レダにとっては、レ 「愛してんの ? 」 まったと責めるようなものなのかもしれない。 ダがここにいること、・ほくがここにいること、それこそが肝心なの レダはぼくを見、そして、なおもしっと見た。 ふっと、奇妙な気分が・ほくをとらえた。 であり、他のことは一切どうでもよいのではないだろうか。どうし うまく云えない。何だか レダが、おかしなことだが、ファンてそうなのかは、見当もっかないがーー・きのう、・ほくに足をからみ のような、人間ではなくて、人間のような目をもったイヌででもあっけ、レダは、・ほくが怯えてしまうくらい夢中に何かを追い求める るかのような、胸のいたむ感じがしたのだ。 のだった。くちびるはひらき、眉はきつくしかめられ、目はとじら これまでにあまり味わったことのない、切ないような、ぎゅっとれ、ぼくがレダを愛しているとささやくのも、これからどうすれば なるような感じ。 よいのかと問いかけるのも、まるきり耳に入らぬふうだ。それでい て、ぼくの動きが少し緩慢になると、 ファンを忘れていたせいかしらと・ほくはった。 「ああ、止めちゃだめーーーやめないで、お願い」 「ファン、どうしてる ? 」 「どうしてるって、ああしてるわよ」 うわごとのように云いつづけながら、失ったものを回復しよう と、狂おしく腰をからみつかせてくるのだった。 「ファンに会いたいな」 「しや、来ればいいじゃない」 アウラが、前に、そんなことを云ったときには、・ほくにはまった たしかに、そんなレダを見つ 「うん」 く想像もっかぬ話であったのだが どうして、レダにかかると、こうものごとが単純明快になってしめ、抱きしめていながら、つよい孤独感を味わう、というのは、無 まうのだろう。 レダの没入はあまりにも深 理からぬことであったかもしれない。 「お腹がすいたわ」 、絶頂をきわめることに、あまりにも貪欲であったから、彼女の レダは、「愛している」も、「私とセックスして」も、「お腹が上にいるものが、本当は彼女は自分など必要としていないのではな いかーーー自分はいったい、彼女にとって存在していることが理解さ すいた」も「あんたなんか嫌い」も同じ単純さで云うのだ。あまり にもそれが単純で、そう云いたいというだけの動機から発しているれているのだろうか、といった不安にかられることは、むしろ当然 ことがわかるので、それで云われた方はきっと傷ついたり、とまどだったのである。 ったり、かんぐったりしてしまうのだ。すると、レダは、思いもか幸いにして、それは・ほく自身にとっても、じぶんのからたが思い けずあいてが傷ついたのではじめて、あいてを傷つけるようなこともよらぬ変化をとげ、これまでまったく知らなかった新しい感覚が を云ったのかと思い そして、深く傷ついてしまう。 あとからあとから生まれてくる、おどろくべき時間であったから、 ミまくの注意をひくいとまはなか レダに対して、いたずらに傷つくのは、傷つく方の罪なのかもしそういう不安や淋しさ、孤独感力、に れない。流れる水に、それが流れて、大切な帽子をもっていってしったのだが 227
自分のユニットへもどり、もってかえったミルクをシチューの上に 自分でも、デイソーダーになりつつあると思っていたくらいだか ぶちまけ「容器ごと、エレクトリック・レンジに入れた。 ら、そんなことは何でもないが、ふしぎなのは、いっから、何がま 4 っム シチ、ーはふつふっと煮えたぎる、できたてのすがたになって登ちがって、こういう方へやってきてしまったのかということだっ 場したが、まるで粘土をたべているように、何の味わいもなかった。レダに会ったから ? レダの家に行くようになったこと ? た。