よって、何かをつかみとってゆくことを知らない。自分が何のため 「そうきいて嬉しいわ」 とれほどの力を 9 に存在しているのかも、何ができるのかも、また、・ アウラは肩をすくめた。 2 「私、おかし小わね、ーー考えてみたこともなか 0 たのよ。ああいうも 0 ているのかもしらない。傷つけあわぬよう、互いのあいだにガ ラスを立ててあるので、かれらは、自分がどんなにもろく傷つきや ふうにして、人をうごかせるー・ー納得づくでも、契約でもなく、一 : ねじふせるようにしてーー私、正直いうと、すいかーー・ひともそうだ、ということも、また、その自分がどのく 方が一方を、そう・ : らいのカで突けばあいては傷つくのかということも知らない。 さっき、あなたのことをこわかったのよ、ポーイ」 ばくはプロイラーの群れの中に放たれた、子どものオオカミのよ 「・ほくを ? アウラが ? 」 「そうよ。まるでー・ー・そうね、何といったらいいの。知らないひうなものだったのだ。まだ成熟しきってすらいないのに、それでさ え・ほくはいちばん大きくつよい鳥をでも自在につかみとることがで と、いや人じゃないわね。全然知らぬ獣をみているみたいだった。 いまでも少しこわいわ。きた。それはただひとつ、ぼくが自分に牙と、意志と、そして守ら 私、知らなかったわ。あんなやりかた もし、市民たちが、みんなああいうふうにして、カづくで人を自分ねばならぬものがある、ということを、自覚していたからだったの のいうことをきかせようとかかるようになったらーーーシティは崩壊だ 「・ほくもおどろいてるんだよ。ああもあっさり、・がおどしに してしまうわね」 この手を多用したり、悪用するつもりはないのを 「今だって同じことじゃないの。やつら、数をたのんで O ・ O を云屈したので。 誓うよ。いい気分のものじゃないし」 うとおりにしようとしている」 「それをきいて嬉しいわ。市民たちは、まる裸みたいなものだも 「そう ううん、でも違うわ。それとはーー私にはよくわからな いのよ。これはとても異質な概念だわ : : : 市民たちがセンタ 1 広場の。私にもやっとわかったわ。弱いからこそ、かれらは、どんなさ にあつまるのはよくわかるの。私だって、レダでなければそうするさいな攻撃にも耐えられぬので、ああしてレダを攻撃するんだわ。 と思う。だって、 O ・ O は市民を守る義務があるんだから。でも、群をなして」 「・ほくもそれを考えていたよ。もう一つ、別のこともーーーアウラ、 あなたのは よくわからない。自分の利益を守るためじゃないー ー人をうごかすものーー・人、自分、社会 : : : よく、わからない。少カっていうのは、決して特権的にそなわってるものじゃないよ。ば くは自分をかえり見て、どうしても、昔から自分が特別な力をもっ し考えてみたいわ」 いまのぼくには、アウラの感じた深いとまどいのほんとうの意味ていてしかも気づいてなかったというあかしを見出せない。ぼくは がわかる。結局、デイソーダ】であろうと市長であろうと、シテ平凡で内気でとるにたらぬ子どもだった。ただ、他の人とちがう体 だから、ねえ、アウラ、ぼくたちが生来弱く イ・システムの中の市民でいるかぎり、それは、ゆりかごに守られ験をしただけだ。 た泣きわめく幼い子どもにすぎなかったのだ。幼児は、自分の力にもろいというのが伝説にすぎず、すべてはそうやって育てられたか
