ートナーでない人間と、ち という気がした。 という結論に達したら、それこそ毎日パ ぼくは、レダにむかってほほえみかけた。もう、レダにただひきがうあいてとセクシャリスト・タワーに行ったところで、少しもさ まわされて、その気まぐれにひきずられているだけではいない。ぼしつかえはないわけである。むしろ、そちらの方面の負担は好まし くが、レダを好きなのだ。だから、・ほくが、自分から、レダのいう くないと思う パートナーにとっては、それは自分の生活を乱され とおりにするのだ、レダに何でもしてやりたいから。 ない、たいへんありがたいことだ、ということになる。 アウラは、どうなのだろう ・ほくは云った。 もちろん、レダとアウラは、デイソーダーでもあるわけだし、他 「レダの好きなところへ行こう」 の、ふつうの・、 トナーたちと同じようだろうとは、ぼくにして も、考えてはいなかった。アウラと何回か話した経験からいって、 2 アウラの方は、少なくとも、つよい独占欲と嫉妬心とをもってい る。しかし、レダがそう望まない以上、それをむき出しに、レダに アウラの顔が、唐突に・ほくの目のまえにうかんできた。 ぶつけることはできない。 これは、アウラに対する背徳行為、レダとアウラ、アウラとぼく 少なくとも、レダだってれつきとしたアダルトなのだし、そうで のかかわりに関する、重大な逸脱、ということになるーーのだろうある以上、自分のしていることの意味はわきまえているはずだ。・ほ むろん、これは公けにタ・フーとされていることではない そんなふうに思うのは、おかしなことだ、ということは、わかっ にせよ、成人以前のものが、そういう体験をもっというのは、かな ている。なぜなら、パ トナーが、他の人間と仲よくするかどうか りはっきりと、やめるよう警告されていることだった。ビンク・ド いろんな意味でーーーというのは、あくまでもその人間どうしのラッグは、体のホルモンのランスを一時的にくずすので、ことに 納得づくで決められることで、その人間がごく独占欲がつよくて、 まだすべて体が完成していない未成年にとっては、きわめて悪い影 ートナーが他人とー・ーあるいはセクシャリストとでも、ビンク・ のだそうだ。 響が大きい タワーにゆくのなどとても耐えられない、と思うのなら、そういう しかし、何ごとにつけ、やめろといわれると意地でもやりたがる 考え方に同意するものを。ハ トナーにえらべばよい。あいての人格タイ。フの人間がいるもので、たとえばミラなども、前、こっそりと をかえたり、左右する、ということが、人間にはできないのであるそれらしい体験をしてみたとぼくにほのめかして得意がっていた。 以上、ぼくたちは、自分と考え方のあった人間をさがしてよりあっ ミラは、ことごとく、何かに身体を打ちあてて、その抵抗感によっ まることしかできない。 てはじめて自分をたしかめることのできる、というタ - イ・フの。ハソ しかし、だから一方また、互いにそういうことが気にならない、 ナリテイだったのだと・ほくは思う。 8
っこうで左右にひらいたり、ひねったりしたあげく、彼女は、わざもしれない レダは、レダなりに、うしろめたかったのだ。 とらしく・ほくをよこ目で見て、足をそろえ、床にはねおりた。」 外宇宙人の・フライを相手にするのとは、あきらかに違い、それ 「あんたって、ほんとに退屈な子どものちびよ」 は、はっきりとした、逸脱行為だった , ーー第一に、ぼくが未成年で 彼女はさげすむように云い、ぼくの顔が、屈辱であおざめるのを あったし、第二に、ぼくたちは、。ヒンク・タワーにちゃんと行為の じっくりと見守った。 登録を出してもいなかった。 それから、肩をゆすって、彼女はつけ加えた。 いつにもまして、レダの感情が不安定で、おちつかなくみえたの 「でも、はじめてにしては、そんなに、筋はわるくないわーーそれ は、たぶん、そのゆえだったのだ。 は、ほめてあげるわ。そりや、プライのようにとはゆかないけどー ぼくは何も知らなかった。少し考えればわかることだった。レダ ーでも、たいていのセクシャリストより、ましだと思うわ。