なまぬるせつな 文字通り、一瞬と呼んですら生温い刹那の判断こ、 「狙いが甘うございますよ ) いかに魔法を封じられても、天翼種の身体性能は獣人種のそれに肉薄する。 ひね 空中で、至近距離から放たれた弾丸を、だがジプリールは、体を捻り目視で避けた。 わず くだ かす 僅かにかすめた弾は、ジプリールの帯を掠め、 ノ ートを散らし服を砕いて消える。 さくれつ せんこう 続いて迎撃されたポムが炸裂し、閃光と爆音を上げる。 爆煙の先に向かって弾を撃ち込もうと銃口を構えるジプリールの目が、しかし。 迫り来る三発目の弾丸を視認し、丸く見開かれる。 いづなが放った弾はーー一二発。 聞こえた発砲音は二発ーー・だが一発目はジプリールに回避運動をとらせるため。 二発目はジプリールの投げた目くらまし用のボムを逆に目くらましに利用するため。 そして三発目こそ、本命ーーー 法 導「とーーあれ ? あ、飛べないんでしたあっ」 むな とっさ 咄嗟に羽を打って避けようとしたジプリール、だが羽はただ虚しく空を切る。 章 体勢は立て直せず、不可避の一撃がその額を撃ち抜く 第 その直前。 あも フリューゲル ひたい ( 引き金を絞る。 ワービースト
172 たか、いづなの目がさらに見開かれる。 この一連のことをやってのけた白に、ではなく。 頭上から迫る気配に。 しいらっしゃいませえ学 ( 天翼種 ジプリ 1 ルツ、です ) 飛び出すのを知っていたとしか思えないタイミングでの、空中での待ち伏せ。 いつの間に屋上まで移動した きようがくあえ フリューゲル 驚愕に喘ぐ。天翼種と言えど、このゲ】ム空間では物理的限界に縛られる。 魔法なんてインチキは使えない、飛行能力も持たないはすだ。 だが二本の足で移動したなら、自分の耳が聞き逃すはずが 混乱しつつも、しかしいづなの思考と感覚は動き続ける。 ジプリールの手から、『ポム』が落とされるのを察知する。 ( ーーー目くらましつー・です ! ) 即座に断じる。 ボムを迎撃しても、爆発に紛れて銃弾が襲ってくる。 ならばーーーボムは無視。ジプリールを先に撃ち、一一発目で処理するー フリューゲル しろ ッ
2 おもしろおか 「誰が面白可笑しギャグキャラですのよっ しろじんせい モノクロからスタートした、白の記憶。 ' あの時ク胸にこみ上げたものが、今はわかる。だが未だ表現には慣れていない白が はため ほほえ 小さく、傍目にはわからない程に微笑むのを。だが兄が見逃すことはなかった。 兄が小さく微笑み返し、その目に込められた意図を、言葉より明確に伝える。 『楽しいな』と。 この世界がーー笑ってゲーム出来るこの状況か。それとも白が笑っている事実か うなず 問、つまでもなく、両方だと物語る兄の目に小さく、こくりと白が頷き、 そして全てが黒く染まった。 まぶたが重い 寝たまま泣いていたのか、酷く乾いた目が開くことを拒否するように重い いや、果たしてそれは乾いているせいだろうか。 想像したくもない、考えたくもないあの悪夢を思い出して。 あれが本当に悪夢かどうかを確認するなと、まぶたを開いて瞳に映る光景を確認するな ひど
つかさど 自分が手にしている、【弐】と記されたコマが司るク概念クも、兄の真意も。 故に、敵に対して、同情すら覚えて、言、つ。 ・ : すごい」 : こんな、の : : : 誰も : : : 読め、ないよ : そう、笑って指した白の二手目によって。 さらに裏返ったコマが盤面の、過半近くを一気に白く染めあげる。 ばんやりと、クラミーと森精種の少女、ーーそして。 兄の姿が見え始めたことに、ジプリールもステフも目を見開き。 白は目からあふれそうになるものに必死に堪える。 イマニティ 白のケータイから、そして人類種、ジプリ 1 ルの記憶から消えた兄が仕組んだゲーム。 そこから読み取れるーー残された三つのコマの意味。それは さん 【参】ーーーゲ 1 ムに勝っ方法 【弐】ーー白に対する絶対的信頼 法 離そして【壱】が 「 : : : しろ、個人の全、て : : : 」 章 これらが、空という人物を構成する、己自身以上の要素の正体。 第 なぜそう言い切れたか、答えは簡単だ。 立場が逆ならーーー白もまた、そうだったと言い切れるから。 こら
236 「次は : : : 負けねえぞ、です : : : 」 ■■■ せいじゃく スクリーンに映し出される光景に、フロアを包むのはただ、静寂。 つぶや 観衆からは、声すら上がらす、ただステフだけが呟いた。 「ありえないですわ : : : 」 反応速度、身体能力、五感すら圧倒的に勝る相手に、一対一の読み合いで、勝つなど。 いづなの性格を読み、ヘッドショットを狙ってくることを予想。 責任やプレッシャーに抑え付けられたその下の、マグマのような負けす嫌いを読み。 わざわざ弾丸を迎撃してから、二発目で狙ってくることを予想。 故に、二発目を発射する瞬間ーー・一一発目の弾丸を : : : 不可避の弾丸を撃つ。 そら それは以前、空が演説の中で語った、その証明。 はんすう クラミ 1 が、空から受け取った記憶の中の言葉を、反芻する。 イマニティ 「ーー人類種の、学習と経験から生じる『未来予知』にすら到達しうる知恵 : : : ね」 きびす そう呟いてクラミー、踵を返してフロアから立ち去って行く。 《あれえ、クラミ 1 、 もういいのですかあ ? 》
