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検索対象: 二度めの夏、二度と会えない君
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1. 二度めの夏、二度と会えない君

レジを挟んで店長と向かい合った燐は古ばけたパイプ椅子にちょこんと腰かけて、店長の暴 露話にふんふんと相づちを打っていた。 ち 持 「でさー、智はうちでエレキギター買ったんだよ。ファン同士のよしみでスタジオも格安で提 気 供してやってたのに、ギターの腕に自信がないからってメンバー募集のオーディションにも行 かないわ、恥すかしがってメンバー集めもしないわで、アニマートのコピーばっか上手くなっ えてね。まあそれでも上等っちや上等なんだけど 云 「ふむふむ」 章 きたこ、つ 一「んで、そうやって一人っきりでやってたもんだから、北高がバンド活動禁止だって知らすに あこが 産れだけで進学して。しかも元々頭いいほうじゃないから勉強に追われたらしくてね。こい 「まあね。なんだ、ずっと見ないと思ったら、やっと仲間が見つかったんだな、お前」 店長が燐の肩越しに俺へ呼びかけてきた。 燐が「どういうこと ? と俺のほ、つを振り返る。 「そいつもアニマートが好きだったんだよ。なんだ、聞いてねーの ? ならお姉さんが色々教 えてやるよ」 まるいす 店長が店の奥から丸椅子を一一つ運んできて、にやりと笑った。

2. 二度めの夏、二度と会えない君

いている時よりも確実に退化してしまっていた。 長年の引きこもり生活がたたり、ヒミコは人前でなにかしようとすると身体がこわばるよう になってしまってるのだった。 「休憩 ! & 作戦会議タイム ! 」 見かねた燐はお客のほとんど来ない一階カウンターに陣取り、どこからか持ってきた大量の お菓子を並べた。 「演奏はばちばち置らしていこう ! まずはあたしたちの音楽をみんなに知らしめる手段を考 えていこう ! 」 「それにはそもそも前提として、演奏のクオリティがないとダメだろー」 煙草を吹かしながら店長が横やりを入れる。 びくりと震えるヒミコを守るように抱きしめながら、燐はそれを無視して続けた。 「というわけで、姫子ちゃんにはあたしたちの演奏を編集してもらって、サイトにアップして もらお、つと思、つんだけど、ど、つかな ! 」 : えと、それは : : : できますけど : : : 」 血 ヒミコに任せれば以前考えたリスクを低くして動画を配信できるだろう。 たた 第人前では緊張してドラムを叩けなくとも、あとで音を合成すれば聴けるものになる。 だが不特定多数に人気が出るのは別のリスクが発生するのではないかという話になった。 ひめこ からだ

3. 二度めの夏、二度と会えない君

本気だということを俺は既に知っていた。 「はいこれ。ノルマだってさ」 燐がライプのチケットを渡してくる。 一枚一五〇〇円で二〇枚。 そろ ードルが高い メンバーもろくに揃っていない初ライプでこれはハ 学生料金の映画でさえなかなかに観るのをためらうというのに、わけのわからんバンドのラ イプのチケット一五〇〇円がそうそう売れるわけがない。 俺はライプのチケットを無言で見下ろしていた。 ただの音合わせであんなにも燐と離れがたく思ってしまったのに、ライプなんてやった ち 持 気 「 : : : いきなりライプって : : : も、つ少し練習しつかり積むとか、メンバ 1 探すとかあるだろ」 抵抗を試みてはみるものの、 さとし え「店長が、智君はそうやっていつまでもぐちぐち本番に挑もうとしないだろうから、最初に 云 大恥かかせようって言ってたよ」 章 一図らずも前回と同じ理由でライプを拒絶しようとしてしまった俺は間抜けにも言いくるめら れてしまう。 ら :

