ステフの仮説は、穴だらけだった。 『盟約』抜きにこれだけの事象改変を行う方法も。 自分達の記憶から特定の人物を消し、全権代理者ーーには残す意図も不明だ。 だがその仮説が正しければ、それをも上回る疑問が氷解するのも、事実だった。 イマニティ エルキアの王、人類種の王、己が主。神を下し、天翼種を下し、東部連合をも飲み 込もうとしていた者が : : : 負けたなどと考えていたことに対するク違和感 % ステフの仮説通り、この不可解な状況が、敵の意図したものではなく。 勝利のために作られた状況だとしたらーー ? 「それならーーー確認の方法がございますー 頭を振って、ジプリールが言う。 「確かに、特定の物体や、個人がこの世に存在した事実ごと、全世界から記憶も記録も消 すことは、『盟約』を使ってすら不可能でございます。ですが仮にーーー」 それは、相当シビアな条件が求められる仮定の話。 更にそれを『盟約』の力なしで行う方法が、一層謎を深めてしまうがーー・それでも。 すなわ イマニティ 「ソラという人物がマスターの兄、即ちク人類種の全権代理者として勝負を受けたと仮 定すれば、人類種からク消えることは可能かと。その所有物からも・ーーですが」 イマニティ フリューゲル し
ク全ての記憶を二つに分割するツということは、可能かもしれない。 いや、もっと厳密に言えば。 兄の実在を示す証拠が一切ないこの状況で。 自分がク正気だったという保証クを、誰がしてくれる。 そら 『空』という存在が、自分にとってどれほど都合のいい存在だったかを考えると、その可 ひど 能性がーーもっとも認められないその可能性が、酷く説得力を帯びて浮かび上がる。 すなわ 即ち 空など、自分が作り出していた都合のいい空想上の存在だった、と。 ( ーーーそん、なの : : : 認め、ない : : 認め、られないっ ! ) 認められるわけがない。認めたら、全てが、自分の全てが。ーー・前提から タブから、完全に反応がなくなる。 しろ 扉越しに伝わる白の沈んだ様子に、顔を見合わせるステフとジプリール。 「ど、どういうことですの ? どうすればいいんですのよっ ! 」 「 : : : 整理して、考えてみましよう」 ジプリールが自分を落ち着かせるよ、つに言、つ。 イマニティ イマニティ か 「人類種のコマーーー人類種の全権利を賭けた、東部連合との勝負が控えているこのタイミ ングで、マスターを行動不能にすることで、もっとも得するのは誰でございましよう」
230 そら 空が提案したゲームは、シンプルだった。 空といづな、本来の身体能力での、正面からの決闘勝負。 勝てるはずが、ない。 あか いづなのあの、紅い姿を目にした人々は、誰もがそう思った。 確かに空達は、ソレをすら破った。だが間違っても正面からではない。 わな かろ 知略、戦略、無数に張り巡らせた罠に次ぐ罠で、辛うじて仕留めた。 イマニティ 単純な反応速度、運動速度で人類種が、あの紅いバケモノに勝るなどあり得ない。 東部連合の大陸のク全てを奪った以上、いづなやいのも、当然そこに含まれる。 空はとっくにいづなの所有権を手にしている。 なぐさ ならその提案は、暗に『友達になろう』という回りくどい慰めに過ぎないはすだ。 だが同時に、その場の全員が思う。 イマニティ あの男が。あの『王』が。人類種最強のゲーマーの片割れがーーーあのペテン師が。 言葉通りで済ませたことがあっただろうか、と。 「じゃ、いくぞ。このコイントスで、コインが地面に落ちた瞬間からの早撃ち対決だ」 こた 無言でもって応えるいづなを、了承ととった空。
