教主 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1982年6月号
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1. SFマガジン 1982年6月号

「待ってくれ、おれには、よくわからんが、おまえたちが通り抜けいはそれはマイダスに関ることだったのかもしれない。もちろん、 たレンケを亡ぼすことで、教主様の計算は終っているんじゃないマイダスが教主という存在のことを知っているという前提が必要た か ? 」 が、この世界の教主と、キリイたちのマイダスの間に、何かがあっ ウ = イルが答え、キリイは考え込んた。つまり教主のやっているたのではないか ? あまりにも飛躍した結論だろうか ? だが、それ以外に何がありうるだろう。そしてキリイは思う。 ことは、この惑星の人口をコントロールしているということだ。マ ナしマイダスは、我々にどのような役割を持たせようとしたの イダスの過密な世界を見た目には、あまりにも余裕にあふれているつこ、、 この世界も、教主にとっては、もはや充分すぎるほどの人がいるとか ? アレクサンドロス人たちを探し求めるというのが、彼らが当 初知らされていた使命だ。けれども、本当にそれしかなかったのだ いうことなのだろう。 ろうか ? 自分たちは、気がっかぬうちに、マイダスの言いなりに 「たぶん、それはキリイがいるからでしようね」 動き、教主という存在は、自分たちを殺すことを決意したのではな モーネは事も無げに言った。 かったか。そうたとしたら、自分たちは、マイダスと教主との争い 「キリイを殺すために、ガイを派遣してきたとでもいうのか ? 」 ウェイルが、モーネをにらみつけた。モーネは平然とうなすいの中に巻きこまれたというにすぎない。 そのために何人もが死んでいったのだ。そしておそらくは、ガイ の中にいたというアシュロンの姿は、教主という存在が、マイダス 「どうしてだ ? 彼が天の外からやってきたからか ? 」 「あるいはね」 の人間の一人一人を憎んでいるのでも、亡ぼそうとしているのでも 「そいつは妙だぜ。モーネ、おまえも知っているとおり、天人たちなく、マイダスを捨て去るのなら、それなりの生き方を与えてもら の都市の奴らは、自分たちの祖先が天からやってきたものだと信じえるというしるしということではなかったか。 ている。それでも、教主様は、奴らにも救いの手を伸ばしていらっ そしてキリイは、自分がヴィトグにとどまらないかというラダた しやるじゃないか」 ちの申し出を拒否した形になっていることを思い出した。自分が、 「それはそうね。でも、キリイ自身に尋ねてみた方がいいんじゃなそのような人間であることを、教主は熟知しているのか ? そし て、生命を奪う以外、ないと決定したのか ? くって ? 何か教主に狙われるようなことをしたかどうか」 だが、そう考えてみたところで、どうすることもできない謎が残 モーネとウェイルが、キリイを見た。だが、キリイには、何の覚 えもない。何をするひまもなかった。最初の不時着さえ、教主のカる。つまり、キリイ自身、自分に何ができるのか、何をしたのか、 によるものだとしたら、彼らが何かする前に、すでに教主の標的にまるで見当がっかなかったのだ。マイダスが、キリイに何かさせよ なっていたことになる。 うとしたのだとしても、キリイ自身、それを自分がやったとは思え 4 そのとき、唯一残された可能性を思いついた。マイダスた。あるないのた。

2. SFマガジン 1982年6月号

