入っ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1982年3月号
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1. SFマガジン 1982年3月号

は、新しい理想をもって打ち倒さねばならぬ、当の敵にほかならなもった人間が、そう云ってはわるいがラウリのようなごく平儿な一 くなってしまうのかもしれない。 人の人間の拒否を、全世界からの拒否の意志であるようにうけと 9 そんなふうに考えていってはしかし、すべてのーー人間の生き、 る、などということは、まったく、考えられないのである。 社会的な存在として行っているすべての営為が、その意味を失って ( 考えてみなければーーもっと、もっとよく ) 崩壊してしまうのではないだろうか。それはぼくたちを、いつまで これは、他の人々の誰にも、理解されにくいことであったかもし たっても、自分では日進月歩をとげているつもりで、右のドアかられない。しかし、そのときの・ほくにとって、このあまりにも抽象的 出ては、左のドアから入ってくる、堂々めぐりをくりかえすおろかで形而上的にみえる一連の疑問、アドレステーマ、それは、何とい しいサルにしてしまう。そうと知ってからなお、あえてその堂々めうかきわめて切実な、緊急の、生命にかかわるような重要さをそな ぐりをつづけることに、どうやって清新な情熱をもちうるというの えた問題に思われた。 に「つ、つ、カ このくらい、おそらく、市民たちに理解されにくいことはなかっ いやーーーシティがまだなく、人びとが小人数づつ、えたいの知れただろう。 ない汚い孤立したユニットにおしこめられていたころから、人間は なぜなら、市民たちとは、まさしく、何ひとつものごとを切実に ひとりぼっちで、そして不幸だったし、シティが完備され、美しく うけとらぬための訓練をうけた人びと、といってもよかったのだか 清潔な理想都市が完成し、うごきだしても、やつばり人間はひとりら ぼっちで、そして不幸だった。ということは、問題は、シテイやシ かれらはまさしく影法師だ。かれらはぼくのかたわらをすりぬ ティの市長や、コンビ = ータや、あるいはこのシステムの中にさけ、時にぶつかりそうになるくらい近くにくるー。ーしかも、かれら えもない、ということだ。システムをかえてもーーあるいは他のシは決して何にもぶつからない。 ティに住んでみても、やはり、人々は不幸で ( そうしてただ、ある いや、しかし、市民の・せんぶがそうだ、などというつもりは・ほく たとえば、ディマ ものは自らの不幸であることを知らず、あるものは自らの不幸を知にもない。正確を期さなくてはいけない ってはいるけれどもその正体をはっきりとは知っておらなくて、た だ。ディマーは、たしかに・ほくをあえてよけて去ろうとはしなかっ だ、あれをもっていないから、これがほしいのに手に入らないか た。彼は、まっすぐにぼくにぶつかって来たし、これまでに彼ほど ら、自分の愛した人間が、自分を愛してくれなかったから、自分の 《ざっくばらん》に話してくれたあいてはいなかった。彼をみてい 望んでいるような仕事をできないから、などと目のまえの理由に結ると、カイハセーションというものが、人との摩擦をさけるためで びつけ、そのことでいささかの安心を得て何とか不幸と折り合いをはなく、人と理解しあうためのものなのだ「というねごとがたしか つけているのではないだろうか。 に真実なのだと思えてくるくらいだ。 それに、もう一 = 人いた。・である。 ミラのような、するどい頭と、はっきりとしたパーソナリティを