4. 二度めの夏、二度と会えない君

まじめ 身だしなみこそ大人しく真面目な感じなのだが、それが鋭いつり目や敵意剥き出しの口調と合 わさることで随分高圧的な印象になる。その近寄りがたい雰囲気に加え、中学で生徒会長、 学校でも児童会長を務めていた彼女のことを、俺はいっしか会長と呼ぶようになっていた。 彼女の登場に、俺は少々面食らった。 会長が話しかけてくるタイミングが早すぎたからだ。 俺の記憶では会長が燐について苦一一一一口を呈してくるのは放課後。それも「あんなバカに関わり たくないから」という理由で、燐が俺から離れたタイミングを狙ってだ。 俺が燐を無視し続けたことで、ようやく過去が変わり始めているようだった。 ・もりやま 「森山燐さん、だったわね。 「そ、つだよ ? きよとんと能天気に答える燐を会長が睨み付け、 「この学校がバンド活動禁止だということは知っているわね ? 「え卩アニマートの出身校なのに卩」 ためいきっ あき キ」よ、つカ ~ 、 燐が驚愕の声を上げ、会長が呆れたように溜息を吐いた。 「出身校だからよ。あのバンドが有名になりすぎて、この学校は一時期荒れたから」 きたこう Animato animato はおよそ一一一年前、当時の北高三年生によって結成されたロックバンドだ。 文化祭でのライプを機にアマチュアながら人気が爆発し、インディーズとしては規格外の支 ねら

5. 二度めの夏、二度と会えない君

746- 「お前さ、本当に、俺たちの演奏が聴きたいってだけだったのか ? 」 考えてみれば、奇妙な話だったのだ。 まれ こんなにも人と関わるのが苦手で、夜の散歩だってごく希だったのだろうヒミコが、もう一 度俺たちの音楽を聴きたいってだけで、町中の噂になるほど外出を繰り返すなど。 クサダコク状態のヒミコに遭遇しているからわかる。 こいつはあのとき必死に、俺に話しかけようとしていた。 だれ あの日駅前で演奏していた人が誰か知らないかと、道行く人に尋ねようとしていたのだ。 人見知りってレベルじゃないこのヒミコが。 「もしお前も俺たちと同じ気持ちで、一緒に演奏したいと思ってくれてたなら、俺も燐も、す うれ げ・ー ~ しいよ」 失、つことが決まっている繋がりだけど、お前がどれだけ悲しむか、俺はもう知っているけれ ヒミコは動かない ヒミコが登校を決意してくれることは知っているか、引っ込み思案な彼女の性格上、登校に 踏み切ってくれたのは奇跡に近いと俺は認識していた。 だから正直、同じセリフではあっても、声の抑揚や雰囲気のちょっとした違いでヒミコが登 あきら 校を諦めてしまうのではないかと、俺は内心落ち着かないままヒミコに話しかけていた。 ど。 つな うわさ

6. 二度めの夏、二度と会えない君

捕らぬ狸のなんとやら。 大学までは結構な距離で、到着する頃には俺と燐の雑談も進みに進み、バンドで食べていけ そ、つになかったら就職はど、つしよ、つとか、だいぶ先のことにまで及んでいた。 「智君は刑事さんとかになってそ、つ」 「なんでだ ? 」 「顔が怖いし」 「 : : : ならお前はサファリバークだな」 「あ、動物のお世話とか楽しそうだよねっー 「いや、飼育される側。お前、珍獣つほいし」 「智君は成績だけじゃなくて意地も悪いよ ! 」 ち 余計なお世話だ。 「あれだな」 そんなどうでもいい話をしているうちに門が見えてくる。 え「でつかい ! 広い ! 」 伝 門をくぐった途端、燐がくるくるとはしゃぐようにして叫ぶ。 はる 章 きたこ、つ ゃあん 一夜闇に包まれて見通しは悪いが、それでも北高に比べて遥かに広いことはすぐにわかった。 「これでも狭いほうらしいぞ」 たぬき ころ

7. 二度めの夏、二度と会えない君

しまっていたという説もある。 「ええい、まどろっこしい ! 」 生意気にもこちらの気遣いを水泡に帰しつづける会長に業を煮やした燐が、とうとうヒミコ へ指令を下した。 「それいけ姫子ちゃん ! 会長をさらってくるのです ! 」 そして五分後には涙目の会長が簀巻きにされて俺たちの前に転がっていた。 おそ 問答無用で襲いかかってくるヒミコはさぞ布かっただろう。多分、俺でも泣く。 「あ、あなたたち、一体なんのつもり」 精一杯威嚇する会長に、燐が悪い笑顔で、 「へつへつへ。いまから会長に毒電波を流し込んで洗脳してやるのだ」 うそぶ などと嘯いている。 あながち間違っていないが、会長がマジでビビってるからやめてさしあげろ。 「おい燐。そろそろ会長を自由にしてやれって」 「はいはーい」 なわ 会長をつんつんしていたぶっていた燐が縄をほどく。 燐のその一一一一口動は俺の記憶の通りのものだ。 しかしなんとなく、言葉に棘があるように聞こえるのは気のせいだろうか ひめこ