それ に、正直にいいなさいよーーあんたも、好きでしよう、こんなこはいつも、ひどく気まぐれでありながらひどくやさしく、何かを傷 つけてしまうことを、病的なまでにおそれていた。 と、するの ! 」 ぼくと行為を共にすることで、アウラが深くーーー・・フライのときと ・ほくは、少し考えーー・それから、そのことを認めた 1 と、誰よ すると、レダは、すっかり勝ちほこってぼくの耳をひつばり、あさえ、くらべものにならぬほど。ーー傷つくにちがいない、 たしには、ひと目みたさいしょのとぎから、そんなことはようくわりも知っていたのはレダにほかならなかっただろう。 だが、レダは、自分で自分を制御することができなかった。 かっていた、というのだった。 「あたしは、ひとを、いつもそれで見わけるのよーーーしかつめらし近々とみるレダの顔は、つややかにはりつめた若い肌をすでに失 いかけ、目尻には小さないくつものしわがあった。彼女がぼくより し頭つきをして、ほんとうは好きで、したくてたまらないくせに、 も、きっかり十六、年上だということを、はじめてぼくは実感した。 そうじゃないなんてふりをしているやっ、あたし、大つきらい しかし、そんなことは何でもなかった。レダは「精神的には小娘 あんたは、正直で、話せるわ。あたしの友達の中に入れてあげても だったし、行動は幼女のそれだった。そして、彼女に小皺が少しば しいわーー友達って、もちろん、これをする、よ ? 」 かり、あろうとなかろうと、・ほくにとって、彼女がこよなく美し レダは、ほとんど、はしゃいでいるようにみえた。 いまさく、かわいらしく、見えるということには、何のちがいもなかった。 ペッドの上を、いまにも、はねまわりかねなかった いまや、・ほくは、に ら、レダの気まぐれにおどろかされもしなかったが、さすがに、少じっさい、何とふしぎなことだったろう しもてあまして、ばくは彼女を見守った。ぼくには、わからなか 0 わかに年をとり、大きく、たくましくなり、そして小さな駄々「子 た・ー・・あとで思えば、それは、そんなふうにしか、心の中を云いあのレダを、両手の中に守「ている、という、そんな気がする、とい うのは。 らわすことを知らないレダの、せいいつばいの、訴えであったのか め 6
ート・・フォワードと ーししことだと思う。 知らないが、ロ・、 だが、主要なことではない。 矢野最近のマガジン』の投書で、 いう作家の『電の卵』しきミ冫 g 内 ( 小 ラードのには科学が含まれていない。 社より二月刊行予定 ) という長篇がある。 に科学の・ハックポーンが必要か否か、 チッ。フ・ディレイニーもおおむねそうだ という論議が再燃しているんですが、それかれは物理学者で、その小説は中性子星の が、彼自身はそう思っていない時もあるん についてどうお考えですか ? 地表に住む生物の話た。とても科学的で、 ート・コア だ。わたしがパンタムでの編集をして ポール それはどういう種類のを論議とても良い小説だ。これはハ いた時、かれが長篇を書いてくれたことが と呼ばれるもので、おもしろいよ。表面 の対象にしているかで違うね。レイ・・フラ トある。わたしはそれを買い、出版された。 ッドベリの作ロ明のように、ト 和学とまったく 温度が百万度もあって、マッチ棒が一千 つながりを持たない小説もある。レイ・・フ ンの重さになるような高重力の世界に住むしばらくして、一緒に飛行機を待っていた ことがあった。わたしは自分が読んだ科学 ラッドベリは科学が好きでもないんた。車生物を想像してごらんよ。これはハ サイエンスであり、とてもおもしろいもの上の話題について話していて、かれがその の運転さえせすに、自転車を乗りまわして ことを聞いたことがあるかと訊ねてみた。 だ。わたしの書いた小説のいくつかは、 いる。飛行機にも乗らないよ。科学やテク ノロジ 1 を軽蔑していて、かれの書く小説典型的なのは 30 、ミミミするとかれは、「わたしの小説は、そのこ 。ュ zo 、 ~ だけど、多くの科学が応用されてとについて書いているんじゃないか ! 」と はすべて、科学についてのものではなく、 いる。わたしが科学に興味を持っているの答えた。わたしがその小説を読んだ時に、 科学を敵視したものだ。