2. SFマガジン 1982年3月号

「・ほく、ちゃんとした親だろうか ? 」。 、ートは船に訊いた。 とシャツが置いてあった。いつものように朝食をすませると、 トは部屋を出た。本は片づけられており、なにもすることがなかつ「修正された飛行計画は、順調に進んでいます」 たからだ。 5 前に会ったときよりも大きくなった男の子と女の子が二人すっ、 子供たちの居住区域で遊んでいた。もうここは育児室とは考えられ ないな、と・ハートはった。ぐ ノ 1 トが近づいていくのを見つけた四厚いガラスのドアの内側で、二十四人の子供たち全員が、興奮し ートを覚えていた。 人の子供たちは、興奮してとびあがり、他の子供たちを呼んだ。厚て・ハートを待っていた。今度はみんな・ハ いガラスのドア越しに、子供たちの声がかすかに聞こえる。 、ート、ばくたち、今日で五つなの ! 」 ートはそこがまた広くなっているのに気づい ・ハースディ・パ 1 ティをしてもい、 部屋に入ると、・ハ 「船がね、 た。おとなのイメージたちは一人も見えない。最初はおずおずと、 ビリーとリンみたいに」 しばらくして、 あちこちから子供たちがやってきた。乗りもののペダルをこいでく 、ートはビリーとリンが、船がときどき子供たち る者、色とりどりのプロックでできたおもちゃの家から出てくるに見せているお話の主人公だとわかった。ビリ 1 とリンはふたご 者。 で、地球のどこかに住んでおり、その中のエビソードに、二人がケ ースデ 「やあ、 ートは集まってきた子供たちに言った。 ーキやキャンデイやアイスクリ 1 ムのそろったすばらしい ートだよ」・ イ・パーティを楽しむというのがあったらしい 「誰か・ほくを覚えてる ? 」 いくつなの ? 」 「今日、あなたが来るって、船が言ってた」前に押し出されなが「ハ ら、ものおじしない女の子が言った。「ねえ、あたしが描いた絵、 「いっしょに。ハ 1 ティ、する ? 」 見て」それは、小さな丸を十いくつか並べた絵だった。丸は同じ大「もちろんさ。船がケーキやなんかをくれればね。もしかすると本 きさで、髪の毛と鼻と目に相当する線が添えてあり、その上に大き物のキャンドルももらえるかもしれないよ」 な顔がひとっ描かれている。「それ、あなたよ」隅にたどたどしい というわけでパーティが開かれ、船は本物のキャンドルを用意し 大きな文字で″シャロン″と画家の名前が入っている。 ハ 1 トに火をつけるためのライターを預けた。育児マシン その日、 ハ 1 トは子供たち全員の名前を聞いたが、ほんの少ししてくれ、 ートはあちらのグループ、こちらのグルー は、五歳の子供たち全員に、ゾレゼントとして、玩具の小さな紙づ か覚えられなかった。・ハ トを囲んで床にすわった全員つみを渡した。 。フの遊びに加わり、そのあと、・ハー 「。フレゼント、ないの、 に、なっかしい地球のことを書いた本を読んで聞かせた。船の指示 「ぼくのパースティじゃないからね」 で、子供たちはべッドに入った。 223