おまけに・ほくはかなり・ほーっとしていたらしく、さじでロの中ラの死 ? に運んでぶちまけて、はじめてそれがどんなにあついか気づく、と どれもこれも、たんなる偶然やなりゆきのつみかさなりが、そう いうのをしようこりもなく何回もくりかえしたもので、さいごに いうかたちをとった、というようにしか、ぼくには見えないのにー は、ロの中じゅう火傷だらけになってしまった。 ( ちくしよう ) いまでもぼくは自分がきわめて平凡だと思っているし、他の同期 、目立たない存在だ ぼくは途中でいやになってその呪うべき食物をディスポー、サーに生、スティなどにくらべて、まったく冴えない と思っている。だのに、ぼくは、友の死にあい、アダルトになるよ ぶちまけながら、思わずつぶやいた。 ( なんでこう、何もかもめちゃくちゃなんだろう ) り四年も早くセックスをーー、・それも、違法のオレンジ・ビルで アウラは・ほくをにくむと云ったし、レダはいま、アウラといっし経験し、そして、市長のディマー、次期市長の・ << 、スペースマ ンのプライ、哲学犬のファンーーーふつうなら、とうてい知りえなか ょにいる。ファンのことではイヤな話をきいてしまったし、何だか まるで、ぼくのまわりでだけ、おもちゃ箱がちらかって、何もかもった人びとと、ロをきき、論争し、友達になったりした。 しー . し ぐしゃぐしやになってしまったような感じだ。 どうしてこういうことになったのだろう。 ( まあ、いい ) なぜ、そんなことになったのか ? 問題は、それだ。 ・ほくは、またしても、考えるのが面倒くさい発作にとらわれ、ペ ぼくは、たいして出来もよくはなければ、個性もどうってことが ないにせよ、それでもまあまっとうな市民のたまごとして、ギルド ッドにひっくりかえった。オレンジ・ビルの影響が、まだのこって 入りにそなえ、基礎学習にせいを出していたのであり、スティのよ いるのかもしれない。からだがだるく、食欲がなく、ちゃんともの うに才能がないとか、ミラより見かけが冴えないとか、いろんな悩が考えられない。 みがあったにしたところで、まずまず、平凡で、幸福ーーというか 、っそ、このまま眠ってしまおうかと、目をとじたとき、ヴィジ 平穏無事な日々をすごしていたはずだった。 フォーンがっこ。 それがいつのまに、こんなにもてんやわんやになり、女の子たち おきあがって、そこまでゆくのが、死ぬほどっらかった。 にデイソーダーだと見なされるようなことになってしまったのだろ スイッチをおすと、新しい指導員であるビーターの顔がうかびあ がった。もう、定時連絡の時間か、とおもいながら、
いる方がよいらしい。レダにとっては、当のセックスのあいてのこカー : 、・まくにはあったのだろうか ? とを忘れてセックスそのものに没入してしまうように、食物もま そんなもの、あろうはずがない しかし、・ほくは、とりあえず 3 2 た、重大なのは食物そのものではなくて、それにまつわるイメージ考えることに疲れていた。あれこれ考えるのはあとまわし、レダと でしかないようだ。 別れ、ひとりにもどったらということにして、・ほくはレダのやりか テたをまね、しばらくは何も考えないで、ただ流れに身をあずけてい ・ほくはもうなかばやけくそになってレダの云い分を承知した。・ イソーダーになるものならば、このままなってしまうがよい むたかった。 しろ、一種の爽快感に似たものがあった。もうこれで、一ヶ月近考えるのは、面倒くさい。考えたところで、わからないのだか く、自由学習をためこんでいる。律義にこっこっ、やりくりしてはら、考えるのは、あとまわしにすればよい。 やって来ていただけ、それがもう、懲罰学習のスケジュールを一回「ーーけっこういい気分だね」 とったくらいでは解消できぬくらいにおくれ放題おくれてしまった「え、何 ? 何か云ったの ? 」 と思うと、そのぐらいだったらいっそ、このまま何もかも放り出し「デイソーダーっていうのも、思ったより、いい気分みたいだって てしまうがいし 、と思ってくる。