対談伊集院要 x ばっちゃん 見てきたものはこう ! 」という現実を知っているので、説得力がありますよね。 。あの人たちだって、生きていけん 中本なぜあの人たちをそこまで縛りをきつくして : と思うんよ。だけん、そのあたりが私は納得できんのよ。誰にでも言うんよ。そしたら「は 、はい、中本さんの話はわかりました」って打ち消しされるんよ ( 笑 ) 。 伊集院かなり前から、中本さんは「白眼視はいかん」って話をたくさんしていましたよね。 そのときの話は、子どもに対する白眼視で、ヤクザに対してではありませんでしたが : 中本そうそう。白眼視したら、この子たち、行くところがなくなるんじやけん。 ヤクザが優しいかといったら優しくはないんだけど、その子たちからしたら優しい部分も あって、そ、ついった優しさを感じるところに、たちまち、みんないきたがるんよね。それじゃ いけんのよ。 伊集院子どもにとってはヤクザのほうが優しいんですか ? 中本そうそう。じやから、私はそれじゃあ良くならんし、悪い方向へいくんじやけん、全 体的に、社会のヤクザそのものへの対応のし方を変えてくれたらいいと思うんよ。 それはそうと、この前、ある親分に、ウチ、かなり文句一言うたよ ( 笑 ) 。「私にたてついた 人は、初めてですーって言うちょった ( 笑 ) 。 141
下脱げ ! 、とか「パンツも脱げ ! 」って一一一一〔うんじゃが。そのパンツなんじゃが、うんちを拭 いてないで、ガビガビになっとる。ウチも洗、つのも気持ち悪いじゃん。だからそういうのは ウチは捨てるんよ。で、均で売りよるけんね、安いのが。あれを穿かせて帰らすんだ けど、まあ、洗濯くらい親がすりゃあええのに、せんね。 それにしても、そのくさいのと一緒になってご飯を食べんといけん身になってみんさい ( 笑 ) 。子どもが誰か言いよったよ。「ばっちゃんち来たら、いつつも納豆食いよるみたいだ ね , って ( 笑 ) 。そういう臭いがするんじやろうと思うんよ。「何で納豆の臭いがするん ? っ て言うけど、納豆じゃない、足の臭いなんよね。言われはせん、本人がそこにおるんじやけ ん ( 笑 ) 。 伊集院「汚い ! 」「くさい ! 」って言える子どももいれば、言えない子もいる : 違うんですか ? 中本やつばりその子の生い立ちを考えたら「これを言ったら傷付くじやろうの」とか、そ ういうことを気をつけたり、まだ私と信頼関係ができてない子には一言えんよね。 信頼関係ができて、何でも言い合える仲であるならば言えるけど、それなりに信頼関係が できた子っていうたら、私の好みに合わせたような人間になってくれとるけんね。それは一言 リ 6
あれ、この子、好きなんよねー 相変わらず目を合わせようとしないアッシを、何食わぬ様子で見つめ続ける中本さん。ふ と私たちに話しかけてきた。 中本「この子、嫌いなもん多いけん、弁当作るのに困る」 「弁当 ? 」 中本「朝。弁当で釣るんよね。学校行くの ( 笑 ) 」 アッシ「腹が減ったら、勉強できんけん 中本「腹が減ったら勉強できんけんじゃと ( 笑 ) 。 ほいで、うちが弁当、持って行くんよ。学校へ」 中本「給食はあるけど、給食までが、間に合わないじゃない。朝食べないんだから。だか ら、私が朝、弁当作って、学校へ持って行く。あと、この子だいたい、食が細いん よ。胃か小さくなってると思うんよ。な ? あんまり、いっぺんに、よう食べんの 6
