よって、何かをつかみとってゆくことを知らない。自分が何のため 「そうきいて嬉しいわ」 とれほどの力を 9 に存在しているのかも、何ができるのかも、また、・ アウラは肩をすくめた。 2 「私、おかし小わね、ーー考えてみたこともなか 0 たのよ。ああいうも 0 ているのかもしらない。傷つけあわぬよう、互いのあいだにガ ラスを立ててあるので、かれらは、自分がどんなにもろく傷つきや ふうにして、人をうごかせるー・ー納得づくでも、契約でもなく、一 : ねじふせるようにしてーー私、正直いうと、すいかーー・ひともそうだ、ということも、また、その自分がどのく 方が一方を、そう・ : らいのカで突けばあいては傷つくのかということも知らない。 さっき、あなたのことをこわかったのよ、ポーイ」 ばくはプロイラーの群れの中に放たれた、子どものオオカミのよ 「・ほくを ? アウラが ? 」 「そうよ。まるでー・ー・そうね、何といったらいいの。知らないひうなものだったのだ。まだ成熟しきってすらいないのに、それでさ え・ほくはいちばん大きくつよい鳥をでも自在につかみとることがで と、いや人じゃないわね。全然知らぬ獣をみているみたいだった。 いまでも少しこわいわ。きた。それはただひとつ、ぼくが自分に牙と、意志と、そして守ら 私、知らなかったわ。あんなやりかた もし、市民たちが、みんなああいうふうにして、カづくで人を自分ねばならぬものがある、ということを、自覚していたからだったの のいうことをきかせようとかかるようになったらーーーシティは崩壊だ 「・ほくもおどろいてるんだよ。ああもあっさり、・がおどしに してしまうわね」 この手を多用したり、悪用するつもりはないのを 「今だって同じことじゃないの。やつら、数をたのんで O ・ O を云屈したので。 誓うよ。いい気分のものじゃないし」 うとおりにしようとしている」 「それをきいて嬉しいわ。市民たちは、まる裸みたいなものだも 「そう ううん、でも違うわ。それとはーー私にはよくわからな いのよ。これはとても異質な概念だわ : : : 市民たちがセンタ 1 広場の。私にもやっとわかったわ。弱いからこそ、かれらは、どんなさ にあつまるのはよくわかるの。私だって、レダでなければそうするさいな攻撃にも耐えられぬので、ああしてレダを攻撃するんだわ。 と思う。だって、 O ・ O は市民を守る義務があるんだから。でも、群をなして」 「・ほくもそれを考えていたよ。もう一つ、別のこともーーーアウラ、 あなたのは よくわからない。自分の利益を守るためじゃないー ー人をうごかすものーー・人、自分、社会 : : : よく、わからない。少カっていうのは、決して特権的にそなわってるものじゃないよ。ば くは自分をかえり見て、どうしても、昔から自分が特別な力をもっ し考えてみたいわ」 いまのぼくには、アウラの感じた深いとまどいのほんとうの意味ていてしかも気づいてなかったというあかしを見出せない。ぼくは がわかる。結局、デイソーダ】であろうと市長であろうと、シテ平凡で内気でとるにたらぬ子どもだった。ただ、他の人とちがう体 だから、ねえ、アウラ、ぼくたちが生来弱く イ・システムの中の市民でいるかぎり、それは、ゆりかごに守られ験をしただけだ。 た泣きわめく幼い子どもにすぎなかったのだ。幼児は、自分の力にもろいというのが伝説にすぎず、すべてはそうやって育てられたか
