・第三章ーー学習 ・ : 失敗しましたわ ) なぜ 何故、予想しなかったのかーー約東通り魚料理を振る舞うべく食材の買い出しに、 なを連れて城下へ下りたステフは、己の迂闊さに歯噛みしていた。 恐怖、憎悪の眼、悪意の陰ローーー隣を歩くいづなに、それらが雨のように注いでいる。 ワービースト いづながー、ー獣人種の感覚が、それに気付かないはずはない。 ( いざ。連邦。と言っても、そう簡単に異種族を受け入れられませんわよね、けど : : : ) 頭ではわかっている。 確かにいづなーー獣人種は、このエルキアにとって侵略者であり、征服者だった。 けれど、それは『十の盟約』があっての事だ。 イマニティ 人類種の窮境も苦難も、全ては単純にゲームで負けたからだ。 習相互同意に基づいたその結果を憎むなら、それは、逆恨みというものでは 「 : : : ステ公は、なんでいづなを嫌わねえん、です ? 章 第 : いづなは大陸を奪ったほー、です。憎まれんのあたりめえ、です。けど、いづなの ぐお せえでステ公のじーじ、愚王言われた、です。なんで嫌わねえん、です ? 」 ワービースト リバイス
170 人込みをかき分けてこちらへ向かい突進してくる複数の人影ーーー幼い子供の姿。 「な、なんですの ステフが驚き、棒立ちになった間に、子供達はステフといづなを取り囲んだ。 それから一斉に、やいのやいのとやかましく声を重ねる。 「いづなだ ! すげ】、本物だ ! 」 いづなー、勝負しろよ】。超強いんだろー ? 」 「あんたたち、ばか。ちょーばか。様をつけろ、デコスケ」 「 : : : なんだてめえら、です ? 」 はしゃいだ子供達の勢いに押されて、いづなが困惑した声を上げる。 ステフはどう止めに入ろうか思案したがーーーふと、その騒ぎ立てる子供達の中に。 ワービースト 獣耳や尻尾ーーー獣人種が交じっている事に気付いて、慌てて声をかけた。 「あなたたち、何をしてるんですの ? 」 「あそんでるの ! みんなで ! 」 子供達の一人ーータヌキのような丸い耳の少女が舌っ足らずな口調で答える。 ワービースト 「みんな : : : お友達ですの ? 獣人種の子たちも ? 「そ、つだよー ? 」 ぼうぜん 呆然と問いを重ねるステフに、丸耳の少女がきよとんと首を傾げる。 イマニティ その隣から、人類種の男の子が嬉しそうに声を上げた。 かし
264 「おまえら、つったんだぞ。だがおまえは自分には一切言及せず、男性じゃなきや駄目と だけ言って、誰の主観で幼いかもわからない男性を持ち出したーー」 そ ワービースト 獣人種の前で嘘をつくことは出来ない。故に主観を逸らすしかない つまりまだ生殖能力がないおまえを、な ? 」 しろ そう、ここでようやく気付いたのが、白だった。そこで 「白のケータイ見て『なら別ににいじゃなくてもいい』って言ったの覚えてるか ? 」 : で、でもそれがあ ? 」 そら とくしん まだそれだけでは得心がいかない様子の少年に、空は苦笑して答える。 「あれな、本当は、今言った全てが書かれてたんだよ」 「わざと書かれている内容と違うことを読みーーー嘘を巫女さんへの合図にしたわけ ダンピール そうプラムーーー吸血種最後の男性ー。ーはク徹底的に明言を回避した % 都合の悪い質問が来ると、『 < かか』という時に『ではない』とだけ答え続ける。 だがそれは『故に < である』とはならす、嘘をついているわけでもない いかワービースト 如何に獣人種とて、真実しか言っていない以上、巧みな言葉遊びは感知出来ない 「だがそうすると、なかなか面白いことになるな ? 」 まとめようか、と空が手を打ち、部屋を歩き心底楽しそうに語る。 ダンピール 「おまえが吸血種の解放を狙っていたのは本当。惚れ魔法で惚れさせられるのも本当。だ うそ