かって誰かがブラ が、その原因となっている。にとってそのことは気付きもしなかったね。 ッドベリに、自分の小説に書かれたことが 矢野あなたがおっしやるのは、つまり : ・ 実現すると思っているのか、と説ねた。彼 の答は、「わたしは未来を予言しようとし ポールにはあらゆる型式と大きさが ているのではない。未来を阻止しようとし ある、ということさ。科学について書いて ているのだ」というものだった。 なくてもいいし、未来について書かれてい ある意味で、その通りなんだ。かれは人 のあっかう唯一の事項 る必要もない。 人に警告を発している。かれは実現すると があるとすれば、それは変化だよ。科学的 期待しているもののことを書いているので 変化だろうが社会的変化だろうが、人々の はない。まぎれもなく、これは科学の態度 行動の変化だろうが、この星から他の惑星 ではない。 への環境の変化だろうがかまわない。だ だが、多くの異なった種類のも存在 5 が、科学をあっかっている必要はないん 8 する。科学的事実や理論に基づいたすばら しい作品もある。日本で手に入るかどうか ヾ ( 」 0
レダは、くしやくしゃの、短い髪に手をつつこんで、苛立ったよ「たしかに、何でもないけど、でもーーー」 うすで、乱暴にかきまわした。 「それに、第一、もうゾライは行ってしまったわ。いま、月にいる 「アウラは、好きよ」 のよーー・もうじき、月基地からとびたって、もっとずうっととお すごくとおいところへ行ってしまい、もうかえって来ないわ。 単純に彼女は云った。ぼく胸は、あやしくさわいだ。これは、 もう、目のまえにいない人間の話をしてれば何かだというの ? 行 嫉妬だろうかーーーおお、レダ。 っちまった人間と、寝るわけにいかないじゃないの。あら , ーーあん 「でも、いっぺん、スペースマンと寝てごらんなさいよ ! 何もか も、めちゃくちゃになっちまうわ。もみくちゃにされてーー投げ上たって、ほんとに退屈ね ! あんたは、あたしをほしいとは、思わ いつないの ? みんなが、あたしを欲しがったものよーー夢中でね。そ げたり、さかさまになったり、ぐるぐるふりまわされたり ペんで、もう、ダメ、ダメになっちまうわ。そのあとじゃーーーもして、プライがあたしを手に入れたのよ。すごいスリルだと、思わ 、つアウラによ、・ ないこと ? 」 とうすることもできないの」 「ぼくはーー」 当惑して、ぼくは云った。 「だって、あたしはーー突きとおされたいんだもの ! やさしくさ ヴァーイ 「ほくはわからないよ。未成年だもの。第一、誰かをほしがったり れたり、なでられたり、抱きしめられたりしたいんじゃない。あた ほしがってどうするのか、どうすればいいのか、ということだ しは、こわれそうになるまで、足をつかんで、ひきずりまわしてほ って、・ほくが、知っているわけはないじゃない」 しいのよ。プライはすごいわ。まるでーーーそうよ、まるであたし、 からだの中に一本、芯棒をとおしたみたいにしゃんとするの。それ「だから、これからそれを教えてあげると云ってるじゃないの」 レダは凶暴な顔つきで云った。 がすべてじゃないーー最高よ ! 」 「してみれば、あんたは、未経験じゃなくなるのだし、おじけてれ 「アウラは、悲しんでいたよ」 ヴァーゴ 十ールマン ば、いつまでだって、子供のままよ。あんた、おじいになって、清 そのことばは、思わず、ばくの口からすべり出た。 浄主義者で、一生をおくりたいとでもいうの ? 」 「アウラは、レダが・フライとっきあうのを、気にかけていたよ」 「そんな話をしてるんじゃないじゃない 「そんなこと、ききたくないわ」 「さあ」 レダの顔がさっと紅潮したので、・ほくは彼女が怒ったのだとわか レダは、もう、・ほくにとりあおうともしなかった。 、ペッド・サイド・テー・フル 「そんなこと、もう、二度といわないでちょうだい、 ばか ! 第ュニットの、つくりつけのペッド 一、どうして、そんなことを気にするのーーーあたしは、アウラの何のひき出しから、何かをとり出し、注意ぶかくすかしてみたり、 なの ? 」 っそうよくみるために、灯のま下へ歩いていって、びんをかざして 3
