とを思い出してみろよ。ロシャ人が早とちりして、あれはメッセ 1 ジだって言い張ったけど、結局物笑いの種になったじゃない 電波天文学者 、。パルサーの規則的な脈動は、完全な自然現象だったってわけ 電波天文学者 だ。こんどのだって、最後の最後で同じ連命になるかもしれんか 電波天文学者 らな。 電波天文学者 リチャ - ーズばかなことをいうなよ、 こいつにまったく疑 電波天文学者 問の余地のないことは君だって知ってるじゃないか。そもそもの ソビエト電波天文台長 はじめからことははっきりしていたんた。我々が捕えたのはメッ セージだ、筋の通った信号たよ。明らかに我々より優れた知性体 ( アメリカの大きな電波天文台の外観。巨大なパラボラアン パルサーは、単に統計学的な規則性というたけの話だっ テナを含め、さまざまなアングルからの一連のショット。電ボウマン たんたそ。空虚な信号を単調に繰り返してただけた。そんな例な 波天文台の器機特有の音が聞こえる ) ら、宇宙にはごまんとあるよ。惑星の運動にしたってそうだろ リチャーズ今度のは違うぞ。小さい順に素数を二十個も、間違、 なく繰り返すなんてことができるものは、自然現象の全力タログ 電波天文台のオペレーション・ルーム。大量の電気器具、コ をひっくり返したって、一つしかない。素数だけ選び出すには、 ンピュ 1 ・タ、壁面にテレ・ヒスクリーンがずらりと並ふ。部屋 のまん中に金属製の長いテー・フルがあり、四人の男がそれを第四レベルの数学的知性が要るんだから。 ノリスン、 ハリスンわかった、わかった。しかし、あのパルサーの醜態の時 囲んで座っている 0 、白衣の電波天文学者が三人 ( 、 リチャーズそしてボウマン ) と、制服姿の陸軍大佐が一人も、最初のころ君と同じ議論をしてたんだぜ。まあとにかく、脈 ( ティクスン ) 。照明が暗いので、コン。ヒュータやエレクト 動の単なる繰り返しと、高度の数学的論理に基づいて選ばれた一 ロニクス器機の点減するシグナルや、テレビスクリーンの光連の数字はまったく別物ではある。しかし、それにしても : が強調される。エレクトロニクス器機のくぐもったノイズが リナャーズ″しかし″はやめてくれ。ロシャ人が。 ( ルサーでやっ 聞こえる。 たみたいな賭けを我々がやってると思ってるのか。だとしたら、 君は度しがたいペシミストだよ。こいつはメッセージだよ、最初 9 の本物のメッセージだ。得体の知れない不安のせいで、ロシャ人 ハリスンためた、冒険はできない。。ハルサーが発見された時のこ 登場人物 ハリスン博士 リチャーズ教授 ボウマン博士 ディクスン大佐 パルホメンコ ミロノフ カスパ ロフ
( リスンまったくだ。我々は二つの悪のうちから、小さい方を選 うむれるかもしれないのに んだわけだ : : : そのうちには、また信号を受信するようになるだ カス。ハ ーロフまたコスモポリタニズムか、君は ! 全世界のどこ ろう。一番重要なのは、そのことだからな。 が気になるんだね ? だいたい、どいつなんだ、その全世界って リチャ 1 ズわかってる、わかってる。もっとも、今となっては何 いうのは ? わからんのか、重要なのは我々だけだ。我々だけな の違いもないような気もするけどな。 んだ ! 我々が信号をキャッチした、ならそいつは我々のもの ッチ。違いがなくちゃ困るんだから、 だ。たしかにアメリカ人もキャッチしてしまったし、今のところボウマンそれを言うな、リ 彼らも無視はできん。だが、そんな必要もないのに、なんで第一一一君にはね。いずれ脱出できる方法が : 者をひつばりこむ必要がある ? 自分ののってる枝を切り落としリチャーズ後ろには警官がズラリなんだ・せ。・ ( 力なことを言わな いでくれ ! たいのか。 ( ちょっと、息をついて ) そう、君は完全に正しい よ、。ハルホメンコ。政治と博愛精神は絶対に両立せんのだ。 冫【し力ないさ。遅かれ早か ハリスン永遠にここに置いとくわけこよ、 ミロノフひょっとすると、アメリカ人と話をつけるのは、簡単だ れ、我々を解放するだろう、そうすりや ったんじゃないですか ? リチャーズ二十四時間もディクスンといたくせに、まるでわかっ カス。ハ ーフそのとおり。実に簡単だった。同じ波長で考える者てないんだな。このゲームのポイントがわからないか ? 奴らは は、すぐに共通の言葉を見い出すってわけだ。君らにわからせる何もする必要がないんだよ。まったく、何ひとつだ ! 奴らの戦 方が、よほどめんどうで時間がかかるよ。まあ、ものごとはそん略的要請とあらば、我々が腐ってくるまでここに閉じこめること なものかもしれんが。さあ仕事だ、諸君。宇宙が我らを待ってるぞ。 だってできるんだ。 ボウマン大げさだよ、君は。疲れてるんだ。僕らも同様だがね。 君は、我々には家族も友人もある、ということを忘れてるぞ。連中 は何かうまい説明を考え出さなくちゃならんだろう。さもなきや たいへんな騒ぎになるからな。連中も全能というわけじゃないさ。 リチャーズいや全能かもしれんよ、ボウマン。あるいは少なくと 。 - 。フリアン。フのスイッチを人れ も奴らは自分でそう信じてる リ - 1 ー てくれ、 。周波数発振機は充分暖まってるぞ。 ( リスン始めるぞ。ボウマン、位相を合わせるようにしてくれ。 そう : リチャーズ今度の事件全体の中で一番たちの悪いことは何だかわ / リスン、リチャ アメリカの電波天文台のメインホール。、 ズ、ボウマンの三人が受信機を前に腰を下ろし、しきりにコ ントロール装置に手を走らせている。照明は暗くし、エレク トロニクス器機の明減する信号ランプが前面に置かれる。 ッチ。もっと悪い状況だっ ボウマンあんまり気を落とすなよ、リ て考えられたんだから。 9
にぶつかったら、どうなるでしようね ? ためしなんて三 カスパ ーフ私の知ってる限り、その可能性はほとんどゼロだ。 ディクスン ( せきばらいをして ) ありえないことが : : : おきたん 8 こちらが秘密をもらさない限りーーーもうその手は打ってあるがー です。向こうも知ってたんですよ : : : 信号を。 ー心配することは何もない。 ボウマン何だって ? ・ハルホメンコでも理論的な可能性は考えるべきですよ。とにか リチャ 1 ズ向こうって、だれのことだ ? 、なこうも、あの宙域に関心を持ってることはわかってるんでディクスンロシャ人ですよ、もちろん。子供みたいなマネはやめ すからね。指示の中には、その可能性については書いてないんで て下さい すか ? ハリスンだが、・ とうやって知ったんだ ? カスパ ーロフむろん、それは考慮されている。もし、その : : : 敵ディクスンそれこそ、我々も知りたいことでしてね。 方が何らかの方法でこの信号を発見した場合、どうすべきこっ 冫いボウマンだが : : : 万一彼らが同じ宙域を観測してたとしても、こ ては、はっきり決まっている。だが、まあそんなことにはならん ちらとまったく同じ周波数を使ってたなんてことはありえん。 よう、。祈ることにしよう。 ディクスンありえないことだが : : : ありえたんですよ。もっと も、可能性はもう一つありますがね。 ハリスンもう一つの可能性 ? ボウマン君がいしたいことは : ディクスンあらゆる可能性を考慮に入れるべきです。こいつは、 アメリカの電波天文台にあるディクスン大佐のオフィス。壁 には、世界の政治地図。制服姿のディクスンが、その前に立まったくの偶然か・ーーもっともそれはほとんどありえないことで って、地図をにらんでいる。ドアにノックの音。