むきあい、といって無用に敵対するのでもなく、ただ一個の存在とて、われわれはそれを全減させる権限をもつでしようか ? むろん して存在する世界の中に立っていた。待っておいで、レダーーぼく身を守るためにそれを殺すことはできます。しかし毒蛇をそうであ 9 2 がいま、おまえの重荷をひきうけてやろうとしているのだから、ぼるゆえに裁く権利は、自分もたまたまこのようなもの、毒蛇でない くは胸のうちにつぶやきつづける。もう、ひとりで、どうして与えものとして存在しているにすぎないわれわれ人間にはないはずで られたかもわからないその生のありかたにひしがれていなくてもよす。もしあると主張するのであれば、その人は、人間以上のものと 。もっと早くにぼくがめぐりあえていたら、いや、それもものご自分を思いあやまっていることになる。それは罪悪です。それこそ とがかくある以上無用のくりごとだ。ただ、ばくがまっすぐにレダが、裁かれなくてはならぬ罪であって、な・せなら、その人は、自分 を理解さえすればーーああ、これほどあたりまえのこと、レダをあもまた存在しているということを忘れているからですーーー」 りのままに見るというたったそれだけのことに、な・せこれほどまで「汝ら罪なき者この女を石もて打て」 に・ほくはまわり道をしなくてはならなかったのだろう ? ・が低い声で云った。ばくは・の顔をみ、そして仰天し 「»-ä・も前におっしやっていましたね。レダは特別なのだ、とー た。・の美しい、おちついた顔は蒼白になり、わなわなとくち ーそれが、ぼくには、わからないのです。このシティ・システムびるがふるえ、いまにも叫び出しでもしそうに両手がぎゅっとにぎ は、特別な存在というものは存在しない、 りしめられていた。それは、・ほくが、このシティではじめてみるく という前提のもとに成り 立っているはずです。もし、そういう特例をみとめたとしたらすべらいにつよい動揺のあからさまな露出だった。 「ごめんなさい。続けて下さい、イヴ」 ての個人の完全な平等と自由、という理念において成立しているこ の社会は立ちゅかなくなってしまうでしよう。なぜ、レダは《特「いや、ぼくのいうことはもうおわりです。あとは、・ほくは、答え 別》なのですか。なぜ、レダは がほしいだけです。もし、あなたがたが、それを下さることができ なぜレダという存在がシティ・システムの中に存在することをゆるというのなら、ですが」 るされているのですか。・ほくはその答えを知りたく思います。そし「イヴ・」 ディマーは、反撃に出なくてはならぬときであることを悟った。 て、それを知り、かっ納得せぬ限り、ぼくはレダ・セイヤーに市の 裁判をうけるよう説得することはできません。な・せなら、彼女がそ彼の大きなたくましい両手がきつくにぎりしめられた。彼もまた のような存在であることについて、市が何らかのかかわりをもって動揺していることに、ぼくは気づいた。しかしそれは、・ほど いるなら、全市民を含めたシティそのものが、彼女という責任をひには大きくなかった。 きうけねばならないし、もしそうでなく、たた彼女は摂理の大いな「もうひとつだけききたいね。きみは、その質問の答えをわれわれ る手によってかくある、というのであれば、彼女はやはり市によっに要求する。しかしそれは、一体、どんな資格、ないし権限において て裁かれる義務はないからです。毒蛇が「毒蛇であるからといっ なのだ ? プライヴァシ 1 は個人のものだ、そして。フライヴァシー
「あるわ。それから、ガイが、三人の他国者に乗取られたレクサをとを可能にするのは、奴らしかいない。それと同時に、ウ = イルが 身体をこわばらせるのを感じた。ウェイルがどう出るか、キリイは 消し去るために政撃したのよ。そしてーーー」 ヴィトグにおける最良の友の顔を見た。 「どうしたのた ? 」 ウ = イルが、割り込んだ。モーネの話が、どうやらヴィトグの運ウ = イルの顔にはいかなる表情も浮かんでいなかった。キリイ の目をしっと見つめ返す。 命とも連なってくることに気付いたのだ。 「そして、ガイは破れたわ。その三人に操られたレクサの住民たち「教主様は、すっとおまえを狙っていたんたな」 ウェイルが言った。 は、火を自在に使うらしい。ガイの第一陣は、全減した」 キリイは言葉を失った。