3. SFマガジン 1982年3月号

・ほくはそうではない。それに、・ほくは、アウラが好きだったし、 り、無縁であることで原罪をまぬかれているのだ。世界の中に生み ファンも好きだった。かれらのいやがることはしたくない しか出された人間は、その瞬間から一つの小さな主体となる。肉をた し、レダのよろこぶことは、絶対にしてやらなくてはならないのべ、草をふみ、まわりにあるものにはたらきかけてそのすがたをか えてゆくエネルギーになる。死にむかってすすむエネルギー。破壊 二律背反。これは、ばくが、考えてもみなかったようなアドレスと、変化とをもたらすエネルギー。・ほくたちは毎日毎秒少しづつ、 ・テーマなのだと思う。何人かの、・ほくが好ぎで、・ほくを好いてく少しづっ死につづけ、そしてそのぼくたちのタナトスによって、世 れる人びとがいたとして、その中の一人を満足させようと思うと、界もまた死にむかっておもむく。生々流転は人間が介在するとき生 他の人々に背くことになる。悪意をもって、少なくとも傷つけよう者必滅のことわりに変貌する。いまでは何万種類の動物、植物、昆 という意図をもってすることなら、ばくたちは別に悩まなくともす虫、鳥類がすべて・・ーーほとんどすべて死減し、その自然なすがたを む。あるいは、悩むにせよ自分が何をしようとしているのかは知っみることは不可能になった。ごくわずかな昆虫 , ーーむろんゴキゾリ ており、それがもたらす結果を覚悟の上で行動をおこせばよいのはその中に入っているーーーと鳥をのぞいて、他のすべての種類は、 自然保護区の人工的な管理のもとで、研究され、支配されてほそぼ しかし、全然、・ほくはアウラを傷つけたくもないし、アウラとはそと生きながらえている。犬のファンのようにー・ーーおそらく、ファ なれるのもひどくイヤだった。 ンは、さいごの大族の一人だろう。その、おそるべき破壊と変化 それもまた、生命が存在し、活動する、ということの意味ーーーあは、一体、何のためだったのか ? この地球を、人間にとっての るいは不条理のひとつだ、とでもいうのだろうか ? 存在するもの理想そのものに近づけるためだ。別に、かれらを減ぼそうとして人 とは、必ず、他へ働きかける存在としてある、ということだ。生命びとがかれらを狩り、殺し、抹殺して歩いたというわけではない。 のないものはただそこにあるにすぎない。しかし、生命ある存在が海が征服され、陸が開発され、都会が巨大な原子工ネルギーの廃棄 生きるとき、たった一日、一瞬でも、世界と無関係に、うごきまわ物をまきちらすようになるにつれて、ごくしぜんに、かれらは死減 ったり、何かをしたりすることはできない していった。抗議のことばも、うらみごとも、生きのびようとする 歩けば草をふみ、息をすれば空中の酸素をとりこむように、ぼくあがきもなく。それはしかもヒトにとっては、おのれが生きるため それと、さつの、道の辺の草をふみにじった足の、無意識な行為でしかなかった たちは、何ものとも、無縁であることはできない き思っていたようなーーー人は、自然界の一部であった未生の無意識のだ。 から、世界の中へ生まれ出て孤独になる、という思いは、まったく ぼくは思う。もはや、・ほくたち、 あなたが正しい、ディマー 矛盾するようだけれども、決してそうではないのだと思う。自然界ホモ・テストチューヴは、『自然』の一部ではない。だが、しかし、 にあるものは、自然の作用をうけながらもそれとも実は無縁であディマー、もともと、そうだ、あえて云いうるならばもともと、人 9

4. SFマガジン 1982年3月号

こともできないのだろうか ) 死者が立ちあが り、ばくを指さし、厳しい、ごまかしゃあいまいさ 苛立ち。あせり。やみくもな悲しみ の決してゆるされぬ問いを投げつけてくるのだ。 ( ミラ。そこは、きみのいるところは、静かかい。幸せかい。あっ C ほくは給水塔からとびおりるだろうか ? ) たかで、やすらかなの ( とびおりたいと望なだろうか ? ) ぼくは、どうなのだろう。 つきあげるような、あやしい思いがさしてくる。 ノー。望まない。 とびおりない。しかし、死者でさえ、満足せざ C ほくも、いっか、とびおりるだろうか。給水塔のてつべんから ) るをえないほどに、明確で、しかもはっきりとしたこたえが、たち ・ほくは、恐くはないと思った。少なくとも、他の人びとがするこまち、・ほくの内から叩き返されてきたことに、むしろぼくの方が唖 とならば、ぼくにできぬということはないだろう。・ほくはミラの背然とするくらいだった。 中をひと押ししはしなかったけれども、・ほくだって、誰にも押され ( ぼくは、いやだ。ミラのようにするのは、いやだ ) くは なくても、ちゃんととびおりるくらいしてみせる。みなは、・ほくの ぼくだってーーーぼくこそ、淋しいのだ。こんなにも、 ことを、勇気がないというけれども、・ほくの方は、必ずしもそうは凍えるくらいにーー何ひとつ、このシティにつなぎとめる・ヘききず なもなく、ミラのように、生きて、おとなしく、時のたつのを待っ 思っていない。何か、するときに恐しくてためらってしまうという ことはあんまりない。ただ、自分と、まわりにある世界とが、ずれてさえいれば、いずれ自らのギルドで必ず重要人物になり、注目さ てしまって、いつのまにか、自分が全然ちがうものを見ていたのでれ、大切にされることができるだろうという、才能もなく、人をひ きつける輝きも美しさもなく、自分が将来、何をやりたいのか、そ はないかと気がつくので、呆然としてしまいーー・疑惑にかられ そこで立ちすくんでしまうので、皆にはぼくが、ぐずで、優柔不断れさえも、さだかにはなっておらず ・ほくこそ、何ももっていない。ぼくこそ、何もかも失ってしまっ で、臆病なようにみえるのだと思う。 ーーーミラのようこ、 た。とるに足らぬちつばけなすずめ、このまま消えていっても誰も いっかするだろう ( でも、ぼくは、それなら か。その、人間を、人間でない何かに変える、《最終的な行為》気づかないような、あわれな、どうでもいい虫けら、イヴ・イエン ハ 1 トナーの申しこ ミラの方が、どんなに、友達に好かれ、 を ) ミラのようにしこ、 みだってあったことか。ミラが、淋しくてどこかからとびおりると ほくは、 のだろうか ? ) いうのなら、・ほくなど、もう、何回とびおりなくてはならないか、 ~ しつのまにか、自分が世にも淋しい南祐で、たったひ とり、とつぶりとくれた夜の中に、しょん・ほりとすわっていることわからないくらいだろう。 さえ、忘れかけていた。 ぼくは、イヤだった。 何か、心の中に、あやしい興奮に似たものがわきあがってきた。

