引第一章 - ー - 無望 おそらくオ 1 ガかトロールの類ーーーなら、自分達のカで戦えるか ? ( ーーー不可能だ。わかりきってる ) そ、 ? ーーできるはずがない。 デモニア たとえ相手がどれだけ下位の妖魔種でもーーー人間はその一撫でで肉塊に変わる。 やっ 奴らが警戒や潜伏といった獣の本能的行動をしないのは、その必要がないからだ。 ちせつ おのれきようしゃ 己が強者で、己のカで全てを解決できると、その稚拙な知性で理解しているからだ。 デモニア いや入念に準備しても、人間に殺せる妖魔種などいない 手持ちの武器では : ( それに、意味もない ) びきデモニアとうばっ わな 知恵と戦略と罠を駆使して一匹の妖魔種を討伐したとしてーー何の意味がある ? デモニア それを知能の高い『上位』の妖魔種に気取られ、人間を『脅威』と認識されれば ? 人間は、抵抗の余地無く、根絶される。 故にここで取れる行動はたった一つしかない 逃げるーーそれ以外の選択など検討にも値しない ク俺達は存在しない、存在してはならない、故に感知されないッ ゆる 人間は抵抗を許されていない、狩られる『獲物』でいなければならない。 故にーー・・イワンには予想できた。 ゆっくりと振り返り、こちらを見やったリクがーー・次に何を口にするか 「イワン、命令だ」 ゆえ ひとな
「・ : : ・無、理 : : : これ : : : シュヴィの、動力源・ : : ・一言、つの、一一度、目 : : : 」 ああわかってる、とリクは嘆息する。 ふんそ・つ 最初にシュヴィを人間に扮装させる際、精霊ーー偽装魔法装置を使えば簡単と言われた。 だが集落内から精霊反応がしては問題なのだ。 そこで苦肉の策として、こうして無理矢理ごまかしているのだが : いわぎじせいれいかいろうせつぞくしんけい この尾ーーー本人日く疑似精霊回廊接続神経ーーーで、周囲から動力を得ているらしい。 言わば人間でいうところの食事であり、精霊の運用ではなく『摂取』だとか。 だから精霊反応はないのだが ど、つしても露出させなければならないとい、つ。 ぎみ リクは頭をかきむしって、ヤケクソ気味に言った。 も、つこうなったら『装飾』と言い張るぞ。もう一度言うが、人間じゃない かいせき とバレたら『心』の解析は不可能だからな ? そのつもりで全力で人間を演じろ」 どうくっ 覚悟を決めて洞窟に入り、狭いトンネルを通っていく。 そうして、門のところで門番の少年が 「あ、 ひとさゆび たま と声を上げかけたのを慌てて人差し指を差し出し黙らせる。 「お、お疲れさまです : : : みなさん心配してます、よ , ひそひそと答えた門番の少年が、その隣にいるシュヴィに気づいて訝しげな顔になる。 あわ せま いぶか
この該当シチュエーション設定では、充足できない ? けんと - っ しゅんじゅん 融そのまるで見当外れな質問に 一瞬の逡巡。 返事せすに沈黙を保つか ? 一人間は亡霊。存在しないしてはならない感知されない だれきよかえ 章 ・ : 気に入る入らない以前だ。誰の許可得て俺の貞操奪ってくれてんですかね ? 第 これは明らかにク人間の言葉で話している。 少なくとも、人間という種族を認識されていることだけは確定だ。 「【推測】 ク能動的に行動しないッことだ。 攻撃されれば報復するが、敵対しない限りは攻撃してこない、 ドワーフ アンタッチャブル 故に、地精種の記録にはこう記されていた 『接触不可危種』と。 と 以上の知識が、リクのロを閉じさせた。 つまり、下手な発言で『敵』と認識されればーー人間は種族ごと根絶される。 いったい ( ーーんでク何が起きてるク こいつは一体、どういう状況なんだよッ ! ) ないしんさけ 知り得る情報と複数矛盾する状況に、リクは内心で叫んだ。 能動的に行動しない。それなら無視してやり過ごそうーーとしてこのザマだ。 全ての情報を整理してなお、状況把握できずに動けないでいるリクから また すっ、と重ねていた肌を離し、リクに跨がった少女型の機械が続けた。 な たも