リチャー すがー・ーでなけりや、だれかが向こうに全部ばらしてしまった ズ、 か、どちらかですね。 ハリスン、それにボウマンが、全員白衣姿で入ってく る。 リチャーズほう ! 今度はスパイ小説の傑作が入り用というわけ ディクスンかけて下さい ハリスンしかし : : : わからんな。そいつは不可能だ。君自身、最 リチャーズ ( ディクスンをしっとみつめて ) ワシントンは、今度大限の機密保持の手段を講じたと言ってたじゃないか。我々は、 はどんなたのしい贈物を用意してくれるのかな ? フォートノックスの連邦準備制度理事会より徹底的に監視されて ディクスンふざけないで下さい。重要なお話があるんですよ。 るんだそ。この制服、監禁、隔離 : : : まだほんの十二時間だが、 リチャ 1 ズ君の一一一口うことは、、 しつも重要だよ。そうじゃなかった こっちはもう発狂寸前なんた。
全員ですよ。あなたも、私も、そしてトップにいる連中もね。 ディクスン・ハ力なことを言わないで下さい。最高の警戒体制だっ リチャーズたいしたもんだ ! ゃぶで小鳥を探してるうちに、手 て、完全というわけにはいきませんよ。向こうもこの信号のこと を知ってることがわかった の中の小鳥にも逃げられるってわけだ。そんなことをしてると、 こいつをどう考えます ? もれロ ロシャ人が一足先に発表しちまって、君たちの″千年計画″もお ってものは常にあるもんでしてね。 じゃんになってしまうぞ。 リチャーズクレムリンのジェイムズ・ポンドってわけだな・ ディクスン今ワシントンは、あなたのファイルを調べてるところディクスンそう考えますか。いや、ひょっとすればそうなるかも しれない あなたみたいな人たちが向こうにもいつばいいれば ですよ、リチャーズ教授。もう冗談口をたたいてるわけこま、 ね。しかし、幸い、そうはなってないんですよ。向こうにも、機 なくなりますな。 密はしつかり守ろうという頭の切れる連中がひかえてるんでねー リチャーズ私のファイルだって ? 君たちは一体 : ーこちらと同様に。 ボウマンこれは一体どういうことなんだね、ディクスン大佐。我 ハリスンそれがなんで、幸いなんだか、私にはわからないが。 我のだれかを疑ってるのか ? ディクスンかんたんなことですよ。今や、彼らもゲームに加わっ ディクスン疑ってるとは言ってませんよ。ただチェックしてるだ た、しかし状況は形の上で変わったたけで、本質的には同じこと けで。 なんです。 リチャーズマッカーシーも顔負けだな。 ディクスンふむ : : : よろしい。率直に言いましよう。私は、このボウマンわからないな。 ディクスンわかりませんか。ここで問題なのは、秘密は依然とし 。フロジェクトの内部を健全なふんいきにしたいんですよ、リチャ て守られている、ということなんですよ。こちらも向こうも、第 ーズ教授。どうもそれが欠けてるように思えるもんでね。 ( ちょ 三者にこいつを知らせる気はありませんからね。そういう条件な っと言葉を切って ) もしこのニュースがもれたとしても、ここか ら、こちらは、向こうより一歩先を行くか、あるいは向こうと取 らもれたのしゃないってことは、私は確信してるんです。 り引きしなくちゃならない。 ハリスンじゃあ、どこからもれたんだ ? ディクスンスパイ活動には、予期出来ないような要素がいつばい リチャーズ一歩先を行くといったって、どうすりやいいんだ。 ありましてね。 シャ人が信号をャヤッチするのをやめさせるわけにはいくまい。 そんなことは理論的に不可能なはずだ。 ボウマン君は、ロシャ人がエージェントを送り込んでいると言い ディクスン理論的にはね、リチャ 1 ズ教授。 たいのか : : : しかし、そんなことが可能なのかね ? ディクスンさあね。さっきも言ったように、このプロジェクトに 関係のあるあらゆる人間、あらゆるものが調査されてるんです。 5 8