だ、自分のために。自らの孤独から逃れるために。そのために愛すさえも手からはなそうとしなかったぼろぼろの人形を、無慈悲にも るあいてにしがみつき、ついには溺らせーーーおお、・ほくもそうなのとりあげられそうになり、しかもどうするすべも知らず、よわよわ 3 しく泣いている、幼い子どものようにしか見えなかった。こんなに か ? 神よーーー・ほくも同じことなのだろうか ? もろく悲しいアウラーー見たくなかった。見すにすんだら、どんな ( 神よ。神よ、神よ、神よ 餓えこごえるばかりな淋しさ、人間という、このものそのもののに・ほくは幸せだったことだろう。 ( アウラ。アウラ、泣かないで ) あまりに深いさびしさーーーぼくが、 ( 神よ ) とその意味すらも解せ 手の下で、アウラのしつかりとした肩が小さく、あっくふるえて ぬまま口にの・ほせるのは、この五日のあいだに二度めだった。 「あああああ いる。レダやファンほどの思いをよせはしなかったとはいえ、・ほく アウラは両手で顔をおおい、ついにはりつめた心のいちばん底まはアウラをも好きだった。そのアウラに、こんなふうに泣かせない でさらけ出してしまったというかのように、カなく、肩をふるわせ ためなら、どんなことだってしただろう。だが、レダを、ここにこ て嗚咽していた。・ほくはのろのろと立ってゆき、その肩に手をかけうしておくことはできないーーアウラにもそれはわかってはいるの た。云い知れぬあわれみ、そして悲しみだけが、ぼくの中に生ま だ。レダをシティにおいておくことは、どのみち、レダを殺すこと れ、ぼくを支配していた。・ほくはアウラが好きだった。その堂々た だ。市民たちは、たとえパニックはおさまったとしても、レダがこ るものごしも、美しく威厳ある容姿も、おちついて、しかも繊細なこで生きることをゆるさないだろう。決して市民たちは忘れないー 人格も。 ファンにおとらず継力あるおとなの女性だった。あまー象みたいに何ひとっ忘れやしない。 りにも、堂々としていて、おちついて、大人だから、何ひとっ彼女「さあ、アウラ。 , ーー泣かないで。いい子だから」 は必要としておらぬように見えた レダを愛し守りたいという欲自分よりずっと年もいって、しつかりした大柄な女性だというの ・・望のほかは。たぶんそれが、・ほくが彼女よりもレダ、彼女よりもフ ぼくは何だか、ビイ。ヒイなくひなを何羽も羽根の下にかかえ アンに親しんでいった理由だった。・ほくはどんなに小さく無力でもこんだ、若いとほうにくれたお父さん鳥になったような気分だっ 男でーー・・愛し守りたいのは・ほくの望みでもあったから、ぼくは愛した。 たい大人の女性よりも、がんぜない愛を求めている童女、イメとし「さあ。ーーー時間があまりないしーーそれにもっとよく考えてみれ てのそれにひけめをひそかに抱いている物いう大、ひけめと負い目 ば、やつばり一緒に行く気になると思うよ。レダもぼくもいる。三 をかくしたそらちの存在へ、磁石の極が Z 極に吸いよせられ、正人なら、シティにいようと、どこにいようと、同じじゃないの」 が負に吸われるように近づいていったのだ。 力もう、嗚咽するのはやめ アウラは弱々しくかぶりをふった。・、、 だが、アウラーーそうやってそこですすり泣いている彼女は、何ていた。 たか、やっと手に人れて、夢中ではぐくみいつくしんで、ねるとき「わたし、人前で二人でこんなふうになったなんて、生まれてはし
の中に生まれた計画たったにちがいない。 だ。しかし人間は シティの人間、地上の人間は、群れて、穴ぐ 「ムチャよ」 らをつくってでなくちや生きられない。 レダのことをいちばん知っ てるのは、あなたでしよう、アウラ。どうしてそれがわからないん 短く、アウラがするどく云った。 「無茶苦茶だわ」 ですーーそれとも、こわいのは、レダでなくてあなたなんですか」 「イヴ、そんなーー」 「それでも、いま、他にどうやってレダを助けられる ? アウラ、 もっと現実を見てよ。もう、 O ・ O だろうが市長だろうが、ああな アウラの目が大きく見ひらかれた。 ・ほくはその目をのぞきこみ、そして、ハッとした。 った群集をおさえつける力はないと知らなくちゃいけない。