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検索対象: ばっちゃん ~子どもたちの居場所。広島のマザー・テレサ~
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1. ばっちゃん ~子どもたちの居場所。広島のマザー・テレサ~

第一章いろんな“はじまり” その様子を満面の笑みで見つめている中本さんの様子から、他人にお礼を一一一一口えるまでに成 長したヒロキの姿が、とてつもなく嬉しかったのだと感じ取れた。 以上。これが私が初めて目にしたクばっちゃんと子どもたちの現場クである。 4 保護司のはじまり 初めて中本さんにインタビューをした時のこと。私は大きなミスをしてしまった。聞いて はいけない質問をわりと初めのほうにしてしまったのだ。 「子どもと接するにあたって、大事にしていることは何ですか ? 中本さんの答えはというと、 「根掘り葉掘り聞かないこと。すると、あっちのほうから『彼女ができた』とか、勝手にい ろいろしゃべってくる。だって私も、人から自分のことを根掘り葉掘り聞かれるのは嫌じゃ もん。だから、私も、相手か嫌じやろうと思、つから、聞かない 9 ′ 2

2. ばっちゃん ~子どもたちの居場所。広島のマザー・テレサ~

感じるようになった。子どもの心の中で積み木をしているような会話なのだ。 子どもの答えやすい質問を繰り返し、その受け答えで子どもの心の状態を測り、伝えると きも「これなら大丈夫 ? ー「この表現なら心に残る ? 」と探りながら話している。そんな様 子を見ていると、「子どもの気持ちを思って話すーとはまたちょっと違った、あくまでも子 ども側からの捉え方に重きを置いた会話であることに気づかされる。 しよせん こう一一一一口うと乱暴に聞こえるかもしれないが、所詮「相手のことを思って話す」というのも 「相手を思っているーのは「話している本人」であり、中本さんの場合は、そんな「中本さ んが思っている相手のこと」ではなく、あくまでも「子どもがどう受け止めているか」に徹 しているよ、つに田 5 、んるのだ。 6 感動なくして更生なし 保護司が立ち直りを支える対象としているのは、子どもばかりとは限らない。刑務所を刑 期の途中で仮釈放となった人も担当することは多い。私は、中本さんが担当した、そうした

3. ばっちゃん ~子どもたちの居場所。広島のマザー・テレサ~

4 相づちの妙 不快に思われる方がいたら申し訳ないのだが、私は「相づちー好きである。「相づち」だ けでも本が 1 冊書けると思えるほど相づちは奥深いものだと感じている。なんでそんなこと を一一一一口うかというと、中本さんの相づちが、まさに、非の打ち所がなく、実に上手いのだ。 少しだけ「相づち」の奥深さについて触れておく。例えば「へー」という、驚きの気持ち いくつものレベルがある。いちばんいいのは、、いの を相手に伝える代表的な相づちの場合、 底から驚き、自然と出てくる「へ 1 」。これを言ってもらうと話しているほうは、相手が自 分の話を楽しんでくれていると思い、調子良くしゃべることができる。 しかし、すべてがすべて驚けるような話ではない。その場合、相手を気遣い、まさに会話 の潤滑油として「へー」と相づちを打っことになる。しかし、心にそれほど感じていない「驚 き」を表すことになるのだから単調になってしまいがちだ。 カんで、頑張りすぎてしま、つと「この話は、そこまで驚くようなことでもないのにな」と 話しているほうも気づき、申し訳ない気持ちになる。かといって、カまない、頑張らない

4. ばっちゃん ~子どもたちの居場所。広島のマザー・テレサ~

第三章子どもに届く“声”とは ・」「いつもはどうしよるのか ? ー「朝ご飯は食 「ご飯は食べたか ? 」「いっから食べてない ? べるか ? ー「どんなご飯を食べてるのか ? ー「給食は食べたか ? ー「お母さんは作ってくれる のか ? ー「好きなもんは ? 」「嫌いなもんは ? 」などなど。 野球でピッチャーカノ ゞヾッターを打ち取るのに、わざとポ ] ル球を投げ、その反応を見て相 手がどんな球を待っているのかを探ることがあるが、中本さんも、これらの質問をすること によって、子どもの心の状態を探っている。ピッチャ 1 の場合はフォアボールになってしま うため、それができるのも最大 3 球までだが、中本さんには無限に、一見無駄にも思えるよ うなご飯にまつわる質問を持っている。 よく教育の現場で子どもへの接し方として「ク怒るクとク叱るクは違う」と耳にする。 ク怒るクは自分のためで、ク叱るは相手のためだということで、子どもと接する上でその 違いを意識することが大事であるというのだが、まったくその通りだと思う。 ただ、中本さんと子どもたちの会話の様子を繰り返し見ていて、中本さんは「相手のこと を思って」いることはもちろんだと思、つが、「相手の心に描くよ、つに話をしているなあ」と 5 9 ′

