206 ・ : かな 5 し 5 みの 5 そら そんなが空の脳内を流れていた。 その男は、燃え尽きていた。 白く いや最初から白い毛並みだったがーーー真っ白に燃え尽きていた。 はっせ インターフェ 1 スに表示される、『初瀬いの・敗北』の文字。 だが、校門の前で、砕かれてなおなお、燃え尽きてなお。 初瀬いのは、灰になっていた。 ーー女王の乳を揉んだ体勢のまま男は よろよろと : : : 空が歩み寄る。 かけるべき言葉は、見つからない だが、それでも言わなければならなかった。 いや : : : 初瀬いの。俺は、あんたを誤解していた」 いや、いやいや。惚れるにしても違うから。ないから。ごめんなさいッ凵」 そう、きつばりと、いのを振って。 尾ひれを一打ち、女王は飛ぶようにーー校舎へと向かっていった。
しろ と、広げた自分の手札を睨んで、赤毛の少女はため息をついた。 ステファニー・ド 1 ラ。 通称、ステフ。 あふ 元王族ーーー先代国王の孫姫にふさわしい気品に溢れ、寝不足と濃い疲労にまみれてなお ゆが 美しいその顔立ちはーーーしかし今や怒りに歪み、不穏な気配を漂わせている。 その原因は、『二つ目の悩み』だ。 すなわち 「このクソ大変な時にいつまで留守決め込んでるんですのあの王様一一人は エルキア王城、大会議室。 響き渡ったその怒声が、居合わせた全員の身をすくませる。 : ドーラ公、心中お察ししますが、淑女がククソクは如何かと思いますぞ ? 」 たしな 窘めるように口を開いたのは、ステフの傍らに控えるー・ー白い、初老の男。 その顔は、ステフに同調するかのような苦渋を滲ませている。 はかま はっせ 大のような垂れ気味の耳と尾。羽織袴でもわかる体格の良い獣人種ーー初瀬いの。 そら 元東部連合在エルキア大使・初瀬いづなの祖父であり、今は不在のエルキア王 , ・ーー・空と 白によって無茶振りを押しつけられた : : : ステフに続くもう一人の被害者だ。 しゆくしょ ワービースト 、 ~ 、く ( ノッ
238 ( ソラ達も巫女さんも、はじめから、誰一人として助ける気なんてなかった そら 空達、巫女達は、一小し合わせーーー一一種族を『詰む』一手を得る。 たやす そのために。そのためだけに。、 しとも、容易く ッ いのを捨て石にしたとい、つこと 「 : : : そんなの : : : 認めませんわ」 「ほお ? 」 もうきん 金色のーー・文字通りの『人外』の、猛禽類の眼に腰が砕けそうになりながら。 だがそれでもとーーーステフが、周囲を見回し、振り絞るように声を上げる。 はっせ 空達不在のエルキアで、唯一ステフを支えてくれた獣人種ーーー・初瀬いの。 たった二週間とはいえ、一緒にゲームし、一緒にエルキアの立て直しに奮闘した彼は。 エルキアの連邦構築にも大いに尽力したし、彼がいなければ足がかりもなかった。 東部連合にとっても、エルキアーーステフにとっても安い人材ではないはす、まして多 ため 種族の併合の為に、一方の種族から犠牲者を出せばーーーその悪影響は計り知れない。 そんな自明、巫女がわかっていないはすがないのに らつわん 「初瀬いの。紛うことのない辣腕やし、東部連合初期からあてを支えてくれた男ゃ。まし て東部連合の利の為に死ねと言われて『御意に』て答える男ーーー安いとは到底言い難い貴 重な人材やけどーー最後までデカい戦果を上げたんや。文句の付け所のない男やったよ」 ワービースト