空の記億、意識に完全に触れたクラミーは、白、そして巫女と同純く。 空の計略を完全に把握している、この世界で数少ない人物の一人 空が思い描いている、この世界の攻略法。 その描かれた戦略図には。ーー明確に自分の名前が刻まれていた。 あまりに無理難題な一言を添えて。 だが、その難題にも、クラミ 1 の顔に絶望や不安は、ない あれだけの記憶と、あの東部連合との一戦を見て、クラミーが思い出すのは一つ。 つか エルキアの国王選定戦ーー。自分のあごを掴み、眼を見据えて言い放たれた言葉。 『あまりーーー人類をナメるんじゃねえ』 イマニティ 人の可能性を目の前で見せられて、人類種の限界などと口にしていたのを笑う。 イマニティ ーー自分もまたーー人類種なのだ、と。 少し変わったのですよ」 「気のせいじゃないのですよね : : : クラミー、 ン 工「あの男の記憶にあてられ過ぎかしら。問題 ? 」 「ん 5 、泣き虫のクラミ 1 が、もう見られなくなるかもって、寂しいだけなのです」 「だから泣かないつってんでしよっ」 だが一転、真剣な顔でフィ 1 が言う。 しろ
166 と、ら 確力に、このビルをゆっくりと上がってくる足音を捉える。 しろ ( この足音はーー・白、です ) 一定のペースで、短い歩幅で、軽い体重。 いづなが、最もク脅威に値しないと判断したプレイヤ 1 そら イマニティ いやーーー白だけではない。 空もステフも、人類種など戦力としてみなしてすらない。 フリューゲル いづなが開始と同時に仕掛けなかったのは、天翼種であるジプリールを警戒してのこと。 あば イマニティ どんな卓越したゲームの腕があろうが、こちらのゲ 1 ムが暴かれようが、人類種は自分 に近づくことも、近づかれるのを察知することさえ不可能ーー・反応が追いつくはずもない なのに。 さっきの『ポム』と『近づく足音』に感じるこの不気味さは、なんだ。 ふと、違和感を覚える。 おんなのこ このビル内には Z O もひしめいているのは、音で把握している。 その中を、一切乱れないペースで、ゆったり走る足音 : ひるがえ いづながバッと、和服を翻して、埃舞い立っ狭い部屋の扉に銃口を向ける。 いづなが身を潜める倉庫、その唯一の出入り口。 わず おんなのこはいかい 僅かに開け放たれた扉の外には、大量の Zæo が徘徊している。 小さな、軽い足音は八階フロアにまっすぐ向かい、そして、到着すると。 ほ一 ) り・ 0
ステフをちょっと見直すことにしよう、と内心ひっそり思って空が続ける。 イマニティ ずいぶん 「ーー渡す日時指定までは設定されないってことか。おい人類種、こんなとこばっか随分 こざか 小賢しいじゃねえか。出来ればその頭をもっと国のために使って欲しいとこなんだが」 かん イマニティ 「今は、ソラが人類種の敵ですもの、遺憾なく発揮してるんじゃないですの ? 」 半眼でそう応じるステフを、だが華麗にスルーして空。 なあ白、今、何日だ」 「さ 1 てさて、なんて書いて 引きつった顔で確認する空に、即答する白。 「ーーじゃあ、今日じゃねえか、勝負の指定日ツー 「へつにあ、あの、時間はーーー」 慌てふためくステフに、空が吠える。 「タ方からーーー・半日もねえじゃねえか ! えーい、全員急いで支度しろっ ! 」 法 導「わ、わかりまーーー」 1 ーノ 1 ー 1 レ、、 ノしつでも準備は出来てございます」 一「不肖ジプ , 章 「・ : : ・しろ : : : 準備、ばん、たん : : : 」 第 「その兄、空もいつでも準備オ 1 ルクリアだっ ! さあみんな行くぞっー すっくと立ち上がっただけでク準備完了ッと言ってのける空達に、焦るステフ。 ふしよう
イマニティ それこそがーーー人類種の全権代理簒奪を狙う 2 フミーの目的だと指摘するように。 「同じく、俺もそっちの森精種をゲット出来ない。必然、一一つ目の要求はーー」 「 : : : 相方を奪う一」と、ってわけね」 イマニティ 2 フミーが勝てば、空の記憶を失った白ーー人類種の全権代理者を手に入れる。 空が勝てば、エルヴン・ガルドきっての術者を一人手に入れる、というわけだ。 「ま、もちろん要求は決勝後、変更してもいいってことにしておこう」 それを、だが 2 フミーが鼻で笑う。 「 : : : 私があなたに同情して、存在を残したりするとでも思ってるの ? 」 「ははつ、面白いジョークだが、そんなわけないだろ」 同じく笑い返して一蹴する空が、 2 フミーの目をのぞき込んで言う。 こうそく 「白は俺がいなくなったら、盟約で拘束してもたぶん使い物にならない。そして、そっち の相方に関しても同じ事が俺に = = 0 える。つまり『保有』じゃなくーー『自害』でも『人格 改変』でもいいように、盟約を変更可能としておかなきゃーーーだろ ? 」 法 離ぞわりと、その場の全員の、白と空を除いた背筋に寒気が走る。 章 「ま、要約するとーーーお互いの存在と、相方の生殺与奪を賭けた奪い合いだ」 第 そうーー相方まで含めたみオール・オア・ナッシング % 狂ってる。ーーそう思ったのは、ステフだけだろうか。