かるか。それは、奴らの論理が感染しやすいってことさ。・ほくに んだ。これは事実だよ。 ももううつり始めてるよ。ディクスンのいう″信号の本文。が本リチャーズし、しかし、それじゃあ : : : 何てこった ! ディクスン 当に届くんじゃないかという考えが頭にこびりついちまったん はどこだ ! ディクスンを呼べ ! 奴の顔が見たいー 思い知ら だ。・ほくの頭はどうかしちゃったよ。本当にこんな短い間に、分 せてやるんだ ! 異星人にしてやられたんだからな、あいつは , 別をなくしちまったのかな ? ″信号の本文″だなんて ! そん なたわ言を手もなく信じこまされちまって。 ハリスンわからないそリッチ、たわ言なんかじゃないかもしれん : ・僕は思うんだが : ・ : たしかにディクスンは下劣な男た、奴の ソビエトの電波天文台長のオフィス。カス。ハ ーロフは机に向 いう政治とやらと同様にね。だが、奴は・ハカじゃない。考えれば 〃し トレイに載せて運ばれてきた食事にとりかかろうとし 考えるほど、理屈にあってるような気がしてくる。 ている。コントロールバネルのインターコムのランプが明減 リチャーズおい、おい。君も感染しちまったんだよ。言っただろ し始め、くぐもった音が聞こえる。カス。ハー ロフはパネルの う、そいつがこの件に関して一番まずい点なんだ。君が最初、ど ボタンを押す。 んなに懐疑的だったか思い出してみろよ。君こそ、疑問の余地の ない信号本文ならものの信びよう性に反ばくできる唯一の人間だ カス。ハ ロフどうした ? と思ってたがな インターコムの女性の声パルホメンコさんが面会に見えていま ボウマンそう興奮するなよ、みんな。変調が済むまでちょっと待 す。急ぎの用件とかで。 ってくれ、そのうち : ロフ カスパ 。ハルホメンコ ? 入れてくれ。 ( 。ハルホメンコが入 って来る ) 座りたまえ 、パルホメンコ君。申し訳ないが、この騒 三人は凍りついたように立ちつくし、十秒間ほど完全に押し 黙る。 ぎが始まって以来、一口も食べてなかったもんでね。私に会いた かったのか ? リチャーズそっちの方は全部うまくいってるのか、ハリー ・ ( ルホメンコ ( 立ったままで ) そうです。辞表を渡しに来ました。 ハリスン ( ちょっとためらって ) ああ。 カスパ ーロフ辞表を渡すって ? 理由を教えてくれるかね ? ボウマンこっちも 0 だ。 パルホメンコ理由 ? 理由を知りたいとおっしやる ? 一体全 リチャーズどこかでミスをしたんだな : : : 見落としがあ 0 たんだ体、あなたはこの狂言芝居にまだ飽きないんですか ? 幕は下り ろう。もう一度チェックしよう。 てしまったのに、まだ芝居を続けるわけですか ? 求ウマンその必要はないよ、リ ッチ。やるべきことは全部やったカスパ ーロフ君のメロドラマ好きは度しがたいな、。ハルホメン 2 9
ても、せい・せいロシャ人の方も新たな十渉にのりだしてくるくら ね。これでロシャ人は完全に切り札を手に入れたわけだ。いざと いが関の山だろうね。 なれば、向こうはこのことを全部公表することもできるし、そう ディクスンまったく、あなた方のような知的な人々が、政治のこ なれば、我々の罪はもう何をもってしてもぬぐい切れないんだ ととなるといかに近視眠的になるか、信じられないくらいですよ。 そ。 ハリスンそんな政治を弄ぶには、いっそ盲目にならなきゃなんな。 リチャーズ一つだけ聞きたい。あんた方のやったことが、より高 ボウマンよしわかった。我々が、君らの戦略的策謀を理解するに 次な戦略的 : : : それに政治的な目的のためだったなんてことを、 は実際ナイー・フ過ぎるということにしよう。