マニュエルはおずおずと口をはさんだ。 った。例えば、乳房の形の大きさだ。マニイは初め、小さすぎる 「どうもどうもだが : : : ひとっその体を、裸のマリリン・モンロー から大きくしろなどといったくせに、いざとなると、もっと小ぶり 3 にしてもらえないか : : : あるいはグレタ・ガル・ホでもいい : : : くらのほうが魅力的だというし、ぼくはもっと大きめのほうがいいとい べてみたいんだ。いまのヴィーナスの体では、その・ハストがどうもう。これは、東洋人と白人の好みの差だったのだろう。それで、と どのつまりはヴィーナスとマリリン・モンローのあいだぐらいの大 小さすぎる。それなら、十四、五の娘の・ハストだそ」 いま現在生きて息をしているクレオパトラかヴィーナスとしか思きさになった。 われない美女は、嬉しそうに笑った。 びとりの女性の歴史を、その生まれ育った家庭という背景から作 「ええ、マニイ。好きなだけ楽しんでくださいな。それとも、着せり上げてゆくのは、実に複雑な仕事だった。男性との肉体経験があ 替え人形で楽しみたいのはテッドのほうかしら ? ところで、わたるかどうかなど、クレオ。ハトラにすれば、なぜそんなことについ しの年齢はいくつなの、テッド・ディア ? それに、学歴はどれぐて、われわれが夢中になって議論するのか、納得できない話題だっ らいなのかしら ? 」 た。それに、この絶世の美女が在籍したことにしなければいけない 中学・高校の成績証明書にしても、な・せ全科目が満点に近い成績だ ったのではいけないのかと、彼女は不満を洩らした。まったく女と 4 少女セクシイ・ビンク いうものは、嘘でも自分を飾りたがるもんだ。ま、彼女が、肉体を 人間、それも男性の考える革命グルー。フ女性指導者の理想像と、動かす以外のすべての学科に満点を取ることは保証するが。偽物の コンビューターの考える理想像とは、ずいぶん違っていた。ぼくのダイヤの指輪を欲しがるとはね。 希望としては、二十歳前後の清らかながら色つぼい女性のぼちゃぼ 一方、ぼくもその実体を知らないままだが、ゼンタイの行動趣旨 ちゃっとした肉体にしたかったが、クレオパトラは論理的に考えれに賛同する人々の数は、この都市だけでも非常に増加しており、市 ーになっていることを、クレオ ば、二十前後の娘など世間のことを何ひとっ知らない、そういって民の三分の一以上が潜在的なメン・ハ 。ハトラは保証した。ゼンタイが本当に何をしようとしているかは知 悪ければ、世間の暗黒面をほとんど知らないから、革命運動の指揮 などできるはずがないと主張し、四十五歳ぐらいの女子マラソン選らなくても、政府の持っ雰囲気に人々は反感を持ち、ロからロへと 手タイプがいしとしい、マニュエルは何といってもポインにくびれ伝えられる″人間がコン。ヒューターの使い走りになっている″電算 た胴、横に大きく張った腰の女盛り、三十歳ぐらいでなければと、機管理政治と軍部主導の政治状況に反対するムードが高まってきた あれやこれやすったもんだの結果、肉体の衰えをまだまったく見せのだ。 積極的に政府を倒すための行動をおこすべきだと主張する連中の ていない熟しきった三十二歳の健康な女性となった。そして面白い ことに、些細な点でのほうが、・ ほくとマニュエルの意見は大きく違数は少ないはずだし、その貴重な行動グループ、・いうなればアクテ
の中に生まれた計画たったにちがいない。 だ。しかし人間は シティの人間、地上の人間は、群れて、穴ぐ 「ムチャよ」 らをつくってでなくちや生きられない。 レダのことをいちばん知っ てるのは、あなたでしよう、アウラ。どうしてそれがわからないん 短く、アウラがするどく云った。 「無茶苦茶だわ」 ですーーそれとも、こわいのは、レダでなくてあなたなんですか」 「イヴ、そんなーー」 「それでも、いま、他にどうやってレダを助けられる ? アウラ、 もっと現実を見てよ。もう、 O ・ O だろうが市長だろうが、ああな アウラの目が大きく見ひらかれた。 ・ほくはその目をのぞきこみ、そして、ハッとした。 った群集をおさえつける力はないと知らなくちゃいけない。しか ( アウラ ) も、あなたは、他のシテイへうつることを考えてたかもしれない アウラは布がっていた。・ が、他のシテイだって、それぞれ少しづっディテールはちがうけれ 本当にーーーアウラほど、かしこく、勇気のある、果断なひとが、 どもシティ・システムを採用していることには何のちがいもない。 