フッカー - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1982年4月号
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1. SFマガジン 1982年4月号

ない立場に立ったとしても、零は無表情に受けとり、なんとも思わが少佐は天田少尉の力になってやろうと決心した。特殊戦の実力を ないたろう。プーメラン戦士の彼に対する態度が変化しようが 試してみたい気持もあった。また、雪風が帰投するまでの、あのな 5 そんなことは考えられない、みんな一匹狼なのだ、他人に干渉したんともいえぬ不安をまぎらわせようという気持もないではなかっ りはしないーー・零は平然としているだろう。彼には愛機雪風がすべナ こ。しかしなによりも少佐は、天田少尉の涙が忘れられなかったの てなんだ。勲章など文鎮かコースターがわりに、彼の部屋に転がさナョ「 ・こ。ド人的集団で生きている・フッカー少佐は、少尉の悲痛な訴え れるにちがいないのだ。 を無視することは自分もまた人間ではなくなってしまうようで、恐 しかし天田少尉はそうではなかった。・フッカー少佐は、天田少尉しかった。 - の目尻から流れた涙を思い出した。ノ。 彼よ傷つきやすい魂のもち主 フェアリイ空軍参謀本部は地下基地の奥深く、最深レベルにあ だ。・フーメラン戦士に欠けている豊かな人間性をそなえた、人間らる。ブッカー少佐は高速エレベータで下り、参謀司令区で降りた。 しい人間た。あれが普通なんだ。人間は一人では生きられない。仲警備は厳重だった。耐爆耐汚染のための各・フロック毎にカード を提示しなくてはならない。 間たちから疎外されたら生きてはゆけない。 零とはちがう。非人間的な零とは。しかし少佐は無意識のうちに結局、・フッカー少佐は参謀司令室には行けなかった。その周辺 の、直接戦略戦術任務にはかかわっていない、参謀広報オフィスに 零を弁護している。零の気持はわからないでもない、この自分もか ってパイロットだったころはそうだった。プーメラン戦士への至上入ることを許可されたのが、少佐のカードの限界だった。無理 もない、と少佐は思った。ふらりと来て、ここまで入り込めれば上 命令、「たとえ味方が目の前で次次と撃墜されていったとしても、 援護してはならない。自機を守り、収集した情報を守り、どんなこ出来というものだ。天田少尉ではここへ来る = レベータに乗ること とがあっても帰投せよ」孤独で苛酷な任務だ。自分を守ってくれるさえできまい。 のは自身の勘と高性能な愛機への信頼、それだけだ。しかし、それオフィスは騒がしかった。商社のようだな、と少佐は思った。戦 でも、だからといって、人間性を放棄していいものだろうか。天田争をやっている雰囲気じゃない。地球への戦果の報告コビーを作る 者、フェアリイに来る取材屋の応対スケジュールを調整する者、コ 少尉は必死になって、人間でいたいんだ、と叫んでいるようだ。 ・フッカー少佐はコーヒーを飲み十し、まだ感覚がもどらない凍えンビュータ・コンソールに向かっている者、映話、インターコム、 書類の山をさばいている者、者。 た足で、部屋を出た。 零、おまえには雪風がある。しかし天田少尉にはなにもないん「勲章についてきたいのだが」 ・フッカー少佐は手近かな男子職員ーー隊員というかんじではなか だ。酒を飲むくらいしかない。なんとかしてやらなくては、少尉は った、上着なしのカッタ】シャツ姿なのだ に一一一一口う。田刀はコ。ヒー 勲章に殺されてしまう。 お節介たということも、勤務中たということも承知していた。だ用紙から目を上げて、あなたは、と少佐を見た。