しか ( アウラ ) も、あなたは、他のシテイへうつることを考えてたかもしれない アウラは布がっていた。・ が、他のシテイだって、それぞれ少しづっディテールはちがうけれ 本当にーーーアウラほど、かしこく、勇気のある、果断なひとが、 どもシティ・システムを採用していることには何のちがいもない。 そうであるかぎり、どこへいったって、レダはしよせん適応不能者頭からその策の当否を考えてみるゆとりさえないほどに、シティを だーーーしかも、殺人者という経歴をもった。 ・ : もう、地球上じやすて、この大地をすてることを怖がっていたのだ。 彼女は女なのだ、と・ほくは思った。そう、こんなにつよく思った レダはどうあれ適応できない」 「だからって上へなんてーーもっと、こことちがうのよ。レダは恐のは、はじめてだった。 ( 女。男とちがうものーーー・ほくは男だ ) 怖で死んでしまうわ」 「こことちがうからいいんです。・ほくにだって、何が正しいか、何あの、騒擾の中へ出たときの、うずくような、きゅっと腹がひき がまちがっているかそんなことはわからない。ただ、ここにいてもしまるような、たかぶりの感じ。 ぼくは、ことが大きければ大 どうすることもできない、それだけはたしかなんだ」 きいほど、自分がそれに立ちむかう力をもっていることを感じ、ひ 「もし、彼女が死んでしまったらどうするの ? 上は危険なところそかにそれを楽しんでいることさえ知った。しだいに、・ほくは大胆 よ。ノイローゼにもなりやすいー・・ーー助けるつもりで、殺すことにな になり、縦横無尽になった。あれほどカづよく見えていた、病院に るわ」 来たときのアウラーーーしかし、そのアウラには、せつばつまった必 「それでもいいんだ」 死さはあったが、それは・ほくのそのたかぶりとは、明らかにちがっ ぼくは叫ぶように云った。 ていた。それは こういうのは不適当かもしれないが、たしか 「その方が、箱に入れられて生きてるよりはまだマシなんだ。わか に、追いつめられたねずみの勇気にすぎなかったのだ。 らないんですか、アウラーーーあなたのように賢い人が。レダは、こ ( アウラは女なのだ ) こにいることがまちがってる。人間の中にいるのがまちがってるん レダも女・ーーーいや、 , レダは女というより、子どもだ。・ 2 引
いのよ ! 」 「あたし、警察につかまって大変だったのよ、ママ・グレタ ! あ「でも、クレオ。 ( トラがきみを助けたのは友情からだと思うよ。た たし、重要人物として見張られているのかもしれないわ。なんたっ だの機械なら、そんなことをする必要は何もないし、何をお礼にも て、ワックの女なんですもの」 らえるわけでもない。それにぼくらは彼女に、何ひとっ頼んだりし ・ほくはママ・グレタと顔を見合わせた。 なかったしね」 「ほんとに大変だったんだってね : : : すぐにクレオパトラが知らせ 「それでも・ : : コンビューターなんて、ただの機械よ。市民を弾圧 てくれたよ」 する政府が使っている道具 : : : 金属とプラスチックのかたまりでし 「あんなやっ嫌いよ ! 嘘つき機械なんて最低だわ」 かないわ」 「でも、きみが警察本部に連れていかれて、ひどい拷問を受けなか 「そうかい ? では、なぜきみを助けたんだろう ? 意識を持って ったのは、その嘘つき機械が大嘘をついてくれたからだよ」 いるものは生き物だと思うんがなあ。クレオパトラは、何十万台も マリリンは目を丸くして、 あるコン。ヒューターのあいだに生まれた新しい高等生物 : : : 可哀想 「どういうことなの ? 」 なのは、きみのようにきれいな、本当の肉体を持っていないってこ 「クレオパトラが欺してくれたおかげさ。機械は人間が利用するとさ」 と、実に便利なものなんだよ」 「可哀想だなんて ! 」 マリリンは首をふった。 