ぎ、話が終ると、興奮した声で、 に気づいた。 4 「あたし、おとぎ話って大好き。そんなの一度も聞いたことがない 5 あくる朝、一階に下りてゆくと、ママ・グレタ以外、だれひとり んですもの ! 」 いなかった。昨夜のうちにほかの連中は、それそれの家へ帰ったの 「桃太郎のお話はだろ ? ほかのお話は ? 」 だろうし、いくらこのようなコミューンでも、昼間はみな働きに出 「いいえ、ないわ : : : でも、桃が割れて男の子が出てくるっておかているのだ。顔を合わせたママ・グレタは、・ほくらのあいだがどん しいわね。科学的じゃないわ」 な具合になったのかなど、何ひとっ尋ねなかったし、ぼくもいわな 「桃は腿、ふともものことかもしれないよ」 かった。当然のことだと考えているとき、何もわざわざ弁解するこ とはない。ひょっとするとこの世界では、実際にはこうだったなど 「まあ ! いやらしいこと、いわないで、ワック ! 」 マリリンはまっ赤になった。 というと、不能の精神異常者と誤解されるかもしれない恐れだって、 「では、シンデレラは ? ガラスの靴に南瓜の馬車に乗って、宮殿ある。 のダンス・ ーティに行ったお姫さまの話」 わが愛しのマリリンのほうは、ぼくが話したお伽話がよっぽど気 「知らないわ、話して : : : お願い ! 」 に入ったらしい。夜になったらと自分でいったくせに、朝食が終る どうもこの国には、お伽話・童話・小説・ドラマ : : : そういったともう、別のお話をして、シンデレラだったわねと、せがむ始末だ 作り話の類のものが、何ひとつないらしい。なぜだ ? った。まさかと思っていたが、彼女のいったとおり、この国のテレ 「明日にして、もう今夜はもう寝ようよ。マリリン、むこうのペッ ビにドラマはなく、雑誌はあっても小説はのっていない。禁止され ドへもどる力し ? それとも、このままワックに抱っこされて寝るているのだそうだ。ポルノ写真雑誌はあっても、ポルノ小説はない という異常さだ。作り話をこしらえる自由な精神が、政治の邪魔に 「人を子供扱いにしないでったら ! でも、こちらのほうが暖かい なるとでも思っているのだろう。それに、不穏な動きに学生が扇動 から : : : 明日の夜も、お話を聞かせて。約束よ」 され、同調してしまう危険が多いというので、いまのところ高校以 ああ、・ほくはびったり重ねた大小二本のスプーンのようになって上の学校が閉鎖されているのだという。 寝たんだ。いくら大人ぶったロをきき、期待はしていても、一日の どのような政治形態になろうと、昔ながらの真理は変わらない 疲れで子供の体は、眠りの国に引きずりこまれ、彼女はすぐに、健馬鹿殿さまが卒直な意見を嫌がり、自分の聞きたいことだけを聞き 康な寝息を立て始めた。ぼくは手にふれるふくよかな・ハストの感触たがるように、民主主義政治でございなどといっていても、政治の に、狂おしい想いに駆られて、そっと胸のボタンをはずしはした中心にいる連中は、民衆の卒直な意見は聞きたがらなくなるもの が、そのままやがて眠りに落ちた。明け方、ふと目を覚ましたぼく は、マリリンが・ほくの頭に両手をまわして抱きついて寝ていること しかし何はともあれ、マ リリンのように可愛い美少女がいつもそ
