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検索対象: SFマガジン 1982年7月号
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1. SFマガジン 1982年7月号

「目立たない程度に急いだほうがいいですね」 「メガネをはずしてポケットに ! まずいな、シダンケが来るそ : 「なぜです ? 」 : タクシーが来た。あれだ : : : 」 「あなたを保釈してもいいとコンビューターは確かに空港警察に指「おい、そこのふたり ! 」 示しましたが、それはわれわれの技術者がコン。ヒュータ 1 ・回路をい 近づいてきた警官が・ほくらに呼びかけたとき、老人はぼくをつつ じくったからでしてね : ・ : いっかはばれるはずです。すぐにかもし れません。五分後、十分後 : : : 」 「まっすぐ歩いて、あのタクシーに乗りこむんた。わたしはここで ぶっそう なんとまた物騒なスタートを切ったものだ。このぶんでは、無事消える」 わが家にもどれないかもしれないそ。だいたいが、くたびれたもい 老人はふりなくと、スタンドの角をまがって走りだした。警官は いところの五十八歳の体のままで異次元世界へ行くなどという馬鹿ちょっとためらったあと、かれを追って走りだし、・ほくはスタンド な冒険をやらせたのは、どこのどいつなんだー この貧相な老人の前にとまったタクシーのところへ急いだ。タクシーのドアが開 か、くそっ ! よく見てみると、こいつはぼく自身よりそう年上でき、・ほくはカバンと紙包みを放りこみ、その中にころげこんだ。後 もなさそうだそ。 ろからだれかが怒ってさけぶ声が聞こえた。列に並んで待っていた 空港ビルのすぐ外にあるタクシー乗り場に近づくと、老弁護士は客だろう。タクシーは走りだし、ぼくは座席にうつ伏せたまま、深 ささやいた。 く息を吸った。年を取るとすぐ呼吸が苦しくなる。運動不足のせい 「ゆっくり歩いて。疑われないように、アマ / さん。シダンケがい 「お客さん、もういいですぜ、顔を上げても。わたしもゼンタイの ますから : : : 乗り場に並んでいる連中とこことのあいだ、新聞スタ ンドの前にとまる黄色のタクシーが、われわれの仲間ですから」 仲間なんです。こ、の国に来られてすぐに忙しいことになるとは、つ なんだかほっとしてきたが、そうはうまくいかないもので、空港いてませんなあ」 ビルのほう・ほうに置かれているテレビとスピーカーが、い 陽気で親切そうな声をした、中年の運転手だった : 同じ文句をしゃべり始めた。 「どこへ連れて行ってくれるんです、運転手さん ? 」 「業務連絡、空港警察および空港職員へ : : : 外国ス。ハイ容疑で空港「初めの打合せでは、ゼンタイの本部ってことでしたがねえ。でも 警察に留置されていた外国人が、弁護士と名乗る老人とともに脱走こうなると、それはやばいよ危いよ、ってもんでさあ。わたしの家 した。名前をテッド・アマノと詐称している。年齢五十八歳、白にでも、ひとまず落ち着いてから考えてみませんかい ? 」 髪、肌の色は黄褐色、身長百七十一センチ、金ぶちのメガネをかけ「どうもご迷惑をおかけしてすみませんね。といって、ぼくのにう も、それほどこの国に来たくて来たんじゃあないんですが : : : 」 ており、やや太り気味 : : : 」 老弁護士クラタはささやいた。一 「いやあ、迷惑だなんて、お客さん。たまにはこんなに面白いこと 4 2