鈴の音と、ほっくりが床を打ち鳴らす音を連れてーー金色の狐が姿を現した。 「なーーーみ、巫女様ツ」 その姿を確認するや、即座に地に伏したいのに、巫女は言う。 はっせ 「初瀬いのーーこれよりあてらはク総員でクオーシェンドへ向かう」 ころころと楽しそうな声で、続ける。 みちみち 「説明は道々行うが、ぬしの女癖の悪さ、今こそ発揮して貰いたい。かまへんかえ ? 「み、巫女様 : : : 巫女様まで私をそのような眼でーー」 わず 涙で床を濡らしそうになるいのに、だが巫女は僅かに声を落とし、再度、 「ーーかまへんか ? そう、問、った。 いのが顔をあげ、周囲を見回した。 壷その場の一同の顔を見回し、果たして何を理解したのか 「 : : : 御意に。お任せください」、と。 章 第 状況についていけず、扉の前で途方に暮れるステフに、 もら きつわ だが一言で応じた。
「ーーーク初瀬いの % あの男、妻が『三十人』おったはずやで」 ■・■ エルキア王城、王の寝室。 久しぶりの安らかな睡眠に身を委ね、夢の中を漂っていたステフは さだめ 「ジジイイイ話は聞かせて貰ったアキサマは死ぬ運命にあるツⅡ」 ほ・つ一っ 城を震わせる爆音と、それさえ掻き消す咆哮に、べッドから転がり落ちた。 「な、なんですのおツ」 頭を打って悶絶して叫ぶステフは、だが聞こえた声がーー訂正、絶叫が だれ 誰のものかを理解すると同時、音が聞こえた方向へーーーすなわち大会議室へ。 寝間着姿だということも忘れ、シーツをつかんで部屋から飛び出した。 けやぶ 果たして、大会議室の扉を蹴破るように駆けつけたステフが見たのは。 いや間違いないだろうー、ー先ほどの爆音の正体であるジプリ 1 ル。 おそらく そしてその爆音のせいだろうーーー はっせ もんぜっ ゆだ か もら
39 第一章 「 : : : 私の案が呑めるなら、最初から無駄な手間取らせないでもらえますッ」 す 棄てるように開かれた、その手札は、 ファイブオプアカインド。 そろ 降りなければ宣告通りーーー全員揃って破滅した札に、諸侯達の血の気が引く。 きびす だがそれを気に留めることなく、ステフは踵を返し、 オール・オア・ナッシング 「全て得るか全て失うかッ ! 破滅する覚悟くらい決めてからおいでなさいな」 はっせ そしてステフのかわりに、初瀬いのがにんまりとした笑顔で。 記憶を頂きますので、あしからす」 「それでは【盟約に誓った】通り つまるところク利権紛争クだ。 一取り返した領土を適切に運営し、エルキアの , ーー連邦の国益に役立てる。 嫌でも誰かに任せなければならず、成功すれば利益が生まれるのも当然。 むしろそうでなければならない。それは、い、。 問題は貴族達が『元は誰の領地だったか』という主張を振りかざしてくることだ。 わたくし
254 「 : : : 期待、してええんやろか」 あの二人なら己の限界を、鼻で笑って超えてくれる。 その確認を求め いのを助けるか、見捨てるかを試した巫女は、眼を閉じる。 そらしろ 空と白が もし、自分と同じく『見捨てた』場合。 空と白に、己の限界以上を求め、無責任にク試したツ自分を。 ー・ーー命果てるその日まで責めるため、あえて初瀬いのを選んだ、が 「 : : : ほんに、期待して、ええんかもしれへんね」 ここに至って巫女はようやく理解した。 ダンピール けんそう イマニテイワービーストフリューゲル 背後から聞こえる喧噪ーー、人類種、獣人種、天翼種に、吸血種まで。 あのふたり 空と白には、ク種の壁クという概念が、そもそもない 「 : : : あの人らやったらーー・任せられるかもしらへん」 そう、胸を押さえて。 巫女は胸の高鳴りをーー久しく忘れていた感情を覚えて。 つぶや ただ血のように赤い月を見上げて、呟いた。 ■■■