そしてモ 1 ネの話に潜んでいる情報は明「これからは、もっと用心しなければならないそ。おれたちもでき らかだった。つまり、レクサを崩壊に導いた三人の男女がもたらしるたけのことをするが、おまえも気をつけてくれなければ、どうし ようもない」 たものは、この惑星にはあってはならない技術を元にしているとい 、つこ」に。 「ああ、用心しよう」 キリイは答えた。それ以上、何の説明も必要としないたろう。ウ 「それで、教主様はあれほどお怒りになったってわけか ? 」 ェイルは、たとえ教主という存在からの命令があろうとも、キリイ ウェイルが尋ねた。 「怒る ? 私がこれまで感じたことのないほどの力が働いていたを守るために全力を注いでくれるだろう。 モーネが、身体を起こし、ウェイルに向かいあった。 わ。キリイがいなければ、私はあのまま意識を失い続けていた。今 は、少しおさまってはいるけれども、私が心の平衡を失えば、また「ありがとう、ウェイル」 同しようなことになる」 ウェイルが顔を赤らめた。唐突に礼を言われて、どきまぎしてい るのが、はっきりとわかる。キリイとモーネが笑い声をあげた。ウ モーネは、身震いした。 「そしてキリイ、あなたは狙われている。教主様は、あなたを自分 = イルもそれに加わった。 「わかったそ、キリイ、どうして奴らが引き上げていったのか ! 」 のもとに召し出そうとしているわ」 突然、ウェイルが叫んた。 「どうしてた ? 」 「ああ、そうだな。ガイは、レクサを攻めるために全力を尽してい キリイは、モーネの回答が危険なものになることを予感したが、 るんたー 尋ねすにはいられなかった。 「それは、キリイ、そのレクサを亡ぼした三人の内の何人かが、あ「そうよ、教主様は、御自分の力をすべて合わせてでも、レクサの 三人を殺そうとしている」 なたと同じように、 この世界の人間ではなかったからよ」 ガイを動かしているのは、教主という存在なのた。キリイは、一 アレクサンドロスた ! キリイは直感的に思った。そのようなこ
れに、数十人もの人影が姿を現わした。ロールは、その姿を見て息クサンドロスだけではなく、マイダスまでも動きはじめたのだ。 を呑んた。な・せなら、その数十人の男たちょ、、・ ーしすれも寸分変るこ それは、教主そのものが生まれた時代以前に起きた事件の遙かに となく、まったく同じ人間の複製のように見えたからだ。 離れた揺り返しだった。教主は、自分の内部に、現在、起きつつあ 「何なの ? あれは」 る一連の出米事を予期している部分があるのを承知していた。 「わからない、畜生、わかってたまるか」 マイダスもアレクサンドロスも、あらかじめ想定された計画を、 ロールとメリンは、あわただしく会話を交した。だが、何の説明今、忠実に実行しはじめたのだ。だが、自分の分身に異なった論理 も思いっかなかった。男たちは、ゆっくりと飛行艇に歩み寄ってく体系、一一一口語体系を持った教主は、常に、自分の内部を点検し修復す る。ロールは、ためらうことなく、男たちにプラスターの白熱光をる能力を与えられていた。そのために、これほどの年月を経過した 浴びせた。だが、すぐかわりの男たちが姿を現わすのだ。何度か繰あとであれば、単一の論理の中で、原型を保持し続けることのでき たアレクサンドロスやマイダスとは異なった形を取りはじめてい り返す内に、ロールの全身は冷汗でぐっしよりとなった。 何のために、奴らは無駄な死を繰り返すのだ ? そう思った途た。それは、教主たちが生まれ、それそれの世界を与えられてか ら、ほんの数千年後に、交信が不可能になるほどの差を持ちはじめ 端、ロールは男たちの狙いを悟った。 ていたのだ。 「メリン ! 後ろた、後ろを見てくれ ! 」 だが、もう遅すぎた。凄ましい衝撃と共に、後部に何かが落下し教主は、自分がマイダスやアレクサンドロスと、その初めの時代 てきた。飛行艇の前部は跳ね上がり、再び地上に落ちた。その衝撃のように交わることがあれば、お互いの世界が破減的な影響を受け ることを承知していた。そして、そうなることが、自分の存在理由 にメリンとロールは意識を失った。 男たちは、メリンとロールの身体を飛行艇から引きずり出し、岩であることも承知していた。自分は常に動いていなければならな 。それが来たるべき時のために必要なことだった。 山の中に運び込んだ。