2. SFマガジン 1982年4月号

めだ。機体下部が接触、雪風はバラ・ハラになるだろう。 少尉だということを知った。そして、近接防衛システムが、防衛コ 一深井零中尉は目は閉じなかった。激突直前、グレーダの運転のンビ、ータの判断で自動作動したということも。 男と目が合 0 たような気がした。そのグレーダの上部構造物が、消そしてまた、除雪は無人化する必要があるという、事故調査結果 え失せる。零はたしかに見た。運転席が真「赤になったのを。そしに戦慄した。叙勲 = ンビ、ータが印字した、同じ言葉だ 0 た。 て次の瞬間、なくなっているのを。奇妙な、ながめだ「た。まるで天田少尉は勲章をもらったせいで、い 0 そう情緒不安になった。 黒板の絵をふきとるように、グレーダの上半分が消える。とたん、 コンビ、 1 タはそれを予想し、事故を起こさせるべく彼に勲章を与 雪風のレドームがその消えた空間に突き刺さり、一瞬後、雪風はなえたのかもしれない。その結果、除雪作業は完全無人化とまではい んの衝撃もなくグレーダを飛び越えて、接地している。 かなくとも、除雪車には機械の判断で操車できるように人工知能が 雪風が停止する。零は視界の、 もいコク。ヒットの後ろを見やる。 組み込まれることになるだろう。 グレーダは黒煙をあげていた。なにがおこったんだ。まあ、 事故処理が一段落したあと・フッカー少佐はもう一度叙勲コンピ さ。零はキヤノビ・ナイフを取り外し、キヤノ。ヒに切れ目を入れ、 ータと交信し、天田少尉の授章理由を問いただした。 脱出行動にうつった。 コンビュータはこたえた。 〈極秘〉そしてこうつづけた、〈今回の彼の英雄的行動に対して、 ブッカー少佐は見た。雪風が猛然と除雪車に襲いかかるのを。少あらたに除雪功労勲章を授けることを勧告するものである〉 佐は雪上を駆ける。 コンビ = ータはこう一一 = ロっているようだった。 突如、冷気をつんざく爆発音が響き渡った。激突したか 「性能のわるい人間は必要ない。この戦闘はジャムとわれわれの戦 いなのだ」 や、そうではなかった。少佐は雪風がグレーダを飛び越えゑ直前 を見た。空港の近接防衛システムだ。空港を守る、対空ファランク ・フッカー少佐は叙勲コンビ、ータが吐き出した印字用紙を細かく ス砲が作動したんだー、・・グレーダの上部が一瞬のうちに吹き飛び、裂き、投げた。雪のように舞う。 あとかたもない。ほんの数分の一秒間で、千発近い一斉射撃を受け「呪うべきは「ンビータのようだ、天田少尉」少佐はつぶやく。 「このことを知ったら、きみはどうした ? 」 ブッカー少佐は立ちつくす。あのグレーダに乗っていた男は : そのいには・フッカー少佐自身にもこたえることができなかっ なにが自分の身に生じたか、わからないまま即死したことたろう。 た。フェアリイ、冬。春はまだ遠い。 事故のあと、・フッカー少佐はそのグレーダに乗っていた男が天田