で、我々にはどんな 世界中の人々にどうやって説明するんだ ? ( リスン ( ため息をついて ) いとも簡単に、国家の名誉と評判を選択肢があるのか説明してくれ。ここに永久に監禁しておくつも りなのかねっ・ 減茶苦茶にしてくれたな、あんた方は。 ディクスンすべては、ロシャ人との交渉しだいです。ワシントン ディクスン心配無用、気をもむ必要はないんですよ、皆さん。な んですか、その大げさな言い方は。「国家の名誉」だとか、「世とモスクワの話し合いはすでに始ま 0 ています。実際には交渉な んてもんじゃなく、形だけですがね。お互い、相手と同じ強いカ 界中の人々」だとか ! そんなものは、我々がやっているゲーム ードを持ってるところを見せあいたいわけで。以前の時と同じで にとってはどうでもいいものばかりだ。ロシャ人が、この信号で くらすよ、とにかく相手に弱みはないかという : こっちを出し抜いて、アメリカを蹴落とすことになれば、い リチャーズということは、その愚劣な″形だけのために、我々 名誉を後生大事に守ったって、何の足しにもならんのですよ。 は信号をあきらめるということか。ただそれだけのために ? 何 「世界中 0 人々に」というのはどういう意味です、リチャーズ教 授 ? 万一にも我々がそんな = ・ : ・そんなくだらないものにかかずてことだ ! そんなことをしてるうちに、君のいう " 信号の本 らっていたら、我々とロシャ人が、世界を指導する国家を作れた文。が送られてきていたらどうするんだ。 ? この天文台みたいな科学設備を持てるというぜディクスンその危険は計算済みですよ、リチャーズ教授。まあ、 と思いますか しすれにせよ、おそらくもう いたくも、この特権的な地位あったればこそでしよう。あなた方そうならないように願いましよう。、・ しばらくすれば、そいつをチェックできるようになりますよ。 もよくご承知のとおりーー我々とロシャ人以外に、この世界で、 ハリスンどういう意味だ ? 琴座からの信号をキャッチするのに必要な施設を作れる国なんて ディクスンかんたんな話ですよ。さっきも言ったでしようが、ワ ないんですよ。 シントンとモスクワは交渉を始めたって。ロシャ人は、もちろん ボウマンたいした施設だよ。我々自身が信号に干渉するとなる 極秘でですが、我々に脅しをかけてくるはずです。一切を世界中 と、まるで無用の長物になっちまうがね。 にラすといってね。もちろん我が方の信号干渉をうんと強調す リチャ 1 ズ敵を出し抜く戦術か。そんな精神で彼らと交渉してみ
ら君を更迭すれば済むことだ。私の言うことがわかったかね ? 我々は君を高く買っているが、かけがえのない人間なんてものは いないんだ。分別ってものを持たなきやだめだ。まあ、いずれに せよ、事態は最初に考えたほど悪くはない。 ・ハルホメンコ悪くはないですって ? 気ちがいみたいに我々の手 から信号をひったくっておいて、今度はかわりに何をくれようつ ていうんです ? 我々は《後世の電波天文学者にどう弁明すりや ℃いんです ? 彼らは、信号を年がら年中空しく待ち続けること になるんですよ。はるか昔の野蛮な時代に、すでにその信号が来 ていて、時代と同じ野蛮な理由でそれがおしやかにされたことも 知らずにね。私を更迭すれば何か変わるとあなたは本当に思って ーロフ、あなた るんですか ? とんでもないですよ、同志カスパ は底なし沼にズゾズ・フはまりこんでいくだけだ、もう耳まで沈ん じゃってますけどね、あなたは。 カスパ ーロフ君に悲嘆は似合わないよ 、・ハルホメンコ君。それに しても、君はなぜ我々だけを責めるのかね ? こっちは、他人が 作ってしまったゲームのル 1 ルに従っているだけなんだよ。今の 世界はそういう風にできてるんた、この現実の世の中は。