マニュエルはおずおずと口をはさんだ。 った。例えば、乳房の形の大きさだ。マニイは初め、小さすぎる 「どうもどうもだが : : : ひとっその体を、裸のマリリン・モンロー から大きくしろなどといったくせに、いざとなると、もっと小ぶり 3 にしてもらえないか : : : あるいはグレタ・ガル・ホでもいい : : : くらのほうが魅力的だというし、ぼくはもっと大きめのほうがいいとい べてみたいんだ。いまのヴィーナスの体では、その・ハストがどうもう。これは、東洋人と白人の好みの差だったのだろう。それで、と どのつまりはヴィーナスとマリリン・モンローのあいだぐらいの大 小さすぎる。それなら、十四、五の娘の・ハストだそ」 いま現在生きて息をしているクレオパトラかヴィーナスとしか思きさになった。 われない美女は、嬉しそうに笑った。 びとりの女性の歴史を、その生まれ育った家庭という背景から作 「ええ、マニイ。好きなだけ楽しんでくださいな。それとも、着せり上げてゆくのは、実に複雑な仕事だった。男性との肉体経験があ 替え人形で楽しみたいのはテッドのほうかしら ? ところで、わたるかどうかなど、クレオ。ハトラにすれば、なぜそんなことについ しの年齢はいくつなの、テッド・ディア ? それに、学歴はどれぐて、われわれが夢中になって議論するのか、納得できない話題だっ らいなのかしら ? 」 た。それに、この絶世の美女が在籍したことにしなければいけない 中学・高校の成績証明書にしても、な・せ全科目が満点に近い成績だ ったのではいけないのかと、彼女は不満を洩らした。まったく女と 4 少女セクシイ・ビンク いうものは、嘘でも自分を飾りたがるもんだ。ま、彼女が、肉体を 人間、それも男性の考える革命グルー。フ女性指導者の理想像と、動かす以外のすべての学科に満点を取ることは保証するが。偽物の コンビューターの考える理想像とは、ずいぶん違っていた。ぼくのダイヤの指輪を欲しがるとはね。 希望としては、二十歳前後の清らかながら色つぼい女性のぼちゃぼ 一方、ぼくもその実体を知らないままだが、ゼンタイの行動趣旨 ちゃっとした肉体にしたかったが、クレオパトラは論理的に考えれに賛同する人々の数は、この都市だけでも非常に増加しており、市 ーになっていることを、クレオ ば、二十前後の娘など世間のことを何ひとっ知らない、そういって民の三分の一以上が潜在的なメン・ハ 。ハトラは保証した。ゼンタイが本当に何をしようとしているかは知 悪ければ、世間の暗黒面をほとんど知らないから、革命運動の指揮 などできるはずがないと主張し、四十五歳ぐらいの女子マラソン選らなくても、政府の持っ雰囲気に人々は反感を持ち、ロからロへと 手タイプがいしとしい、マニュエルは何といってもポインにくびれ伝えられる″人間がコン。ヒューターの使い走りになっている″電算 た胴、横に大きく張った腰の女盛り、三十歳ぐらいでなければと、機管理政治と軍部主導の政治状況に反対するムードが高まってきた あれやこれやすったもんだの結果、肉体の衰えをまだまったく見せのだ。 積極的に政府を倒すための行動をおこすべきだと主張する連中の ていない熟しきった三十二歳の健康な女性となった。そして面白い ことに、些細な点でのほうが、・ ほくとマニュエルの意見は大きく違数は少ないはずだし、その貴重な行動グループ、・いうなればアクテ
川ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅱⅢⅢ川ⅢⅢⅢⅢ バラレル・ワール も、人間の基本的本質についての疑問や議 論を反映させていないものは、ほとんどな 真剣な議論の解決に SF のお決まりの型 を使ってしまうため、ディクスンの才能や 真摯な姿勢が認められるのは確かに遅くな った。しかし、《ドーサイ》シリーズの残 りの各巻は大きな関心を持たれており、デ イクスン作品全体の評価向上への契機とも なりそうである。過去 30 年以上の間に、デ イクスンはもっと注目する価値のある作品 群を築き上げているのだ。 ディクスンは "Call Him Lord" ( 1966 ) でネビュラ賞中篇部門受賞。