3. SFマガジン 1982年4月号

った顔つき、金髪の男だった。ひとなつつこそうに少佐に握手し、 「戦術空軍、特殊戦、ブッカ 1 少佐」 男は少佐の差し出したは見なかった。首を横に振り、「勲章どうも、と言った。 「あなたが叙勲委員ですか、そのメン・ハ についての質問は受けつけません」 「いえちがいます」 「な・せだ」 オフィスを出ながらマクガイア大尉は否定した。警備員に、にこ 「管轄外ですから」 やかな笑顔をふりまき、司令本部へ歩く 「どこへ行けばわかる。天田少尉のことなんだが、 「わたしではありません。案内いたしますよ」 「なら、なおのこと、無駄で 「ああ、あれね」男は肩をすくめた。 参謀司令本部に入る。巨大な部屋た。マルチ・スクリーンが周囲 すよ。だれも知っちゃいないんたから」 「おれは知ってるぜ」少佐は親しそうな笑顔を向ける。この男はロに光っていて、部屋は内部で立体三層に分かれ、まるで大劇場の雰 が軽い。少佐は男に耳うちするように顔を近づける。「あれは、特囲気だった。 「ここがフェアリイの中枢です。こちらへどうそ」 殊戦の手違いなんだ」 「へえ ? 」男は案の定、のってきた。「・ほくが聞いたところによる大尉は少佐を案内し、コンソールの間を歩いた。「ンソールにつ いている男女隊員は制服をつけ、頭にはヘッドセット。 と、回線の故障だとか。授章資格者というのは空軍全員のデータ・ ファイルをコンピ、ータで検索してはじき出すんですがね、天田少大尉はその一画、ガラス張りの小・フースに・フッカー少佐を案内し 尉の名がどうやら間違って入ったそうなんですよ。でも、大規模なた。ガラスのドアが閉じると静かになる。 調査にもかかわらず、ミスは発見されなか 0 たのですが : : : 特殊戦「ここにいるのが叙勲委員です、少佐」 少佐はガラス張りの小部屋を見る。だれもいない。 のミスなんですか」 ・コンソールがあるたけだを 「かもしれないと思うんた。叙勲委員に会わせてもらえるかい」 「そういうことなら」男はインターコムをとった。「あ、参謀司令「まさかーーー」 「そうです、少佐。叙勲は参謀司令部・叙勲コン。ヒータが処理す 部ですか」男は。フッカー少佐の言ったことを手短かに説明した。 「いいそうです。マクガイア大尉が来るそうですから、しばらくおるんです。各軍団からの推薦とかがあると、こいつが叙勲条件を満 たしているかどうか調べるというわけです。手作業でやっていては 待ち下さい」 ・フッカー少佐は時計を見る。零、生きて帰ってこいよ。おれはこ時間がないものですから」 「こいつがはしき出したあと、どうなるんだ」 こにいるが、いつでも祈っているんだから。少佐は自分のやってい 5 「参謀司令が署名し、それで叙勲が決定されます。いままでなんの ることに不安をおぼえたが、表情には出さなかった。 5 マクガイア大尉は背の低い、しかしギリシアの彫刻を思わせる整トラ・フルもなかったので、署名はいわば形式的なものですね。司令 コン・ヒュータ

4. SFマガジン 1982年4月号

少佐は息をつめて、印字されるのを待った。 コンビュータ相手に遊んでいたら、こんなことになってしまったじ コンビータはそんな少佐の緊張などせせら笑うように印字しゃないか。零、いま行くからな。 た。〈必要である〉 特殊戦司令室は、参謀本部ほどの広さはなかったが、電子機器の 〈必要だから、天田少尉に勲章をやったんたな〉 密度は高い。少佐が入ると、司令室の正面壁の、縦十メートル、横 人間を喜ばせて、人間がおとなしくコンビュ 1 タに従うように、 十八メートルにおよぶメイン・ディス。フレイに戦況データが表示さ こいつらは褒美を出すようなつもりで人間たちに勲章を出しているれ・中央に赤い、〈緊急事態発生〉の文字が点減していた。 のではないか ? 少佐は雪風の破損状況データを見る。雪風のビルト・イン・テス 少佐は深井零が以前言ったことを思い出した。「なぜ人間が戦わ ト・シ・ステムから転送されてくる機体異常を知らせるデータた。 なくてはならないのだ」 雪風はギア・アレスター ・フック、キヤノビ開閉のための油圧シ それに対して自分はなんてこたえたろう。 ステムを破損していた。左エンジンに被弾、火災発生。いまは鎮 たしか、こう言った。「これは人間に仕掛けられた戦いだ。す・ヘ火。 てを機械にまかせるわけにはいかない」 ・フッカー少佐は胸をなでおろす。よかった。あとは胴着の無事を そうじゃないんだ。少佐はふらりとコンソールを立った。タイプ祈るだけだ。零なら、うまくやるたろう。 ライタが〈極秘〉の文字を打ち出していた。 「空港を閉鎖しろ。発進路を空けておけ」 この戦争はジャムとコン。ヒュータの戦いらしい。ジャムは人間で 「だめです」女性オペレータが緊張した声を出す。「除雪中です、 はなく、地球のコンビュータ群に戦いを挑んできたんだ。じゃあ、 少佐」 人間の立場は ? おれは、どうなるんだ ? コン。ヒ = ータから必要「すぐにどけろ」少佐は叫ぶ。「もたもたするな。なにをやって ないと言われたら、排除されるのか ? た、いままで」 ・フッカー少佐は印字された用紙を切り取り、丸めた。ばかな。こ雪風、着陸態勢に入る。残存燃料放出。 のコン。ヒュータは酔っぱらっているんじゃないか ? 「零、燃料は捨てるな。待て、早すぎる」 小部屋を出ようとしたとき、インターコムが鳴った。少佐はもど ・フッカ】少佐は司令室から駆け出し、地表に向かう。なんてこと り、「なんだ」 だ。除雪隊の愚図どもめ。雪風を降ろさせないつもりか。 「雪風、被弾。すぐに特殊戦司令部に出頭して下さい」マクガイア 大尉の声。 〈 <<Z 、 <<Z 、 <<Z 。ランウ = イ 0 を除雪中の部隊は作 「わかった」インターコムを切る。 業中止、至急ランウェイわきによれ。特殊戦・第五飛行戦隊、雪風 少佐は参謀本部をとび出す。零、生きて帰れよ。なんてこった。 が緊急着陸する。左エンジン破損、脚が出ないもよう。除雪隊は緊 8 5