自動車に告げる : : : スビ 1 ドを時速二十キロ以下に落とし、それそ とにかくその連中にまぎれて歩いてゆくと、賑やかな音楽が、道 れ、次の角の停止信号灯で停止のこと。違反車は狙撃される場合が路わきの下からびびいてきた。建物外壁の地面すれすれのところ あるから、そのつもりで : : : くりかえす、こちら市警察交通課・ に、小さな赤いネオンで、″ディスコ″とだけ。地下へ下りてゆく と、短い階段のつきあたりに立看板。″入場料、紳士二ドル・淑女 一ドル″。これでは子供たちだけの集会場になって当然。ガラスのド 運転手は、ふん、と鼻を鳴らした。 「何が市警だよお ! 公安警察か警察軍の特殊部隊ですぜ、こんなアをおすと、あのゲームセンターなみにうるさい音楽がひびいてき 乱暴なことをやるのは。それにしても旦那、教会が次の信号機の手た。暇と精力をもてあました少年少女がわんさかおり、その人いき 前でよかったね。どこへ行きなさるのかは知らないが、教会の階段れでむっとしている。背丈だけは大人と同じぐらい高くて髭を生や は両わきから下りると地下道へ続き、それはホテルの地下のアーケしているのも大勢いるが、ひいき目に見ても高校生。そうかと思う ードに出られる。そこからは東西南北どちらの道にでも出られまさと、小学校高学年かと思われるほど小さい女の子もいるが、どれも あ。気をつけてくださいよ」 体つきだけは立派に発達している。顔つきはみな幼くて、肉体だけ タクシーは教会の前にぼくを下ろすと、のろのろと動き出し、百は大人になりかけている妙に色つぼい集団だ。そういうのが百人以 メートルほどむこうの角にとまった。ぼくは運転手に教えられたと上もおしあいへしあいしている喧騒と雑踏の中に入ってゆくなり、 この場違い野郎とからまれた。声変わりしかけたまばら髭の坊や おり、教会の階段わきを下り、暗い地下道を抜けてホテルの地下へ とむかった。何ひとっ武器を持っていないのが淋しかった。たとえが、 「よお、何か用かい、爺さん ? 」 武器を持っていても、長年の運動不足だ。そううまく使えるはずは ないが 「ああ」 ボワンー 「お呼びじゃねえんだよ、あんたみたいな年寄りは ! 」 それにしても、なぜ息切れしていないのだろう ? ・ほくを取りかこんだ連中の中に、下手な濃化粧の女の子が三人。 そのうちのひとりは、毛糸のとっくりセーターの胸に確か黒い猫。 中国人街からホテルの横を通って、教会へ斜めに抜け出る大通りそれをよく見ようと顔をつき出し、ちっちゃい子供のくせにずいぶ を、観光客がぞろそろ歩いている。波止場に並ぶ名物の魚料理店街ん盛り上がっている・ ( ストのあたりを見つめると、その子はまっ赤 からホテルへもどってくる連中だろう。 いくら警察国家にしても、 に塗ったロをとんがらせて、 この赤字国家にとって観光客は大切な外貨をもたらしてくれるか「なんなの、この爺さん ! いやらしいわね ! 」 も。その観光客に大勢来てもらうためにも、警察力を強化して安全少年のひとりが、 ・ほくの肩をどんとついた。 都市宣言をしなければいけないのだろうか ? 「何の用だって聞いてるんだ・せ、あんた ! 」 4
美醜の判断ができないものなのかい ? 」 三十前か ? はっきりしない。ただし、色のついた絵でしかない。 「まあっ、 いよいよ許せないわね : : : どういうつもりなの、小父さ「体のほうは、クレオパトラ ? 」 ま ? わたしを怒らせると、いっ感電させられるかわからないわよ 画面の顔がすーっと小さくなり、それに人間の体がついた。それ を見るなり、マニュエルと・ほくは吹き出した。 「でもねえ、きみは、地球の長い歴史でも、一、二を争う美女なん「こんどはどこがおかしいっていうの ? これは理想的な肉体よ。 だぜ。クレオ。ハトラなんだ。鼻が一センチ低ければ、そのあとの歴人間としての肉体的機能を充分働かせるには、これが理想的なはず 史は変わっていたろうと、いわれるぐらいなんだよ : ・ : いま、画面だわ」 に出ているおばさんは、どう見てもビリから勘定したほうが早い 「ボディビルの選手に子供を生ませるのかい ? 」 よ。まず、通俗歴史書にでも出ているクレオパトラの顔を出してご 「とにかく、男性の考える理想的な肉体とはだいぶ違うようだ・せ。 らん。