楽しいファン タジイ長篇『ドラゴンになった青年』 The Dragon れ d G に 0rgK1957 "St Dragon and the George ”の題名で F & S F 誌に ; 1976 ) はイギリス・ファンタジイ協会 のオーガスト・ダーレス賞を獲得。アメリ カ S F 作家協会の会長を二期、 1969 年から 71 年まで務めた。 〔 J C 〕 その他の既訳作品 『タイムストー ム』 ( 上・下 ) T か尾 & 川 ( 1977 ) 、『宇 宙士官候補生』。襯に / 襯 / ん S 加尾 『ドルセイ魂』 The Spirit ( 1978 ) 、 DI SASTER デイザスター ( 破減 ) ド 四次元 ( その他 ) 、 DIMENSIONS 次元 Do ( 1979 ) 。 VIII する社会の性質に重点をおいた作品は大部 それの項目で処理した。大破減のあと出現 語もこれに属するが、便宜上これらはそれ マのひとつである。未来の戦争や侵略の物 よ、激変は SF でいちばん人気のあるテー 自然によるものにせよ人工のものにせ 分、大破壊とその後で扱う。 デイザスターの伝統の中心となるのは、 生物圏の激変によって人間の生活が極端に 影響される、という物語である。全世界 をおおう大洪水の物語は少なくとも The な G ″襯ん ( 紀元前 2000 年ごろ ) までさかのぼるし、その他の、悪疫や大火 や飢饉といったモチーフは明らかに聖書、 なかんずくヨハネの黙示録を源としている こから S F にしばしば黙示的という形 容詞が付けられる ) 。デイザスター小説に 人気があるのは、我々が恐れると同時にひ そかに望んでいることが全て表現されてい るからだーー一人口が減少した世界、高度組 織化産業社会の束縛からの逃避、生き延び うる人間として能力を示す好機。たぶん、 テクノロジー時代の人間の傲慢さに対する 罰が表現されているからか、その種の物語 は、アメリカの SF 雑誌ではそれほどの人 気はなかった。デイザスター小説のもつ田 ッじ、 想は、アスタウンディング・サイエンス・ フィクション誌やその編集者ジョン・ W ・ キャンベル・ジュニアに代表される、楽天 的で拡張主義的な姿勢と正反対の方向を向 いている。実のところ、この種の作例は大 部分イギリスのものであり、大国としての イギリスが 20 世紀になってから衰退の道を たどっていることに原因があるのではない か、とも言われている。 ところが、初期のこの種の作品は大英帝 国の最絶頂に書かれているのだ。 H ・ G ・ ウェルズの「妖星」 "The Star" ( 1897 ) や M ・ P ・シールの T ん e ~ ″ゅん CIo ″イ ( 1901 ) は、どちらも大激変の物語である。 264 場合は致死性でないことがわかる。第一次 お砒 ( 1913 ) にもガスが登場するが、この ン・ドイルの『毒ガス帯』 T ん ~ 0 な。れ の男女以外が死に絶えてしまう。 A ・コナ 後者では、謎のガスによって、ひとにぎり 前者は暴走した恒星が地球に衝突する話、
かに知らせるようなことがあるとしたら、それはそうすることが絶されているの。いまヨーロツ。 ( にいる副大統領が帰国したら発表さ 対に必要な理由があるからだってこと覚えておいてね。そのときれるはずよ。軍部にとっては大統領がいないほうが便利たからと思 3 うの。それで、重要問題についての最終判断は、コンビューターが は、あなたの許しを求めることにするけれど」 出した答を、大統領府と軍部の代表が承認したものになっているわ 「わかった」 け : : : その連中、コンビューターのいいなりになっているのよ」 浴室のほうから声がした。 「コンピューターの解答を承認しない場合だって、もちろんあるだ 「もういし力い ? ・」 ろう ? 」 「いいそ、マニイ」 いいなりなの」 かれがもどってくると、クレオパトラはいっこ。 、え : : : な・せかしら、 「ほんと、テッドって人間的ね。