2. SFマガジン 1982年7月号

その朝早くタバコを買いに出たわたしは、思いたって、ふらりと のですが」 「けっこうしゃありませんか。し 、くら土地は値上がりするとい「て足を向けたのである。子供たちは、市の田舎にある妻の実家へ泊 も、あの土地で一億円というのは破格の買値です。売った金で別のりにいってしまっていた。 ひとり身の気安さである。夏もやの中を、わたしは田畑の間の新 土地を買えば、かなりのものが手もとに残ることになりますよ」 しく舗装された道を歩いていった。建ったばかりの託児所と雑貨屋 「しかし、越すといっても、あとが : : : 」 しかし、その心配は、一週間後、泉谷氏が再訪したとき、あっさの間を抜け、なっかしい住宅街にはいった。家々は一本の小道に沿 りと解決してしまった。泉谷氏は、今のわたしの家からわずか一キって建ち並んでいる。もとわが家は、建ち並んだ家々の間に、隣家 ロほどしか離れていない町に建売り住宅をさがしてくれていて、 とは路地一本と檜葉の生け垣をへだてて存在したはすであった。敷 そこへわたしたちは引っ越すことになったのである。 地をとり囲んだ生け垣は、事実、わが家の自慢ともいえた。 ところが、それが見当らない。かわって無粋な板塀が敷地をとり 新居は、われわれ家族のひとりひとりにとって、実に満足すべき ものであった。子供たちは二階の二部屋を占領し、さらに一部屋を囲んでしまっている。 長男用にということでおさえこんだ。わたしたち夫婦も、それそれ わたしは、眼を疑った。 の部屋を持っことができたが、妻は家族がそろう居間と台所をめつ板塀は、ひとの背丈の倍もあったろうか。さすがに足元の部分た たに離れようとはしなかった。 けは空間があって、そこから生け垣の根元を見ることができた。 庭も充分にあり、陽当りも申し分はなかった。難をいえば、農地玄関のあたりは、しかし、もとのままとみえた。表札は出されて を宅地に転用したものであったため、樹木がまばらなことであっ た。風が強い日などどうしても埃が吹きこんでくる。 門柱にとりつけられていたはすのインターホンは外されてしまっ われわれが新居に越してしばらくの間は、インテリアや庭の花壇ている。 つくりに、すっかり気をとられてしまった。わずか一キロほどの距玄関口で、思い切って、声をかけた。 離にあるもとの家のことを、あっさりとその期間忘れていたのたっ 「ごめんくたさい」 返事はな、。 もう一度呼んでみる。スズメが玄関わきの桐の木でチチチッと鳴 いた。風もなく、温められた地面からは土の香が上がってきた。そ れに木の香とペンキの匂いが混っているのに気づいた。 玄関の右手の部屋には雨戸がおりていた。木戸口のあたりに植え られているのがイチジクであり、その根もとにつるをはっているイ 泉谷治郎氏が、・ とうしているのかと訪ねてみたのは、八月も終り に近い日曜日のことであった。

3. SFマガジン 1982年7月号

ったころ、その黒人青年は右へ曲がり、走るのをやめた。そして、角「怪しいな、それは ! 」 「何のことだ ? 」 から二軒目のキノキラガンガンうるさいゲームセンターに入ってい 「この国に着いたときは別として、空港警察から逃げ出して以来、 った。赤青緑黄色にネオンに金銀のキンキラ照明。ひどい大音量の いつも警察が・ほくの先まわりをしているとしか思えないが : : : その ロック音楽だ。青年は店の奥まったコーナーに入ってゆくと、ゲー ム機械の前におかれている椅子に、よろめくぼくを坐らせてくれた。せいじゃないのか ? 」 マニュエルは眉をよせ、奥のドアのほうにむけて顎をしやくって 「荷物を持ってあげなくてすまん : : : 息が切れたろ。いま飲み物を みせた。 持ってきてやるからね」 何か月かぶりで二百メートルあまりも走ったせいでの苦しい息「あのむこうは便所だ。先に行ってくれ。おれもすぐ行くから。ひ が、やっともとにもどったころ、異人青年が缶ビールを持ってもどとっ調べてみよう」 ドアをあけると、右側には洗面台がいくつも並び、左側には小便 ってきた。冷えたビールを一口飲むと、だいぶ気持が落ち着いてき 所が並び、かこいのある便所のむこうは物置として使われているよ ボワンー どうも・ほくのアルコール依存症も、本物になりかかっているようすぐに入ってきたマニ、エルは、急いで顔を洗うと紙タオルを顔 だ。この国を自分の生まれたところのように懐しく思い始めているにあてて物置に入ってゆき、またもどってきた。 自分に気がついたのだ。この国にいるあいだは、あまり飲まないよ 背丈、格好、服装は変わっていないが、黒人青年ではなくて、浅 うにしよう。 黒い皮膚ながら、まぎれもない白人の青年だ。三十前後というとこ 「どうしてこんなところにぼくを ? きみの名前は ? 」 「マニュエル とでもいうことにしておこうか。政府はこういうろかな ? 「きみは ? 」 電子ゲーム屋を大切にしていてね。日本のマイコン産業に勝ちたい おくろい 一心だろう。それにおれたちゼンタイもひいきにしているんだ。も「そう、マニ = エルさ。黒粉をつけていただけよ。こんなことは嫌 しやつらにトレーサーをつけられても、ごまかせるからよ。この店なんだが、目をつけられているんでね」 にあるのは電子ゲームがほとんどなんで、トレーサーに干渉する電そういいながらかれは、手に持っていた小さな電卓状の道具で、 ・ほくの体をこすり始めた。すると、胸のポケットのあたりで、ビッ 波雑音が出るらしいんだよ」 と小さな音が鳴った。 「トレーサ ー ? 電波発信源をつきとめるための追跡子ってやっか 「あったそ。上着を脱いでくれ」 「そうさ」 急いで脱いだ上着を、かれは調べた。内ポケットの底から、小さ こ 0 7 2