そうであるかぎり、どこへいったって、レダはしよせん適応不能者頭からその策の当否を考えてみるゆとりさえないほどに、シティを だーーーしかも、殺人者という経歴をもった。 ・ : もう、地球上じやすて、この大地をすてることを怖がっていたのだ。 彼女は女なのだ、と・ほくは思った。そう、こんなにつよく思った レダはどうあれ適応できない」 「だからって上へなんてーーもっと、こことちがうのよ。レダは恐のは、はじめてだった。 ( 女。男とちがうものーーー・ほくは男だ ) 怖で死んでしまうわ」 「こことちがうからいいんです。・ほくにだって、何が正しいか、何あの、騒擾の中へ出たときの、うずくような、きゅっと腹がひき がまちがっているかそんなことはわからない。ただ、ここにいてもしまるような、たかぶりの感じ。 ぼくは、ことが大きければ大 どうすることもできない、それだけはたしかなんだ」 きいほど、自分がそれに立ちむかう力をもっていることを感じ、ひ 「もし、彼女が死んでしまったらどうするの ? 上は危険なところそかにそれを楽しんでいることさえ知った。しだいに、・ほくは大胆 よ。ノイローゼにもなりやすいー・・ーー助けるつもりで、殺すことにな になり、縦横無尽になった。あれほどカづよく見えていた、病院に るわ」 来たときのアウラーーーしかし、そのアウラには、せつばつまった必 「それでもいいんだ」 死さはあったが、それは・ほくのそのたかぶりとは、明らかにちがっ ぼくは叫ぶように云った。 ていた。それは こういうのは不適当かもしれないが、たしか 「その方が、箱に入れられて生きてるよりはまだマシなんだ。わか に、追いつめられたねずみの勇気にすぎなかったのだ。 らないんですか、アウラーーーあなたのように賢い人が。レダは、こ ( アウラは女なのだ ) こにいることがまちがってる。人間の中にいるのがまちがってるん レダも女・ーーーいや、 , レダは女というより、子どもだ。・ 2 引
ット・ラインのコールナン・ハーをインブットした。 めてよ」 「心配することはない。・ほくはもう、何回も、レダやファンやアウ 「イヴ ? 」 まさしくそれはホット・ラインだったのにちがいなく、たちま ラの前で泣いたもの」 「あなたはだってヴァーゴだもの ヴァーゴだったものね、イち、直接・の顔がうかびあがった。 ヴ。いったい、・ とんな成長促進剤をつかったの、一晩でアダルトも「ハイ、イヴ、どう、その隠れ家の具合はーーー何か足りないものが アダルト。長老みたいなおちつきようになるなんて ? 」 あったら宅送するから、云って頂戴。私の考えでは、しばらく二人 ・ほくは胸の中でともそこにかくれていてもらうというのは、とてもいいアイディア その成長促進剤の名は、《死》というんだよ ひとりつぶやいた。愛と生と死。人間にとって重要な、真に重大なだったと思うわ : : : 見つかれば、それこそ、デイソーダーをかくま すべてのもの、そのまっただ中へ投げこまれて、ぼくはかくも遅ったといって、 O ・ O 対市民のほんとうの衝突になりかねないけれ く、その上おぼっかなくはあったが、生後十六年にして、ようやどーーさいわい、ディマーの説得のおかげで、市民たちも、少しは いちばんひどいときなど、タワーに投 く、《自分は何ものなのか》《自分には何ができるのか》をーーー人おちついてきたようだし が何をしてくれるかではなくーーー知りはじめていたのだ。 石があったのよーーでもいまは、人数も三分の二にへったわ」 「プライに連絡をとれるかい、アウラ ? 早急に、・フライと会いた「レダのようすはどうです ? 」 いんだ」 「レダ ? ああ、レダ・セイヤーね。ーーさあ、病院部でとりあえず 「 : : : だめだと思うわ。私も考えはしたの。・フライと、その 一安全に保護されてるはずよ。なにも異常があったとは報告して来な いわ。外のさわぎも、きこえぬような室に入れてあるし」 緒に行こうというんじゃなくて、何とかしてくれるんじゃないか、 ってね。でも、ちょうど、すでにプライは月基地へ去ったところだ「何も知らないんですね、彼女は」 ったのよ。