さまよ 三匹の獣人種が気配を殺し、餌を探して森の中を彷徨っていた。 ワービースト たやす こんな世界、時代、如何に獣人種といえど食料の確保は容易くはない。そもそも生きて いるまともな動物が少ない。ましてリスクを冒さすク狩れる他種族は限られている。 と にお たど す 五感を研ぎ澄ませ、匂いを辿りーーようやく一匹の獲物を見つけた。 お 人間だ。あまり美味しくはない動物だが、腹の足しにはなる。 ゆだん れんけい ワービースト 心獣人種だけが聞こえる声で連携する。相手が人間であろうと油断はしない。 おそ いっせい 包囲して一斉に襲いかかりーーー牙を突き立て 章 第 ようとしたところで、一斉に跳ねるように後ろに飛び退った。 かま 味の悪さは保証するぜ ? 」 「さっすが獣人種。俺を食うなら構わねえが 「一つもコマを獲らす、ゲームに勝利する。故に全ての種族はーーー『白』た」 そう言ってーー『白いポーン』を取り出し ワービースト 「これが、ーー獣人種た」 ワービーストせいそく 白いポーンをーー『盤上』にーー獣人種の棲息地帯に置く。 びきワービースト ワービースト と えさ おか すさ
184 「ああ出てないさ。血の跡はないしーーさすが獣人種、勘は見事なものだ」 獣人種の五感なら、遠方から施設内の人数まで、文字通り人外の感覚で割り出せる。 けつかい そして適切な数の血壊個体で乗り込めよ、 ドワーフ 地精種はバカじゃない。全て消し飛ぶ爆弾の横でおいそれと魔法は使えない。 ワービースト そこに血壊の獣人種が複数出現したら ? 逃げる以外の選択肢が ? ワービースト ドワーフ そして獣人種もバカじゃない。逃げる地精種より優先すべきものは うわさずいばく 「ーー噂の『髄爆』は持ち去られたようだな大将。獣人種か、それとも地精種か」 ワービースト 「獣人種だ。鋼鉄の床や壁にク足跡をつけられる連中が他にいるか ? 無理矢理運び出したのだろう。 ワ 1 ビースト だがあの爆弾の危険性は『獣人種の勘』が一番分かっているはずだ。 ゆえやっ 故に奴らが出来ることはーー爆弾の破棄、そしてーーー逃亡だ。 「だから言ってる。これは、『ゲーム』だ」 そろ 条件が揃えば、特定の種族は特定の種族に対しまるで無力。だからこそ戦は続いている。 ドワーフ 「だが地精種はここを放置しない。制限時間十五分。情報を集め消える。『幽霊』は アッシェント 「何処にも存在しない 『同意に誓って』 幽霊達が一斉に散開、情報をかき集める中、シュヴィが問う。 : これ、が : : : コマを・ : : ・ク成らせるク : こと ? 」 「そこまでのことはしてない。まだな ただ」 ワービースト ゆか ワービーストかん ふん ワービースト れんちゅうほか ドワーフ
・ : さて、話は少し戻るが ゆいいっしん じゅうめいやく 前記の通り、唯一神が制定した『十の盟約』で、全てがゲームで決するようになった。 そんな唯一神、テトが。普段何をしているか : : : 興味あるだろう ? ほば全知全能の神、唯一神の私生活ーー今回は特別に、それをお教えしよう。 おさなワービースト さしあたり今は、エルキアの裏路地で、幼い獣人種の少女に木の枝でつつかれて、 「 : : : な、なあなあ、死んでやがるのか、です ? 」 唯一神は行き倒れていた。 イマニティ 「 : : : そ、そういえば : : : 人類種って : ・・ : ご飯食べなきや、死ぬんだっけ : づな 「獣人種も死ぬぞ、です。おまえアホなのか、です ? ひとみ ばと・つ いっそう つぶらな瞳の直球な罵倒に、テトは一層深く、顔を地に突っ伏した。 ワービースト はっせ フェネックのような耳の黒い髪の、獣人種の少女ーー初瀬いづな。 とうふれんごう ふたり そっきんひとり 元東部連合・在エルキア大使、現エルキア王二人のゲーム友達ーーもとい側近の一人。 そんないづなに、木の枝でつつかれながらテトは思う。 イマニティ さすがにク人類種になったのは初めてとはいえーー失策だったと。 さて、唯一神がこんなところで一体何をしているのか だお いったい