5. SFマガジン 1982年4月号

) 第ことは、わたしのカでは解明できないかもしれない。 ~ 熏・ 0 囓心疇リイ空軍情報局から横槍が入ることも予想される」 「それでもいいんだ : : : あんたに会えてよかったよ」 「わかったら知らせる。じゃ、寒いようだからドアを閉めろ よ。震えているじゃないか」 「あ、ありがとう」長いこと忘れていた言葉だ。 天田少尉は鼻水をすする。つんと痛い。手袋でふくと、手 袋上で白く凍った。ドアを閉める。少佐がグレーダを誘導す る。天田少尉は重いクラッチを踏みつけ、ギアを入れる。 ふと白いはすの雪景色が薄く黄色味をおびているように感 」→ ( 第した。陽の光のせいか。あるいは黄疸か。おれもサングラス ・しをかけようと天田少尉は思った。このままでは死ねるもの を・か。勲章をたたき返してやるんだ。そいつに直接会い、勲章 をつき返して、ぶん殴ってやる。それまでは生きているそ、 " え、【〕、 ~ 当色対こ。 ・フッカー少佐ならなんとか調べてくれるだろうと天田少尉 は信じ、グレーダを発進させた。唯一の味方を得たと少尉は ンこマ 思った。あの少佐がおれを裏切らなければ生きていられるだ ろう、そんな気がした。 ドア下端からはあいもかわらずすきま風が吹き上がってく る。こればかりは勲章の件がかたづいてもどうにもならない ・ " 物を、 ~ 嚇ををュだろうな。天田少尉は鼻水をすすり、グレーダのラッセル板 をおろした。寒い。春はまだ遠い。永遠にこないかもしれな 。ラッセル板が雪塊にぶちあたり、雪の華が舞った。 ・々、い、・ヤ訶 にこま々 3 ド : ス年、三写火い フェア

6. SFマガジン 1982年4月号

下、 戦術空軍・戦術戦闘航空軍団・特殊戦のジェイムズ・・フッ カー少佐は、空軍中でも最もニヒルな部隊と言われる・フーメ ラン戦隊の一員だったが、その所属と凄味のある顔つきとは 反対に、いたって穏健な心のもち主だった。 除雪作業にぶつぶつ文句を言う・フーメラン戦士たちを作業 から解放し、暖かい地下へもどった少佐は、曇ったサングラ スを外し、ロッカールームへ行き、作業中についた雪が融け てずぶ濡れになった防寒靴と服を脱いだ。足が冷たくてかな わない。そして、天田少尉の苦労を思った。 彼は毎日毎日、くる日もくる日も、この冷たさを味わって いるんだ。勲章をもらってもおかしくはない。少佐は思う。 しかし、それでもマース勲章となると、話は別だ。適切な章 じゃない。あれでは天田少尉の苦労を認めた上での授章とは いえない。 ロッカールームで足をタオルでふき、身じたくをととのえ て、少佐は戦隊区の自分のオフィスにもどった。 雪風の帰投まであと二時間ある。少佐の親友の深井零中尉 はそのあいだ、ジャムと戦う。地上からはなにもしてやれな い。ただ、生きて帰ってこい、かならず帰ってこいよ、と祈 るだけだ。少佐は深井中尉のいつもかわらぬ冷静沈着、裏が えせば何事に対しても無感動な表情を思い浮べた。 ート・コーヒ ー・メーカーからカツ。フこ ブッカー少佐はオ 熱いやつを注ぎ、すすり、カップを包んで手を暖める。 あの零に、勲章のことを言ったら彼はなんてこたえるだろ 〕う。説くまでもない。おれには関係ない、そう言うに決まっ 3 ている。仮に授章が決定し、どうしても受章しなくてはなら