星間連絡ヴィジフォーンは、個人では使えない どんなにかたかふり、心細く、半狂乱になっているであろうレダ ザー》に登録し、 O ・ O の管理下でなくては連絡できない。だからを、放って、としこめておくとはーーしかしそんなことを云っても いつも、あの人がやっ はじまるまい。ファンがぼくたち以外のものにはただの汚い犬ころ もう、ブライに連絡をとる方法はなくて てくるときにも、私たちから連絡したことは一回もなかったのよ。 にすぎなかったように、レダもレダを真に愛するもの以外には、人 いつも向うが突然、いま地球港についたといって、ふらりとやって殺しの、おそましい怪物、狂ったデイソーダーにすぎないのだから もし、しばらく時間がとれるようだったら、もう一回、レダのと くるか、ヴィジフォーンをかけてくるかで : : : 」 「わかった。ぼくがやる」 ころへぼく かアウラが入って一緒にいられるよう交渉してみよ 5 3 ・ほくはアウラをさえぎった。一 うと、・ほくは思った。それはたぶん、レダよりも、むしろアウラの 2 そのまま、ヴィジフォーンに歩み寄り、・ << の云ってくれたホためによいことにちがいない。
「アメリカ合衆国は・ほくの祖国ではない。それに・ほくは、将軍など ビーター管理反対同盟が、それに対して立ち上がりました次第」 : だから、たちの 「そのこととおれと、何の関係があるんだ ? さっさと話せ ! お ではない。元大日本帝国陸軍軍曹ではあったが : ・ 悪い冗談だと思っていたよ」 まえの話は、まだるつこしくていけないよ ! 」 「それこそ、先年来、太平洋に吹きまくる異常な次元嵐のなせるわ 空間の声は・ほくのけんまくに、いささかあわてた。一 ざ : : : あなたが現在おられる地球でのアメリカ合衆国とは、いささ「拙者には、失礼、わたしにはすこし予知能力があるからで : : : っ : こういえばもうおわかり か違っておりまする」 まり、あなたさまはある方にそっくり : 「なんだと ? 」 のはず、あるいは思い出されたか : : : 」 「さよう。次元嵐の吹きまくったあと、われわれが住まう合衆国で 「ぜんぜんわからないそ ! は、どうも政治家の集団発狂が続いておこった模様。そして、コ、ン「将軍が隠退されたあと、そちらにおられるのを、やっとの思いで ビューターと申す機械を使っての国民管理をやろうとしております見つけ出し : : : 」 る : : : コンビューターとは : : : 」 「ぼくをだれかと間違えているんだな ? 」 「それぐらいは、いかに何でも知っているさ。うちにも小さなもの 「ロリコン趣味で、姿形の似た方を、われらが同志が八方手をつく をひとっ買い入れようと思っているところでな : : : マイコンというして探がしまわり、やっと所在を : ・ : こ のを」 「ロリコン趣味だと ? 確かにぼくは若い娘が好きだが、それはふ 「ほう、それは重畳、次元の異るこの国におられて過去を忘れてつうのことだ。だれがそんなことをいっているんだ ? 」 おられても、早く理解していただけるはず。閣下は剣術の名人とう「違いますのですか」 さむらい かがいました。そのうえヒノモトは武士の国、武勇仁徳を尊ぶ国 : ・ ぼくは腹を立てかけたが、ふと気がついた : : : もしこれがまた、 ・ : われらが苦衷はおわかりくださるはず・ : ・ : 」 妄想癖ゆえのいつもの異次元世界行きなら、時間的にマイナスが出 さむらい 「馬鹿けた侍言葉をいつまで使ってるんだ。姿を見せたくないなるわけではなし、冒険を求めて走りまわるから、健康の面ではかえ ら、そのままでいいが、用件を早くいいなって。おれだって明日のってプラスになることがいろいろとあるだろうと考えなおして、 ある身、寝なきゃあいけないんだ。い くら自由業の遊び人だのとい 「また、・ほくを若い時代の・ほくにもどしてくれるのなら、こいつは っても、ひと晩おまえさんとっきあっていられるほどの暇な身分じ嬉しい話だ。久しぶりに暴れてみるのも楽しいな」 ゃあないってことよ」 「それにしても、どうしてここへ来た ? 」 「聞きしに優る勝気なそのご気つぶ : いや、これは失礼をば : つまり、現在、われらが合衆国では、ただの機械ごときに人間が支「次元交通監視局にいる人物にちょっとしたコネがありまして、紹 9 配されるなどまっぴらご免と、ゼンタイが : : : つまり、全体的コン介していただきましたわけ。それで、戦闘、殺人、情報収集、語学 ちょうじよう