そこは、教主と呼ばれる存在が直接、支配す る場所だった。寸分たがわぬ姿形をした男たちは無言のまま、巨大ほんの数十個の恒星と、五十余の惑星だけが、本来の宇宙ではな いことを、いつも思っていた。だが、それは人々に明かしてはなら な広間の中央に、二人の身体を置き去りにした。 ないことたった。彼らは、遙かなる過去に、種子として、この小宇 そして教主は、二人の身体から必要な情報をすべて取り出した。宙に送り込まれたのだ。真の宇宙が、今はどのようになっているの それを聖母と天を通して、集めた情報と比較し、分析した。すべてか、それは教主の思考する範囲の外にあった。知る必要のないこと 。こっこ 0 はほんの一瞬の出来事だった。そして、この数千年の間で初めて、 東大陸にいる自分の分身に交信を求めた。 教主は、マイダスとアレクサンドロスに対して、敵であると認識 そうするだけの重要性が、教主の得た情報にはあったのだ。アレすると共に、重要な味方であることも認認していた。その二つは、 24
テムなる仮説を提唱する。これが、本書る。インドネシアの離島に、夢でオサガホイルらが示唆するように、ウイルスや のメイン・テーマだ。 メを呼び出せる男がいて、ワトソン自原核細胞レベルまで、星間雲や彗星中で 受精のさいに、卵子に入りこむ精子のら、実際、珍しいオサガメを呼び出して発生したとなると、少なくともコソティ ウ 頭部は、ほぼ純粋な核で、父親の遣伝物もらった、そうな。胎児も「「地球の音 ジェント・システム中に、宇宙での、そ 質そのものでできている。かたや卵子は楽」を夢で聞いているとなると、どうしして宇宙への生命情報が混入していてお 母親の遺伝子の小さな核のまわりに、そても、『ドグラ・マグラ』を連想してしかしくないし、いま現在、宇宙生命と交 の何千倍もの大きさの卵黄がある。そこまう。 信しあってさえいるかもしれない。イン によ、 ミトコンドリア、リポゾーム、細私は『宇宙塵』七三年Ⅱ号で、《生態フルエンザは、そのマイナスの側面が、 たまたま顕在化した / ダ。 胞膜、ゴルジ体など、さまざまな機能質系維持本能》の存在を提唱したが、ワト があり、共同の。フログラムに従って働きソンのコンティジ = ント・システム説あるいは、地球上での生命進化は、そ つつも、多くは独自の言語すら話し、自に、強力な援軍を得た思い。 ワトソンの初めから終りまで、『暗黒星雲』型超 分たちの Q Z << にあたるものをもってい は、遺伝子型と表現型との対立に、核知性体の管理のもとにあるのかもしれな る。この核外の複合体が、種の壁を越え Z <t とコンティジェント・システムとの 。超知性体にとって、地球は一個の子 て、ウイルスによる情報交換をとりおこ 対立をオー ・ラツ。フさせ、遺伝子の宮なのかも。これからの宇宙探査は、こ なっている、そういう全体系がコンティ エゴイズムからの解放を、後者の共生 1 ゅーことの是非を明らかにするだろ ジ = ント・システムだ。「コンティジ = でもってしようとしている。それにしてう。正直、ちょっと、コワイですがね。 ント・システムは全生物の集団的無意識も、コンティジ = ント・システムがある ( 『生命潮流』 / 著者Ⅱライアル・ワト なのだ」 臨界質量に達し、そのたびに、それまでソン / 訳者Ⅱ木幡和枝・村田恵子・中野 アマゾンに、細部にいたるまでワ = その自分を越えた大進化をとげた、のは有恵津子 / 五一〇頁 / 二二〇〇円 / 四六 つくりの擬態を示すバッタがいて、・ハッ り得るとしても、もう一歩進めて、その判上製 / 工作舎 ) タの天敵である鳥たちを追いはらうの大進化の生命潮流が、どこに向かうか も、このシステムによる。つまり、ワニ は、さすがのマッド・ サイエンティスト 岬兄悟著 の遺伝情報の一部が、ウイルスによる水のワトソンも言及しない。自称乱学 平遺伝で、バッタに渡ったと暗示してい者の私は、敢えて言ってしまう。生命は る。アナタ、信じられますか。ぜひ、遺宇宙へ向かう 『バルーン・バルーン』 伝子分析をやってほしい それというのも、ワトソンは、宇宙空 ぼくたちの夢も、その奥のところで、 間での生侖発生を、有機高分子レベルに 全生物の集団的無意識であるコンティジとどめ、生の形態は、地球の「土」によ エント・システムに通底し、共振してい って刻印された、としている。しかし、 三井継 2