0- 2 ・彡ちょいと遠出するからみって、食いもん買い込んでこい言われた、です つぶや そう呟くいづなに、テトはいづなの後ろに聳える巨大な革袋を見上げ、 : えっと、みんなの分の買い出し、ってこと ? ひとり いづな一人のぶん、です。みんな、じぶんのぶん勝手に買いに行った、です」 ワービースト さすが獣人種、その身体能力を支える相応のカロリーらしい 「ちょっとだけくれてやる、です。おやっ三百えん以内、であんま買えなかった、です , テトが見るにそれは金貨三百枚を使ったと思えたが、それは指摘しない。 ほどこ いたた せつかくの女神様の施しをありがたく頂きながら、しかし 「でも僕お礼出来るものがないなあ : : : あ、そうだーーーゲームでもしよっか ? なまざかな 生魚にかぶりつき提案したテトに、びよこっといづなの耳が反応する。 ワービースト ゲームでもしよっかーーーそう言ったテトの顔に、獣人種としての勘が働いたのだ。 「 : : : おめー、つえーな、です ? しまん 「んふふ 5 自慢だけど僕、生まれてこのかたーーー一度しか負けたことない ) 」 「しょーぶ、しょーぶ、ですツ」 「なんで、ーーなんで勝てねえんですううッ ! 」 はいゼロしよう いづな、ク九敗〇勝ク 一時間。カードゲームを繰り返して ふたり 「あはは 5 ) あの二人に勝てないんじゃ、僕に勝つのは無理無理だよ ? ☆」 めがみ そび かん 0
185 第三章ーー - 無亡 ワービースト 獣人種をポ 1 ンとした理由ーーーそれは。 敵陣深くまで行けば、クイーンにすら成るからだ。 と、リクは苦笑する。 「ポーンでも、ビショップは獲れる : : : それだけのことだ」 ばんしよう 再度、『幽霊』達が囲む円卓で幽霊の長は、『盤上』に手を広ける。 そして、ーー『白いルーク』を取り出し 「これがー・ーー森精種だ」 そう言って白いルークをーー『盤上』に置く。 しゆと 森精種のーー首都の座標に。 ) ッっ力い やしき 森精種の首都ーーその郊外の屋敷で。 工 エルフ 工
引 4 そらあらた さて、と空は改めて皆の顔を見回す。 「じゃあ全員荷物を持ったな ? 白 ? 」 「・ : : ・おつけ 1 「ジプリール は、荷物が見当たらないんだが : ふところ たいじよ・つぶ 「大丈夫でございます。空間を圧縮して懐に入れてございます学」 「なにその四次元ポケット : ・ : ・え 1 と、いづなは ? 「ん、問題ねえ、です」 「こっちはこっちで荷物デカすぎだし : : : ステフ ? 」 「ええ、ええ、ちゃんと持ってますわよ。おっきい荷物を : : : 」 て、おいプラムは何処だ ! 」 「秘密兵器だから大事に扱えよ ? ふほん : 不本意ながらいますう : : : 陽が沈んだら出ますう」 「は、よ、い そろ 「よっし、みんな揃ってるな」 ふたり クあの二人クは待たないんですの ? 」 「あれ ? ソラ 「現地集合ーー、まあ最悪、途中参加でいいだろ。っ 1 わけで : : : 」 自分にだけ話したのには、何か理由があったはすだろう、と。 ワービースト : いづなの勘が、そう告げていた。 獣人種としての かん
305 工ンディングトーク ・エンディングト 1 ク ひ いつの間にか陽が傾き、エルキアの裏路地に朱い光が射していた。 ( いづなは開口一番、 何処か、遠い目で語り終えたテトこ、 うそ 「 : : : その話、どこまで嘘で、どこまでマジ、です ? 半眼で、嘘があるとク断定クした。 なみた 嘘の内容次第じゃ承知しねえ、と涙を浮かべて睨むいづなに、テトは笑う。 「あれえ ? どうして嘘があると思、つのかなあ ? 」 そらしろ 「りくと、しび : : : 空と白に、ちょっとだけ似てやがる、です。馬鹿にすんな、です」 ワービースト はなすす ずすっと洟を啜り、獣人種の超感覚を使わなくても、その程度は分かるのだと。 め クからかわれてるのもわかってると主張するいづなの眼に、 きやくしよく するど 「あっはは☆さっすが鋭いね 1 うんうんっ ) 多少脚色してるよ当然。だってーーー」 そうして、陽が暮れるまで語り、ゲームを続ける間。 こども たった一度もいづなに勝たせなかったテトは、子供のような顔で
