スノ 1 デンの語りから浮き彫りになる日米関係は、実に一方的でゆがんだものに見える。米 国は自らのインテリジェンス関連費用を日本に肩代わりさせ、大量監視の一翼を担わせ、一方 これは同盟 で日本の政治・経済の中枢を密かにスパイし、日本側はそれに強く抗議もしない こく控えめに言って、植民地と宗主国ではないか。 A 」、カノ ートナーとか呼べる関係ではない。 スノーデン問題は、日本のように特に軍事的でない国が、恒常的に戦争状態にある国に対して 無条件に依存するような関係を結んでいいのだろうかということです。米国は世界で善なるもの 、米国がも、つ一〇年以 のためのカであると信じている人でさえーーー私もまだ信じていますが 上もこ、ついう状態を続け、誰かを爆撃したり侵略したりしていない時期がほとんどないという事 実に不安を覚えるにちがいありません。 日本の政治家が「われわれはテロ攻撃から日本を守りたいのだ」と話すのを聞くと、ひとつの 良い方法は、誰も襲わず、誰も爆撃せず、攻撃もしない、非侵略的な外交政策を維持することで す、と言いたくなります。爆撃や侵略は敵を生むからです。 あなたがもし、テロリストを殺したとして、生き残った彼の家族全員がこのことを忘れません。 彼らは成長し、ある日復讐を望みます。ある種の正義を、たとえそれが不当な正義だとしても、 少しも正義でなくとも、望むのです。 しかしながら日本政府部内には平和的な協力関係を追求する代わりに、日本国憲法の平和的な 部分を弱め、より攻撃的に改変しようとする動きが見られますね。これこそ日本のすべての市民
43 第 3 章世界に広がる監視網の一翼 の点が、機密文書の暴露を自分主導で進め、既存ジャーナリズムと対立したこともある内部告 発メディア、ウイキリークスのジュリアン・アサンジ氏との違いだ。 日本をスパイする スノーデンここ数年、日本関連で私の文書やウイキリークスなどが暴露したことに注目すると、 米国は基本的に、 ( 日本との ) 交渉でよりよい結果を得るため、ないしは日本に流出したお金を米 国に取り戻すため、日本の外交目標や通商目標、経済的な強みについてスパイし続けてきたこと が分かります。 これらのプログラムは、テロとは何の関係もありません。経済的な利益を上げるためのスパイ 行為であり、外交駆け引きを優位に進めるための操作であり、社会的に影響を与えようとするも のです。大量監視は安全とは関係ありません。権力のためのものなのです。 スノーデンは「タ 1 ゲット東京」に言及した。「タ 1 ゲット東京」とは二〇一五年七月、ウ イキリークスが公表した米 zco< による日本の財務省、経済産業省などへの大規模盗聴事件の ことだ。暴露文書には、第一次安倍政権の一一〇〇六年九月 5 〇七年九月、日本政府中枢の電話 が米側に筒抜けだったことが描かれている。同盟国である日本へのスパイ行為そのものも驚き スパイされた側である日本政府が米国政府に強い抗議の姿勢を示さなかったことが、ス ノ 1 デンには強烈に映った。
63 第 5 章モラルに基づく決断は , 時に法を破る の家に勝手に入り込んで、タンスを空にしたり、日記の全文をのぞき見たりはできません。はっ きりしています。 右に述べたようなこれらの権利も、プライバシーを起源としています。なぜならプライバシー は、個性にまつわるものだからです。プライバシーとは、あなたが価値を持っているということ なのです。プライバシーとは、あなたが価値を持っている根拠です。 私有財産という言葉があります。私有財産とは、あなたが自分のものとして所有する何かです。 ところが、この概念を失って、「プライバシーなど時代遅れだ。私にはもう必要ない。確かにね、 必要な時代もあったでしよう。でも、もう過ぎ去った」と言ったとします。あなたは、もはや自 分のものではなくなります。あなたの家もあなたのものではない。何もかも、あなたから切り離 される。あなたは社会の所有物になります。しかし自由で開かれた世界では、社会の方が私たち 全員に帰属するのです。 これが、あなたにとって、たとえ個人的にはスパイされる心配がなくとも、あなたがプライバ シ 1 の侵害に抵抗すべきことが重要だという理由です。 マ弱者のために 歴史に目を向けて、過去のあらゆる悲惨な犯罪行為について考えましよう。奴隷制度だろうが、 女性に投票権がなかったことだろうが、封建社会での農民搾取だろうが、これらの悪習が合法的 で無条件に許され、その時代においては一般的ですらあったシステムが、結局は変化しました。