どうして、・ほくは、さっき、自分をこのシティにつなぎとめるもな洒落くさいものでありはしなかった。 のは、何もない、などということができたのか、そう・ほくはいぶか まるで、大のあいだに一匹だけいる猫、木々のあいだに一本だけ った。何もないどころか。どうして、ぼくは、レダのことを、アウさいた花草のように、レダはちがっている。 ラのことを、ファンのことを、頭の中からしめ出して、ばくがたっ だからこそレダはこんなにも不幸そうで、とっぴで、不安定なの だが、そんなことを、それ以上、しかつめらしく考えている たひとりで、友達も、気にかけてくれるものもなく、影ばかりの荒だ いとまはなかった。 野に立っている、などと思うことができたのか ? 「イーヴ ! 」 場所も同じコモン・エリア南祐で、偶然ゆきあってから、その レダは、足をふみ鳴らし、身をもんで、泣き叫んだ。 ときから、レダにひかれ、何ゆえかさえ知らぬままに、ひかれてや 「イヴョ・あああ ! 」 まなかったではないか ・ほくは、イヴは。 「レダ ! ど、どうしたの ! 」 あれは、一体、では何だったのたとぼくは云うつもりだったの びつくりして、・ほくは叫び、レダの細い両腕をつかんだ。レダは か ? ひかれ、ひかれ、反発しては再びひきつけられ、前よりもも っとつよくひきつけられてゆく、この思いは ? 加々しく身をもみ、・ほくにさからった。 もう・ほくには、レダが他の人々と同じだなどと、自分をいつわ「レダ ! 」 「どうしてなの ! 」 ることはできなかった。まさしく、レダは特別だった。特別なの レダの目 だ。他の誰とも、あまりにも似ておらぬレダ、ユニーク、というこ とばさえもむなしいくらいにーー・そして、不幸なレダ、ミラのよう 白く、狂った色にもえている。 に、給水塔からとびおりることなど、決してせぬであろうレダー 「どうして ! どうして、抱いてくれないの ! あたしを嫌いな ぼくは、 (-) ・がレダに言及したときの、あのふしぎな訂正を君 . いの ? 嫌いなの ? なんでそんなとこにつっ立って、ばかみたいに 出し、レダは特異なケースだ、という (-) ・の云い分に、まったあたしをじろじろ見てるの ? 云いなさいったら、云え ! あたし 一から十まで、賛成だと思った。 を嫌いなの ? 好きなの ? 嫌いなの ? 」 レダは、特別なのだ。どうしてかわからないが、他の、どんな市「そんなーー・・」 民とも、何かまるで、次元がちがっているのだ。»-a ・は個性をー ぼくは喘いだ。にわかに、恐怖に似たものがっきあげてきた。い ー本当の意味での個性をもっている、とぼくは思ったものだったきなり肩に、熱い激しい感覚が走った。レダの爪が、・ほくの肩にぎ が、それとても、要するに、あくまでも他の人々のあいだにあっ りぎりとくいこんだのだ。 て、という前おきのつくものだった。だが、レダは レダのもつ「好きだよ」 ているのは、「個性」だの、ユニーク、クイア、オリジナル、そん ぼくは叫んた。恐布、痛み、わけのわからない、追いつめられた 5
でも見る。アクションもメロドラマも。メ ロドラマの時は、ほんとに立いちゃってる ・「一。し、狂いのね」 当然ものの夢も : ・ 「見るんだけど、わたしが見ると、だんた ん莫迦莫迦しくなっちゃって。一回ね、 昔、″ジャイアント・ロポ″てであっ たでしよ。昼間友達とその話をしていた 、、。ら、夢に見たわけ。では、主人公が巨 大口ポットを呼ぶ腕時計を取られたりして 騒動を起し・ていたでしよ。なんで話が始ま る前にロポットを呼んでおかないんだろ う、と思ってを見てたんです。だか ら、夢では、事件が起るよりもなにより先 に呼んじゃったんですよね。事件が起るの をロポットと二人で待ってんのね。 ( 笑 ) 一日三本立てわたしだったら、終始一貫してロポットと 「もうよく見ます。だいたい 「三つ違いです。二人姉妹。名前が直子。 くらい見ちゃうから。わりかし起こされる行動を共にする、と思「てたから」 だからそのおかげで、二人そろわないと さて、わりと早くから、お話を書いて んです。変な時間に寝るせいもあるんだけ ″素直になれない ( 笑 ) 」 いたでしよう。普通、書いて他人に見せる ど。でも一度起きても、ほんとにすぐ眠ら 眠るのは好き ? 「好きです ! ひじよーに好きです。できれるの。一旦起きるから、夢が途切れます人と恥しがる人がいるけれど = 「比較的見せたがる人です。もともと、ほ でしよう。だから一日三本くらい平均見ち れば、ずっと眠っていたい」 ゃうんです。わりと面白いやつです。なんら、面白い話を書きたいと思「て書くわけ 夢はよく見るんですか ? SF NEW GENERATION 9