つの謎が解けかけるのを感した。だが、それはすぐにもっと大きな「アシ、ロンと他のガイの奴らの関係は、どんなものだった ? ・ 謎を造り出すことに気付いた。その教主は、この世界の都市をすべ 「そこまでは見てとれなかった。でも、アシュロンは、何人かのガ 4 て支配し、文明を造り出し、・秩序を保っていながら、同時に、それイの戦士を指揮しているようにも見えた」 を破壊して回っていることになるではないか。 キリイが、尋き返そうとしたとき、ウェイルが言った。 そして、この世界の住民たちは、ウェイルもモーネも含めて、自「キリイ、そいつはありうることさ。ガイの中には、ガイに亡・ほさ 分たちが、教主様に救いを求めながら、同時に亡ぼされることも、れた都市の人間もかなりいるということだからな」 当然のことと受け止めている。かといって、教主の意志が絶対とい 「ガイは、もともとどういう集団なんた ? 」 うことでもない。ガイを追い払うためには、どのような犠牲を払う その長い間気になっていた問いを発するには、今以上の好機はな ことも辞さないのた。 いと思えた。 そこに矛盾が生していることには、まるで気付いていない。 「私が答えるわ。ガイはガイよ。教主様が生み出した戦士たちょ。 「それと、キリイ、さっきのことたけれども、私が意識を失う寸前中には、ウ = イルが言ったように、本来、ガイではない者たちもい に、あの、何といったかしら、あなたの仲間の腕を失った人の姿をるかもしれないけれど、本当のガイは教主様のものだわ、その数は 見たわ」 昔からまったく変っていないことになっている。いつも同じだけの 「アシュロンか」 数のガイが、いるのよ。私たちと同じように」 「そうよ、彼よ。彼がいたわ」 「君たちと同じように ? 」 「どこにフ・」 「そうよ、私たちの数は変ってはいないわ。もちろん、若干のその 時その時の増減はある。でも、たとえばヴィトグの人間の数は、ほ 「ガイの中にいた。ガイの鎧を着て、レクサに向かっていたわ」 「アシュロンが、ガイにフ・」 とんど一定なのよ、そうじゃなければ、ヴィトグの街は、亡ぼされ 「見間違いじゃない。たしかにアシュロンだった。何人もの部下をるわ」 指揮しているように見えたわ」 「今度のガイの攻撃も、そういう原因があったのか ? 」 どういうことか ? キリイが考えついたのは、アシュロンが正体「なかったとは言わない。たしかに住民の数は増え気味だった。た を隠して、ガイの中に潜り込んでいるという程度のことた。たが、 が、教主様の怒りを買うほどじゃなかった」 はたして教主というほとんど全智全能の存在が、それを黙認してい 「でもウェイル、ことはそう単純じゃないのよ。一つの都市での人 るたろうか。 人の増加が、僅かなものでも、それと同しことが幾つもの都市で起 それよりも、教主が何らかの目的でアシ、ロンをガイの中に置いきていたら、教主様は、どこか一つの都市を選んでガイをさしなけ ているという方がありうるたろう。 るわ」

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れに、数十人もの人影が姿を現わした。ロールは、その姿を見て息クサンドロスだけではなく、マイダスまでも動きはじめたのだ。 を呑んた。な・せなら、その数十人の男たちょ、、・ ーしすれも寸分変るこ それは、教主そのものが生まれた時代以前に起きた事件の遙かに となく、まったく同じ人間の複製のように見えたからだ。 離れた揺り返しだった。教主は、自分の内部に、現在、起きつつあ 「何なの ? あれは」 る一連の出米事を予期している部分があるのを承知していた。 「わからない、畜生、わかってたまるか」 マイダスもアレクサンドロスも、あらかじめ想定された計画を、 ロールとメリンは、あわただしく会話を交した。だが、何の説明今、忠実に実行しはじめたのだ。だが、自分の分身に異なった論理 も思いっかなかった。男たちは、ゆっくりと飛行艇に歩み寄ってく体系、一一一口語体系を持った教主は、常に、自分の内部を点検し修復す る。ロールは、ためらうことなく、男たちにプラスターの白熱光をる能力を与えられていた。そのために、これほどの年月を経過した 浴びせた。だが、すぐかわりの男たちが姿を現わすのだ。何度か繰あとであれば、単一の論理の中で、原型を保持し続けることのでき たアレクサンドロスやマイダスとは異なった形を取りはじめてい り返す内に、ロールの全身は冷汗でぐっしよりとなった。 何のために、奴らは無駄な死を繰り返すのだ ? そう思った途た。