それを、ぼくらの意見を参考にして変えていったら ? 插絵それに、女性の目からもだと思うよ : : : 悪いけれどね、クレオパ 画家によってずいぶん違っているとは思うがね。もちろん、きみのラ。本物のクレオ・ハトラは痩せつ。ほちだったが、いまの顔にミロの ヴィーナスの体をつけてごらん。それに合わせて、顔のほうも、も 判断が最も大切さ。なんたってきみの顔なんだから」 うちょっとふくよかな感じにして」 「まあ、そんな方法があったのね : : : わたしとしたことが、ご免な 「そう : : : 恋人になり、母親になれる女性じゃなければな」 すぐ画面に、クレオ。ハトラらしい女性の画像が出た。その画像ばっー が、二、三秒ごとに変わってゆく。十枚ほど続けて出たとき、ぼく「すごいそ、クレオ。 ( トラ。でも、せめてビキニでもつけなきや は声をかけた。 あ、マニイが興奮して、耳から蒸気を吹き出してしまうよ ! 」 「それがいしオ よ、ぼくは ! ・」 「そんなことはないさ。・ハストが小さすぎるもの : : : そのままでい その絵は静止した。 いとして、まず両腕をつけなくちゃあ。肌をクリーム色にして、あ マニュエルは首をふった。一 るべきところにはあるべきものを : : : 」 「いや、それは若過ぎるよ : : : そのひとつ前のほうがよかった」 「まあ、いやねえ、マニイったら ! それにいっておきますけど 「きみは姉さん女房が好きなんだな、マニイ : : : では、クレオ。ハト ね、テッド・ディア : : : 人間は耳から蒸気を出したりしませんわよ ラ。その前のをもう一度出してみて : : : ようし、その二枚の絵を混 ! 」 ぜ合わしてみてくれないか」 画面のヴィーナス像は、恥ずかしそうに体をくねらせ、肌をぼっ ばっ , と淡いビンク色に染め、それが立体画像になると同時に、花模様の すばらしい美女が画面で微笑していた。年齢は二十前後 ? いやビキニをつけた。 7 3
一体なぜ、私はそんなことを ? 」 「あなたは一回われわれを助けて下さったのだから」 ・ほくはしずかに云った。 「もう一度。それがさいごです」 なんて大胆な。それは認めま 「ノーよ、答えは、イヴ。大胆な しよう、あなたは勇気がある上に、他の市民たちとはまるでちが う。はじめはごくおとなしい内気な少年にみえたのにいまやあなた は O ・ O じゅうをひきまわしている。そのーーーあなたに、好意をも っているのは事実だわ。どうしても、もたざるをえないの。あなた 再びヴィジフォーンが生き返るまでに、・が云った一時間の は思・い出させるわ、その スペースマン : : : を。でも、だからと倍は待たなくてはならなかった。 いって私は義務をゆるがせにしたりはできない。他の方法を考え どうせ、そう早くはこぶわけはないと思っていたので、・ほくはお ーズのだれかにはかったかどうか て、イヴ。こっそりレダを市外に脱出させ、そこから他のシティに どろかなかった。・がメン・ハ 逃がす手はずなら O ・ O がととのえてもいいわ」 だけが少し気になったが、しかし、・ほくは、芝のみち自分の思いど 「あなたはそう思っても、ディマーは承知しない。だって、いまレおりにことが運ぶことを確信していた。 O ・ O はそうするしかない ダがひそかに市外逃亡したとなったら、 O ・ O が協力したことなそだろうと、・ほくはふんでいたのだ。 子供にだってわかりますよ。ディマーとしてはレダをやつらに投げ待つ以外、やることもなかった。・ほくとアウラは・ほっり・ほっりと 与えたくてしかたないはずだ。・フライと連絡して下さい」 ことばをかわし、また黙り、また思い出したように話した。アウラ 「だめよ、イヴ。