「岩波ブックレット」刊行のことば 今日、われわれをとりまく状況は急激な変化を重ね、しかも時代の潮流 は決して良い方向にむかおうとはしていません。今世紀を生き抜いてきた 中・高年の人々にとって、次の時代をになう若い人々にとって、また、こ れから生まれてくる子どもたちにとって、現代社会の基本的問題は、日常 の生活と深くかかわり、同時に、人類が生存する地球社会そのものの命運 を決定しかねない要因をはらんでいます。 十五世紀中葉に発明された近代印刷術は、それ以後の歴史を通じて「活 字」が持っ力を最大限に発揮してきました。人々は「活字」によって文化 を共有し、とりわけ変革期にあっては、「活字」は一つの社会的力となっ て、情報を伝達し、人々の主張を社会共通のものとし、各時代の思想形成 に大きな役割を果してきました。 現在、われわれは多種多様な情報を享受しています。しかし、それにも かかわらず、文明の危機的様相は深まり、「活字」が歴史的に果してきた 本来の機能もまた衰弱しています。今、われわれは「出版」を業とする立 場に立って、今日の課題に対処し、「活字」が持っ力の原点にたちかえっ て、この小冊子のシリーズ「岩波ブックレット」を刊行します。 長期化した経済不況と市民生活、教育の場の荒廃と理念の喪失、核兵器 の異常な発達の前に人類が迫られている新たな選択、文明の進展にともな って見なおされるべき自然と人間の関係、積極的な未来への展望等々、現 代人が当面する課題は数多く存在します。正確な情報とその分析、明確な 主張を端的に伝え、解決のための見通しを読者と共に持ち、歴史の正しい 方向づけをはかることを、このシリーズは基本の目的とします。 読者の皆様が、市民として、学生として、またグループで、この小冊子 を活用されるよ、つに、願ってやみません。二九八二年四月創刊にあたって ) ロ単行本スノーデン・ショック 民主主義にひそむ監視の脅威 ディヴィッド・ライアン 田島泰彦、大塚一美、新津久美子訳 ◇岩波ブックレットから 共謀罪の何が問題か 髙山佳奈子 〈愛国心〉に気をつけろー 鈴木邦男 「テロに屈するな ! 」に屈するな 森達也 923 安倍政権とジャ 1 ナリズムの覚悟 原寿雄 日本人は民主主義を捨てたがっているのか ? 想Ⅲ和弘 951
知りません。しかし、彼女は毎晩そこから衛星通信で英放送までつなぎ、現状や何が起き ているかをリポ 1 トしていました。 さて、彼女は記事を書き上げると、それを送信するのに携帯電話を使用していました。問題は、 携帯電話がいつどこで起動したか機械的に分かってしまうことです。そうした電話は基本的に、 年がら年中あたり一帯に「私はここにいます。私はここにいます」とわめき散らしているような ものです。携帯電話の中継塔、あるいは字宙の通信衛星はそれを聞いています。そして、中継塔 がシグナルを聞きつけると「私はここにいます」と返信し、交信にかかります。携帯電話側は応 答します。「オーケー、この中継塔はあちらの中継塔より近いので、こちらを経由します」と。 そしてこれが、スティングレイのような警察の監視装置を機能させます。この装置は、携帯の 中継塔のふりをします。とてもけたたましく。そして、一帯のすべての携帯電話は中継塔の代わ りに、警察につながってしまうのです。問題は、反政府勢力寄りの報道を好ましく思わないシリ ア陸軍が、彼女の電話を特定して通話を聞き、彼女がどこにいて、「中央通信社」がどこにある のかを突き止めようとしたことです。 スティングレイ ( s ( 一 ngRa をとは、軍や情報機関での使用を目的に開発された携帯電話の監視 装置。携帯電話の中継塔の模倣をして周辺のあらゆる携帯を強制的にコネクトさせる機能を持