それは、教主たちが生まれ、それそれの世界を与えられてか ら、ほんの数千年後に、交信が不可能になるほどの差を持ちはじめ 端、ロールは男たちの狙いを悟った。 ていたのだ。 「メリン ! 後ろた、後ろを見てくれ ! 」 だが、もう遅すぎた。凄ましい衝撃と共に、後部に何かが落下し教主は、自分がマイダスやアレクサンドロスと、その初めの時代 てきた。飛行艇の前部は跳ね上がり、再び地上に落ちた。その衝撃のように交わることがあれば、お互いの世界が破減的な影響を受け ることを承知していた。そして、そうなることが、自分の存在理由 にメリンとロールは意識を失った。 男たちは、メリンとロールの身体を飛行艇から引きずり出し、岩であることも承知していた。自分は常に動いていなければならな 。それが来たるべき時のために必要なことだった。 山の中に運び込んだ。そこは、教主と呼ばれる存在が直接、支配す る場所だった。寸分たがわぬ姿形をした男たちは無言のまま、巨大ほんの数十個の恒星と、五十余の惑星だけが、本来の宇宙ではな いことを、いつも思っていた。だが、それは人々に明かしてはなら な広間の中央に、二人の身体を置き去りにした。 ないことたった。彼らは、遙かなる過去に、種子として、この小宇 そして教主は、二人の身体から必要な情報をすべて取り出した。宙に送り込まれたのだ。真の宇宙が、今はどのようになっているの それを聖母と天を通して、集めた情報と比較し、分析した。すべてか、それは教主の思考する範囲の外にあった。知る必要のないこと 。こっこ 0 はほんの一瞬の出来事だった。そして、この数千年の間で初めて、 東大陸にいる自分の分身に交信を求めた。 教主は、マイダスとアレクサンドロスに対して、敵であると認識 そうするだけの重要性が、教主の得た情報にはあったのだ。アレすると共に、重要な味方であることも認認していた。その二つは、 24

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「あるわ。それから、ガイが、三人の他国者に乗取られたレクサをとを可能にするのは、奴らしかいない。それと同時に、ウ = イルが 身体をこわばらせるのを感じた。ウェイルがどう出るか、キリイは 消し去るために政撃したのよ。そしてーーー」 ヴィトグにおける最良の友の顔を見た。 「どうしたのた ? 」 ウ = イルが、割り込んだ。モーネの話が、どうやらヴィトグの運ウ = イルの顔にはいかなる表情も浮かんでいなかった。キリイ の目をしっと見つめ返す。 命とも連なってくることに気付いたのだ。 「そして、ガイは破れたわ。その三人に操られたレクサの住民たち「教主様は、すっとおまえを狙っていたんたな」 ウェイルが言った。 は、火を自在に使うらしい。ガイの第一陣は、全減した」 キリイは言葉を失った。そしてモ 1 ネの話に潜んでいる情報は明「これからは、もっと用心しなければならないそ。おれたちもでき らかだった。つまり、レクサを崩壊に導いた三人の男女がもたらしるたけのことをするが、おまえも気をつけてくれなければ、どうし ようもない」 たものは、この惑星にはあってはならない技術を元にしているとい 、つこ」に。 「ああ、用心しよう」 キリイは答えた。それ以上、何の説明も必要としないたろう。ウ 「それで、教主様はあれほどお怒りになったってわけか ? 」 ェイルは、たとえ教主という存在からの命令があろうとも、キリイ ウェイルが尋ねた。 「怒る ? 私がこれまで感じたことのないほどの力が働いていたを守るために全力を注いでくれるだろう。 モーネが、身体を起こし、ウェイルに向かいあった。 わ。キリイがいなければ、私はあのまま意識を失い続けていた。今 は、少しおさまってはいるけれども、私が心の平衡を失えば、また「ありがとう、ウェイル」 同しようなことになる」 ウェイルが顔を赤らめた。唐突に礼を言われて、どきまぎしてい るのが、はっきりとわかる。キリイとモーネが笑い声をあげた。ウ モーネは、身震いした。 「そしてキリイ、あなたは狙われている。教主様は、あなたを自分 = イルもそれに加わった。 