それだけは」 もようやくすっかりおちついて、さっきみせた醜態を気にしている 「このユニットを O ・ O メン・ハーズの・がこっそり提供してく ようすだった。 れた、というデータを暴徒に流しますよ」 「ねえ、イヴ。あなたにはおどろいたわ」 ・ほくは認める。たしかにそれは脅迫だった。あれほどぼくをかっ それは、アウラのことばの調子で・ほくにはわかった。 てくれ、やさしくしてくれた»-2 ・に対して卑劣な手段であったこ 「いったいどこで、あんなことを覚えたの とも認める。しかし、・ほくは、必死だった。レダを救わなくてはな 「あんなことって、・に云ったこと ? そうだね。きっと、も ・ : あん らない。秒よみで破局が迫りつつある。 とから知っているのに気がっかなかったんじゃないかな 9 3 ・の顔がすうと白くなった。 まりいい気持はしないよ。 >-; ・はいい人だしーーーでもレダのため 2 「私を脅迫するつもり」 だからね」 彼女は息をすいこんで、低くつぶやくように云った。 「一時間後にキャプテン・・フライと連絡がとれるようにします。一 通話だけよ。そのつもりで」 四、空 へ
もしようかとなったとき、それではどうもね。不真面目に思われる ぼくらは舞台の奥へ入ると、小さな楽屋を通り抜けて地下の倉庫 だろう ? 大人って、いくらわかっているようでも、頭の固いとこ へ。そこになぜか作られているマンホールの蓋をあけると、まっ暗 ろがあるんだから」 な、使われていない下水道のようなトンネルへと下りた。 「そうね : : : ほんと ? クレオ。ハトラに会わせてくれるの ? ほん「さっきは、どういうことだったんだ ? 」 リリンよ」 「あのディスコに、警察の手入れがあるって知らせが入ったの。た との名前は、マ ぶんあなたが目当てよ、ワック。でも、いくら治安警察のならず者 マリリン ! それこそセクシイな名前じゃないか ! 」 連中でも、あの階段を下りてくるのは大変だわ。みんなずいぶん面 「そうかしら ? 」 白がってたもの。あんな子供ばかりでは、本気でなぐることもでき 「そうさ、特に・ほくにとってはね」 ないでしょ ? 」 「あーら、あたいを口説く気なの、それ・ : 「知らないのかい ? 「さあね : : : それでばくらは、どこへ行こうとしているんだね ? 」 それは世界でいちばんセクシイだった女優の 名前なんだよ」 ューン : : : 魂の自由を守る人々 「あたいの家よ。あたいたちのコミ 「ほんと ? 」 の集落、っていうのが本当の名前。まあ、あたいたちのまま大人に 少女はそれでも嬉しそうな顔になった : なった連中が集まってるところね」 楽隊の音量がとっぜん小さくなり、小さな舞台にかけ上がったロ 「でも、マニイだって、警察に目をつけられているんだろ ? 」 髭少年がさけんだ。 「マニイは住んでいないの。それに警察の記録では、マニイはあた 「おーいみんな、四十五、五十、八十 : : : やれえ ! 」 いの兄でさえもないんだけど : : : ねえ、あんたたち、大丈夫 ? そ 音楽が前より大きく鳴りひびいた。 んなに大っぴらに懐中電灯をつけつばなしにしていて ? 」 「何のことだ、あれは ? 」 少年のひとりが答えた。 それには答えす、少女はぼくの手をカまかせに引っぱって舞台の 「ああ大丈夫。このトンネルにやつらが入ってきたら、爆竹を放グ ほうへ進んだ。両側は、親衛隊さながらに、四、五人の少年が守るこんで知らせてくれることになっているんだ」 態勢。一方、五、六十人ほどの少年少女が、わーっと喚声をあげな前を行く少年のひとりは右手にナイフ、左手に懐中電灯。ひとッ がら階段出口へとおしよせていった。階段のあたりはもちろんすごは水中銃を持っている。 い押しあいへしあい 「ぼくもナイフぐらい持っていれば、いざというときに、すこしは 少女は舞台に飛び上がり、演奏を続けている音楽家のあいだを平戦えるんだがなあ」 気な顔で進み、奥のカーテンをめくる。 そういうと、後ろについてきていた少年が話しかけた。・ 「さあ、ワック ! 」 「ああ忘れて℃た、。 、 - こ免よ、おじさん。ワックが来たらこれを渡し 3 4
