一一度めの夏、 一一度と会えない君 赤城大空 ガあ 11 - 8 イラスト : ぷーた 赤城大空の著作リスト 下ネタという概念が存在しない退屈な世界 下ネタという概念が存在しない退屈な世界 2 下ネタという概念が存在しない退屈な世界 3 下ネタという概念が存在しない退屈な世界 4 下ネタという概念が存在しない退屈な世界 5 下ネタという概念が存在しない退屈な世界 6 下ネタという概念が存在しない退屈な世界 7 ニ度めの夏、ニ度と会えない君 赤城大空 ( あかぎ・ひろたか ) 親戚から放たれる「どんな本書いてるの ? 」にお茶を濁す 日々から解放された系ライトノヘル作家。 Twitter やって ます。 @akagihirotaka ISBN978 ー 4 ー 09 ー 451532 ー 9 C0193 \ 611E 9 7 8 4 0 9 4 5 1 5 5 2 9 ぷーた カバーイラストの制作中に人生初のぎつくり腰になり、 あまりの激痛に本気で泣きじゃくりました。皆様もお気 を付けくたさい。 定価本体 611 円十税 小学館 ニ度めの夏、ニ度と会えない君 もりやまりん 突如転校してきた森山燐は不治の病を患っていた。俺は彼女と共に、ライプを 演り、最高の時間を共に過ごし・・・・・・そして、燐は死んた。俺に残されたのは、取 り返しのつかない、たったひとつの後悔ー決して伝えてはいけなかった言 葉。俺があんなことを言いさえしなければ、きっと、燐は最後まて笑顔でいられ ニ度めの夏。タイムリープ。俺はもう一度燐と出会う。あの たのに・ 眩しい笑顔に再び。ひと夏がくれた、この奇跡のなかで、俺は自分に嘘をつこ う。彼女の短い一生が、すっと笑顔てありますように・ 下ネタという概念が存在しない退屈な世界 7 イラスト : 霜月えいと 1 小学館ガガガ文庫 トネタ ~ い・ 1 在しない退な世 E イラスト : ぷーた
二〇一四年七月一二日 もりやまりん 森山燐という少女は、とにかく阿呆の一言に尽きる存在だった。 阿呆であり、音楽バカでもあった。ただの音楽バカであれば無害だっただろう。ただの阿呆 だったなら俺と接点を持っことはなかっただろう。だが彼女は阿呆極まりない音楽バカであり、 俺を散々振りまわしてくれた。 きやしやかれん 外見こそ華奢で可憐な深窓の令嬢然とした彼女だったが、人は見た目で判断できない。燐は かわい 深窓の奥でひっそりと大人しくしているような可愛らしいお姫様ではなく、退屈しのぎに窓を ぶち破って飛び降りる、そんな人種だったのだ。 高校一一一年生の夏。 それは受験勉強以外の行為を許されす、食事や睡眠の時間さえ削られてしかるべきという恐 ろしい季節だ。彼女はそんな季節に俺のクラスに転校してきて、知り合いなど一人もいないそ の場所で、文化祭に向けてバンドを結成するなどと宣言したのだ。 きたこ、つ わざわざバンド活動禁止の北高に転校してきてそんなバカげた目標を掲げた理由はただ一つ。 そこが大好きなバンドの出身校だったから。それだけだ。 作詞も作曲もできず、なにか演奏できる楽器があるわけでもなければ強力なコネがあるわけ
わ 4 うなず 俺と燐の正面に座ったヒミコがおどおどしながら頷く。 「そしてあたしたちと一緒にバンドをしたいと ! 」 : え、えと、でも : : : わたし : : : 人前とか : : : 無理ですし・ : ・ : 」 身を乗り出す燐に法えながら、ヒミコがたどたどしくお断りを口にする。 だれ 俺が最後に目にしたヒミコは燐の葬式で誰よりも大きな声で泣くヒミコで、そのせいか彼女 の声は記憶にあるよりもずっとか細く聞こえた。 ざぶとん ためいきっ いまだに壁の隅で座布団を抱えたままの会長が大きく溜息を吐いた。 