な金属球が出てきた。続いて、旅行を ( ンの中にもひとつ。プランなくなった。かれは本棚を壁にそって引っぱり、ゲームセンターへ の出入口を隠した。 デーを入れた紙袋は大丈夫だった。 : ここで待っていて「ここは ? 」 「表を通る車のどれかに放りこんでくるかな : 「あんたの仮の住まいってこと。ゼンタイの招待客用としてはいさ くれ」 そういわれて、板がこいの便所に入ったぼくは、どこでそんなもさかむさ苦しいが、こんな状態なんでね。我慢してもらわなくちゃ のをポケットに入れられたのかを考えてみた。あの檻の中で意識をあ : : : 倉庫へ出るドアは本棚で隠す。あと二部屋、居間と台所、浴 、や、あの男室がある。この家の出入口は裏通りに面している。倉庫への出入口 失っていたあいだに決まっている。あの弁護士か ? は・ほくを救い出しに来てくれた味方だ。それに、わざわざ・ほくをこは、われわれがそうしてくれといわない限り、使わないことだな」 どうもこの連中は機敏に行動するようでもあるが、のんびりしす の国へ連れもどそうと努力した男でもある。連れもどす ? ボワンー ぎているような気もする。ぼくは尋ねた。 「なあ、マニュエル : ドアがあき、またバタンとしまった。 「おれだ・ : : ・」 「え ? 」 ばくは便所から出た。 「あの小さなトレーサーを捨てただけで、ぼくはもう安心していら 「ありがとう、マニュエル。危いところだった。なぜ警察がこうまれるというのかい ? 」 とうもここは、乱暴きわ「ああ。それがコン。ヒューター管理社会の馬鹿げたところでね : で・ほくをつかまえたがるのか知らないが、・ 少なくともいまのところ、当局はあのトレーサーが発信している信 まる警察国家になってしまったようだな」 「そう、あんたがおられなかったこの五年のあいだに変わったん号を追っている。あんたの年頃の東洋人で、白髪なんてのは、この だ。連邦警察、公安警察、都市警察、中央情報部、陸海空軍情報部町だけで何千人といるさ。顔の区別などっくもんか : : : あのトレー : どこもかしこも、近頃急におかしくなってきた。ヒステリーじサーを入れた車は警察車に追われて川にどぶん。あんたは自殺した みてきたんだ。軍備と宇宙関係に使う予算が大きくなるのと平行しことになる。この夜のうちにね : : : すると、コンビューターっての ているみたいだよ : ・ : ・ま、いずれにしても、あんたはもう大丈夫。は、あんたに関する限り、一件落着ってわけ : : : 警官はみな忘れち まうってこと・・・・ : 」 安心して歩けるぜ、アマノさん。こっちへ来てくれ : : : 」 かれはぼくを奥の倉庫に連れこんだ。そのつきあたりの壁をずら「ふーん。そううまくいくかな ? 」 せると引戸があり、その奥にまた別の部屋がある。きちんと整頓さ「いくとも。仕上げをごろうじろ、さ。疲れたろう、ゆっくり休ん でくれ。食べ物と飲み物は台所。この国の現状についての説明は、 れた、清潔な、だれかの寝室だ。 背後のゲームセンターでひびいていた騒音は、嘘のように聞こえヴィデオ・カセットに入れてある。居間のテレビのそばだ : : : 明 8 っ宀