たふん、 こんなことは皆、君たち科学の雲上人の目には違って見えるんだ ろうがね。雲の上から見れば、我々がやってることはみんな、気 狂いじみた、犯罪的なものってことになるんだろう。私たってそ アメリカの電波天文台、ディクスン大佐のオフィス。制服姿 れは否定しないよ。だが、今のルールがものを言ってる限りは、 のディクスンが机を前に腰を下ろし、ハリスン、リチャー 選択の余地はない。遠い未来になれば、わからないが才 : ズ、ボウマンの三人も白衣を着けて、それそれの椅子にかけ ( 一息入れて ) こういったことすべてについて、私が個人的に考 ている。 えてることを言おうか。偽善とはとらんでくれ、友人として慰め になれば、と思うから言うんだ。仮に、我々が結局自分で自分のボウマン信号の干渉とはまったくたいしたことをしてくれました 手足をもいでしまうにせよーーもうすぐそういうことになりそう ゅ / 、刀 つまり、君の言い方で言えば″気ちがいみたいに信号 8 に干渉する″にせよ、だ、だからといって悲しむことは何もない んだよ。我々が、異星人とコンタクトできるほどに成熟していな いということを、これほどはっきりと示すものはないわけだから な。まだ、早すぎたんだよ。 ミロノフまったく慰められる話ですよ 制御盤の電話が鳴る。カスパ 器をとる。 カスパ ーロフ ( 電話に向かって ) ああ : : : わかった : ・ : ・ ( 長い沈 黙 ) 。チェックはすませたのか。よし。わかった。 ( 受話器をおい て ) 新しい事態だ、同志諸君。奴らに先を越されたよ。アメリカ 人は、すでに信号への干渉を開始した。君の良心はスッキリした かね、・ ( ルホメンコ君 ? 祖国の名誉は救われた : : : 恥ずべき行 為は相手方がやってしまったからな。この状況を最大限に利用す べしーーそういう指示だ : ・ ーロフがデスクを回って、受話
たった一つの、戦略的にはまったく無害な情報の断片しか含んで体は、厖大な知識を持っているはずだ。我々の文明よりはるかに ないんだよ、 偉大な知識をね。私の : : : 非科学的で限られた想像力でも、この ボウマンそのとおり。それ自身か一でしか割り切れない数字を、 情報をみれば、この : : : 博愛主義者の宇宙人のメッセ】ジの本文 小さい順に二十個並べて繰り返すーーその目的は、無限の宇宙に の内容は推測がつくってもんです。彼らが我々に教えてくれる情 向かって、その一角で一つの種族が、科学技術文明のレベルに到報は、彼らにとっては、まったくどうでもいいような、無害なも 達したことを知らせたいというにつきる。ただそれだけだーー他 のかもしれないが、我々にとっては、途方もない価値があるはず には何もない。何が : : : その : : : 戦略的に危険なのか、私には理 です。もし、我々が今この信号の記録を公表すれば、明日には、 解できないが。 だれもが、ロシャ人だけでなく、あらゆる人間が、この : : : 宝物 から、利益を得るでしような。そろそろわかってもらえました ディクスンおっしやるとおりですよ、ボウマン博士。今入ってき か。これは単なる威信の問題じゃない、とてつもなく重大な問題 ている信号は、情報という意味では、戦略的な重要性はまったく なんですよ。 ない。しかし、信号がこのままでとどまっているという保障はな いでしようが。 リチャーズ三文の読み過ぎじゃないか、ディクスン大佐。考 ハリスン君は本気で : えてもみろ。異質な生命の間で知識を交換するには、最少限の共 ー・ショックということ ディクスン考えてみて下さい。自分の存在のしるしを宇宙に送り通点が必要なんたよ。それに、カルチャ もある。素数と、科学技術的あるいは芸術的な内容ではまったく 込むだけだとしたら、その目的はなんです ? 