207 第三章ーー果 震えるような声で、空は言葉を探した。 「あんたは本物のでかい 男だ。あの女には : : : 見る目のない女にはでかすぎた : しかし、そのまま灰になって消えそうな、いのは。 それでも いいえ空殿 : : : 私の愛が足りなかったのです。愛に、罪はありませんぞ」 そう、言ってーー『振られた』故、全権を奪われゲームから脱落するいのは。 燃え尽きた灰色から、透明色へと変わっていくーーそして、 うそ いの、おい、待ってくれよッ ! 嘘だろツに 叫び、いのの肩を抱く空を余所に、いのの体はゲーム内から消失していく。 こうして、初瀬いのの高校生活は幕を閉じた。 いろいろ有ったようで土下座しかなかったその高校生活。 もう一度、やり直せるなら、今度こそ悔いの残らない そんな女々しい最後の言葉が定番の場で、だがいのは、 「ふ : : : なにも、悔いはありませんな : : : 次があれば、同じように、またーー」 しい笑顔で、きつばりと否定し、空の腕の中からーー消えた。 しん、と静まりかえった中、空は天を仰いで。 ほおめ 男泣きに頬を濡らした。
「甚だしく気に入らない言い方ですが : : : 」 顔をしかめるいのに、だが続いて 「自慢の恋愛テク、楽しみにしてるでえ、初瀬いの」 「 : : : じーじ、頑張れや、です」 「はっ ! 巫女様の命令とあらば : かしこ こた 放たれた二つの声援に、いのは畏まって応え、空の方へ向き直った。 「 : : : しかし空殿、先ほどから黙って聞いておりましたが、将を射んと欲すればます馬を 射よだの、協力者だの情報通だのと、全く理解に苦しみますな」 「 : : : なにい ? まゆね 眉根を寄せてこばす空に、いのは肩をすくめて続けた。 「 : : : まさか空殿、女性の趣味趣向を無視し、こちらの好みを押しつけたりーーましてや 相手が望むように演じるのが『恋愛』だと思っておられるのではないでしような ? 」 : ぶっちやけ、そう思っていたが。 「というか、少なくとも『恋愛ゲ 1 』はそうだと思うか まなざ 言葉に詰まった空に、いのは真剣な眼差しを向け、 章 「ふ、つ : ・ : なるほど。でしたら私に任せたのは賢明でしたな。格闘ゲームを極めても格闘 第 家になれないように恋愛ゲームを極めたところで現実の恋愛はできぬということですな」 その通りだが、なんだろう。 はなは はっせ
「よ、ステフ。元気そうだな、二週間ぶりか ? 」 そら ようやく気づいたのか、気楽に空は言った。 その姿にーーステフの胸に無数の感情が渦巻いた。 、はと・つ 日ー 怒り、罵倒、言及、、 だが、その全てより、久しぶりに見た空の顔に、視界が滲んだ。 せりふ 次に空の顔を見たら言おうと決めていた多くの台詞も、全てが飛んだ。 ステフは、強く目を閉じて浮かんだしすくを、あえてそのまま。 それがどの感情に由来するか、あえて考えず感情のままに、ロを開 はっせ 「ほお、エルキア側もここまで政策進んでるんやねーー初瀬いのの指示かえ ? 」 けんせい 「ステフだろ。いのはあくまで牽制と、アドバイザーとして置いただけだし」 こ、つとして。 聞こえた巫女と空の会話に、ただ間抜けな声だけがこばれた。 意外な回答に、眼を丸くするステフを余所に、だが巫女は得心いった様子で笑う。 ーかほうか。連邦構築なんぞ掲げといて、当の『王』が二人して東部連合で悠長 に構えよったんはそ 1 いうことかいな : : : 相変わらずエグい男ゃねえ」 不敵にそう言う巫女に、同じような笑みを返して空が言う。