大統領なんか、一方的に命令する「テレビに出ている大統領の姿は ? 」 ばかりなんだもの。人間を管理し支配するのは、やつばり人間でな「生きているときに撮影したフィルムやヴィデオの映像を解析し ければ : : : あら、少なくとも、人間的な考え方ができるものでなけて、コンビューターが作り出しているの : : : 問題は、そのコン。ヒュ ればってつもりよ」 ーター自体が、何かの影響を受けているらしいってことね。いちば んしつかりしなければいけないはずの大統領府と国防総省のお偉方 マニュエルは感むしたようにいっこ。 「さすがにワック : : : すごい影響力だなあ。おれも、軍人嫌いをすたちがみな、だれかに洗脳された状態が続いていると、わたしは思 こし直さなくちゃあいけないかな。クレオ。ハトラ、きみはまったくっているわ」 人間そのものになってきたそ」 ばくはあっけに取られて尋ねた。 ・ほくのほうは、彼女がいったことの内容が気になった。 「コンピューター自体が何かの影響を受けているって、クレオ。ハト・ 「クレオパトラ : : : ラ : ・・ : それ、きみのことなのかい ? 」 「はい ? 」 、え。わたしにもまだわからないんだけど、わたしはその影響 「大統領は人間らしくないっていうのかい ? 残酷なことをするのから、うまく逃がれているわ。それが、自意識があるってことのい も人間的だからこそだろう ? 」 い点ね。わたしの記憶パンクは、わたし以外の指示では開かれない 「ええ。でも、大統領は人間じゃないの。これは話していいことでの。中央巨大コンビューターに、大統領とクレオパトラのふたりが しよ、マニイ ? 」 住んでいるわけだけど、大統領のほうは自意識を持っていないただ 「いいとも。みんながほ・ほ推察していることだもの。少なくともゼの電算機械、わたしのほうは独立した意識がある機械ってことね」 マニュエルはロをはさんだ。 ンタイの中心メン・ハーは、きみの情報を信じているよ」 「おれたちゼンタイが、コンピューター管理による政治に反対する : テッド、大統領は何か胸の病気で死んだけれど、秘密に
「違うわ」 針は知っている。かれらが恐れるのは、あなたとレダの安全だけじ やよ、 0 シティの中に、潜在している、スペースマンへの志向を刺 3 »-a ・は意外なことを云った。 2 「エデン。楽園。アヘンの夢ー・・・・。そうかもしれない。そう見えるー激して、あなたのあとからもそうしたいというものが出ることも恐 ーたくさんの市民たちは、みなそう信じ、その平和に酔いしれてい れるわ。だめね」 るかもしれない。でも、私はーー・ー」 「それが本音らしいですね」 ぼくはおだやかに云った。一 「私は思うようになったわ。人間が生きているということは苦しむ「つまり 0 ・ 0 は市民に思いこませておきたいんだ。市民は上に向 ということ。ーーー人間があつまり、そしてひとつの群をつくって生いていない。上へいったら死んでしまう。決して適応できない きているかぎり、エデンなど、どんなに科学がすすんでも存在するそう思っていれば、ただでさえ進取の気性にとんではいない市民た はずはないのよ。私は、ちょっと知りたくて古代宗教をいろいろ研ちは、いつまででも大人しくそう信じこみ、与えられたシティ・シ 究したの。エデンというのはーーあれは、人間は二人しかいないのステムの世界が自分にゆるされた唯一の全宇宙であると思い、じっ とうごかずにいるでしよう。かれらはオリがあると信じているので よ。アダムという男。イヴという女。あとは獣と花々、それだけ、 他に人間がいたらエデンは楽園にならなかったでしよう。どんな出ようと試みないモルモットだ。そうなんでしよう ? ーー黙ってい に、社会が進化しても、進化したら進化したなりのところで、それますね。まあ、いい男冫ぐ リこまくはいまここでシティ・システムの是 まではなかった悩みくるしみを、進化したゆえに見つけ出し、つく 非を論ずる気はないんだ。それでは改めてうかがいますが、メイハ りあげてしまうーー・・それが人間。