「クレオパトラはいってたよ。わたしの体は、自分で作り出す映像 「そういう大人の発想が嫌いなのよ、あたし : : : そんなこというワでしかない・ : ・ : マリリンみたいに本物のきれいな体が欲しいって、 ックは嫌、 涙をためていたよ」 「うそーっ ! 」 「ご免よ。年寄りだからなあ」 「あたしには、友情のほうが大切なの。利用したりされたりするの女は涙に弱いんだ。それがすこしきいたようだった。 は嫌い ! それに機械とは友情など持てないわ」 「すると、クレオ。 ( トラがただの機械なら、別に腹を立てる必要も ないわけだね」 「マリリンは自動車に乗らず、テレビも見ないのかい ? それにゞ 機械のクレオ。 ( トラと人間とのあいだには、友情が生まれないと思 「ええ、そうよ。ただの機械なんですもの : : : ワックとキスもでき うの力し ? 」 ないじゃない ! 」 少女マリリンは大きな声でいった。一 マリリンはロをとんがらがせて、そういった。無意識のうちに、 「何を馬鹿なことをいってるの、ワック ! 人間と機械とのあいだ ばくをクレオパトラと張り合っていたってことかもしれないんだ。 に友情が生まれたりするはずないじゃない ! 機械は生物じゃあな 「では、もう一度会ってみてもいいんだね ? 」 6
美醜の判断ができないものなのかい ? 」 三十前か ? はっきりしない。ただし、色のついた絵でしかない。 「まあっ、 いよいよ許せないわね : : : どういうつもりなの、小父さ「体のほうは、クレオパトラ ? 」 ま ? わたしを怒らせると、いっ感電させられるかわからないわよ 画面の顔がすーっと小さくなり、それに人間の体がついた。それ を見るなり、マニュエルと・ほくは吹き出した。 「でもねえ、きみは、地球の長い歴史でも、一、二を争う美女なん「こんどはどこがおかしいっていうの ? これは理想的な肉体よ。 だぜ。クレオ。ハトラなんだ。鼻が一センチ低ければ、そのあとの歴人間としての肉体的機能を充分働かせるには、これが理想的なはず 史は変わっていたろうと、いわれるぐらいなんだよ : ・ : いま、画面だわ」 に出ているおばさんは、どう見てもビリから勘定したほうが早い 「ボディビルの選手に子供を生ませるのかい ? 」 よ。まず、通俗歴史書にでも出ているクレオパトラの顔を出してご 「とにかく、男性の考える理想的な肉体とはだいぶ違うようだ・せ。 らん。それを、ぼくらの意見を参考にして変えていったら ? 插絵それに、女性の目からもだと思うよ : : : 悪いけれどね、クレオパ 画家によってずいぶん違っているとは思うがね。もちろん、きみのラ。本物のクレオ・ハトラは痩せつ。ほちだったが、いまの顔にミロの ヴィーナスの体をつけてごらん。それに合わせて、顔のほうも、も 判断が最も大切さ。なんたってきみの顔なんだから」 うちょっとふくよかな感じにして」 「まあ、そんな方法があったのね : : : わたしとしたことが、ご免な 「そう : : : 恋人になり、母親になれる女性じゃなければな」 すぐ画面に、クレオ。ハトラらしい女性の画像が出た。その画像ばっー が、二、三秒ごとに変わってゆく。十枚ほど続けて出たとき、ぼく「すごいそ、クレオ。 ( トラ。でも、せめてビキニでもつけなきや は声をかけた。 あ、マニイが興奮して、耳から蒸気を吹き出してしまうよ ! 」 「それがいしオ よ、ぼくは ! ・」 「そんなことはないさ。・ハストが小さすぎるもの : : : そのままでい その絵は静止した。 いとして、まず両腕をつけなくちゃあ。肌をクリーム色にして、あ マニュエルは首をふった。