裁判所が、ひとつひとっ個別の事件レベルで確認するのです。政府が誰かをスパイしたいと思 ったら、裁判所に行って「ここに、この人物が犯罪者であることを示す証拠があります。彼を監 視したいのですが」と言、つのです。 日本では、警察が伝統的にこうした令状請求を通して捜査を進めてきたことを知っています。 捜査令状の九七 % は承認されていると思いますが、裁判所の許可を得ている。道理にかなってい ます。 警察であれ、政府であれ、監視令状請求が適正であるなら、なぜそれを裁判所の目から隠すこ とに悩む必要があるのでしようか。もちろん裁判官は監視にゴーサインを出すでしよう。政府が 裁判官の机の上に証拠文書を出して、この人物はテロリストで、人混みでの爆弾事件を計画して いると述べたときに、「だめだめ、監視令状は出せないよ」と言う裁判官など世界のどこにもい ません。もちろん、裁判官は「よろしい、この人物をスパイし、逮捕したまえ。社会の安全を保 っために、われわれはそうすべきだ」と一言うでしよう。 裁判官たちは合理的な人物であり、そこに私たちが頼るべき理由があります。彼らがバランス これはテロリストだ。彳 皮らを監視してもいい」 を保つ役割を担うことは、重要です。「確かに、 、。土会ことって危険 とか「いや、これは政治活動家だ。暴力的ではない。破壊活動分子でもなしネ ( ではない」という形で進めるのです。 さらに言えば、このことは、より大きな立法措置を講じる際に、少なくとも政府は信頼できる ことを確かめることにもなります。繰り返しになりますが、政府は ( 国民に ) 信頼を要求するので
どこかで、他の人と異なる、普通でない、 変なある一人の人物が、物事がどうあるべきかにつ いて異なる見解を抱いたからです。 そして、周りの人間が、物事が実際に変化していることを確認できたのは、この見解を発展さ せ、共有し、ほかの者にも伝えて、さらに研ぎ澄まし、それぞれ独自の考えを付け加える内省の 機会と自由があったからなのです。これは最終的に、法律を変える運動へと発展しました。そし て、社会を変えたのです。未来を変え、私たちの歴史を今ある姿に変えたのです。 人類の進歩、政治の進歩というものはおしなべて、人々が普通だと考え、良きものだと考える、 その時代の正統に対する反乱として、異端としてスタートします。世界のありさまに注目すると、 私たちは特権的で豊かになった生活を送っています。テクノロジーにアクセスすることで、先行 世代の誰も、王様でさえも夢見ることのできなかった能力を獲得しています。しかしながら、誰 かが「プライバシーは十分にある。だから手放す必要がある」と言い出したらどうでしよう。あ るいは、もう十分に進歩を遂げた、ここから先へ行くつもりはない、と言ったら。結局後退して いく羽目になる可能性も、今なお十分にあるのです。 「プライバシーに関、いはない。隠オ・・ことがないから」と一一「ロ、つことは、一一「ロの・目由に関、いはない、 話すことがないから、と言うのと変わりません。反社会的で、自由に反する考えです。自分に価 値も値打ちもなく、新しい考えを生み出すひらめきもないことを認めてしまう恥すべき考えです。 新たな考えは出てきます。昨日、並外れたことができなかったとしても、明日は、私たちが社会 を未来へ牽引する者になるかもしれません。
53 第 4 章死ぬほど怖いが , やるべき価値はある スノーデン自由な新聞があるだけでは十分ではありません。新聞そのものが、真実を伝えるこ とを恐れるようになれば、おそらく報いを受けるでしよう。広告主は支援を取り下げ、政府官僚 はジャーナリストと会、つことをやめるでしよ、つ。 権力機関がこうしたメカニズムを悪用しようとしているのを見るのは、悲しい現実です。私た ちは、日本でそれが試みられるのを見ました。米国でも増えている実態を目撃しています。 ただ、私が自分の国を最も誇りに思うことの一つは、この大統領 ( 注トランプ氏のこと ) がメデ ィアの ( 権力に対する ) 懐疑的態度と権力監視の再生を誘発していることです。 