だ、自分のために。自らの孤独から逃れるために。そのために愛すさえも手からはなそうとしなかったぼろぼろの人形を、無慈悲にも るあいてにしがみつき、ついには溺らせーーーおお、・ほくもそうなのとりあげられそうになり、しかもどうするすべも知らず、よわよわ 3 しく泣いている、幼い子どものようにしか見えなかった。こんなに か ? 神よーーー・ほくも同じことなのだろうか ? もろく悲しいアウラーー見たくなかった。見すにすんだら、どんな ( 神よ。神よ、神よ、神よ 餓えこごえるばかりな淋しさ、人間という、このものそのもののに・ほくは幸せだったことだろう。 ( アウラ。アウラ、泣かないで ) あまりに深いさびしさーーーぼくが、 ( 神よ ) とその意味すらも解せ 手の下で、アウラのしつかりとした肩が小さく、あっくふるえて ぬまま口にの・ほせるのは、この五日のあいだに二度めだった。 「あああああ いる。レダやファンほどの思いをよせはしなかったとはいえ、・ほく アウラは両手で顔をおおい、ついにはりつめた心のいちばん底まはアウラをも好きだった。そのアウラに、こんなふうに泣かせない でさらけ出してしまったというかのように、カなく、肩をふるわせ ためなら、どんなことだってしただろう。だが、レダを、ここにこ て嗚咽していた。・ほくはのろのろと立ってゆき、その肩に手をかけうしておくことはできないーーアウラにもそれはわかってはいるの た。云い知れぬあわれみ、そして悲しみだけが、ぼくの中に生ま だ。レダをシティにおいておくことは、どのみち、レダを殺すこと れ、ぼくを支配していた。・ほくはアウラが好きだった。その堂々た だ。市民たちは、たとえパニックはおさまったとしても、レダがこ るものごしも、美しく威厳ある容姿も、おちついて、しかも繊細なこで生きることをゆるさないだろう。決して市民たちは忘れないー 人格も。 ファンにおとらず継力あるおとなの女性だった。あまー象みたいに何ひとっ忘れやしない。 りにも、堂々としていて、おちついて、大人だから、何ひとっ彼女「さあ、アウラ。 , ーー泣かないで。いい子だから」 は必要としておらぬように見えた レダを愛し守りたいという欲自分よりずっと年もいって、しつかりした大柄な女性だというの ・・望のほかは。たぶんそれが、・ほくが彼女よりもレダ、彼女よりもフ ぼくは何だか、ビイ。ヒイなくひなを何羽も羽根の下にかかえ アンに親しんでいった理由だった。・ほくはどんなに小さく無力でもこんだ、若いとほうにくれたお父さん鳥になったような気分だっ 男でーー・・愛し守りたいのは・ほくの望みでもあったから、ぼくは愛した。 たい大人の女性よりも、がんぜない愛を求めている童女、イメとし「さあ。ーーー時間があまりないしーーそれにもっとよく考えてみれ てのそれにひけめをひそかに抱いている物いう大、ひけめと負い目 ば、やつばり一緒に行く気になると思うよ。レダもぼくもいる。三 をかくしたそらちの存在へ、磁石の極が Z 極に吸いよせられ、正人なら、シティにいようと、どこにいようと、同じじゃないの」 が負に吸われるように近づいていったのだ。 力もう、嗚咽するのはやめ アウラは弱々しくかぶりをふった。・、、 だが、アウラーーそうやってそこですすり泣いている彼女は、何ていた。 たか、やっと手に人れて、夢中ではぐくみいつくしんで、ねるとき「わたし、人前で二人でこんなふうになったなんて、生まれてはし
こ 0 「云っちゃいけない」 ・ << が叫んだ。 「ディマ 1 どうして、でも鎖国をとく必要があるの ? シテ 「宇宙戦争がおこるのよ。とりかえしがっかないわ」 イ・システムの自足体制は完成したばかりよ」 「亡命を希望する。そう云った瞬間から、お前の身柄は《上》が責 「《上》はそのふるさとたる地球の動向につねに関心をよせてい る。いまのシティ・システムは、たとえ千年つづこうと、不健全に任をもってひきうけることになるぞ」 「イヴ ! 」 かわりはない」 ディマ 1 のすがるような声。 ・フライにしては長いセンテンスだった。 「不健全 ? そんな価値観を私たちにおしつけられては困るわ」 ぼくは硬直して立ちつくした。・フライを見、ディマーと・を 「誰も望んでないから放っといた。