4. SFマガジン 1982年7月号

走りはしめた。わたしは腹をおさえながら縁側を転げ落ちた。ひま : ・ばかみたいな話ですね : : : 」 ったのです。しかし、 泉谷氏は肩を小刻みにゆすった。笑っているのだ。 わりをぬつ、て進んでゆく。 「たって、わたしが祖母の扮装をする必要など、まるでなかったん逃ける優三の襟首に、男の手がのびるが見えた。かろうして、と どかない。 ですよ。本物の祖母が現れて、ここに、ほら、こうして : : : 」 、なぜ逃けるんだ。・、なぜ ! 」 わたしの背を悪寒が走り抜けた。この男は訪ねてきた妻を祖母の ミッと思いこんで殺したのだ。いや、殺したなどという意識はなか そんな声がきこえてくる。わたしは足をとられて再び転倒した。 っただろう。三十数年前の情景通り、臨終の床につけたたけの話なわれながら腹が立ってくる。起き上がったとき、追跡は終っていた のだ。 「今は、ただ、弟があらわれてくれるのを待つだけです」 優三の熱つぼくなったからだが、わたしの胸にあった。 泉谷氏は、立ちどまり、腰をかがめて、なにかをのそきこんでい 泉谷氏は柔和な表情を崩そうともせす、視線を庭先に注ぎ続けた。 風がガラス戸をがたがたとゆすって通った。ひまわりが声をたてる なんだ、そこにいたのか : : こちらから行くそ : : : かく て笑ったような気がした。 れん・ほは、おしまいだ」 「ほら、現れたようですよ」 泉谷氏はゴザをかき上げ、穴にはいってゆく。ドスツ、巣窟の天 彼は弾かれたように立ち上がった。 井が落ちこむ音がした。 つられて立ったわたしは、ひまわりの花をかき分け、近づいてく る少年の姿を見た。顔を横に向け、手を大げさに動かしている。見かけよ「てみると、こんもりしていたはずの土が、すっかり平ら になってしまっている。 えない誰かに話しかけているようでもある。 泉谷一郎は、暗黒世界に還っていったのだった 「逃げろ、優三、逃げるんだ ! 」 わたしは大声で叫んだ。 その声がガラス戸越しにでも伝わったらしい。優三はびくんとか その後、中学を卒業するまでの間、優三はたしかにジローという らだを強張らせると、木戸口に向って走りはじめた。そのときには少年と庭で遊んだと主張し続けた。しかし高校の生活に慣れた頃に わたしは泉谷氏の拳の一撃を腹にくらって畳に這いつくばってしまは自分でも本当かどうかわからなくなったらしく、やがてなにもい わなくなった。もしかして一郎か治郎のどちらかが優三に乗り移っ っていた。眼前に泉谷礼子の死顔を見て、わたしはとび起きた。 泉谷氏がガラス戸を開けて庭にとび出してゆくのが見えた。どうて、などと考えたが、そんなこともなさそうだ。八木沢家は跡かた やら木戸に先まわりしそうな気配、それを察した優三が反対方向にもなく失せ、今では陽風荘従業員の宿舎になっている。 24