少なくともその思いの中には、長年思ったのさ」 ぼくを苦しめてきたスケジ、】ルへの、落第生の復讐の快感に似た「そうよ。第一カン・ ( セーションなんていう、かったるいうそをつ 解放感があった。 きとおさなくってもすむわ。あんたってーーー」 ( 何もかもどうだっていし もう、おんなじだ。オレンジ・ビル ものみ、セックスも未成年でしてしまったし、自分のユニット外に「危険思想ね ! 」 無断でとまってはいけないタ・フーも破り、しかもデイソーダーと、 レダは、ひどく、はしゃいでいた。 違法に泊ってしまった。いまさら、学習スケジュールなんか : : : ) 必ずしも、機嫌がとてもよくて、それで浮き浮きしているという デイソーダーになるほどの覚悟があれば、そんなもののすべてがわけではないようだけれども、気分が平生よりもうわずっているこ 何だというのだ。 とは、まちがいのないところだ。しかも、何分レダはもともと気持 なんだか、たったひとっレダのさし出した手をとったことで、・ほの平らかという方ではないのである。 くはそのままずるずるとひとつながりに、ひどくたくさんの選択ー レダの頬は血の色がさしてあかくなり、目はきらきらと輝き、な ーしかも、はじめから、どちらを選ぶかが決められてしまっているんとなく、酔ったような感じだった。ふつうは、ひとが何をしてい 選択を、強いられているようだった。何もかもが、有無をいわさようと、裸で逆立ちしていようと、決しておどろかず、そっちをじ ず、しかも、 ( いまさらしようがない ) というエコーをともなってろじろ見たりしないのが、善良な市民のたてまえというものなのた いた。このままレダの手をとって、レダの要求にこたえてゆく自信が、それにもひとつだけ例外があり、あいてがタブーをおかして、
けない。でないと、効き目はない。自分のやってることがわかってえ。気つけ薬がほしそうな顔つきじゃないか」 なくちゃね」 ガーフトは、震える手でグラスをとった。入っているのは、三オ 7 ニュ、・フランデ 「よしてくれよ」ガーフトは言った。「いったいどういうべテンなンスほどの一世紀をけみしたフィ】ヌ・シャンパー んだ」しあわせ気分の甲羅にひびが入って、そこから酸つばいいら ーのイデアとも言うべき崇高な品位と完璧さをかねそなえた、コニ ャックの絶品だった。遠いかがやかしい夏の日々を蒸留した琥珀色 いらの汁がしたたりこんでくるのがわかる。 「これはべテンじゃない」ロビンソンは言い返した。「あんたのひのしずく。通ならば、そのあまりの偉大さ、あまりの崇高さにかお い爺さんから数えて四十回昔のひい爺さんが三つの願いを許されたりをかぐだけで随喜の涙を流したかも知れない。そいつをガーフト のに、そのうちふたっしか使わなかった。で、残りのひとつがあんはぐいっとひと息にあおってのけた。 たのものになったのさ」 と、次の瞬間、おしころしたようなうなりとともにラーリーンの 「ふうん。ところで、おまえさんは、何者だい」 ビールをひったくり、ごくごくとのどに流しこんだ。 「あたしにやちゃんとお見通しさ、ガーフト」ラーリーンが言っ 「ふう」と彼は息をついた。「強いったらねえ。ただのワインかと た。「サタンの手下め。エスさま、お救け下さいまし」 思ったら。なんだこりゃあ」疑いぶかそうにロビンソンをねめつけ 「黙れ、この婆あ」ロビンンンが邪慳に一喝した。 る。「毒でももろうってんじゃなかろうな」 ビリイは心細そうにそわそわした。 辛抱強い悪魔、なんて話はあまりきかない。硫黄の燃えるような 「ちょいと」弱々しい怒りをこめて、彼は言った。 「ロのきき方に臭気が、一瞬ひときわ強くにおいたった。ラーリーンが十字を切っ 気をつけろよ、おい」 て何ごとかつぶやきはじめる。ロビンソンが言った。「どうだ。