人間は苦しむためにだけ存在して ーズとしてこの提案を提出することも断るというなら、ではあなた いるんだわ」 個人がたしかに・ほくに抱いて下さっている好意にすがってみます よ。キャ。フテン・・フライと一回だけ話ができるようにしてくれませ んか」 ・ほくはようやく、体勢をたてなおした。 「それはとても興味ぶかい話ですか、しかしいまの場合ポイントで「そんなことができるわけがないのは知ってるでしよう。そうした ら、あなたは、スペースマンと打ちあわせて、レダを逃亡させ、つ はないと思いますね。くどいようだがポイントにもどりましよう。 れ出してこの星の外へ逃げる計画なのでしよう ? 私は O ・ O メン ぼくの提案は要するにそういうことです。それを O ・ O に提出し、 ーズよ。そんなことの、片棒がかっげると思って ? 」 検討していただけませんか、・、それも早急に」 「あなたはそんなことをきかされてないんだから、知らなかったと 「だめよ」 つつばねてとおせばいい」 ;--Ä・はあっさりと頭をふった。 「とてもムリだわ。私だって O ・ O のメン・ ( ーとして、その基本方「そんなことができると思って ? 私は、いつでも忠実な市民よ。
独自の世界に住んでいる、というぼくの前 だとわかっているのにだよ。いったいなに 提を受け入れることが、まず必要たったか がそんなことを可能にしたのか。その答 ら」 は、人間集団の持っ途方もない力にある。 はる それらの小説は、なかなか買い手がっか ド見それが個人の世界を侵略し、個人が自己に イを なかった。その中の一冊『廃物芸術家の告 ロ夢対していだくイメージを改造して、集団の ドの 白』は、ようやく一九七五年になって出版 ン羊見た彼のイメージを実際に信じこむように された。それ以外の本は、まだ日の目を見 しむけるんだ。攻撃療法で思い出すのは、 ていない。「九冊か十冊分の原稿が残って 中に一人こざっぱりした服装の男がいて、 これがフランス人だった。彼らはいったー いるはずだよ、フラートンの特別コレクシ なく、ある強力な人間の主観的世界が別の ョン図書館へ行けば」彼の口調には恨みが人間の世界を侵害することもありうるんじ ーおまえはホモだろう。半時間とたたない ましいところがすこしもなかった。わたし なしか。もし、ぼくが自分の見るとおり うちに、彼らはその男に自分はホモだと信 は、彼が実際にこの状況を見かけほど達観の世界をきみに見せることができれば、きじこませた。彼は泣きはじめた。ぼくはふ しているのかどうか、聞きただしてみた。 みは自動的にぼくとおなじ考え方をするよしぎでならなかったよ。その男がホモでな こ達するよう 「そうだな、『廃物芸術家の告白』が出版うになる。ばくの達した結論 ~ いのを知っていたからね。なのに、彼は泣 されたときに、刺さっていたとげが抜けた になる。そして、一人の人間がほかの人びきながらそのことを認めている。べつにそ との上に振るえる最大の権力は、彼らの知れは罵りをやめさせたいためじゃなかっ 気分で、かなりすっきりはしたね。だが、 もちろん、あれが活字になるまでには十九覚する現実を支配し、彼らの世界の独立しナ こ。「このホモ、このおかま野郎、はっき 年もかかってる。長い道のりだったよ。し た本来の姿を侵略することなんだ。これりそうだと認めろと、彼はみんなからど かし、のおかげで、自分が書きたいと なりつけられていた。ところが、彼がそう は、たとえば心理療法の中でも行われてい る。ぼくはカナダで攻撃療法を受けたこと だと認めても、むこうはやめるどころか、 思う種類の本を出せる道すじが開けてき がある。大ぜいの人間からいっせいにどな た。『火星のタイム・ - スリップ』は、まさ いっそう大声になって、「われわれのいっ にぼくが書きたかった種類の本だった。ありつけられたときには、とっぜん一九三〇たとおりだ、われわれのいったとおりだ」 れは、ぼくにとって非常に重要な前提を扱年代のモスクワの粛清裁判の謎が解けたと と叫びつづけた。彼はたんに彼らの意見に っている , ーーっまり、われわれ一人ひとり思った。一人の人間に進んで立ち上がらせ同調しはじめただけなんだ。 が、自分自身の心理的内容に根ざしたあるて、自分は罪を犯したと誠実きわまりない この問題は、政治的に眺めることも、心 程度ュニークな世界に住んでいるたけでは 口調で認めさせるーーーしかも、刑罰は死刑理学的に眺めることもできる。ぼくは自分 9