5. SFマガジン 1982年7月号

ーのハン・少年のひとりは、受話器にのばしかけた手を、びくっととめた。 てくれっていわれてたのに : : : すごいナイフだぜ。ガー・ハ ター・スペシャルの特注品・ : ワックって、名人級のナイフ使いな「どうして、ワック ? 」 「警察は全力をあげて電話を盗聴している。特にこの地区のもの全 んだってねえ」 「何をいってるんだ、さっきは老いぼれ扱いにしていたくせに。も部をね : : : ・ほくにやらせてくれ。秘密に連絡できる警察内部のゼン タイ・メン・ハーがいるんだ」 うだめだよ、年だもの」 「そいつはいいや、さすがあ ! 」 「皮肉をいわないでよ ! 悪気はなかったんだから」 ばくは一九八二三二五をダイアルし、暗号の文句をささやいた。 そいつは後ろから小さな・ハッグを渡した。あけてみると、拳銃の ホルスターなみにがっしりした革のベルトにシースをつけたボウィすぐにクレオ。ハトラの甘い声が答えた。 ・タイプの大型ナイフ。だれかを相手にして本気に戦おうとなる「まあ、テッド・ダーリン、大丈夫だったのね。そこの子供たちが と、これでなくちゃあ。・ほくはほっとした。ナイフが手許にあると必ず助けてくれるとは思ったけれど : : : 」 安心できるというのは、どうも妙な性分だ。こういうところが精神「ああ、いい連中だ」ぼくはふりむき、「きみたち、クレオパトラ の老化現象なんだろうか ? ・ほくはナイフのホルスター・ベルトをがきみたちによろしくってさ」 少年たちは喚声をあげ、ぼくはまた受話器を耳にあてた。 腰に巻いた。心がしやきっとする。 ボワンー 「いまからどちらへ進め・よ、 。しか、教えてくれないか ? 」 また小さなショックとともに、・ほくはすこし自分が変わるのを感「そのまま百メートルほど、まっすぐ進んだところに、上の通りへ リリンは亠め じた。 出られるマンホール。そこで子供たちは上へ出て : : : マ あの老弁護士はいった、異次元分身と : : : ぼくはこの世界の分身なたと一緒に、そこにいるわね ? 」 になりつつあるようだ。 「ああ」 前方を行く少年たちが立ちどまった。地下道の壁についている電「マリリンとあなたは、そのままあと五十メートルほど進み、次の 話機のところだ。 角で右へ。二百メートルで上へ出るマンホール。波止場の・ハス停留 「どうしたの ? 」 所の裏よ。そこから湾へまっすぐ歩いて、いちばん近いとこ、ろに泊 マリリンが尋ねると、 っている漁船″ミュアー・ウッズに乗りこんでちょうだい。すぐ 「マニイに電話して、上の模様がどうなっているのか聞いてみよう出航するようになっているから急いでね : : : そのトンネルに警官が と思って : ト銭持っているかい、セクシイ・。ヒンク ? 」 入ってゆくかもしれないわよ。人生を楽しんでね、テッド・ダーリ ・ほくはあわてていった。 「やめろ ! 」 ぼくはいささか驚いて反問した。