′レタ栗本薫 完璧 0 理想社会 0 虚像 0 、 0 = 、ダ 0 存在 0 、 0 、崩 000 0 た ! ・中昇 2 2 2
トリノやその他もろもろの媒体によ らて″レーダ的に″ つまり反射 を利用してーー能動的に観測した 場合、どのような観測像がえられる か、そしてそれが前記①や②とどの ように関係するか ? という項目である。 はっきり言って、この三つの事項は、 きわめて的な問題であるにもかかわ らず、じっさいにはこれまでほとんど、 系統的に調べられたり、まとめられたり したことはなかった。 これは、、 ノード好きな私にとって は、一七年前にを読みはじめたとき からむこ ーいだいていた疑問であり不満で あった。 ″宇宙船テーマ″を描く作家の主要 な関心事は、その最初期の時代から、宇 宙船内の人々の心理やそこに形成される 異様な社会であって、物理学的な背景の 博異世界性ではなか 0 た。 原 しかし私の考えでは、すくなくともハ 1 ドにおいては、心理や生理や社会 学の他に、そのパックグラウンドとして ″物理学的異世界性″というものが明確 になっているほうが望ましい。そしてま D ロ ードでなくとも、その たたとえハ ″物理学的異世界性″の地球人の世界像 との差 ( 世界認識の差 ) が、心理や社会 の異質性に大きな影響を与えるであろう ことを無視する必要はないのではないか と考えたのだ。 ( むろんこの物理的問題のほかに、宇宙 船テーマについては技術的問題ーー・・すな わちメカの問題ーーーが別に存在し、それ に対するア。フローチも行ってきたわけで あるが、ここではちょっときりはなすこ とにしよう ) で、とにかくそういう問題意識のもと に、私の Z 作業ははじまった。 そして第一にすすめたのが前記① ~ ③ のうちの①である。 ①の遂行結果は、もう十何年もかかっ て、本誌に発表してきた。その一例は 『星虹』の解析や、『星虹』を。ハソコン に描くための ( オヤジの頭は — O ! ) の発表である。 現在、①についてはまあまあというと ころまですすんでいる。 そこで、つぎはいよいよ②にうつりま しよう というのが、″その 1 〃の主 題たった。 ″その 2 ″は本年一月号であるが、そこ 3 9
「待ってくれ、おれには、よくわからんが、おまえたちが通り抜けいはそれはマイダスに関ることだったのかもしれない。もちろん、 たレンケを亡ぼすことで、教主様の計算は終っているんじゃないマイダスが教主という存在のことを知っているという前提が必要た か ? 」 が、この世界の教主と、キリイたちのマイダスの間に、何かがあっ ウ = イルが答え、キリイは考え込んた。つまり教主のやっているたのではないか ? あまりにも飛躍した結論だろうか ? だが、それ以外に何がありうるだろう。そしてキリイは思う。 ことは、この惑星の人口をコントロールしているということだ。マ ナしマイダスは、我々にどのような役割を持たせようとしたの イダスの過密な世界を見た目には、あまりにも余裕にあふれているつこ、、 この世界も、教主にとっては、もはや充分すぎるほどの人がいるとか ? アレクサンドロス人たちを探し求めるというのが、彼らが当 初知らされていた使命だ。けれども、本当にそれしかなかったのだ いうことなのだろう。 ろうか ? 自分たちは、気がっかぬうちに、マイダスの言いなりに 「たぶん、それはキリイがいるからでしようね」 動き、教主という存在は、自分たちを殺すことを決意したのではな モーネは事も無げに言った。 かったか。そうたとしたら、自分たちは、マイダスと教主との争い 「キリイを殺すために、ガイを派遣してきたとでもいうのか ? 」 ウェイルが、モーネをにらみつけた。モーネは平然とうなすいの中に巻きこまれたというにすぎない。 そのために何人もが死んでいったのだ。そしておそらくは、ガイ の中にいたというアシュロンの姿は、教主という存在が、マイダス 「どうしてだ ? 彼が天の外からやってきたからか ? 」 「あるいはね」 の人間の一人一人を憎んでいるのでも、亡ぼそうとしているのでも 「そいつは妙だぜ。