5. SFマガジン 1982年3月号

レダは、くしやくしゃの、短い髪に手をつつこんで、苛立ったよ「たしかに、何でもないけど、でもーーー」 うすで、乱暴にかきまわした。 「それに、第一、もうゾライは行ってしまったわ。いま、月にいる 「アウラは、好きよ」 のよーー・もうじき、月基地からとびたって、もっとずうっととお すごくとおいところへ行ってしまい、もうかえって来ないわ。 単純に彼女は云った。ぼく胸は、あやしくさわいだ。これは、 もう、目のまえにいない人間の話をしてれば何かだというの ? 行 嫉妬だろうかーーーおお、レダ。 っちまった人間と、寝るわけにいかないじゃないの。あら , ーーあん 「でも、いっぺん、スペースマンと寝てごらんなさいよ ! 何もか も、めちゃくちゃになっちまうわ。もみくちゃにされてーー投げ上たって、ほんとに退屈ね ! あんたは、あたしをほしいとは、思わ いつないの ? みんなが、あたしを欲しがったものよーー夢中でね。そ げたり、さかさまになったり、ぐるぐるふりまわされたり ペんで、もう、ダメ、ダメになっちまうわ。そのあとじゃーーーもして、プライがあたしを手に入れたのよ。すごいスリルだと、思わ 、つアウラによ、・ ないこと ? 」 とうすることもできないの」 「ぼくはーー」 当惑して、ぼくは云った。 「だって、あたしはーー突きとおされたいんだもの ! やさしくさ ヴァーイ 「ほくはわからないよ。未成年だもの。第一、誰かをほしがったり れたり、なでられたり、抱きしめられたりしたいんじゃない。あた ほしがってどうするのか、どうすればいいのか、ということだ しは、こわれそうになるまで、足をつかんで、ひきずりまわしてほ って、・ほくが、知っているわけはないじゃない」 しいのよ。プライはすごいわ。まるでーーーそうよ、まるであたし、 からだの中に一本、芯棒をとおしたみたいにしゃんとするの。それ「だから、これからそれを教えてあげると云ってるじゃないの」 レダは凶暴な顔つきで云った。 がすべてじゃないーー最高よ ! 」 「してみれば、あんたは、未経験じゃなくなるのだし、おじけてれ 「アウラは、悲しんでいたよ」 ヴァーゴ 十ールマン ば、いつまでだって、子供のままよ。あんた、おじいになって、清 そのことばは、思わず、ばくの口からすべり出た。 浄主義者で、一生をおくりたいとでもいうの ? 」 「アウラは、レダが・フライとっきあうのを、気にかけていたよ」 「そんな話をしてるんじゃないじゃない 「そんなこと、ききたくないわ」 「さあ」 レダの顔がさっと紅潮したので、・ほくは彼女が怒ったのだとわか レダは、もう、・ほくにとりあおうともしなかった。 、ペッド・サイド・テー・フル 「そんなこと、もう、二度といわないでちょうだい、 ばか ! 第ュニットの、つくりつけのペッド 一、どうして、そんなことを気にするのーーーあたしは、アウラの何のひき出しから、何かをとり出し、注意ぶかくすかしてみたり、 なの ? 」 っそうよくみるために、灯のま下へ歩いていって、びんをかざして 3