6. SFマガジン 1982年7月号

ーの締まる音「父さんたって、もう十年もすれば定年しゃない」 そういうと、男は札東を鞄に戻しはじめた。ジッパ カッとしてどなりつけようとすると、小学五年生の優三が、不安 をききながら、わたしは、それまで机上にあった紙幣のイメージを そうに口をはさんだ。 打ち消すことはできなかった。 「ぼく、転校するの、いやだ。友だちに会えなくなるの、いやた 男を送って、玄関口まで出た。 「昔の家とおっしやるが、この家は昔のままではありませんよ。何よ」 「母さんは、どうなんだ」 度も改築したり修繕したりしているうちに、古びきって、柱にも、 「わたしは、この家も古くなったし、一億円というお金は大変魅力 ガタがきているんです」 だわ。といって、この土地の人間ですからね、今さら遠くへ行くの 「かまいません。一種の磁場とでもいうんでしようか」 はごめんたし : : : 修二もやがて東京の大学へ行くわ。勇一と一緒に 「磁場 ? 」 住むのマンションを子供たちには買ってやって、これが三千 「そうです。庭の正面に今でもカシの木があるでしよ」 「ええ 万くらいかしら。わたしたちの住む家はこの近くで四千万くらいの 「わたしの幼い頃の精神が、その木から発していて、わたしをひき予算でさがすの、あとの三千万は貯金しておくのよ」 「母さんは税金のことを忘れているよ、ガポッと持ってかれるんた つけるのです。この建物を含む敷地一帯が磁気のようなものを帯び ・せ」 ているのですよ」 修二がしたり顔でいった。 「それよりも、そんな現金を持っている人って、本当に大丈夫なの かな、もしも悪いお金だったら、えらいことになるよ」 わたしは、早くも皮算用をはじめた家族の面々を苦い思いで見 男が帰っていったあと、わたしは茶の間に戻った。もう野球どこ ろではなかった。 翌日 , ・ーーわたしは地主の伊沢氏を訪ねた。すると、伊沢氏は、笑 妻の久枝は、一億という金額をきいて眼を丸くした。 顔で保証してくれたのである。 「すごい、大賛成」と高校生の修二がいった。「それだけあった「泉谷くんは立派な人物です。わたしとは幼なしみで、気心もよく ら、東京にだって住めるじゃない、マンションでも買ってさ。兄さ知っているつもりです。 z 工業所は二部ながら、ちゃんと株式市場 んたって下宿住まいしなくても済むようになるー に上場された会社です。そのくらいの金は個人でもなんとかなるも 「ばか。そんなところで五人も暮らせるものか。それに俺のっとめのでしような」 はどうなる ? 」 「そんなものですかな。度の過ぎた金持の悪ふざけのように思える . / ッ

7. SFマガジン 1982年7月号

青い惑星 イプな革命細胞は、おたがいを知らないほうが、だれかが警察につ上、ぼくは死亡していたのだが、何十台もの警察車に追われて、運 かまったときも安全だ。その組織構成の細目は、クレオパトラだけ転する車もろともサンフランシスコ湾につつこんで自殺する数時間 トレーサーの信号が何分か途切れたことを、警察へリコプター 、となった。ついで彼女は、政府機関に勤めて前、 が知っていればい、 いる下級官吏の多くに、ゼンタイへの加盟をすすめた。そして「「との乗員が思い出したのだ。 この町に来て一週間目の夕方、・ほくがアパートにマニュエルとい きには彼女の美しい姿体顔形をテレビ電話に見せたし、一度などは これはエイ。フリル・フ 市民の政府に対する不満の声を街頭で録画したときのニ、ースの画ると、電話が鳴った。「マニイ、テッド : : : ールじゃないから、気をつけて聞いて。自意識はなくても、やはり 面にも顔を見せた。われわれも驚いたことにその反響はすさまじい までに大きく、一般の市民だけでなく、多くの官公吏がゼンタイにわたしの妹ね。政府のコンビ = ーターは、あなたたちのいるあたり 加わろうとした。とにかく彼女は、何千人もの相手に、同時に電話に疑いを持ったわ : : : 前にテッドのトレーサーが途切れたことに警 できる能力の持主だし、女性相手にはどんな美男にもなれるのだ。察が気づいたことからよ : : : ゲーム・センターに警官が五十人ほど が全国に広がっていく一方、映画女優にも【むかったわ。いまから一分前。あと五分でその一帯が包囲されるは 政府に反対するムード 珍しいほど美しい女性が革命グルー。フの指導者として力を握り始めずよ。急いで出て、何も持たずに : : : 今夜は、どこの公衆電話もお たことは、当然、政府も知り、情報・公安警察関係は全力をあげて金を入れなくてもかけられるようにしておくわ : : : 急いで ! 」 マニ、エルは玄関へ歩きながら大急ぎでしゃべった。 クレオパトラを発見しようとした。もちろん、どれほど情報関係者 が努力したところで、彼女の所在をつきとめることなどはできな「テッド、車が表に用意してある。運転できるね ? 」 い。だが、肉体を持っ・ほくの所在をつきとめることはできた。記録「いや、昔はできたが、この三十年運転していない」 円 円 8 6 0 円 現代ソビエトシリーズ第 6 集新発売 / 飯田規和 / 深見弾訳 = 惑頃 = 鶴頂宙 0 カ モスクワ・プログレス出版所 AJ 四八八頁 き黒と 工ての司の 一流の中堅作家による一級の作品を収録。最近の傾向のひとつである幻想的ピ でファンタジックな色彩をもった作品が中心。日本作家論も興味深い ソく宙人人翫 ・全国最寄りの書店または直接小社へあ申込み下さい。 現よ宇画集一発 東京都千代田区神田神保町 2 ー 12 ー 3 ( 〒 101 ) 谷 03 ( 264 ) 0021 9 3