一 るべきところにはあるべきものを : : : 」 「いや、それは若過ぎるよ : : : そのひとつ前のほうがよかった」 「まあ、いやねえ、マニイったら ! それにいっておきますけど 「きみは姉さん女房が好きなんだな、マニイ : : : では、クレオ。ハト ね、テッド・ディア : : : 人間は耳から蒸気を出したりしませんわよ ラ。その前のをもう一度出してみて : : : ようし、その二枚の絵を混 ! 」 ぜ合わしてみてくれないか」 画面のヴィーナス像は、恥ずかしそうに体をくねらせ、肌をぼっ ばっ , と淡いビンク色に染め、それが立体画像になると同時に、花模様の すばらしい美女が画面で微笑していた。年齢は二十前後 ? いやビキニをつけた。 7 3
レダを探してまわったわ。デイソーダーを殺せーーー人殺しをやつつないの、イヴ・イエンセン ! 」 けろ、と叫びながら。家はいま燃えてるわ。もう少しいくと、煙が「大丈夫だ」 ・ほくは云い切った 1 みえるわよ。ーーー護民車が出てるけれど何もしてないわ。私のみる ところじゃ、ここでヘタにおさえつけると、それこそ O ・ O そのも「彼女は、当座だけならかくまってくれる」 のに于をむく。だから少々の破壊行為はおおめに見て、かれらの破「 O ・ O のリーダーよ ! 」 「大丈夫。・ほくに任せて」 壊衝動を発散させるのが得策だということなんでしようね。 ま、 O ・ O がいちばん恐れているのは、おそらく、レダやわたしだ「ムリよ。もしかくまったことがわかったら、それこそ、 O ・ O が けでないデイソーダーすべてのリンチに市民たちーーー暴徒たちの頭デイソーダーを庇ったということで暴動よーー」 がむいてーーー市民対デイソーダーの虐殺になり : : : そして止めよう「アウラ。黙って。云い争ってる時間はない」 ・ほくは再び緊急コールで、別れたばかりの»-2 ・を呼び出した。 とする O ・ O にまで反抗してくる、という事態のはずよ。そうなっ コンビュータの完全管理もこんなときだけは有難いー・ー連絡網には たら、シティのおわりの日よ。そうならぬためにはー・ーーあるいはか 何の異常もないようだ。 れらは、レダを市民に与えることさえするかもしれない」 手短かにレダの家のおそわれたことを説明したが、・はむろ 「まさか」 そうは云ったものの、 .. デ . イマーのことを考えると自信はなかつんもうとっくに知っていた。 「わかったわ、イヴ。少し待って。あきュニットを提供するわ」 一たんひっこんで、またあらわれた»-ä・のいうナン・ハーを・ほく 「ともかくここにいちゃまずい。万一、顔を知ってる奴に見られる はすばやくメモした。 かくれ場所の心あたりはある ? 」 「思った以上に市民が興奮してるのよ。私たちとしても、デイソー 「コモン・エリアに行こうというつもりでいたわ」 ダー全員を対象にした魔女狩り、という事態だけは避けたいの。ま 「それは危いと思う。もういっぺん、セントラル地区に戻ろう」 たまめに連絡をとって , ーー回線を一本、つねにあなたとのホットラ 「だめよ、そんな。暴徒の手にとびこむのと同じよ」 インにあけておくわ」 「これは、賭けだけど」 ・ほくは、そんな切迫した空気など、まるきり感しとることもでき「ありがとう、・」 ない、嘘のようにしずかでやわらかな青空とうなる走路を見やりな「すごいのね」 アウラが、ヴィジフォーンを切ったぼくを奇妙な目でみた。これ がら云った。 まで、一度もしたことのない目つきだった。 「 \-Ä・のユニットなら当座安心だ。そこで対策をたてる」 よわみでもにぎってるの ? 」 「»-ä・とあなた、何なの ? 「・ << ですって ? ・ < ・ ? あんた、気でも違ったんじゃ A 」 226