あき 「呆れたわ。あなたたちの同類じゃないの」 ぎろりと睨まれたヒミコは見るも無惨に硬直してしま、つ。 「これも仕事だから一応知らせておくけれど。あなた、出席がもうギリギリよ。今日はそれを 伝えに来たの。来週までに学校に来られなければ即留年決定。ダブった状態で登校する度胸は なさそうだから、そのまま自主退学が関の山ね」 下を向き、顔を髪の毛で隠したまま微動だにしないヒミコへ会長が追撃をかます。 「まあ、それもいいんじゃないかしら。おうちは随分とお金持ちみたいだし、お母さんも優し たた そう。ネット上でドラム ? を叩いてお小遣いも稼いでいるらしいじゃない。このまま好きな ことだけやって嫌なことを避けて、そんなあなたを甘やかしてくれる世界の中で満足してれ おび
いたのだが、 その実、六郎は平然とお冷やをすすっており、 「そんなもの、夏休みが始まる前に終わっているよ。 意味が分からなかった。 「毎年そうしている」 裏切者 「へ、変態 俺の抗議にも , ハ郎はやはりどこ吹く風で、 「各生徒の得意不得意を無視して一律の課題を強制するなど、学力向上を阻害しているとしか 思えないからね」 なま 「学校が課す課題はあなたのような怠け者に勉強する習慣をつけるために存在するのよ。浮い た時間のすべてを自分に合わせた学習時間ではなく創作活動にあてていたくせに、偉そ、つな顔 をするんじゃないの」 ひねつぶ 自信満々な六郎の持論を会長が捻り潰した。 「まあ、終わっているのならとりあえず文句はないわ。で ? あなたはどうなの ? ひざ 宿膝を見つめる俺の脳天に会長の視線が突き刺さっている気配がする。 合 「夏休みも半分終わろうとしているのに、まさかまったく手をつけていないなんてことはない 章 第わよね ? 燐との気まずい雰囲気に気をとられて、宿題のことなんてまったく失念していた。
燐が死んでから一一か月。 ち 持俺は部屋からろくに出ることもなく、ほとんど一日中べッドに横たわって過ごした。 ヘッドホン越しに同じ曲をリピートし、自分だけの世界 ずっとギターに触れることもなく、 に埋没し続けた。 て 学校になんて行く気は起きなかった。 え いやおう 伝 教室に入ると、否応なく燐の不在を突きつけられた。 章 以前よりも静かな教室。俺の後ろの席の空白。 第 燐がいたはすの空間に身を置くのは苦痛だった。 ていた。 それがなにに対する謝罪だったのか、それはもうわからない ただ、大好きだった女の子にこんな別れの言葉を書かせてしまったのは自分だということだ け、痛いほどによくわかった。 「ごめんなさい」と書かれたその紙を目にするのが苦痛で、だが捨てることもできず、上着の ポケットにすぐ押し込んだ。 そうして俺は、この世には伝えてはいけない気持ちがあるのだと思い知ったのだった。
そのとき、ふと背後に人の気配を感じた。 つい反射的に振り向いてしまう。 しのはら 「よ、よーっ、篠原。お疲れー」 はなぞの 「花園 ? そこにいたのはクラスメイトの女子だった。 クラスメイトとはいってもそこまで親しいわけではなく、クラスメイト以上友達未満といっ たところだ。クラス展示の手伝いで何度か絡んだが、最近ではそのくらいしか接点が思い出せ ない存在だった。 下は制服のスカート、 上は緑のクラス e シャッと、文化祭においてはごく平均的な服装だ。 いつもはクラスの中心近くで屈託なく笑っていることの多い整った顔が、人工灯に照らされ て少し陰っていた。 嫌な予感がした。 別に俺の勘が鋭いとかそういう話ではない。 ただ単純に、ここで花園に呼び止められるなんて過去は俺の記意になかったからだ。 「ちょっとさ、今、いい ? : 悪い。急いでるから」 花園を振り切って店長を捜そうとするのだが、