191 第三章ーー誘導法 ■観戦フロア・ 《い、いづな : : : 》 - つかカ 次の攻撃の機会を窺い始めたいづなの耳に、いのの報告が響く。 : なんと言えば良いのか : : とりあえず、味方にも一切容赦はないようだ》 《あー ただ、そう報告するしかない、いの 味方に対するあまりにもあまりな対応に観衆も、クラミーさえ目を丸くする。 ( : : : あの子も、なに、その : : : 大変ね ) そら 空の記憶にあるステフの扱いに触れて、心から同情したくなるクラミー。 《クラミーって : : : ステファニーさんと仲良くなれそうな気がするのですよお》 ど、ついう意味かは、深く聞かないことにした。 ・ゲーム内ー : ゲーム開始から、二時間近くが経過しようとしていた。 空達が仕掛けた四回目の攻撃も不発に終わり、再びアポイントで一同。 だが今度は まわ : ついに防衛戦に廻ることになっちまったか、ったく」 ガンマ
156 ■観戦フロア■ ゲームが、始まった。 あまりのバカゲーっぷりに呆れる観衆の中。 だが油断のない気配で、黒い瞳に黒いべ 1 ルで影を落とす少女。 クラミーの姿があった。 ( : : : フィー、見えてる ? ) 《はあい、 感度良好、クラミーのお目々、ばっちり頂いてるのですよお》 エルフ クラミ 1 の視覚を建物の外にいる森精種ーーフィーが同期、その上での思念会話。 エルヴン・ガルドで生まれたクラミーは、身に染みていることだが : ( ホント、他の種族からしたらたまったもんじゃないわね、こんな魔法 ) びくりと、いのの眉がつり上がる。 これは : : : 魔法の気配 ? ) イマニティ せいれいかいろう 人類種と同じく精霊回廊接続神経を持たないため、獣人種に魔法は使えない。 とら じよ・つき だがその常軌を逸した五感が捉えるク気配クに、いのはちらりと視線を向ける。 ソエル ! 何故ここにいるつ : まゆ あき ワービースト
1 10 そら あさ 一瞬の間。空の記憶を漁ったのだろうーー。ーそして。 「ーーそれを圧倒的に上回る、下世話な記憶しかないんだけどおおっ」 ェロ知識や映像の洪水に見舞われたのだろう、顔を真っ赤にして叫ぶクラミー それをさすがに見かねたのか、フィ 1 が口を挟む。 「わかったのですよおクラミー、わたしが代わりにおことわりするのですよ 「へあ ? あ、う、、つん , ーーありが 「ソラさんはお気づきだと思うのですけどお、クラミーはこう言いたいのですよお。プロ ポーションに自信がないから、イヤだあってーーー」 、言わないわよそんなことツツ凵」 きよとん、と目を丸くしてフィー 「違うのですかあ ? だって : : : 」 めぐ ちらりと、フィーの視線が巡る。 ジプリール。ステフ。そして自分の胸を見下ろして。 最麦こ、クラミー : : : の、胸を。慈愛に満ちた目で。 「だいじようぶなのですよクラミー。女の価値は、胸じゃないのですよ 5 : しいいわよっ ! 入るわよっー しろ びしいっと、白を指さしてクラミー。
273 第四章 -- ー収束法 よいよもって神にでもなろうとでもい、つのかなつに 人の話を、聞か、ない ? 何か、聞き落としたというのか、この自分が ? そう巫女が目を丸くして、ここまでの全ての流れを回顧する。 そして即座に引っかかる、言葉。 いづなみたいな、アルテイメッツブリティ 1 なアニモーがわんさかい 『獣耳っ子だぞに きつわ る、しかもそのトップが金色狐美少女巫女とか、存在がチートにも程があるーー、』 いうことを踏まえた上で 「・ : : ・あんた、最初から : 「え、なんのことすか ? それで、両方勝ち ? 両方負け ? どっちがいい ? 目を剥く巫女に、だがヘラへラと体をくねらせ、空が問う : ほんに、ほんに最初つから最後まで、踊らされた : : : っちゅーわけや ) 内心こばす巫女にーーもはや選択肢はなかった。 何故かなど、もはや問うものもいないだろうが、巫女は苦笑し、思う。 ( そんなの : : : 決まっとるやん : : : ) この者らがーー本気で勝ちに来たら : : : 勝てる気が全くしない。
233 第三章ーーー - 誘導法 ワービースト ここは獣人種の、東部連合のために、空から『誰も死なない根拠』を聞き出すべきだ。 なのに なん、で かっとう たか、いづなの葛藤を余所こ、 ( いづなが放った弾は直進し。 そしてーーわずかに首をかしげた空の頬を、かすめて通り過ぎる。 まるで いや。間違いなく、予知していたように。 : とっ / に。 そしてその瞬間には : 空が放った二発目の弾が。 ワービースト 獣人種の 『血壊』まで使ったいづなの眼にすら。 胸に到達しつつあるのを、捉えるのが限界だった。 いづなが、二発目の弾を撃っことを読み切り。 いづなの射撃のマズルフラッシュにあわせてーーーすなわち。 わず いづなの五感の一切が封じられる僅かな時間にあわせて撃った、弾丸。 それが、いづなの胸に沈んでいくのを感じながら。 いづなの耳には、確かに空の声が聞こえた。 「そう、それでいいんだよ : : : それがいづなの、本心だ」 とら はお