矢野 シリル・コーンプルースとの共同作たからね。ただ、わたしは思うんだが、シ 8 業があんなにも長続きした理由はなんです リルと二人して書きあげた作品には、わた かれたって作家としての欠点も持ってい 7 、刀っ・・ したち二人の長所が混在していたし、二人る。かれは自分の小説の登場人物があまり ポール そう、シリル・コーイフルースとの欠点もいくらか残っていただろうね。 好きしゃあないんだ。シリルがひとりで書 わたしとで力を合わせると、どちらか一人矢野二人の長所というのは、どんなとこ いた小説を調べてみれば、ほとんどすべて だけでできる以上の、すくなくともあの当ろですかっ・ の作品で、主要登場人物は一人残らず怖ろ 時にできる以上の、優れた作品を造りあげポール シリルはね、世の中をユーモアをしい死に方をするのがわかるよ。シリルは ることができたんだ。だが、シリル自身に ましえた視点で見るんだよ。すべてを諷刺 かれらを罰し、皆殺しにするんた。登場人 ついては、そうも言い切れないな。あの当と反抗の見地からながめ、小説の中でそい 物を好きになるのは、かれよりわたしのほ 時でも、かれはすばらしい短篇を書いてい つを迫真的に感しさせることができるんうが優れている。わたしのほうが作中人物 への思い入れは深い、つもりだね。 矢野あなたがた二人は似た性格だと思う んですが : ポール多くの点でとてもよく似ている。 ただし、シリルのほうが、わたしより意地 が亜いよ。 矢野あなたのほうが知的で、穏やかで、 上品で ( 笑 ) 。 ポールわたしは穏やかで、優しく、親切 だよ。当然のことさ。誰でも知っている 矢野 ・ほくはあなたのエドスン・マッキ ・フレデリック・ポールとレスター・デ ャン名義 ( ル・レイとの合作ペンネームのひとっ "Preferred Risk" が好きなんですけど、 デル・レイと共作してた時に、かれを殺し たくなったそうですね。 ポールそう考えたよ、本気でね。レスタ 1 ・デル・レイは昔からの友達だし、とて や - 」 0
のロをあけ、くつろぎはじめた。さざ波が彼を揺すり、向きをかえそれに、すくなくともシリルは、入江の対岸にあるべン・レポス・ このま 2 る。そよ風が島の弱い潮汐と竸争して、彼を毎分ほ・ほ三メートルのホテルの窓をのそくのに、あの望遠鏡を悪用してはいない。 速度で、気まぐれに浜から遠ざけていく。どういうことはない。まえシリルがそれをやったときにギアがひっかかってしまい、それか だそこは入江の中だし、外海への出口には、小島とも低い砂州ともらというもの、地平線に近いところへは方向移動がきかなくなった いえるものが、ビーズのように連なっている。もしかりになにかののだ。つかのま、掃除女の中でもいちばん古株で利ロなイドリス 気象学的奇跡で、あの明るく照らされた空から嵐がまきおこったとが、ポーイフレンドといっしょに反射鏡を磨いているイメージがう しても、その風は彼をもう一度浜へ吹きもどすか、それとも小島のかんだのを、シャファリーはうるさそうに頭の中から払いのけ、ビ 1 ルを一口飲み、関連性理論のことや、成功一歩手前までいった周 どれかに吹きよせるだけの話だ。しかも、もちろん嵐の起こる気づ 力いはない。彼としては、好きなときに手足で水をかいて、もどっ転円のことをノスタルジックに思いかえしたあと、建設的な思考の てくればいいので、これはいつも入浴のときにそうする癖になってために心を解放した。 いる、石箱を浴槽の中へうかべて動きまわらせる芸当とおなじぐ 日はすっかり沈み、ほぼベネズエラの方角の空にほんのり紫色の らいにやさしい。そういえば、彼はすくなくとも日に一度は入浴す明るみが残っているだけだった。