の小説の中で、そのすべてをドラマティッ いた。しかし、ドアを開けて家の中がめち ) 9 にアンチ・ヒーローである理由の一つはそ クに眺めているわけだ。ある人間の世界が やくちゃにされているのを見たとき、窓や ほかの人間の世界から受ける不気味で奇怪れだ。彼らは九分どおりまで敗北者だが、 ドアがたたき割られ、ファイルがふっとば な侵略としてね。もし、・ほくがきみの世界ただ、ぼくは彼らに、なにかそれによって を侵略すれば、きみはなにか異質なものを生きのびられるような資質を与えようとっされ、書類がぜんぶどこかへ消え、決済ず とめている。それと同時に、彼らが反撃戦みの小切手も消え、ステレオもなくなって 感じとるだろう。それは、・ほくの世界がき いるのを見たとき、こう考えたのをおぼえ みのと異なっているからだ。もちろん、き術を編み出して対抗し、自分たちも搾取 みはそれと戦わなくてはいけない。しか者、操作者に成りさがっていく、というふているよ。たしかにこれはひどい惨状だ が、これであの″パラノイア説はうちこ うにはなってほしくないと思っている」 し、その多くは徴妙な違いだから、しばし ばわれわれは戦わずにすませる。われわれ わたしは彼に、もし人からあなたは権威わされた、とね。 実をいうと、ぼくはかなり優秀な精神分 の世界が侵略されているのをそれとなく感的性格への不安が強すぎるのではないか、 じるだけで、この自己本来の姿に対する侵 パラノイアではないか、といわれたらなん析医から、パラノイアになれるほど冷淡な と答えるか、とたずねてみた。その答とし人間じゃないと、知らされていたんだ。そ 略がどこから発しているのかを知らずにい 「あなたは感傷的 る。それは、たいていの場合、権威的性格て、彼は反戦活動家だった頃に受けた迫害の医者がいうには を引き合いに出した。それが絶頂に達したで、人生に幻想を持ちすぎているが、あま の人間から発しているものなんだ。 りにもセンチメンタルだから、とてもパラ のは、彼の自宅が奇怪な家宅侵入に遭い 二十世紀の最大の脅威は、全体主義だ。 ノイアにはなれません」 それはいろいろの形をとる。左翼ファシズ土地の警察が事実上捜査を拒んだときだと いう。「自分の家があんなふうに荒らされ ム、心理作戦、宗教運動、麻薬患者更生施 前に一度、ミネソタ・マルチフェイジッ 設、権力を持った連中、他人を操作する連 ク心理性格テストを受けたことがあるが、 チ 、の そのときの結果は、パラ / ィア的で、循環 中。また、それは自分よりも心理的に強力「 、チ な相手との関係の中にも見出すことができ、 気質で、神経症的で、分裂症的で : : : 測定 る。根本的に、ぼくが訴えているのは、こ 尺度によっては点が異常なほど高かった。 だが、それと同時に出た結果からすると、 うした強くない人びとの言い分なんだ。も マの マ し、ぼく自身が強い人間だったら、おそら ぼくは不治の嘘つきなんだ ! つまり、む くそのことをあまり脅威とは感じないだろ こうはいくつかの違った言い回しで、おな じ質問をよこすんだよ。たとえば、こんな う。・ほくは弱者の身になって考えてしま れる世界 ! 朝第ト : 安グ第 3 イをが煉ま替し道、 , 当価ま・応 : を ををいのく峯第の、い