8. 二度めの夏、二度と会えない君

みから逃れられるはずなのに、俺は燐を見下ろしたまま少しも動けない。 自分から逃げ出すことのできない俺は、情けなくも、半ば責めるような調子でロを開いてい , 」 0 「 : : : なんで、だよ」 「あの性格悪そうな生徒会長さんのあとをつけてきたんだよっ」 「そうじゃ、ない」 なんで俺の家を知ってるんだとか、そういう意味じゃない。 「俺なんかにこだわる理由なんて、ないだろ」 うれ あくまでバンドのメンバーとしてではあるが、燐が俺を求めてくれている。それを嬉しく思 ってしまうからこそ、もうやめてほしかった。俺にこだわる理由を聞き出して、それをすべて 否定してやろうと思った。 「だって君は、ギター弾けるもん」 「俺と同じくらいギター弾けるやつなんて、探せばすぐ見つかる」 「でも、君はアニマ 1 トを弾いてた」 「 : : : 偶然だ。それだけだ。、、ゝ ししカらとっとと、帰ってくれ」 一言一言発するたびに息が詰まって、身体がバラバラになりそうだった。身を削るような気 持ちで拒絶の一一一口葉を紡いだ。 つむ りん

9. 二度めの夏、二度と会えない君

animato に引き合わせてくれたという、出自不明の歌。 「君のギターは、なんとなく、それに似てる気がするの」 それは初めて聞く話だった。 「単純に、君がアニマートの曲を弾いてたからかもしれない。けどとにかく、あたしはあのと き、ギターは君しかいないって思ったんだよ」 ひとみ 俺は燐の瞳から目を逸らせないまま、燐の話を聞いていた。 「そんな人といきなり会えて、しかも転校初日に同じクラスだってわかって : : : それがどれ うれ だけ嬉しかったか、、い強かったか。君にはわからないかもしれないけど、あたしは、とっても、 とっても、嬉しかったんだよ」 少し考えれば、当たり前のことだった。 ち 持 燐はすっと病院暮らしで、今日が初めての学校生活だった。心細いに決まっている。 気 それに、この時点で燐は自分のタイムリミットを知っていた。時間がない中で精一杯の学校 生活を送ろうとしていたところにいきなり、夢に繋がる同志を見つけることができて、それが えもしかすると、あの破天荒なパワ 1 に繋がっていたのかもしれない。 云 「あたしは、君のギターにれたの。だから、なにがなんでも君を仲間にするよ」 章 一俺は、そんな一一一一口葉が聞きたかったんじゃない。 そんな、俺が嬉しいだけの言葉なんていらない。無意味に思いがつのってしまうだけの一一一一口葉 つな

10. 二度めの夏、二度と会えない君

いてしまえば、もう燐と距離をとることはできなくなりそ、つだったから。 けれどどのみち、あのライプを経験してしまった以上、燐と距離をとるなんてことはもう不 可能だったのかもしれない。 俺の質問に、燐がふと真顔になった。 ひとみ 真ん丸の瞳がこちらを見上げ、語る一言葉と声音を探しているみたいだった。 「拡張型心筋症って知ってる ? あたし、それだったの」 いつもより少しだけトーンの下がった声で燐は語り始めた。 それは、俺にとっては二度め、燐にとっては初めて過去を開かした瞬間だった。 小学校に上がる前に発症したその難病。 主な治療の多くが燐の体質に合わなかったため、やむなく人工心臓で命を永らえ、心臓移植 ち 点の機会を待つだけの日々。 病院どころか病室から出ることすら難儀する生活の中で支えになったのが Animato animato の音楽だった。 え同級生たちと立ち上げたバンドが校内のイベントで評価され、華々しく旅立っていく。 そんな Animato animato は燐にとってヒーローそのもので、学校生活に縁のなかった燐の 章 第憧れを膨らませるのに十分だった。 うれ 「だから、無事に移植が成功して、学校に通える目処が立ったとき、すつごく嬉しかった。リ あこが