ほとんど真上には、″オリオンの るのだが、妻がとりわけご機嫌ななめなときは、六度も入浴するこ腰帯″の明るい三つ星が、鉄道のシグナルのようにゆるやかに回転 とがある。・ハスルームが唯一の避難所なのだ。妻もそこまでは決しし、ヘッドライトのように眩ゆいシリウスと。フロキオンが、そのま て彼を追いかけてこない。あまりにも上品に育ったために、彼がなわりで軌道を描いている。目が闇になれてくるにつれて、″オリオ にか下品なことをしている現場をうつかり目撃する危険をおかしたンの剣″の星・ほしも、そして巨大なガス星雲であるかすかな光斑さ くないらしい えもが見分けられるようになった。もう岸からはかなり離れている 彼よオリオン座を囲む大きな四角形を作った 低い丘の上に、天文台のドームの錆びた銅屋根が見える。そこかので、音は届かない。 , 。 ら三日月形の明りがもれているところからすると、助手がドームを一等星にむかって、そっと呼びかけた。「やあ、元気かね、べテル 開いたのだろうが、その明りのぐあいから見ても、天文観測の目的ギウス。こんばんは、ペラトリックス。なにかニュ】スはないか リゲル ? また会えてうれしいよ、サイフ」赤いアルデ・ハラン で使っていないのははっきりしていた。その謎を解くのはやさし シリルは総会に備えて、ちり一つないようにしようと、掃除女を越えて、。フレャデスの密集した星・ほしまでちらと目をやってか のために明りをつけたのだし、ドームを開いたのは、望遠鏡が使わら、またオリオンに視線をもどし、こんどは芝居がかった声で″腰 れていることを証明するためだ。シャファリーは空になった罐を帯″の三つ星に呼びかけた。 ーい、アルニタク ! よう、アルニラム ! どうしてる、ミン - 字形に折り曲げると、自分の体のわきに挾みこみ、つぎの罐をあけ「お へつにどこも痛まない。 タカ ? 」 た。まだ平和な気分にはなれなかったが、・
原稿用紙にお話を書いたのはいっ頃か でしよ。と、誰かが読んで面白がってくれぜん書いていないんだけれど。内容は童話 ないと、書いた意味がないじゃない」 なんですよね。チューリップさんのお話と いつも読者が自分のまわりにいナ かね。チューリップさんは冬になると球根「小学校の四年頃です。内容は童話。しつ 「最初からいましたね。あ、そうじゃな になって冬眠しますって、ほんとに信じてこく童話。今度はクジラの話。原稿用紙に 一番初めの頃はいなかったんだ。あ 四、五枚書くと大作だったんです。それか いたのね」 の、幼稚園くらいの時、お話作って母親が 短い童話ぽいものを、お人形さんにおら推理小説になって。これは完成したの、 ロ述筆記してくれていたの。その頃、字が ないんです。三年くらいまでは、″世界名 話する女の子みたいにしていたの ? 書けなかったんです。それから小学校低学 作なんとか全集″をダアーツと読みまし 「小学校の低学年の頃は、阿呆なお人形さ 年の時は、字をいつばい書くのが苦痛だっ お人形さんをて、その後、『ナルニア国物語』『ド丿ト ん遊びをよくやって ル先生』と、その系統の話がすごく好きだ たのね、物理的に。だからその頃は、ぜんね、友達から貸りたりして、いつばい集め 」ー。 ~ ーてくるわけ。誰がどれって役をつたんですよね。四年から″ホームズ。読 決めてね。で、例えばリカちゃんで、″ルバン″読んで、でワーツてん ん人形だと、リカちゃんたちがで、クイーン読んで、クリスティ読んで、 点気球に乗って南の孤島に流されこれは面白いていうんで、そういうやつが ・てしまった、と。で、それからど書きたかったわけ、一時期。だけど、頭が ついてユカんかったんですよ。 ( 笑 ) すご 。、・物う生活するか、ていうオママゴ く不思議な状況で人が殺されて、でも本人 トとか。我が家の庭が無人島で もトリックが判らないという : : : ( 笑 ) 書 、 ~ 、 1 あゑという設定で始めるのが 第ー一一番好きだ 0 たんですよね。男くとしたら、もう本格物しかないという の子は猟をするところから、女か、エラリイ・クイーンがとっても好きだ の子は家の建築から始めなけれったんで、推理小説というのは、終りのち ばいけないと : : : そういうのが よっと前に″読者への挑戦状″が入ってい なければいけない、という信念があるんで とにかく面白かったんだもん」 SF NEW GENERATION - ら。 0