ぼくは驚いて尋ねた。 「その最高機密解除暗号を知っている人間は、大勢いるわけですね 「なぜそれをマ = イにも「と早く教えてやらなか 0 たんだ、クレオ 「そうです」 リリンのような尋ね方をすること 「その全員が死んでしまったらどうするの ? 新しい暗号に変えら「尋ねられませんでしたもの。マ が、この秘密を洩らすための鍵になっていたのね」 れるわけね ? 」 マリリンは言葉を続けた。 「そうです。新しい暗号を作るための解除暗号をいえば、そうでき ます」 「それをあたしがいえば、もう、あなたの持っている最高機密を話 してくれるのね ? 」 「次の暗号を作るのを許すための鍵になる暗号があるわけね ? 」 「いいえ。拒否します」 「その暗号は秘密なの ? 」 「なぜ ? 」 「現在の最高機密解除暗号を知っている政府要員は、だれひとりま 「では、みんなが死んでしまったとき、知っている人がいなければだ死んでいませんから」、 - 困るわね」 「まあ : : : なんてことなの ! この石頭 ! 」 「はい。だから、それを知っている人のグループも作ってありま「いまの言葉には答えられません。拒否します」 大統領コンビューターは黙りこんだ。」 クレオ。ハトラはいった。 「それを教えて。その人たちの名前と方法を」 「秘密です」 「その後になっている人々のリストは、最高機密でなく、お教えで マリリンはクレオパトラのほうにないて、「クレオ。ハトラ : : : そきるってこといいましたわ」 れは最高機密なの ? 」 ・ま ~ 、よいっこ。 、え」 「こいつはまったくコロン・フスの卵だったな ! 」 「その暗号は ? 」 マリリンは首をかしげた。」 「最高機密なの ? 」 「何のことなの、それ ? 」 しいえ。第二段階の機密です」 ・ほくは説明し、クレオパトラにむかって、「その全員が死んだと 「その暗号を教えて ! 」 いう情報を、嘘だという反証が出てこないように、短時間のうちに クレオパトラはすました顔でいった。 大統領コンビューターに流してやればいいんじゃないのか ? それ 「八点鐘が鳴るとき、高い砦に、鷲が舞い下りた」 は高速コン。ヒューターにだけできることだよ」
毛のはえた程度の境遇を、ちょうど女の子にふられたときとおなじったし、彼を褒めてくれた女の子も、フランクフルトへ転勤になっ ように、おとなしく受け入れていた。ある意見で、これが彼の限界てしまった。いまの彼はロポットにだまされて、どこかの僻地へ送 であり、分相応のところだ。彼は気に入らないものにがまんして従りこまれ、クソをシャベルですくい出す羽目になった。の安っぽ い、その態度を美徳と見なしていた。彼に権力をふるえる立場の人いペテン師機械は、おそらく登録番号をもとに、街頭で市民を強制 間は、たいてい彼を善良な男だと考えた。彼が権力をふるえる立場徴用してやがるんだ。これから行くところは大学なんかじゃない。 の人間は、皆無といってよかった。クラウド・ナイン住宅会社の上一等賞が聞いてあきれる。さしずめ、一種の強制労働収容所への片 役は、彼にあれこれ命令するし、彼のお客たちも、実は彼にあれこ道切符に当たりついたってとこか。出口はどこかへの入口だ、と彼 れ命令している。政府はみんなにあれこれ命令する。すくなくとは思った。言いかえれば、当局がおまえを欲しいときは、もうおま も、彼の推測ではそうだ。これまで、あまり政府とは交渉がなかっ えを手に入れている。必要なのは事務手続きだけなんだ。しかも、 たのである。これは美徳でもなければ、悪徳でもなかった。たんに コンビューターは、キイを押すだけで書類を作成できる。のキイ じごく どれ 運がよかったにすぎない。 が hell で、のキイが slave だ、と彼は思った。そしてのキイ おまえ むかしは彼も漠然と夢を描いたことがある。それは弱者の救済に カ you だ。 関する夢だった。高校時代にチャールズ・ディッケンズの小説を読歯プラシを忘れるなよ、と彼は思った。入用になるかもな。 んで、貧しい人びとのイメージが、まざまざと目に見えるように心映話スクリーンでは、カザルス少佐が彼を見つめていた。まる に定着したのだ。 一間のア・ ( 】トすら持たず、職もなく、高校教育で、ポプ・ ' ( イプルマンが逃亡する確率を、無言でおしはかってい も受けられない大ぜいの人びと。当時は、テレビで聞きかじったあるようだった。ぼくがそうする確率は二兆分の一さ、と・ ( イプルマ る種の地名が、もやもやと頭の中を行きかっていたものだ。たとえ ンは思った。