ワービースト 初瀬いづな。この小さな子は。白より幼い、獣人種の少女は。 ふたり あの『』を相手に、紙一重の勝負を演じる紛うことなきホンモノだと。 : いづなさん、最後に寝たのはいつですの ? : ) 」、五回メシ食ったから : : : え 5 と : : : です ? 」 指折り数えようとして、いづなは困り顔になった。 その眼の下には、しばらく一睡もしていないとわかる、うっすらとしたクマがある。 考えてみれば当然だった。 いくら『ホンモノ』だろうと、何の労力も払わす何かが出来るわけがない いづなは懸命に、一睡もせす必死でーーー人類語を覚えてこの数の本を読んだのだ。 : ごめんなさい、 いづなさん、私だけ寝て」 、です」 「ステ公はよええ、です。ザコはザコらしく、疲れたら寝りやいい ほほえ そう強がるいづなに、ステフは微笑みかけて。 ほおたた わず 永遠に終わらない作業に見えた僅かな希望に、気合いを入れて頬を叩いた しよさい ますは食事を作って、それからーーーと、書斎を出ようとして いづなさん、どういう順序で本を読んでるんですの ? 」 積み上げられている本が、あちこちから意図的に抜かれているのに気づく。 しいにおいがした順に選んでる、です はっせ わたくし
290 己に、嘘をつけないからだ。 己に、嘘をつけない以上ーーー好きでもない女に好きとは言えないからだ。 なぜ するとーー何故元の世界に未練がないかが興味深いがーーおそらくは。 唯一好きな少女を認めない世界をーー認められなかったのだろう。 それだけは、世界を敵に回しても、絶対に出来なかったのだろう。 はっせ 「せやからな : : : あても腹あくくろお思うんよーー初瀬いの」 そう不敵に笑った巫女の顔にはーーー長年いのが見ていなかったものがあった。 「あてさえ見捨てたあんたを、見捨てす己を貫いた男ーー信じてみる気はあるけ ? うやうや 問われたいのは、頭を垂れ、恭しく告げた。 「ーーー女が、もう一度夢を見られるなら。も、つ一度夢を見せてくれるなら」 ワービースト その言葉に巫女は笑って、獣人種のコマをーーー光で編んだようなポーンを。 ちゅう 指ではじいて宙に放った。 そら 空はん、ほな見してえや。あてが見果てた、夢の続きを」 ただのコマがーー盤上を飛び出しプレイヤ 1 になれると。 一度は夢見、そして折れた夢のその果てーー・果てなどないという夢を 【完】
287 ネパーエンディング イマニティ きっと やがてはーーー全人類種、全種族の灯火に ふと、フィ 1 ルはクラミーにそ、つまで影響を与えた者について、尋ねた。 クラミー にとって、ソラさんはどんな人なのですかあ ? 「 : : : クラミー よぎ のうり 問われ、脳裏を過るのはーーー彼が見た世界。そこで 「彼はプレイヤーであろうとした人よ。ただの人形であることを辞めた人」 そして、そう、強いて言、つならーーーと続ける。 「いずれ私達が、超える人ーーーかしら ? 」 つな そう不敵に断言したクラミ 1 に、フィールは笑顔で手を繋いだ。 かんながり みやしろ 東部連合・首都『巫鴈』ーー巫社。 はっせ 月光の下、黄金の狐の少女と白い初老の獣人ーー巫女と初瀬いのが向かい合っていた。 ワービースト 庭園の池にかかる橋の欄干に座る巫女の手にはーー・獣人種のコマ。 『ポ 1 ン』の形の淡く輝くコマを手でもてあそびながら、巫女は一言う。 「 : : : プレイヤー ・ : なんや人類語では、二つの意味がある言葉なんやてね」 どむもの のるもの 0
「 : : : 初瀬いづなと『約東』したんやと。あんたを助ける、ゆーてな」 いのが呆気にとられるー・。・ー・そんなことの為に、種の存亡まで賭けたのか 「ま 1 、ゲーマーとして不戦勝を好まんっちゅーのんもあるやろけど」 ↓のほ・つ イマニテイダンピールえさ 「総括、阿呆なゲーム、せやけど人類種は吸血種の餌にされかかった。空はん達はそれを 逆手に取ったわけやけど : : : 逆手に取った以上、リスクは承知の上なわけやんなあ ? 」 「初瀬いの、あんたは、あの空はんっちゅー男を、どう見る ? 」 「 : : : 正直に申せば、わかりません」 頭を垂れるいのに、だがころころと、巫女が、せやろな、と続けた。 さぎ 「ー・・ - ・・あん人はペテン師やし詐欺師やけどーー・嘘はつかへん。いや、つけへんのよ」 おそらく、と巫女は続ける。 グ「己に嘘をつくーーそれができればあん人、もっとわかりやすい外道になれたやろにね」 空がこの世界に来る前のことを、巫女は一切知らない デ ン だが、さぞ生きにくかっただろうと、空と白を、改めて近くで観察して思った。 工 ワービースト 根拠はない。あえて挙げるなら、獣人種の、また経験による勘としか言えない ネ だがーーー何故か確信があった。 何故、空ほど駆け引きに長けたものがリアル恋愛が出来ないかーーーそれは。 ため しろ