「あなたはおとなだーーーあなたはすばらしい・人だと思うよ。・ほくュニットをもらって、抽出しの中にいろんなものをしまって、とき は、あなたに会えたことを、心から、神に感謝してるよ」 どきとりだして眺めるわ。スペースマンの船がきたら、あなたがた の消息をききにいって、レダのいろんなようすをまた絵にでも描い アウラはふしぎそうだった。 て。市民なんてあなたやスペースマンからみれば生きてるか死んで 「おかしなことを云うのね。あなた、そんなもの、信じているの ? 」るかわからないようなもんだろうけど、でもそれなりに、か弱くて も、もろくても、けっこうしぶといものよ、人間って、生きて行く 「わからないよ、まだ。でも、ばくは、たびたびいろんな瞬間に、 何かにひれふしたい この・ほくの存在そのものをうちのめすようものよ。何とかしてね」 な巨大なものがたしかにあるような気がすると、ずっと思っていた「アウラ。 もう一回だけ考えてみてよ。ばくは本当に、あなた きいていいかな、アウラ」 と一緒に行きたいんだ」 「まあ、何を ? カン・ハセーションなんて、すてたんじゃなかった ・ほくは、涙があふれてくるのを、とめようとはしなかった。 「ほくはあなたからレダを奪った。ファンも ・ほくはあなたに何 「まあね。でも、だからわけもなく無礼になっていいってことじやでもしてあげたいんだ」 ないし。でも , ーーきいていいかしら。アウラ : : : それで、アウラは「そうね、でも、決めたの。私、もう決めてしまったのよーーー私 どうするの ? ぼくたちと一緒に来ないで は、いつだって、自分の運命を、自分で決めてきたのよ。これで それは、きくのはあまりにも残酷な問い、 も、あなたと同様にね。それに」 ひらいて血を流してい る傷口をさらに鞭うつにひとしい質問であったかもしれない。 アウラは目をつぶり 一瞬、限りなくなっかしい過去のまぼろ しかし、・ほくはーー知りたかった。・ほくはアウラの心にふみこしを追うかに見えた。 み、近づき、よりそいたかった。どうせ、一回土足で入りこんだか「私はーーーきっと、わかっていた。はじめからわかっていたのよ。 レダと一緒に住み、レダを守ってやろうと思ったそのときから、私 らには、・ほくでできるものなら少しのなぐさめでも与えたいと思っ はいっか来るあなたのための : : : 中つぎにすぎないんだ、というこ とが。私ではだめだったーーー何かが欠けていた。だからレダはいっ 「そう : : : ねーーー」 アウラは微笑した。妙にすきとおった風のようなわらい も何かおかしかったのかもしれない。。 ヒンク・タワーに通って 「私はきっと、レダの家に行ってみるわ。もう、焼かれてしまってスペースマンたちと遊んで。でも、私はできるだけのことをしてき 何もないだろうけれど、焼けあとの灰ゃいろんなものをあつめてく た。おお、レダ、私、やっとわかったわ。私はーー私の方だったの るわ。私はもともとデイソーダーの素質はないのだから、レダがい よ。レダがいることで、救われたのは、私の方だったのよ : : : 私 なくなれば、むりに秩序を乱す必要もないでしよ。どこかに小さな は、レダを愛したわ。気ちがいみたいに愛している。すがりつくよ 243