こ ロビンソンは鼻もひっかけなかった。 れでわたしの力を信じる気になったかね」 「よし、ガーフト。ここを見てろ」と、一点を指さした。ガーフト「たいした手品だ。仕掛けはどこさ。袖のなかかい ? 」 の目の前のテー・フルに忽然として、一インチほど液体の入った繊細「なんだと、この脳たりん。袖のなかだと ! これは魔法だ、この ス - 一フタ なクリスタルの梨形グラスがあらわれた。 腐れどあほう。これこそ魔法だ、わかるか。いまにわかる。そうと ガーフトはぎくりと体を震わせた。 も、いまにわかる」 「ひえつ。どうやったんだい」声がひきつった。いまや彼のしあわ「おい」ガーフトが言った。「なあ、おい、悪口はよしてもらおう せ気分は雲散霧消してしまい、空元気の演奏にかかろうと、神経がぜ。誰もあんたにここへ坐れと頼んだおばえはねえんだからな」こ いっせいに音あわせを始めていた。 の頃にはガーフトの気分はもうすっかり第二段階、世界中の何もか 「わたしの言葉がじゃないことを見せてやったのさ」ロビンソンもが腹立たしくてたまらなくって、けんかの機は熟しきっていた。 は言った。「きっと気に入ると思うよ。遠慮はいらん、飲みたま内心、ロビンソンという相手にかなりびくついてはいたが、口論が
善良な市民にあるまじきことーーー云っておくが、裸で逆立ちをしてなくらいにうわっいたようすになり、ポルテージが上ってゆくの 歩きまわったり、何なら公園でビンク・ドラッグをのんでセックスしだ。 たりすることは、、、 へつだん、善良な市民に断じてあるまじきふるま「急に、二人で戻ったら、アウラがびつくりしやしない ? 」 いというわけではないのだーー。すなわち、人前で感情をむきだしに ぼくは、少しでも、彼女の気持をそらせ、平静にしようと、オー して、怒ったり、泣いたりしている場合、それから他人に迷惑をか トロードの手すりにつかまって、とびさるシティの風景を眺めなが けるようなこと、だれかれなしに握手を強要したり、話しかけたりら、レダに話しかけた。 するような場合、このときは、むしろ、人びとは、じろじろと見て 「前もって、連絡しておかなくていいのフ それに、そうすれ ールを、つくっておいてくれる あいてがけしからぬふるまいをしていることを、無言のさげすみと ば、アウラがレダの好きなオー 共にあいてに悟らせるのが当然ということになっている。 かもしれないよ」 そしてまさしく、レダのやっているのはこの前者だったから、人「連絡 ? 」 びとは、一体なんのつもりだというように、ふりかえり、非難をこ レダは、何を云われたか、わからぬようだった。あるいは少なく めてしげしげと眺め、それから、 とも、わからぬようすをよそおった。 ( ああ、何だ、デイソーダーか。デイソーダーではしかたがない ) 「なんで、そんなこというの ? 」 といった態度をあらわにして、あとはちらりとも見ずに立ち去っ 「いや、別に、レダがしたくなければ、しなくたっていいけど」 てゆく。 「私そんなこと、したことがないわよ」 どことなく、妙に誇らしげな子供つぼい声音だった。・ほくは、レ その視線とそのあとの無視、それは、かっては、レダひとりのも ダのご機嫌をとるように、 のだったかもしれないが、いまでは・ほくもまた、それをわかちあっ ているのだった。そして・ほくは、セックスのときの、不確かな、共「レダらしいね」 と云った。 有しているのかどうかいまひとっさだかでない快楽よりも、人々の 非難をレダと手をくんでわかちあっている方が、はるかに、レダの しかし、レダに迎合したはすのーーーカン・ハセーション的に ために何かしてやっているという気持になれた。もっとも、二人でのことばをきくなり、レダは急に、怒りはじめた。 いるために、そのさげすみがそれそれに二分の一になるということ レダが怒ったことは、すぐその顔つきでわかったけれども、 はなく、むしろ反対に、二倍になるような気はしたが。 たいなぜ怒ったのか、ぼくがいま、このデイソーダーを怒らせるよ どんなことを云ったのか、・ほくはさつばりわからなかったか ぼくがふしぎに思ったことに、レダは、あれほど、そうやって非 難がましく見られ、無視されることには馴れているはずなのに、何ら、めんくらった。 レダ」 となくおちつかないふうで、そのためこ、、 冫しよいよ、彼女は不自然「どうしたの そ 2 引