136 東部連合在エルキア大使。 はっせ フェネックのような長い耳に黒髪の獣人種ーーー初瀬いづな。 目を閉じて精神統一している様子の少女に、先日のような人懐っこさは微塵もなく。 「 : : : 皆様こちらにお座りください」 そら しろ いのに促され、いづなの隣に座る空。順に右へ白、ジプリール、ステフが続く。 着席を確認したいのが、いづなの傍らに立ち、手にした書類を読み上げる。 「では これより、み盟約内容の確認をはじめます」 ごくり、と誰かが喉を鳴らす音が聞こえた。 「東部連合『ルーシア大陸に保有する全て』を。エルキア王国『種のコマ』 即ち イマニティ か 人類種の人権、領土、その他、保有する全てを互いに賭け、東部連合指定のゲームを、東 部連合大陸代表者、エルキア国王一一名とその従者一一名の、計五名ー、ー一対四で執り行う」 空は要求の全てーー一対四という条件も通っていることに薄く笑みを浮かべる。 ーーー当然だ。拒否権は与えていないのだから。 「なお東部連合は慣例として、付随しクゲーム内容に関する一切の記憶の忘却クを要求。 イマニティ この要求には、全プレイヤー、観戦者を含めた全人類種が含まれるものとする」 淡々とした声で、いのが続ける。 「また、ルール説明は、ゲーム開始後となります。よってルールを聞かされてからのゲー よろ ム拒否は無効勝負としルールに関する記憶忘却のみを行うー・ー本当に、宜しいですかな ? のど ワービースト すなわ
142 「俺達もうダメた。すまん、人類種は終わりだ」 「ガクガクプルプル」 たんか : ど、どういうことですのツあんな啖呵切っといて と・つきよう 「ごめんなさいすみませんまさか東京が舞台なんて予想してないです僕達にここは無理で すホームはアウェ 1 ですもう僕達は役にたたないので申し訳ないですが自力でなんとか」 「ガクガクプルプル」 ・つずン、、ま 白目になって早ロでまくし立てる兄と、蹲って頭を抱え震える妹に、ジプリール。 「ーーー・ま、まさか、ここがマスターの世界なのでございますか ? 」 とナレ 1 ションーーーもとい いのの声が響き渡る。 『驚かれましたかな ? ようこそ、ゲームの中の世界へ』 「 : : : ゲームの : : : 中」 『ええ。ここがゲームの舞台となります。この架空フィールドでゲームを行ーー」 「待て」 「確認させろ。ここはーーー架空の場所、実在しない場所、なのか ? 『その通りですが、何か ? 』 イマニティ
282 「チェック・メイトって、将棋で一言、つ『王手』とは違うーーク討ち取ったって報告だ」 そして、とびきりに、血の気を引かせる笑みを浮かべて。 「あんたに最初に会った日から、あんたら、何をしようと無駄だったのさ、言ったろ ? 」 イマニティ そら いのの脳裏に、人類種のコマを賭けたあの日の空の言葉が過ぎった。 「チェック・メイト ってさ」 そう、全ては。 あの日、既に、終わっていたのだと。 ( ーーー巫女様、あなたは、この男を信じろと申すのですか ) われわれ 確かに、この男は獣人種にとって有利な決断をしたと言える。 たがここまで容易に、鮮やかに出し抜かれるということは ( いつでも裏切れることを : : : 意味するのでは、ないのですか : とら そう、疑念に囚われるいのに、だが一転してシリアスな顔を崩して空。 その間も撫でていたうさ耳っ子に言う。 なごり 「さあて、名残惜しいけど、そろそろ今日の寝床を探さないとな ! 」 「 : : : また、ね : : : うさみみ、たん : : : 」