6. SFマガジン 1982年3月号

ることでぼく自身がひるみ、おじけ、足をあげたままおろすこともるらしかった。一 できず、傷つけることと傷つけられること、その双方にたえかねて ( アウラは、あのきれいな、ここちょいレダの家で、ファンと話し 6 立ちすくんだまま立ち往生してしまう , ーーーそれが、まさしく、いまながらレダを待っているのだろう ) のぼく、そのもののすがたなのだ、といわねばならぬのだろう。 「イヴーーー」 どこかへ レダはユニットに入ると鍵をおろし、そして、肩からするりとト ーガをすべりおとした。ぼくは、何の感情もなくそのあらわになっ それでもどこかへむけて、足をふみ出さぬわけにゆかぬのだとす れば たレダの、やせてとがった裸身を見ていた。」 「プライは行ってしまった」 それならば、やさしい思いやりよりは激烈な情熱、そっと手のひ レダは、その肩を自らの両手でつつみ、にぎりしめて云った。 らに包んでいつくしむ慈悲よりは、何もかもふりすててたったひと つのものを手に入れようとする盲目さ、ほのかでささやかなぬくも「あたしはーーそれから、ずっと、とても淋しかった。ーー欲しか りよりはすべてを焼きつくす炎、その中へ身を投じるならばーーそったのよ。誰も、あたしに、欲しいものをくれないの」 「セクシャリストはーー・アウラは ? 」 れならばまだ、少しは、この身の云いわけになりはせぬだろうか ? あるいは、そんなことを考えているゆとりもないほどに、激しくあ ぼくは、レダの欲しいものが何だか、よく知っているわけではな つい流れに身をまかせてしまえるならば。 かった。しかし、何となくわかるような気がした。 どのみち、ひとつのものをえらぶことは、他のすべてのものを捨「セクシャリストにはーーーこ てるということなのだとすれば レダは、子どもが不平をいうときのようなようすで、唇をとがら せめて、そうしても悔いないほどの情熱をもって選ぶことができせた。 るのならいい。 「もう、あきあきょー なによ、あんな連中ーーいつだって、ドラ ( アウラ。ファン ) ッグ、ドラッグ、薬の助けをかりなくっちゃ、何にもできやしない ラウリ。同期生たち。シティの他の、何のかかわりもない人びとんだから。どうして、大体、あたしがビンクの象にみえるような幻 にさえ。 想促進薬をのんでからでなくちゃ、あたしをほしくならないってい な・せ、・ほくよ、、 ーしま、そのすべてにさよならをいう、そんな気持うの ? そんなの、失礼よーーーそれに、あいつらは、、 しつでも、ず におそわれるのだろう。 っといいつづけてるのよ。いい気持か、ここはどうか、どんなこと をしてほし、 目のまえには、レダがいた。 しか、これとあれはどっちがいしカー , ーおお、まるで、 ビンク・タワーの、たぶん正式のものでない、小さなユニットー コンピュータと寝てるみたいー アウラはーー、・・・」 ーこそこそと、裏口から入ってゆくことに、レダはすでに馴れてい

