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検索対象: 二度めの夏、二度と会えない君
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1. 二度めの夏、二度と会えない君

とき訪問販売形式でチケットを売りさばいていたのである。 一七枚売るために百軒近く渡り歩いたというのだから恐れ入る。 俺も中学時代の同級生にチケットを売るため、プライドも魂も抱き合わせで売るくらいに 頑張ったものだが、やはり燐のパワーと執念には及ばない。 そ、つこうしているうちに、俺たちは「 <<n<ZDco 」に到着した。 俺と燐が演奏する、最初で最後のライブハウスだった。 ーサルが終わり、次の奏者のために早々とステージから撤収した直後。 スタッフの一人が俺と燐を呼び止めた。 きたこうせい 「一応確認なんだけど、お前らほんとに北高生じゃないよな ? 」 「あばばばば」 からだこわ 誤魔化すのがヘタクソ極まりない燐が身体を強ばらせておかしな声をあげた。 燐を後ろに隠し、俺がスタッフの前に出る。 「違いますけど 「ならいいんだが : あそこの教頭がうるさくてな。客に北高生がいるってわかっただけで、 警察なんかも巻き込んで抗議入れてくんだよ」

2. 二度めの夏、二度と会えない君

ライブハウスへ見回りに来ていた生活指導の先生に俺たちの正体がバレたのは確か 俺は不自然に見えないよう、激しくなる演奏に身を任せるまま、ステージ上のケープルに引 つかかったふりをして盛大にすっ転んだ。 転んだ際、お面をわざと手でずらす。 そのまま起き上がり、燐が「あっ ! 」とずれた俺のお面に気づいて声をあげたのを確認して から、慌てたそぶりでお面を付け直した。 それからギターを構え直し、しばらく演奏を続けた頃。 「ふえなになに卩」 わき ステージ脇から血相を変えて飛んできたスタッフに呼ばれ、俺と燐は演奏を中断して脇に引 ち 気っ込むことになった。 こうして、俺と燐の初ライプはあっけなく幕を閉じたのである。 て 伝 章 第 「二度とこのようなことがないよう、再発防止に努めてください」 ライブハウス「」の事務所はビルの一階に入っていた。 俺と燐は事務所の椅子に座らされ、同じ色のシャツを着た数人のスタッフに厳しい態度で話 あわ ころ

3. 二度めの夏、二度と会えない君

250 りんろくろ、つ 横には半べそのヒミコもいて、燐と六郎もじーっと無言のプレッシャーを与えている。 なんだかんだでヒミコ以外も、会長に客席にいてほしいのかもしれなかった。 「 : : : わかったわよ。ただしあなたたちの演奏で盛り上がらなかったら、すぐスタッフと合 流して対応策を練りに客席を抜けるから」 そして会長はスタッフにその旨を伝えるためだろう、防音扉に手をかけ、 ふぬ 「腑抜けた演奏をしたら許さないわよ」 りんにら 俺と燐を睨み付け、小走りでスタジオを出て行った。 「 : : : さて、も、つ逃げられないな」 わき 舞台の脇から会場を見渡す。 不運なことにまだ日が暮れきっておらず、何百人といるお客さんの表情が見えてしまう。 が次のバンド数組の到着が遅れていることと、飛び込みで参加する俺たちの紹介を行っ だれ ているのだが、 それに対する「誰だそのバンド ? 」という反応が丸わかりだ。 何百もの視線、初めて聴くバンドを品定めしようという少なからず冷たい空気、それは群衆 すさ そで が内包するエネルギーと相まって、凄まじいプレッシャーとなって舞台袖に降り注いでいた。 : ・あ、会長さん :