燐はぐいと涙を拭いた。 「決まってるよ ! 」 そうだ、決まってる。 どうせ公演時間も、アンコール前提で会長が設定してんだ。 『それじゃあ、アンコールに応えて ! あたしたちがライプを目指すきっかけになったバンド、 Animato animato メドレーいくよ ! 』 マイクを通して燐が叫ぶ。 会場が爆発するように盛り上がる。 そうして俺たちは一滴残らずすべての力を使い果たすまで演奏しつづけた。 いつまでもいつまでも終わらなければゝ、 ししのにと、一度めの文化祭ライプと同じことを俺は 田 5 っていた。 けれどどれだけ祈ったところで、終わらないものなんて存在しない。 お別れの時間は、もうすぐそこに迫っていた。 りん
「もう放っておいてくれ」 なお食い下がる燐に、六郎は背を向ける。 、ノーになるつもりはーーー」 「そんなに気遣ってくれても、僕はバンドのメノヾ そのときだった。 燐が身長差も無視して六郎の肩を掴み、無理矢理こちらを向かせた。 驚く六郎に、燐が叫ぶ。 「それはいま、関係ないでしょ ! 」 燐は怒っていた。 六郎を叱り飛ばしていた。 「入賞できなくたって、あの作品は、ずっと残るかもしれないものだよ ! もし君が明日死ん でも、君の代わりに、ずっとずっと残っていくかもしれないものなんだよ卩」 俺の脳裏に、音楽プレーヤーから響く燐の歌声が呼び起こされる。 ずっとずっと、残るもの。 あかし . Éその人が生きた証を刻むもの。 それを残そうとしている燐にとって、それを捨てようとしている六郎はこのとき、決して許 章 第せない存在だったのかもしれない。 さとし ひめこ 「智君、姫子ちゃん、行こ、つ ! 」
その日の、っちに、俺は行動を開始することにした。 「店長なら色々と顔も広いから、俺の代わりもすぐ見つかると思う」 「 : : : 俺の代わり、探す気あるよな ? 」 「え ? あ、ああ、、つん。もちろんだよ ? まだ少し警戒しているのだろう、ギターを抱えたままの燐を連れ、俺たちの拠点となる楽器 店へ歩いて向かっていた。 きたこうせい 本来なら今日この日、ここら一帯の貸しスタジオが北高生お断りであることを知った燐が俺 ち まねごと 持 を学校近くの公園に引きずっていき、練習がてらそこでストリートミュージシャンの真似事を 気 いしていたところを店長に見つかる、という流れがあるはずだった。 店長は音楽関係者に妙なコネがあるだけでなく、北高生にスタジオを貸してはならないとい えう市内の決まりを無視して練習場所を提供してくれたありがたい存在だ。 云 代わりのギターを探させるためにも、燐を店長と引き合わせておくのは急務だった。 章 「ここ ? 」 第 「ああ」
「あれ ? でも、あたしたちにスタ→オ貸してる 0 てバレたら、ます〔んだよね ? 」 燐が確認するように俺を見てくる 俺が口を開くのを待たず、店長はあっけらかんとして、 「大丈夫大丈夫。学校にバレようがバレまいが、この店の経営がヤバいのは変わんないし」 「 : : : そんなことはいいですから、店長。代わりのギターを : : : 」 「あー、よいま ) 。 わかったわかった」 結局その日、代わりのギターについてはうやむやのまま、俺と燐は楽器店をあとにすること となってしまった。 もう夜も遅かったため、渋々ながら燐を自宅まで送り届けた。 初めての演奏に興奮する燐の言葉をできるだけ無感情に相手する。 それでも燐は終始笑顔で、声は弾んでいて、玄関先で俺のほうを振り返ると、 「今日は楽しかった ! また明日ね ! 」 なんて、無邪気で能天気な笑顔を向けてきた。 「 : : : おう」 だれ 自宅へと一人帰る道の途中、急にしんどくなって、誰もいない道ばたにしやがみ込んだ。