7. SFマガジン 1982年3月号

キチローが。ハ ートにとびかかっているあいだに、・ハジルとマルが 下の階の部屋に水が張ってある。ローティスは必要な個所にどんな ふうに防水処理がしてあるか、。フールに水を満たすために、どんなフリツツに追いっきそうになった。全員が鬨の声をあげているよう 3 ふうに水のパイプを取りつけたかを、指で示した。水の深さは人のだ。 フリツツは急に向きを変え、別の通路に逃げようとしたが、ジ 頭の高さ以上ありそうだ。 ルの方がすばやく、行く手をふさいだ。フリツツは捨てばちになっ ハ 1 トは感動すると同時に、子供たち自身の手でプールが作ら れたことに、、 しくぶん心を乱された。「マシンにとめられなかったて突進し、。 ( ジルはこん棒を振りあげる間もなく、隔壁に押しつけ られ、首をしめられていた。バジルの手からこん棒が落ちた。その ローティスは頭を軽く振って、マシンの力をはねつける仕草をし顔が白目をむく。馬乗りになったキチローの下でデッキに押しつけ られている。ハートにも、それが見えた。 た。「中に入るわ。水泳のこと、知ってる ? 地球の人々は昔、い マルは組みあっている二人に近づき、。フラスチックの椅子の脚 つも泳いでいたのよ。記録によると、海でも泳いでたんだって」 ローティスはわすかな衣服をぬぎすてると、裸で水に入った。あを、力いつばい振りおろした。いやな音がして、フリツツが敵を放 おむけに浮かび、水をけりながら、なすすべもなく魅せられてみつし、うしろによろめいて倒れた。 、 1 トはもがいて、つかまれて ートをカづけてくれる記憶キチロ 1 が立ちあがりかけると、 めるバートに、心得顔の微笑を向けた ? ハ ノ 1 トの思いは、安全な自分の部屋 ートの心は揺れに揺れた。 いた手をふりほどき、走った。・、 の中に、女性のヌードは入っていない : ハ トがふり に帰ることだ。それにはマルや・ハジルやフリツツがいる場所と、プ 不意に、駆けてくる足音がすぐ近くから聞こえた。・ハ 1 ルとのあいだを通らなければならない。プールの中にいるローテ 向くと、横の通路から猛然と走ってくる人影が見えた。フリツツは イスは、ぽかんと口を開け、端にびったりくつついて、成りゆきを 一年前より体格も大きく、力も強くなっているが、そのフリツツが ートにもローティスにもろ見守っていた。 おびえ、目を大きくみびらいている。・ハ を見て、こん棒を振り 狂暴な目つきのマルが、駆けてくるバート くに目もくれす、誰かに追われているようにプールの周囲を走って くる。 あげた マシンが近づいてくるのは、誰にも見えなかった。だが、たくさ そのとおり、フリツツは追われていた。キチローとバジルとマル が、フリツツのあとを追ってくる。椅子の脚をこん棒がわりに手にんのパネルを張った壁から、今ひょいととび出してきたといった風 ートも走り出した。すに、気がつくとマシンがすぐ傍にいた。マシンは羽でもあっかうよ 持ち、狩りの興奮で形相が変わっている。バ ートが走り出しうに、マルが振りまわすこん棒をその手から奪うと、同じ瞬間、手 ぐに、それは失敗だと気づいたが、遅かった たために、追跡本能に駆られた誰かに、うしろからとびかかられ、荒くマルを突きとばした。マルはよろけ、フリツツの足につまずい て倒れた。 デッキの上に押し倒されてしまった。 とき