8. SFマガジン 1982年7月号

通された部屋は八畳の和室であった。 、え、わたしの本当の名は、八木沢一郎です」 中央にふとんが敷かれ、人が横たわっていた。顔には白布がかけ「 : ・ られていた。 「三十二年前、わたしが肺炎にかかって死んだとき、弟の治郎はそ れを信じようとはしませんでした。彼はわたしを永遠のやすらぎの 「今朝方、亡くなりました」 場所から呼び出しては、この庭でいっしょに遊んだのです。二年ほ 「どなたです、この方は ? 」 どして祖母が息を引きとりそうになったとき、弟は、泣いて祖母と 「祖母のミツ。わたしをやさしく育ててくれました」 共に死にたい、 とわたしにうったえました。そうすれば、あの世で 「しかし、ミッさんは、すっと昔 : もと通り三人仲よく暮らせるじゃないか、と : 。むろん永遠のや わたしの言葉は、泉谷氏の眼にたまった涙のため、尻つぼみになすらぎの場所が虚無の空間であることをわたしは知っていましたか った。枕もとにかれた香の匂いは耐え難いばかりだった。廊下をら、極力あきらめさせようとしました。けれど、きかないのです。 へだてたガラス戸の向うでは、ひまわりの群がゆれ動いている。 それならば、とわたしはひとつの提案をしました。治郎は二つ返事 でオ 1 ケーしましたよ」 「どうそ、仏の顔、見てやってくたさい」 「 : : : どんな提案たったのです ? 」 泉谷氏は、白布をとりのけた。 白髪が額のあたりまで被っている。顔は土気色たが、皺ひとつな 「わたしは暗い墓所にうんざりしていましたから、明るい世界に出 かった。ロは半開きになり、紫色の舌がのそいていた。首筋には指てみたい気もあったのです。祖母が息を引きとった瞬間、わたしは のあとが見られた。 治郎のからだを借りてこの世に甦り、治郎の心は祖母と共に、虚 への旅にのぼったのです。提案とは、つまりそのことだったのです」 泉谷礼子であった。白髪はかつらであろう。 わたしは膝のふるえが止まらなくなった。 「わたしはそれから三十五年というもの泉谷治郎としてこの世を生 泉谷氏は気がふれているのだ。 きてきました。このへんで借りを返さねば、と思い出したんです。 このからだを本物のジローに返しませんとね。それに、正直いっ 逃げ出そうという気持をおさえたのは、優三がまだこの家のどこ かにいるかもしれないという危惧の念であった。わたしは、焼香をて、こうして生きてゆくのに疲れてしまったんです。暗く静かな世 し、 ″ミッ″をおがんだ。泉谷氏は死者の反対側に正座し、満足そ界へ、今なら遠ってゆけると、思えるんです」 うにそれを見ていたが、わたしに答礼したあと、じっとその眼をガ ラス戸の外に注いだ。 「それで、あなたに無理を申し上げ、この家を譲っていただきまし 「わたしは待っているのですよ、″ジロー ″が出てきてくれるのを」た。家と庭を昔通りにつくり直し、わたしは祖母の扮装をし、すっ 「なんですって、″治郎″はあなたの名ではありませんか」 かりそれになり切ったつもりで、弟が庭先に現われてくれるのを待