何の利益がありま す ? ちがいますね。宇宙を相手に、イチか・ハチかのコミュニケ話がちがう。もし君が : 1 ションを始めた者が、初歩的な信号でとどめておくなんて、まディクスン間題の技術的な側面はしばらくおきましよう。そいっ ったく考えられないことです。我々が今記録してるのは、これか は、あなた方科学者が心配することた。私は軍人であり、この事 ら来るメッセージの本文の予告に過ぎませんよ。 態全体は、国家の安全保障上、死活の問題とみています。私は、 義務として警告しておきます。ワシントンは、合州国の全未米 リチャーズしかし、そんなことはすべてあて推量だ。我々は今、 過去にまったく経験したことのないものに直面してるんだ。いずが、この琴座計画の仕事の中で、我々がどの程度、機密を守れる れにしても、君のその″メッセージの本文″とやらがな・せ戦略的かにかかっていると考えています。我々だけが、メッセージ本文 に危険なんだね ? に含まれる情報を手にし得るようにできれば、今後千年間は、我 いや、おそらくはもっと : ディクスンわかりきったことでしよう、リチャーズさん ~ 自分で我が世界を支配できるんです : ハリスンということは、君の言ったことをとり違えていなけれ 考えてみてわからないのが不思議なくらいだ。恒星間の対話、も しかしたらひとり言かもしれんが、そんなことを始められる知性ば、天文台は国家の管理下に置かれるということかね。
、、・ソビエトの巨大な電波天文台の台長オフィス。ガラスのショ ディクスンそう、そういう言い方もできますな。事実、我々がこ ーケースの中には、ソビエトの宇宙船モデルがすらりと並ん の信号の最初の情報を受けとったその瞬間から、国はその態勢に でいる。壁には、ソビエトの第一線天文台のパラボラアンテ 入っています。昨夜以来、天文台との連絡はすべて、特別モニタ ナの写真が何枚もかかっている。部屋を圧するように、天文 ーセンターを通っているし、信号を最初に記録した時に、たまた 台長の大きなデスクが置かれている。上手には、電気機具と まここに居合わせた者も全員、厳重に隔離されています。 、三のテレビスクリーンを備えた制御盤。天文台長のカス ハリスンしかし、我々に対してそんなことはできないそ ! 琴座 ーロフがデスクに向かっている。反対側には、二人の電波 からの″信号″のほかにだってやる仕事はあるんだ。 天文学者、。ハルホメンコとミロノフが、研究所の白い上着姿 ディクスン残念ながら、それは延期してもらうほかありません で「モダンな回転椅子に腰をおろしている。 な。ワシントンは、琴座計画を、最優先事項に決定しました。い すれにせよ、あなた方としては、失うものはなにもありません。 ーロフいや、発表は一切ないはすだ。この状況に対する指 その反対ですよ皆さん。合州国の歴史上、最も重要な計画に参加カスパ 示はまったくはっきりしてるんだ。この件は完全な機密にしなく したごく少数の恵まれた人間の一人であることに誇りを感じるべ ちゃならん。 きですよ。国家の未来はあなた方の手に握られているんですから ーロフさん。この前の。ハル パルホメンコわかりませんね、カスパ サーみたいな失態を演ずる可能性はまったくないんですよ。今度 ボウマン君は、マンハッタン計画の″志願者″を集めた時と同じ こそは本物の信号です。 ″愛国心″を利用しているわけだな。 ミロノフそのとおりです。今度こそ過去の失敗を帳消しにする唯 ディクスンふむ : : : ここの全要員の家族には、職員は。フェルト・ 一のチャンスですよ。 リコの新らしい天文台へ緊急に移動した旨通知してありまして ーロフ過去はたいして重要ではないだよ、同士諸君。未来 ね。家族への手紙も、。フェルト・リコの消印で出されることになカスパ のことを考える方がいし ります : : : なろん細心の注意を払った上でね。