「わかったそ、キリイ、どうして奴らが引き上げていったのか ! 」 のもとに召し出そうとしているわ」 突然、ウェイルが叫んた。 「どうしてた ? 」 「ああ、そうだな。ガイは、レクサを攻めるために全力を尽してい キリイは、モーネの回答が危険なものになることを予感したが、 るんたー 尋ねすにはいられなかった。 「それは、キリイ、そのレクサを亡ぼした三人の内の何人かが、あ「そうよ、教主様は、御自分の力をすべて合わせてでも、レクサの 三人を殺そうとしている」 なたと同じように、 この世界の人間ではなかったからよ」 ガイを動かしているのは、教主という存在なのた。キリイは、一 アレクサンドロスた ! キリイは直感的に思った。そのようなこ

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まったく矛盾することなく、教主の中に存在していた。それは教主だてたのかもしれない。 何度かの夜が過ぎた朝、モーネが話しかけてきた。 と、その東大陸の分身にのみ許されたことだ。 「キリイ、レクサが陥ちたわ」 だが、自分たちの世界がこの小宇宙を支配することになるのか、 すなわち種子として完成することになるのか、あるいは「イダスや「また教主様か ? 」 「たぶん」 アレクサンドロスの系列の世界が、その役割を荷うのかという点に なれば、どうあ 0 ても自分の世界をそのようにすべきだと思うだけ「なぜ、おまえが、そんなに情報を与えられるんだ ? 」 の個性を与えられていた。そして、自分の世界の人間たちが、自己「わからない。あなたとい「しょだからかもしれない」 に忠実に動くことを黙認していた。彼らは、常に自分の内に異分子キリイは、それはモ 1 ネを通じて教主が自分を監視しているとい を抱えていなければならない。そして他からの影響は、拒否しなけう意味にも取れることを告げようとしたが、思いとどま「た。モー ネには、自分には理解できない何かがいつも存在している。彼女が ればならない。それが教主の基本となる思考だった。 どのような反応を示すか、想像できなかったからだ。 東大陸の分身が、交信を拒否してきたときには、驚きもした。だ 「アレクサンドロスの奴はどうしている ? 」 が、それはありうることだと考えた。 けれども、明らかに東大陸の分身がアレクサンドロスと手を組「逃げ出したわ。仲間といっしょに」 み、こちらの世界を破壊しにかかったと知ったときには、事態が自「なるほどな、で、アシ = ロンは ? 」 分の予想を越えて進んでいることを思い知ったのだ。凄まじい破壊「彼らを追っている。少なくとも、そのように感し取れた」 衝動をおさえつけるために、何百という安全装置が吹き飛んだ。教また会話が途切れた。 主は、今、ようやく自分を取り戻しつつあった。そして自分の世界「どうするつもり ? 」 に潜り込んできた外部の因子をどのように処理すべきか、考えはじ「とりあえず、レクサへ行く必要はなくなったわけか」 モ 1 ネがうなずいた。 めた。本当の戦いは、これからはじまるのだ。それには時間がかか 「だからといって、ヴィトグへ戻るわけにはいくまい。アレクサン るだろう。それは理想の種子を造り出すためには、必要な時間だ。 そして、そのための最初の種子を、造り出すべきた、教主は思考のドロスの男か、アシロンか、どちらかに出会うまでは、旅を続け るとするか」 中に沈みはじめた。 「わかったわ。長くなるかもしれない」 キリイとモーネの旅は最初はぎごちないものだ「た。共に、自分次にモーネが話しかけてきたのは、三日ほどしてからだ「た。 「ローダが、ヴィトグに着いたわ。ウェイルと会ったらしい」 の殻の中に閉じ籠もり続けた。初めての旅の時には、歩いた。だ そのときからだった、モ 1 ネの側の垣根がなくなったのは。そし ; 、今はメルの上だ。あるいは、そうしたことも、二人の感情をへ ー 55