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・フッカー少佐はガラスの小部屋でコンソール・キーをたたく。 はいちいち受章者のリストの内容を調べたりはしません。わたした ちはコンビュータを信じていますから。これなしでは一瞬も正常な〈目を醒ませ〉と、キー・イン。 〈あなたは、だれか〉とコンソール・。フリンタから印字文字が出 軍運営はできません。疑っていては。しかし今回ばかりは、コン。ヒ る。〈所属および階級を入力せよ〉 ュータがドジったようでしてね」 それにこたえたあと、少佐は質問する。 「原因は」 〈天田少尉の授章理由を知らせよ〉 ハ 1 ドからソフトまで調べました。実をいうとソフト 「不明です。 コンビュータは一秒という長い時間をかけたあと、こたえた。 ウェアは複雑怪奇で、完全に調・ヘはついていません。どこかに・ハグ があるだろうとは思うのですが : : : あなたは、原因を知っていると〈極秘〉 少佐は、電子機器が熱をおびてくるときの、ちょっときなくさい か」 臭いを吸い込み、く : コンビュータは嘘は言っていないかもしれない」 〈なぜだ。ジャムと関係あるのか〉 ブッカー少佐はコンソールについた。電子技士の少佐は、コン。ヒ = ータがときおり人間には想像もっかないことをしでかすのを経験〈極秘〉 的に知 0 ていた。ミスじゃないんだ、人間には予想できず理解でき少佐はため息をつく。質問の鉾先をかえてみる。〈ジャムとはな にか〉 ないようなことでも、コン。ヒュータの論理ではまったく正常なこと が、よくある。しかもこいつは、と少佐は = ンソ 1 ルを見た。人工〈われわれの敵である〉 フム、と少佐はキーのうえで指をとめ、印字された文字を読み返 知能タイ。フの論理回路をもっている。自己学習機能があるんだ。自 分でソフトをより高度に、能率的に組み替えることができる。そのした。もっともなこたえだ。おかしいところはない。われわれの、 敵。われわれの。少佐は、ぎくりとし、もう一度読み返す。われわ ソフトは人間が解明しようとしたら、一生かかるかもしれない。 れ、の敵。われわれ。 「こいっとはどうやってコミュニケートするんだ」 「音声入出力装置はありませんが、普通語を理解します。キーで入〈われわれ、とはだれのことか〉 〈ジャムにとっての敵である〉 力するのです」 〈人間だな ? 〉 「こいっと話してみたいんだが」 「いいですよ。わたしは仕事がありますのでこれで失礼します。ま〈ジャムが人間を関知しているという直接的証拠はない〉 たあらためて、少佐。なにかわかったら、わたしを呼び出して下さ〈なんだって ? 〉 短い電子音。〈質問の意味不明。再入力せよ〉 「わかった」 少佐はふるえる指で、キーをおす。〈ジ・ヤ・ム・の・敵・は・ 6 5