だが、その大穴が出るかもしれない、さっきの懸賞み ばインドというと、重機械が死骸を掃きよせているところが連想さたいにな。こっちは、いわれたことをやるだけだよ。 れる。そういえば、一度、ティーチング・マシンからこういわれた「一つだけ質問をさせてください」と・ ( イプルマンはいった。「正 ことがあるーーあなたはよい心の持ち主です。これには彼も驚い直な答をおねがいします」 た。機械がそんなことをいったからではなく、自分がそんなことを「いいとも」カザルス少佐はいった。 いわれたからだ。女の子にも、一度やはりそういわれたことがあ「もし、ぼくがあの軽食販売ロポットに近よらなかったらーー」 る。このときも彼はびつくり仰天した。巨大な力が結託して、彼が「われわれはどのみちきみをつかまえていたさ」 悪い人間でないということを告げてくれている ! それは謎であ「なるほど」・ ( イプルマンはうなずいた。「ありがとう。それで気 り、また喜びでもあった。 が楽になりましたよ。もうつまらない後悔をしなくてすむ。もしあ だが「そんな日々は遠く過ぎ去った。もう小説などは読まなくなのとき、 ( ン・ ( ーガーとフライドボテトが食べたくならなかったら
フィリップ・・ディック追悼特集 水鏡子 この文章を書いてる時点で『ヴァリス』も『聖番目の世代。歌手志望の娘に恨みをかって殺され間であることをやめ、名実共にシミラクラとな るお話である。妹であるアリスはバックマンの矛 なる侵入』まだ翻訳が出ていない。たぶんこのかける男。とてもあたりまえの人間ではない。 ディックの主人公が殺されかけることは珍しい盾の具象であり、アリスの死と・ハックマンのシミ と同じころに本屋に出まわるはずであるこ れらの最新作でディックがどこに行きついたのことではない。けれども誰かに恨まれるような性ラクラ化は当然通底するものなのだ。 もちろんディックの小説は図式化で全てを読み か、それを知らずに断定的に想いをつづっていく格の持ち主であったことはなかったはずである。 ことは、人目に触れるのが同じ時期であるだけ代わりにタヴァナーの特徴を列挙していくことにとれるほどやわな存在ではない。タヴァナーとキ に、はなはだ心もとないことなのだけど、それでより、浮かびあがってくるもう一つのイメ】ジ / ヤシイのそっとするようなディスコミュニケーシ ョンを筆頭に、全篇ディックの分泌物が充満して はたしてイメージが検証されるか覆されるか、概念がある。 シミュラクラというイメ 1 ジである。 そんな不安と興奮を楽しみながらつづってみま す。 わかった、と思ったのは警察長官フェリックスけれども、問題なのは、図式化することでこの ・ックマンが登場してからである。それまでの小説のメイン・テーマがほ・ほすくいあげれるとい 『流れよ我が涙、と警官は言った』を読みはじめ異和感が。ハックマンの登場で一気に霧消し、世界うことなのだ。例えば『電気羊』や『逆回り』は た時、いつにない異和感を覚えたのは主人公のジに現実感が戻ってきた。読み終えた時には、はじ一見明解な対立図式がいくつも折り重なっている ェイスン・タヴァナーに全然共感が湧かなかっため奇をてらったように思えた題名が、逆にあまりわけで、個々の要素を取り出して図式化するのは ためである。例えばリック・デッカードのよう にまっとうすぎて芸がなさすぎるのではないかと簡単だけど、いざ全体を統べようとすると、他な らぬそれらの対立が互いに他の対立の足をひつば に、アンドロイド・ハンターといった特殊な職業さえ感じるほどだった。 に就いていても、ディックの主人公はどこにでも筋を・ハラしてしまうので読んでない人、ここでって、この本のような形でのまとまりを許してく れない。 いるあたりまえの人間である。あたりまえの人間読むのをやめてください。 だからこそ、読者は主人公の視点にすんなり同化 つまりこの小説の主人公は。ハックマンなのであ他でも書いたが『電気羊』をディックの長篇の し、けだるい朝の目覚めのシーンから息のつまるる。これは社会的役割体系の中ではシミラクラ流れの中での分水嶺に位置づけてみた。