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考えてみるまでもなく、自分がこれまでやってきたことは、この ウェイルは、控え目にではあったが、キリイの言葉に賛成した。 惑星の上をさまよっただけだ。その中で、幾つもの破壊に立ち会っウ = イル自身、モ 1 ネがシタルであることを放棄したことには、衝 てきた。それは、あるいはこの変動を好まぬ世界にあっては、異常撃を感じていたのだ。 なことであるのかもしれない。だが、この最後のヴィトグを除い だが、モーネはちがった。キリイの意見を聴いてから、ゆっくり て、自分が原因とは思えない。 と話しはじめた。 「どうしたの、キリイ ? 何か、思いついたの」 「ちがうわ、キリイ。あなたの考えはまちがっている。教主様は、 モーネが、キリイの肩を揺すった。 私一人を失うことなど、何とも思っていらっしやらないわ。キリ 「いや、どう考えても、おれにはわからないな。たぶん、おれがマイ、あなたたちが、教主様によって亡・ほされようとしたのは、そん イダスの人間であるということが最大の理由だろうな」 なことじゃなくて、もっと大きな理由がある筈よ。もっと大きな、 そう言った途端、自分が、仲間の他の誰よりも、この惑星に大きあるいは、レクサを亡・ほした三人の者のやったことより、もっと大 な影響を与えている可能性に思い当った。モーネだ。あの老いたシきなことがある筈だわ」 タルは何と言ったか、モーネが自らの意志でマ】シュのシタルとな モーネは言葉を切って、キリイを見た。気がつくたびに、モーネ る資格を放棄したと言ったのではなかったか。それは、マーシュとは少女時代を抜けて、女に近付いていく。キリイは、思った。 う都市が再びこの惑星の上に生まれる可能性を遠のかせたことに 「たとえば、あなたとあなたの仲間の人たち、そしてあなたと同じ なる。 ように外の世界から来た男、そして東の土地からやってきた男と女 この教主という存在が何であれ、たとえば、マイダスそのものと 同じような存在であり、この世界を支配しているのだとすれば、自そこでウ = イルが息を呑むのがわかった。 分の計画の進行を妨害する者は徹底的に排除しようとするだろう。 「東の土地からやってきた者がいるのか ? あの大海を越えて ? 」 そしてキリイは、まさに妨害物だったのだ。 ウェイルの言葉には、驚き以上の畏れがあった。モーネはうなす キリイは、とりあえす、自分の得た結論で満足しようとした。皮 肉なものた、おそらくは仲間たちの中で、もっともマイダスから離「レクサを亡ぼした三人の内の二人は、東の土地の者だわ。その二 れて、この世界に何の影響も与えまいとしていた自分が、多くの影人は、外の世界から来た男の味方になっている」 響を及ぼしてしまう結果になるとは。 モーネは、何か問いかけるように、キリイを見た。 キリイは、自分の考えたことを、モーネとウェイルに語った。お 「ならば、その二人は、おれの敵になる」 そらくはウェイルには語るべきことではなかったかもしれないが 「教主様にとっても敵になるわ。あなたも敵になるのでしようけれ 彼の意見も知りたかったのた。 ど」

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言葉は一つだけしかない。どのようなも、このようなも、ないでは 「東の土地というのは、教主様と敵対関係にあるわけか ? / し、刀 キリイは思いがけぬ情報に、問い返した。 「どういう意味だ ? 」 「そうだ、おれたちがこの土地に生まれてくる遙か昔からの敵が、 ウェイルもまたとまどった。どういう意味も、こういう意味もな あの土地を支配していると聞いている」 。彼らはアシアムを知らないのか。 ウェイルが答えた。それでは、教主という存在は、この惑星をす 「それはだな、つまり、おれたちと同じ言葉を使うのか、それとも べて支配しているわけではないのだ。 「こんなに幾つもの力が、今、この土地で出会うということに、何別の言葉かということだ」 か意味を感じてもいいのじゃないかと、私は思う。そして、キリ 我ながら、うまい言い回しだと、ウェイルは思った。 イ、あなたのことも、その中で考えるべきだわ。それはあなたと私「おれたちとは別の言葉 ? 