これまでは , ーーしかしちびは現見た。 に出てゆくといってる。それをとめる権利はない」 「イヴ、このアイディアはとりさげると云ってくれ」 セプン 「ある。われわれの社会の根本原則だ」 「この胸のマイクはティンダロス 7 につながって生きてる。お前の 「そいつが無意味だということを云いたいんだ」 ひとことは自動的に記録されるそ」 「内政干渉よ」 ・の顔も紅潮した。 ・ほくは喘いだ。 「銀河条約を破棄なさるつもり ? 」 右手にレダを、左手に世界をーー・・だがそう云ったからといって、 「破棄してることにならないのじゃないのか ? まさか、ほんとうにそんな選択を迫られると思っていたわけではな っこ 0 は、知るかぎりにおいてはーーー」 、カノ 「黙りたまえ」 せまい シティの中だけにしかないと思いこんでいた世界。 ディマーが叫んだ。顔面蒼白になっていた。 ふいにカーテンがおちたとき、その向うには、無数の星々がひろ 、刀。りノ 「あんたはそれを知って、キャ。フテン 「ああ。だがこのちびは予想外だった。 ( いまでは、このちびが《上》銀河政府。宇宙戦争ーー・星間政治。銀河条約。 C ほくは何も知らなかった ) に適応するかどうかに興味がある。シティ・システムには、亡命を だめだ。・ほくは喘ぎ、手のひらにぎゅっと爪をくいこませた。・ほ 規制する条はないはずだ」 くがようやく背中に見出した翼。しかしそれは「シティのやさしい ・フライはふりかえった。 風にのってとんだばかりでーーー・ほくの翼、とうてい、また星までな 「亡命を希望するんだな、ちび」 ど届きはしない。 なぜなら、レダ 252
レダを探してまわったわ。デイソーダーを殺せーーー人殺しをやつつないの、イヴ・イエンセン ! 」 けろ、と叫びながら。家はいま燃えてるわ。もう少しいくと、煙が「大丈夫だ」 ・ほくは云い切った 1 みえるわよ。ーーー護民車が出てるけれど何もしてないわ。私のみる ところじゃ、ここでヘタにおさえつけると、それこそ O ・ O そのも「彼女は、当座だけならかくまってくれる」 のに于をむく。だから少々の破壊行為はおおめに見て、かれらの破「 O ・ O のリーダーよ ! 」 「大丈夫。・ほくに任せて」 壊衝動を発散させるのが得策だということなんでしようね。 ま、 O ・ O がいちばん恐れているのは、おそらく、レダやわたしだ「ムリよ。もしかくまったことがわかったら、それこそ、 O ・ O が けでないデイソーダーすべてのリンチに市民たちーーー暴徒たちの頭デイソーダーを庇ったということで暴動よーー」 がむいてーーー市民対デイソーダーの虐殺になり : : : そして止めよう「アウラ。黙って。云い争ってる時間はない」 ・ほくは再び緊急コールで、別れたばかりの»-2 ・を呼び出した。 とする O ・ O にまで反抗してくる、という事態のはずよ。そうなっ コンビュータの完全管理もこんなときだけは有難いー・ー連絡網には たら、シティのおわりの日よ。そうならぬためにはー・ーーあるいはか 何の異常もないようだ。 れらは、レダを市民に与えることさえするかもしれない」 手短かにレダの家のおそわれたことを説明したが、・はむろ 「まさか」 そうは云ったものの、 .. デ . イマーのことを考えると自信はなかつんもうとっくに知っていた。 「わかったわ、イヴ。少し待って。あきュニットを提供するわ」 一たんひっこんで、またあらわれた»-ä・のいうナン・ハーを・ほく 「ともかくここにいちゃまずい。万一、顔を知ってる奴に見られる はすばやくメモした。 かくれ場所の心あたりはある ? 」 「思った以上に市民が興奮してるのよ。私たちとしても、デイソー 「コモン・エリアに行こうというつもりでいたわ」 ダー全員を対象にした魔女狩り、という事態だけは避けたいの。ま 「それは危いと思う。もういっぺん、セントラル地区に戻ろう」 たまめに連絡をとって , ーー回線を一本、つねにあなたとのホットラ 「だめよ、そんな。