こ 0 「云っちゃいけない」 ・ << が叫んだ。 「ディマ 1 どうして、でも鎖国をとく必要があるの ? シテ 「宇宙戦争がおこるのよ。とりかえしがっかないわ」 イ・システムの自足体制は完成したばかりよ」 「亡命を希望する。そう云った瞬間から、お前の身柄は《上》が責 「《上》はそのふるさとたる地球の動向につねに関心をよせてい る。いまのシティ・システムは、たとえ千年つづこうと、不健全に任をもってひきうけることになるぞ」 「イヴ ! 」 かわりはない」 ディマ 1 のすがるような声。 ・フライにしては長いセンテンスだった。 「不健全 ? そんな価値観を私たちにおしつけられては困るわ」 ぼくは硬直して立ちつくした。・フライを見、ディマーと・を 「誰も望んでないから放っといた。これまでは , ーーしかしちびは現見た。 に出てゆくといってる。それをとめる権利はない」 「イヴ、このアイディアはとりさげると云ってくれ」 セプン 「ある。われわれの社会の根本原則だ」 「この胸のマイクはティンダロス 7 につながって生きてる。お前の 「そいつが無意味だということを云いたいんだ」 ひとことは自動的に記録されるそ」 「内政干渉よ」 ・の顔も紅潮した。 ・ほくは喘いだ。 「銀河条約を破棄なさるつもり ? 」 右手にレダを、左手に世界をーー・・だがそう云ったからといって、 「破棄してることにならないのじゃないのか ? まさか、ほんとうにそんな選択を迫られると思っていたわけではな っこ 0 は、知るかぎりにおいてはーーー」 、カノ 「黙りたまえ」 せまい シティの中だけにしかないと思いこんでいた世界。 ディマーが叫んだ。顔面蒼白になっていた。 ふいにカーテンがおちたとき、その向うには、無数の星々がひろ 、刀。りノ 「あんたはそれを知って、キャ。フテン 「ああ。だがこのちびは予想外だった。 ( いまでは、このちびが《上》銀河政府。宇宙戦争ーー・星間政治。銀河条約。 C ほくは何も知らなかった ) に適応するかどうかに興味がある。シティ・システムには、亡命を だめだ。・ほくは喘ぎ、手のひらにぎゅっと爪をくいこませた。・ほ 規制する条はないはずだ」 くがようやく背中に見出した翼。しかしそれは「シティのやさしい ・フライはふりかえった。 風にのってとんだばかりでーーー・ほくの翼、とうてい、また星までな 「亡命を希望するんだな、ちび」 ど届きはしない。 なぜなら、レダ 252
「そっちへ ' ハス・ユニットにかくれて、アウラ。やつらだとい 「つまらん事あ云うな。呼ばれたから、来たんじゃないかーーー・違う のか ? 」 けない」 「プライ ? 」 ぼくは小声で云い、青ざめたアウラがそこにかくれてびったりド アウラがとび出してくる。・フライはアウラをひきよせてキスし アをしめるのをみてから、あたりを見まわし、ありあわせの椅子を た。大柄で、一度たってかよわいと思ったことのないアウラが、カ さかさにして足をつかんだ。ないよりましというものだろう。 シの傍らのやどりぎのようにか・ほそく、はかなく見えた。 苛立たしげにチャイムが鳴る。 「月基地たとばかり思っていたわ」 「誰です」 「月にいたさ。緊急連絡が入ったんで、小型艇で来てとびおりた」 ぼくは椅子をつかんでドアにすり寄り、低く云った。 「他の市民には見られなかった ? 」 「あけてくれよ。急いでるんだろ」 「一応、リニアカーで直行したんだが」 その耳に きこえたのは、思いもかけぬ、野太く荒々しい声だった。 市民たちには、出そうとしても出せぬ、意志的な、まるで溶岩流・ほくは云った。プライはするどい目で・ほくを見ーー・ゆっくりと見 か火山がたてている音みたいな圧倒的な声。 つめ直した。まるでつきとおされてるような目たった。 「そうだ」 「キャ。フテン・・フライ ! 」 宇宙人は云い、アウラに向き直った。 ・ほくは椅子をとりおとし、不信とおどろきにこわばった手でカギ をはすした。 