ックはわたしに、、 も仲が良い、世界じゅうで最も親しい友人ポール しくつかの長篇の草稿と あれがまったくの徒労ではなかっ ではないかな。だけど、何度か、心から殺たと知ってうれしいよ。レスタ】の書いた出だしの部分を送りつけてきた。わたしは してやりたいと思ったことがあるよ。 小説のいくつかは、わたしのお気に人りのどうすればうまくいくか思いついたので、 かれに代って結末を仕上げることになっ ものだ。かれの書き方は好きだよ。だが、 矢野一体どうして ! 『深海の恐 ポールレスターには、かれなりの小説作金輪際かれと共作しようとは思わない。 た。そいつが U トこミ Qt 、 ( 竜」と「海 底の地震都市」 そうなったら、かれを殺しますか。 法がある。かれの書き方は、あらかじめ筋矢野 ) のシリーズさ。そんなやり方 の二点邦訳あり を造っておくんだ。第一ページを書きだすポール どちらかは死ぬだろう。共作に関で合作したんだ。かれは三点の別々の長篇 前に、物語の中でなにがおこるか、すべてしては、かれだってわたしより幸せだったを書きはじめ、どれも仕上げられなくなっ を頭に入れておくわけさ。いざ小説を書き はずはないからね。 た。それで、わたしが仕上げたわけさ。 はじめる段になると、タイ。フライターの前 そうして何年かしてから、ジャックはま 矢野ほくは三十年くらい前の無銭旅行の に坐って第一ページを打ち、それを破り捨ときかれに会って、二十ドルの小切手をカ た別の長篇を書きはじめた。ミ・ c ミ三 て、また第一ページを打っては破り捨て、 ンパしてもらったことがあるから、かれが部作の第一部となった T ~ Reef ofS. 、。 ce だ。これも同じように、ンヤックが放棄し うまく第一ペ。ージを最終行まで打ちおえた好きですよ ( 笑 ) 。 ら、もうその小説を完成させられるんだポールかれは優しい男だよ。深くつきあた。仕上げられなかったのさ。そこで、か よ。 っているし ( 彼のことは大好きさ。ただ、 れはわたしに渡して、これをやってみな いかと説いた。 U こミシリーズ三冊と わたしはそんなやり方はしない。わたし彼とは結婚したくないね。かれと一緒に小 S 、 ~ ミシリーズの三冊を共作したの は、書き進めながら、物語でなにがおこる説を書く気はしない。 のか発見していくのが楽しいんだ。ストー 矢野コーンプルースとの共作のあとで、 は、こういう次第さ。その後、わたしたち リイの進行につれて筋を考えていくんだ。 あなたは長いこと編集の仕事をして、それは一と四分の三冊を書いた。一冊というの だから、レスターとわたしとは、ア。フロ は、もう出版されている F ミ・鬻、 Star と から、ジャック・ウィリアムスンと三種類の ジュヴナイルの Undersea シリーズ、 Starchild ーチの方法がまるつきり違う。あの小説 いう長篇だよ。残りはその続篇でまき / ; シリーズ、 Farthest Star シリーズの三種類 メき the Star とタイトルをつけてあ "Preferred Risk" を仕上げるのに、一年を共作しはじめたわけですね ? 近い苦しい作業が必要だった。良い小説なポールかれのエ 1 ジェントをしていた時る。これはもう完成するところで、わたし のか悪い出来なのか、わたしにはわからな に、ジャックとの共作をはじめたんだ。かの鞄の中に結末が入っているんだ。いま手 い。ただ、わかっているのは、わたしは一一れはいくつかの長篇を書きだして、まるつを入れている最中で、帰国したらタイプし 度とあの小説を読まないということだ。 きりどうしたらいいかわからなくなってい て仕上げる。 矢野ぼくには、とてもおもしろい小説で た。結末が書けないんだ。どう終らせてい これも三部作にするつもりだったんだ四 したよ。 が、一冊目から二冊目まで八年もかかって いか見当がっかないんだよ。それで、ジャ