつけ加えた。言いわけしているよ たのを発見し、怒って追いかけてきた。二人は言い争い、ローティ スよく トの髪をつかんで、教室に引きずって帰ろうとした。 え、そういうふうにってくれるのなら、・ほくはだいじよう ローティスはまだ元気な老女だが、・ハ ートに激しく振りはらわ「いし れ、倒れた。ローティスの悲鳴に驚いて、 ぶです」 ートは逃げ出した。 まもなくキチローがびつこを引き引き、追いかけてきた。・ハ 教師は喜び、男らしく・ハートを抱きしめた。しかしキチローは重 っこうに はもっと走って追っ手をごまかすか、安全な部屋を捜そうかと思案要な点を見逃している。 ートは誰がどう感じようと、 したが、逆にくちびるを突き出して、その場に踏みとどまった。キかまわなくなっているのだ。 チローはく / ートに平手打ちをくわせ、おどしつけ、教室に連れ帰っ た。思いだせるかぎりでは、今までそんなに強く腕をつかまれたこ とはなかった。 シンと遊んだ。やがてみんながタ食に呼びにきた。
ついていえば、ぶんぶん回る電子さえも動きを止められているの : ・動作のヘルサを見るのは、つらかった。なにか進行の遅い不治の病 ・ : でも、肉体的な危険は心配ないわ。ごくわずかなものですから気ではないか、そうガリーナが疑っているという話を、他の人たち がしてくれた。そして、もっと明かるい話題に切りかえた。 はや ート」シャロンが一「ロっ ガリーナは生物学の授業を再開したがり、研究室の中をすっかり「今はね、カード遊びが流行ってるのよ、 こ 0 ートに見せて歩いた。 「船からは人間の生殖細胞をもらえずにいるの。でもね、理論上「カード遊び ? 」 は、新しい世代を育てられるのよ。わたしたち自身のふつうの細胞「ポーカー、ホイスト、・フリッジ」ランジャンが言った。「見せて を使って、作りはじめてるわ。あなたにクローニング細胞の話をしやろう。船の記録から掘り出した昔のゲームだ。それから、おれた たかしら ? 」 ちは船のコントロール区域に達するために、。ハリャーを通りぬける いえ」 新しい方法を、二つ試したんだが、どっちもうまくいかなかった」 「そのうち話してあげる。どっちみち、まだ成功していないし。は「実際に試したわけじゃないぞ」フーアドが異議をとなえた。 つきりとはわからないんだけれど、船になにか陰険な方法で妨害さ「あら、コンビューターにかけてみたじゃない」ローティスが口を れているのかしら、それともわたしたちが気づいていない問題があはさんだ。 るのかしら」 「あのな、船はまだ、あのコンビューターをおれたちに不利に ハートはガラスびんに入った、成育中の組織のかたまりを見せら「いや、おれがずっと言ってるだろ」ランジャンが反論した。「船 れた。しかしそれは、一体となって人間を形づくる、あらゆる器官が手出しできる可能性は、封しこんだとーー」 ハートには、その実験はメ「勝手にしろ ! おれはそうは思わんーーこ に分化するような組織になれずにいる。 論争は白熱したが、なぐりあいが起きそうな気配はなかった。 ドもっかない状態にあるように見えた。 あちこちの壁や頭上に、古い色テー。フが貼ってあるが、みんなが 9 考え出したゲームは、まったく顧みられなくなったようだ。 3 今日バ ートが耳にした唯一の争いらしいものは、最高の植物と花 を育てる競争だった。 今日は祈りの会があった。儀式はさらにこみいったものになって いるが、前回よりも熱意が欠けている。人々の衣服は、今では主に 8 自分たちで作っているが、ずっと手のこんだゆったりしたものにな 3 3 4 っている。みんなのしまりのなくなった体を隠し、体型から注意を っム 腕がやせ細り、足首がふくれあがり、病人のようにのろのろしたそらす作りだ。