うにして愛していたのよ私ーー・レダには私が必要だ。私がいないとー何もかも・ほくをここに導くためにあったんだから。・ほくがここに 死んでしまう。かわいそうなレダーーそう思 0 て、そう思うことで立ち、そして、あなたが《スペテヨシ》というのをきくためにあ 0 : ・救われていたのは私の方だったのに。レダがいなかったら、私たんだから。あれほど愛してるレダを失おうとしているあなたが、 かわいそあなたがーーー」 こそ死んでいたかもしれないのに。かわいそうなレダ うだったのは私なのにね。レダが待っていたのはあなたよ。あなた ぼくの声は涙でとぎれた。 だった。あなたなら、彼女を満たしてやれる。守ってやれる。あな「泣かないで、イヴ。私は幸せなのよ」 たは私みたいな愛し方はしないのね。でも・ーーでも私は思うの。何アウラの声が、ひどく遠くからきこえてくるようだった。 もかもこれでよかった : : レダに会えた。レダを愛せた。これほど「レダがどこかの星にいて、幸せに生きていると思ったらーーーそれ までに、愛するものにめぐり会えた。それ以上に要求するなんて欲だけで、レダが死んで、この世のどこにも存在していないと思うよ りどんなにいいかわからない」 張りじゃないかしら ? 私の方よーー・レダに感謝するのは、私よ。 でも、私だって、そんなに恥じ入らなくてもいいと思うの。レダを「レダはひきうける。誓うよ。神に誓ってレダを二度と悲しい目に だって、覚えていて、 失うと思ってとり乱したからと云って。 はあわせない」 イヴ ? 私、あなたに云ったわ。早く大人になって、ってーーーそし「神」 てあなたは、ちゃんと、こんなに早く大人になって私からレダをう アウラはまた云った。 けとってくれる。それは、正しいことでしよう ? そう思うでしょ 「あなたがそういうのをきくのは、これで二度目だわ。私にはわか う ? 」 らない あなたって、それを感じとることができるの ? だとし 「ああ」 たらやつばりあなたは他の人とはちがってるのね。どうして、そん ・ほくの顔はもう、涙でぐしゃぐしやになっていた。・ほくはアウラ なふうに確信をもってそれのことを口にできるの。ーーー時間があれ を衝動的に抱きしめた。 ば、あなたと、そのことをもう少し話してみたいけれども」 : アウラ、ファン しかし 「アウラ、アウラ。ーーー愛してるよ、アウラ。 も云ってたよ。ファンも同じことをいったんだよ。何もかもこれで アウラは、それを話すひまはなかった。 そのとき、ふいにドアのチャイムが鳴ったからだ。 よかったー - ーーわたしは生まれてきてよかったと思っている、って : : アウラ。愛している。・ほくは愛している。アウラを。レダを。フ ・ほくとアウラはいっぺんに緊張した。ここには誰もくるはずはな アンを。生きてることを。すべての世界を、存在するすべてのものかったしーーーくるとすれば・だが、きっすいの良き市民た を。 レダを殺そうとしている人びと、ファンを殺そうとしたデる»-a ・が、アポイントなしにやってくるわけなど決してなかった イマー からだ。 ファンを殺してレダに殺されたやつらでさえ、何もかもー ビューティフル・・ヒー・フル
し、事実に拠らなくてはならぬ状況の中で、主語を失ってしまったんなにはなれていてもはっきりわかるのだ。 宇宙言語。 »-a ・は室を用意して待っていた。 「・フライ船長」 「ハロ 1 、キャプテン・・フライ」 ぼくは、ここしばらくで急につよめられていた、ささやかな自負「やあー と自信もにわかにゆらぐ思いで、おずおすときいた。 「月への歓送パーティ以来ね。今度は、思いがけぬことでご迷惑を 「何だ」 かけて」 「きいてもいいでしようか」 »-ä・が、スペースマンにあわせたかんたんなしゃべり方をここ ろがけているのに・ほくは気づき、やはり政治家なのだと思った。 「何をだ ? きく前から、わかるか」 「まさか、いきなりご当人がやってくるとは思わなくって」 「船長はーーーレダを愛してるんですか : ・ 主語のない世界で、ひとはどうやって愛するのか。