伊集院自分らは 2 時 3 時に行きよったって一言うけど、別な人に話を聞くと、 3 時 4 時に電 話してたって。組み合わせると、ばっちゃんは大変な生活だったと思うよ。 ゲンキ相当だったと思いますよ。家の電話かけて出なかったら、携帯にかけて、それでも 出なかったら「もう行こうか」ってなってた ( 笑 ) 。 伊集院「ありがとう」ってお礼言ったことはあるの ? ゲンキ「ありがとう」はないけど、「ごめんねーは言ってた ( 笑 ) 。 伊集院「ごめんね」っていう感覚はあったんだ。 ゲンキ「ごめん、遅くに、起こして」みたいな。 中本だから開け放題よ。鍵はかけんのよ。たんびにたんびに、ウチも開けに行くのが面倒 くさいじゃん。 ケンキそうそう。電気消えてても、ドア開けて「ばっちゃ 5 んーみたいな。かなり迷惑で すよね。自分だったらプチ切れとるわ。 中本でも全然迷惑と感じんのんよ。むしろ来てくれるほうが安心していられるじゃん。 ゲンキそ、ついえば、それは言われとったわ。それもあったけ、深夜にも行きよったんや。 「どっかで凍えるよりは、ウチに来て暖まれ」みたいな感じで。 154
中本警察の言葉。警察の中には、話をとにかく大きく大きくしたがることがあるんよ。調 書取る時に。 ある男の子は、警察に捕まって帰って来た時に「俺がシンナーを吸うたんじゃと」って言 うわけよ。「なんか知らんけど、俺がシンナー吸うて逃げたんじゃと。それで今日、調書書 いてきたんよ」って一一一一口うんよ。 「そんなこともあったんか ? ーって聞くと「よう覚えちよらんのんよーと。「何日じゃった んな ? 」って聞いたら「いついっーと答えたけん、ウチの日記見たら、ウチと一緒におった 日じゃったんよ。 ウチ、すぐに警察行って「ちょっと調書見せて」と言うたんじゃが、警察は「見せられな い」の一点張り。ありや、警察とやったよね。「それじゃあそれだけの手続き取るわー一一一一口うて、 上のえらい人のほうに言って、わめき散らしたんよね ( 笑 ) 。そしたら、私の目の前で調書 を破っちゃったね。最終的には。 子どもにも「警察が一一一一口、つことを何でもクよ、 ( しクって聞くのは素直じゃなくして、バカって 一一一一口うんよ ! 」と怒ったんよ ( 笑 ) 。 伊集院そんないつでも子どもの味方をする中本さんが、時々、少年院や刑務所にむしろ 144
合ったらいけんとか、いろいろ面倒な決まりがあるじゃない。銀行で通帳も作れんのじやろ。 家も借りられん。 でもウチは何でそこまで差別せんといけんのか、わからんのよ。ああいうふうに縛り上げ るがために、悪さをせんにゃならんよ、つになっていくんじゃないかと思、つんよ。逆に。 でも私がこれ一一一一口うと、みんなが嫌、つんよ。「中本さん、それ一一一一口うたら暴力団の味方するよう になる」って ( 笑 ) 。「一一一一口うちゃいけん、一一一一口うちゃいけん」って言われるんじゃが、そう思わん ? 私、声を大にして言いたいんよ。 そこまで差別する必要がないと思うんよ。それこそ同じ人間だから、ちゃんと話し合いで。 あの人たちだって、差別をされて嬉しいとは思わんじやろ。それがために、悪さをせんにや 生きていけんわけでしよ。ウチ、これ誰にでも一言うんじやけど、皆嫌うんよ ( 笑 ) 。どうし てじやろ。 伊集院私もそうですけど、暴力団と接したこともない中で、どこかで得た情報、知識で判 断してる、そう思い込んでいる部分はあると思います。逆に中本さんは、そういった頭でつ かちな知識とかではなく、これまでやってきた蓄積による、実感べースで思、つところがある んでしようね。実際に暴力団関係者の子どもを見てきてるし、世間がなんと言おうと「私が 140