」 キリイは言った。それは彼の頭の中にはない概念だった。 たちのことだけではなく、あなたと私たちを含むもっと大きなもの に関わることが、今、起きているような気がする。キリイ、あなた「どういう意味だかわからないが、アレクサンドロスの奴らは、お と教主様のことは、その中で考えることの筈よ」 れたちと同じ言葉をしゃべる。当り前じゃないか」 キリイは、ほとんど呆然としながら、モーネの言葉を聞いてい 「わかった。だが、モーネ、そうなると妙だな。言葉の戦いはなか た。それは、このちつぼけな惑星の一つの都市で老人たちに育てらったのだろうか ? 」 れた未開人の娘がロにできることではなかった。そこには広がりが「なかったことになるわね。そのアレクサンドロスの男は、アシア あった。分析があった。全体を全体としてとらえる閃きがあった。 ムをしゃべっていたことになる」 そして、それこそ、現在のキリイが失いつつあったものだったの 「男がシタルになれるとは、考えられないしな、妙なことだ」 二人の会話は、キリイには、意味をなさないことばかりだった。 別の言葉 ? アシアム ? そして、キリイの心は、二人の会話から けれども、シタルというものを知るウェイルにしてみれば、モー ネのその程度の言葉では驚きには値しなかった。それは当然のこと離れ、これからどうすべきかを考えはじめた。モ 1 ネの言葉が、起 なのだ。そして、ウ = イルは、それ以上に気にかかっていることを爆剤となったのはたしかだった。自分の考えが狭い範囲に押し込め られていたことがわかったのだ。 口にした。 どうすべきか ? レクサに向かおう。キリイは心を決めた。そこ 「キリイ、おまえの敵である外の世界からやってきた男というの に自分が行けば、とりあえずのすべての力がそこで揃うことになる。 は、どのような一言葉をしゃべる ? 」 そこで何が起こるか、それを知りたいと思った。 キリイは、とまどった。というよりも、ウェイルの質問の意味を 「決心がついたようね ? 」 取りかねたのだ。どのような言葉 ? それに何の意味があるのた。 0 - 」 0 、、 0 ー 45

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て、キリイの側の壁もしたいに薄れていった。モーネの顔に笑顔が 戻りはじめた。 幾つもの都市を通り抜けていった。メルも何度か取り替えた。最 初は、兄妹のように思われていた二人も、しばらくすると、夫婦者 として扱われることが多くなった。それにしては若すぎるのだが、 二人の様子は、明らかにその種の関係に近くなっていたのだ。 二人が一つの寝台を共にするようになったのは、それからほどな くしてからだった。それが教主の計画の始まりだった。マイダスへ の報復の第一歩だった。だが、モーネもそれを知らなかったし、キ リイも、そのことを考えてもいなかった。とりあず、二人は幸せだ ったのだ。モーネは、自分たちのことは、教主様も知っていると、 キイリに告げた。キリイは、そのことを深く考えることはしなかっ た。教主というものの限界を知ったように思ったからだ。 「奴らが追ってくるかぎり、レクサのようなわけにはいかないな」 エルワースは荒々しげに言った。都市の明りが見える草原の中 で、たき火を囲んでいた。 「ああ、とくにあの片腕の男が邪魔た。おれたちのやることを予期 しているように先回りしてくる」 「でも、あの男は、何を考えているんだろう。私たちのやることを 邪魔するといっても、直接、政撃してくるわけじゃない。私たちが 都市に入ると、都市の奴らから見えるように、城壁の外に姿を現わ すだけよ。そして、それに気付いた都市の人間たちが、私たちを疑 いはじめるってわけよ」 暴動の寸前まで行った都市は幾つかあった。だが、レクサのよう に完全に成功したものはなかったのだ。ムザクがいら立ちはじめて 最初は一年間のつもりでした。 それがここまで来ました。どちら かと言えば、楽しませてもらった という気がします。毎回、時間と の競争でそれはつらかったのです が、それを待っ編集部の人々の方 が、もっときっかった筈です。