この天文台への訪 。ハルホメンコ未来のこと ? 問はすべて停止されるし、すでに天文台の安全と必需品の支給 は、軍の管理下に入っています。こんなところですかな、皆さカスパ ーロフそうだ。あのパルサーの茶番は一一重の意味でいい勉 強になったよ。あせって危ない橋を渡っちゃいけないということ ん。今のところはね。 がひとつ、そして : ミロノフ ( カス ーロフをさえぎって ) しかし、今回は何の危険 もないんですよ。今度のは完全に信用できるものです。 0 、
に一歩先んじられてもいいというのか 2 ハリスンもしかしたら、向こうさんもそう考えてるかもしれない ボウマン君がなんでびくつくのか、わけがわからないよ、ハリ 。それにリチャ 1 ズもだ。ロシャ人がこっちの鼻をあかすたな んて。連中が、ちょうどこの瞬間、水素原子の周波数でしかも我 我と同じ琴座の方向に向けて、観測してる可能性なんて、現実に はゼロに決まってるじゃないか。・ハカ・ハ力しい。ししか、つい昨 夜までは、空つぼの雑音しか入ってなかったんだそ。こっちが一 歩先んじてることははっきりしてる。あとは、たつぶり時間をか けて、こいつをいっ発表するか、決めればいいんだ。 リチャーズしかし、どうして待たなきゃならん ? なあボウマ ン、我々が今世紀最大、いや人類の歴史始まって以来最大の発見 を、このちつ。ほけな手の中に握ってるってことがわからないの か。こんな発見を、我々が : : : その : : : 身勝手のために、自分た ちだけのものにしたりすれば、歴史に対してフェアじゃない。不 誠実だよ。 ディクスンああ皆さん、そろそろ私も議論に加えてもらっていし と思うんですがね。とにかく、そのためにここにいるわけですか らな。かりにこの : ・・ : 発見 : ・・ : が、本当にあなたの言う通りに重 大なものとすればですね、リチャーズ教授、これは、戦略的にも 同じたけの重要性を持っているわけです・ : できる情報を : : : その : : : 敵方と分かちあうなんてばかなことに なるわけです。 ハリスン何を言いたいんだね ? ディクスンっまり、この場合、抽象的な倫理の原則はもはや通用リチャーズ敵 ? 情報 ? しかし、ロシャ人が、いや他のだれだ って同じことだが、このメッセージから、何ができるというん しないということです。問題は、国家の現実的な利害でしてね。 だ。どうやって我々に害を及・ほせるんだ ? 琴座からの信号は、 この発見をもらしてしまえば、我々が有意義な目的のために利用 ゾラン・ジフコヴィッチ Zoran Zivkovié 一九四八年、ベオグラードで生れる。ベオグラード大学哲学科で世界 文学を修め、ここで英米と出合った。現在はザグレ・フで出ている隔 月刊誌「シリウス」の編集スタッフとして活躍している。七〇年代後半 からユーゴスラビア界が隆盛期を迎えるとともに、編集者ガヴリー ・ミクリーチチらととも ロ・ヴチコヴィッチ、作家で編集者のダミール に評論、翻訳、編集の分野で頭角を現し、ユ 1 ゴスラビア界のリー ダーとなった。ことに七六年に創刊された年刊アンソロジー『アンドロ メダ』では名編集長ヴチコ・ヴィッチの右腕となり、選択目の高さを買わ れて英米の作品選定を一任され、その能力を遺憾なく発揮した。 目下北米の各地の大学で教鞭をとっているユーゴの研究家ダルコ ・スーヴィンの著作「詩学としての』にたいする批評『ューゴスス ラビアにおける研究』や、高級な文化理論叢書『二〇世紀文庫』に 入った』に収録されている『とは何か』など水準の高い論文 が多い。他にクラークの「 2001 年宇宙の旅』はじめ多くの翻訳があ る。ここに紹介した作品はラジオ・テレビのためのシナリオ。 ( 深見弾 ) 8 0 6