次作『ュ ービック』以降、ディックは多方面、多面的な目 ような ( 主人公の ) 日常性にとりこまれ、そのまの立場に位置づけられている人間 C ハックマン ) ディ・ドリーム・ワールド まリアリティを減じることなく白日夢世界を引 が、位置的には人間の立場に置かれたシミ = ラク配りをやめて、視野をしぼりこみ、ストレート、 一本調子に徹していく。かっての彼の中心テーマ きずりまわされる破目になるのだ。 ラ ( タヴァナー ) を追跡していく過程において、 ところがこのジ = イスン・タヴァナーという男社会におけるシミ = ラクラ的立場を維持するための一つであった権力ゲームは影をひそめ、複雑華 はなんだ。三千万人のファンを持っショーのにこれまで必死で避けてきた人間に対するシミ = 麗な一フロットはほっぽりだされ、後の作品ほど私 的なのめりこみが強まっていく。 スター。秘密裏の優生学的実験で創り出された六 ラクラ的行為を決意する、つまり・ハックマンが人 ーーーディック断想 98
の中に生まれた計画たったにちがいない。 だ。しかし人間は シティの人間、地上の人間は、群れて、穴ぐ 「ムチャよ」 らをつくってでなくちや生きられない。 レダのことをいちばん知っ てるのは、あなたでしよう、アウラ。どうしてそれがわからないん 短く、アウラがするどく云った。 「無茶苦茶だわ」 ですーーそれとも、こわいのは、レダでなくてあなたなんですか」 「イヴ、そんなーー」 「それでも、いま、他にどうやってレダを助けられる ? アウラ、 もっと現実を見てよ。もう、 O ・ O だろうが市長だろうが、ああな アウラの目が大きく見ひらかれた。 ・ほくはその目をのぞきこみ、そして、ハッとした。 った群集をおさえつける力はないと知らなくちゃいけない。しか ( アウラ ) も、あなたは、他のシテイへうつることを考えてたかもしれない アウラは布がっていた。・ が、他のシテイだって、それぞれ少しづっディテールはちがうけれ 本当にーーーアウラほど、かしこく、勇気のある、果断なひとが、 どもシティ・システムを採用していることには何のちがいもない。 そうであるかぎり、どこへいったって、レダはしよせん適応不能者頭からその策の当否を考えてみるゆとりさえないほどに、シティを だーーーしかも、殺人者という経歴をもった。 ・ : もう、地球上じやすて、この大地をすてることを怖がっていたのだ。 彼女は女なのだ、と・ほくは思った。そう、こんなにつよく思った レダはどうあれ適応できない」 「だからって上へなんてーーもっと、こことちがうのよ。レダは恐のは、はじめてだった。 ( 女。男とちがうものーーー・ほくは男だ ) 怖で死んでしまうわ」 「こことちがうからいいんです。・ほくにだって、何が正しいか、何あの、騒擾の中へ出たときの、うずくような、きゅっと腹がひき がまちがっているかそんなことはわからない。ただ、ここにいてもしまるような、たかぶりの感じ。 ぼくは、ことが大きければ大 どうすることもできない、それだけはたしかなんだ」 きいほど、自分がそれに立ちむかう力をもっていることを感じ、ひ 「もし、彼女が死んでしまったらどうするの ? 上は危険なところそかにそれを楽しんでいることさえ知った。しだいに、・ほくは大胆 よ。ノイローゼにもなりやすいー・・ーー助けるつもりで、殺すことにな になり、縦横無尽になった。あれほどカづよく見えていた、病院に るわ」 来たときのアウラーーーしかし、そのアウラには、せつばつまった必 「それでもいいんだ」 死さはあったが、それは・ほくのそのたかぶりとは、明らかにちがっ ぼくは叫ぶように云った。 ていた。それは こういうのは不適当かもしれないが、たしか 「その方が、箱に入れられて生きてるよりはまだマシなんだ。わか に、追いつめられたねずみの勇気にすぎなかったのだ。 らないんですか、アウラーーーあなたのように賢い人が。レダは、こ ( アウラは女なのだ ) こにいることがまちがってる。人間の中にいるのがまちがってるん レダも女・ーーーいや、 , レダは女というより、子どもだ。・ 2 引