何 しろ、書いている内に、話が勝手 に動いていくのですから、まるで 先が見えないのです。作者がそれ ですから、周囲の人は、たまったものじゃない。そう思います、本 当に御苦労様でした。 自分の書いたもののことを書くのは、本当に苦手なのですが、当 り前のを別の形で書いてみたかったのです。何もわからない状 態をそのままにして、話を造ってみたかったのです。この話の中 で、全体を見ている者は、誰もいない筈です。だから、この話は、 部分だけから出来ている筈です。つまり、それは・ほく自身が世界を 見ている状態に近かったのではないか、そんな気がします。誰もが 自分の目で世界を見て、自分なりの結論を得るでしよう。それはそ れで皆、正しいのです。勝手に迷路を歩いているようなものです。 より良き迷路が出来ていれば、と思います。 この話には続きがあります。一度、終ったところから、話を続け たいと、最初から思っていました。でも、さすがにへばりました。 今は予告だけにさせておいて下さい。真相なんて、この話にはない のですが、次はこの登場人物たちの子供たちの話になる予感がしま す。たぶん彼らが、別の観点を造ってくれる筈です。 とにかく終ってしまいました。やりたかったことの半分もやれな かったように思います。それでもまあ、ここまで来たのですから、 満足しておくよりありません。長い間、ありがとうございました。 連載を終えて に 6

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が巨大な振動にとらえられ、次の瞬間には床に転がされていた。 あの若者を救い出すために、何かしなければならない。ウェイル ウェイルは、この奇怪な現 立ち上がろうともがいたが、それは不可能だった。かすみかけたの頭は、必死で回転した。モーネだー 視界の中に、一本の手がさし出されているのが見えた。ウェイル象の原因を思いついた。これがあまりにも凄まじいものであったの は、その手の方向に、身をよじるようにして這った。何度、突き転で、考えっかなかったのだが、シタルになる娘には、しばしばこう した怪奇現象がっきまとうということを聞いた覚えがあった。それ がされたか、わからない。ほんのひとまたぎのところにあるのは、 わかっているのだが、その手に手を伸ばすことさえ、できないのだ。は、その娘が教主様の力を伝える能力を持っていることのしるしな ウェイル ~ こよ永遠と思えた頃、突然、誰かの手がウェイルの手をのだ。 モーネは、すっかり意識を失っているようだった。とにかく、モ み、次の瞬間には固い床の上に転がっていた。ウェイルはあえぎ 】ネを目覚めさせるのだ。 ながら、身体を起こす。廊下だった。兵士たちが心配そうに見降し 「キリイ ! モーネを目覚ませろ ! これを止めることができるの ている。 は、彼女だけだ。彼女の力が必要なんだ ! わかっているのか ? 「大丈夫ですか、隊長 ! 」 キリイ ! 」 ウェイルは、自分がロッシと同じ隊長に昇格していたことを思い 出した。そしてロッシがいつも冷静さを失うことがなかったのを思 キリイの頭が持ち上がった。戸口の方を見ている。やがて、モー い出した。自分が彼のように兵士たちの尊敬を得ることができるかネの肩に顔を落とした。 どうか、これは最初の試練だ。ほんの僅かでもおびえているところ突然、悲鳴とともに、モーネが目を覚ました。キリイが、モーネ の肩からロを離す。モーネの白い服に血がにじんでいた。キリイ を見せてはならない。 は、モーネの意識を戻すために彼女の肩を噛んだのだ。キリイが、 「コールの群にまきこまれたような気分だな」 ウ = イルは、部下の一人の身体に手をかけて立ち上がりながら言何事かモーネに向かって言った。モーネがうなすく。突如として振 った。兵士たちが、ほっとしたような笑みを浮かべているのがわか動がおさまった。 る。ウェイルの目は、再び、部屋の中の光景に戻った。そして、キ ウェイルたちは部屋の中に駆け込んだ。今度は、何も起きない。 