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「心配しなくてもしし ヒーコン波がグレーダを真っ直ぐに誘導す「頼みがある。特殊戦はの陰の参謀といわれるほど実力があ る。あなたなら、おれの勲章の出所が調べられるだろう。お願い るから、ハンドルなんか握ってなくてもいいんだ。お笑いじゃない か。おれなんかいなくてもいいのさ」声がひきつる。「それでも英だ、少佐 : : : おれはそいつに勲章をたたき返したいんだよ」 「わたしでも無理だ」 雄になれるんだ」 「だろうな。つまらないことを言ってしまった。早くやつらに」天 「きみが」と・フッカー少佐は天田少尉をしげしげとながめて、言っ 田少尉は除雪スコツ。フを重そうに操っている十人ほどの戦士を指し た。「あの有名な、天田少尉か」 た。「終わるように命令してくれ。冷えるんだよ。凍死してしま 「そうとも。どうだ、驚いたか」 う」 「酒くさいな。いい身分だよ」 「わかった」少佐はサングラスをかけて言った。「やってみよう。 「そうとも」ふいに少尉は涙ぐんだ。まったく自分でも意識しない 涙。「飲まずにはいられないよ。仲間たちもよそよそしくなった。期待はせんでくれー 「じゃあ、早く命じたらどうだ」 おれが黙っていれば、ぶっていると言われ、しゃべれば、悪意をか きたてるんだ。どうやっても、やらなくても、おれはつまはじきに「勲章のことさ」 「なに ? 」 されるんだ。みんな勲章のせいだ : : : 勲章と引き換えにおれは仲間 へ。暖まって グレーダのエンジンをアイドルから間欠始動モード を失ったよ。くだらない連中だけどな。もうどうしようもない。お しまいさ」少尉はこみあげてきた吐き気をこらえる。血の臭いがすいた = ンジンは止まる。静かになった。風が耳を刺す。耳がちぎれ る。ウイスキーで流しこもうとし、むせて、吐いた。雪の上に赤黒そうに痛い。ィア・マフはつけていない。 「なんて言ったんた」 いしみが広がった。長くはないな、と思う。 「勲章のことだ。わたしも興味がないわけではないんだ。きみの受 「大丈夫か、少尉。これは血じゃないか」 「ほっといてくれ。あんたには関係ない。医者も好きなようにしろ章は、こう言ってはなんだが、たしかにおかしい。参謀の連中はな と言ってる。ただおれはーー・おれをこんなふうに惨めにした、勲章にを考えているのか、わたしも知りたい」 をくれたやつを呪ってやる」 天田少尉はブッカー少佐を見つめた。少佐の口調には嘲けりも嫉 「たれを呪うんだ」 妬も憤りもなかった。淡淡とした言葉。嘘ではないんだ。この男は、 「下っ端にはわからんよ」もうもうと白い息を吐いて、天田少尉は おれに同情はしてないが、さげすんでもいない。天田少尉は救われ 言った。「あんた、少佐、特殊戦の人間だろう」 た気持になった。 「そうだ」少佐はサングラスを外し、ポケットから防曇ス。フレ 1 を「頼みます、少佐」低くふるえる声で言った。 「わたしは特殊戦、ゾーメラン戦隊、第五飛行戦隊にいる。今度の 出し、吹きつける。 、、 0 ヾ 5