8. SFマガジン 1982年3月号

その表面に絵が現われた。 どこかの山の岩場のような所であった。 大小の岩が散らばる上に、ひとりの男が倒れていた。 四十代初めの男である。 和室の八畳間がある。 後頭部から血が流れ、下の岩を赤く染めていた。 その中央に、・ほくの死体の入った棺桶が横たえられていた。 「あれがおまえさ」 その部屋には、三人の人間がいた。 ひとりのやつれた顔をした中年の女と、ふたりの子供である。 縁似子が言った。「もう死んでいる。上の岩場から落ちたのさ。 子供の大きい方が女で、小学校の高学年といったところだ。小さ もっとも、自分で飛び下りたのかどうかまではわからないがね」 そこに倒れているのは、貧相な顔をした中年男だった。仮に、自い方が男の子で、これはまだ小学校に入学したてのようである。 上の女の子は目をまっ赤に泣きはらしているが、下の男の子は、 分から死を選んだのだとしても、その顔を見れば納得もいく 何かつまらなそうに堅く口を結んでいる。 ・ほくは、不思議な感覚の欠落を味わっていた。 ふたりの子供が・ほくの顔に似ていて、中年の女によりそっている 「この近くでね、たまたまもうふたりの人間が同時刻に死んだ。お ところを見ると、中年の女は。ほくの妻で、ふたりの子供はぼくの娘 まえも知っている、あの男と女だーー・」 と息子であるらしい ・ほくは、あの初老の男の首にあった、痣を想い出していた。あれ 中年の女は、泣いたあとの熱っ ' ほい目を赤くして、しっと棺桶を は、一本のロー。フに、自らの体五をふら下げた跡であったのかもし 見ていた。 れなかった。 「ここではないらしいな」 「これは、おまえの趣味なのたろう」 縁似子の声がして、場面が変った。 縁似子は、小屋の内部を見回した。「この中有洞は、それそれが 夜である。 心の内で見たいと想っている姿となって感じられる。おまえは、三 場所はさきほどと同じ部屋である。 人が一緒にこの小屋にいたように想っているが、実は、それそれが 部屋の中央には、やはり・ほくの死体の入った棺桶がある。 別の世界を見ていたのだ」 灯りは、点いてない 「おお」 こだ、ガラス窓越しに差し込む月明りらしい青い光が、静かに部 ・ま ). 、は , 少ま」イ、、つめい亠」。 屋に満ちていた。 おお。 ふすまが開いて、その部屋にひとりの女が入ってきた。 人目を忍んでやってきたものらしかった。 5 4

9. SFマガジン 1982年3月号

ートになっきだした。 曲がっており、暖かく、乾燥しており、清潔た。眠りにつかせ、めかけた。やがて子供たちは 一日中パートは子供たちと仲良く過ごし、育児マシンが配った幼 ざめさせる仕組みがどういうものなのかはわからないが、見たり感 児用の食事を相伴した。肉の味のするやわらかな食べものに、ちょ じたりする以上のものが背後にあるのは確かだ。どういうわけか、 っと固めのビスケットに似たもので、両方とも甘くすつばい味がす ( ートは眠っているあいだにガウンをぬがされ、素裸だった。 る。おとなが食べても十分にうまい味だ。去年はーー昨日はーーーあ たった一脚の小さな椅子に、新しいガウンが置いてある。あるい かんぼうたちは哺乳びんで飲んでいたが、今日は小さなカップで、 はあかん・ほうたちの大便や食べものの汚れを、きれいに洗濯した前 1 トはトイレに行き、手と顔を洗ってか水と色のついた飲みものを飲んでいる。 のガウンかもしれない。バ ートはまだ親になるという船のこと 船に質問はしなかったが、バ ら、そのガウンを着た。壁のパネルから、約東の朝食が出てきた。 。フラスチックのカツ。フに入った、あたたかいミルクつぼい飲みものばを考えていた。少し成長した子供たちと大きなテ】・フルを囲み、 ( ンのかたまりだ。。ハンはあたたく、カリっとしており、果物その上座にすわっている姿は想像できても、それ以上はなにも考え ートは自分に言い聞かせた。必要と つかない。気長にいよう、と・ハ とチ】ズを刻んだものが入っている。 ートの手は少しも大きくな なれば船が説明し、指示を与えてくれるだろう。 一標準年、と船は言った ったように見えないし、腕に筋肉がついたとも思えない。壁の鏡に絶え間なくつづいていた騒ぎがおさまってきた。ライトが暗くな 子供たちが日常的な夜の眠りのためにべッドに入る頃には、、・ハ うつる顔も変わっていないし、黄色がかった褐色の髪は相かわらずり、 ートはあくびを 1 トも眠くなっていた。船に言われるとすぐに、・ハ クルーカットの長さだ。下腹部の褐色の陰毛も薄いままだし、背も しながら自分の部屋にもどった。 伸びていない しかし、育児室に行くと、 ハートは一年が過ぎたと実感できた。 同じあかんぼうたちだとすれば、確かにあれから一年がたってい た。何人かは前と同じようにべッドにいるが、小さなベビー ートはごくふつうのやすらかな夜の眠りから目ざ にきゅうくっそうに寝ている。他の子供たちはそこいらを駆けまわ今度もまた、 り、大部分はかなり上手に体 2 ( ランスを保ち、夢中になって玩具めた、という感じしかせす、今度もまた成長もしていないし、年も とっていないとわかった。今度はショーツとプルオー で遊んでいる。子供たちは全員シャツを着て、紙おむつの上にショ が用意、してあった。 ーツかパンツをはいていた。 ハートは育児室に行った。育児室 ートがたんなるイメージではないのに気づ服を着て、朝食をすませると、 今度は子供たちはバ に入る前に、く き、何人かは最初、はっと驚き、育児マシンにびらたりとくつつい ノートは子供たちの声に一年間の変化が如実に現われ - 」 0 ヾ、 , ートはかまわずに歩きまわり、船に教えられたとおりに話しているのを知った。子供たちはおたがいに呼びかけあうのに、はっ