モーネ、おまえも知っているとおり、天人たちなく、マイダスを捨て去るのなら、それなりの生き方を与えてもら の都市の奴らは、自分たちの祖先が天からやってきたものだと信じえるというしるしということではなかったか。 ている。それでも、教主様は、奴らにも救いの手を伸ばしていらっ そしてキリイは、自分がヴィトグにとどまらないかというラダた しやるじゃないか」 ちの申し出を拒否した形になっていることを思い出した。自分が、 「それはそうね。でも、キリイ自身に尋ねてみた方がいいんじゃなそのような人間であることを、教主は熟知しているのか ? そし て、生命を奪う以外、ないと決定したのか ? くって ? 何か教主に狙われるようなことをしたかどうか」 だが、そう考えてみたところで、どうすることもできない謎が残 モーネとウェイルが、キリイを見た。だが、キリイには、何の覚 えもない。何をするひまもなかった。最初の不時着さえ、教主のカる。つまり、キリイ自身、自分に何ができるのか、何をしたのか、 によるものだとしたら、彼らが何かする前に、すでに教主の標的にまるで見当がっかなかったのだ。マイダスが、キリイに何かさせよ なっていたことになる。 うとしたのだとしても、キリイ自身、それを自分がやったとは思え 4 そのとき、唯一残された可能性を思いついた。マイダスた。あるないのた。
中で居すくんでいたのは、時間にすればたった四、五分のことでし 一瞬のうちにそうしたあらゆる思い、惑乱、認識、が・ほくをおそ かなかったたろう。 この期に及んですら、・ほくはまだ、もういちど目をとして、それってとおり過ぎ ともかくも・ほくがどうにか、・ハラバラになった・目分をとりとめよ を開きさえすれば、すべてが夢にすぎなかったことがわかるのでは ないかという、そんな気がしてならないのだった。ほんとうに大切うとよわよわしくあがいていたときだった。 するどい叫び声のようなものが・ほくの耳をつらぬき な、何ものにもかえがたいほど大切に思っているひとを目の前で、 そして・ほくを、もういちど、・ハラ・ハラにしたー 唐突に、理不尽にうばわれた経験のある人間でなくては、とうて このしつこい非現実の感じ、ともすれば心があらぬかたへとさ「ああ ! 」 うしろに青白い夜の空を背負って、だれかが立っていた。 まよい出てしまう感しはわかってもらえないだろうと思う。目のま レダ。 えでいとしい大好きなものが動かなくなり、一瞬前まで剌とうご いて生きて自分の思いをうけとめていたものが、あっというまに単 ばくの頭は再びしびれ、思考力はすべて失われ、そして、・ほくは なる物体にすぎなくなり、呼べど叫べどもう二度と目をひらくこと ただ、身動きすることすら忘れて見つめるだけの存在と化してい がなくなってしまうということ 人間は、どうしても、その思いに馴れることができないのだ。あ レダはそこに立っていた。少し高くなった丘の上に、復讐の女神 まりにも唐突で、あまりにも理不尽で、あまりにも圧倒的でーーーそさながらに立ち、両手をだらりと垂らし、きよう・ほくと別れたとき と同じ ( ああ ! あれからいったい、何千年もの時間がすぎてしま れは人間の本質に対する侮辱にさえ思われてしまう。 ったことだろう ! ) 無造作な服装で、双の目ばかりを異様にぎら だが、それは誰にでも起こりうることなのだ。人は自分にそれが かぶさってくるまでは決して自分にもそういうことがおこるだろうぎらと光らせて。 とは思わない。そして起こると、なぜ自分にだけそんなことがおこ ( レダ ) るのかとすべてを呪って泣きさわぐ。 ・ほくがもし、ふつうの判断力をもち、声を出すことができたら、 。ほくもまた、そうしたおろかな、盲目な存在にすぎなかった。自・ほくは叫んでいたたろう。 こんなところへ来るんじゃな 分にだけは何も起こらぬと信じていて、起こるとなぜ自分にだけと ( レダ、見るな。見ちゃいけない。 大いなるものをのろう小さな、有限な存在。 。あっちへ行っておいで ) ( ファン ) 何ゆえかは知らず、・ほくには、それがレダに耐えられないという いまになってさえ、・ほくはまだ、ファンが目をひらいて立ちあが こと、それがレダの見てもならず、ぶつかってもならぬたぐいのこ り、尾をふって・ほくに鼻づらをすりよせてくるとしか思えないのとがらだ、ということが、アウラに云われでもしたみたいにはっき 229