・ほくはほとんどおろおろとして云ったーーーもっとも、・ほくの方・ほくはロをあいて、このレダの云い分をきいていた。まことにユ というか、そういう考えかたがこの世に存在するのか 3 こんなに、レダの も、内心は少し、腹を立てていたかもしれない。 いうとおりにし、レダを満足させようとし、レダのきげんをとってと、目をみはるほかないが、レダがあまりにも堂々といってのける ばかりいるのに ・ほくとしてはまだ、人前で手を組んだり、大声と、何だか、レダこそが正しくて、ぼくの方がかえってそれに思い つかなかったがさつ者のような気がしてくるから、大したものだ。 をあげたりして、ひんしゆくの目で見られるのを、あえて辞さぬに 「そーーそんなつもりじゃなかったんだよ。レダを苛めようなん したところで、そうして見られることによろこびを感じるようにな ったとは、これは、とうてい云いがたカた レダはそれ以上どて、思ってもいなかった」 うしろというのだろう、なぜ怒るのだろう。 ・ほくはびつくり目のまま云いわけをした。 「ねえ、レダってば ! 」 「第一、だったら、そんなに気になるんだったら、ゆうべ、アウラ ・ほくは、つんとすましてそっ。ほを向き、あなやオートロードからにヴィジフォーンで連絡すればよかったじゃないの。心配しなくて とびおりかねぬレダに、しかたなく哀願した。たしかにこれはヴァ 「どうやって ? 」 ーゴの知らぬ苦労だったー 「だからヴィ 「ねえ、どうしたっていうの ・ほくは、レダを、怒らすつもりな んか、ちっともなかったんだよ」 云いかけて、・ほくは、かるいショックをお・ほえ、黙った。 「アウラのことをあたしに思い出させたじゃないの ! 」 奇妙な疑惑がのばってくる。 そういえばーー・以前、ラウリだったかにかけようとして、まちが レダのこたえは、しかし、・ほくのどぎもをぬくに充分だった。 もうちょっとだったのにー 「あたしは一生懸命、忘れてたのに って、レダの登録番号をイン。フットしていたことがあった。 あのとき、どうだったか うちへかえれば、そしたらアウラは安心するわ ! だってあたしが そこにいるんだもの。それからなら、ぎのううちをあけてごめんな ( ソノ番号ハ登録サレテオリマセン。番号ヲイマ一度確認シテ : さい、心配したでしよってアウラに云えるわ。でも、いま、思い出 : ・ ) させたら、あたしはアウラが何も知らなくて、うちで、あたしのレ あのときは、いそいでいたのでレダの番号をまちがえたのだろう ダに何がわるいことがおこったんじゃないかと、やきもきしながらとかんたんに考え、それきり深く追求しようともしなかった。 待ってるって、ずっと思ってなくちゃならないじゃないの。でも、 たしかに、番号をまちがってはいないという、ひそかな確信はあ あたしにどうすることができるの ? どうしようもないのに、イヤったが、それならば、レダの家で、ヴィジフォーンで応答するよう なことを思い出させて、あたしをいじめるなんて、ひどいじゃない なことはレダは苦手そうだから、それはアウラの持ち分になってい るのにちがいないと、またしてもそう考えることで自分をいなして