オールドデウス ( しなにせ神霊種の全権代理者でございましたらーーー」 ザッ、と音を立てて一同が立ち止まり。 「別に神霊種に決めさせてやる必要なんてねえ、そうだろ ? 」 め 眼をすばめてーー空が眼前の人物にただ確認するように、言い放つ。 「ーー・ク何かクの巫女さん ? 」 とうぶれんごうしゆとかんながり 東部連合首都・巫鴈ーー巫社中央棟の庭園。 らんかんすわ つくよ 月詠みの光が照らす庭池にかかる朱い橋、その欄干に座りカランと鈴音を鳴らして。 ーー東部連合、獣人種全権代理者。 ゅ 『巫女』は、妖艶に笑った。 金色の二つ尾を揺らして ク ン かなた いただき イ デ 地平線の彼方。黒いキングの頂に戻り、テトは地上を眺めて語る。 もてあそ だれ = 誰に聞かせるでもなく、ただトランプの札を弄び、虚空に言葉を投げかける。 「世界なんてさ、本当は単純なものなんだよ : : : 彼が感じた通りに」 ワービースト みやしろ ようえん
ーー・全ての諍い、争いがゲームで決する世界。 なるほど如何にも単純に聞こ、んるだろ、つ。 だが急速すぎる改革、他種族複数の国を、ゲームで飲み込み、強制的に併合する。 つくろ それは、どう言い繕ったところで 『侵略政策』以外のなにものでもない。 れんぼう うそぶ それを連邦として共和的に併合すると嘯くーーあまりに虫のいい話であろう。 おちい どろめま 本来ならば、国政は混迷を極め、国家・種族間で泥沼の政争に陥るところだ。 本来ならば、そうなって然るべきなのだ。 そらしろ きようだいおこな それが『王達』 : : : 空と白という兄妹が行ったことでなければ。 対国家ゲームーー国盗りギャンプルで勝利し、飲み込み、その上で 誰にも一切不利益を与えず、完全な無血侵略によるものでなければ。 ワービースト 人通り激しい通りには、僅かながら獣人種も散見された。 むけい イクシード クそれが【十六種族】の種の壁を越えたク多種族連邦ク構築という荒唐無稽な構想。 あかし だが少しずつ、僅かながらも、前進を続けているという、その証だった。 グ エルキア ン 世界が変わりつつある。ここ、この都市を中心に。 プ その確かな予感に、不安を覚える者もいることだろう。 むね かがや オ だが、同時にーーー胸高鳴る人々は、その目を輝かせる。 ク世界変革の時 いさか その目撃者として。 きわ
「精霊は使ってないんだろうな ? 」 ぼうえんきょ・つ 「うん、安心して。これはリクが造ってた望遠鏡の超改良版ってとこ。要するに円盤ガラ スを複雑多重に組み合わせてるの。レンズ比の調整に手間がかかったわよお ? 」 ためふたり 「ーーそうか。こいつの為に二人も死んだんだ。有効活用しなきゃな」 これを回収したとき、コロンもその場にいた。 ちょうちょうきよりぼうえんきょ・つ 超長距離望遠鏡だと見抜いたコロンが持ち帰ることを提案し、リクも承諾した。 の ぎせい きろそうぐう ワービースト そしてーー帰路で遭遇した獣人種から逃げ延びるのに、二人もの犠牲を出したのだ。 だか、とサイモンが明るく声を上げる。 「こいつがありや、偵察を出す必要性は減るーーーあいつらも浮かばれるさあな ! 」 「ーーーああ、そうだな」 うそ 嘘だ。 っ コロンがこの望遠鏡を再生するのにどれだけ力を尽くしたかは知っている。 きやす だがーー気休めだ。どう廩重に立ち回ろうと、奴らが探す気になればすぐに見つかる。 じゅうぶん いや、今この瞬間に、単なる流れ弾で岩山ごと消し飛ぶ可能性だって十分ありえる。 ・つ ク育ち故郷が、共にそうなったように。 かって、自分のク生まれ故郷と ようす だがそんなリクの思考を重々承知という様子で、コロンが明るく言った。 「攻撃を察知するのも楽になるわ。危険が事前に分かれば、逃げるのも間に合うでしょ ) 使い道はおいおい考えなくっちゃね ! ささ、行きましょ ! 」 やっ えんばん