あなたの 死が ントーの 死の夢の 流れを変える ひきかねに なる」は 思わなかった ントーカ あなたを ここへ送り あなたは 帰ってきた あなたの川辺へ むしろあなたをともかく 殺すまいと 苦心していたのに ほす運 けての ほパ結た糸 どンびのが ( 識を ントーよ 歌を見つけたら っしょに帰ろ - っと いなくなった あなたは を夢を見ていた いなくなった : どこへいっこ・ ントーは いなかった どこへも もともと 存在 しなかった ー 30
SF レヒ三ウ 舞台は北部ニューメキシコで暮らす国際済者のイメージにせよ、の根源を生も、それはあくまで我々に密着したシリ 精神感応者連盟会長リチャード・ギーズき生きと甦らせてくれるのがこの作品のアスな〈時代〉であり〈現代〉〈同時代〉 の家庭に移る。彼は息子デニスの緊張病身上だが、ではゼラズニイの十番だつを形成してきた〈歴史〉である点におい に悩まされていたが、療法士リディアのた方法論意識は全く消え失せてしまったて、作者の生きる現実そのものへの問題 努力で判明したのは、実はデニスは地球のか、といえば決してそんなことはな意識がメッセージとして感じとられるか 上に関する限り超空間的な感応力の持ち 。『わが名はコンラッド』『光の王』でらに他ならない。 主であるものの、年齢不足のため、より神話世界を、『 ドリームマスター』『砂の では、具体的に、かような意味を荷な 強大な精神力を持っロデリック・リーシ なかの扉』で文学世界を素材化したゼラわされた〈時間〉を、作者はいかに解決 チャイルド・オヴ・アース ュマンなる O ・ 0 ・ ( 自然保護団体 ) ズニイが、今度は歴史世界を素材化して、しようとしたのか。本作品での〈時間〉 の男ーーーしかもその主張するところからしかもそれら他作品での技法的成果も充はまず黒い男のロより「人間が背後に残 二件も殺人を犯している暗殺者ーーによ分応用した上で昇華させているのは、導す灰の橋」として概念化されるが、それ って人格構造を支配されてしまっている入部、後にデニスが集合的無意識の形成はやはり、結末でデニスが認識する通 ということだった。ロデリックの死後、因として同時存在化させる多様な歴史的り、「過去が決して我々の手から奪われ ロマノティック・ヒーロー デニスは緊張病の上、夢遊病まで併発人物像、それも悲劇的英雄としての性てはいない、燃えっきて灰ばかりになっ し、空間をとびこえて多様な代理体験を格を持った彼らを描くときの鮮やかなタた橋ではなく、ひとつのひらけた道であ 志向する。第三部。治療のため月の施設ッチにも明らかだ。もとよりゼラズニイること」として止揚されねばならぬもの に人れられたデニスは、空間的有感範囲において、多様統一者としての象徴は事だ。そのためには、旧来の静止的な神話 を閉ざされたため、今度は超時間の能力物よりも人物の形で提出されるのが常で的時間 ( 作中では異星人〔Ⅱ神〕支配下 を拡充し、過去の歴史的人物ーーアルキあり、ここでもその定石がふまれて正調の人類史 ) は打破されカ動的な歴史的時 メデス、コンドルセ、レオナルド・ダ ゼラズニイ節は健在である。 司 ( 異星人支配を退ける人類独自の有機 ヴィンチーー・のアイデンティティーに同 が、それでもなお、・私がこれを方法の的歴史 ) が獲得される必要がある。そこ 化してみせる。そして第四部。彼はいよ作品というよりは理念の産物と思うので、人類史を一身に共時化しうる能力を いよ地球へ帰還し、ソマリア海岸で黒い は、例えば同じく時間を主題化し、共時持った超人の存在日デニスが不可欠のも 男と邂逅して異星人と対決する。そし的ヴィジョンを提出したものでも、『ロ のとなったのであった。ゆえに、本書表 て、その過程において、彼自身、自らの ードマークス』では、フォークナー以降題はまことに逆説的ながら、むしろ克服 人生がまさにこの時、人類救済の一瞬のの二重小説的フラッシュ・ ( ックを活用しされるべき神話の方を示唆しているのだ ために仕組まれていたことを実感するにて、あくまで客観的方法論の側から遊戯が、作者が究極的に目論んだのは、やは 至るのである。 的に理念が囲い込まれていく一方、『燃り再神話化としての人類史創造、ゼラズ 以上、人類飼育テーマにせよ超人的救えっきた橋』になると、時間は時間でニイ好みのモチーフで換言するならば、 0