「この子とは、レダのところで会ったな」 逞しい肩、日にやけた顔、短くかりあげたこわい髪、怖いほどけ「イヴよ。イヴ・イエンセン」 いけいと光る、サーチライトみたいな目 「ああ・ーーしかしあんときとは、人間が違うそ。どうしたってんだ スペースマンは、たった一挙動でユニットにすべりこみ、ドアを このガキは、市民じゃねえな ! 」 しめた。 ぼくは嬉しかった。自分が、スペースマンの火のような目をさ え、正面からうけとめられるのだと知って、嬉しかった ! 「そいつはあとにしよう。話してみろ」 アウラが話し出そうとするのをさえぎり、・ほくは、これまでのい 「キャ。フテン・・フライ ど、どうしてここへ・ きさっと、・ほくの計画についてかんたんに話した。 5 4 彼が入って来たとたんに、ユニットの中がにわかにせまく、むん話しながら、まるでビンビンとこっちに向けてみなぎってくるよ 2 むんとしてきたようにさえ思われた。 うなエネルギ 1 をたえす感じとらぬわけにはゆかなかった。・ほくは
「アメリカ合衆国は・ほくの祖国ではない。それに・ほくは、将軍など ビーター管理反対同盟が、それに対して立ち上がりました次第」 : だから、たちの 「そのこととおれと、何の関係があるんだ ? さっさと話せ ! お ではない。元大日本帝国陸軍軍曹ではあったが : ・ 悪い冗談だと思っていたよ」 まえの話は、まだるつこしくていけないよ ! 」 「それこそ、先年来、太平洋に吹きまくる異常な次元嵐のなせるわ 空間の声は・ほくのけんまくに、いささかあわてた。一 ざ : : : あなたが現在おられる地球でのアメリカ合衆国とは、いささ「拙者には、失礼、わたしにはすこし予知能力があるからで : : : っ : こういえばもうおわかり か違っておりまする」 まり、あなたさまはある方にそっくり : 「なんだと ? 」 のはず、あるいは思い出されたか : : : 」 「さよう。次元嵐の吹きまくったあと、われわれが住まう合衆国で 「ぜんぜんわからないそ ! は、どうも政治家の集団発狂が続いておこった模様。そして、コ、ン「将軍が隠退されたあと、そちらにおられるのを、やっとの思いで ビューターと申す機械を使っての国民管理をやろうとしております見つけ出し : : : 」 る : : : コンビューターとは : : : 」 「ぼくをだれかと間違えているんだな ? 」 「それぐらいは、いかに何でも知っているさ。うちにも小さなもの 「ロリコン趣味で、姿形の似た方を、われらが同志が八方手をつく をひとっ買い入れようと思っているところでな : : : マイコンというして探がしまわり、やっと所在を : ・ : こ のを」 「ロリコン趣味だと ? 確かにぼくは若い娘が好きだが、それはふ 「ほう、それは重畳、次元の異るこの国におられて過去を忘れてつうのことだ。だれがそんなことをいっているんだ ? 」 おられても、早く理解していただけるはず。閣下は剣術の名人とう「違いますのですか」 さむらい かがいました。そのうえヒノモトは武士の国、武勇仁徳を尊ぶ国 : ・ ぼくは腹を立てかけたが、ふと気がついた : : : もしこれがまた、 ・ : われらが苦衷はおわかりくださるはず・ : ・ : 」 妄想癖ゆえのいつもの異次元世界行きなら、時間的にマイナスが出 さむらい 「馬鹿けた侍言葉をいつまで使ってるんだ。姿を見せたくないなるわけではなし、冒険を求めて走りまわるから、健康の面ではかえ ら、そのままでいいが、用件を早くいいなって。おれだって明日のってプラスになることがいろいろとあるだろうと考えなおして、 ある身、寝なきゃあいけないんだ。い くら自由業の遊び人だのとい 「また、・ほくを若い時代の・ほくにもどしてくれるのなら、こいつは っても、ひと晩おまえさんとっきあっていられるほどの暇な身分じ嬉しい話だ。久しぶりに暴れてみるのも楽しいな」 ゃあないってことよ」 「それにしても、どうしてここへ来た ? 」 「聞きしに優る勝気なそのご気つぶ : いや、これは失礼をば : つまり、現在、われらが合衆国では、ただの機械ごときに人間が支「次元交通監視局にいる人物にちょっとしたコネがありまして、紹 9 配されるなどまっぴらご免と、ゼンタイが : : : つまり、全体的コン介していただきましたわけ。それで、戦闘、殺人、情報収集、語学 ちょうじよう