暴徒の手にとびこむのと同じよ」 インにあけておくわ」 「これは、賭けだけど」 ・ほくは、そんな切迫した空気など、まるきり感しとることもでき「ありがとう、・」 ない、嘘のようにしずかでやわらかな青空とうなる走路を見やりな「すごいのね」 アウラが、ヴィジフォーンを切ったぼくを奇妙な目でみた。これ がら云った。 まで、一度もしたことのない目つきだった。 「 \-Ä・のユニットなら当座安心だ。そこで対策をたてる」 よわみでもにぎってるの ? 」 「»-ä・とあなた、何なの ? 「・ << ですって ? ・ < ・ ? あんた、気でも違ったんじゃ A 」 226
ライ船長が、レダとあなたの側に立っと公言してごらんなさい。月基 二人が出てゆくのを待ちかねて・ほくは・につめよった。 ・イースト 3 0 の上 「ディマーはレダを市民たちに与えて、やつらを満足させたいん地から彼のティンダロス 7 がとびたって、ファー / ニックをおこさ 市民たちがそんな恐怖に、。、 だ。このままじやフェアじゃない」 に碇泊するでしよう。 あなたのやりかたはフ = アだったとでもいうの、と反撃されてもずにいると思う ? ディマーはいま、あらゆる外交手腕を弄して、 何とかプライに手をひかせようとしてるわ。ひとっ間違ったら、フ しかたのないところだった。しかし、・ << はそうしなかった。 ・イーストの封じこめ、あるいはまた宇宙戦争の悪夢よ。あ 「あなたは短期間にきわめて重大になったけれど、イヴ、あなたに なたは亡命計画をたてたとき、そこまで考えはしなかったはずよ。 はまだわかってないこともあるわ。たとえば、政治よ、イヴ」 全市民の生命と自由を危険におとしいれることになるとまでは」 「政治 ? 」 「そう、銀河政府と地球連合政府とは、長いことかかって、やっと「考えなかった」 ・ほくは、ちょっと呆然としながらつぶやいた。 いまのバランスをきずきあげた。 もし、レダとあなたを《上》 「銀河政府と連合政権の政治ーーそんなことまでは、考えてもみな へ亡命させれば、七世紀ぶりに市民たちは《上》への敵愾心を呼び さまされ、再びアンチ・スペースマンのキャンペーンが吹きあれるかった。・フライはレダの知りあいだから、助けてくれるたろうと : かもしれない。現実に市民たちはスペースマンの攻撃に対して無力・ : 」 だということを知っている。それだけに恐れは大きいのよ。また、 「フライたちが、ビンクタワーや、レダを好きに訪問することをゆ それは、レダへの恐慌をそのまま対スペースマンのそれへともつれるしてたのも、その政治のためよ。さあ、イヴ、世の中のすべてを こむことになるわ」 まだ知ったわけじゃないこと、世の中には、あなたにまだわからぬ 「しかしこのままでいればディマーは、レダひとりを犠牲にして事ことがたくさんあるということを認めるのね。世界はひろいのよー ーあなたの想像をこえて。ただ、その、 -. 知らないで放ったあなたの 態収拾をはかるのはもう目にみえていますよ」 ・イースト 3 0 ーーひいては地球の全都市の急所をぐさ 「それはそうよ。彼の立場としてそれはムリないわ。彼の政権はい矢が、ファー りと射たのはほんとうよ。あなたはそんなつもりじゃなかったでし まゆらいでいて、彼はごく微妙な立場にいるのよ。市民が対デイソ 1 ダーのパニックにも、対スペースマンのそれにも、どっちへいっ ようけど」 「・ほくは軽率だったかもしれない」 ても彼は困るわ。地球連合政府がかかわってくれば、ファー ストの自治権も失われる。彼として、レダ一人に事態を収東させ ・ほくはゆっくりと云った。 たいのは、当然のことよ」 「しかし、それをきいて、知らされてからでもーーーこれがシティに 「ぼくにとっては当然じゃない」 とってどんなに・重大な、しかも卑劣な手段であるかがわかっても、 「それはわかるけど、しかし悪魔みたいな手段よね 0 これでもし、・フそれがレダを救う唯一の方法なら、ぼくはそれをつかうのにためら 249