10. SFマガジン 1982年3月号

どうしてーー・ほくは、こんなところにきてしまったのだろう。 「お会いできて、うれしかったです、・」 考えこみ、深く、自分ひとりの物思いに沈みながら、いつのまに イヴ」 「私もよ 、刀 ・ほくは、自分にとってもっとも馴染深いものである場所への道 そして そのとき、彼女は、その謎めいた、わけのわからぬひとことを吐をとっていたとしか思えない。 ュ / 、刀 いたのだった。 どうしてここへーー南へつ・ 「ーーー私のあやまちは、まさしくそれだったのよ。ーーー私は、どこ 誰も来な レダとはじめて会った、コモン・エリア、南 からもとびおりることもしないで、《最終的》でありうる行為もあ 、さびしい、風の吹きめぐる場所。 ると錯覚していたのだわ。だからこそ、私はーーさよなら、イヴ。 ・ほくは、しかし、もういちど都心へもどろうときびすをかえすか 楽しかったわ」 わりに、誰にも見とがめられることもなく、南浦の草原の中へと 「さよなら、・ <t 」 歩み入っていった。 混乱したのは、ぼくの方だった。 ~ ちょうど、日暮れだった。あたりは、静かに暮色を濃くしてゆく . かき乱され、わけがわからず、当惑し、疲れた気持になりなが のようだ。 ら、 O ・ O センターをぼくは出た。しかし、さいごにぼくの思ってところで、空気はまるですきとおったゼリー いたのは、奇妙なことだった。 なんだかもう、ぼくは、からだじゅうがそのゼリーに浸されて、 *-a ・はアウラに似ている。外見も、すがたかたち、しゃべりか ・ほく自身のからだもそのまま透明になり、風に吹きさらされ、はて た、考え方、その地位も立場も、何もかも少しも共通点はない。そしなくすきとおって消えていってしまうのではないか、という気が れなのに、 Y-Ä・ << は、・ とこかしら、びつくりするくらい、アウラにする。 似かよったものをもっている。 みんなの大ぜいいるシティの中でも、ぼくはやはり、灰色の影の ・ほくは考えこみながらオートロードに乗った。もう、日がかげり中にいるように淋しかったけれども、誰もいない草原でも、やつば かけていた。 り、何だかひどくさびしい 暮れかかゑ逢魔が刻の哀しみが、ただでさえ沈みがちなぼくの 心を、いっそうくらい色あいに染めあげるのかもしれなかったがー ( ぼくは、一体、何ものなのだろう。ぼくは、どこから来たのだろ う。ぼくは、どうして、こんなところにいるのだろう。ぼくは ・ほくは、ほんとうに存在しているのだろうか。何もかもが、深い夢 ( つのまに、自分がオートロードをおりたのか、気がっ よ、つこ 0