4. 二度めの夏、二度と会えない君

教頭がスタッフから受け取った用紙を見て告げる。 あんたらが俺たちの正体に気づいてすぐスタッフに抗議入れたからだろうが、とは一一一一口えない 雰囲気だった。 「被害総額はおよそ八万円ですか。お二人の保護者に連絡して賠償してもらいます」 「いや、それはあの、勘弁してもらえるとーー , 一 「高校生一一人に負担できる額ではないでしよう」 わかってはいたことだが、 俺の嘆願にも教頭は聞く耳を持たない。 保護者にも連絡することで俺たちの動きを一一重に封じる腹づもりだ。 「夏休みにバイトして返します」 「あなたは高校三年生の夏休みをなんだと思っているのですか」 ち 気教頭がびしやりと断じた。 「受験に向けて、最も勉強に力を入れるべき時期です。あなたたちがどういう進路を希望して いるかは把握していませんが、どういう道を辿るにしろ、最低限の学歴をもっておくことは保 え険になります。音楽など、あとでいくらでもやれるでしよう。幸い、今回犯した失敗は金銭で 章一応の責任が取れるものです。いまは保護者に負担してもらい、将来のために、学生らしく勉 第学に励みなさい」 反論できないでいる俺たちの前で、俺たちの保護者に連絡を取るよう教頭が担任に指示を出

5. 二度めの夏、二度と会えない君

「やるしかないよ」 燐の迷いない一一一一口葉に会長は険しい顔をしたままだし、ヒミコにいたっては既に失神しそうな くらい緊張で震えている。 俺だって、当時は緊張と興奮で頭がどうにかなりそ、つだったし、いまも少なからず不安では ある。俺のせいで練習は少なからず停滞していたから。 だが燐はまるで臆していないように、 「こんな機会、きっともう一一度とない 震えるヒミコの手を取った。 勝ち気に笑い、不敵に俺たちを見まわす。 一周目では気づかなかったが、その手はかすかに震えているように見えた。 「あたしたちでこのライプを救おう。このメンバーなら、それができる ! 」 「・ : ・ : 仕方ねえな」 俺は過去にそうしたよりも一回りカ強く、会長や運営スタッフへ宣言した。 「 primember 、飛び入り参加の準備、お願いします」 本番までおよそ一一時間

6. 二度めの夏、二度と会えない君

708 す。 そのときだ。 「先生さあ、なんか前よりずっとお堅くなってない ? 事務所のドアを押し開いて、けだるげな声が投げかけられる。 「だから早く結婚しときなって言ったのに」 事務所内の気まずい空気なんて一切読まずにいつもの調子で軽口を叩いたのは、眠そ、つな顔 をした店長だった。 「あなた : : : っ しわ 教頭の眉間にさらに深い皺が刻まれる。 一一度と消えなさそ、つなくらい深い皺だ 「ちょっと優さん ! 」 スタッフの一人が店長に詰め寄った。 きたこ、っせい 「あんたが大丈夫っていうから出したのに、北高生じゃないですか ! 」 「ごめんごめん。で、チケット何枚飛んだ ? こんくらいあれば足りる ? 」 ゆきち 店長がだほだほのポケットから取りだしたのは、しわくちゃの諭吉一〇枚だった。 「え、いや、八万で十分っすけど : : : 」 「じゃあ、残りは迷惑料ってことで。あと、サービスで機材のお手入れとかどうよ ?

7. 二度めの夏、二度と会えない君

苦々しげに顔が歪む。 のが 「ありゃあ絶対に婚期逃してるパターンだな。わはは」 教頭に対する下世話な評価を下してから、スタッフは次のリハのために持ち場へ戻っていっ あわ 燐が後ろからびよこんと顔を出し、慌てた様子で、 さとし 「当日は顔を隠そう。あたしはサングラス、智君はお面ね。ちょうどバンド名もそんな感じ にしといたし」 燐が一小したバンド名は「 Z<Z<<uE*ZOQ50Zgac-12 」というセンスの欠片もないものだ った。 「 : : : なんでこんなやつが勉強できるんだろうな」 ち 気「ち、違うよ ! あたしのネーミングセンスはまだこんなもんじゃないって ! 四人揃ったと き用に、本気のやつはとってあるの ! これは ( 仮 ) なの ! 」 その四人揃ったときのやつもダサいと不評だったのは一一一一口うまでもないことだった。 て え 伝 一翌日。 店長のところで何度か練習してから、徒歩でライブハウスへと向かった。 , 」 0