の小説の中で、そのすべてをドラマティッ いた。しかし、ドアを開けて家の中がめち ) 9 にアンチ・ヒーローである理由の一つはそ クに眺めているわけだ。ある人間の世界が やくちゃにされているのを見たとき、窓や ほかの人間の世界から受ける不気味で奇怪れだ。彼らは九分どおりまで敗北者だが、 ドアがたたき割られ、ファイルがふっとば な侵略としてね。もし、・ほくがきみの世界ただ、ぼくは彼らに、なにかそれによって を侵略すれば、きみはなにか異質なものを生きのびられるような資質を与えようとっされ、書類がぜんぶどこかへ消え、決済ず とめている。それと同時に、彼らが反撃戦みの小切手も消え、ステレオもなくなって 感じとるだろう。それは、・ほくの世界がき いるのを見たとき、こう考えたのをおぼえ みのと異なっているからだ。もちろん、き術を編み出して対抗し、自分たちも搾取 みはそれと戦わなくてはいけない。しか者、操作者に成りさがっていく、というふているよ。たしかにこれはひどい惨状だ が、これであの″パラノイア説はうちこ うにはなってほしくないと思っている」 し、その多くは徴妙な違いだから、しばし ばわれわれは戦わずにすませる。われわれ わたしは彼に、もし人からあなたは権威わされた、とね。 実をいうと、ぼくはかなり優秀な精神分 の世界が侵略されているのをそれとなく感的性格への不安が強すぎるのではないか、 じるだけで、この自己本来の姿に対する侵 パラノイアではないか、といわれたらなん析医から、パラノイアになれるほど冷淡な と答えるか、とたずねてみた。その答とし人間じゃないと、知らされていたんだ。そ 略がどこから発しているのかを知らずにい 「あなたは感傷的 る。それは、たいていの場合、権威的性格て、彼は反戦活動家だった頃に受けた迫害の医者がいうには を引き合いに出した。それが絶頂に達したで、人生に幻想を持ちすぎているが、あま の人間から発しているものなんだ。 りにもセンチメンタルだから、とてもパラ のは、彼の自宅が奇怪な家宅侵入に遭い 二十世紀の最大の脅威は、全体主義だ。 ノイアにはなれません」 それはいろいろの形をとる。左翼ファシズ土地の警察が事実上捜査を拒んだときだと いう。「自分の家があんなふうに荒らされ ム、心理作戦、宗教運動、麻薬患者更生施 前に一度、ミネソタ・マルチフェイジッ 設、権力を持った連中、他人を操作する連 ク心理性格テストを受けたことがあるが、 チ 、の そのときの結果は、パラ / ィア的で、循環 中。また、それは自分よりも心理的に強力「 、チ な相手との関係の中にも見出すことができ、 気質で、神経症的で、分裂症的で : : : 測定 る。根本的に、ぼくが訴えているのは、こ 尺度によっては点が異常なほど高かった。 だが、それと同時に出た結果からすると、 うした強くない人びとの言い分なんだ。も マの マ し、ぼく自身が強い人間だったら、おそら ぼくは不治の嘘つきなんだ ! つまり、む くそのことをあまり脅威とは感じないだろ こうはいくつかの違った言い回しで、おな じ質問をよこすんだよ。たとえば、こんな う。・ほくは弱者の身になって考えてしま れる世界 ! 朝第ト : 安グ第 3 イをが煉ま替し道、 , 当価ま・応 : を ををいのく峯第の、い