っ 4 えんえん そんなことを延々と積み重ねて、四十八人。 ぎせいすえ の じゃく そしてその犠牲の末に生き延びた、今の集落の人口がーーー二千人弱。 さあリク、答えてみろ。これをどこまで続ける。 ため いすれ来るだろう ク一〇〇一人の為に九九九人を殺す日までか ? ひとり それとも ク最期の一人クになるまでか ? キ、↓よキキ十↓よ↓よ十 6 こんな体たらくで、父を亡くした少女に『人間の勝利』と吐いたか、このロはツー なっとく これを仕方のないことと、必要な犠牲と、そう皆を騙して納得させて引きすり回しー うそ かぎ そして自分自身さえ、そんな嘘にすがって、心に鍵をかけ割り切ろうとする。 のどや 吐き気がする。己に対する狂おしいほどの憎悪が、喉を灼いた。 恥を知らないのか。それとも忘れ去ったのか。 何処まで落ちぶれれば気が済むんだ ッテメ工はツツ : はあツ、はあ : : : 」 : 気付けば、テープルが割れていた。 こぶしするど ふかぶか 砕けた木材を殴っていた拳には鋭い木片が深々と突き刺さり、血が溢れだしている。 頭に上っていた血が一気に冷え込んでいった。 、い」 4 問い、かけら。 冷静になった思考が おのれ あふ
敬意軽蔑多種多様な言葉と視線を受けながら、リクは集落を歩いて自室に向かう。 そして、小さく聞こえないように、隣を歩くシュヴィに零す。 かんべん 「つかおまえさ、ホント勘弁してくれ : : : 」 が ? 」 こくびかし ようす 何が悪かったのか理解していない様子で、シュヴィが小首を傾げる。 「そもそもさ、俺の『心』を知りたかったんだよな。つまり一種の誘惑だろ ? 」 出会った時の『おにいちゃん』の流れを思い出す。 「もう少し成長した姿になれなかったのか そ、つすりやこ、つならなかったろうとい、つリクの不満に、だがシュヴィはきよとんと、 「 : : : 人間の男性 : : : リクの好みに : : : あわせた : : : 姿」 「おまえまで俺をロリコン言、つな。俺はもっと、グラマラスな うそ 「嘘」 即断即答して、シュヴィが続ける。 : 理由、ない 「 : : : なら、あのコロンという人間と、生殖行為しない : はて。ーー・・とリクは田 5 、つ 自分は今、機械的判定により口リコン呼ばわりされたことと。 その証拠として挙げられたコロンのことと、どちらにキレればいいのかと。 「 : : : そも、人間男性は、皆、若い少女を : : : 好む」
174 『なんのつもりでリクに近づいたの ? 』ーーと。 だからこそ・ーーあの不思議な緊張感だったのだ。 「 : : : わかってたなら、なんで、何も言わなかったんだ」 人間じゃないと初対面で気付いたなら、ロリコンだと騒いだ意味がわからない。 集落に他の種族を連れ込んだんだぞーー警戒なり、警告なりするべきでは そう呆れるリクに、だがコロンはさらりとーー本物の姉のような笑顔で言、つ。 「だって、リクが選んだ子でしょ ? リク、シュヴィちゃんを最初に連れてきた時、今にも 「最初は事情があったんでしょ ? 切れちゃいそうなくらい、張り詰めてーーだから私も、合わせてあげたんだけど : : : 」 なるほど。 こちらの事情を読んだ上で、過剰に気付かぬふりをするならーーーそれしかない。 しかもそれは リクを信じたとい、つことに他ならず かわい 「でもまあすぐ打ち解けたみたいだしにこ ~ ビんな可愛い妹が出来るのよもー別に かぞく 人間かどうかなんて関係ないでしょ凵あのねシュヴィちゃん人間には結婚したら家族と チューするってしきたりが太古の昔からーー」 「ねえよツー シュヴィも真に受けんな離れろッ ! 」 あき
37 第一章ーー無望 だれ さあーーー誰に、何処に、何を恥じるロ せま 腐臭がした。人間にはど、つしよ、つもない死が、迫ってくるのがわかった。 なあリクツー こんな時代、いっか終わるよな 「はつはあツー 返事はなかった。別に答えを求めてもいなかった。 『いっか』の話など、そもそもイワンには馴染みがなさすぎた。 希望を抱くには、この世界は残酷すぎる。 絶望に沈むには、この世界は過酷すぎる。 過去も未来も、今の人間には関係のない、手の届かない物だ。 ゆる ただ今、この瞬間を、必死に紡いでいくことしかできない、許されない。 びよう たとえ一秒後にはどこかの誰かの気まぐれでゴミのように消し飛ぶとしても。 こんなふうに、ひたすらに、走り続けるしかできない。 「あーーーああああああアアあああーーーツ ! 」 ます ただひたすらに、真っ直ぐ。 自分はここにいると、叫び声を上げながら。 道半ばで倒れたのなら、他の誰かにその荷を託して。 「ああああああああああああアアアアあああああああああああああアアアあああツツ凵」 人間には、そんなことしか