アッシ「学校って、いっからかいね ? 」 教頭「 6 日 アッシ「じゃあ、起きとったら行くわ」 アッシが、何かの話を聞いている。度々「修学旅行」という単語が漏れ聞こえ、教頭が間 近に迫った修学旅行について話していることがわかった。 中本さんがニコニコしながらロを挟む。 中本「ちゃんと、予定表、貰ってきとるー コタッの上には、すでに学校の行事予定表が用意されていた。その紙をアッシに渡すと、 引き換えに電話が中本さんに戻る。 中本「もしもし、安心しましたでしょ ( 笑 ) 。ということです」 もら 1 12
第四章罪を犯した者の居場所 ュリ「プランドなんかなあ。ソレイユ ( 現イオンモール広島府中 ) とか行ったらあるよ」 中本「それを着せるん ? それが夢 ? 」 ュリ「かわいいんじやけ」 中本「そんなのを着せて連れて歩くのが夢 ? まあ、なんとたわいもないことですね ( 笑 ) 」 それまで、多くの少年たちに話を聞いてきたが、男の子はロ数が少なく、短い単語に多く の意味を込めることか多かったように田 5 、つ。 私は、ユリと出会い、いろいろ話を聞く中で、初めて子どもの置かれた状況を、心の内を、 垣間見た気がした。 「小さい頃は虐待の意味がわかってなかったんだけど、わかりだしてからつらいどころの話 じゃない 「今はもう割り切ってても、割り切れん部分があって : : : 」 「心の居場所がないことがいちばんつらい といったユリの言葉は、少年たちを含め、私が見てきた多くの子どもたちにも当てはまる
対談伊集院要 x ばっちゃん 伊集院「寒いから家帰ろうや」とはならんかった ? ゲンキなんないっす。みんな家に帰りたくないんで。だから外に出てるっていうのがある んで。家に帰りたくないから、夜集まって。 伊集院帰りたくないっていうのは、どうして ? ゲンキお母さんとか、親と上手くいってなかったり、俺は、普通に家に誰もおらんかった んですよ。だからみんなと一緒に遊ぶって感覚で。 伊集院週何回くらい行きよった ? ケンキほとんど毎日行きよったですよ。ひどいときは、そのままばっちゃんち泊まって、 ばっちゃんが家を出るときに、一緒に家を出たりとか。 伊集院「お前ら何時だと思ってんの ! 」って言われなかった ? ゲンキ言われなかったです。そんなのないです。 中本そんな一言うような元気がない。しんどくてしんどくて、いけんのじやけん ( 笑 ) 。 ゲンキ「腹減った」って言ったら、簡単にスッと作ってくれたり、作って置いてあるもの を食べたりしてた。あと、子どもらがいっ来るかわからんからやと思うんだけど、ジュース が常備されとるって感じでしたね。 153
また、本来、「放送」という一過性のメディアだけで終わるところを、一度せき止め、こ 、つして違う形で中本さんの活動の意義を紹介する機会を与えてくださった扶桑社の高橋香澄 さんに改めて感謝いたします。 最後に、本書ですでに紹介しているが、私の 8 年間の取材の中で、いちばん好きな中本さ んの言葉で締めとしたい。 「子どもの顔を見よったらね、せんにやおれんようになる。今日のこの子らの顔でも見てご らんよ。来た時にはお腹を空かした顔よ、帰る時には生き生きしちよるじやろ。 違うでしよ。食前と食後いうたら。あれを見ると、せんにやいけんと思うよ ( 笑 ) 。 で、かわいいじやろ。そう思わん ? 携わった人間だけが、かわいいかわいい一一一一口うけど、 人から見たら、何こげな子が、かわいいじやろかという人がおるかもわからんけど、そやけ どあどけないじゃん。じやけん、食べたあとの顔見てよ。ものすごく、和やかじやろ」 2 017 年川月 Z ディレクター伊集院要 幻 4