の、ディマー、オーノ、・ << との話し合い レダのこと、そして何だか、いよいよぼくはデイソーダーになりかけているようだ アウラのこと、ファンの云ったこと。 と、ぼんやりと思いながら、自動販売機用のコインをもって、売店 ファンが、・ フライ船長に好感をもっているようなのが、・ ほくにはに近づいてゆくと、そこで軽飲料を買っていた二、三人の女の子 が、さっとどいた。見ると、イーラやエメリ、イルたちで、同期生 意外だった。 ばかりだった。 ( レダ ) しかしともかく、これからはそんな外宇宙人などを呼びつけるこ とはない。ぼくはじゅうぶん、・フライのかわりができるのだ。アウ ぼくは、反射的に挨拶をした。女の子たちは、顔を見あわせた ラは自分でそうしたかったのかもしれないが、どうすることもでき「ハイ、イヴ」 ない。そして、ぼくは、レダのために、レダの望むようにしてやり のろのろとイーラが云った。寄妙な口調だった。 世間話をしなければならないのだ。カン・ハセーションを、こんな にありがたく思ったことはないし、ものをいうのが、こんなにつら レダはあのあと、ぼくが外でファンと話をしているとき、オー いことかと思ったこともない。」 ールをたべたろうか。レダが、アウラはともかく、あとで・ほく 「えーと : : : 」 のいないのに気がっき、さがしに来てくれなかったので、ぼくはい ぼくは、ばかのように、頭の中で、「きっかけ」パターンのおさ ささか不満だった。いまさらレダのそういうところに怒ったところ らいをした。 で、しかたがないということは、よくわかっていたのだが。 、刀 レダのオートミー ルの話を思い出したので、ぼくはにわかに、自 「ごめんなさいね、イヴ」 分が結局朝から何もたべていないことを思い出した。宅送フードの ィーラがすばやく云った。 箱に、けさのと、ひるのパックが入っていた。 朝の方のを破り、あたためようとして、・ほくは、 ミルクが入って「失礼するわ。わたしたちーーー」 ないことに気づいた。 「デイソーダーと話をするのは、あまり好ましくないような気がす 入れ忘れではなく、ミルクの方は、朝、とらないと、くさるのでるの」 そのまま通過してしまう。ミルクがないと、シチューをもどせなすばやく、もう一人がひきついで云った。一 「気をわるくしないでね。デソーダーとっきあいたくないと思う ぐくのは、市民として正当なことなんだから」 ぼくは、のろのろ立ちあがり、ユニット の外に出た。す近 エリアの共同売店があり、そこへゆくだけなのに、何だかおそ あっというまに、女の子たちは消えうせた 1 ろしくおっくうだった。」 ぼぐはぼかんとしていた。それから、とりたてて何も考えずに、」 247
うね。むろん、それも、その一部かもしれないが。セックスぬきで「坊や、その問いに答えられるものは、この世に存在してやしない も、人は、悩んだり愛したりにくんだりできるよ。しかし、たとえよ。それに、それへ答えを何とかしてでっちあげようとして、まさ 2 いくら、ビンク・ドラッグが精巧になっても、悩んだり、愛した にそのために、人間はありとあらゆることをしてきたんだよ。シス り、にくんだりをぬきにしてセックスをすることは、おそらく、人テムをかえたり、あれこれと研究したり、座ってじっと考えたり。 間にはできないね。セックスを職業にしているセクシャリストに恋そして結局、これまでのところ誰ひとり、それにこたえることはで きなかったのだ。 わたしは、自分がどうであるかについては、 をし、独占したいとなやみ、大さわぎをする青年の話を、このあい だ立体 e ドラマで見たよ。おもしろかった。実にばかばかしいと答えられるよ。わたしがこんなふうーー学者犬でねーーであるの は思ったけれどね」 は、人間の研究者がある課題の参考のために、イヌの知能をたかめ 「ほんとにそうだね」 て、その思考のパターンを研究しようと考えたからだし、いまわた ・ほくはつぶやいた。