5. ばっちゃん ~子どもたちの居場所。広島のマザー・テレサ~

第三章子どもに届く“声 " とは 「へー」を連発していると「話に飽きてるのかな」と思わせてしまう。 では、相づちの上手い人は、どんな「へー」を一言えるかというと、「へー」という一言に、 いろんな意味を含ませることができるのだ。 例えば、相手がすでに何度か話していると気づかずに同じ自話をしてきた場合。カむわ けでも、カまないわけでもなく自然体で、少しニタッとしながら意味深に「へーーと言い「そ の話私何度か聞いたことがあります」という意味を込めながらも、その話自体には興味を示 すことができる相づち。話しているほうも「これ話したことあった ? ーと気づいても「聞い たことあるけど、何度聞いても面白いね」と返せば、話しているほうは不央にならずに話を 変えることも、そのまま話すこともできる。 そして、そうした正直な反応があるからこそ、話しているほうは、気を遣わずに済み、結 果さらに心地良く、安心して話をしてしまう。 中本さんの場合、日々相手にしているのは年が 8 歳以上も離れた子どもたちだ。流行って いる音楽やテレビ、ゲ 1 ム、遊びなど、チンプンカンプンな話題も多いはず。しかし、子ど もたちは、中本さんにべラベラと何でも話してしまう。まさに、中本さんの相づちに乗せら 9-

6. ばっちゃん ~子どもたちの居場所。広島のマザー・テレサ~

第一章いろんな、、はじまり " 撮影し、味噌汁を一口すするのを待って、ヒロキに話しかけてみた。 「中本のおばちゃんは、どんなおばちゃん ? 」 ヒロキ「すごくいし ) 人」 ・ : : ・「どんなところが ? 」 ヒロキ「ご飯を食べさせてくれたり、相談にものってくれたり : 普通の人なら、放っておくのに、ちゃんと真剣に、俺らのこと、相手してくれる」 中本「ほうじゃと」 中本さん、背もたれにのけ反りながら照れ笑っている。 : ・ : ・「中本さんちは、ど、つですか ? 」 ヒロキ「この家は : : : 落ち着く ! 」 ヒロキのストレートな言葉の連続に、中本さんの照れが限界にきた。

7. ばっちゃん ~子どもたちの居場所。広島のマザー・テレサ~

たけど、全然不幸だとは思わんね。まあそれも人生だと思えば。どうってことない、今は。 それと同じことを自分がせんかったらええだけじやけ、と思っとる : そんな話をしていると、炊事を終えた中本さんが、「ほれほれ、終わりましたよ」とやっ て来て、ユリの横に腰を下ろした。 中本「まあまあ、将来のことはばっちりと考えて」 ュリ「はよ結婚する」 中本「はあはあ、そういう結論になったわけね ュリ「今は、言っただけよ。いい相手がおったらね 中本さんの笑い声と相づちが、しばらく時間をつなぎ、再びュリが話し出した。 ュリ「子どもにね、ベビドの服着せるんだ。ベビードールっていう、知っとる ? 中本「なんね ? それ ? 」 186

8. ばっちゃん ~子どもたちの居場所。広島のマザー・テレサ~

のであろう。 その後ュリは片歳で妊娠し、歳で出産。 出産後、相手の男性と別れ、歳で 1 歳の女の子を育てているという状況の時、私はユリ に再会し、話を聞くことができた。 いわゆるク負の連鎖というのが社会問題となる中、「心の居場所」を求め続けていた少 女が、親になり、どのような気持ちで子どもに接しているのか、興味があった。 ここからの会話は、一切番組に出していない このインタビューを使いたくて使いたくて七転八倒したが、使うからにはそれなりの時間 を要するため、最後の最後で、諦めたインタビューだ。 私たちは、ユリの住む、アパートの部屋を訪ねた。ュリは、子どもをあやしながら、イン タビューに応じてくれた。 初めて出会ったの歳の時だったね。その時と変わった ? 188

9. ばっちゃん ~子どもたちの居場所。広島のマザー・テレサ~

私たちの開かれた社会がこの試練に耐えることを示さなければなりません。 暴力に対する答えは、民主主義をさらに強固なものにすることだということを、相手を もっと思いやることが暴力に対する答えだということを、一小さなければなりません 4 ュリの居場所 本当に「寄り道にもほどがある ! ーというほど、中本さんの現場から離れた話を長々と書 いてしまったが、これには一応私なりの理由がある。 それは、ほかならぬ私自身の心の中にもク何かを排除しようとする気持ちクが少なからす 存在するからだ。誰かと距離を置いたり、関わりを持ちたくないと思ったりすることは日常 茶飯事。でも、おそらくそのような感情、感覚をお持ちの方は少なくないのではないかと想 像する。 つまり、先ほど来、「排除するほうが自然で当たり前ではないか」という考えに対して理 屈が通っていると私が思った反論と事例を紹介したのは、私も含め多くの人が自然に持って 182

10. ばっちゃん ~子どもたちの居場所。広島のマザー・テレサ~

第四章罪を犯した者の居場所 じゃない。 刑務所に何回入ろうと、過去を消すことはできんのじやけ、それはそれで、いい 今からを大事に、再犯なくして、みんなと一緒に生活ができれば、それで私はいいと思うよ。 とにかく、地域で仲良く、みんなで助け合って。そんな社会になればと日々思うとります。 必ず、心と心が通じ合えば、更生はできます。これは、私が年かけてやってきて言える 言葉。だから誠心誠意、こっちが心を込めてやりさえすれば、必ず相手は受けてくれる。お 互いに信じ合える、それがいちばん必要なんじゃない。 更生保護に携わった人が、地域とのパイプ役にならなきゃいけない。ここできれいに隔離 してしまったら、上手くいかない。だから、私らは、その人たちの防波堤になる覚悟でやっ てきました。人が何を言おうと、信念を持って。だけん、そのような気持ちで、この人たち をどうにか守っていかにやいけん。この人たちの味方になるのは、我々しかおらんのじやけ ん。 19 /