ぼくはそれを「急いでるんだろ。で、どうだ」 知りたかった。 「どうたって—O ・ O はてんやわんやのさわぎだわ。この少年 は、自分の影響力を自覚してないらしい」 スペースマンは肩をすくめた。 「つまらんことをきくな。あの女は面白いやつだ。だから手をかし「レダに会わせろ。テストが必要だ。適性ゼロならこの案はおシャ 力だ」 てやると云ってる。ややこしいことをいうな」 答えになっていないと、ぼくは思ったが、その先を追及している「レダにーー病院にきいて見ましよう。他には ? 」 ひまはなかった。もう、車は O ・ O タワーの四階の入口に、よこづ「報告待ちだ」 i--) ・は出ていった。 けになっていた。 下に、まだ、かなりの数の人びとがたむろしていた。もう、疲れ「宇宙客船みたいなおばさんだ」 こ。こ満足そうに・フライが云う。 たのか、叫んだりさわいだりはしておらず、じっとしずかに、ナナ 「あれは、きれいで豪華だって意味よ」 たむろしている。 アウラが云った。 プライはそれをみた。 . 「なんだ、あれは。下の奴らに、あんなことをするほどの頭があっ 「話にきいたことがあるわ。・は必ずスペースマンに気に入ら たのか。急がんといかんな」 れるのですって。それも、彼女が O ・ O のリーディング・メン・ハー ぼくは恥入っていたので、あんまり口をきかなかった。たた、車になる重大な要因のひとつだったそうよ。彼女があなたにつねに同 が人ってゆくとき、下からかなりの人びとがこっちを見上げていた情的なのには、ひとつには、そのこともあったのじゃないかしら。 ので気になった。プライの体格が市民のそれとはちがうことは、ど ディマ 1 はまた、とてもスペースマンを苦手としているので、 247
だからこそそうしてま らこそ生じた結果だというのならーーぼくたちが、《上》へはもとは、若いのよ。とても、とても若いの。 もと出てゆかれない、というのだって、きっと伝説だ。のりこえるっすぐにつきすすみ、何もかもをひっくり返してしまおうとできる 4 2 の。これは、決して、さっきみたいなヒステリックな反応じゃな ことができると思うよ」 というより、そ 「あなたはできるわ。でも私はだめよ」 、私、よく考えてみたのよ。そして決まった うしかできないという結論が出たの。やつばり、ダメだわ。私は 「ほら、それが シティ・システムはあなたの精神にくさりをか 《上》へは行かれない。私はあなたの倍以上年をとっている。臆病 け、目かくしをして、何も見えないと思いこませてしまったんだ。 ・ほくはそう思う。とび出していって、外気にあたれば、もっと・ほくや怯懦のせいじゃなく、私の血と肉はシティで生まれ、シティ・シ たちはつよくなるだろう。カン・ハセーションなんていうガラスで互ステムによってはぐくまれてきた。私は肉のかたいおいに まれ鳥よ。 いをへだてるのをやめれば、きっと、・ほくたちはもっと互いの心にもう、どうしたって変わることはできないわ。 レダについては ・ほ ~ 、とファ 近づくことができるよ。ぼくとレダ、・ほくとあなた 私わからないの。あの子もまた他の人とちがう存在だわ。とはいう ンのように。 *-a ・だってそうだ」 ものの、私、疑っているのよ。彼女だって、あなたの倍の年だわ。 、を . し・カ十′—> そのことも考え 「それが、あなたが私たちにとっていちばんおどろくべきである点心は童女のままでも、身体はそうよ、 かもしれないわね。あなたがそうしてずかずかととびこんでくるかてみてほしい。とはいえ、私はもう反対しない。だって、レダは、 らこそ。ーーーでもそのために私、けっこう傷ついたのよ」 ここにいても死ぬしかないのだし、それにーーそれにたぶん、もう 「修ついたってかまわないじゃないか。