『心』という独自言語」 「【肯定】 ェクスマキナ ひふ 『心』を交わす 「【確認】腮を重ねるーー皮膚組織接触を用いた独自言語。機凱種にない、 ぶんせき 行為と推定。同行動を模倣し、当機にも『心』を読み取れると分析した : : : 錯誤 ? まったく。 悪い予想とはつくづく外れないものだ、とリクは声に出さすに苦笑した。 すき 組み伏せられた時点で、隙を見て自害する算段さえ立てていたのだが 人の言葉を使い、人の性行を的外れとはいえ推測し、生体反応まで把握している。 おのれこつけい 融それが示す事実に、言葉を返すか否かと憂慮した己の滑稽さをリクは自嘲した。 つつぬ 一人間の全てが筒抜けーー人間は認識されているどころか。 章 第 俺達は観察されていた。おそらく、長期に亘って。 か 「【解答】人間が交わす独自言語を解析したいー 「 : : : 独自言語 ? 」 けんと・つ どうか見当違いの予想であってくれと願いながら。 リクは繰り返した ェクスマキナ だが機凱種の少女は機械的に頷き、機械的に告げた。 うなず かいせき な っ じちょ - っ
127 第二章ーー無謀 : リク、森精語、読める : : : の ? ハラバラとそれらに目を通していくリクに、シュヴィが訊ねた。 ようせい どの言葉で返事して欲しい ? 」 「地精語、森精語、妖精語、妖魔語、獣人語 事も無げに答えるリクに、シュヴィが目を丸くする。 「 : : : ど、つして、そんな、に : 「生き残れないからだ。苦労して手にした情報も読めなきや価値がない」 どこか怒りとも憎しみとも違う、険しい表情でリクが続けた。 シュヴィは、リクのその顔ー・ー眼を知っていた。 それはリクがシュヴィに、チェスで本気で勝とうとしている時の眼だ。 くちづて 「ーー人間だって、ただ永遠に滅ばされ続けて来たわけじゃねえってことだ。ロ伝や筆記、 思いつく限りの方法で、他種族の性質、言語、習慣までーーー連綿と今日まで伝えてる もろ の 何も映さない黒眼で、人間は弱く脆く逃げ延びるしかないと語るーーその眼の奥。 まさしくそれこそが、シュヴィが知りたいもの、相反するもの。 人間をナメるなーーーそう語る、『心』なのだから。 : : : リクリク : 」 と、周囲を文字通り『探知』していたらしいシュヴィの声に、リクは顔を上げーー・ ほろ
164 べフェール かいせき ツアイへン びよう また『指揮体』へ解析情報転送『設計体』に新造させる〇・四秒の推定被害を算出。 せんめつ 推定被害・戦力の九割損失。戦略上ク殲滅クに等しくそれはを意味した。 プリューファ ファークライ だが一機の『解析体』は『崩哮』を防御ではなく ク逸らすクことを提案。 ェクスマキナゅう わいきよく 機凱種が有するクエネルギー指向を歪曲させるク兵装、・ 2807 とど 当該装を複数典開すれば、損害は追加一一割に留まるという試算が出た。 べフェール ファークライ 提案は『指揮体』に即採決され、『崩哮』は指向歪曲し戦場の彼方へ逸れて ェクスマキナ 力、ら 機凱種の損失は辛くもーーー《壊滅》に留まった。 おこな プリューファ ファークライ 提案を行った『解析体』は、逸らされた『崩哮』を、被害から要再解析と判断。 グラウンドゼロ けものす 爆心地遠方にありながら壊滅した人間という獣の巣と推定される廃墟に降りた。 そして タイル模様の板を握り締めーー・『解析体』に視線を向ける人間の仔を感知した。 人間の仔の視線には敵意があったが、その上でーーー背を向け、立ち去った。 ふかかい 『解析体』ーーー事象を解析考察する機体には、その行動が不可解だった。 だつりよく その人間の仔は極限状況にあり、だが混乱も脱力もなく『敵』を認識し。 その上で、生存を選択した。それは、獣の生存本能とは明らかに違った。 なぜ 何故なら『解析体』に向けた視線には恐怖も、虚無もなく、ただ果てしない ファークライ ほど 焉龍の『崩哮』さえも超える程の ク熱だけが感知された。 プリューファ プリューファ にぎ し プリューファ そ はいきょ アイン・ヴィーク 『通行規制』。