ドラマがばかばかしいということではなく、 しがここに存在しているのは、研究がおわったあと、その研究者が セックスぬきでも人間は愛したり憎んだりできるが、愛憎ぬきで用ずみのわたしを抹殺しようとしたとき、別の人が、わたしを救い セックスはできない、 ということについて。第一。 トナーと別に出してくれたからだ。そして、わたしが幸福なのは、わたしがこう セックスする必要はまったくない ( むろん、したければしてもいであること、こういう存在としてあることを、うけいれたからだ トナーになるかどうかで、 い ) が、そのラウリとぼくが第一。 よ。しかしーーーすべての人間が、なぜ人間であるのか、ということ ラはぼくをにくむと云い、そして死んだ。 ( ラウリとするなんて、 をときあかすのは : : : さよう、三十世紀をかけてダメだったのだか らね。そして死んでしまえばその人間にとって、それはもうまった まっぴらご免というものだ ) 人間は、なんという、ささいな、ちっ ぼけなことに、そうまであっさり生死をまでかけてしまうのだろく意味をなさぬ問いになってしまう。ただ、わたしに云えるとすれ ばね」 う。そして、ぼくよ、、 ーしま、しんそこ、切実に、レダが欲しかった 別に、セックスをしたかったわけではなく、何の肉体的な欲求「・ : も感じないし、行為へのテンションのたかまりもないままに ( ビル 「人間たちは、ビンク・ドラッグとフラスコ・システムによって、 をのんでないのだから、それが市民としてはごくふつうのことだ生殖の原理と快楽の理論を征服し、わがものにしたと信じているが しかし、それは、むしろ人間にとってはおろかなことだったの が ) 、レダが、レダの全てが欲しかった。どうすれば、レダが・ほく のものになるのか、それも少しもわからぬまま、ただ欲しいというではないかとわたしは思っているよ。というのは、それによって、 こと、そしてアウラもそうなのだということだけがわかっていた。何というか、いちばんおおもとにある骨がらみの餓え、とでもいっ たものが、おもてにあらわれ出てしまったのだ。生殖、性、快楽、 ) 体、ど 「ね、ファン。教えてよーーーファンならわかるでしよう。 それはよどんだ水のように人間性を混濁させており、そこで、その うして、ぼくたちはこんなふうなの ? 」
甲高いレダの声が、それをかきけした。 ってるあなたをにくむわ」 「わかってるわ。もう、 しいのよ。こうして、レダが元気にかえっ アウラは走り去った。レダの家のドアはぼくの前でしまり、再び てきてくれたんだから」 開かなかった。 アウラは額に手をあててつぶやいた。 これで、ひとに、憎むと云われたのはふたりめだった。 「奥へいって、シャワーをあびて、きかえていらっしゃいな。その ぼくは、ぼくの手におしつけられる、冷たいぬれたものに、何度 司こ、オートミー めかにやっと気づいた。 ルを用意するわ」 レダは子供のようにうなづいて走りこみかけたが、ふっと足をと「ハロー、ポーイ、やっと会えたね」 めた。 なっかしい、なっかしい声が云った。 「すっかり忘れてしまったかと思っていたよ。なっかしいね、坊 「ねえ、アウラーーー怒ってないの ? 」 「怒ってはいないわよ。何年、あなたといっしょにいると思って ? さあ、行ってらっしゃい、ちょうど、ファンにあげようと、ミ ルクを出したところだったのよ」 レダは奥へ入っていった。 アウラは、つと、柱に身を支えるようにして立っていた。 「アウラ」 ・ほくは何か云おうとした。が、またアウラにさえぎられた。こん 「きみの気持はわかるがね、ポーイ」 どは、手を前にあげるしぐさで。 ファンが、あの、特有の重々しい調子で云った。そのあいだに 「そう : : : ね」 も、ばたり、ばたり、という音がつづいている。ファンのふさふさ ややあってアウラは云った。