リイが、モーネを抱いたまま寝台から這い降り、扉の方向に向かおウェイルと兵士たちはキリイとモーネを抱き起こした。そのまま、 うとしているのを見た。もちろん、それは、ほとんど無意味な努力寝台の上に寝かせる。 だった。だが、ウェイルは、ほんの僅かな時間、あの中に放り込ま「助かったな、ウェイル、あんたのおかげだ。」 れただけで自分が受けた衝撃から考えると、キリイがいまだに意識キリイが、目を閉じたまま言った。モーネは黙ったままだった。 を失うことなく脱出しようとしていることに、驚きと畏れをお。ほえウェイルは、キリイの肩を軽く叩いこ。 「キリイ。話したいことあるの」 こ 0 に 9

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( 承前 ) 惑星マイダスとアレクサンドロスの勢力圏にはさまれ、文明圏か らの干渉は一切各フーとされている未開惑星。そこへ偵察の任をお びて派遣されたマイダスとアレクサンドロスの宇宙船は、謎の攻撃 震えているモ 1 ネの肩を抱き締めながら、キリイは、落ち着くよ によって撃墜された。アレクサンドロス側は記憶喪失となった男が うにと彼女に語りかけた。だがモーネの身体の震えは、ますます激 唯一生き残る。彼は原地人の中にはいり、ムザクと呼ばれるように しくなり、キリイ自身の身体まで震えはじめる始末だった。そし なって、エルワースという男とともに旅をつづける。そして複製人 て、突然、キリイは自分の身体だけが震えているのではないことに 間の製造装置を発見、それによってイレンという女と三人で船を乗 気付いた。 っ取るが、やがて複製人間たちは消減してしまう。一方、マイダス 側は、原地人との戦闘で死んだワイドル隊長の最後の言葉「へダス 寝台も、椅子も、部屋の空気さえも震えている。やがてその震動 を捜せ」を手掛りに、生き残った隊員が活動を開始する。しかし、 は、キリイの身体を大きく揺がせはじめた。キリイは、モ 1 ネの肩 偵察隊員たちは、ある者は死に、またある者は絶望とともにいずこ を抱いたまま、寝台の上に投げ出された。壁も床もきしみながら揺 へか姿をくらます。そして、現地人の少女モーネとともにヴィトグ れはじめていた。 の街へたどりついたキリイは、そこで昏睡状態に陥っているヘダス どうしたことだ ? そう尋ねかけて、キリイは舌を噛んだ。あわ に出会う。モーネの力を借りてへダスの意識にはいりこんだキリイ てて歯を食いしばろうとしたのだが、キリイ自身の意志とは関りな は、彼ら他星からの侵入者がことごとく悲惨な運命に見舞われたこ とを知る。そして、その背後には、″教主様″という存在のあるこ 上下の歯はカタカタと奇妙な音をたてて互いにぶつかりあっ とも。しかも、その時ヴィトグの街は、都市を減・ほしてまわる奇怪 な軍勢ガイの攻撃にさらされていた。キリイの指導でヴィトグはよ 外の廊下で男たちのわめき声がした。駆け寄ってくる足音が、部 うやく減亡をまぬがれるが、ガイの軍勢が突如として攻撃を中止し 屋の前で止まると、扉が押し開けられた。キリイは、必死に目の焦 た謎も残る。一方、キリイの同僚ロ 1 ダは、事故により単身原地人 点を合わせようとする。ウェイルの驚きに撃たれた顔が見えてく の中をキリイを捜して旅をつづけるが・ : る。 「どうしたんだ ! 」 信じ難いものだった。部屋の中のものすべてが揺れ動き、振動して ウェイルのロが動いた。その言葉は、おそろしく歪められてキリ いた。大気の振動は、部屋の外でも感じられた。寝台の上では、キ イの耳に届いた。大気そのものの振動が、音を歪めたのだ。キリィリイが必死でモーネを抱きすくめて転がっているのが見えた。 は、返事をする勇気がなかった。 どういうことなのか、ウェイル冫を こよまったく理解できなかった。 ウェイルは、自分の目を疑っていた。奇怪な音に気付いて、このだが次にウェイルがとった行動は、いかにもヴィトグの兵士らしい キリイの部屋までやってきたのだが、扉を開けた瞬間に見た光景はものだった。ためらうことなく、部屋の中に飛びこんだのだ。全身 こ 0 に 8