8. 二度めの夏、二度と会えない君

「 : : : 私は私で屋台の手伝いなんかがあるし、一人だけ仕事を抜けるようなことはできないわ」 まじめ しかし会長も真面目な堅物であり、珍しく自分の希望を口にしたヒミコを前にしてなかなか 首を縦に振らない 「会長。本命バンドの人たちは到着しそうか ? 俺は会長に訪ねた。 会長には紹介文作成と同時に、ほかのスタッフさんたちと本命バンドがどうにか時間内にた どり着く方法がないか探し回ってもらっていた。 しかしそんな都合のいい手段は見つからなかったらしい。 それどころかむしろ、 「 : : : 本番までに到着するどころか、あなたたちに演奏してもらう時間が延びそうなくらいよ」 「なら余計に、ライプが成功する確率は高めといてもらわないとな」 「でもーー」 会長はなお抵抗する。 宿「いいか会長。お前はまだ俺たちの本物の演奏を聴いてない 「なによそれ。四人揃った演奏はあれから何度も聞いたわ」 章 第「いいや、聴いてない」 俺に断言されて会長が押し黙った。

9. 二度めの夏、二度と会えない君

翌日。 「お前ら、バイトとか興味ないかー ? 」 ヒミコの家で地獄の勉強会を行っていた俺たち五人を訪ねてきた店長が、眠そうな目を擦り ながら一枚の案内用紙をひらひらとさせた。 「泊まり込みのバイトなんだけど、いい時給だぞ 1 」 店長が持ってきたのは、隣県で行われる野外ロック・フェスティバル、いわゆる夏フェスで のスタッフ募集のチラシだった。 海水浴場とキャンプ場の隣接しあうレジャ 1 施設で行われるフェスで、設営や観客の誘導、 屋台の手伝いなど、イベントに必要なあらゆる雑用が求められていた。 ここでもまた、過去が変わっていた。 店長がこのバイトを勧めてくるのはもう少し先のはずだ。 「夏フェス卩」 宿燐が飛びつくが、それを抑えて会長が冷静に応対する。 合 「申し訳ありませんが、店長さん。練習もありますので」 章 第 一一一一〔外に、勉強もあるのだからバイトなんてしてられないというニュアンスが込められている。 「えー。でも、だったらお前ら、どうやって借金返すつもり ? 」

10. 二度めの夏、二度と会えない君

「 : : : 優さんに任せるとぶつ壊れるんで遠慮します」 「なんだよ。どいつもこいつも、あたしのこと不器用扱いしてさー」 店長が流れるように煙草をくわえ火をつけようとしたとき、教頭がそれを咎めるように声を 尖らせた。 「あなたがこの二人をそそのかしたのですか ? 」 「人聞き悪いなあ。あたしはちょっと協力しただけですよ」 教頭の圧力をへらへらと受け流し、店長は事務所のドアを指さした。 「ほら、お前らはもう帰っていいよ。この人、あたしが学生だったときの担任だから。あたし が話つけとく ち「なにを勝手に すさ 妻まじい剣幕の教頭などどこ吹く風で、店長はマイベースを貫いていた。 本当に帰っていいものか戸惑、つ俺と燐に、店長がも、つ一押し。 「まあ、今日のライプ勧めたのあたしだし、後始末くらいはね。あ、でも八万は返せよ。ほら、 えとっとと帰らないと利子がトイチになるぞ」 伝 「「ありがとうございました ! あと、迷惑かけてすみませんでした ! 」」 章 あいさっ 第店長とスタッフ両方に挨拶してから、俺と燐は事務所を飛びだした。 店を出てから、スマホで時間を確認する。