ひどく苦しそうな声。 とした尻尾が、地面を叩く音だった。 「そうだわ。そう云ったのはわたしよ。たしかにーー早く大人にな「こういうと何だが , ーーその、こういうことは、よくあること、で って、。フライのかわりをできるようになって、って。でも」 ね。きみが心をいためても、しかたないんだよ」 「そんなこと、わかってるけど、ファン」 「でもだからといって、わたしが本心からそう望んでたわけじゃな 「いやちがう。きみは、わかってないんだよ、ポーイ」 いしーー・それに、そう云ったからといって、わたしーーーわたしが何ファンは断言し、ペろりと。ヒンク色の舌でしめった黒いボタンの も感しないわけじゃない。勝手だわ、わかっているけど、わたしはような鼻をなめた。 あなたをにくむわ、イヴ、にくむわ。わたしがもってないあれをも「アウラにもわかっていない。あれほど、何でもよくわかるように 237
かるか。それは、奴らの論理が感染しやすいってことさ。・ほくに んだ。これは事実だよ。 ももううつり始めてるよ。ディクスンのいう″信号の本文。が本リチャーズし、しかし、それじゃあ : : : 何てこった ! ディクスン 当に届くんじゃないかという考えが頭にこびりついちまったん はどこだ ! ディクスンを呼べ ! 奴の顔が見たいー 思い知ら だ。・ほくの頭はどうかしちゃったよ。本当にこんな短い間に、分 せてやるんだ ! 異星人にしてやられたんだからな、あいつは , 別をなくしちまったのかな ? ″信号の本文″だなんて ! そん なたわ言を手もなく信じこまされちまって。 ハリスンわからないそリッチ、たわ言なんかじゃないかもしれん : ・僕は思うんだが : ・ : たしかにディクスンは下劣な男た、奴の ソビエトの電波天文台長のオフィス。カス。ハ ーロフは机に向 いう政治とやらと同様にね。だが、奴は・ハカじゃない。考えれば 〃し トレイに載せて運ばれてきた食事にとりかかろうとし 考えるほど、理屈にあってるような気がしてくる。 ている。コントロールバネルのインターコムのランプが明減 リチャーズおい、おい。君も感染しちまったんだよ。言っただろ し始め、くぐもった音が聞こえる。カス。ハー ロフはパネルの う、そいつがこの件に関して一番まずい点なんだ。君が最初、ど ボタンを押す。 んなに懐疑的だったか思い出してみろよ。君こそ、疑問の余地の ない信号本文ならものの信びよう性に反ばくできる唯一の人間だ カス。ハ ロフどうした ? と思ってたがな インターコムの女性の声パルホメンコさんが面会に見えていま ボウマンそう興奮するなよ、みんな。変調が済むまでちょっと待 す。急ぎの用件とかで。 ってくれ、そのうち : ロフ カスパ 。ハルホメンコ ? 入れてくれ。 ( 。ハルホメンコが入 って来る ) 座りたまえ 、パルホメンコ君。申し訳ないが、この騒 三人は凍りついたように立ちつくし、十秒間ほど完全に押し 黙る。 ぎが始まって以来、一口も食べてなかったもんでね。私に会いた かったのか ? リチャーズそっちの方は全部うまくいってるのか、ハリー ・ ( ルホメンコ ( 立ったままで ) そうです。辞表を渡しに来ました。 ハリスン ( ちょっとためらって ) ああ。 カスパ ーロフ辞表を渡すって ? 理由を教えてくれるかね ? ボウマンこっちも 0 だ。 パルホメンコ理由 ? 理由を知りたいとおっしやる ? 一体全 リチャーズどこかでミスをしたんだな : : : 見落としがあ 0 たんだ体、あなたはこの狂言芝居にまだ飽きないんですか ? 幕は下り ろう。もう一度チェックしよう。 てしまったのに、まだ芝居を続けるわけですか ? 求ウマンその必要はないよ、リ ッチ。やるべきことは全部やったカスパ ーロフ君のメロドラマ好きは度しがたいな、。ハルホメン 2 9