この非常に攻撃的な大統領に対して、メディアは積極果敢な姿勢を緩めていません。より攻撃 的になっています。これは完全に妥当であり、必要なことです。米建国の父たちの一人 ( 注第 三代大統領トーマス・ジェファーソン ) はこう述べています。「もし、私が新聞なき政府と政府なき 新聞の間で選ぶとすれば、政府なき新聞だ」 スノーデンは、誰もが当たり前。イ リこ吏っているスマートフォンを持っていないわけは想像が つくだろう。当局の監視を避けるためだ。インタビューに遅れてきた理由もそれだった。 スノーデンこのホテルまで歩いて来たことはありません。以前はタクシーを使っていました。 今回、地下鉄駅から歩く必要があったのですが、道順が難しかった。私はほとんどの方々が使っ ているスマートフォンのような携帯電話を使いません。だから、 ( 衛星利用測位システム ) の
共謀罪法の対象犯罪は一一七七。スノーデンの言うとおり、組織的な殺人や強姦、誘拐、ハイ ジャックなど重大犯罪が並ぶ。だが一方で、森林法違反や墳墓発掘など組織的犯罪集団との関 係が不明なものも含まれている。 スノーデン逮捕された者に関して言えば、日本の警察と司法制度は、世界でも最も高い有罪率 を誇る組織の一つです。日本の警察は何でも逮捕できる、石ころであろうが、岩石であろうが、 自転車であろうが一週間たてば、自転車は自白証書にサインしている、というのはほとんどジ ヨークですが ( 笑 ) 。 つまり、日本政府はテロに対抗するために必要な手段を既に有している。もし、そうでないと して、これが是正する法案になるのでしようか ? 法案を分析したほとんどの専門家は、「いや、 これは正しい法案ではない」と述べています。これは最初の下書きに過ぎない。おそらく、これ を基によりよい法案を得ることはできる。だが今日ある、この法案は危険だ。不完全で、日本の ようにプライバシーが重視される社会で、プライバシーを保護する本質的な保障がない。 私は、われわれが探る必要がある核心部分は、この法案の広がりだと考えています。どれほど 広範な法案なのか 「オーケ 1 、テロ対策に焦点を絞った新たな共謀罪法だね」と認めてしまえば、代わりに彼ら はテロ対策と、テロとは何の関係もないほかの全てを対象とする新たな共謀罪法を得るのです。 「保安林区域内の森林窃盗」でしたつけ。全ての例は把握していませんが、でも法案を見ると、
37 第 3 章世界に広がる監視網の一翼 もともとの理念は米国にある中枢から、世界全体をスパイできるようにするというものでした。 しかし、これは技術的に大変難しい仕事でした。そこで、横田基地が日本における米国の電子ス パイの中枢神経として考えられた可能性があります。 米国が法律立案、法改正に深く関与する スノーデンが暴露した文書によると、横田基地や沖縄にある米国のインテリジェンス関連施 設を建設するために、日本政府が費用を負担している。二〇〇四年七月一一一日付の機密文書は、 横田基地内に建設された「工学支援施設」の建設費六六〇万ドル ( 約七億三〇〇〇万円 ) のほとん どを日本政府が負担し、スタッフの年間給与約三七万五〇〇〇ドル ( 約四一〇〇万円 ) の全額を 日本政府が支払っていることを暴露した。二〇〇七年三月一六日付の文書は、沖縄にある zc < のハンザ通信情報収集施設をキャンプ・ハンセンに移設した経緯を紹介しており、「日米間 の合意によると、日本政府は新施設の建設費と新たに置き換わる通信情報収集システムを含む、 移設費用の全額を支払う。日本の納税者が負担する額は五億ドル ( 約五五〇億円 ) を超えると試 算される」と記載している。日本から米軍へのこうした支出は「思いやり予算」と呼ばれる米 軍駐留経費から支払われているとみられ、細目や具体額が表に出ることはほとんどない。 スノーデン嘆かわしいことですが、これらは事実です。現実には、米軍が駐留している国々で 駐留費用を最終的にそうした国に払わせるというのは、とても一般的なことなのです。それは、