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が、それも、耳鳴りにまぎれて薄れてゆく。 「早く移動してくれ」 窓の外で合図した男がどなった。少尉はグレーダを・ハックさせ耳がじんと鳴っている。なんてパワーたろう。天田少尉は寒気に 5 耐えられすにウイスキーを飲み、雪風の名のついた戦闘機と自分の シルフが引き出された。特殊戦の戦闘偵察機た。双垂直尾戦にプグレーダを比べ、息を吐いた。共通点がひとつだけある。燃料だ。 ーメラン・マークがついている。天田少尉はこんなに近くでシルフグレーダは軽油ではなくジェット : フュエルを使う。 トを見るのははじめてだった。グレーダよりもはるかに大きそれだけだ。あとは雪風がすべてまさっている。重量は、爆装す コク。ヒット一「に。ハ ーソナルネームがついている 。小さな文字れば三十トンはあるだろう。グレーダは十四トン。あっちは推カ三 だ。雪風。寒そうな名たがコクビット内は暖かいのだろうな、と少十トン近くだろう、こちらは三百馬力ちょっと。戦闘機は華麗で、 尉はうらやましく思う。 除雪車は愚鈍だ。そしてたぶん、それを操る人間もだ。 雪風のジェット・フュエル・スタータが静寂を破って始動する。 「やあ、どうも応援ありがとう」 低いサイレンのような音。それはすぐに爆発的に高まり、それもや ドアの外から、さきほど合図をおくってきた上士官が顔をのぞか がて回転数を上げてゆく右エンジン・ファンの音にまぎれてしませる。天田少尉はドアをけとばすように開き、「いつまで待たせる う。ファン回転数が上昇すると、地表のアス。ヒリンのような細雪がつもりだ」と噛みつくように言った。 ファン吸気口に吸い込まれる。まるで磁石に吸いよせられるよう特殊戦のその男は頬に傷跡のある顏にサングラスをかけている。 に、地上とファン吸気ロの間に雪の結品が柱のように立つのだ。フ階級章は、少佐た。 アンエンジン特有の耳をつんざく高周波音。アイドルにもどり、今天田少尉は、冷気にのどをつまらせる。肺が一瞬まひしたかのよ 度は左エンジンのスタート。冷たい空気が鳴り、グレーダが震えう。冷たい空気で目がしみる。まばたきし、痛いような空気を吸 る。ジェット・フュエル・スタータの低周波音が消え、停止。両工 早くやれ、とどなった。 ンジンが吠える。排気音が高まり、誘導員が、行け、のサイン。。ハ 「すまない。わたしは・フッカー少佐。きみ、飲んでるな ? 」 イロットは手を振り、了解。雪風のエンジン音がさらに高くなる「ああ」 と、巨大な機体が後ろから突かれたように、いきなり前に出た。排「仕事はできるのかい」 気が後部の雪を吹きとばし、舞わせる。天田少尉はグレーダのワイ「あんたがさせてくれればな。早くこの仕事をやらないと、次の仕 ーを回した。 事までの休み時間がフィになっちまうんだ」 雪風が広大な滑走路へ出てゆく。やがて滑走路から、すざましい 「滑走路を真っ直ぐに走らせられるのか ? その飲みつぶりで」 アフター ーナの炎を引いて離陸、あっというまに厚い雲の中へと滑走路の除雪は数輛のモ】ター・グレーダが並進し、両わきのは 消えてゆく。雷のようなエンジン音だけはしばらく聞こえている ータリがグレーダの集めた雪を滑走路わきに吹きとばす。 0 、

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と自分に納得しながら書いているから、手でポトッと落とす短篇の書き方、ドンデン そうした短篇と長篇とでは、読者の印 ざわりみたいなものが出るのかな、て気が返しとか、あんまり好きじゃないんです象は違っていると思うんですが : ト・フロック しますね。異色作家のハ よ。だから、いい雰囲気出たら、そのまま 「なんだろうな。『竜神戦士ハンニバル』 だとか、あの頃のいわゆる奇妙な味で、ア ソフト・ランディングさせて終りたいなと にしても、同じなんです。つまり胎内回帰 イディア一発で鮮やかにフッと短篇あげ いう、余韻を残したいな、と思いますね。 じゃないけど、どんどん昔に戻りたいとか る、というのがあるけど、ああいうふうに オチというのはあまり書いてないな。オチ いうのが働き出して : : : 肉体的に衰えてき は、ちょっとならないですね。オチの一行 の方が決まるんでしようけど」 たからじゃなくてね。だから『ハンニ・ ル』もそれの系統だと・ほくは思ってるんで す。昔やりたかったこととか、・冒険小説に あこがれた、書いているとその頃にひたれ るんでね。ただ書くといっても、昔の南洋 一郎と同じように書いても駄目でね。深層 心理でも、フロイトあたりでいいんで、な んか判りやすい裏付けがないと、読む方に 納得してもらえない。その辺の深層心理、 マザコンでもなんでも判るでしよう。人間 が年取りたくないとか、若い頃に戻りたい 》とか、いろんな女が欲しいとか : そう いう想いは、その気になっていると、その 考え方は異常にデフォルメされて病的にな ってくるから、そういうあたりになって、 実に怪奇がかった変な話が出来る、という のが多いんです。だいたいそういう発想で SF NEWGENERATION 8