9. SFマガジン 1982年7月号

がぶじに逃げられるのを見きわめてからにする」 「なにを考えてるの ? 」メアリがささやきかけてきた。 彼女は笑った。「あなた、シラ・ハスがなんたか知らないんでしょ アニメは終わった。ホールの明りがついた。壇上にはカザルス少 佐が立っていた 9 映話で見たよりもずっと大きい。お遊びは終わっ 「知ってるさ。講義科目や話題の摘要ってことだよ」 たんだ、と・ハイプルマンは心に言い聞かせた。カザルス少佐が大ハ 「ええ、そうでしようとも」 ンマーをやたらに振りまわして、むなしく素粒子を追いかけている 彼は彼女を見つめた。むこうも彼を見つめた。 図は、想像もできなかった。彼は自分がしだいに冷たく陰気にな 「わたしたちは永久にここから出られないんだわ」 り、そしてちょっぴり不安になるのを感じた。 彼女はメアリ・ローンと名乗った。かわいい子だな、と彼は思っ その講演は、機密情報に関するものだった。カザルス少佐のうし た。どこか悲しげで、不安そうだが、うわべは平気なように見せかろに、巨大なホログラムが映し出された。恒常調節式採掘機の設計 けている。二人はほかの新入生たちといっしょに、アニメの〈ハイ図だった。あらゆる角度からそれを見られるように、ホログラムの エナのハ 1 ビー〉の新作を見ることになった。それはパイ・フルマン中で掘削機がゆっくりと回った。採掘機の内部のいろいろな部分 がすでに見たものだった。ハ ービーが、ロシアの怪僧ラス。フーチンが、それそれ違った色に輝いた。 を暗殺しようとするエビソード・こ。、 オしつ , ものようこ、 冫ハイエナのハ 「なにを考えてるの、と聞いたのよ」メアリがささやいた。 ービーは、狙った相手に毒を盛り、銃で撃ち、六度も爆弾を仕掛「黙って」・ハイプルマンは静かにいった。 け、短刀で突き刺し、鎖でがんじがらめに縛ってヴォルガ川の底に メアリもやはり静かな声でいった。「あの機械は、自力でチタン 沈め、手足を荒馬につないで体を四つ裂きにし、最後にはロケット の原鉱を見つけるんだって。ごりつば。でも、チタンはこの惑星の にくくりつけて月へと打ち上げる。そのアニメは、・ハイ・フルマンに地穀の中で九番目に豊富な元素なのよね。もし、あの機械が純粋な は退屈だった。彼はハイエナのハービーにも、ロシアの歴史にもさウルツ鉱を見つけて、それを採掘できるなら、わたしも感心するん つばり興味が湧かず、これが〈大学〉の教育レベルの一例なのだろだけど。ウルツ鉱は「ポリヴィアのポトシと、モンタナのビュート うかと、疑いをもった。ひょっとすると、ハイエナのハービーは、 と、ネヴァダの - ゴールドフィールドにしか見つからないのよ」 ハイゼンベルクの不確定性理論を解説しているのかもしれない、と「なぜ ? 」・ハイプルマンはたずねた。 も想像してみた。ハ 1 ・ハイプルマンの心の中でーー素粒「それはウルツ鉱が摂氏一〇〇〇度以下では不安定だから。それに 子の一つをむなしく追いかけ、素粒子はでたらめにあっちこっちへ 飛びはねる : : : ( ービーはそれを狙って ( ンマーを振りまわす。すメアリは言いやめた。カザルス少佐が話を中断して、彼女を見つ ると、、素粒子の大集団が、ハ 1 ビーをやじりたおす。ハービーは、 めている。 いつもどじを踏む運命なのだ。 「そこのお嬢さん、いまい ? たことを全員に聞こえるようにくり返 5 7