284 どうしたの ? 緊急事態 ? 」 ・ : ただ、信じられない情報だったから : : : 」 「あ、違うのですよお : そしてその情報を、半信半疑に語る。 セーレーンダンピール 「ソラさん達があ、オーシェンドーー海棲種と吸血種をエルキア連邦に取り込んでえ」 に、フィールはそしてー、ー・と続ける。 擎ことだろ、つ力と問、つクラミー 「アヴァント・ヘイム『十八翼議会』もーーーエルキア連邦加盟を決議したのですよお なるほど、それなら驚くだろうとクラミーは笑う。 ワービースト セーレーンダンビール フリューゲル イマニティ これで獣人種に続き、海棲種、吸血種、ついに天翼種まで人類種に降ったわけだ。 そらしろ 恐ろしい速度で、あり得ないことをやってのけた空と白に戸惑うフィールに、 「 : : : 予想より少し速いわね。急いで荷物をまとめましよう」 これを知ってたのですかあ ? 」 、だかクラミーはを夭、つ 情報共有していないのかと、悲しげなフィールに りんきおうへん 「違うわよフィー。予想って言ったでしょ ? 彼らの戦略は『臨機応変』よ ただ全種族を併合するなら、遅かれ早かれそうなるだけの話だ。 「問題はーー速すぎるってこと」 : はい、なのですよお」 オ そう、速すぎるーー海棲種と吸血種程度なら、無視されただろう。 ・ヘイムまで併合すれば、話は変わる。 だが東部連合に続き、アヴァント 0
265 第四章再試行 がそれじゃ起こせないと知っていた。それでも俺らを利用して解放を狙ってたのは本当っ てことにな , り・ 、つん、随分俺らを高く評価してくれたな。光栄だよ」 そう笑顔で告げる空に、白もまた笑顔で答える。 ワ】ワ・ LO ・ クプラムク」 『まま、待ってくださいいー 空さま達にしか頼めないんですよお ! 』 「ああ、そりやそうだろうよ。そりやー俺らにしか頼めないだろうとも」 こ、つだ。 つまり。プラムの策略に要する人材は プラム自身にもわかっていない『女王を起こす条件』を特定出来る者。 たくら 特定した上でプラムの企み通りに女王を起こし海棲種の全権を得られる者。 セーレーン かっ失敗した時は海棲種に素直に『餌』として差し出すことが出来る者。 セーレーン イマニティ それは、海棲種が見下せる唯一の種族ーー序列最下位の人類種以外になく。 かっジプリールーーーひいてはアヴァント・ヘイムが味方にいる空達だけだ。 だが空達の周囲にはいづな、ひいては巫女ーー・東部連合がいるのが問題になる。 ワービースト 一獣人種の五感を相手に、嘘は一切通用しないーー故に。 「一度も嘘をつくことなく、全員を見事に騙し通し誘導しきるしかない たた 空が、心からの称賛に手を叩く。 しようさん えさ セーレーン
259 第四章ーーー再試行 なにより、一気に二つの種族を傘下に加え。 その上アヴァント・ヘイムまでもが傘下に降ろうとしている。 ワービースト セーレーンダンピール フリューゲル 獣人種に続いてーー海棲種と吸血種に、天翼種まで。 空は宣言通りに、三つの種族を一気に取り込んで見せた。 いや利益さえ与えて。 これで四つの種族を、コマも奪わず、損害さえ与えす の・つり・ よみがえ 無血で制圧した事実にステフの脳裏にある記憶が蘇る。 こうと・つむけい 空達が東部連合ーー巫女を降した日ーーあまりに荒唐無稽すぎた思考。 一度は頭から追い出したそれが、現実味を帯びはじめたという実感に。 「 : ・ : ・『十の盟約』その十、みんななかよくプレイしましよう : : : 」 ステフの口元がほころぶーーー本当に出来るのだろうか とど イクシード かって、星を原形も留めぬまで破壊し尽くし争った【十六種族】を。 誰も殺さず死なせす東ねーー・唯一神に挑むことが、本当に そういえば」 イマニティ ステフは空達が東部連合大使館で『人類種のコマ』を賭けた日を思い出す。 イクシード そろ 【十六種族】に一つずつ与えられ、揃えれば唯一神への挑戦権となる『種のコマ』。 かなた ふと、ステフは地平線の彼方に視線を向けた。 夜の闇にあってなお、月の光を遮るようにそびえる巨大なチェスのコマ。