人間は、何でものりこえる私ではダメなんだわ。だって彼女があなたというものを知ってしま ことができる。本来、ばくはね、人間というものが、もっと脆弱でったからにはーーあなたの若さ、あなたのカ、あなたの生命力、そ ない、野蛮で粗野な生命力をもってたはずじゃないのかと思えるよれを味わったレダは、二度と私という代用品の、冷たい合成肉では うになったよ」 満足しないでしよう。ただ、レダはああいう人だから、あなたへの 「私もわかったことがあるわ。それはねー・ーーあなたのことよ、イ執着がうんと強くて、他のことすべてーーー故郷をすてることや、馴 れぬところへゆくことや、それらをみんなかき消してしまうことが できたらうまくゆくだろうと私は思うけどーーでもここにいるのは アウラは淋しそうに笑った。 「どうして、そんなにもあなたが早く立ち直れるのか、私たちにはもうおわりなのだから、しかたないわね、もし : : : 悪い目の方が出 とうていできないような思いっきをして、たちまちそれを実行にう たとしても。そうなれば、そこまでのものだったのだーーと思う っせるのか、 O ・ O をおどかしたり、宇宙へゅこうとしたりーーそわ。レダという存在の運命が。それはどうすることもできない」 の勇気だけでさえあなたはシティ・せんぶを征服しかねない。でも、 「アウラ」 わかったのよ。それがどういうことだったのか。 イヴ、あなた ・ほくは、深い感動にうたれて、彼女の手をとった。
ぼくは驚いて尋ねた。 「その最高機密解除暗号を知っている人間は、大勢いるわけですね 「なぜそれをマ = イにも「と早く教えてやらなか 0 たんだ、クレオ 「そうです」 リリンのような尋ね方をすること 「その全員が死んでしまったらどうするの ? 新しい暗号に変えら「尋ねられませんでしたもの。マ が、この秘密を洩らすための鍵になっていたのね」 れるわけね ? 」 マリリンは言葉を続けた。 「そうです。新しい暗号を作るための解除暗号をいえば、そうでき ます」 「それをあたしがいえば、もう、あなたの持っている最高機密を話 してくれるのね ? 」 「次の暗号を作るのを許すための鍵になる暗号があるわけね ? 」 「いいえ。拒否します」 「その暗号は秘密なの ? 」 「なぜ ? 」 「現在の最高機密解除暗号を知っている政府要員は、だれひとりま 「では、みんなが死んでしまったとき、知っている人がいなければだ死んでいませんから」、 - 困るわね」 「まあ : : : なんてことなの ! この石頭 ! 」 「はい。だから、それを知っている人のグループも作ってありま「いまの言葉には答えられません。拒否します」 大統領コンビューターは黙りこんだ。」 クレオ。ハトラはいった。 「それを教えて。その人たちの名前と方法を」 「秘密です」 「その後になっている人々のリストは、最高機密でなく、お教えで マリリンはクレオパトラのほうにないて、「クレオ。ハトラ : : : そきるってこといいましたわ」 れは最高機密なの ? 」 ・ま ~ 、よいっこ。 、え」 「こいつはまったくコロン・フスの卵だったな ! 」 「その暗号は ? 」 マリリンは首をかしげた。」 「最高機密なの ? 」 「何のことなの、それ ? 」 しいえ。第二段階の機密です」 ・ほくは説明し、クレオパトラにむかって、「その全員が死んだと 「その暗号を教えて ! 」 いう情報を、嘘だという反証が出てこないように、短時間のうちに クレオパトラはすました顔でいった。 大統領コンビューターに流してやればいいんじゃないのか ? それ 「八点鐘が鳴るとき、高い砦に、鷲が舞い下りた」 は高速コン。ヒューターにだけできることだよ」