10. SFマガジン 1982年7月号

「あいつら、ほんとにどうかしてるんだわ」メアリはいった。「カ位置を変えながら成長しているのを感じた。。フラスチックのコーヒ ザルスはなんていったつけ ? ″かりにだれかがパ : ・ : それに関する ーカップを持った手がぶるぶる震えて、コーヒーが制服の上にこ・ほ デ 1 タを〈大学〉にイン。フットしても、〈大学〉はそれを排除するれた。 だろう″」彼女はゆっくりと、考え深げに食べはじめた。「そして メアリが紙ナ。フキンで、コーヒーのしみを拭きとろうとした。 あいつらは、その発明を一般大衆から隠してる。きっと産業界の圧「とれないわ」 「象徴的だね」・ハイプルマノよ、つこ。 カね。ひどい」 、。しナ「マクベス夫人だ。前から ぼくはスポット ( しみ ) という名の犬を飼いたかった。そしたらこ 「・ほくはどうすべきだろう ? 」バイブルマンはいった。 スポット 「それはわたしにはいえないわ」 う言えるからね。″消えろ、消えろ、いまいましいしみ 「植民惑星のどれかへ図面を持っていこうかと考えたんだがね。あ「わたしはあなたにどうすべきかを教える気はないわ」メアリはい あいう惑星なら、政府の締めつけもそんなに厳しくない。適当な民った。「この決断は、あなたが一人でくださなくちゃ。わたしと話 間企業を見つけて、取引できるんじゃないかな。政府もおそらくー しあうことが、そもそも倫理にもとるのよ。だって、共謀と見なさ れてもしかたないんですものね。そしたら、二人とも刑務所」 「刑務所」と彼はおうむ返しにいった。 「政府は図面の出所をさぐり出すわ」メアリがいった。「きっと、 「あなたの行動しだいで : あなたの仕業たとっきとめるわよ」 : いやだ、もうすこしでこう言いそうに なったわ 「じゃ、焼き捨てたほうがいい」 ″あなたの行動しだいで、人類文明に安価な動力源が 「あなたとしては、とても判断のむずかしいところね。一方では、供給されるかどうかが決まるのよ″」彼女は笑って小首を振った。 あなたの持っている機密情報は非合法的に手に入れたもの。もう一 「こっちまで怖くなってきちゃった。あなたが正しいと思うことを 方ではーー」 ゃんなさいよ。もし、設計図をどこかへ発表するのが正しいと思う なら、そうすればいいしーー」 「ぼくは非合法的に手に入れたわけじゃない。〈大学〉の手ぬかり なんだ」 「それは思いっかなかったな。そうだ、発表する手がある。どこか 穏やかに彼女は言葉をつづけた。「あなたは、図面のコビ 1 を要の新聞か雜誌に。電送印刷所を使えば、十五分で全太陽系に配布で 求した瞬間に、法律を破ったのよ。軍法をね。機密保全の侵害を発きる」 見したとたんに、あなたはそれを報告すべきだった。そしたら、き こっちは料金を払って、三ペ 1 ジ分の設計図をスロットに送りこ っと表彰ものだったでしようね。カザルス少佐からお褒めの言葉をむだけでいい。簡単じゃないか。そして残りの一生を刑務所か、で 3 たまわったはずよ」 なくても、とにかく法廷の中で過ごす羽目になる。ひょっとすると 8 「ぼくは怖いんだ」・ハイ・フルマンは、体の中で不安が動きまわり、 有利な判決が出るかもしれない。歴史にもそんな前例はある。重要